
こんにちは!
忙しい人のための神話解説コーナーだよ!
この記事では、忙しいけど北欧神話についてサクっと理解したいという方向けに、『エッダ』をベースにした神話のメインストーリーをざっくりとご紹介していきます。
とりあえず主だった神々の名前と、ストーリーラインだけ押さえておきたいという方向けのシリーズとなります。
個々の神さまについての詳細は個別記事で解説していますので、良ければそちらもご覧ください。



とりあえず大まかな流れをつかむというコンセプトじゃ
補足情報は【Tips】として解説しとるが、
読み飛ばしても全然OKじゃぞ



関連記事のリンクを貼っているから、
気になった方はそちらもチェックしてね



ではさっそくいってみよう!



忙しい人はコチラから本編にすっ飛びじゃ
この記事は、以下のような方に向けて書いています。
- 北欧神話にちょっと興味がある人
- 北欧神話に登場する神さまのことをざっくり知りたい人
- とりあえず誰かにどや顔でうんちく話をしたい人
- 北欧神話のメインストーリーをざっくりと把握できます。
- あなたのエセ教養人レベルが1アップします。
まじで忙しい人のための結論
本気で忙しいあなたのために、今回ご紹介する物語のストーリーラインを、箇条書きでざっくりまとめておきます。



ぱっと見で把握してね



何ならここを読むだけでもOKじゃぞ
今回ご紹介する『滅亡へのカウントダウン』のストーリー
- さらなる「知識」と「知恵」を求めた最高神オーディン(Óðinn)は、知識の巨人ヴァフスルーズニル(Vafþrúðnir)のもとを訪ねて知恵比べを行う。
- 巨狼フェンリルに命を奪われることを知ったオーディンは、魔法の紐グレイプニル(Gleipnir)で彼を捕縛し、地中深くに封印する。
- 光の神バルドル(Baldr)の一件以来アースガルズの神々との関係が悪化していた狡知の巨人ロキ(Loki)は、海神エーギル(Ægir)の館で開催された酒宴を散々引っ掻き回して逃亡。
- ロキに対する怒りが頂点に達したアース神たちは、彼を捕えて岩に縛り付け、額に蛇の毒が滴る状態にしたまま最終戦争ラグナロクの到来まで放置することとなった。
そもそも「北欧神話」って何?
「北欧神話」とは、北ヨーロッパのスカンジナヴィア半島を中心とした地域に居住した、北方ゲルマン人の間で語り継がれた物語です。
1年の半分が雪と氷に覆われる厳しい自然環境の中で生きた古代の人々は、誇り高く冷徹で、勇猛で死もいとわない荒々しい神々を数多く生み出しました。
彼らの死生観が反映された「北欧神話」の物語は、最終戦争・ラグナロクによって、神も人間もあらゆるものが滅亡してしまうという悲劇的なラストを迎えます。
現代の私たちが知る神話の内容は、2種類の『エッダ(Edda)』と複数の『サガ(Saga)』という文献が元になっています。
バッドエンドが確定している世界でなおも運命に抗い、欲しいものは暴力や策略を用いてでも手に入れる、人間臭くて欲望に忠実な神々が引き起こす様々な大事件が、あなたをすぐに夢中にさせることでしょう。


「北欧神話」の全体像は、以下で解説しているよ!


主な登場人物



この物語の登場人物(神)をざざ~っと挙げておくぞい
詩篇Ⅴ:滅亡へのカウントダウン
―前回までのあらすじ
ある時、光の神バルドル(Baldr)は毎晩のように悪夢にうなされるようになり、命の危険を感じていることを神々に相談します。
登場したのはバルドルの母で愛と豊穣の女神フリッグ(Frigg)。
彼女は世界中のあらゆる「存在」に、彼を傷付けないという誓いを立てさせました。
無敵の神となったバルドルとそれをもてはやす神々。
その様子が面白くない狡知の巨人ロキ(Loki)はフリッグに探りを入れ、唯一の弱点が「ヤドリギの若木」であることを突き止めます。
バルドルの弟である盲目の神ホズ(Hǫðr)に近づいたロキは、彼にミステルティン(Mistilteinn)と呼ばれる「ヤドリギの矢」を渡し、兄に向けて投げつけるようそそのかしました。
バルドルは命を落とし、最高神オーディン(Óðinn)やフリッグをはじめとしたすべての神々は悲しみに暮れ、盛大な葬儀を執り行います。
意気消沈した神々を見た勇気の神ヘルモーズ(Hermóðr)は自ら名乗りを上げ、冥界ニブルヘルへと赴いてバルドルの魂を地上に連れ帰る役目を引き受けました。
冥界の女王ヘル(Hel)は交渉に応じ、「すべてのものがバルドルのために涙を流す」ことを条件に彼の復活を了承します。
フリッグは各地を渡り歩いて条件を満たすも、セック(Þökk)という魔女に化けたロキが要求を拒絶したので、バルドルは永久に冥府に留まることになりました。
この事件を契機として、アースガルズの神々とロキの関係性は最悪な状態となってしまいます。



今回からは、最終戦争ラグナロクに向けて
着々と話が進んでいくわよ



坂を転がり落ちる石のように、
滅亡を止めることは誰にもできないんだ!
お知らせ
ご紹介している「北欧神話」の物語は、『古エッダ』や『スノリのエッダ』を原典としますが、これらは必ずしも物語順には描かれていません。
もともとは、それぞれが口頭で語られた単独の「詩」なので、「出来事」や「神々のプロフィール」単位で配置されており、物語の時系列が明示されているわけではないのです。
そのため、文献や登場人物の状況、アイテムの所持状況から時系列を推定する必要があるのですが、これがなかなか難しい…



例えば以下のような感じじゃ
- ヴァン戦争でオーディンが投げたのがグングニルなら、それがもたらされた場面にヴァン神族のフレイがいるのは矛盾する
※普通の大槍だったとする説もある - ヴァン戦争のきっかけとなったグルヴェイグを貫いたのがグングニルなら、これまた順番が前後する
※この場合の「槍」は、集団での暴行の暗喩とする説もある
などなど…
どうにかまとめようとした筆者は発狂しかけたので、このシリーズでは、
- できるだけスムーズに理解しやすい
- 可能な限り矛盾が生じない、納得しやすそうな
流れで物語をご紹介しています。





序盤と終盤のメインストーリーは固まってるけど、
それ以外は自由度が高いオープンワールドゲーみたいなもんかな



だから難しいツッコミはしないでね☆
さらなる知識を求めたオーディン、
博識なヴァフスルーズニルのもとを訪ねる
光の神バルドル(Baldr)の死から立ち直る間もなく、最高神オーディン(Óðinn)はさらなる「知識」と「知恵」を求めて行動を起こしました。
息子の死も含めて、「世界滅亡の予言」が日に日に現実味を帯びてきたからです。



わし、ちょっとヴァフスルーズニルのところに行ってくるわ



さらなる太古の知識が必要じゃ
知識の巨人ヴァフスルーズニル(Vafþrúðnir)は非常に博識なことで知られており、オーディン自身もその才能に嫉妬することがありました。
彼の正妻である愛と豊穣の女神フリッグ(Frigg)も、彼を



どんな巨人もヴァフスルーズニルほどは強くないわ
と評したと伝えられています。
オーディンは最終戦争ラグナロクの到来を防ぐために、本来なら敵対するはずの巨人族からも力を借りようと決意したのです。
それからしばらく経ってのこと。
ある日、ヴァフスルーズニルが住む邸宅に、ガングラーズ(Gagnráðr)と名乗る旅人が現れます。
その胡散臭い放浪者は、ヴァフスルーズニルの博識ぶりについて聞き及んでいたようで、



あんたが本当に物知りで賢いのかを確かめに来たんじゃ
と、「知恵比べ」での勝負を挑んできました。
ヴァフスルーズニルは突然の来客に戸惑いつつも、知識自慢界隈の顔としての矜持を保つために、



お前の知識がわしに劣っとったら、
この館から生きては出さんぞ!
と脅しをかけたうえで、ガングラーズからの挑戦を受けて立ちます。
こうして2人の「知恵比べ」が開始され、最初の質問はヴァフスルーズニルの方から投げられました。
ここではその内容を、文献の本来の姿に倣って、問答形式で見てみましょう。


-知恵比べをするオーディンとヴァフスルーズニル 1895年 PD



ではガングラーズよ
人々の上に「日」を引っ張って来る馬の名はなんじゃ?



最上の名馬スキンファクシ(Skinfaxi)*じゃな
その鬣はいつも美しく輝いとる
※「光のたてがみ」の意



では、人々の上に「夜」を引っ張ってくる馬の名は?



谷間の露をもたらす馬フリームファクシ(Hrímfaxi)*じゃな
※「霜のたてがみ」の意



ではガングラーズよ
巨人の国と神々の国を分ける川の名はなんじゃ?



その川の名は「イヴィング」じゃったのぅ



では、炎の巨人スルト(Surtr)と神々の戦が
行われる場所の名は?



ヴィーグリーズの野(Vígríðr)じゃな



ほっ、やるのうガングラーズよ
お主の知識は本物のようじゃ
ガングラーズの力量を認めたヴァフスルーズニルは、今度は自分が問いに答える番だと言って椅子に座り直します。



かかってこいや!



まずは小手調べじゃ
Q.「大地」と「天」はどこから来たか知っとるけ?



んなもん常識じゃ
A.原初の巨人ユミル(Ymir)の肉体からだわ



肉から大地が、頭蓋骨から天が、
血からは海、そして骨から岩が作られたんじゃ





んならば、
Q.「太陽」と「月」はどこから来たでしょうか!!



基本問題やんけ
A.そやつらの父はムンディルフェーリ(Mundilfäri)





じゃあ
Q.「昼」と「夜」はどこから来たでしょうか!


『馬に乗ったノート』PD


『馬に乗ったダグ』PD





ほんなら逆に、
Q.「冬」と「夏」はどこから来たんかの?



A.冬の父はヴィンドスヴァル(Vindsvalr)*1、
夏の父はスヴァースズ(Svásuðr)*2だべ
※1「冷たい風」の意、※2「暖かく快適なもの」の意



夏の一家は贅沢三昧で心地よい生活を送り、
冬の一家は厳しく冷酷だったのじゃ





では、
Q.神々と巨人のなかで最初に生まれたのはだぁ~れ?



A.んなもん原初の巨人アウルゲルミル(Aurgelmir)、
常識じゃろう
※原初の巨人ユミルの別名



じゃあ続けて、
Q.原初の巨人はどうやって生まれたんかの?



A.毒の川エーリヴァーガル(Élivágar)から生まれてきたの
一滴の雫から生じたとする説もあるわい



ならばさらに続けて、
Q.妻をもたないユミルがどうやって子を成したか知っとるか?



A.彼の左脇から一組の男女が、交差した脚から6つの頭をもつ男が生まれ、そっから増えたのじゃな





Q.あんたが知る最も古い記憶はなんね?



A.霜の巨人ベルゲルミル(Bergelmir)が
石臼の上に乗っとる姿かのう?
※北欧神話における天地創造物語の一幕



これ、クイズになっとるか…?



気を取り直して、
Q.「風」はどこから来るでしょ~か?







Q.富と豊穣の神ニョルズ(Njǫrðr)はどっから来たでしょうか~??



A.そんなもんヴァン神族の世界ヴァナヘイムやがな





んならば、
Q.人々は毎日どこで戦っとるのかの?



A.オーディンの庭である戦死者の館ヴァルハラ(Walhalla)じゃ



戦死者の魂エインヘリヤル(einherjar)のことじゃな





Q.あんたはなぜすべての運命を知っとるのじゃ?



A.9つの世界全部を巡ったからのう…



だんだんただの質問になってる…





では、
Q.最終戦争ラグナロクを生き延びる人間の名はな~んだ?



A.そりゃ、リーヴ(Líf)*1とレイヴスラシル(Lífþrasir)*2じゃわな
※1「生命」の意、※2「生命を継承する者」の意



Q.巨狼フェンリルが太陽を捕まえたあと、どうなる?



A.太陽は捕まる前に娘を生んどるので、彼女が後を継ぐわいな





Q.海の上を漂う賢い娘たちは何者か知っとるけ?



A.霜の巨人メグスラシル(Mögþrasir)の娘たちじゃろ



Q.ラグナロクの後、最後まで生き残る神々はだ~れじゃ?


-スルトの炎に包まれた世界 1905年 PD



で、では…
Q.最高神オーディンに最期をもたらすのは何じゃろうか?



!?!?!?!?!


ここまでは、互いに一歩も退かぬ問答合戦を繰り広げた2人ですが、ついにガングラーズが最後の問いとなる言葉を発します。



では、
Q.火葬台にあがった息子*にオーディンが囁いた、
最後の言葉は何でしょ~か?
※光の神バルドル(Baldr)のこと





はっ!?
そんなもん、オーディン本人しか知るはずもないやんけ!?



…



えっ、もしかして!?
その質問が何を意図したものかははっきりしていませんが、ヴァフスルーズニルは知恵比べをしている相手の正体が、最高神オーディン(Óðinn)であることに気が付きました。
彼の古の知恵を欲した主神が、妻フリッグの制止を振り切って、ガングラーズと身分を偽って接触していたのです。


-ヴァフスルーズニルを訪ねようとするオーディンと制止するフリッグ
1895年 PD



ま、参りました…
いずれにしても質問に答えられなかったヴァフスルーズニルは、己の敗北を認めるしかありませんでした。
彼がその後どうなったのかについては、「ヴァフスルーズニルの言葉」には語られていません。
一説には、この勝負には互いの首を賭けていたとも言われており、その場合、ヴァフスルーズニルはもう生きてはいないと考えて良いのでしょう。



アババー


災いの種と思われても仕方ない姿に成長したフェンリル、
またもアース神族の一方的な都合で捕縛される
アース神族の世界アースガルズには、美しい国に何とも似つかわしくない凶暴な獣が住んでいました。
その名は巨狼フェンリル(Fenrir)。
彼は狡知の巨人ロキ(Loki)と魔獣たちの母アングルボザ(Angrboða)のあいだに生まれた子で、「ロキの子どもたちが神々に災いをもたらす」という予言を信じた最高神オーディンによって、神々の国に勾留されていました。
フェンリルの弟ヨルムンガンド(Jörmungandr)と妹のヘル(Hel)は、同じタイミングで外の世界に追放されています。
アースガルズに留められ、軍神テュール(Týr)の世話のもとで生活したフェンリルは、日に日に成長して大きくなっていきました。
その育ちっぷりは並大抵のものではなく、誰もが恐れをなすほどの巨狼へと変貌した彼は、かつてオーディンが受けた不吉な予言に俄然現実味をもたせます。


-テュールとフェンリルの挿絵 1911年 PD



オーディンは以下のような予言を受けていたんだよ!
- 知識の巨人ヴァフスルーズニルの予言
-
- 太陽は巨狼フェンリルに捕えられるが、彼女はその前に娘を生んでいる。神々が死んだ後は、娘が母の後を継いで軌道を巡るよ。
- 狼(≒フェンリル)が万物の父(≒オーディン)を飲み込み、息子のヴィーダルがその復讐を遂げるよ。



アババ
これはまずいかも分からんね



せや、こうしよう
「ロキの子どもたちが災いをもたらす」という予言が実現するのでは、と恐れをなしたオーディンは、フェンリルを騙して彼をがんじがらめに拘束してやろうと画策しました。
狡猾な最高神は若き狼をアームスヴァルトニル湖(Ámsvartnir)にあるリュングヴィ(Lyngvi)という小島に連れ出し、こう言ってそのプライドを煽ります。



フェンリル君や、君は力が強いのじゃろぅ
ちょっとした鎖なら簡単に壊せちゃうよね?



はぁ?当然じゃん
ターゲットをうまく挑発したオーディンは、レージング*(Læðingr)と呼ばれる鉄鎖でフェンリルを縛りますが、彼はそれを容易に引きちぎってしまいました。
※「革の戒め」の意
次にオーディンは2倍の強度を誇るドローミ*(Drómi)という名の鉄鎖でフェンリルを縛り上げますが、たくましく成長した狼は、それすらも簡単に破壊してしまいます。
※「筋の戒め」の意





どや~



あれ…
これはマジでヤヴァイかもしれんのぅ
2度の失敗ですっかり恐れをなしたアース神族の神々は、豊穣の神フレイ(Frey)のもとで働いている有能な従者スキールニル(Skírnir)を呼び出すと、どうにかしてフェンリルを拘束できるアイテムを手に入れてくるよう命じました。



ぎょぎょいの御意
こうして、スキールニルは小人族(ドヴェルグ)の力を借りて、
- 猫の足音
- 女性の髭
- 岩の根っこ
- 熊の足の腱
- 魚の息
- 鳥の唾液
をよりあわせて作られた、グレイプニル*(Gleipnir)と呼ばれる魔法の紐を入手します。
※「貪り食う者」の意



このときに取り尽くされたから、上記の材料はこの世に存在しなくなったと言われておるのじゃ


グレイプニルを手にしたオーディンは意気揚々とフェンリルのもとに向かいますが、さすがの彼も魔法アイテムの力を直感的に感じ取って警戒しています。



別にやってもいいけど
なんか胡散臭いなぁ



騙していないという証に、誰かの腕を咥えさせて
そしたら試しても良いよ



騙したら食いちぎるからね
当然ながら、巨大で獰猛なフェンリルの口に腕を突っ込むような根性のあるアース神は存在しません。
ここで登場したのが、勇猛な戦の神にして巨狼の育ての親でもあるテュールでした。
彼がためらうことなくフェンリルの口に右腕を押し込むと、他の神々は一斉にグレイプニルでその巨体を縛り上げます。
一見すると絹のリボンのように柔らかく、すべすべして心地の良い感触のその紐は、見た目に反してとんでもなく頑丈で、フェンリルが拘束を解こうと暴れる程にその肉に食い込んでいきました。


『縛られたフェンリル』 1909年 PD



テュール、お前もか!!


フェンリルに噛まれたテュール PD
騙されたことに気付いたフェンリルは、怒りのままに自らを育てたテュールの右腕を噛みちぎってしまいます。
オーディンをはじめとしたアース神たちは身体を張った功労者の負傷には目もくれず、フェンリル捕縛の成功を喜んで笑いました。
彼らはグレイプニルの紐を「ゲルギャ(Gelgja,「拘束」の意)」と呼ばれる綱に繋ぎ、それをさらに「ギョル(Gjöll,「叫び」の意)」という岩に結び付けて巨狼の動きを固定します。
それでも抵抗するフェンリルの口には、猿轡の代わりに切っ先を上に向けた剣が突っ込まれ、閉じることのできない口から流れ出した大量のよだれは「ヴォーン(Ván,「希望」の意)」と呼ばれる川になりました。
さらに、手加減というものを知らないアース神族の神々は、フェンリルを結び付けた岩を地中深くに埋め、そこに「スヴィティ(Þviti,「打ちつけるもの」の意)」と呼ばれる巨大な石を杭の代わりに打ち込むことで、ようやく「災厄の種」の封印を完了します。
巨狼はなおも暴れ狂いますが時すでに遅し、彼は最終戦争ラグナロクが到来して枷が解かれるその時まで、グレイプニルに縛られたままの姿で生きることになるのです。


拘束されたフェンリル PD



ふぅ、これで一安心じゃ



う~ん、怒りの復讐待ったなしだね



アース神族ほど「自業自得」という
言葉が似合う連中もいないわね
ロキ、アース神族との敵対が完全に確定!
身を隠すも無事に取っ捕まって地獄の苦しみに苛まれる!
バルドルの一件で完全に一線を越えてしまった狡知の巨人ロキ(Loki)に対して、アースガルズの神々は敵意・憎悪を剥き出しにしました。
この頃のロキはすでに、「神々の敵対者」あるいは「悪魔」的なキャラクターに振り切っていたのでしょうか。
あるいは、自分の子どもたちに対するオーディンの処遇に、内心では恨みを募らせていたのでしょうか。
彼は、海神エーギル(Ægir)の館で開催された酒宴に乗り込むと、参加した神々を1人1人丁寧かつ辛辣に詰り倒し、散々場を引っ掻き回して立ち去って行きました。



『古エッダ』の「ロキの口論」にて描かれる場面じゃな
口論の場面は、以下の記事で紹介しているよ!


その後、さすがに身の危険を感じたロキは神々の世界を飛び出し、山奥深くに四方を見渡せる家を建てて、そこに隠れ住むことにします。


-ロキのヨトゥンヘイムへの逃避 1908年 PD
しかしそれは、完全な悪手でした。
神々の国アースガルズには「神聖な領域で血を流してはならない」という鉄の掟が存在し、そこにいればロキもひとまずは安全だったのですが、聖域の外となれば話は別だからです。
神々は、もはや悪神と化した狡知の巨人に報復を果たすため、一堂に会してその方法を協議しました。



もう詰みの予感がむんむんじゃのぅ
時を待たずして、あらゆる世界を見渡す玉座フリズスキャールヴ(Hliðskjálf)に座ったオーディンがロキの潜伏先を発見。
北欧神話最強とも謳われた雷神トール(Þórr)を先頭に、神々は悪神の捕縛に乗り出します。
その時、ロキは鮭の姿に変身して川の中に潜んでいました。
建物の中は当然もぬけの殻ですが、炉の側には、焼けて灰になった網が放置されています。



あ、そういうことね
何かにピンときた神々は、ロキが水中に隠れているものと推測、麻をより合わせて網を作り、それを近くの川に投げ入れました。
ロキも必死に抵抗しますが、所詮は多勢に無勢。
追い詰められた狡知の巨人は、トールの手によってついに拘束されてしまいます。



トールがガッチリ握ったから、
鮭のしっぽは今でも細いんだそうだよ!


怒りに燃える神々はロキを山奥の洞窟へと連行し、彼を平たい岩の上に寝かせます。
さらに、その息子であるヴァーリ(Váli)を魔法で狼に変身させ、もう1人の息子のナリ(Nari)またはナルヴィ(Narvi)を八つ裂きにするよう仕向けました。
アース神たちがナリの遺体から腸を引きずり出し、それを使ってロキを岩に縛り付けると、かつて「腸」だった物は強固な「鉄の鎖」へとその姿を変えます。
2人の息子がとんでもない目に遭わされ、その臓器で拘束される。
ロキの犯した罪が非常に重いとはいえ、すでにオーバーキルな気がしないでもない状況ですが、ここにダメ押しでやって来るのが狩猟の巨人スカジ(Skaði)です。
彼女にとってロキは、元恋人であり父の仇でもありました。
スカジは、一匹の毒蛇をロキの頭上に括り付けると、その毒液が彼の額に滴り落ちるように仕向けます。




『ロキとシギュン』1863年 PD
こうして、一通りの復讐を果たしたアースガルズの神々は、ロキをその場に放置したまま現場を後にしました。
唯一、ロキを哀れに思って洞窟に残ったのが、狡知の巨人の妻シギュン(Sigyn)です。
彼女は拘束された夫の側に立ち、滴り落ちる蛇の毒液を鉢を持って受けました。
しかし、その鉢もいずれは毒でいっぱいになってしまうので、シギュンはその都度、器の中身を捨てに行かなくてはなりません。
そうしている間にも毒液はロキの額に落ちますが、彼はその度に、大地も震えるほどの恐ろしい叫び声をあげて身をよじったと伝えられています。
ロキが暴れ狂って生じた振動を、人間族は「地震」と呼んだのだそうな。
こうして、好き勝手に振舞っては北欧神話の世界を引っ掻き回したトリックスターにも、ついに年貢の納め時がやって来ました。
最終戦争ラグナロクが到来するその日まで、ロキは山奥の洞窟に拘束されたまま、蛇の毒に苦しみ続けることになったのです。




『ロキの縛り』1908年 PD
北欧神話をモチーフにした作品



参考までに、「北欧神話」と関連するエンタメ作品をいくつかご紹介するよ!
おわりに
今回は、北欧神話の物語「滅亡へのカウントダウン」について解説しました。



なんかいろいろと、取り返しのつかない
険悪な雰囲気になってるわね~



次回はいよいよ北欧神話のクライマックス、
「最終戦争ラグナロク」だよ!
パパトトブログ-北欧神話篇-では、北の大地で生まれた魅力的な神々や彼らの物語をご紹介していきます。
神さま個別のプロフィール紹介や神話の名場面をストーリー調で解説など、難しい言葉はできるだけ使わずに、あらゆる角度から楽しんでもらえるように持って行こうと考えています。
これからも「北欧神話」の魅力をどんどんご紹介してきますので、良ければまた読んでもらえると嬉しいです!



また来てね!
しーゆーあげん!
参考文献
- 山室静 『北欧の神話』 ちくま学芸文庫 2017年
- 谷口幸男訳『エッダ-古代北欧歌謡集』新潮社 1973年
- P.コラム作 尾崎義訳 『北欧神話』 岩波少年文庫 1990年
- 杉原梨江子 『いちばんわかりやすい北欧神話』 じっぴコンパクト新書 2013年
- かみゆ歴史編集部 『ゼロからわかる北欧神話』 文庫ぎんが堂 2017年
- 松村一男他 『世界神話事典 世界の神々の誕生』 角川ソフィア文庫 2012年
- 沢辺有司 『図解 いちばんやさしい世界神話の本』 彩図社 2021年
- 中村圭志 『世界5大神話入門』 ディスカヴァー・トゥエンティワン 2020年
- 歴史雑学探求倶楽部編 『世界の神話がわかる本』 Gakken 2010年
- 沖田瑞穂 『すごい神話 現代人のための神話学53講』 新潮選書 2022年
- 池上良太 『図解 北欧神話』 新紀元社 2007年
- 日下晃編訳 『オーディンの箴言』 ヴァルハラ・パブリッシング 2023年
他…
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