
こんにちは!
忙しい人のための神話解説コーナーだよ!
この記事では、忙しいけど北欧神話についてサクっと理解したいという方向けに、『エッダ』をベースにした神話のメインストーリーをざっくりとご紹介していきます。
とりあえず主だった神々の名前と、ストーリーラインだけ押さえておきたいという方向けのシリーズとなります。
個々の神さまについての詳細は個別記事で解説していますので、良ければそちらもご覧ください。



とりあえず大まかな流れをつかむというコンセプトじゃ
補足情報は【Tips】として解説しとるが、
読み飛ばしても全然OKじゃぞ



関連記事のリンクを貼っているから、
気になった方はそちらもチェックしてね



ではさっそくいってみよう!



忙しい人はコチラから本編にすっ飛びじゃ
この記事は、以下のような方に向けて書いています。
- 北欧神話にちょっと興味がある人
- 北欧神話に登場する神さまのことをざっくり知りたい人
- とりあえず誰かにどや顔でうんちく話をしたい人
- 北欧神話のメインストーリーをざっくりと把握できます。
- あなたのエセ教養人レベルが1アップします。
まじで忙しい人のための結論
本気で忙しいあなたのために、今回ご紹介する物語のストーリーラインを、箇条書きでざっくりまとめておきます。



ぱっと見で把握してね



何ならここを読むだけでもOKじゃぞ
今回ご紹介する『双子の美形兄妹とあこぎな従者』のストーリー
- ある日、4人の小人族(ドヴェルグ)が暮らす小屋を発見した愛と美の女神フレイヤ(Freyja)は、彼らが造った黄金の首飾りに魅せられてしまう。
- 首飾りを譲って欲しいと交渉するフレイヤに対し、小人たちは金品ではなく彼女の身体を要求。欲望に逆らえなかった本人もそれを受け入れた。
- 狡知の巨人ロキ(Loki)の告げ口により、フレイヤの破廉恥な行為を知った最高神オーディン(Óðinn)は首飾りを没収。ペナルティとして、人間たちに永遠の戦いをさせるよう命じる。
- フレイヤはゴンドゥル(Göndul)という人物に変身して魔術を使い、デンマーク王ホグニ(Högni)とセルクランドの王ヘジン(Heðinn)の間に、永遠に続く「ヒャズニングの戦い」を引き起こした。
- ある日、美しき巨人の娘ゲルズ(Gerðr)に一目惚れした豊穣の神フレイ(Frey)は、従者スキールニル(Skírnir)を遣いにやって結婚の交渉をさせる。
- 拒絶するゲルズに対して当初は丁寧に対応したスキールニル、やがて彼は本性を現し恐ろしい脅迫を繰り返した。
- 心が折れて結婚を受け入れたゲルズ、小躍りして喜ぶフレイ、いつの間にか消息を絶つスキールニル。2人は何だかんだで仲睦まじい夫婦となり、家庭円満の象徴となる。
そもそも「北欧神話」って何?
「北欧神話」とは、北ヨーロッパのスカンジナヴィア半島を中心とした地域に居住した、北方ゲルマン人の間で語り継がれた物語です。
1年の半分が雪と氷に覆われる厳しい自然環境の中で生きた古代の人々は、誇り高く冷徹で、勇猛で死もいとわない荒々しい神々を数多く生み出しました。
彼らの死生観が反映された「北欧神話」の物語は、最終戦争・ラグナロクによって、神も人間もあらゆるものが滅亡してしまうという悲劇的なラストを迎えます。
現代の私たちが知る神話の内容は、2種類の『エッダ(Edda)』と複数の『サガ(Saga)』という文献が元になっています。
バッドエンドが確定している世界でなおも運命に抗い、欲しいものは暴力や策略を用いてでも手に入れる、人間臭くて欲望に忠実な神々が引き起こす様々な大事件が、あなたをすぐに夢中にさせることでしょう。


「北欧神話」の全体像は、以下で解説しているよ!


主な登場人物



この物語の登場人物(神)をざざ~っと挙げておくぞい
詩篇Ⅲ-Ⅴ:双子の美形兄妹とあこぎな従者
―前回までのあらすじ
昔、オーディンをはじめとする神々が、アース神族の世界アースガルズ(Ásgarðr)に暮らし始めて間もない頃のこと。
黄金の女神グルヴェイグ(Gullveig)が神々の国を訪れ、「セイズ呪術」を流行させました。
アース神族は悪徳を蔓延させたとしてグルヴェイグを3度処刑しますが、これがきっかけでヴァン神族との間に戦争が勃発します(ヴァン戦争)。
長きに渡る争いの後、アース神族とヴァン神族は和解し、人質として富と豊穣の神ニョルズ(Njǫrðr)、豊穣の神フレイ(Frey)、愛と美の女神フレイヤ(Freyja)がアースガルズにやって来ました。
その後、オーディンと義兄弟の契りを結んだ狡知の巨人ロキ(Loki)が、大槍グングニル(Gungnir)や大槌ミョルニル(Mjölnir)などの宝物を神々にもたらします。
その一方、「ロキの子どもたちが災いをもたらす」という予言を信じたオーディンが、大蛇ヨルムンガンド(Jörmungandr)と冥界の女王ヘル(Hel)を追放し、巨狼フェンリル(Fenrir)をアースガルズに勾留しました。
しばらく後、アースガルズの城壁を造るという鍛冶屋の仕事を妨害した神々は、成果物だけを没収し、その過程で駿馬スレイプニルが誕生します。
こうして堅牢な神々の国が完成し、北欧神話を彩る主要な神々が揃い踏みしました。
彼らはここから「最終戦争ラグナロク」に至るまで、それぞれがぞれぞれの思惑のままに、自由奔放に暴れまわることになるのです。



今回は、ヴァン神族出身の美しき双子の兄妹、
フレイとフレイヤの物語を紹介するわよ



とても人質としてやって来たとは思えないほど、
自由奔放な活躍を果たしたんだ!
お知らせ
ご紹介している「北欧神話」の物語は、『古エッダ』や『スノリのエッダ』を原典としますが、これらは必ずしも物語順には描かれていません。
もともとは、それぞれが口頭で語られた単独の「詩」なので、「出来事」や「神々のプロフィール」単位で配置されており、物語の時系列が明示されているわけではないのです。
そのため、文献や登場人物の状況、アイテムの所持状況から時系列を推定する必要があるのですが、これがなかなか難しい…



例えば以下のような感じじゃ
- ヴァン戦争でオーディンが投げたのがグングニルなら、それがもたらされた場面にヴァン神族のフレイがいるのは矛盾する
※普通の大槍だったとする説もある - ヴァン戦争のきっかけとなったグルヴェイグを貫いたのがグングニルなら、これまた順番が前後する
※この場合の「槍」は、集団での暴行の暗喩とする説もある
などなど…
どうにかまとめようとした筆者は発狂しかけたので、このシリーズでは、
- できるだけスムーズに理解しやすい
- 可能な限り矛盾が生じない、納得しやすそうな
流れで物語をご紹介しています。





序盤と終盤のメインストーリーは固まってるけど、
それ以外は自由度が高いオープンワールドゲーみたいなもんかな



だから難しいツッコミはしないでね☆
首飾り欲しさに4人の小人族に身体を許したフレイヤ、
人々に災いをもたらす呪物を生み出してしまう
ある日、どこかに良い男がいないかとその辺をぶらついていた愛と美の女神フレイヤ(Freyja)は、切り立った崖のそばにある小人族(ドヴェルグ)の家を見つけます。
扉が少し開いていたので、彼女がそっと中を覗き込むと、4人の小人たちが首飾りのような物を作っている様子が見えました。
それは黄金でできており、さらに宝石が埋め込まれているようで、見た者の心を一瞬で奪ってしまう魔力にも似た魅力をたたえています。
美しい首飾りが欲しくてたまらなくなったフレイヤは、ノックもせずに小人たちの家に入り、こう言いました。


-ドワーフの洞窟のフレイヤ 1891年 PD



坊ちゃんたち、いくらでも黄金をあげるから、
その綺麗な首飾りを譲ってくれんね☆
すると、4人の小人たちは互いに顔を見合わせ、



これは金では売れんね



でも、姉ちゃんがわしら4人の相手
をしてくれるならええよ、ぐへへ…
と答えます。
品物の見返りに身体を要求されたフレイヤ、さすがに一瞬迷いますが、彼女はその首飾りの美しさの前に膝を屈することになりました。
こうしてフレイヤは、ドヴァリン(Dvalinn)、アールヴリッグ(Alfrik)、ベルリング(Berlingr)、グレール(Grer)という名の小人たちと一晩ずつ床を共にし、その最終日に土産として黄金の首飾りをもらい受けます。
「ブリーシンガメン(Brísingamen)」*と呼ばれたこのアクセサリーは、以降フレイヤの胸元を飾る定番アイテムとなりました。
※「光り輝く首輪」の意


手段はともかく、たいしたトラブルも発生せず良い感じに着地したように思えるこのストーリーですが、話はこれだけでは終わりません。
フレイヤが首飾りを手に入れる様子を盗み見ていた狡知の巨人ロキ(Loki)が、事の次第を最高神オーディン(Óðinn)にチクったのです。



あんの娘は!
貞操観念っちゅうもんがどっかに吹き飛んどるのか!!
一介の女神ともあろう者が、貴金属欲しさに小人族にまで身体を許したとなれば、それはすべての神々の名誉と沽券に関わる。
そう考えたオーディンはロキに命じて、フレイヤが眠っている隙にブリーシンガメンの首飾りを盗みださせます。
当然フレイヤは命の次に大切な宝物を返すよう懇願しますが、それに対してオーディンは、



人間の王をふたり、戦わせよ
永遠に戦い続けさせることができたら、これを返してやろう
と条件を出しました。




その標的となったのが、魔剣ダーインスレイヴ(Dáinsleif)の所有者であるデンマーク王ホグニ(Högni)と、その友人でセルクランドの王ヘジン(Heðinn)です。
本来、彼らは仲の良い親友同士でしたが、そこにアースガルズの神々が争いの種を蒔くことになりました。
フレイヤはゴンドゥル(Göndul)という人物に化身すると、ヘジンに近づいてその野心を刺激し、魔法をかけて正気を失わせます。


悪心を起こしたヘジン王はホグニ王が不在の隙にデンマークへと攻め込み、領土を奪って友人の妻を手にかけ、さらにはその娘で戦乙女ヴァルキュリアの1人でもあるヒルド(Hildr)を拉致しました。
事実を知ったホグニ王はすぐに軍を編成してヘジン王の追跡を開始、両軍はハーエイ(Háey)と呼ばれる島で対峙することになります。
ここで最初に動いたのが、ホグニ王の娘ヒルド。
意外にも、彼女とヘジン王は相思相愛の関係にあったらしく、ヒルドは両軍の和解を望みました。
しかし、すでに領土を蹂躙されたうえ、妻の命までも奪われているホグニ王は和平案を拒絶。
ヘジン王も自ら賠償を申し出ますが、相手が耳を貸すことはありませんでした。
ホグニ王が魔剣ダーインスレイヴを引き抜くと、「ヒャズニングの戦い」と呼ばれる、終わることのない悲劇的な戦争の火蓋が切られます。
伝承によると、王が握ったダーインスレイヴ自体も、「鞘を離れるたびに人の命を奪い、斬れば外すことなく、相手に決して癒えることのない傷を与える」呪われた武器であったと伝えられています。


両軍は激しくぶつかり合って戦いますが、いつまで経っても勝敗が決することはありませんでした。
というのも、愛する人も父も失いたくないヒルドがヴァルキュリアとしての本領を発揮し、魔法を使って戦死した男たちを片っ端から復活させていたからです。


『ワルキューレたち』1905年 PD
戦えども戦えども補充され続ける人員、終わりの見えない「ヒャズニングの戦い」は、最終戦争ラグナロクが訪れるその日まで永遠に繰り返されることになりました。
また、こんな経緯があったものですから、フレイヤが手にしたブリーシンガメンも「人々に不幸をもたらす呪いの首飾り」として知られるようになったそうです。



きっかけのしょうもなさに対して、結末がエグ過ぎるのよ



神々の横暴の割を食うのが、毎度のことながら人間族じゃ
また、一説によるとこの「ヒャズニングの戦い」は、140年後に現れるノルウェー王オーラヴ・トリグヴァソン(Óláfr Tryggvason)の従者イーヴァル(Ívar)が、両軍を全滅させることで終結するとも言われています。
愛に生きた男フレイ、貴重な宝剣を手放して最愛の妻ゲルズを得る
ある日、豊穣の神フレイ(Frey)は最高神オーディン(Óðinn)の留守を見計らって、世界のすべてを見渡すことができるという玉座フリズスキャールヴ(Hliðskjálf)に座って遊んでいました。



フンフン~♪
今日はどんなおもろいモノが見れるかな~☆
彼が巨人の世界ヨトゥンヘイムを眺めていると、ひとりの美しい娘が寝室に入っていく姿が目に入ります。
彼女が真っ白な腕を上げると、その美貌ゆえに、空も海も大地もすべてがまばゆく光り輝きました。



ズッキューン☆☆
巨人族の娘に一目惚れしてしまったフレイは自分の部屋に引きこもり、食事も喉を通らず眠れぬ日々を過ごします。


-フレイの恋煩い 1908年 PD
そんな様子を心配したのがフレイの父である富と豊穣の神ニョルズ(Njǫrðr)。
彼は息子の従者であり、幼馴染にして無二の親友でもあるスキールニル(Skírnir)を呼び出すと、こう言いました。



最近マイソンの様子がおかしいのじゃ
いや、前からおかしかったけど、特におかしいのじゃ



スキ坊、ちょっと様子見てやってくれんか



ぎょぎょいの御意
ところが、恋の病に侵されて夢見心地の脳内お花畑状態になったフレイの言動は、親友であるスキールニルをもってしても、どうにも要領を得ません。



毎日太陽は昇るのに、
その光も僕を思い通りに照らしてはくれないんだ☆



何言ってんだこいつ
早く仕事を終わらせたくなったスキールニルが強めに圧をかけると、フレイはとうとう事の子細を白状しました。



実は、霜の巨人ギュミル(Gymir)の娘
ゲルズ(Gerðr)に恋をしてしまったんだ☆



でも巨人族との恋なんて、
妖精たちもアース神たちも祝福してくれないだろう…



あぁ、どうしたものか☆(チラッ


-フレイとグリンブリスティン PD
フレイがこの構ってちゃんムーブをかます時は、決まってスキールニルに何かをやってもらいたいと考えています。
幼い頃からの付き合いでそれを熟知していたスキールニルは、主人に代わって娘と結婚の交渉をすることにしますが、彼はそれにあたって2つの見返りを要求しました。



巨人の国ヨトゥンヘイムへの旅は危険です



旦那の魔法の剣と、勇敢な雄馬を使わせてください



えっ、そんなんでいいの?
全然オッケー☆
フレイは裕福な家の子らしく様々な貴重なお宝を所有していましたが、そのうち以下の2点を、今回スキールニルが譲り受けることになります。
財産 | 概要 |
---|---|
フレイの宝剣 | ・持つ者が賢ければ、ひとりでに戦って巨人を打ち倒すとされた魔法の剣。 ・刀身にルーン文字が刻まれた細身の剣で、フレイを傷付けることができる唯一の武器とも。 ・ド〇えもんに登場する「名刀・電光丸」の元ネタ(大嘘)。 |
勇敢な雄馬ブローズグホーヴィ(Blóðughófi) | ・「血にまみれた蹄」の意をもつ雄馬。 ・暗く揺らめく炎に臆することなく、勇敢にそれを飛び越えることができる。 ・正確にはその名称は不明とも。 |
こうしてフレイの愛馬に跨り、強力な剣を腰に差したスキールニルは、一路巨人の国ヨトゥンヘイムへと向かいました。


一方その頃。
美しき巨人の娘ゲルズ(Gerðr)は類まれなる美しさを誇った霜の巨人族の娘で、父であるギュミルの館で何不自由なく暮らしていました。
平穏な毎日にそこそこ満足していた彼女のもとに、ある日、身なりだけはそれなりの見知らぬ男がやってきます。
実の兄であるベリ(Beli)の命を何者かによって奪われていたゲルズは、余所者を警戒してこう言いました。



あ、あんた誰ね…?
兄ぃの命を奪った奴かもしれん、何しに来たんね…?



わたくしはアース神でもヴァン神でもありません



妖精族(アールヴ)でもなく、定命の者に過ぎません
その男はスキールニル(Skírnir)といい、豊穣を司るヴァン神族の神フレイ(Frey)の従者として働いているのだそうな。
突然現れたどこかの召使いは、ゲルズに対して唐突にとんでもない提案を持ち掛けます。



私の主人であるフレイが、
あなたを妻に迎えたいと申しております



えっ、急!!
ゲルズは、スキールニルが彼女のもとにやって来た経緯を聞きました。



要するに趣味の覗きをしてたら気に入った女がいて…
召使いを派遣して自分のものになれと言っとるんか…



なんやそいつ、ク○しょーもないやんけ…
これだからボンボンは…
ドン引きしたゲルズが言葉を失っていると、スキールニルは一方的に婚約の交渉を始めてしまいます。



受け入れてくだされば、永遠の若さをもたらす
黄金の林檎を差し上げましょう



誰の差し金だろうそんなもんは要らん…
私がフレイとやらと一緒になることはないわよ…



では黄金の腕輪ドラウプニル(Draupnir)を差し上げましょう
何もせずとも黄金が増え続けますよ



う、うちにはもう十分財産はあるんや…
そ、そんなもんいらん!
人を物で釣ろうとはなんたる侮辱、



女をナメとんのか!!
と憤ったゲルズは、毅然とした態度でスキールニルの提案を拒否しました。
すると、ここまではいかにも従者らしく礼儀正しい態度で、穏やかな言葉遣いをしていた使者の様子が、本当に同一人物か疑われるレベルで急変します。



この腰に差してある剣、見えます~?
ルーン文字が刻まれた上等なやつ、あんたの細首なら簡単にちょん、やけどね~?



そ、そんな脅しには屈しないわ…



こんなもん持っとるわしがあんたの親父さんと遭遇したら、
まぁ戦いになるわなぁ~
まず間違いなくわしが勝つけどね~



わ、わしはいかなる男どもの強制も受けんのや…!
なんとスキールニルは、ゲルズ本人やその家族の生命に害を加えると、あからさま過ぎる脅迫に打って出たのです。
余裕で脅迫罪が成立しそうな暴言に晒されながらも、気丈なゲルズは裏表の激しい従者の要求を拒み続けました。
すると、このままでは埒が明かないと判断したスキールニルが、得意の魔術ネタやほぼ単なる罵詈雑言を交えて、年頃のうら若き娘を精神的に追い詰めにかかります。


-スキールニルとゲルズ 1920年 PD



わしの魔法の杖であんたを思い通りに飼い慣らしたろか~
そしたら、あんた、二度と人前には出れませんね~



あんたは現実世界から目を背け、
死者の世界ニブルヘルを覗き込むことになりまっせ~



いや怖っわ…



この案件断ったら、あんた頭が3つもある巨人と暮らすか、
一生独身かのどちらかでっせ?



愛を得ようと、欝々とした日々を送ることになりますね~



狂気と悲観と束縛と不安とがあんたに苦悩を与え、
涙々の人生となるでしょう



ヤ、ヤヴァイ…
こいつまともじゃない(ガタガタガタガタ



あ、そういえば最高神オーディンが
あんたにご立腹でしたけど…?



フレイもあんたを憎むやろうね~、大変や、
偉大な神々を怒らせて



わしはあんたにあらゆる人間の喜びを禁ずる!
そして無限の災いを意味するルーン文字「スルス(ᚦ)」を刻もう



さらにおまけに、
「肉欲」「狂気」「不安」の文字も刻んじゃおう!



まぁ、提案を受け入れてくれさえすれば、
今の話ぜ~んぶナシやけどねっ(チラッ



アバババババババババババ
あまりにも常軌を逸したスキールニルの苛烈な脅迫に、ついに気丈なゲルズの心も折れてしまいました。
彼女は古い蜜酒を満たした水晶の盃を手にすると、それを承諾のしるしとして恐ろしき従者に差し出します。
ところが、彼は仕事の詰めにも手を抜かないタイプだったようで、



その前に、いつフレイと会ってもらえるのか
具体的な日取りを教えてください
と言い、ゲルズは



九夜の後、バリの森にて、
ニョルズの息子に愛のしるしを捧げましょう
と答えました。


-スキールニルとゲルズ 1882年 PD


それから数日後、フレイは幼馴染の帰還を迎え入れ、ついに待ちに待った返事を受けとります。



「九夜の後、バリの森で待つ」だそうです。



一夜は長い、二夜はもっと長い☆
どうやって三夜も辛抱できようか☆(以下省略)
こうしてフレイは、自分ではほとんど何の努力もすることなく、最愛の女性であるゲルズを妻に迎えることができました。



ガタガタガタ…



おや?ハニー、なにをそんなに怯えているんだい?☆




結婚云々以前に、心が壊れてしまっていないか心配なゲルズですが、彼女とフレイは何だかんだでとても仲の良い夫婦となり、二人は家庭円満のシンボルともされました。
ノルウェーの南部などでは、彼らの聖婚をかたどった陶版や金版も多数出土しています。


また、フレイとゲルズの間にはフィヨルニル(Fjölnir)が誕生し、その子孫はスウェーデン最初の王家となり、ユングリング家を名乗ったとも伝えられています。
一説によるとこの逸話は、凍った大地の中に閉じ込められている生命が、春の光を浴びて蘇ること、つまり天と地の聖婚(≒豊穣)を扱ったものだとされています。
フレイとゲルズが初めて出会った「バリの森」という名前も、「バル(小麦)」からきていると考えられています。





これで…
良かったのか…?
結果としてゲルズが幸せに暮らしたのならそれで良いのでしょうが、読者側としては何ともいえないモヤモヤが残るのも事実。
この物語でとんでもない暴挙を働いた従者スキールニルは、その出自が多くの謎に包まれているうえ、いつの間にか主人であるフレイの元を去り消息を絶っています。
様々な考察の余地がある彼ですが、もしかするとフレイとゲルズの結婚に際し、



あなたの妻となる前にひとつだけ条件がありますの



あなたのご友人のあのク○リプ野郎、
彼と縁を切ってはくださらない?



もちろんさマイハニー☆
あんな奴は今日限りでFiredさっ☆
なんていうやりとりがあったのかもしれません。
※純度100%筆者の妄想です
北欧神話をモチーフにした作品



参考までに、「北欧神話」と関連するエンタメ作品をいくつかご紹介するよ!
おわりに
今回は、北欧神話の物語「双子の美形兄妹とあこぎな従者」について解説しました。



北欧神話の物語にしては何とも力の抜ける話が多かったわね



その一方で、周囲にはえげつない影響を及ぼしているよね!
さすがは神といったところかな!
パパトトブログ-北欧神話篇-では、北の大地で生まれた魅力的な神々や彼らの物語をご紹介していきます。
神さま個別のプロフィール紹介や神話の名場面をストーリー調で解説など、難しい言葉はできるだけ使わずに、あらゆる角度から楽しんでもらえるように持って行こうと考えています。
これからも「北欧神話」の魅力をどんどんご紹介してきますので、良ければまた読んでもらえると嬉しいです!



また来てね!
しーゆーあげん!
参考文献
- 山室静 『北欧の神話』 ちくま学芸文庫 2017年
- 谷口幸男訳『エッダ-古代北欧歌謡集』新潮社 1973年
- P.コラム作 尾崎義訳 『北欧神話』 岩波少年文庫 1990年
- 杉原梨江子 『いちばんわかりやすい北欧神話』 じっぴコンパクト新書 2013年
- かみゆ歴史編集部 『ゼロからわかる北欧神話』 文庫ぎんが堂 2017年
- 松村一男他 『世界神話事典 世界の神々の誕生』 角川ソフィア文庫 2012年
- 沢辺有司 『図解 いちばんやさしい世界神話の本』 彩図社 2021年
- 中村圭志 『世界5大神話入門』 ディスカヴァー・トゥエンティワン 2020年
- 歴史雑学探求倶楽部編 『世界の神話がわかる本』 Gakken 2010年
- 沖田瑞穂 『すごい神話 現代人のための神話学53講』 新潮選書 2022年
- 池上良太 『図解 北欧神話』 新紀元社 2007年
- 日下晃編訳 『オーディンの箴言』 ヴァルハラ・パブリッシング 2023年
他…
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