こんにちは!
今回はギリシャ神話より
イオルコスの王子イアソンを紹介するよ!
ギリシャ神話でも1,2を争う有名な英雄ね
彼はどんなキャラクターなの?
彼は叔父に奪われた王位を取り戻すため、コルキスの「金羊毛」を求めて戦士団「アルゴナウタイ」を率いるんだ!
壮大な冒険、主役を食うほどの強キャラ・魔女メディアなど、見所が盛りだくさんのストーリーじゃ
ではさっそくいってみよう!
このシリーズでは、忙しいけど「ギリシャ神話」についてサクっと理解したいという方向けに、「かんたん・わかりやすい」がテーマの神々の解説記事を掲載していきます。
雄大なエーゲ海と石灰岩の大地が生み出した、欲望に忠実な神々による暴力的でありながらもどこかユーモラスな物語群が、あなたに新たなエンターテイメントとの出会いをお約束します。
人間味溢れる自由奔放な神々の色彩豊かで魅力的な物語に、ぜひあなたも触れてみてくださいね。
今回は、イオルコスの地に生まれた美しき王子で、叔父に奪われた王位を奪還するために戦士団「アルゴナウタイ」を率いてギリシャ中を旅するも、魔女メディアとの出会いから徐々に人生が崩壊し始めた、(多分)世界最古の自業自得バッドエンド主人公・イアソンをご紹介します!
忙しい人はコチラから本編にすっ飛びじゃ
この記事は、以下のような方に向けて書いています。
- ギリシャ神話にちょっと興味がある人
- ギリシャ神話に登場する神さまのことをざっくり知りたい人
- とりあえず誰かにどや顔でうんちく話をしたい人
- ギリシャ神話に登場する「イオルコスの王子イアソン」について少し詳しくなります。
- あなたのエセ教養人レベルが1アップします。
そもそも「ギリシャ神話」って何?
「ギリシャ神話」とは、エーゲ海を中心とした古代ギリシャ世界で語り継がれてきた、神々と人間の壮大な物語群です。
夏には乾いた陽光が降り注ぎ、岩と海とオリーブの木が広がる土地に暮らした人々は、気まぐれで情熱的、そして人間以上に人間らしい神々を生み出しました。
神々は不死である一方、人間と同じように嫉妬し、愛し、怒り、そしてときに残酷な運命に翻弄されます。
現代に伝わる物語の多くは、ホメロスの『イーリアス』『オデュッセイア』、ヘシオドスの『神統記』などの古代叙事詩を原典としています。
王族の愛憎劇に始まり、神々の争いや英雄たちの冒険、時に神と人間の禁断の関係まで——
あらゆる欲望と感情が渦巻くギリシャ神話の世界は、きっとあなたの心を掴んで離さないでしょう。


14世紀ギリシャの写本 PD
「ギリシャ神話」の全体像は、以下で解説しているよ!


イオルコスの王子イアソンってどんな人物?
イオルコスの王子イアソンがどんな人物なのか、さっそく見ていきましょう。
いくぜっ!
簡易プロフィール
| 正式名称 | イアソン Ἰάσων |
|---|---|
| 名称の意味 | 癒しを与える者 |
| その他の呼称 | イアーソーン |
| ラテン語名 (ローマ神話) | イアソン(Jason) |
| 英語名 | イアソン ジェイソン(Jason) |
| 神格 | イオルコスの王位継承権者 アルゴナウタイのリーダー |
| 性別 | 男性 |
| 勢力 | 人間族 |
| 主な拠点 | イオルコス |
| 親 | 父:イオルコスの王アイソン(Αἴσων) 母:ピュラケーの王女アルキメデ(Ἀλκιμέδη) または 母:イオルコスの女王ポリュメデ(Πολυμήδη) 母:イオルコスの女王テュロ(Τυρώ)とする場合も ほか諸説あり |
| 兄弟姉妹 | イオルコスの王子プロマコス(Πρόμαχος) |
| 配偶者 | レムノス島の女王ヒュプシピュレ(Ὑψιπύλη) コルキスの王女メディア(Μήδεια) コリントスの王女グラウケ(Γλαύκη) |
| 子孫 | ヒュプシピュレとの間に、 レムノス島の王子エウネオス(Εὔνηος) レムノス島の王子ネブロポノス(Νεβροφόνος) メディアとの間に、 英雄の息子メルメロス(Μέρμερος) 英雄の息子ペレス(Φέρης) ほか諸説あり |
英雄の出自と旅立ち
イアソンはギリシャ神話に登場する人間族の英雄です。
彼は、イオルコスの王アイソン(Αἴσων)と王妃アルキメデ(Ἀλκιμέδη)の息子で、同国の正当な王位継承権者でもありました。
※母親が誰かについては諸説あり
しかし、イアソンがまだ幼い頃、彼の叔父にあたるぺリアス(Πελίας)が父王を権力の座から引きずり下ろして王位を簒奪。
アイソンによって逃がされた彼は、ケンタウロス族(Κένταυρος)*の賢者ケイロン(Χείρων)のもとで養育されることになりました。
※ギリシャ神話に登場する半人半馬の種族で、複数形はケンタウロイ(Κενταυροι)


『金羊毛のイアソン』
1803年 PD
アイソンの没後、イアソンがまだ幼かったため
ぺリアスが王位を継いだとも…
シンプルに、先王クレテウス(Κρηθεύς)の後に
ぺリアスが即位したとも言われておるぞぃ
優秀な師のもとで文武両道の英才教育を受け、立派な青年へと成長したイアソンは、ある時、叔父ペリアスに王位の返還を求める決意を固めます。
田舎町に住んで農作を好んだ彼ですが、今こそ父アイソンの役目を受け継がんと立ち上がったのです。
※海神ポセイドン(ΠΟΣΕΙΔΩΝ)に犠牲を捧げる祭儀に呼び出されたため、故郷に向けて旅立ったとも
そんなイアソンが故郷への道を進んでいると、途中、氾濫したアナウロス川の前で立ち往生している一人の老婆がいました。


なんや婆さん、ここを渡れんで困っとんのか
ほんなら、わしの背に乗りぃ
親切な彼はその老人を背負うと、安定した足取りで流れの速い川を渡り切り、何食わぬ顔で歩みを再開します。
イアソンはこの時、片方のサンダルを流れにとられて失いましたが、本人はそれを少しも気に留めてはいませんでした。
………


そんなこんなで故郷イオルコスに到着した若者は、この地を治めるぺリアス王に謁見し、
やぁ叔父貴、道理に従って、わしに王位を譲ってくれや
と、単刀直入に申し出ます。
ギョギョギョギョギョ~‼
イアソンの姿を一目見たぺリアスは、予想以上に動揺した素振りを見せました。
自身の権力が脅かされることになったから、それだけが理由ではありません。
実は彼、数日前に王権に関しての神託を乞うた際、神から
あ、お前、片方だけサンダルを履いた男に滅ぼされるで
という託宣を受けていたのです。


『イアーソーンとメーデイア』
1865年 PD
その時はたいして気にも留めなかったペリアスでしたが、ここまでドンピシャな人物が目の前に現れると、さすがに笑って受け流すわけにもいかなくなるというもの――。
彼は、狼狽を悟られぬよう平静を装いながら、様子を探るようにイアソンにこう聞きました。
仮に~、仮にだぜ…?
お前さんが、市民の一人の手によって
滅ぼされるという予言を受けたとする
そしてお前さんには、
その人物をどうとでもする権力があるとする
この時、お前さんなら、どうする~?
普通のしょうもない人間なら、
えっ、そんなもん、前もってそいつを
始末しちまえば安泰じゃないっすかぁー
と回答して、自らがその運命を辿ることになるのでしょう。
しかし、単なる偶然の思い付きか、神々による守護と導きか――。
不思議な質問を投げかけられたイアソンは、即座にこう言って答えました。
うーん、わしなら、音に聞く「金羊毛」
を取ってくるよう命じますかねー?


この「金羊毛」というのは、コルキスの地にある軍神アレス(ΑΡΗΣ)の聖域にて秘蔵されている伝説のアイテム。
かつて、雲と雨の精霊ネフェレ(Nephelê)が、命を狙われた我が子を救うために遣わした「空飛ぶ黄金羊」の毛皮で、現在は聖域内の森にある一本の樫の木に吊るされ、決して眠ることのない獰猛なドラゴンによって護られているという代物です。
「コルキスの金羊毛」の由来譚はコチラ!


竜に護られた宝物を奪ってくるなど、常人にはとても成し遂げられない無理難題というもの――。
ぺリアスは、この旅の途中でイアソンが命を落とすことを見越して、彼にとんでもない条件を提示しました。
う~ん、それ、ナイスアイデ~ア☆
「金羊毛」をゲットしてこれたら、
大人しく王位を返還しちゃうぜ☆


Canvaで作成
流されるままに妙な仕事を引き受けてしまったイアソンは、
この先がどうなるにせよ、
「船」がないと話にならんやんけ
と考え、腕利きの船大工として知られたアルゴス(Ἄργος)なる人物に助けを求めます。
召喚を受けた彼は、戦いの女神アテナ(Αθηνη)の助言を受けながら造船を進め、五十もの櫂を有する大型の帆船を完成させました。
女神はその竣工を祝して、ドドナ*の樫の木から切り出した「ものを言う木片」を船首に取り付け、この船を建造者の名にちなみ「アルゴー号」と名付けるよう勧めたと伝えられています。
※ドドナは主神ゼウスの聖域の一つで、この地の樫の木は風に揺らぐ葉音によって神託を伝えたとされている


「星図に描かれたアルゴー船」
1690年 PD
船の装備が完了した後、さっそくイアソン船長がこの旅に関する神託を求めると、神の声を聞いたアルゴー船は
ギリシャ中から最も優れた戦士たちを集めて、
フルメンバーで出発した方がええんちゃう?
と答えました。
そういうわけで、このわしが必死こいて
集めたメンバーが以下の面々じゃ
ギリシャ神話版アベンジャーズ?
「アルゴナウタイ」のそうそうたる参加者たち!
| 名称 | 概要 |
|---|---|
| ティピュス(Τῖφυς) | アルゴー船の舵取り。 |
| オルフェウス(Ὀρφεύς) | 伝説的な吟遊詩人。 音楽家で竪琴の名手。 |
| ゼテス(Ζήτης) | 北風の神ボレアス(Βορέας)の息子たちで、空戦対応が可能な有翼の戦士。 父の名をとって「ボレアダイ(Βορεάδαι)」または「ボレアデス」とも。 |
| カライス(Κάλαϊς) | |
| カストール(Κάστωρ) | 主神ゼウス(ΖΕΥΣ)の息子たち。 2人合わせて「ディオスクロイ(Διόσκουροι)*」とも。 ※「ゼウスの子」の意 |
| ポリュデウケス(Πολυδεύκης)またはポルックス | |
| テラモン(Τελαμών) | アイギナ島の王アイアコス(Αἰακός)の息子たち。 ペレウスはトロイア戦争の英雄アキレウス(Ἀχιλλεύς)の父。 |
| ペレウス(Πηλεύς) | |
| ヘラクレス(Ηρακλής) | 主神ゼウスの息子で、言わずと知れた古代ギリシャ最強の英雄。 |
| テセウス(Θησεύς) | アテナイの王子で、牛頭人身の怪物ミノタウロス(Μινώταυρος)を退治した英雄。 |
| イダス(Ἴδας) | メッセニアの王アパレウス(Ἀφαρεύς)または海神ポセイドン(ΠΟΣΕΙΔΩΝ)の息子たち。 2人合わせて「アパレーティダイ(Ἀφαρητίδαι)*」とも ※「アパレウスの子たち」の意 |
| リュンケウス(Λυνκεύς) | |
| アムピアラオス(Ἀμφιάραος) | テーバイ攻めの七将の一人。 |
| カイネウス(Καινεύς) | – |
| パライモン(Παλαίμων) | 鍛冶の神ヘパイストス(Ἥφαιστος)の息子とも。 |
| ケフェウス(Κηφεύς) | – |
| ラエルテス(Λαέρτης) | イタキ島の王オデュッセウス(Ὀδυσσεύς)の父。 |
| アウトリュコス(Αὐτόλυκος) | 伝令の神ヘルメス(Ἑρμης)の息子で狡猾な盗人。 若き日のヘラクレスにレスリングを教えた人物でもある。 |
| アタランテ(Ἀταλάντη) | 美貌と技に優れた俊足の女狩人。 |
| メノイティオス(Μενοίτιος) | – |
| アクトール(Ἄκτωρ) | – |
| アドメトス(῎Αδμητος) | 夫婦そろって「死」を克服したこともある、ヘラクレスのマブダチ。 |
| アカストス(Ἄκαστος) | – |
| エウリュトス(Εὔρυτος) | 伝令の神ヘルメスの息子。 |
| メレアグロス(Μελέαγρος) | アタランテの恋人で、カリュドーンの猪狩りの中心人物。 |
| アンカイオス(Ἀγκαῖος) | 二代目アルゴー船の舵取り。 |
| エウフェモス(Εὔφημος) | 海神ポセイドンの息子で、水上を走る能力を授けられていた。 |
| ポイアス(Ποίας) | 弓の名手で、後にヘラクレスに引導を渡す役割を果たし、遺品として彼の「強弓」を受け取る。 |
| ブテス(Βούτης) | 後に愛と美と性の女神アフロディーテ(ΑΦΡΟΔΙΤΗ)の愛人となり、息子にシチリア島の王エリュクス(Ερυξ)を得る。 |
| パノス(Φάνος) | 酩酊の神ディオニュソス(Διονυσος)の息子たち。 |
| スタピュロス(Στάφυλος) | |
| エルギノス(Ἐργῖνος) | 海神ポセイドンの息子。 |
| ペリクリュメノス(Περικλυμενος) | ピュロスの王子で、さまざまな動物に変身する能力を有した。 後にヘラクレスに故郷を襲撃されて死亡する。 |
| アウゲイアス(Αυγειας) | 太陽神ヘリオス(Ἥλιος)の息子。 ヘラクレスによる『12の功業』のひとつ、「アウゲイアスの家畜小屋掃除」に登場する人物でもある。 ※採用する説によって時系列が矛盾する |
| イピクロス(Ἴφικλος) | – |
| アルゴス(Ἄργος) | アルゴー号を創り上げた船大工。 |
| エウリュアロス(Εὐρυάλος) | – |
| ペネレオス(Πηνέλεως) | – |
| レイトス(Λήϊτος) | – |
| イフィトス(Ίφιτος) | – |
| アスカラポス(Ἀσκάλαφος) | 戦いの神アレス(ΑΡΗΣ)の息子たち |
| イアルメノス(Ἰάλμενος) | |
| アステリオス(Αστέριος) | – |
| ポリュペモス(Πολύφημος) | – |
| ヒュラス(Ὕλας) | ドリュオプス人の青年で、ヘラクレスの従者兼恋人。 |
| イドモン(Ἴδμων) | 予言者。 |
など諸説あり


『アルゴー船』
1490年 PD
単独で主役を張るレベルの人物も含めた、
本当に豪華なキャスティングなのよ
こうして、完璧な準備を整えた「アルゴナウタイ」の戦士団は、ついにコルキスの地を目指して出航します。
あらすじで楽しむ『アルゴナウタイ』の物語
イアソンの活躍を見てみよう!
彼の物語はボリュームが盛りだくさんなので、
ざっくりダイジェストでの紹介とさせてもらうぞぃ
それぞれのお話の詳細は個別記事でも解説しているので、
良ければそちらも見てみてね
女性だけが暮らすレムノス島を訪れたアルゴナウタイ、
色々頑張り過ぎて新たな人種が爆誕する!
イオルコスの地を出発したアルゴナウタイの一行は、黒海方面へと船を進める過程で、エーゲ海に浮かぶレムノス島を訪れました。
この島は、かつて多くの人々で賑わっていましたが、現在では「女性」だけがこの地に暮らしています。
というのも、レムノス島の女性たちは慣習的に愛と美と性の女神アフロディーテ(ΑΦΡΟΔΙΤΗ)を敬おうとせず、ある日、その態度に女神ご本人が大激怒。
彼女たちに、「身体から強烈な悪臭を放つ」呪いをかけたのだとか。


『ヴィーナスの誕生』 PD
そのため、島の男たちは自身の妻を拒絶し、隣国トラキアから女性を捕らえてきて、彼女らと交わるようになってしまいました。
男どもの一斉不貞行為にブチギレた島の女性たちは、武器を手に取って「父」や「夫」を根絶やしにし、これ以降レムノス島は「女だけが暮らす島」として知られるようになったのです。
長いこと「男性」を目にしていない欲求不満の島の女たちと、色恋の欠片もない船旅に早くも飽き始めていたアルゴナウタイの男たち――。
彼らが邂逅したとき、何が起こるのかは明白でした。
戦士団はしばらくレムノス島に滞在し、その間、元気いっぱいの男女は欲望のままに交わり合います。


決して品が良いとは言えないこの「交流会」によって、彼女らの島には、「ミニュアス人」と呼ばれる新しい種族も誕生しました。
当然ながら、イアソン船長も女王ヒュプシピュレ(Ὑψιπύλη)とちゃっかりベッドを共にし、2人の間にはエウネオス(Εὔνηος)とネブロポノス(Νεβροφόνος)という名の息子たちが生まれています。
まぁー、まずは士気を高めることも大切じゃん?
このお話の詳細はコチラ!!




友好的な王に歓待を受けたアルゴナウタイ、
ちょっとした行き違いから彼らを滅ぼす!!
レムノス島の女性たちに別れを告げたアルゴナウタイの面々は、ミュシア地方近海に位置する(と思われる)ドリオニア諸島へとやって来ます。


この地を治めるキュジコス王(Κύζικος)は非常に親切な人物で、唐突に現れたイアソンとその戦士団を、温かい料理と酒でもてなしました。
翌日、アルゴナウタイの乗組員はこれから渡るであろう海域を自らの目で確かめるため、ディンディモン山の頂上を目指します。
しかし、その隙を突くようにして姿を見せた6本腕の巨人族ゲゲニーズ(Γηγενεης)が、待機組の戦士たちを襲撃――。
半神の英雄ヘラクレス(Ηρακλής)を筆頭とした猛者たちの活躍により、戦闘はイアソン船長らの勝利に終わりました。


ImageFXで作成
その後、一通りの用事を済ませたアルゴナウタイの一団は、キュジコス王とドリオニアの人々に礼を述べ、先を急ぐため夜のうちに出航します。
しかし、船出したアルゴー船はしらばくすると、強い逆風に吹き戻されて、再びドリオニア諸島へと漂着しました。
夜間のため、互いが互いを識別できないという状況のなかで、島の人々は彼らを、敵対民族であるペラスゴイ人の海賊ではないかと誤認します。
対するアルゴナウタイ側も、ゲゲニーズによる襲撃を受けて、いつもよりはやや過敏な警戒態勢を張っていました。
結局、両勢力は互いの正体を知らぬまま武力衝突に突入し、当然ながらキュジコス王率いるドリオニア人はほぼ全滅の状態となります。


翌朝、惨劇が起ったことを自覚したイアソンたちは、親切だった王と島の人々を丁重に弔い、失意と罪悪感を抱えたまま、次の目的地ミュシアへと向かいました。
いやねぇ、これは今でも思い出す苦い経験だよね~
このお話の詳細はコチラ!!


急に冷たくなったアルゴナウタイ、
イケメンを見捨てて最強クラスの英雄を失う!!
ドリオニア諸島を出発した旅の一行は、次の目的地であるミュシアの地に到達し、一時の休息をとるために野営を張ることにしました。


乗組員たちがキャンプの設営をするなか、おそらく最年少の参加者であったと思われるドリュオプス人の従者ヒュラス(Ὕλας)は、夕食用の水を汲んでくるよう命じられます。
森の奥にある泉を見つけた彼が水瓶を抱えてその畔に近付くと、水面から数人のナイアデス(Ναιάδες)*2のニンフ(Νύμφη)*1たちが姿を現し、非常に美しい容姿を誇るヒュラスを気に入って、その身柄を水中深くへと連れ去ってしまいました。
※1自然界の精霊のようなもん、※2淡水域に住むニンフの一集団で、単数形はナイアス(Ναιάς)
青年の悲鳴を聞いたアルゴナウタイの一人・ポリュペモスは、ヒュラスの主人であり恋人でもある半神の英雄ヘラクレスに声をかけ、2人でその捜索を開始します。


『ヒュラスとニンフたち』
1896年 PD
しかし、なぜかこの時、イアソン船長が指揮をとるアルゴー船は、この勇者たちを現地に置き去りにして、とっとと出航するという謎ムーブをかましました。
後に残されたポリュペモスは、ここミュシアに「キオス」という名の都市を建設し、一方のヘラクレスはアルゴスに帰還したとも、リディアの女王オムパレー(Ὀμφάλη)のもとに帰ったとも伝えられています。
いずれにせよアルゴナウタイの戦士団は、ここで、古代ギリシャ最強とも謳われた大きな戦力を失うことになりました。
このあたりの展開には、実は諸説あるんだよね!
このお話の詳細はコチラ!!


ビテュニアを訪れたアルゴナウタイ、
ボクシングでイキる現地人を滅ぼす!!
船を進めた英雄イアソンとアルゴナウタイの戦士たちは、続いてビテュニア地方へと至ります。


この地に暮らすベブリュクス人の王アミュコス(Ἄμυκος)は、海神ポセイドン(ΠΟΣΕΙΔΩΝ)の血を引く屈強な男性で、負け知らずの強力な拳闘家としても知られました。
きわめて傲慢で暴虐な支配者でもあった彼は、領地に到着した異邦人に「拳闘試合」を強制し、敗者には罰として「死」を与えるという掟を課したと言われています。
常に血を求めたアミュコス王は、夕食の準備のために清泉を探していたアルゴナウタイの戦士、カストール(Κάστωρ)とポリュデウケス(Πολυδεύκης)*の双子にも因縁をつけました。
※「ポルックス」という名称の場合も、2人合わせて「ディオスクロイ(Διόσκουροι)」とも呼ばれる


Canvaで作成
片割れのポリュデウケスは傲慢なる王の喧嘩を買い、相手の土俵、相手のルールで正面から戦って、調子に乗りまくった”井の中の蛙”に実力の差を分からせます。
アミュコス王亡きあと、主を失ったベブリュクス人たちは棍棒や槍を手にして果敢にもポリュデウケスへと突撃しますが、対するアルゴナウタイの面々も、血が滾った様子でこれを迎撃しました。
イアソン船長を筆頭とする戦士たちは暴れに暴れ、敵勢をほぼ壊滅状態に追いやると、戦利品を載せられるだけ船に積載し、次の目的地に向けて出航したと伝えられています。
ポリュデウケスの健闘っぷりは、
メンバー全員のモチベーションを高めたよね!
このお話の詳細はコチラ!!


怪鳥ハルピュイアを退治したアルゴナウタイ、
盲目の予言者から航海のヒントを得る!!
ビテュニアを出発したアルゴナウタイの戦士たちは、トラキア地方のサルミュデソスを訪れました。
この地域には盲目の予言者ピネウス(Фινεύς)という老人が住んでおり、イアソンらがこれから辿るであろうコルキスまでの航路について、詳細な情報をもっているのだとか。


『アルゴー船』19世紀後半
ぜひともその助言を得ようと考えた旅の一行でしたが、この老人は当時、神々によって遣わされた人面の鳥ハルピュイア(Ἁρπθαι)の執拗な嫌がらせに苦しんでいました。
怪物退治を引き受けたイアソン船長は、実行部隊としてゼテス(Ζήτης)とカライス(Κάλαϊς)の兄弟を指名。
彼らは北風の神ボレアス(Βορέας)の息子とされる双子で、いずれもが背中に翼をもつ、空戦対応が可能な戦士たちです。
※父の名をとって「ボレアダイ(Βορεάδαι)」や「ボレアデス」とも呼ばれる
兄弟とハルピュイアは超高速の空中戦を繰り広げましたが、舞台がエキナデス諸島上空へ移ると、状況は次第にボレアデスの2人が優勢となっていきました。


『ハルピュイア達の迫害』の一部
1636年-1638年頃 PD
すると、オリュンポス山から虹の女神イーリス(Ἶρις)が姿を現し、ピネウスから手を引く代わりにハルピュイアを見逃してほしい、という和解案を持ちかけてきます。
取引に応じたアルゴナウタイは、盲目の老人から次の難所についての情報を得て、目的地コルキスを目指し旅立って行きました。
うちの船員はねぇ、「陸・海・空」
全方位に対応しとるのよ!
このお話の詳細はコチラ!!


通過する船を圧し潰す「動く岩」、英雄の一行に突破される!!
サルミュデソスを後にしたアルゴナウタイの一行は、現在のトルコのアジア部分とヨーロッパ部分を隔てる、ボスポラス海峡に差しかかります。
この海域には、「シュムプレガデスの岩(Συμπληγάδες)」と呼ばれる摩訶不思議なロケーションがありました。
その場所には、狭い海路を挟み込むようにして巨大な岩の崖が切り立っているのですが、この「岩の崖」というのが風の力を得て自由自在に動き、間を通過しようとする船舶などを、互いにぶつかり合うことで圧し潰してしまうというのです。
当然、イアソン船長と愉快な仲間たちもこの難所を訪れることになりますが、そこは神々の導きで旅をする英雄の一団――。
彼らは、前回の冒険で盲目の予言者ピネウスからその攻略法を聞き出していたので、臆することなくアルゴー船を前へと進めました。
イアソンは、船首から一羽の鳩を放ち、彼または彼女が無事に海域を突破したことを確認。
これを吉兆とみて、シュムプレガデスが再び攻撃の準備を整える前に、一気に難所を突き進みます。


『英雄たち』にある挿絵 PD
結局、アルゴー号は船尾装飾の端を切り落とされる程度の軽微な損傷を受けたものの、イアソンとその戦士団は、一人の犠牲者も出すことなく海域の通過に成功しました。
その後、マリアンデュノイ人の国に寄港した一行はリュコス王(Λύκος)の歓待を受け、
- 予言者イドモン(Ἴδμων)が猪にぶっ飛ばされて死亡。
- 舵取りのティピュス(Τῖφυς)も同地で死去したので、後任にアンカイオス(Ἀγκαῖος)を指名。
といった紆余曲折を経ながらも、ついに目的の場所であるコルキスの地へと到達します。
まさか自然そのものまで立ちはだかってくる
とは思わなかったよね~
このお話の詳細はコチラ!!




ついにコルキス到着!!
英雄は「金羊毛」を前に厳しい試練を課される!!
ボスポラス海峡のシュムプレガデスを突破したアルゴナウタイの一行は、ついに旅の目的地である古代都市コルキスに到着します。
北部には先見の神プロメテウス(Προμηθεύς)が囚われた「コーカサス山脈」を仰ぎ見るこの地域は、太陽神ヘリオス(Ἥλιος)の息子であるアイエテス王(Αἰήτης)によって治められていました。


船を停泊させたイアソンは、さっそく王に謁見し、自らの素性と来訪の目的を明かします。
とはいえ、この地に眠る「金羊毛」は、アイエテス王自慢の秘宝中の秘宝――。
おいそれと譲り渡してもらえるはずもなく、コルキスの王は若き船長に対し、以下のような条件を突きつけました。
- アイエテス王が所有する2頭の雄牛を軛*1に繋ぎ、アレス平原の4エーカー*2の畑を耕すこと。
※1 牛や馬などの家畜に、馬車や荷車を牽かせる際に首にかける木製の横木のこと
※2 約4,800坪、だいたいサッカーグラウンド4つ分くらい - 「竜の歯」と呼ばれるアイテムをその畑に撒くこと。
この仕事をやり遂げてくれたら、
例のブツを差し上げるぞょ~
イアソンは二つ返事で仕事を引き受けますが、そんな彼のもとに、現地の王女メディア(Μήδεια)が現れて忠告を与えます。
彼女曰く、アイエテス王が所有する「2頭の雄牛」とは外敵制圧用の火を噴く機械人形のことであり、「竜の歯」を地面に撒くと、「スパルトイ(Σπαρτοί)」と呼ばれる戦士たちが現れて近くにいる者を見境なく襲うのだそうな。


Canvaで作成
一瞬だけ怖気づいたイアソンに、メディアはこう言って「魅力的な解決策」を提案しました。
私を妻として迎え、旅に同行させてくれるなら、
これらの攻略法をお教えしますわ
背に腹は代えられぬ船長はこの条件を飲み、彼女から炎・物理耐性アップの「軟膏」とボスの「攻略情報」を受け取って、青銅製四足歩行型制圧用兵器カルコタウロイ(Χαλκόταυροι)と竜歯の戦士スパルトイの試練を難なくクリアします。
しかし、肝心のアイエテス王は当初の約束を反故にして「金羊毛」の引き渡しを拒否したうえ、アルゴー船を焼き払って乗組員たちの命を奪おうと画策しました。
王女メディアはこの動きに対しても見事な先回りを見せ、イアソン船長を避難させるついでに、金羊毛の守護竜(Δρακων Κολχικος)を薬(または魔法)で眠らせて目的物の入手を手引き――。


Canvaで作成
さらには、弟のアプシュルトス(Ἄψυρτος)を人質として強引に船に乗せ、アルゴナウタイの逃走を鮮やかにサポートします。
こうして、どうにか「金羊毛」の奪取に成功したイアソンたちは、コルキス軍の追撃を受けながらも、故郷イオルコスへと向けて出発しました。
メディアがいなかったら、
最初の試練からして無理ゲーだったよ…
このお話の詳細はコチラ!!




最狂魔女として覚醒したメディア!
アルゴナウタイの旅が少しずつおかしくなる!!
なんやかんやあって目的の「金羊毛」を手に入れたアルゴナウタイでしたが、背後には激怒したアイエテス王によって遣わされた追撃軍が迫っており、ほっと一息つくにはさすがに無理のある状況が続きます。
コルキスの王女メディアはこの事態を予測していたのか、おもむろに刃物を取り出すと、あろうことか血を分けた弟であるアプシュルトスの命を奪い、その亡骸をバラバラに解体してしまいました。
彼女は、あっけにとられる乗組員たちを尻目に淡々と作業を進め、「かつて弟だったもの」を、コルキス軍を撒くためのデコイとして、後方の大海原へと投げ捨てます。


『金羊毛』
1904年 PD
なるほど確かに、この行動によってアイエテスの軍は動きを止めましたが、あまりにも悪逆非道なメディアのこの振る舞いは、天の神々の怒りを招く結果へと繋がりました。
全ギリシャ世界を統べる至高の王・雷霆の神ゼウス(ΖΕΥΣ)は、「身内を手に掛ける」という古代世界でもトップクラスの大罪を犯した王女に激しく憤り、アルゴナウタイの旅路に大いなる嵐をもたらします。
にっちもさっちもいかなくなった一行は、
あ、アウソニア方面*に行って魔女キルケーの浄めを受けねば、全員仲良く海の藻屑ですぜぇ!!
※イタリアのこと
というアルゴー号の提案に従って、遠く離れたイタリアの地、アイアイエ島に住む魔女キルケー(Κιρκη)のもとを目指しました。
※アルゴー号には「ものを言う木」が取り付けられているという設定がある
彼女は、これまた太陽神ヘリオスの血を受け継ぐ強力な魔女で、アイエテス王の妹、そしてメディアの叔母にあたる人物です。


『オデュッセウスに杯を差し出すキルケ』
1891年 PD
暴走気味な姪っ子の目の奥に、すぐさま同じ太陽神の血脈を感じ取ったキルケー。
彼女は、親戚のよしみでメディアの「罪」を清めましたが、その行動自体は擁護できないとして、アルゴナウタイの一団に即時退去を要求しました。
こうして、イアソンとメディア、そしてアルゴナウタイの船乗りたちは、再びイオルコスの地を目指して旅立っていったと伝えられています。
「あれ、この女性ヤヴァくね…?」って空気が、
徐々にクルーたちの間に広がっていったよね…
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ちなみに、アイアイエ島を出発したアルゴナウタイが北アフリカはリビアの地に到達し、「トリトニス湖(Τριτωνίδα λίμνην)」の化身としての海の神トリトン(Τριτων)に遭遇――。
儀式に使う青銅製の三脚台と引き換えに、彼からギリシャ方面へと戻る航路を教わったとする逸話も存在します。
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アルゴナウタイの一行、
さまざまなクリーチャーの生息域を突破する!!
ひとまずの急場しのぎで神の怒りから解放された旅の一行は、改めて故郷イオルコスを目指しアイアイエ島を出発しました。
ティレニア海を南下したアルゴナウタイは、やがて、海の怪物セイレーン(Σειρήν)が生息するという岩礁地帯を通りかかります。
上半身が人間の女性、下半身が「鳥」または「魚」の姿をしたこのクリーチャーは、得も言われぬ美しい歌声で男たちを誘惑し、数多くの船を難破させたことから、「死」の象徴として大いに恐れられました。


『セイレーンの口づけ』
1882年 PD
セイレーンは、当然ながらイアソンと愉快な仲間たちにも襲い掛かりますが、この戦士団には非常に有力な対抗馬が参加していることを、彼女たちは知りません。
その人物とは、伝説の吟遊詩人オルフェウス(Ὀρφεύς)――。
芸術の女神ムーサイ(Μοῦσαι)の1柱、叙事詩の女神カリオペ(Καλλιόπη)の息子ともされる人物です。
彼は、竪琴を取り出すと果敢に弦をかき鳴らし、奏でられる「音」でセイレーンの「歌声」から仲間たちの耳を守りました。
さらにオルフェウスは、竪琴の調べが怪物たちを圧倒している隙に、西風の神ゼピュロス(Ζέφυρος)と海神ポセイドン(ΠΟΣΕΙΔΩΝ)に祈りを捧げ、「波」と「風」を起こしてもらいます。
そのおかげで船は一気に進み、旅の一行はあっという間に、セイレーンの歌声が聞こえない安全な海域まで逃れることができました。
ただ一人、その歌を耳にしたブテス(Βούτης)だけは、怪物に魅了されたまま海に飛び込み泳ぎ去ってしまいますが、彼はのちに愛と美と性の女神アフロディーテ(ΑΦΡΟΔΙΤΗ)に救出され、その愛人になったと伝えられています。


その後、さらに海を南下したアルゴナウタイは、イタリア半島とシチリア島を隔てるメッシーナ海峡に差し掛かります。
この海域には、渦潮の怪物カリュブディス(Χαρυβδις)と人喰いの怪物スキュラ(Σκυλλα)という2大強キャラがごく近距離に生息しており、どちらかを避けようとすればどちらかに近付くことになる、ジレンマ的難所としても知られました。
2匹の中ボスはアルゴナウタイの到着を今か今かと待ち構えていましたが、実はこの一団には、オリュンポスの女王・結婚の女神ヘラ(Ἥρα)の加護が付与されていたようです。
※冒頭でイアソンが助けた老婆が、ヘラが変装した姿だった
彼女は、海の女神テティス(Θέτις)やネレイデス(Νηρηΐδες)*たちを総動員し、アルゴナウタイの戦士たちが海域を安全に通過するまで、最大限の保護を与えるよう命じました。
※海に棲む女性の精霊たちの総称で、単数形はネレイス(Νηρηΐς)


その甲斐あってか、イアソンたちはスキュラにもカリュブディスにも遭遇することなく、至って平穏にこのエリアを突破しています。
出番あれへんのかーーーい!!
キシャーーーーー‼‼‼
(出番あれへんのかーーーい!!)
こうして難所を抜けたアルゴナウタイは、太陽神ヘリオスが支配するトリナキア島のそばを通過してイオニア海に到達。
パイアキア人が住むスケリア島にて、一時の休息をとることにしました。
ヤベェ怪物をスルーできたのは、マジで幸運だったよね
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イアソンとメディア、
理想的な王のフォローによってなし崩し的に結婚する!!
紆余曲折を経てイタリア方面からギリシャへと戻った旅の一行は、現在のケルキラ島にあたるとされるパイアキア人の国を訪れました。
現地の王アルキノオス(Ἀλκίνοος)は、下手をすると一国の王女を誘拐した賊の一団とも思われかねないイアソンたちを温かく迎え入れ、彼らを盛大な祝宴でもてなします。
しかし、アイエテス王が放ったコルキスの追撃軍もまだ仕事を諦めていなかったようで、パイアキア人の島は、恐ろしい艦隊に周囲をぐるりと取り囲まれてしまいました。


「戦争」を示唆しつつ、王女メディアの身柄引き渡しを要求するコルキス軍に対し、賢王アルキノオスは見事なまでの政治手腕を発揮します。
メディアなるお嬢さんが、いまだ純潔を保つ「乙女」であれば、なるほど、彼女は「父」アイエテス殿のもとに帰るべきと言えるじゃろう
しかし、その女子がすでに誰かの「妻」になっているのであれば、彼女は当然、「夫」のそばにおるべきではないかの?
っちゅうわけで、その辺を確認するためにちょいと時間を頂きましょうかの
話を聞き入れたコルキスの軍勢が一旦引き下がると、王妃アレテ(Ἀρήτη)が夜のうちに使者を送り、イアソンとメディアが正式に―かつ早急に―結婚するよう提案。
結果、2人は洞窟のなかで神聖な結婚式を執り行い、ちゃっかりと物理的な契りも交わすことで、名実ともに誰も文句をつけることができない「夫婦」となりました。


『イアソンはメディアに永遠の愛を誓う』
1742年 PD
その一報を受け取ったアルキノオス王は、2人が既婚者であることを理由にコルキス人の要求を拒絶。
艦隊側もこの裁定を受け入れざるを得ず、武力行使を断念することとなりました。
その後、アルキノオスとアレテの夫婦はアルゴナウタイの戦士たちに数多くの贈り物を渡し、特に新婦メディアには12人もの侍女を授けたうえで、旅の一団の出航を見送ります。
”あたたかい人の心”に触れたイアソンたちは、深い恩義を感じながら、一路エーゲ海を目指しました。
途中で大嵐が起こった際、光明の神アポロン(ΑΠΟΛΛΩ)が海中に矢を射て光を発したことで、アルゴナウタイに「アナフィ島(Ανάφη)」を発見させたという逸話も残っているよ!
一行はそこに光明神の祭壇を建て、供儀の際に「女性たちが冗談を言って笑い合う」という習慣を残したのだそうじゃ
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クレタ島の守護兵器に攻撃されたアルゴナウタイ、
魔女の活躍で危機を脱出する!!
アナフィ島で大嵐をやり過ごした旅の一行は、あらためてイオルコスを目指し船を進めますが、ここで彼らは、クレタ島の守護兵器から侵入者と見なされ攻撃を受けてしまいます。
アルゴナウタイの前に立ちはだかったのは、青銅製人型決戦兵器タロス(Ταλως)――。
鍛冶の神ヘパイストス(Ἥφαιστος)によって創造された自律行動型金属人形オートマトン(Αυτοματων)の最上位モデルで、自らの頭で「考え」「感じ」、独自の思考判断に基づいて敵を迎撃するシステムを兼ね備えた、いわゆる「スマート防衛兵器」です。
かつて、雷霆の神ゼウス(ΖΕΥΣ)からフェニキアの王女エウロペ(Εὐρώπη)に贈られた彼は、クレタ島に近付く外敵に巨大な岩石を投げつけることで、自身の担当エリアを守り続けました。


Canvaで作成
長旅によるのどの渇きや疲労で弱体化していたアルゴナウタイは、一度退いて態勢を立て直そうと試みますが、ここで正式に船長の妻となった魔女メディアが一歩前に進み出ます。
彼女は、夫の旅路を成功へと導くべく、船の甲板で上級魔術の詠唱を開始しました。
彼の者達を迷い路に誘い幻を見せよ!
封印解除!
すると、冥府の底から死の悪霊ケレス(Κηρες)の群れが現れ、彼女らはその呪文と祈りで、クレタ島の守護者たるタロスの精神を錯乱させにかかります。


『メーデイア』
1866年-1868年 PD
やがて、狂気と幻視の魔法に搦めとられた機械人形は、敵に向けて投げつけるための巨石を持ち上げますが、誤ってそれを手から落とし、自身の足首に損傷を受けてしまいました。
このポイントというのが、彼を動かす静脈の末端が通っている部分、そして薄い皮膜を青銅の鋲で封じた個所で、要するにタロスの致命的な弱点だったのです。
その傷口からは、神々の血「イコル(ἰχώρ)」が溶けた鉛のように流れ出し、すべての動力源を失ったタロスは、崖から倒れ落ちて完全に活動を停止したと伝えられています。
物理無効の能力をもつ機械人形も、状態異常やデバフを駆使した魔術師ビルドの戦術に対しては成す術もなかったのでしょう。
その後、アルゴナウタイの面々はクレタ島に寄港して態勢を整え、アイギナ島で水の補給を行った後、無事にイアソンの故郷イオルコスへと帰還を果たしました。
またしても、メディアの力なしでは
状況を打開できんかったのぅ~
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ついに故郷へと帰還したイアソン、
最後の最後にしょうもない「心変わり」ですべてを失う!!
これまで過酷な旅を続けたイアソンとアルゴナウタイの戦士たちは、約4ヶ月ぶりに船長の故郷イオルコスへと帰還します。
イアソンは叔父ぺリアスに旅の目的物である「金羊毛」を手渡しますが、かつて父の王位を簒奪したこの男は、当初の約束を反故にして王権の譲渡を拒否しました。
復讐の機会を窺う若き王子に、またしてもその妻となった魔女メディアが怪しげな手を差し伸べます。
彼女は、とある「魔法の霊薬」を用いてイアソンの父アイソン(Αἴσων)を40歳も若返らせると、その実績を利用してぺリアスの娘たちに近付き、これまたとある「霊薬」を売りつけようと画策したのです。


『メーデイアはアイソーンを若返らせる』
1760年 PD
その実演販売の様子は、概ね以下のようなものでした。
- その辺にいる年老いた牡羊を捕獲し、屠ってバラバラにする。
- できるだけ細かく刻んだら、これらを大きな鍋にぶち込み、本日の商品『ワカガエルン4869』を投入して小一時間煮込む。
- しばらく待つと、あら不思議。
死んだはずの牡羊が、ぷりっぷりの仔羊になって復活する。 - この霊薬をぺリアス王に使えば、彼の在位期間が延長されて、娘たちの権力基盤もバッチリ安泰でござる。
後日、狡猾な魔女の口車に乗せられた愚かな娘たちは、父王ぺリアスの命を奪ってその亡骸をバラバラにした後、一切効果の出ない「霊薬」に絶望して無様に咽び泣くこととなりました。
※この計画は女神ヘラの導きによって実行されたとも


『ペリアスの娘たちによる殺害』
1878年 PD
………あ?
知らねぇよ……
クレームも返品も、一切受け付けてねぇからな……
イアソンの王位奪還の障害が排除されたのは事実ですが、このようなやり方が広く一般に受け入れられるはずがないのもまた事実――。
死亡したぺリアスの後任には、その息子である―しかも、アルゴナウタイの旅に参加していた―アカストス(Ἄκαστος)が就き、イアソンとメディアの夫婦は、2人揃って仲良く追放されることになりました。
アババババババババ……
その後、この夫妻は流れ流れてコリントスへと辿り着き、なんだかんだそこで10年もの時を過ごします。
彼らの生活は十分に幸福で、夫婦の間には、メルメロス(Μέρμερος)とペレース(Φέρης)という2人の息子も誕生しました。


『メディアと子供たち』
1868年 PD
しかし、何不自由ない毎日に満足していた妻メディアのもとに、ある日、青天霹靂の如きニュースが届きます。
なんと、コリントスの王クレオン(Κρέων)がイアソンのことをすっかり気に入り、彼に娘のグラウケ(Γλαύκη)*を嫁がせようとしているというのです。
※王女の名称はクレウサ(Κρέουσα)とも
それだけならばシンプルに断れば済む話ですが、よりにもよってあの男は、
若くて純情な乙女……
ええなぁ…
どこぞの鬼嫁と違って、魔法だ薬だで人を死なせないし…
身内をバラバラにして平気な顔もしない…
そもそも、わしがイオルコスを追放されたのも、
もとはといえばあ奴の暴走のせいじゃぁねぇか…
本来、わしは今頃、王として
偉そうに座っとけるはずやったんじゃぁ…
として、メディアとの離縁を決意してしまいました。


『イアーソーンとメーデイア』
1759年 PD
…………
…………
屋上へ行こうぜ……
ひさしぶりに………
きれちまったよ…
愛する夫の心が自分から離れてしまったことを知った彼女は、イアソンを散々に罵ったあと、大人しく身を引くふりをして一旦引きこもり、新婦グラウケに―もちろん匿名で―猛毒を仕込んだ花嫁衣裳と冠を贈ります。
挙式当日、ぱっと見は上等な品である例の贈り物をまんまと身にまとった美しい花嫁は、どこからともなく燃え上がった灼熱の炎に包まれ、父王クレオンと共に消し炭になるまで焼き尽くされました。


1896年
出典:ニューヨーク公共図書館 PD
アバババババババァ~~~
今のはメラ〇ーマではない、メ〇だ
本格的に激怒したメディアの復讐は、まだまだとどまることを知りません。
なんと彼女は、イアソンとの間に自分の腹を痛めて産んだ息子たち、メルメロスとペレースの命までも奪い、その凄惨な光景を裏切り者の夫にまざまざと見せつけたのです。


『我が子を殺すメデイア』
1862年 PD
アビャビャビャバヤビャバヤ(発狂)
メディアは、元夫に想像しうる限りの最大限の苦痛を与えた後、発狂寸前の状態に陥ったイアソンを見捨て、祖父である太陽神ヘリオス(Ἥλιος)が遣わした「翼をもつ蛇が牽く戦車」に乗ってアテナイ方面の空へと逃走しました。
うあははははははは!!
裏切る相手を間違えたのぅ、この馬鹿共がぁ!!!
貴様ら如きに、このわしを滅ぼせるものかよ!!
うわはははははははははは!!


『子を殺し、戦車に乗って逃げるメデイア』
1887年 PD
大空の彼方へと消え去ったメディアの、正確な末路を知る者は誰もいません。
その後、あらゆるものすべてを喪失したイアソンは、絶望のあまり自ら命を絶ったとも、その辺を放浪して野垂れ死んだとも、あるいはイオルコスの王座を奪還して、悲しみに暮れながら余生を過ごしたとも伝えられています。
いずれにせよ彼は、かつて栄華を誇ったアルゴナウタイの船長としての威光を失い、その名誉は晩節において汚され、英雄の名にはとてもふさわしくない最期を遂げたのです。
どうしてこうなった
このお話の詳細はコチラ!!


ギリシャ神話をモチーフにした作品
参考までに、「ギリシャ神話」と関連する
エンタメ作品をいくつかご紹介するよ!
おわりに
今回は、ギリシャ神話に登場するイオルコスの王子イアソンについて解説しました。
お話自体はものすんごく壮大なのに、
「なんじゃそら?」っていうエンディングよね
物語中で活躍するのは他のメンバーばかりで、イアソン自身は最後の最後に「心移り」で悪目立ちしとるだけじゃからのぅ
実は、世界最古の「打ち切りエンド」
だったかもしれないよね!
パパトトブログ-ギリシャ神話篇-では、雄大なエーゲ海が生み出した魅力的な神々や彼らの物語をご紹介していきます。
神さま個別のプロフィール紹介や神話の名場面をストーリー調で解説など、難しい言葉はできるだけ使わずに、あらゆる角度から楽しんでもらえるように持って行こうと考えています。
これからも「ギリシャ神話」の魅力をどんどんご紹介してきますので、良ければまた読んでもらえると嬉しいです!
また来てね!
しーゆーあげん!
参考文献
- ヘシオドス(著), 廣川 洋一(翻訳)『神統記』岩波書店 1984年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『イリアス 上』岩波書店 1992年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『イリアス 下』岩波書店 1992年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『オデュッセイア 上』岩波書店 1994年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『オデュッセイア 下』岩波書店 1994年
- アポロドーロス(著), 高津 春繁(翻訳)『ギリシア神話』岩波書店 1978年
- T. ブルフィンチ(著), 野上 彌生子(翻訳)『ギリシア・ローマ神話』岩波書店 1978年
- 吉田 敦彦『一冊でまるごとわかるギリシア神話』大和書房 2013年
- 阿刀田高『ギリシア神話を知っていますか』新潮社 1984年
- 大林 太良ほか『世界神話事典 世界の神々の誕生』角川ソフィア文庫 2012年
- 中村圭志『図解 世界5大神話入門』ディスカヴァー・トゥエンティワン 2020年
- 歴史雑学探究倶楽部『世界の神話がわかる本』学研プラス 2010年
- 沢辺 有司『図解 いちばんやさしい世界神話の本』彩図社 2021年
- かみゆ歴史編集部『マンガ 面白いほどよくわかる! ギリシャ神話』西東社 2019年
- 鈴木悠介『眠れなくなるほど面白い 図解 世界の神々』日本文芸社 2021年
- 松村 一男監修『もう一度学びたいギリシア神話』西東社 2007年
- 沖田瑞穂『すごい神話―現代人のための神話学53講―』新潮社 2022年
- 杉全美帆子『イラストで読む ギリシア神話の神々』河出書房新社 2017年
- 中野京子『名画の謎 ギリシャ神話篇』文藝春秋 2015年
- 千足 伸行監修『すぐわかるギリシア・ローマ神話の絵画』東京美術 2006年
- 井出 洋一郎『ギリシア神話の名画はなぜこんなに面白いのか』中経出版 2010年
- 藤村 シシン『古代ギリシャのリアル』実業之日本社 2022年
- 中村圭志『教養として学んでおきたいギリシャ神話』マイナビ出版 2021年
- かみゆ歴史編集部『ゼロからわかるギリシャ神話』イースト・プレス 2017年
- THEOI GREEK MYTHOLOGY:https://www.theoi.com/
他…


















