
こんにちは!
今回はギリシャ神話より鍛冶の神ヘパイストスを紹介するよ!



今回はオリュンポス12神の紹介ね
彼はどんなキャラクターなの?



彼は鍛冶や製鉄、火山を司る神さまで、
神話に登場するさまざまな魔法の品物を作り出したんだ!



不遇の扱いにも自身の腕前で立ち向かう、
職人たちの理想像とされる神格じゃ



ではさっそくいってみよう!
このシリーズでは、忙しいけど「ギリシャ神話」についてサクっと理解したいという方向けに、「かんたん・わかりやすい」がテーマの神々の解説記事を掲載していきます。
雄大なエーゲ海と石灰岩の大地が生み出した、欲望に忠実な神々による暴力的でありながらもどこかユーモラスな物語群が、あなたに新たなエンターテイメントとの出会いをお約束します。
人間味溢れる自由奔放な神々の色彩豊かで魅力的な物語に、ぜひあなたも触れてみてくださいね。
今回は、結婚の女神ヘラによって単独で生みだされた男神で、その見た目と不自由な身体で理不尽な扱いを受けながらも、自身の鍛冶師としての腕前と根性で道を切り拓いた、ギリシャ神話では珍しく硬派で真面目な神ヘパイストスをご紹介します!



忙しい人はコチラから本編にすっ飛びじゃ
この記事は、以下のような方に向けて書いています。
- ギリシャ神話にちょっと興味がある人
- ギリシャ神話に登場する神さまのことをざっくり知りたい人
- とりあえず誰かにどや顔でうんちく話をしたい人
- ギリシャ神話に登場する「鍛冶の神ヘパイストス」について少し詳しくなります。
- あなたのエセ教養人レベルが1アップします。
そもそも「ギリシャ神話」って何?
「ギリシャ神話」とは、エーゲ海を中心とした古代ギリシャ世界で語り継がれてきた、神々と人間の壮大な物語群です。
夏には乾いた陽光が降り注ぎ、岩と海とオリーブの木が広がる土地に暮らした人々は、気まぐれで情熱的、そして人間以上に人間らしい神々を生み出しました。
神々は不死である一方、人間と同じように嫉妬し、愛し、怒り、そしてときに残酷な運命に翻弄されます。
現代に伝わる物語の多くは、ホメロスの『イーリアス』『オデュッセイア』、ヘシオドスの『神統記』などの古代叙事詩を原典としています。
王族の愛憎劇に始まり、神々の争いや英雄たちの冒険、時に神と人間の禁断の関係まで——
あらゆる欲望と感情が渦巻くギリシャ神話の世界は、きっとあなたの心を掴んで離さないでしょう。


14世紀ギリシャの写本 PD
「ギリシャ神話」の全体像は、以下で解説しているよ!


鍛冶の神ヘパイストスってどんな神さま?
鍛冶の神ヘパイストスがどんな神さまなのか、さっそく見ていきましょう。



いくぜっ!
簡易プロフィール
正式名称 | ヘパイストス Ἥφαιστος |
---|---|
名称の意味 | 不明 ※ギリシャ語以前の時代の地名とも |
その他の呼称 | ヘーパイストス ヘファイストス |
ラテン語名 (ローマ神話) | ウルカヌス(Vulcanus) |
英語名 | ヴァルカン(Vulcan) ヘパイストス(Hephaestus) |
神格 | 鍛冶の神 火の神 金属加工の神 職人の神 石工の神 彫刻の神 火山の神など |
性別 | 男性 |
勢力 | オリュンポス神族 |
アトリビュート (シンボル) | 金槌 火箸 金床 やっとこなど |
聖獣 | ロバ 鶴 番犬 |
直属の部下 | 単眼巨人キュクロプス(Κύκλωψ) |
敬称 | クリュトテクネス(名高き職人) ポリュメティス(機知に富む者) アンフィギュエエイス(足の不自由な者) アイタロゲイス・テオス(すすけた神)ほか多数 |
主な拠点 | オリュンポス山 シチリア島のエトナ火山 |
信仰の中心地 | レムノス島(Λήμνος) シチリア島(Sicilia) |
親 | 父:なし ※雷霆の神ゼウス(ΖΕΥΣ)とする説も 母:結婚の女神ヘラ(Ἥρα) |
兄弟姉妹 | 青春の女神ヘベ(Ἥβη) 戦いの神アレス(ΑΡΗΣ) 出産の女神エイレイテュイア(Εἰλείθυια) ほか、異父兄弟が多数 |
配偶者 | 愛と美と性の女神アフロディーテ(ΑΦΡΟΔΙΤΗ) 祝祭と輝きの女神アグライア(Ἀγλαΐα) ※美と優雅の女神カリテス(Χάριτες)の1柱 海の精霊カベイロ(Καβειρώ) 山の精霊アイトナ(Aitna) ある意味で 大地の女神ガイア(Γαῖα) |
子孫 | アテナイの王エリクトニオス(Ἐριχθόνιος) アグライアとの間に、 エウクレイア(Ευκλεια) ※「良い評判」「名声」の意 エウテニア(Ευθηνια) ※「繁栄」「豊かさ」の意 エウフェメ(Ευφημη) ※「賛美」「喝采」の意 フィロプロシュネ(Φιλοφροσυνη) ※「歓迎」の意 カベイロとの間に、 秘儀の神々カベイロイ(Κάβειροι) 秘儀の精霊カベイリデス(Cabeirides) アイトナとの間に、 間欠泉の神パリコイ(Palikoi) 山の精霊タレイア(Thaleia) この他、人間族の子孫も多数 |
対応する星 | 小惑星ヘファイストス(2212 Hephaistos) :地球の軌道内側にあるアポロ群の火星横断小惑星 |
由来する言葉 | ・volcano :「火山」を意味する英単語。ローマ神話名のウルカヌス(Vulcanus)に由来。 |
概要と出自
ヘパイストスはギリシャ神話に登場する鍛冶の神です。
「天上の職人」とも呼ばれた彼は、鍛冶のみならず「火」や「金属加工」、「石工」や「彫刻」、「職人の守護」など、創造に関わるあらゆる要素を司ったほか、ローマ神話におけるその名称「ウルカヌス(Vulcanus)」からも分かる通り、「火山(volcano)」とも関連付けられました。
絶世の美男美女が勢揃いするオリュンポスの神々のなかにあって、ヘパイストスの描写は、やや異質と言わざるを得ないでしょう。
髭を生やし、ずんぐりむっくりとした醜男で、不自由な足を引きずる姿で描かれた彼は、貴族的な社会であった古代ギリシャにおける、鍛冶師の地位の低さを象徴するとも言われています。


『ゼウスの雷を鍛えるヘーパイストス』
1636年-1638年頃 PD
そんな彼は、結婚の女神ヘラ(Ἥρα)によって、単独の力で生み出されたと伝えられています。
※ゼウスとヘラの子とする説も
彼女の夫である雷霆の神ゼウス(ΖΕΥΣ)が、独力で戦いの女神アテナ(Ἀθηνᾶ)を生んだ事実を知ったレアが、



できらぁっ!



えっ、たった1人で子どもを!?
と言って、夫に対抗するかのように独りでヘパイストスを出産したのです。
しかし、完全な自己都合で彼を世に生み出した出産の女神は、



おらぁ!見てみぃ!
その程度、わしにだってできるんじゃぁ!!



…?
あれ、こいつあんまり可愛くなくね…?
と言って、生後間もないヘパイストスを、下界の大海原に投げ捨ててしまいました。
見た目が醜く足も悪い神を生んだことが神々に知られては、その女王たる自分が、オリュンポス中で物笑いの種にされる。
※ヘラとゼウスの喧嘩の仲裁に入ったヘパイストスが、ゼウスによって天界から落とされ足を怪我したとする説も
そう考えたヘラが、あからさまな自己保身に走ったというわけです。



……



※あくまで古代の価値観です


地上に墜落したヘパイストスはどうにか一命をとりとめましたが、ほとんど息も絶え絶えの状態なうえ、そもそも赤ん坊なので自力で生きていけるはずもありません。
それを哀れんだ心優しい海の女神テティス(Θέτις)と水の女神エウリュノメ(Εὐρυνόμη)は、ヘパイストスを海の底の洞窟へと連れてゆき、その後9年間にわたって彼を養育しました。
※ヘラがヘパイストスをナクソス島の養父に9年間預け、鍛冶の技術を学ばせたとする説も
順調に成長したヘパイストスは、自分を世話してくれた親切なニンフ*たちに報いるために、さまざまな美しい装身具を作ってはこれをプレゼントとして贈ります。
※自然界の精霊のようなもの
いつしか彼は、どんなものでも作り出すことのできる不思議な技術力を身につけた、立派な職人の神となっていました。
※へパイストスが9歳の時にヘラがその生存を知り、彼に鍛冶場を作ってやったとする説も


出典:ニューヨーク公共図書館 PD
ヘパイストスはその後、天上の世界へと戻り母ヘラに一通りの復讐を果たして、自身もオリュンポス12神の1柱にその名を連ねます。


鍛冶や製鉄を司る神格としての地位を確立した彼は、同じく鍛冶を得意とする単眼巨人キュクロプス(Κύκλωψ)を部下に迎え入れ、日々真面目に仕事に取り組んだと伝えられています。



最終的な拠点は、シチリア島東部のエトナ火山さ


この流れで、彼は愛と美と性の女神アフロディーテ(ΑΦΡΟΔΙΤΗ)を妻に迎えましたが、もともと仮初めの夫婦のような関係だったこともあり、2人のあいだに子どもが生まれることはありませんでした。



このあたりは、後ほど詳しく紹介するぜぃ
意外と賑やかなヘパイストスの家族関係
ヘパイストスはその後、意外にも複数のパートナーとのあいだに、数多くの子孫を残しています。
美と優雅の女神カリテス(Χάριτες)の1柱である祝祭と輝きの女神アグライア(Ἀγλαΐα)との間には、
- エウクレイア(Ευκλεια)
※「良い評判」「名声」の意 - エウテニア(Ευθηνια)
※「繁栄」「豊かさ」の意 - エウフェメ(Ευφημη)
※「賛美」「喝采」の意 - フィロプロシュネ(Φιλοφροσυνη)
※「歓迎」の意
が誕生しました。




『三美神』1635年 PD
また、海の精霊カベイロ(Καβειρώ)とのあいだには、「鍛冶」とそれにまつわる「秘儀」を司る男女の神々、カベイロイ(Κάβειροι)とカベイリデス(Cabeirides)が生まれています。
彼らに対する崇拝は文字通り門外不出であったため、その神話もまた錯綜しており、内容がはっきりとしないのだとか。
さらに、ヘパイストスと山の精霊アイトナ(Aitna)のあいだには、間欠泉の神パリコイ(Palikoi)と山の精霊タレイア(Thaleia)の2柱が誕生しました。
これに加えて彼には、数多くの人間族の子孫が生まれたとも伝えられています。
※ただし、簡単な系図の記述によって神と結びつけられているに過ぎない
そのなかでも唯一重要な存在といえるのが、後にアテナイの王となるエリクトニオス(Ἐριχθόνιος)でしょう。
上半身が人間、下半身が蛇の姿をしている彼は、
- アフロディーテに相手にされず、欲求不満が溜まっていたヘパイストスが、アテナに欲情して襲いかかる
- 当然これを拒絶し、ヘパイストスをシバきあげるアテナの太ももに、彼の体液が漏れかかる
- アテナが体液を羊毛でふき取って投げ捨てると、それを受け止めた大地の女神ガイア(Γαῖα)がエリクトニオスを身ごもる
という、非常にシュールな流れでこの世に生を受けました。


『ヘパイストスの進撃を嘲笑するアテナ』1555年-1560年頃 PD



ちょっぴり恥ずかしい過去も、あるっちゃあるわいね



不遇の扱いを受けつつも、
たくさんの子どもたちには恵まれているんだね!
どの世界の神話にも、必ず1柱は存在すると言って差し支えない、「鍛冶」に関連する神さま。
もちろん、我らが『日本神話』にも、鍛人天津麻羅という鍛冶と製鉄を司る神格が存在します。
彼はまたの名を天目一箇神ともいい、また、紀伊国(和歌山県)の熊野の山中に棲む有名な一つ目の妖怪「一本ダタラ」とも関連付けられました。
天津麻羅に「目が一つ」という設定が付与された理由については諸説ありますが、そのうち有力なものとして、
片目を失明するという鍛冶職人特有の職業病があったから
※有害な金属による中毒症状など
という考え方があります。



ヘパイストスの部下であるキュクロプスが「一つ目」
であることとも、関連性が見てとれるのぅ


また、ヘパイストスの足が不自由でいつも杖をついているという設定にも、古代ギリシャの鍛冶職人がヒ素中毒で皮膚病や手足の麻痺にかかることが多かったという、現実社会における実情が反映されたと考えられています。
そのほか、「鍛冶神の足が悪い」という要素は西アフリカやスカンディナヴィア半島にも見られ、これは鍛冶屋が脱走して敵に寝返らないよう、わざと彼らの足を悪くさせた歴史を物語るとも指摘されているそうな。
いずれにせよ、古代において鍛冶や製鉄に関わった人々は、あらゆる障害や職業病を背負いながら、文字通り命を削って仕事に取り組んでおり、そのイメージがバッチリと神々のビジュアルにも投影されたと考えて良いでしょう。



洋の東西を問わず、「鍛冶はマジでしんどい仕事」
という認識だったのね


ちなみに、『エジプト神話』には鍛冶の神プタハ(Ptah)という神さまがおり、彼は政治の都合で一時は最高神にもなっています。


さらにちなみに『北欧神話』には、鍛冶や細工を得意とする小人族ドヴェルグ(dvergr)という種族が登場しています。


ヘパイストスが関わった主なストーリー



ヘパイストスの活躍を見てみよう!
自分を捨てた母にきっちりと復讐する鍛冶神!
ついでに美しい妻も手に入れる!?
母親である結婚の女神ヘラ(Ἥρα)に一方的な都合で捨てられながらも、どうにか生き延びて、海の女神テティス(Θέτις)と水の女神エウリュノメ(Εὐρυνόμη)の養育のもとで立派に成長したヘパイストス。
彼は、自分を育ててくれた恩義に報いるために、さまざまな宝石や美しい装身具を作っては、それらをニンフ*たちにプレゼントしました。
※自然界の精霊のようなもの
こうしたアクティビティで腕を磨いたヘパイストスは、いつしかどんなものでも作り出せる技術力を身につけ、いっぱしの「鍛冶の神」としてやっていけるだけの、立派な神格を備えるようになります。


『ヘパイストスからアキレスの武器を受け取るテティス』1630年–1632年 PD



……
基本的には心根の優しい彼ですが、それでもヘパイストスには、一つだけやらねばならない仕事がありました。
それは、赤ん坊の自分を理不尽に海に投げ捨てた、母ヘラになんらかの復讐を果たすこと。
彼は鍛え上げた鍛冶と金属加工の腕をフルに発揮して、とあるアイテムを作り上げます。


一方その頃―。
天上のオリュンポスでは、件の結婚の女神ヘラがいつも通り真面目に仕事を行い、夫である雷霆の神ゼウス(ΖΕΥΣ)の浮気にも目を光らせ続けていました。
そんな彼女の前に、何やら見慣れぬ容姿の青年が現れます。
なんでも彼は、神々の女王にふさわしい贈り物をしたいと、わざわざここオリュンポスへとやって来たのだとか。
その若者が持ち込んだのは、風雅な造りの見事な「黄金の玉座」で、まさに天界の女主人が使うのにぴったりの逸品でした。



ほぉ~こりゃ見事!
若いの、お前さん物事がよう分かっとるやんけ~



へぇ、恐縮でございやす…
ヘラが喜んでその玉座に腰掛けると、とたんにその身体はがんじがらめに拘束されて、身動きをとることができなくなってしまいます。



アバババアバ!!!
なんじゃこりゃぁぁぁぁぁ!!



ごきげんよう、お母上
予想通り、私のことは覚えておらんようですな



かつてあなたが海に捨てた赤ん坊…
ヘパイストスですわ…



ぐぬぬ


『ヘーパイストスの部屋にあるヘーラー』1902年 PD
その若者の正体は、ご想像の通り、今回の主人公ヘパイストス。
彼は、かつて自分を捨てた母に報復するために、目に見えない鎖のトラップが仕掛けられた黄金の玉座を持参して、オリュンポスへと舞い戻ったのです。



ぐぬぬ…
者ども、であえ~であえ~
曲者じゃー!
ヘラの悲鳴を聞いて駆け付けた神々は、彼女を拘束から解放しようと試みますが、当然ながらそう上手くはいきません。
その高度な罠は、作り手であるヘパイストスにしか解除できないのです。
ヘラの息子である戦いの神アレス(ΑΡΗΣ)は、ヘパイストスを武力制圧しようと試みますが、これもあらかじめ彼が用意していた罠に阻まれて失敗に終わりました。
オリュンポスの神々は、



ヘパイストス、自分の母になんてことをするんだ!
と説得しましたが、本人は



私に母はいない
と言ってオリュンポスを去り、そのまま引きこもってしまったと伝えられています。
その後、ヘパイストスは誰の説得にも応じませんでしたが、唯一の親友でもある酩酊の神ディオニュソス(ΔΙΟΝΥΣΟΣ)が彼に接触し、酒の力を借りつつ、



まぁ言うても、オリュンポスの女王が
あのままっちゅうワケにもいかんやろ?



とりあえず謝罪させてさ…



なんか法外な条件でもふっかけて
手打ちにするしかなくねぇか…?



あんまり頑なに意地張っても、
そのうちゼウスの親父が出てくりゃすべておじゃんよ
と、懐柔。
友人の必死の説得に心を開いたヘパイストスは、渋々オリュンポスに戻ることにしました。


1844年 – 1861年
出典:ニューヨーク公共図書館 PD
再び母と相対した彼は、こう言ってヘラに条件を付きつけます。



解放して欲しければ、かつて息子である私を捨てたことを、
神々の前で認めてくだされや…



ぐぬぅ…



この者はわしが産み、そして捨てた子で~す
すいませんでしたぁ



誠意がまったく感じられませんなぁ~!!
こりゃあ、もうひとつくらい条件追加させてもらわんとねぇぇ!!



というわけで、あのアフロディーテを妻にもらいましょか



乗った!!
背に腹は代えられない神々の女王は、愛と美と性の女神アフロディーテ(ΑΦΡΟΔΙΤΗ)にヘパイストスの妻となるよう命じ、ようやく鎖の拘束から解放されました。


勝ったのか負けたのかよく分からないヘパイストスですが、いずれにせよ彼はオリュンポスの神々の一員に迎え入れられ、誰もが憧れる絶世の美女アフロディーテをもゲットしたのです。



どんなとばっちりや!!!!


『ヴィーナスの誕生』1485年頃 PD



これ以降はオリュンポスの神として働き、
ギガントマキアの戦いにも参加したぞ


この逸話では、ストライキを起こしたヘパイストスがあらゆる仕事を放棄してしまったので、武器や神殿、装飾品を作ってくれる者を失った神々が困り果てることになったとも言われています。
基本的には地位が低いとされた職人階級ですが、その一方で「鍛冶屋を過小評価すると痛い目を見る」という教訓が、このエピソードには含まれているのかもしれませんね。
無理があった不釣り合いな結婚生活!
浮気された鍛冶の神は、やはりその技術力で報復を実行する!
母である結婚の女神ヘラとの一件を経て、美しき愛と美と性の女神アフロディーテを妻に迎えたヘパイストス。
しかし、自分の美貌に絶対の自信をもつアフロディーテが、こんな不本意な結婚に納得しているはずもありませんでした。



わしを誰やと思うとんのじゃ…
性的魅力の権化とも言われるこのアフロディーテやぞ…



誰があんな醜男の妻に収まる器かい…
わしの「美」には相応の「美」じゃねぇと対抗できねぇのよ…
気位の高い彼女は、少なくともルックスにおいては褒められる部分がないヘパイストスを毛嫌いし、その身体に指一本触れさせようとはしなかったようです。


『ヴィーナスとクピードー』1520年代末 PD



あ、あーちゃん、今日も仕事行ってくるよ…



………



(アバババババ…)
その一方でアフロディーテは、夫とはまったく毛色の異なる、荒々しくて野性的な戦いの神アレスと不倫の関係をもつようになりました。
彼は、血と暴力を好む野蛮で残忍な神でしたが、見た目だけは男性美に溢れる眉目秀麗な美丈夫だったので、ビジュアルにうるさいアフロディーテのお眼鏡にもかなっていたのでしょう。
2人は複数回にわたって逢瀬を重ね、真面目なヘパイストスはひたすら放置され続けました。
あるとき、その様子を見るに見かねた太陽神ヘリオス(Ἥλιος)は、哀れな不貞の被害者に事の次第を伝えることにします。



実は、言いにくいんじゃが、かくかくしかじかでのぅ



な…
なんだって――!?



屋上へ行こうぜ……
ひっさしぶりに………
きれちまったよ…


『ウルカヌスに驚かされるマルストヴィーナス』1827年 PD
あまりの侮辱に憤慨したヘパイストスは、得意のモノづくりの技術をいかんなく発揮して、目に見えない魔法の鎖を作り上げました。
※「網」とも
彼は、それを妻と間男の不倫現場となるベッドに仕掛け、愚か者たちが罠にかかるよう、遠出すると嘘をついて身を隠します。
それからしばらくして―。
事情を知らないアフロディーテとアレスはいつも通り密会して、さっそくコトに及ぼうとベッドに腰掛けました。
その瞬間。



アバーーーーーーッ!!!



なんじゃこりゃぁぁぁぁぁ!!
ヘパイストスが仕掛けたトラップは見事に作動し、今まさに不貞行為におよぼうとしていた2人は、あられもない姿のままでがんじがらめに拘束されます。
その様子を確認したヘパイストスは、急いで寝室へと駆け付け、



修羅場よいこと~一度はおいで~♪
と、大声をあげて神々を呼び集めました。
オリュンポスの神々のほとんどがその場に集いますが、あまりにも恥ずかしい姿で動けなくなったアフロディーテとアレスの姿を見ても、彼らはどうにも笑うに笑えません。
なぜなら、結婚の女神にして神々の女王であるヘラが取り持った婚姻関係が、今まさに不倫によって崩壊しようとしているからです。



……



(いや~、気まず~)
しかし、お調子者の光明の神アポロン(ΑΠΟΛΛΩΝ)と伝令の神ヘルメス(Ἑρμῆς)が、



やぁヘルメス少年☆
君はこんな目に遭ったとしても、アフロディーテと
ワンチャンいきたいと思うかい☆



もしそうできるなら、もっとエグイ
羞恥プレイでもぜんぜんオッケーだね
と、中学生のような会話をすると、他の神々もたまらず吹きだして大笑いしたと言われています。


『ウルカヌスに驚かされるヴィーナスとマルス』1555年頃 PD
ヘパイストスの主題で人気があったのは、やはり妻アフロディーテの不貞の場面であったようです。
アフロディーテとアレスの不倫を太陽神ヘリオスの密告で知ったヘパイストスは、見えない網を現場に仕掛け、2人を見事に拘束しました。
ただし、ティントレットのこの作品では、夫が妻の浮気現場を押さえましたが、いち早くそれに気づいた間男はあわててテーブルの下に隠れています。
それまでの神話とは多少異なる、独自の解釈といえるでしょう。
画面右手前では、犬が隠れたアレスに吠えついてその居所を教え、左の窓の下では恋の使者キューピッド(愛の神エロス)が寝込んでいます。
画面右上の、ヘパイストスの後ろ姿が映っているのは鏡ではなく、アレスが所有するよく磨かれた盾なのだそうです。
その後、海神ポセイドン(ΠΟΣΕΙΔΩΝ)のとりなしで、なんとか怒りを収めたヘパイストスは2人を解放。
大恥をかいたアレスは故郷でもあるトラキアに、アフロディーテはキュプロス島へと逃亡しました。
正式な離婚が決定した後、ヘパイストスは母ヘラに、



母上、婚姻を司るあなたを仲人として妻に迎えたあの女は、
とんでもないアバズレビッチでございました



こんな尻軽女に用はありませんので、謹んでお返しいたします



……



………
と言って、とんでもない空気になっている2人を尻目に、颯爽とその場を去って行ったと伝えられています。


『ヘーパイストス、アレースとアプロディーテー』1540年 PD



婚姻の絆と貞節を司るヘラが取り持った結婚を解消するよ



絵にかいたような意趣返しだよな!
まさに外道
天上の職人と呼ばれたヘパイストス!
彼の偉大な仕事の数々とは!?
神話の物語のなかでは、神々に嘲笑されたり妻に浮気されたりと、なかなか酷い目に遭っている鍛冶の神ヘパイストス。
しかし、そんな彼が果たした「造り手」としての仕事はまさに一級品で、ヘパイストスが生み出したアイテムの数々は、神話のあらゆる場面に登場して重要な役割を果たしています。



ここでは、ヘパイストスの仕事を一覧で押さえてみよう!
ヘパイストスの作品一例
- オリュンポスの神々の「神殿」
- 自動で動いて食べ物をサーブする「足つき鍋」
- ヘラを拘束した「黄金の玉座」
- アフロディーテとアレスを拘束した「網」または「鎖」
- 世界に災いをもたらした「人類最初の女性パンドラ(Πανδώρα)」
- 調和の女神ハルモニア(Ἁρμονία)に贈った「呪いの首飾り」
- 英雄ヘラクレス(Ηρακλής)の「胸当て」
- 英雄アキレウス(Ἀχιλλεύς)の「鎧兜」
- 太陽神ヘリオスの「翼の付いた馬車」
- 海の女神テティスに贈った「熱帯魚」ほか装飾品
- 光明の神アポロンと狩猟の女神アルテミス(ΑΡΤΕΜΙΣ)が使う「矢」
- コリントスの王シシュポス(Σίσυφος)にかけようとした「手錠」
- デルフォイの「歌う自動人形」
- クレタ島を守護する「青銅の巨人タロス(Τάλως)」
ほか、めちゃくちゃ多数


シチリア島のエトナ火山に工房を構え、単眼巨人キュクロプス(Κύκλωψ)の協力も得たヘパイストスは、精巧で優美な品々、宮殿や馬車、頑丈で美しい鎧や兜、盾などあらゆる物を創り出しました。


『ウルカヌスの鍛冶場』1630年 PD
古代ギリシャにおける鍛冶屋の地位は低く、ヘパイストスをオリュンポス12神に数えないアルカディアのような地方があった一方で、職人が高い地位を誇ったアテナイにおいては、彼は非常に篤く崇敬されたと言われています。
広場の近くのヘパイストス神殿には、神のご利益にあずかろうとたくさんの職人や鍛冶屋の仕事場が集い、火の神でもある彼を祝うための祭儀では、今のオリンピックと同じような「聖火リレー」も行われていたのだそうです。


『ヘファイストス神殿前のアテネの祭り』1805年 PD
ギリシャ神話をモチーフにした作品



参考までに、「ギリシャ神話」と関連する
エンタメ作品をいくつかご紹介するよ!
おわりに
今回は、ギリシャ神話に登場する鍛冶の神ヘパイストスについて解説しました。



仕事人の神ってのは、なんだかんだで崇敬を集めるものよね



ギリシャ神話のなかでは、
特にしっかりと報われて欲しい神さまだよね!
パパトトブログ-ギリシャ神話篇-では、雄大なエーゲ海が生み出した魅力的な神々や彼らの物語をご紹介していきます。
神さま個別のプロフィール紹介や神話の名場面をストーリー調で解説など、難しい言葉はできるだけ使わずに、あらゆる角度から楽しんでもらえるように持って行こうと考えています。
これからも「ギリシャ神話」の魅力をどんどんご紹介してきますので、良ければまた読んでもらえると嬉しいです!



また来てね!
しーゆーあげん!
参考文献
- ヘシオドス(著), 廣川 洋一(翻訳)『神統記』岩波書店 1984年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『イリアス 上』岩波書店 1992年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『イリアス 下』岩波書店 1992年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『オデュッセイア 上』岩波書店 1994年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『オデュッセイア 下』岩波書店 1994年
- アポロドーロス(著), 高津 春繁(翻訳)『ギリシア神話』岩波書店 1978年
- T. ブルフィンチ(著), 野上 彌生子(翻訳)『ギリシア・ローマ神話』岩波書店 1978年
- 吉田 敦彦『一冊でまるごとわかるギリシア神話』大和書房 2013年
- 阿刀田高『ギリシア神話を知っていますか』新潮社 1984年
- 大林 太良ほか『世界神話事典 世界の神々の誕生』角川ソフィア文庫 2012年
- 中村圭志『図解 世界5大神話入門』ディスカヴァー・トゥエンティワン 2020年
- 歴史雑学探究倶楽部『世界の神話がわかる本』学研プラス 2010年
- 沢辺 有司『図解 いちばんやさしい世界神話の本』彩図社 2021年
- かみゆ歴史編集部『マンガ 面白いほどよくわかる! ギリシャ神話』西東社 2019年
- 鈴木悠介『眠れなくなるほど面白い 図解 世界の神々』日本文芸社 2021年
- 松村 一男監修『もう一度学びたいギリシア神話』西東社 2007年
- 沖田瑞穂『すごい神話―現代人のための神話学53講―』新潮社 2022年
- 杉全美帆子『イラストで読む ギリシア神話の神々』河出書房新社 2017年
- 中野京子『名画の謎 ギリシャ神話篇』文藝春秋 2015年
- 千足 伸行監修『すぐわかるギリシア・ローマ神話の絵画』東京美術 2006年
- 井出 洋一郎『ギリシア神話の名画はなぜこんなに面白いのか』中経出版 2010年
- 藤村 シシン『古代ギリシャのリアル』実業之日本社 2022年
- 中村圭志『教養として学んでおきたいギリシャ神話』マイナビ出版 2021年
- かみゆ歴史編集部『ゼロからわかるギリシャ神話』イースト・プレス 2017年
- THEOI GREEK MYTHOLOGY:https://www.theoi.com/
他…