
こんにちは!
忙しい人のための神話解説コーナーだよ!
この記事では、忙しいけど北欧神話についてサクっと理解したいという方向けに、『エッダ』をベースにした神話のメインストーリーをざっくりとご紹介していきます。
とりあえず主だった神々の名前と、ストーリーラインだけ押さえておきたいという方向けのシリーズとなります。
個々の神さまについての詳細は個別記事で解説していますので、良ければそちらもご覧ください。



とりあえず大まかな流れをつかむというコンセプトじゃ
補足情報は【Tips】として解説しとるが、
読み飛ばしても全然OKじゃぞ



関連記事のリンクを貼っているから、
気になった方はそちらもチェックしてね



ではさっそくいってみよう!



忙しい人はコチラから本編にすっ飛びじゃ
この記事は、以下のような方に向けて書いています。
- 北欧神話にちょっと興味がある人
- 北欧神話に登場する神さまのことをざっくり知りたい人
- とりあえず誰かにどや顔でうんちく話をしたい人
- 北欧神話のメインストーリーをざっくりと把握できます。
- あなたのエセ教養人レベルが1アップします。
まじで忙しい人のための結論
本気で忙しいあなたのために、今回ご紹介する物語のストーリーラインを、箇条書きでざっくりまとめておきます。



ぱっと見で把握してね



何ならここを読むだけでもOKじゃぞ
今回ご紹介する『雷神の槌と霜の巨人-前編-』のストーリー
- 霜の巨人の王スリュム(Þrymr)は妻欲しさに大槌ミョルニル(Mjölnir)を盗みだし、愛と美の女神フレイヤ(Freyja)との交換を要求する。
- ぶちギレで断るフレイヤ、光の神ヘイムダル(Heimdall)の提案により、神々は女装させた雷神トール(Þórr)を現地に送り込む。
- 怪しまれながらも狡知の巨人ロキ(Loki)のフォローでミョルニルを奪還、雷神はスリュムとその一族を全滅させた。
- 全知の小人アルヴィース(Alvíss)は雷神の娘スルーズ(Þrúðr)との婚約を発表、身柄の引き渡しを要求する。
- 納得がいかないトールは、アルヴィースを質問攻めにして時間を稼ぎ、朝日の光を浴びせて彼を討伐した。
- とある農村を訪れたトールは住人に料理を振る舞うも、食いしん坊なシャールヴィ(Þjálfi)の粗相で山羊が怪我をしてしまう。
- シャールヴィと妹のレスクヴァ(Röskva)はその償いに、従者として雷神の旅に同行することになった。
そもそも「北欧神話」って何?
「北欧神話」とは、北ヨーロッパのスカンジナヴィア半島を中心とした地域に居住した、北方ゲルマン人の間で語り継がれた物語です。
1年の半分が雪と氷に覆われる厳しい自然環境の中で生きた古代の人々は、誇り高く冷徹で、勇猛で死もいとわない荒々しい神々を数多く生み出しました。
彼らの死生観が反映された「北欧神話」の物語は、最終戦争・ラグナロクによって、神も人間もあらゆるものが滅亡してしまうという悲劇的なラストを迎えます。
現代の私たちが知る神話の内容は、2種類の『エッダ(Edda)』と複数の『サガ(Saga)』という文献が元になっています。
バッドエンドが確定している世界でなおも運命に抗い、欲しいものは暴力や策略を用いてでも手に入れる、人間臭くて欲望に忠実な神々が引き起こす様々な大事件が、あなたをすぐに夢中にさせることでしょう。


「北欧神話」の全体像は、以下で解説しているよ!


主な登場人物



この物語の登場人物(神)をざざ~っと挙げておくぞい
詩篇Ⅲ-Ⅱ:雷神の槌と霜の巨人-前編-
―前回までのあらすじ
昔、オーディンをはじめとする神々が、アース神族の世界アースガルズ(Ásgarðr)に暮らし始めて間もない頃のこと。
黄金の女神グルヴェイグ(Gullveig)が神々の国を訪れ、「セイズ呪術」を流行させました。
アース神族は悪徳を蔓延させたとしてグルヴェイグを3度処刑しますが、これがきっかけでヴァン神族との間に戦争が勃発します(ヴァン戦争)。
長きに渡る争いの後、アース神族とヴァン神族は和解し、人質として富と豊穣の神ニョルズ(Njǫrðr)、豊穣の神フレイ(Frey)、愛と美の女神フレイヤ(Freyja)がアースガルズにやって来ました。
その後、オーディンと義兄弟の契りを結んだ狡知の巨人ロキ(Loki)が、大槍グングニル(Gungnir)や大槌ミョルニル(Mjölnir)などの宝物を神々にもたらします。
その一方、「ロキの子どもたちが災いをもたらす」という予言を信じたオーディンが、大蛇ヨルムンガンド(Jörmungandr)と冥界の女王ヘル(Hel)を追放し、巨狼フェンリル(Fenrir)をアースガルズに拘留しました。
しばらく後、アースガルズの城壁を造るという鍛冶屋の仕事を妨害した神々は、成果物だけを没収し、その過程で駿馬スレイプニルが誕生します。
こうして堅牢な神々の国が完成し、北欧神話を彩る主要な神々が揃い踏みしました。
彼らはここから「最終戦争ラグナロク」に至るまで、それぞれがぞれぞれの思惑のままに、自由奔放に暴れまわることになるのです。



今回は、トールが霜の巨人を相手に
暴れまわった物語を紹介するわよ



基本的には巨人族の頭蓋骨を粉砕しまくった彼だけど、
なかなか手痛い敗北を喫したこともあるんだ!
お知らせ
ご紹介している「北欧神話」の物語は、『古エッダ』や『スノリのエッダ』を原典としますが、これらは必ずしも物語順には描かれていません。
もともとは、それぞれが口頭で語られた単独の「詩」なので、「出来事」や「神々のプロフィール」単位で配置されており、物語の時系列が明示されているわけではないのです。
そのため、文献や登場人物の状況、アイテムの所持状況から時系列を推定する必要があるのですが、これがなかなか難しい…



例えば以下のような感じじゃ
- ヴァン戦争でオーディンが投げたのがグングニルなら、それがもたらされた場面にヴァン神族のフレイがいるのは矛盾する
※普通の大槍だったとする説もある - ヴァン戦争のきっかけとなったグルヴェイグを貫いたのがグングニルなら、これまた順番が前後する
※この場合の「槍」は、集団での暴行の暗喩とする説もある
などなど…
どうにかまとめようとした筆者は発狂しかけたので、このシリーズでは、
- できるだけスムーズに理解しやすい
- 可能な限り矛盾が生じない、納得しやすそうな
流れで物語をご紹介しています。



序盤と終盤のメインストーリーは固まってるけど、
それ以外は自由度が高いオープンワールドゲーみたいなもんかな



だから難しいツッコミはしないでね☆
盗まれた大槌ミョルニル!犯人は霜の巨人の王だった!?
ある朝、目を覚ました雷神トール(Þórr)は、自慢の武器である大槌ミョルニル(Mjölnir)がなくなっていることに気が付きました。
それは、投げれば百発百中を誇る対巨人用決戦兵器であり、アース神族が有するあらゆる宝物の中でも最強とされた武器。
それが見当たらないとあっては、「なくしちゃいました」では済まされない一大事です。


焦りと怒りにふるえるトールは、悪戯の巨人ロキ(Loki)を呼び出してこう言いました。



ロキ、これはまだ誰も知らん話じゃが、
わしのミョルニルが盗まれたんじゃ!!



な…なんだって―――!!



何でいっつもわしに言ぅてくんの…?
ロキもことの重大さを即座に理解し、2人は愛と美の女神フレイヤ(Freyja)のもとを訪ねて、「鷹の羽衣」を貸してもらえるよう頼みます。
この事件には巨人族が関わっていると考えたロキが、巨人の国ヨトゥンヘイムにひとっ飛びで到達するために、身にまとうことで鷹に変身することができる魔法アイテムを必要としたのです。
事情を聞いたフレイヤも、快く羽衣を差し出しました。
一路、ヨトゥンヘイムへと急ぐロキ。
彼が上空から眼下を望むと、犬たちに金の首輪を編んでやったり、馬のたてがみを切り揃えたりしている、とある巨人の男が見えました。
それが霜の巨人の王スリュム(Þrymr)、ヨトゥンヘイムの一地方を治める首領の1人です。


『霜の巨人の王』1871年 PD



アースガルズで何ぞあったんけぇ~?



な~して1人でこんなとこまで来た~?
ロキを見つけると、何も聞いていないのに勝手にしゃべりはじめる巨人の王スリュム。
鋭い勘をもつ狡知の巨人は、こいつが怪しいとにらんでこう尋ねます。



おまえ、フロールリジ*の大槌を隠しただろう?
※トールの別名
すると、いきなり疑いをかけられたスリュムは、驚くでも悪びれるでもなくこう答えました。



ミョルニルは地下30,000mのところに隠したったわぃ



わし、フレイヤを嫁に欲しくてのぅ
槌はあの麗しの君と交換じゃの
なんとスリュムは、美しい女神フレイヤを妻に迎えたいがために、トールの大槌ミョルニルを盗み出し、取引の交換材料にしようとしたのです。
ヨトゥンヘイムの一部を所領とし、莫大な財産と数多くの部下に囲まれた巨人の王は、唯一「妻を娶ったことがない」ことに不満を感じていました。
そこで彼は一計を案じ、フレイヤを要求するという高望みをかましたうえに、よりにもよって「関わらない方が良い人たちワースト1位」に数千年連続で輝くアース神族に、わざわざちょっかいを出したというわけです。



オイオイオイ



死ぬわアイツ


その場ではどうにも対処のしようがないロキは、スリュムの言葉を預かって一度アースガルズへと戻りました。
事の子細を聞いたトールは、ロキを伴ってフレイヤのもとへ行き、「どうか巨人の妻になってください」と頼みます。



ふざけ散らかせゃこの髭面ぁぁぁ!!
あたしゃゲームの景品かなんかかぁぁ!!!
烈火のごとく怒るフレイヤのあまりの剣幕にアーズガルズ中の館が震えたので、アース神最強ともされる雷神も、すごすごと引き下がるほかありませんでした。


とはいえ、ミョルニルの喪失は、すべてのアース神にとって憂慮すべき緊急事態です。
神々はどうやって大槌を取り戻すか互いに相談しますが、なかなか良い案が浮かびませんでした。
そんな時、光の神ヘイムダル(Heimdall)がこんなことを言い出します。



トールに花嫁衣裳を着せて、フレイヤとして
スリュムのところに連れて行こうぜ



中に入りさえすれば、あとはいつもの大暴れだろ?




「ああ、なんて素敵なメイドなんだろう!」
1902年 PD
トールは当然この奇策を拒否しますが、他の神々にとってそれはなかなかの妙案でした。
ロキはごねる雷神をどうにかして宥め、なかば強引に、彼に花嫁衣裳を身に着けさせます。
フレイヤから借りた魔法の首飾りブリーシンガメン(Brísingamen)で飾り立てたトールの侍女役には、当然のようにロキが配置されました。



わしが付いとらんと、このおっさん何しでかすか分からん…
こうしてトールとロキの2人は、あらためて巨人の国ヨトゥンヘイムに向けて出発します。
二頭の山羊が牽く車が走り出すと、山々は砕け、大地は炎をあげて燃え上がりました。
その音を聞いた巨人の王スリュムは浮足立ってこう叫びます。



さぁ巨人ども、椅子を綺麗に飾り立てよ!!



ついにわしのもとに、美しいフレイヤが嫁いでくるぞ!!



あらゆる財産があるこの城に、
唯一欠けていたものがやっと揃うのじゃ!!
ウキウキで2人を出迎えたスリュムは、盛大な酒宴を用意して彼らをもてなしました。
ところが、空気も読めなければ遠慮も知らない花嫁姿のトールは、たった1人で牡牛をまるごと1頭に鮭を8尾、各種珍味をすべて平らげたうえ、3樽の蜜酒を一気に飲み干してしまいます。



あ~…
でも確かに、細身なのに大食いの女の子いるもんね~…
若干引きつったスリュムの表情を見たロキは、とっさにこう言って助け舟を出しました。



フレイヤ様はあなたにお会いする日を待ち焦がれるあまり、
8夜もの間なにも召し上がらなかったのです





えっ、そうなん?
超かわいいじゃ~ん
逆にテンションが上がったスリュムは、さっそく花嫁に口づけをしようと身をかがめて顔を覗き込みますが、彼はその瞬間、広間の隅まで飛びのきます。



なんっちゅう恐ろしい目じゃ、
まるで火を吹いとるようじゃないか…
この方法にまだ納得がいっていないトールは、すでにイライラが爆発寸前の域にまで達していたのです。
ロキは場を収めるために、あらためてフォローに入ります。



フレイヤ様はあなたにお会いする日を待ち焦がれるあまり、
8夜ものあいだ一睡もされていないのです
そこにスリュムの姉が割り込んできて、「可愛がって欲しければあんたの赤い腕輪を寄越しなさい」と、花嫁からの贈り物をねだり始めました。
すると巨人の王スリュムは、



そういう話の前に、
まずは例の大槌ミョルニルを持ってきなさい



あれで花嫁とわしを祝福して清めてもらうのじゃ
ミョルニルが地下30,000mから運び出されると、それは花嫁姿のトールの膝に置かれます。



勝機!!
怒りが頂点に達した雷神は、手に馴染んだ大槌を久方ぶりに握ると、最初の一撃でスリュムの頭をたたき割りました。
続けざま、トールは周りの巨人たちにも文字通りの鉄槌を下しまくり、スリュムの姉も含めたすべての同席者を滅ぼしてしまいます。


-スリュムを攻撃するトール 1906年 PD
こうしてついに、アース神族の神々は、大事な宝物であるミョルニルを再び取り戻すことが出来たのでした。
めでたし、めでたし。



王さまの一存で一国が滅ぶ羽目になるなんて…
家臣の巨人たちはなかなか気の毒ね
えっ、愛娘が小人族の妻に!?納得いかない雷神は珍しく頭を使って勝利を勝ち取る!
ある日、アース神族最強とも謳われる剛力の雷神トールのもとを、見知らぬ小人族(ドヴェルグ)の男が訪ねて来ました。
彼の名は全知の小人アルヴィース(Alvíss)。
話を聞いてみると、アルヴィースと雷神の娘スルーズ(Þrúðr)の縁談が、トールが不在の間に決まっていたとのこと。
どうやらその小人は、約束通りに彼女を迎えに来たつもりのようです。




-アルヴィースとスルーズ 1895年 PD



は?
何言うてんの自分?
父親である自分が知らぬうちに娘の縁談が決まっているなど、我の強いトールが快く受け入れるはずもありません。
彼は、どうにかしてその約束をなかったことにしてやろうと考えを巡らせ、アルヴィースにこう提案しました。



おぬしはその名の通り、
世界のあらゆる事を知っとるんじゃったのぅ



では、わしがこれから出す質問にすべて答えられたら、
おぬしと娘の恋路は邪魔すまい



ええよ
こうしてトールとアルヴィースの、スルーズの嫁入りを賭けた問答が始まります。
彼らのやり取りでは、トールがお題として何かしらの「単語」を出題し、アルヴィースが種族(神々や巨人など)や国ごとの「呼称」を回答するという形で進められました。



要するに、色々な「言い換え」を聞くことで
アルヴィースの知性を試したんだね!



実際は、回答の順番がお題ごとに決まっとるが、
今回そこら辺は割愛しとるぞぃ


-トールの問いに答えるアルヴィース 1908年 PD



んならばさっそく第1問



人の子らの前に広がるこの「大地」は、
それぞれの国でどう呼ばれとるのじゃ?



ざっと以下のようなもんですわ
お題:「大地」(iorð)
種族・国 | 呼称 |
---|---|
人間族 | イェルズ(iorð) ※「大地」の意 |
アース神族 | フォルド(fold) ※「原」の意 |
ヴァン神族 | ヴェグ(vega) ※「道」の意 |
巨人族 | イーグレーン(ígron) ※「緑なるもの」の意 |
妖精族(アールヴ) | グローアンディ(gróandi) ※「緑なすもの」の意 |
天の神々(upregin) | アウル(aur) ※「砂地」の意 |





ほーん、そうなんか
では、「天」はなんと呼ばれるんじゃ?



ヨユーヨユー
お題:「天」(himinn)
種族・国 | 呼称 |
---|---|
人間族 | ヒミン(himinn) ※「天」の意 |
ヴァン神族 | ヴィンドオヴニル(vindofni) ※「風を織るもの」の意 |
巨人族 | ウップヘイム(uppheim) ※「上の国」の意 |
妖精族(アールヴ) | ファグラレーヴ(fagraræfr) ※「美しい屋根」の意 |
神々(goðom) | フリュールニル(hlýmir) ※「星のまきちらされたるもの」の意 |
小人族(ドヴェルグ) | ドリュープ サル(driúpan sal) ※「水の滴る館」の意 |



「天の神々」とか「神々」って何なの?
アース神族やヴァン神族とは別なのかしら?
「天の神々(upregin)」や「神々(goðom)」といった語は特定の神族を指すものではなく、神々の「意志」やその「影響力」など、より広く抽象的な概念を表すとも言われています。
このほかにも、人間族とは別に「人々(halir)」という言葉も出てきてよく分からないので、とりあえず細かいことは気にせずにざっくりと話を押さえましょう。



とりあえず、「より広い意味をもつ呼び方」
と思っておけばよいじゃろ


トールとアルヴィースの問答は、まだまだ続きます。



ほんなら、「月」はどうじゃ?



こんなもんですわな
お題:「月」(máni)
種族・国 | 呼称 |
---|---|
人間族 | マーニ(máni) ※「月」の意 |
巨人族 | スキュンディ(scyndi) ※「韋駄天」の意 |
妖精族(アールヴ) | アールタラ(ártala) ※「時測り」の意 |
神々(goðom) | ミュリン(mýlnir) ※「欠けるもの」の意 |
小人族(ドヴェルグ) | スキン(sein) ※「光」の意 |
冥府(ニブルヘル) | フヴェルファンダ フヴェール(hverfanda hvél) ※「回転する輪」の意 |



じゃあ「太陽」は?



ちょちょいのちょい
お題:「太陽」(sól)
種族・国 | 呼称 |
---|---|
人間族 | ソール(sól) ※「太陽」の意 |
巨人族 | エイグロー(eygló) ※「永遠に輝くもの」の意 |
妖精族(アールヴ) | ファグラヴェール(fagrahvél) ※「輝く輪」の意 |
神々(goðom) | スンナ(sunna) ※「南の輝き」の意 |
小人族(ドヴェルグ) | ドゥヴァリンス レイカ(Dvalins leica) ※「小人をしいたげるもの」の意 |
アース神の子ら | アルスキール(alscír) ※「全く明るいもの」の意 |



確かに、小人族は太陽が天敵だものね







そんなら「雲」はどう呼ばれるんじゃ?



ご覧のとおりよ
お題:「雲」(scý)
種族・国 | 呼称 |
---|---|
人間族 | スキュー(scý) ※「雲」の意 |
ヴァン神族 | ヴィンドフロト(vindflot) ※「風に漂うもの」の意 |
巨人族 | ウールヴァーン(úrván) ※「霧雨のぞみ」の意 |
妖精族(アールヴ) | ヴェズルメギン(veðrmegin) ※「天候の力」の意 |
神々(goðom) | スクールヴァーン(scúrván) ※「驟雨のぞみ」の意 |
冥府(ニブルヘル) | ヒャールム フリス(hiálm huliz) ※「隠し兜」の意 |



さすがにやるのう
なら「風」はどうじゃ



もう答え方のバリエーションがない
お題:「風」(vindr)
種族・国 | 呼称 |
---|---|
人間族 | ヴィンド(vindr) ※「風」の意 |
巨人族 | エーピル(opi) ※「叫ぶもの」の意 |
妖精族(アールヴ) | デュンファリ(dynfara) ※「騒然と駆けゆくもの」の意 |
神々(goðom) | ヴァーヴズ(váfuðr) ※「揺れるもの」の意 |
冥府(ニブルヘル) | フヴィーズズ(hviðuð) ※「疾風」の意 |
より高い神々(ginregin) | グネギューズ(gneggiuð) ※「いななくもの」の意 |



次は~「凪」!!



ほいさ
お題:「凪」(logn)
種族・国 | 呼称 |
---|---|
人間族 | ログン(logn) ※「凪」の意 |
ヴァン神族 | ヴィンドスロート(vindslot) ※「無風」の意 |
巨人族 | オヴフリュー(ofhlý) ※「鬱陶しい空気」の意 |
妖精族(アールヴ) | ダグセヴィ(dagsefa) ※「日をやわらげるもの」の意 |
神々(goðom) | レーギ(lægi) ※「鎮まり」の意 |
小人族(ドヴェルグ) | ダグス ヴェラ(dags vero) ※「日のとどまり」の意 |





え?次?
なら「海」で



ちょっともう飽きてきてる?
お題:「海」(marr)
種族・国 | 呼称 |
---|---|
人間族 | セー(sær) ※「海」の意 |
ヴァン神族 | ヴァーグ(vág) ※「波立つ潮」の意 |
巨人族 | アールヘイム(álheim) ※「鰻の故郷」の意 |
妖精族(アールヴ) | ラーガスタヴ(dagsefa) ※おそらく「飲み代」の意 |
神々(goðom) | シーレーギャ(sílægia) ※「あまねくみなぎる潮」の意 |
小人族(ドヴェルグ) | デュープルマル(diúpan mar) ※「深海」の意 |



う~ん、じゃあ「火」でいいや



せめてもう少し興味もって?
お題:「火」(eldr)
種族・国 | 呼称 |
---|---|
人間族 | エルド(eldr) ※「火」の意 |
アース神族 | フニ(funi) ※「焔」の意 |
ヴァン神族 | ヴァグ(vag) ※「ゆらめくもの」の意 |
巨人族 | フレキ(frecan) ※「貪欲なるもの」の意 |
小人族(ドヴェルグ) | フォルブランニル(forbrenni) ※「燃えるもの」の意 |
冥府(ニブルヘル) | フレズズ(hrǫðuð) ※「はやきもの」の意 |







じゃあもうちょい頑張ろか
次は「森」の呼び方を教えてくれぃ



以下の通りさ
お題:「森」(viðr)
種族・国 | 呼称 |
---|---|
人間族 | ヴィズ(viðr) ※「森」の意 |
ヴァン神族 | ヴェンド(vǫnd) ※「藪」の意 |
巨人族 | エルディ(eldi) ※「火の糧」の意 |
妖精族(アールヴ) | ファグルリミ(fagrlima) ※「美しい枝」の意 |
神々(goðom) | ヴァラル ファクス(vallar fax) ※「原野の鬣」の意 |
人々(halir) | フリーズサング(hlíðþang) ※「山腹の海藻」の意 |



そうじゃのう~
なら「夜」はどうじゃ!



ほほいのほい
お題:「夜」(nótt)
種族・国 | 呼称 |
---|---|
人間族 | ノート(nótt) ※「夜」の意 |
巨人族 | オーリョース(óliós) ※「無光」の意 |
妖精族(アールヴ) | スヴェヴンガマン(svefngaman) ※「眠りの喜び」の意 |
神々(goðom) | ニョール(niól) ※「暗闇」の意 |
小人族(ドヴェルグ) | ドラウムニョル(draumniorun) ※「夢の織手」の意 |
より高い神々(ginregin) | グリーマ(grímo) ※「隠すもの」の意 |







では「種」はなんと呼ぶんじゃ?



こんな呼び方がありまっせ
お題:「種」(sáð)
種族・国 | 呼称 |
---|---|
人間族 | ビュグ(bygg) ※「大麦」の意 |
ヴァン神族 | ヴェクスト(vaxt) ※「生長」の意 |
巨人族 | エーティ(æti) ※「食物」の意 |
妖精族(アールヴ) | ラガスタヴ(lagastaf) ※「穀物」の意 |
神々(goðom) | バル(barr) ※「穀物(ことに大麦)」の意 |
冥府(ニブルヘル) | フニピン(hnipinn) ※「しなやかなもの」の意 |



おぉ~すごいのぅ
では「麦酒」はどうじゃろ



こんなもんですわ
お題:「麦酒」(ǫl)
種族・国 | 呼称 |
---|---|
人間族 | エール(ǫl) ※「麦酒」の意 |
アース神族 | ビョール(biórr) ※「ビール」の意 |
ヴァン神族 | ヴェイグ(veig) ※「酔わす飲物」の意 |
巨人族 | フレイナレグ(hreinalǫg) ※「生の飲み物」の意 |
冥府(ニブルヘル) | ミョズ(mioð) ※「蜜酒」の意 |
スットゥングの子ら ※霜の巨人の1人 | スンブル(sumbl) ※「酒宴」の意 |





おぉ~、太古の知識をこんなに詳しく聞いたのは初めてじゃ



おぬしは本物じゃのぅ
ここまで数多くの質問を投げかけたトールは、アルヴィースの博識ぶりを素直に褒め称えます。
しかし、この勝負が小人の勝ちとなると、彼は大事な娘を嫁に出さなくてはなりません。
それにしては余裕の表情のトール、彼は続けてアルヴィースにこう言いました。



わっはっは
さんざん喋らせて罠に嵌めてやったわぃ



ほれ、外を見てみろ
もう日が昇ってきておるぞ



は?
何を言うてますn(ピキピキピキ…
トールの言う通り、2人が問答を繰り広げた広間には、少しずつ太陽の光が差し込んでいました。
娘を奪われたくないがために頭を使った雷神は、アルヴィースに得意の知識自慢をさせて時間を稼ぎ、相手が苦手とする朝まで話を引っ張ろうと画策していたのです。
詩の本文はここで閉じられていますが、日光が弱点である小人族のアルヴィースは、光を浴びて石化し弾け飛んでしまったものと考えられています。


-石になったアルヴィース 1908年 PD
普段は暴力にものを言わせて巨人族をボコボコにしている雷神トールが、珍しく機転を利かせて知恵の勝利を獲得したエピソードでした。





計画的犯行じゃ
農村に宿泊した雷神、紆余曲折あって優秀な従者を得る!
ある日、雷神トールは狡知の巨人ロキ(Loki)を旅のお供に、2頭の山羊が牽く車に乗って巨人の国ヨトゥンヘイムを目指していました。
アース神族最強とも呼ばれたこの男には、自慢の怪力と大槌ミョルニル(Mjölnir)の威力を衰えさせないために、たびたび敵地に乗り込んでは巨人族をボコボコにして周るという、非常に高尚な趣味があったのです。
一晩じゅう荒野を進んだ2人は、やがて1軒の農家を見つけます。
しばらく休んでいないトールたちは、今晩はここに泊めてもらおうと勝手に決め、小さな家の戸を叩きました。


農家の夫婦は「偉い神さまをもてなすような食事はとても出せません」と、迷惑な訪問者を体よく断ろうとしましたが、基本的に空気が読めないトールは



食料は自分で持っとるから心配無用じゃぃ
と言い、かまわず他人様の家にあがりこみます。
我が物顔でふるまう雷神は車を牽いてきた2頭の山羊を〆ると、その皮を綺麗に剥ぎとり、肉は骨ごと鍋に入れてグツグツと煮込みました。
美味しそうな匂いを立てる料理が完成間近になると、トールは農家の夫婦と2人の子どもたちを呼び、夕食を共にしようと誘います。



ほれ、遠慮なく食べぃ!
肉はたんまりとあるぞ!



あ、でも骨は傷付けないこと
一本残らずこの皮の上に集めてね
一同はお腹いっぱいになるまで食事を楽しみ、その夜は満たされた心地で眠りにつきました。


翌朝、目を覚ましたトールは大槌ミョルニルを手に、昨晩の食事となった山羊の皮と骨の前に座ります。
この槌は武器として強力なだけでなく、対象に「清め」と「祝福」を与える力ももっていました。
雷神がミョルニルを振り上げると、山羊の骨と皮はみるみるうちに再生し、元の姿に戻って蘇生します。



骨と皮さえ無事なら、こやつらは何度でも復活するのじゃ…



あっ!!!!!
よく見ると、生き返った山羊のうち1頭が、何やら不自然に脚をひきずっています。
その原因は明らかで、昨晩の食事のときに、誰かが山羊の骨を傷付けたに違いありません。


-山羊の異変に気付くトール 1895年 PD



誰ぞわしの山羊を丁寧に扱わんかったなぁぁぁ!!



ヒェェェェェェ…
その犯人が従者シャールヴィ(Þjálfi)。
骨の中の髄が大好物だった農家の長男坊は、人目を盗んで山羊の骨をナイフで切り、その中身まで貪り食ってしまったのです。
ミョルニルを握りしめ、わなわなと怒りに震える雷神トールを前に、その圧だけで死んでしまいそうなほど怯え切っている人間の一家。
あまりにも無力なその姿を見た彼の怒りは次第に収まり、トールは交換条件として



おたくの若いの2人、わしの手伝いで働いてくれや
と言いました。
こうして、シャールヴィと妹のレスクヴァ(Röskva)の2人は、雷神トールの従者として旅立ち、神話のなかでも特に破天荒な数々の大冒険に付き合う羽目になったのです。
これまでは山羊が牽く車で旅をしたトールですが、これ以降、彼らは徒歩で冒険をすることが多くなったと伝えられています。


『古エッダ』より-トールと旅の一行 PD



妹さんは、完全なとばっちりだね!
自らの過失の償いのために、妹と共に雷神トールに仕えることになったシャールヴィ。



ただの人間が、よりによってあのトールの従者に…?



生きて帰ってこれるのかしら…
と心配になってしまいますが、意外にも彼は神話のいくつかの場面で、それなりの戦績を残しています。
「駿足」とも呼ばれる足の速さと、巨人を前にしても怯まぬ勇気をもち合わせたシャールヴィの活躍は、次回以降の物語でご紹介します。




北欧神話をモチーフにした作品



参考までに、「北欧神話」と関連するエンタメ作品をいくつかご紹介するよ!
おわりに
今回は、北欧神話の物語「雷神の槌と霜の巨人-前編-」について解説しました。



トールは基本的に、オーディン達とは別行動で黙々と
巨人たちを屠っているのよね



彼の物語は特にボリュームがあるよ!
パパトトブログ-北欧神話篇-では、北の大地で生まれた魅力的な神々や彼らの物語をご紹介していきます。
神さま個別のプロフィール紹介や神話の名場面をストーリー調で解説など、難しい言葉は出来るだけ使わずに、あらゆる角度から楽しんでもらえるように持って行こうと考えています。
これからも「北欧神話」の魅力をどんどんご紹介してきますので、良ければまた読んでもらえると嬉しいです!



また来てね!
しーゆーあげん!
参考文献
- 山室静 『北欧の神話』 ちくま学芸文庫 2017年
- 谷口幸男訳『エッダ-古代北欧歌謡集』新潮社 1973年
- P.コラム作 尾崎義訳 『北欧神話』 岩波少年文庫 1990年
- 杉原梨江子 『いちばんわかりやすい北欧神話』 じっぴコンパクト新書 2013年
- かみゆ歴史編集部 『ゼロからわかる北欧神話』 文庫ぎんが堂 2017年
- 松村一男他 『世界神話事典 世界の神々の誕生』 角川ソフィア文庫 2012年
- 沢辺有司 『図解 いちばんやさしい世界神話の本』 彩図社 2021年
- 中村圭志 『世界5大神話入門』 ディスカヴァー・トゥエンティワン 2020年
- 歴史雑学探求倶楽部編 『世界の神話がわかる本』 Gakken 2010年
- 沖田瑞穂 『すごい神話 現代人のための神話学53講』 新潮選書 2022年
- 池上良太 『図解 北欧神話』 新紀元社 2007年
- 日下晃編訳 『オーディンの箴言』 ヴァルハラ・パブリッシング 2023年
他…
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