こんにちは!
かんたんギリシャ神話入門の時間だよ!
今回は、ギリシャ神話でも特に有名な一大叙事詩…
『トロイア戦争』をあらすじで紹介するわよ
現代に残る物語は、10年にも及ぶ長い戦争の、
最後の約50日間の出来事を描いとるのじゃ
ではさっそくいってみよう!
なかなか複雑?戦争勃発までの“前日譚”!
「トロイア戦争」が始まるまでには、
結構な紆余曲折があったのよ
ぺレウスとテティスの結婚式と、ハブられたエリスの介入
「トロイア戦争」にまつわる長い長い物語は、プティアの王ぺレウス(Πηλεύς)と海の女神テティス(Θετις)の結婚から始まります。
神々の都合でくっつけられた2人の挙式は、ぺリオン山にあるケンタウロスの賢者ケイロン(Χειρων)の洞窟にて執り行われ、これは「女神」と「人間」が結ばれるという極めて異例の出来事であると同時に、すべてのオリュンポス神が参列する盛大な祝宴ともなりました。
神々は幸せ(?)な新郎新婦に、以下のような贈り物を用意したと伝えられています。
- ケイロンと戦いの女神アテナ(Αθηνη)、鍛冶の神ヘパイストス(Ἥφαιστος)の合作で鍛造された「トネリコの槍」。
※後に息子アキレウスの武器となる - 海神ポセイドン(ΠΟΣΕΙΔΩΝ)からは、不死の名馬クサントス(Ξανθος)とバリオス(Βαλιος)。
- 主神ゼウス(ΖΕΥΣ)からは「翼」。
※後に息子アキレウスの足首に装着される - 結婚の女神ヘラ(Ἥρα)と新婦の父・海の老人ネレウス(Νηρευς)、愛と美と性の女神アフロディーテ(ΑΦΡΟΔΙΤΗ)も何らかの物品を贈与したとされる。
(なんで結婚の祝いが武器なんだよ、センスねぇなぁ~…)


『ペレウスとテティスの結婚』
1590年-1622年 PD
披露宴では、芸術の女神ムーサイ(Μοῦσαι)と光明の神アポロン(ΑΠΟΛΛΩ)が音楽を奏で、神々と人間とが同じ宴席で酒を酌み交わすという、ギリシャ神話にはあり得ないような平和的な情景が広がりました。
そう、“あの出来事”が起こるまでは――。
神も人もおおいに飲んで歌い、宴もたけなわとなった頃、会場のど真ん中に、突如、ひとつの「黄金の林檎」が投げ込まれます。
すべての参加者が注目するなか、神々の一人が不審な果実を拾い上げると、その表面には以下のような文言が記載されていました。
――「最も美しい女神へ」


すると、次の瞬間――。
あ~らごめんあそばっせ
私への贈り物が、何かの手違いで
こんなところに届いたのね~
大勢の前で恥ずかしいったらありゃしないわ、もう!
おばさん、それ部屋番号間違ってまっせ
そいつは私への届け物ですわ
そこに名指しで宛名が書いてますやろ?
アテナだけに
「最も美しい女神へ」ってね!!!
ちょいちょいちょ~い
寝言は死んでから言ってもらえますかしら?
尊敬すべき超絶大~いベテランと戦いばかりで筋肉ガチガチの処女神では、「最も美しい」はさすがに荷が重いのではなくって?
というわけで、それは私宛ての贈り物ですわ


『ペレウスとテティスの結婚式 』
1637年 PD
これまでの平和で牧歌的な宴の風景から一転、女性同士による熾烈なマウント合戦のゴングが打ち鳴らされます。
美女ぞろいの神々のなかでも、特にその美貌に自信をもっていた結婚の女神ヘラ、戦いの女神アテナ、愛と美と性の女神アフロディーテの3神は、互いに一歩も譲ることなく、―主役の新郎新婦そっちのけで―この黄金の林檎の所有権を主張しました。
結局、このゴタゴタは解決を見ることなく、主神ゼウスのとりなしによって、後日あらためて白黒をはっきりさせるという約束のもとで幕引きとなります。
こうしてテティスとぺレウスの結婚披露宴も、なんかごちゃごちゃっとした感じでお開きにされてしまいました。
うん、あのね、今日の主役は私だったのね?
結婚式で花嫁より目立とうとする女おるぅ~?


『ペレウスとテティスの結婚式 』
1636年 PD
さて、騒動のきっかけとなったこの「黄金の林檎」、いったい誰が、どのような理由で結婚式の現場に投げ込んだのでしょうか。
その犯人は、争いと不和の女神エリス(Ἔρις)でした。
先ほど、テティスとぺレウスの式にはすべての神々が参列したと書きましたが、実は、象徴する内容が内容なだけに、彼女だけはその招待状を受け取っていなかったのです。
ぐぬぬ……
あの欺瞞に満ちたボンクラどもめ…
都合の良い時はこのわしをこき使うくせに…
こういう時はおらん者扱いかぇ……


ちょっとした腹いせのために持ち出されたこの林檎は、先述の通り、三女神のあいだにピリピリとした軋轢をもたらしました。
この出来事は後に、トロイアの王子パリス(Πάρις)を中心とした『パリスの審判』のきっかけとなり、さらには彼の手によるスパルタの王妃ヘレネ(Ἑλένη)の誘拐事件へと発展します。


『パリスの審判』
1636年 PD
このお話の詳細はコチラ!




大人げない三女神と『パリスの審判』
養父アゲラオス(Ἀγέλαος)のもとですくすくと育ち、イダ山の羊飼いとして公私ともに充実した生活を送っていた、トロイアの王子パリス(Πάρις)。
ある日、そんな彼のもとに、天高く聳えるオリュンポス山から、伝令の神ヘルメス(Ἑρμης)が舞い降りてきます。
彼は、突然の出来事に戸惑う青年に対して、
やぁ、探したよ
定命のイケメンボーイ
実は、うちのボスから直々に依頼があってね
ちょっとした仕事を手伝ってくれないか?
と言いました。


『メルクリウス』
1611年 PD


パリスが詳しい事情を尋ねてみたところ、概ね以下のような経緯があったことが判明します。
- プティアの王ぺレウス(Πηλεύς)と海の女神テティス(Θετις)の結婚式が盛大に執り行われ、ほぼすべてのオリュンポスの神々が参列した。
- 唯一、招待を受けなかったことに激怒した争いと不和の女神エリス(Ἔρις)が、報復として、「最も美しい者へ」と刻まれた「黄金の林檎」を宴の現場に投げ入れた。
- 結婚の女神ヘラ(Ἥρα)、戦いの女神アテナ(Αθηνη)、愛と美と性の女神アフロディーテ(ΑΦΡΟΔΙΤΗ)の3神が、この林檎の所有権をめぐって熾烈なマウント合戦を開始。
- 主神ゼウス(ΖΕΥΣ)は仲裁するのが面倒だったので、息子ヘルメスに命じて、その辺から適当な代役を連れてくることになった。←イマココ


『ペレウスとテティスの結婚式 』
1637年 PD
(禿げあがるほど知らんがなーー!!!☆)




とはいえ、全ギリシャを支配する最高神の命令とあっては、虫けらのような人間に過ぎないパリスに、拒否権などあるはずもありません。
彼は、ヘルメスに導かれるまま傲慢なる女神たちのミスコン会場へと足を運び、彼女らの一方的な言い分を聞かされることになります。
意地でも「最も美しい者」になりたい3女神は、それぞれがそれぞれらしい“報酬”をちらつかせて、パリスの“清き一票”を手にしようと試みました。


『パリスの審判』
1636年 PD
お前、分かってるよな…?
わしは主神の正妻、つまり神々の女王やねん
わしに任せとけば、お前にヨーロッパと
アジア全土の支配権を授けようぞ
「支配」ってさぁ、ちょっと抽象的なところあるじゃん?
もっと具体的な感じでいくべきよ
私に投票すれば、あらゆる戦において
勝利する「知恵」を、あなたに授けるわよ
「支配」だの「戦」だのと……
これだからガラの悪いご家庭は嫌なんですわ~
人生における最上の価値は「愛」
私を選べば、あなたには「世界一の美女」
を与えますわよ~♡
あっ、③番のアフロディーテさんでお願いしやっす☆
決断ハヤーーーーーーーーーーーッ‼‼‼‼‼‼


『パリスの審判』
1820年頃 PD
一秒たりとも迷うことなく「絶世の美女」を選んだパリスは、女神アフロディーテに「黄金の林檎」を与えます。
この決断は当然ながら、ヘラとアテナに、パリスおよびトロイアに対する敵意を抱かせました。
さらに、話はそれだけでは終わらず、この日の出来事は、後の「トロイア戦争」勃発の遠因ともなるのです。
世界一の美女、はやく会いたいな~☆
ワクワク☆
こいつ、たしかもう彼女いたわよね?
パリスとヘレネの“愛の逃避行”、そして戦争へ…
美神アフロディーテの加護を得たパリスは、以下のような紆余曲折を経て、再びトロイア王子としての地位を取り戻すことになりました。
※幼少期に「国を滅ぼす」という予言を受けて捨てられ、アゲラオスに育てられていた
- トロイア王妃ヘカベ(Ἑκάβη)が、死んだ息子(パリスのこと)の20回目の誕生日を記念して、追悼競技祭を開催する。
- 優勝者に贈られる賞品に、パリスが一番かわいがっていた「牛」が選ばれる。
- 大好きな牛を取り戻すため、パリス自身もその競技祭に参加する。
※自分を弔っているとも知らずに - なんやかんやで、全競技でパリスが優勝する。
- 王子の一人デイポボス(Δηΐφοβος)がブチギレてパリスを斬り捨てようとし、それを止めようとした王子ヘクトールと言い争いになる。
- 養父アゲラオスが仲裁に入り、幼いパリスがくるまれていた産着を見せることで、その正体を明らかにする。
- プリアモス王とヘカベは、かつて受けた不吉な予言のことなど綺麗に忘れて息子の生存を大喜び。
彼を再び王家に迎え入れ、どんなわがままでも聞いて死ぬほど甘やかすようになる。


『エル・ジュース・デ・パリ』
1904年 PD
えっ、俺って王子だったの?☆
マジで人生ってチョロいじゃぁ~ん☆
折しもこの時期、かつてアフロディーテが言っていた「世界一の美女」なる人物の正体が、どうやらスパルタの王妃ヘレネ(Ἑλένη)であるらしいことが判明。
女神の約束を果たしてもらおうと考えたパリスは、例によってわがままを言って父王を説き伏せ、工匠ペレクロス(Φέρεκλος)が建造した船に乗って、一路スパルタへと出航しました。
※恋人オイノーネに引き留められたが、それも振り切っている
パリスは、9日間にわたってスパルタ王メネラオス(Μενέλαος)の歓待を受け、10日目に、彼が所要でクレタ島へと旅立った隙を突いて、その妻であるヘレネを口説きにかかります。
やぁ、美しい君よ☆
僕たちが結ばれる運命ってことは、
愛の神アフロディーテによって定められているのさっ☆
さぁ、この手をとって、
共にトロイアの地に帰ろうではないかっ☆
イケメンだしいいよ!
娘もこっちに置いていくわ!


『トロイのヘレネー』
1898年 PD


話をつけた二人は、王宮に保管されている大部分の財宝を船に積み込み、静かな夜の波とともにこっそりと海に滑り出ました。
帰りの道中、パリスの行動に怒った女神ヘラが大暴風を送ったりもしましたが、「恋は盲目」を地で行く彼らはこうした妨害をも上手くかわしつつ、なんやかんやで無事にトロイアへと辿り着きます。
あのガキのチャラさは、本気で気に食わんわ……
――それから、しばらくして。
王妃ヘレネの誘拐を知ったスパルタ王メネラオスは、言うまでもなく、間男パリスの狼藉に大激怒。
彼は、かつて結ばれた「テュンダレオスの誓約*」を発動し、ギリシャ各地から屈強な戦士たちを招集しました。
※イタキ島の王オデュッセウス(Ὀδυσσεύς)の発案で、ヘレネが誰を夫に選ぼうとも、選ばれなかった者たちは必ずその夫婦を助けると誓っていた
かくして、ギリシャ諸国の強大な連合軍が結成され、彼らによるトロイア遠征が決定します。


『ヘレネーの誘拐』
18世紀半ば PD
さぁ、僕たちのバラ色の新婚生活が始まるねっ☆
……えっ?☆
このお話の詳細はコチラ!


あらすじで楽しむ『トロイア戦争』の物語
いよいよ、ここから本格的な
「トロイア戦争」が始まるのじゃ
トロイアの王子パリスによる、スパルタの王妃ヘレネの誘拐事件――。
※もしくは、駆け落ち。
この事実を知り、怒髪天を衝く勢いで激怒したスパルタ王メネラオスは、かつて結ばれた「テュンダレオスの誓約」*を発動し、ギリシャ各地から屈強な戦士たちを招集しました。
※イタキ島の王オデュッセウス(Ὀδυσσεύς)の発案で、ヘレネが誰を夫に選ぼうとも、選ばれなかった者たちは必ずその夫婦を助けると誓っていた
かくして、ギリシャ諸国の強大な連合軍が結成され、彼らによるトロイア遠征が決定します。
大軍勢を率いる総大将は、メネラオスの兄でもあるミュケナイの王アガメムノン(Ἀγαμέμνων)。


出典:ニューヨーク公共図書館 PD
その指揮下には、
- 英雄アキレウス(Ἀχιλλεύς)
- イタキ島の王オデュッセウス(Ὀδυσσεύς)
- サラミス島の王子大アイアス(Αἴας)
- ティリンスの領主ディオメデス(Διομήδης)
- クレタ島の王イドメネウス(Ἰδομενεύς)
といった、そうそうたる顔ぶれが揃いました。
こうして、王子パリスの軽挙妄動に端を発した軋轢は、取り返しのつかない事態を招き、ついに伝説に語られる「トロイア戦争」の火蓋が切られたのです。
この戦いは人間のみならず、オリュンポスの神々をも二分する神話上最大クラスの大騒動となりました。


『トロイアの木馬の行進』
1760年 PD
ちなみに、神々は以下のような感じで各陣営についたよ!
この戦争は、ゼウスの人口抑制政策の一環として
“意図的に”引き起こされたともいわれるぞぃ
| ギリシャ陣営側 | トロイア陣営側 |
|---|---|
| 雷霆の神ゼウス(ΖΕΥΣ) 両軍に加担。中立といえば中立。 | |
| 戦いの女神アテナ(Ἀθηνᾶ) | 狩猟の女神アルテミス(ΑΡΤΕΜΙΣ) |
| 結婚の女神ヘラ(Ἥρα) | 光明の神アポロン(ΑΠΟΛΛΩΝ) |
| 海神ポセイドン(ΠΟΣΕΙΔΩΝ) | 戦いの神アレス(ΑΡΗΣ) |
| 鍛冶の神ヘパイストス(Ἥφαιστος) | 愛と美と性の女神アフロディーテ(ΑΦΡΟΔΙΤΗ) |
| 伝令の神ヘルメス(Ἑρμης) | 母性の女神レト(Λητώ) |
| 海の女神テティス(Θετις) | – |
狡猾な智将の讒言と、それを真に受ける総大将
ギリシャ連合軍が本格的な遠征に乗り出す前、ミュケナイの陣営では、武将の一人であるパラメデス(Παλαμήδης)の「裏切り疑惑」が浮上していました。
実はこれ、完全な事実無根の濡れ衣で、イタキ島の王オデュッセウス(Ὀδυσσεύς)による狡猾な陰謀であったとされています。
というのも、この事件の少し前、トロイア出征を嫌がったオデュッセウスが、気が触れてしまったふりをして“徴兵逃れ”を画策――。
作戦が上手くいきかけた時、頭の切れるパラメデスがその様子を怪しみ、彼の幼い息子であるテレマコス(Τηλέμαχος)に害が及ぶよう仕向けました。
すると、オデュッセウスが咄嗟に我が子を守ったことで、彼の「発狂」が文字通りの「狂言」であったことが発覚します。


「オデュッセウスは狂気を偽る」
17世紀初頭 PD
その結果、オデュッセウスは愛する妻と生まれたばかりの息子に別れを告げて、遠く離れたトロイアへの従軍が決定。
これを恨みに思った彼が、以下の要領で憎きパラメデスを陥れた、というわけです。
※ちなみに、オデュッセウスが徴兵されるきっかけを作ったのは、他でもないオデュッセウス自身
- その辺の適当なフリュギア人を捕虜とし、トロイアの王プリアモス(Πρίαμος)からパラメデスに宛てた、「裏切り」を匂わせる手紙を書かせる。
- パラメデスのテントに、トロイア方面で流通している「金」を埋め、例の手紙を陣営の中にわざと落とす。
- 発見された手紙がアガメムノンの手に渡り、本人のテントからも「金」が見つかる。


これを真に受けた総大将アガメムノンは、激怒してパラメデスの身柄を拘束し、彼を石打ちの刑に処したと伝えられています。


あーあ、虚偽を見破る洞察力に優れた部下を、
みすみす死なせてしまったわけね
謀反を未然に防ぐ
これもわしの人徳があってこそ成し得たことじゃ
立往生する連合艦隊と、王女イピゲネイアの犠牲
ギリシャ軍がトロイアに向けて本格的な遠征を始めた際、アウリスの地へと赴いた連合艦隊は、びっくりするレベルの“無風状態”にさらされて立往生してしまいます。


従軍していた予言者カルカス(Κάλχας)は、この状況にまつわる神意を問い、以下のような託宣を授かりました。
あー狩猟の女神アルテミス(ΑΡΤΕΜΙΣ)はんが、アガメムノン殿の娘さんのうち、最も美しい者を生け贄に差し出せと言うてますねぇ~
あっ、アガメムノンさん、過去に女神さまの神聖な鹿を狩って、「アルテミスよりわしがスゴイ」的なこと言いましたやろ~
さらに、御父上のアトレウス殿が、女神さまに黄金の仔羊を捧げなかったとも仰ってますねぇ~
これらのことにアルテミスはんが怒ってはるから、
艦隊が前に進まんようですわ~


『女狩人アルテミス』
19世紀 PD
それを聞いた総責任者アガメムノンは、妻クリュタイムネストラに
うちからアキレウスに嫁を出すことになったから
と嘘をつき、夫婦の間に生まれた娘の一人、イピゲネイア(Ἰφιγένεια)を自身のもとに呼び寄せます。
彼は、何も知らずにやって来た実の娘を祭壇の上に寝かせると、躊躇うことなく短剣を振り下ろし、その命を女神への犠牲に捧げました。
聞いてなーーーーい!


『イピゲニアの犠牲』 PD
実は、この話には異説もあり、アルテミスが今まさに命を奪われようとしているイピゲネイアを、ダミーの鹿とすり替えて助け出し、彼女を自身に仕える巫女、あるいは不死の存在にしたという伝承も残されています。
あの脂ぎったおっさんはクソやけど…
本当に乙女を死なせるほど、私も冷酷じゃぁないわよ


いずれにせよ、これによって女神アルテミスの怒りは解消され、ようやくギリシャ連合軍は決戦の地トロイアに向けて船を進めることができました。
ふっふっふ…
このわしの迷いなき英断のおかげじゃな
今回のテーマである「トロイア戦争」について、ここでひとつ、意外と知られていない“とあるエピソード”を補足しておきます。
本格的な戦いが始まるより以前のお話よ
以下に時系列でまとめるよ!
- ギリシャ軍総大将アガメムノン、トロイアへの航路を知らないまま大艦隊を出撃させてミュシアの地*へと到着。
ここをトロイアと勘違いして、一方的に略奪を働きまくる。
※現在のトルコ、アナトリア半島の北西部 - 半神の英雄ヘラクレス(Ηρακλής)の息子であるミュシアの王テレポス(Τήλεφος)が応戦するも、アキレウスの槍により腿を負傷。
略奪を終えたギリシャ軍が海に出ると大嵐が発生し、互いにちりぢりとなって自国に帰還する。 - それから8年後、ギリシャ連合軍はようやく再集結を果たすも、肝心のトロイアへの航路が分からない。
- 神託を受けたミュシア王テレポスが現れ、「アキレウスが、かつて自分に負わせた傷を治すならば、トロイアへの道を教える。」と交渉した。
※「この傷は、それを与えた本人にしか癒せない」という神託だった - 取引成立。
アキレウスは槍の錆を拭い取ることでテレポスを癒し、ギリシャ連合軍は正確な航行ルートを知ることができた。 - 本編のトロイア上陸に続く――。


実は、パリスとヘレネの駆け落ちから遠征軍の編成に至るまでにも、実に2年の歳月を要しておるのじゃ
つまり、一般に知られる本格的な開戦の前に、
約10年もの期間があったことになるのよ
目的地を知らんまま全軍出撃なんて、
あのおっさんバッカじゃねぇの?
税金の無駄遣いにも程があるだろ
「トロイア戦争」初期の戦況と、英雄アキレウスの活躍
軍師オデュッセウスの策略にはめられ、故郷から遠く離れたトロイアへの出征が決まった、半神の英雄アキレウス(Ἀχιλλεύς)。


出典:Livius.org CC0 1.0
アキレウス従軍までの経緯はコチラ!


彼のもとには、別ルートで従軍が決定していた親友のパトロクロス(Πάτροκλος)と、ドロプス人の王ポイニクス(Φοῖνιξ)*が参じました。
※アキレウスの父ぺレウスに助けられた恩がある、英雄の教育者的な人物
アキレウスは、両親が結婚する際に神々から贈られた、
| 品物 | 概要 |
|---|---|
| トネリコの槍 | 養父ケイロンと戦いの女神アテナ(Αθηνη)、鍛冶の神ヘパイストス(Ἥφαιστος)の合作で鍛造された逸品 |
| 不死の名馬クサントス(Ξανθος)とバリオス(Βαλιος) | 海神ポセイドン(ΠΟΣΕΙΔΩΝ)からの贈り物 |
| 翼 | 主神ゼウス(ΖΕΥΣ)からの贈り物で、足首に装着するタイプ |
を母テティスより授かり、万全の準備を整えて出撃の日を待ちます。
この時点で弱冠15歳の少年であったアキレウスは、各船に50名の兵を満載した、ミュルミドン人の軍艦50隻を率いることになりました。
中学生くらいの男の子が、
2,500人もの戦士たちを従えたのじゃ
神の血を引く英雄ってのは、スケールが違うんだねぇ~


出典:Максим Улитин CC BY 3.0
この項では、「トロイア戦争」の初期における若きアキレウスの活躍を、ざっくりダイジェストにてご紹介します。
- テネドス島に寄港した際、母テティスが制止したにも関わらず現地の王テネス(Τέννης)の命を奪う。
この行為が光明の神アポロンの怒りを買い、彼の死の遠因となった。
※テネスをやればアポロンにやられる、という神託があった - トロイア到着時、母テティスが「最初に上陸する者が最初に死ぬで」と警告。
アキレウスの代わりにプロテシラオス(Πρωτεσίλαος)という兵士が犠牲となった。 - ミュルミドン人を率いてトロイアに上陸。
コロナイの王キュクノス(Κύκνος)の討伐にビビった敵が城壁内に逃げ込んだので、以後10年続く「包囲戦」の形ができあがる。 - トロイロス(Τρωΐλος)や王子リュカオン(Λυκάων)、王子メストル(Μήστωρ)といった人物たちを討伐または捕縛し、トロイア王プリアモス(Πρίαμος)とアイネイアス(Αἰνείας)が所有する牛の群れを略奪する。
- レスボス・フォカイア・コロポン・スミュルナ・キュメ・アイギアロス・テノス・アドラミュティオン・シデ・エンディオン・リナイオン・コロネ・テーバイ・ヒュポプラキアイ・リュルネッソス・アンタンドロスなど、100を超える町を攻略し、その途中でリュルネッソスの王妃ブリセイス(Βρισηΐς)を自身の捕虜とする(現地妻的なニュアンス)。


『アキレスとアガメムノン』
1801年 PD
10年目にしてようやく動き出す、「トロイア戦争」の物語
ミュケナイ王アガメムノン率いるギリシャ連合軍がトロイアに上陸して、9年もの月日が経った頃――。
両軍は一進一退の攻防を続けていましたが、双方とも決め手を欠いたため、戦況は膠着状態のまま、どちらにも傾かない小競り合いの日々が繰り返されました。


そんなある日、総大将アガメムノンが、アキレウスの捕虜であるリュルネッソスの王妃ブリセイスを、権力にものを言わせて奪い取るというハラスメント案件が発生します。
なんでも、これまで自身が囲っていたクリュセイス(Χρυσηΐς)という女性がアポロン神官の娘であったため、神の怒りを回避するために、やむなくその身柄を解放――。
すっかり手持ち無沙汰になった迷惑系絶倫爺ぃが、よりにもよって、主力級の部下から女性を強奪してしまったようです。




『アキレスの怒り』
1819年 PD
一軍のトップによる、パワハラというレベルを超えた超絶理不尽な要求――。
英雄アキレウスは、
あんなゴミカス上司の下で戦うなんてやってられるか!
ストライキじゃ、ストライキ!
と言って、トロイア軍との戦いを一切放棄し、一人陣所の奥に引きこもってしまいました。
当然ながら、主力を欠いたギリシャ軍は次第に劣勢となり、王子ヘクトール(Ἕκτωρ)率いるトロイア軍が日に日にその勢いを増していきます。


『アキレスの怒り』
1757年 PD
この時期、オデュッセウスやディオメデスといった数多くの英雄たち、さらには総大将アガメムノンまでもが負傷する事態となりました。
実は、アキレウスは母テティスを通じて、主神ゼウスに「一時的にトロイア側を優勢にする」よう泣いて頼んでいたんだよ!
味方が散々苦戦すれば、アキレウスの存在の“ありがたみ”
をより強く分からせることができる、というわけじゃな
意外と、寂しがり屋の構ってちゃんボーイだったのね…
やかましい!
裏腹な“戦士心”を侮るでないわっ!


『神々の父ゼウスとテティス』
1811年 PD
敗戦の色を濃くする同盟軍の状況に、密かに心を痛めていたのが、アキレウスの無二の親友でもある戦士パトロクロス(Πάτροκλος)です。
彼は、軍師オデュッセウスの依頼により、アキレウスの鎧一式を身につけてアキレウスとして戦場を駆け抜け、ギリシャ軍の士気を高揚させるという作戦を実行することにしました。
一連の話を承諾したアキレウスは、
えぇかぁ、兄弟
敵が退いたら見逃せ、殲滅が目的やない
間違っても、深追いだけはするんやないでぇ
と厳しく忠告したうえで、成果を挙げんと息巻く親友の背中を見送ります。
しかし、その数日後、アキレウスは自らの分身にも等しいパトロクロスの訃報を聞かされることになりました。


「アキレスがパトロクロスの腕に包帯を巻いている様子」
紀元前500年頃 PD
当初は首尾よく敵将を討ち取った彼でしたが、戦線深くに食い込み過ぎた際に、運悪くトロイアの総司令官ヘクトールと遭遇――。
一騎打ちを要求されて断るわけにもいかず、勇敢に戦ってその命を落としたのです。


報せを聞いたアキレウスは慟哭し、アガメムノンとの軋轢も忘れて戦線復帰を決意。
パトロクロスの仇を討たんと、仁王のごとき修羅と化し、再び槍をその手に取りました。
一方、その様子を見ていた母テティスは、焦った様子で息子を諫めにかかります。
なぜなら、アキレウスの死は、ヘクトール討伐の直後に訪れるという強い予感が働いていたからです。


『テティスとゼウス』
1750年 PD
彼女は、
ちょ、ちょい待っとれ
ちょっくら上(オリュンポス)に行って、
新しい武具をもらってくるけぇのぅ
と言うと、鍛冶の神ヘパイストス(Ἥφαιστος)が鍛えた最新の「盾」・「兜」・「脛当て」・「胸当て」を持ち帰り、これらを半ば強引にアキレウスに装備させました。
※ヘパイストスは赤ん坊の頃に母ヘラに棄てられ、テティスら海の女神に養育されたという恩があった。


『アキレウスに武具を与えるテティス』
1804年 PD
特に、この時もたらされた盾は、表面に海や陸、星辰や星の精霊プレイアデス(Πλειάδες)、雨の精霊ヒュアデス(Ὑαδες)や巨人の狩人オリオン(Ὠρῑ́ων)などの姿が刻まれた、見事な意匠の逸品であったようです。




-アキレスの盾のデザインの解釈
1820年頃 PD
こうして、母テティスの影響力でもって手に入れた、神造の武具一式に身を包んだ“重課金戦士”アキレウスは、燃え盛る怒りの炎とともに、再び戦場へと復帰します。
簡単に言うと、お母さんが
買ってきてくれた勝負服ってことよね
おい!やめとけぇ!
今日の俺は怒らせない方がいい……
最愛の親友を失った彼が狙うのは、その下手人であるトロイアの王子ヘクトールの“首”のみ――。
バーサーカーと化したアキレウスは、不死の名馬バリオスとクサントスを駆って戦場を走り抜け、スカマンドロス川で多数のトロイア兵を葬りつつ、敵陣の中枢へと突っ込んでいきました。
この時、河神スカマンドロス(Σκάμανδρος)の加護を得た戦士アステロパイオス(Ἀστεροπαῖος)がアキレウスの前に立ちはだかりましたが、彼の方には鍛冶神ヘパイストスが味方に付き、大いなる炎で河を干上がらせることで見事に勝利を掴んでいます。


『水、あるいはアキレスとスカマンドロスおよびシモエイスの戦い』
1819年 PD
その後、どうにか目的地へと辿り着いたアキレウスは、トロイアの城門前でヘクトールの名を叫び、正々堂々、一対一の決闘を要求しました。
…………
…………
彼らの戦いは無言のうちに始まり、ただひたすらに、槍と盾とがぶつかり合う激しい金属音が、砂煙のなかに響き渡ります。
多くの兵たちが固唾を呑んで状況を見守るなか、両雄の一進一退の攻防は果てしなく続き、やがて、アキレウスの槍がヘクトールの首を貫きました。
勝敗は決しましたが、パトロクロスを失ったアキレウスの怒りは収まらず、彼はヘクトールの亡骸を戦車に括り付け、12日間にもわたってトロイアの城門の外を走り回り、見せしめとして市中引き回しを敢行します。


「勝利したアキレウスがヘクトールの遺体をトロイの周りで引きずっている様子」
1892年 PD
いささかやり過ぎな感は否めませんが、アキレウスの悲嘆は、それほどまでに想像を絶するものだったのでしょう。
ところが、パトロクロスを追悼する葬送競技会が開催された直後、トロイア王子の父親である老王プリアモスが単身でギリシャ軍の陣所を訪れ、愛する息子ヘクトールの遺体を返還するようアキレウスに懇願――。
王自ら敵陣のど真ん中へ……
グスッ…あんたぁ、男やでぇ……
その覚悟に感銘を受けた英雄は、老いた父に、亡き息子を返すことに同意しました。
※主神ゼウス→虹の女神イーリス(Ἶρις)→母テティス経由で、身代金を受け取るよう命じられたとも




『アキレスにヘクトールの遺体を求めるプリアモス』
1876年 PD
最強の戦士アキレウス、トロイアの地に散る!
有能な将軍ヘクトールを失ったトロイアの勢いは次第に衰えを見せ、徐々にギリシャ連合軍が優勢となっていきます。
プリアモス王のもとには、アマゾンの女王ペンテシレイア(Πενθεσιλεια)や、エチオピアの王メムノン(Μέμνων)が援軍として駆けつけましたが、いずれも最強の戦士アキレウスによって早期の段階で滅ぼされました。
ペンテシレイアたそ…
めっちゃ可愛かったのにもったいない……
アキレウスは、彼女の亡骸を侮辱した下士官テルシテス(Θερσίτης)を、容赦なく処刑したりもしたんだよ!




紀元前520年頃 PD
その後も、多数のトロイア側同盟軍と交戦したアキレウス率いるミュルミドン人部隊は、敗走する敵兵を追跡してスカイアイ門の付近へと到達します。
そこには、すでに10年目を迎えた「トロイア戦争」勃発の元凶である、王子パリス(Πάρις)が潜んでいました。
ぐぬぬ…大事な兄であるヘクトールを
あんな風に扱いやがってぇ~…
ヘイ、君ならやれるよ☆
YOU、やっちゃいなよ☆
光明神アポロンの助力を得たパリスは、唯一まともに扱うことができた弓を力いっぱいに引き絞り、敵将アキレウスに向けて渾身の一矢を放ちます。


出典:Dr.K. CC BY-SA 3.0
それは、不死化の儀式を受けた半神の英雄に残された、唯一“定命の人間”のままであった「踵」の部分へと、吸い込まれるように突き刺さりました。
※ケイロンに移植された距骨が外れて大きな隙を晒したとも
アバーーーーーーーーーーーッ‼‼
こうして、数々の敵を当然のごとく屠ってきた神に選ばれし英雄も、来るべき時が来れば、薄情なまでにあっけなくその命を落とします。
ここで、致命的な弱点を指す
「アキレス腱(Achilles’ tendon)」という言葉ができたのじゃな
アキレウスの母テティスは、名指しで光明神アポロンを非難し、海の精霊ネレイデス(Νηρειδες)や芸術の女神ムーサイ(Μοῦσαι)といった神々が、彼の死を17日17夜にわたり哀悼しました。


『アポロンとテティス』
1701年 PD


その亡骸をめぐって激しい戦闘が行われた後、アキレウスはギリシャの英雄たちによって荼毘に付され、遺灰はヘパイストス製の黄金の壺に納められたといわれています。
また、彼の骨は親友パトロクロスのそれと混ぜ合わされ、「白い島(White Isle)」と呼ばれる地に埋葬されました。
一説によるとアキレウスは、死後の楽園エリュシオン(Ἠλύσιον)に住み、―なぜか―コルキスの王女メディア(Μήδεια)と同棲したとも伝えられています。
さて、偉大なる英雄を失った現世では、引き続きトロイアとギリシャ連合軍の戦争が行われ、女神テティスは息子を追悼する葬礼競技祭を催しました。


ついに戦争終結!決定打となった「トロイの木馬」作戦!
両陣営の一進一退の攻防が続き、戦争開始から10年の歳月が経とうとした頃、ギリシャ連合軍が今までにない大きな動きを見せます。
なんと彼らは、あからさまに不審なオーラを放つ「巨大な木馬」だけをトロイアの地に残し、全艦隊を水平線の向こう側へと引き上げさせてしまったのです。
あまりにも長期の戦いとなったため、さすがに補給が間に合わなくなったか――。
それとも、ギリシャ本土で戦争継続を断念させるような政変でも起きたか――。
いずれにせよトロイアの人々は、この状況を「ギリシャ軍の敗走」と受け取り、長きにわたった戦乱の終結を大いに喜びました。
とはいえ彼らには、この“よく分からない謎の建造物”をいかに処遇するか、という大きな問題が残されています。


出典:ニューヨーク公共図書館 PD
すると、浜辺の向こうから一人のみすぼらしい男が現れ、トロイア人の集団に向けてこう言いました。
わ、わしは名をシノン(Σίνων)と言いましてな…
もとはギリシャ軍に入っとったんじゃが、
お偉方に嫌われてクビになりましてのぅ…
あ、この木馬でっか?
これは女神アテナに捧げた、
ギリシャ流の簡易的な供儀ですじゃぁ…
それを聞いたトロイアの人々は、この「ギリシャ製木馬」の取り扱いをめぐって、喧々諤々とした大論争を開始します。


年代不明 PD
敵の捧げ物なんぞ不吉でしかないわ!
ぶっ壊して燃やしてしまわんかい!
しかし、女神アテナへの犠牲を粗末に扱うと、
恐ろしい神罰が下るのでは…?
壊すかどうかはさておき、
城内に入れるのは危険すぎるやろ~
ギリシャのモンとはいえ、
神々への供物が神聖であることに変わりはない!
そうだ!
この木馬は我らの戦利品として、
城内に引き入れるべきであろう!
それぞれがそれぞれの主張を展開し、議論は小一時間も続きましたが、結局は多数派の意見が通り、例の「木馬」を保存することが決定しました。
この局面に血相を変えて現れたのが、トロイアの司祭ラオコーン(Λαοκόων)です。


『Laocoonte』
1812年 PD
あんたら、正気でものを言っとんのけ~!?
こんなもんギリシャ側の策略に決まっとるやんけ!!
連中がどれだけ狡猾で策略に長けた人種か、
この10年で嫌というほどに見てきたはずやろがぃ!
Timeo Danaos et dona ferentes‼
―私はギリシャ人を恐れる、たとえ贈り物をもってきたとしても!
そんな彼の制止に加わったのが、予言の力をもつトロイアの王女カサンドラ(Κασσάνδρα)――。
彼女もまた、
この木馬の中には、敵の兵士が満載されているのよ!
城内に引き入れたら、我が国は火の海に包まれるわ!
断崖から落とすか、火をつけて始末しないと
マジで取り返しのつかない結果になるわよ!
と言って、必死にトロイアの人々を諫めようと試みました。
ところがこのカサンドラは、光明神アポロンの恩寵によって「予言」の力を授かる一方、彼の呪いによって「誰一人として彼女の言葉を信用しない」という宿命を背負った、悲劇のジレンマ系王女だったのです。


『カサンドラ』
1898年 PD
あたしがギリシャ兵の妻の声を
真似て呼びかけてみたけど…
な~んの反応もなかったわよ~?


戦争に勝利したと信じたいトロイア人たちは、祖国の王女の警告にも耳を貸すことなく、不審な木馬を城壁の中へと引き入れる準備を進めます。
このままでは、冗談抜きで本当に取り返しのつかないことになる――。
そう考えたラオコーンが、
おどれらぁぁぁ!
アポロン神に仕える高位の司祭として命じるぅぅぅ!!
と、職権濫用の誹りを受けることも覚悟のうえで口を開きかけた、まさにその時――。
ザバァ~


『ラオコーン「Speculum Romanae Magnificentiae」より』 16世紀
出典:メトロポリタン美術館 PD
背後の海から、二匹の巨大な海蛇が突如として現れ、ラオコーンの側に控えていた二人の息子たちに巻きついて、鋭い牙でその命を奪ってしまいます。
父ラオコーンは、子どもたちを助けようと懸命に格闘しましたが、結局は彼自身も、恐ろしい大蛇の餌食となってその命を落としました。
※息子二人が死亡して父が生存した説、父と息子の一人が死亡した説、ラオコーンがまず失明させられた説など、さまざまな展開がある。
アバー
謎の海蛇がアテナ神殿の方へ消えると、現場を目撃したトロイアの人々は、口々に
アテナ様を冒涜した神罰が下されたのじゃぁ~
と囁き始め、以前にも増して「木馬の破壊」に消極的になっていきます。
この出来事が決定打となり、すっかり怯えた人々は、粛々とこの建造物を―一部の壁を破壊してまで―城内に引き入れ、予定通り、戦勝を祝う宴の準備に取り掛かりました。


『トロイアの木馬の行進』
1760年 PD
ラオコーンがシバかれた理由には、
以下のような説が唱えられたよ!
- 木馬に槍を突き刺すなどして冒涜したため、女神アテナによって大蛇が派遣された。
※トロイア人もこう解釈した。 - 神に仕える祭司でありながら結婚して子をもうけたため、光明神アポロンに罰された。
※神像の前で妻と交わったという説も。 - 何らかの理由で海神ポセイドンの怒りを買ったため、見せしめとして親子ともども葬られた。
- アポロンがトロイア人への警告の「しるし」として蛇を送った。
いずれにせよ、「ギリシャを勝たせる」
っていう神々の都合で始末されちゃったのね
その後の展開は、皆さんもご存じの通り――。
夜もすっかり更け、宴もたけなわとなった頃、件の「木馬」の中から―カサンドラの予言通り―完全武装に身を固めた300人もの兵たちが現れ、巨大な城門を内から開くと同時に、血で血を洗う凄惨な略奪を開始します。
勝利に浮かれて酒に酔った現地の人々にはなす術もなく、隠れていたギリシャ連合軍の本隊が到着すると、かつて難攻不落を誇ったトロイアの街は瞬く間に炎に包まれました。


『トロイの炎』
1759年–1762年 PD
この見事な作戦を立案したのは、狡知に長けた軍師として名高い、イタキ島の王オデュッセウス(Ὀδυσσεύς)――。
彼は、
- 工匠エペイオス(Ἐπειός)と打ち合わせてイダ山の木を切り出し、両脇に開きのある空洞の「木馬」を造る。
- その中に50人、文献によっては300人の志願兵たちを詰め込み、残りの部隊には、撤退に見せかけて幕営を廃棄しテネドスの沖合に停泊するよう命じる。
※次の夜に戻ってくるよう指示済み - 木馬の表面に「故郷への帰還の感謝のしるしとして――ギリシャの女神アテナにこれを捧ぐ」と刻み、兵士の一人シノンに命じて―実は彼も仕掛け人の一人―芝居をさせ、これが供物の一種であることをトロイア人に信じ込ませる。
- 「木馬」が城内に入ったら、トロイア兵たちが泥酔する夜を待ち、内側から城門を開けてギリシャ軍の本隊を誘致。
- あとは簡単、気の赴くままに略奪をかまして、長きにわたる戦争にチェックメイト。
という軍略を、たった一人で成功へと導いたのです。


この有名な「トロイの木馬」作戦が決定打となり、ついに城塞都市トロイアは陥落。
数々の英雄たちの運命を翻弄した「トロイア戦争」は、10年にも及ぶ長期の包囲戦の末に、トロイアの滅亡とギリシャ側の勝利をもって終結しました。


『トロイの炎上』
1604年頃 PD
あーあー、だから言わんこっちゃない!!
我が臣民ながら、最後の最後で頭が残念だったわね~…
このお話の詳細はコチラ!


総大将アガメムノン、凱旋の後に人生の総決算を行う!
トロイアの滅亡後、ギリシャ軍のあいだでは戦利品の分配が行われ、総大将アガメムノンは亡国の王女にして予言者でもあるカサンドラ(Κασσάνδρα)を捕虜に得ます。
(うっわ、最悪…)
(せめてオデュッセウスくらいなら、
まだ我慢できたのに…)


『カサンドラ』
1898年 PD
その後、すぐに故郷へと出発するか、もしくは戦いの女神アテナ(Αθηνη)に犠牲を捧げてから動くかで、アガメムノンとメネラオスの兄弟喧嘩が始まりますが、この時は珍しく敬虔な態度を見せた兄が、さしたるトラブルにも遭遇せず、無事にギリシャへと帰還。
※弟は嵐に遭ってエジプトに流れ着いている
アガメムノンは、数え切れないほどの戦利品を手に、絵に描いたようなどや顔で、堂々たる凱旋を果たします。
古代ギリシャ史に残る一大決戦を勝利へと導いた、―と、本人は本気で思っている―伝説的な連合軍総司令官。
その地位に鼻高々なアガメムノンでしたが、そんな彼を、いかにも彼らしい末路が待ち受けていました。
実は、故郷に置いてきた妻クリュタイムネストラ(Κλυταιμνήστρα)と、かつて自らが追放した従兄弟のアイギストスが、アガメムノンの留守中に不倫関係に発展し、帰ってこられても邪魔なだけのおっさんを排除してしまおうと共謀したのです。
※娘イピゲネイアの犠牲に対する復讐の側面もあった


『アガメムノンの殺人』
1817年 PD
二人は、アガメムノンに袖も首を通す穴もない衣服を手渡し、本人が
もぞもぞもぞ…
あら?どうなっとるんじゃコレ?
と言っている間に、彼の身体を滅多刺しにしてその命を奪いました。
※浴場で網をかけて犯行に及んだ、もしくは斧などで複数回叩きのめしたとも
この時、捕虜として連行されたトロイアの王女カサンドラも、陰謀の巻き添えとなって死亡しています。
はい、予言で知ってましたーこの展開
だーれも信じてくれなかったけどね!!




『アガメムノンの墓』 1787年頃
出典:メトロポリタン美術館 PD


この時クリュタイムネストラが不貞行為に走ったのは、かつてオデュッセウスの奸計によって無実の罪で処刑された、パラメデスの父ナウプリオス(Ναύπλιος)が暗躍したためであったともいわれています。
こうして、ミュケナイの王座にはアイギストスが再び返り咲き、やりたい放題のパワハラ上司としてあまり部下たちから慕われなかったアガメムノンは、その行いに概ね相応しい非業の死を遂げることとなりました。
この後、彼が遺した息子の一人オレステス(Ὀρέστης)が血の復讐行脚に出発し、「トロイア戦争」を中心にして生じたさまざまな歪みを清算していくことになりますが、それはまた別のお話――。
別のお話はコチラ!


ギリシャ神話をモチーフにした作品
参考までに、「ギリシャ神話」と関連する
エンタメ作品をいくつかご紹介するよ!
おわりに
今回は、ギリシャ神話の物語『トロイア戦争』を紹介しました。
あらすじで押さえる「トロイア戦争」
これにて完結だよ!
大長編を最後まで読んでくれてありがとう!
詳細な描写や前後の物語は個別記事でも紹介
しているから、良ければそちらにも目を通してみてね
ちなみに、この戦争を生き抜いた智将オデュッセウスは、
さらに10年もの歳月をかけて故郷に帰還しとるのじゃ
「トロイア戦争」に続く物語はコチラ!


パパトトブログ-ギリシャ神話篇-では、雄大なエーゲ海が生み出した魅力的な神々や彼らの物語をご紹介していきます。
神さま個別のプロフィール紹介や神話の名場面をストーリー調で解説など、難しい言葉はできるだけ使わずに、あらゆる角度から楽しんでもらえるように持って行こうと考えています。
これからも「ギリシャ神話」の魅力をどんどんご紹介してきますので、良ければまた読んでもらえると嬉しいです!
また来てね!
しーゆーあげん!
参考文献
- ヘシオドス(著), 廣川 洋一(翻訳)『神統記』岩波書店 1984年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『イリアス 上』岩波書店 1992年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『イリアス 下』岩波書店 1992年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『オデュッセイア 上』岩波書店 1994年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『オデュッセイア 下』岩波書店 1994年
- アポロドーロス(著), 高津 春繁(翻訳)『ギリシア神話』岩波書店 1978年
- T. ブルフィンチ(著), 野上 彌生子(翻訳)『ギリシア・ローマ神話』岩波書店 1978年
- 吉田 敦彦『一冊でまるごとわかるギリシア神話』大和書房 2013年
- 阿刀田高『ギリシア神話を知っていますか』新潮社 1984年
- 大林 太良ほか『世界神話事典 世界の神々の誕生』角川ソフィア文庫 2012年
- 中村圭志『図解 世界5大神話入門』ディスカヴァー・トゥエンティワン 2020年
- 歴史雑学探究倶楽部『世界の神話がわかる本』学研プラス 2010年
- 沢辺 有司『図解 いちばんやさしい世界神話の本』彩図社 2021年
- かみゆ歴史編集部『マンガ 面白いほどよくわかる! ギリシャ神話』西東社 2019年
- 鈴木悠介『眠れなくなるほど面白い 図解 世界の神々』日本文芸社 2021年
- 松村 一男監修『もう一度学びたいギリシア神話』西東社 2007年
- 沖田瑞穂『すごい神話―現代人のための神話学53講―』新潮社 2022年
- 杉全美帆子『イラストで読む ギリシア神話の神々』河出書房新社 2017年
- 中野京子『名画の謎 ギリシャ神話篇』文藝春秋 2015年
- 千足 伸行監修『すぐわかるギリシア・ローマ神話の絵画』東京美術 2006年
- 井出 洋一郎『ギリシア神話の名画はなぜこんなに面白いのか』中経出版 2010年
- 藤村 シシン『古代ギリシャのリアル』実業之日本社 2022年
- 中村圭志『教養として学んでおきたいギリシャ神話』マイナビ出版 2021年
- かみゆ歴史編集部『ゼロからわかるギリシャ神話』イースト・プレス 2017年
- THEOI GREEK MYTHOLOGY:https://www.theoi.com/
他…













