こんにちは!
今回はギリシャ神話より
アテナイの王テセウスを紹介するよ!
神話を代表する英雄の物語ね
彼はどんなキャラクターなの?
彼はアテナイ王アイゲウスまたは海神ポセイドンの息子とされる青年で、ミノタウロス退治の英雄として有名なんだ!
ドーリア人の英雄ヘラクレスに対抗する、
アッティカ地方独自のヒーローなのじゃな
ではさっそくいってみよう!
このシリーズでは、忙しいけど「ギリシャ神話」についてサクっと理解したいという方向けに、「かんたん・わかりやすい」がテーマの神々の解説記事を掲載していきます。
雄大なエーゲ海と石灰岩の大地が生み出した、欲望に忠実な神々による暴力的でありながらもどこかユーモラスな物語群が、あなたに新たなエンターテイメントとの出会いをお約束します。
人間味溢れる自由奔放な神々の色彩豊かで魅力的な物語に、ぜひあなたも触れてみてくださいね。
今回は、アテナイの王アイゲウスとトロイゼンの王女アイトラの息子、あるいは海神ポセイドンの子といわれる青年で、若かりし頃に牛頭人身の怪物ミノタウロスを討伐するなどの武勇伝を残し、アッティカ全域を統一した偉大な王となるも、やっぱり晩年には残念な最期を迎えたギリシャ神話の代表的な英雄テセウスをご紹介します!
忙しい人はコチラから本編にすっ飛びじゃ
この記事は、以下のような方に向けて書いています。
- ギリシャ神話にちょっと興味がある人
- ギリシャ神話に登場する神さまのことをざっくり知りたい人
- とりあえず誰かにどや顔でうんちく話をしたい人
- ギリシャ神話に登場する「アテナイの王テセウス」について少し詳しくなります。
- あなたのエセ教養人レベルが1アップします。
そもそも「ギリシャ神話」って何?
「ギリシャ神話」とは、エーゲ海を中心とした古代ギリシャ世界で語り継がれてきた、神々と人間の壮大な物語群です。
夏には乾いた陽光が降り注ぎ、岩と海とオリーブの木が広がる土地に暮らした人々は、気まぐれで情熱的、そして人間以上に人間らしい神々を生み出しました。
神々は不死である一方、人間と同じように嫉妬し、愛し、怒り、そしてときに残酷な運命に翻弄されます。
現代に伝わる物語の多くは、ホメロスの『イーリアス』『オデュッセイア』、ヘシオドスの『神統記』などの古代叙事詩を原典としています。
王族の愛憎劇に始まり、神々の争いや英雄たちの冒険、時に神と人間の禁断の関係まで——
あらゆる欲望と感情が渦巻くギリシャ神話の世界は、きっとあなたの心を掴んで離さないでしょう。


14世紀ギリシャの写本 PD
「ギリシャ神話」の全体像は、以下で解説しているよ!


アテナイの王テセウスってどんな人物?
アテナイの王テセウスがどんな人物なのか、さっそく見ていきましょう。
いくぜっ!
簡易プロフィール
| 正式名称 | テセウス Θησεύς |
|---|---|
| 名称の意味 | 諸説あり |
| その他の呼称 | テーセウス |
| ラテン語名 (ローマ神話) | テセウス(Theseus) |
| 英語名 | テセウス(Theseus) |
| 神格 | アテナイの王子 アテナイの王 ミノタウロス退治の英雄 |
| 性別 | 男性 |
| 勢力 | 人間族 または半神 |
| 主な拠点 | トロイゼン アテナイ |
| 親 | 父:アテナイの王アイゲウス(Αἰγεύς) 母:トロイゼンの王女アイトラ(Αἴθρα) または 父:海神ポセイドン(ΠΟΣΕΙΔΩΝ) |
| 兄弟姉妹 | 採用する説によっては多数というか無数 |
| 配偶者 | ならず者の娘ペリグネ(Περιγούνη) クレタ島の王女アリアドネ(Αριαδνη) アテナイの女王パイドラ(Φαίδρα) アマゾンの女王ヒッポリュテ(Ἱππολύτη)とも |
| 子孫 | ペリグネとの間に、 英雄の息子メラニッポス(Μελάνιππος) アリアドネとの間に、 キオス島の王オイノピオン(Οἰνοπίων)とも タソス島の王スタピュロス(Στάφυλος)とも パイドラとの間に、 アテナイの王子アカマス(Ἀκάμας) アテナイの王デモポン(Δημοφῶν) ヒッポリュテとの間に、 アテナイの王子ヒッポリュトス(Ἱππόλυτος)とも |
英雄の出自と旅立ち
テセウスはギリシャ神話に登場する人間族の英雄です。


「テセウス」
紀元45~79年
出典:Stefano Bolognini
彼の父親となるアテナイの王アイゲウス(Αἰγεύς)は、イオニア人のメタ(Μήτα)やアバンテス人のカルキオペ(Χαλκιόπη)といった複数の女性を妻に迎えましたが、ついぞ男子の後継ぎに恵まれることはありませんでした。
王位を狙う3人の兄弟、パラス(Πάλλας)、ニソス(Νῖσος)、リュコス(Λύκος)との政治的な駆け引きや、現実的な後継者問題に強い不安を抱いた彼は、ある時、神託の聖地デルフォイ(Δελφοί)にて神々の託宣を受けようと思い立ちます。
※男の子を授かる方法を神さまに聞こうとした、ということ
しかし、お告げの巫女ピュティア(Πυθία)の口から語られたのは、
葡萄酒の革袋の膨らんだ口を、アテナイの
高みに至るまでは解いてはならぬぞょ~
という、極めて難解な言葉だけでした。


-古代デルフィの想像図 1894年 PD
アイゲウス王はこの神託の意味を理解できず、失意のまま帰路につきますが、その道中、トロイゼンの王ピッテウス(Πιτθεύς)のもとに立ち寄り、何の気なしに神託の解釈を求めてみます。
すると、賢王とも称されたピッテウスは神の言葉の意味を即座に理解し、自らの血をアテナイ王家のそれと結びつけるために、とある策を講じることにしました。
その夜、トロイゼン王はアイゲウスを盛大な祝宴でもてなし、酒に酔わせ、彼の寝室に自身の娘アイトラ(Αἴθρα)を派遣します。
泥酔したアテナイ王は王女と交わり、彼女はこの時、物語の主人公であるテセウスを身ごもることになりました。
同じ夜に海神ポセイドン(ΠΟΣΕΙΔΩΝ)もアイトラと交わったため、テセウスは”二重の父性”をもつ存在ともいわれているよ!
戦いの女神アテナ(Αθηνη)がアイトラの夢に現れ、
海辺で神々に供物を捧げるよう命じたともされるぞぃ


出典:Habib M’henni PD


アイゲウス王はトロイゼンの地を後にする際、王女アイトラに以下のような指示を残したと伝えられています。
この大岩の下に、わしの「剣」と
一組の「サンダル」を隠したから
もし男の子が生まれて、この岩を持ち上げられるようになったら、2つのアイテムを持たせてアテナイへと向かわせるのじゃ
この「剣」と「サンダル」が、わしの
真の後継者であることの何よりの証拠となるであろう
清々しいまでの丸投げ~☆


その9ヶ月後、アイトラは、無事に美しい一人の男児を出産しました。
テセウスと名付けられた男の子は、優しい母と賢き祖父ピッテウスに愛されてすくすくと育ち、幼少の頃から同年代の子どもたちを圧倒するほどの身体能力と胆力を示したといわれています。
半神の英雄ヘラクレス(Ηρακλής)がトロイゼンを訪れ、有名な「獅子の毛皮」を脱いだ際、他の子どもたちがそれを本物の野獣と勘違いして逃げ出したのに対し、テセウスだけは斧を手に取って戦おうとしたこともあったのだとか――。


その後も大したトラブルに見舞われることなく、至って健康に成長した彼は、やがて屈強な肉体を誇る立派な青年となりました。
精悍な顔つきへと変わったテセウスを見て一安心した母アイトラは、ある日、彼を呼び出し、その出自と使命を明かすことにします。


『父の剣を発見するテセウス』
18世紀前半 PD
あのなぁ、お前さんの実の父親は、
アテナイの王であるアイゲウス様なのじゃ
お前が成長してこの大岩を持ち上げられるようになったら、下に隠しとる「剣」と「サンダル」を持たせてアテナイへと送り出すよう言われとった
要するにお前は王の血を引く者で、
今が旅立ちの時というわけじゃ
ママン、大岩ってこれのことかい?
こうして、例の大岩をいとも簡単に持ち上げたテセウス青年は、かつて父アイゲウスが残したという「剣」と「サンダル」を身に着け、一路アテナイを目指して旅立ちました。


『息子テセウスに父が武器を隠した場所を見せるアイトラ』
1768年 PD
この時、彼は16歳――。
母アイトラは安全な海路で目的地へと向かうよう懇願しましたが、英雄ヘラクレスに憧れた息子はこれを退け、あえて危険と困難が多いであろう陸路での移動を選択したといわれています。
かくして、古代ギリシャ随一の英雄とも謳われたテセウスの冒険譚が幕を上げましたが、その前途には想像を絶する数多くの試練が待ち受けているのです。
あらすじで楽しむ『英雄テセウス』の物語
テセウスの活躍を見てみよう!
彼の物語はボリュームが盛りだくさんなので、
ざっくりダイジェストでの紹介とさせてもらうぞぃ
それぞれのお話の詳細は個別記事でも解説しているので、
良ければそちらも見てみてね
アテナイを目指すテセウス、
変質者や害獣を退治して英雄としての実績を積む!!
さて、故郷トロイゼンを飛び出して徒歩での旅を開始したテセウスは、ギリシャ本土とペロポネソス半島をつなぐコリントス地峡を経由して、サロニコス湾の向こう側に位置する都市アテナイを目指すことにしました。
彼の本格的な冒険譚は父の故郷に辿り着いてから始まるのですが、その道中においてもテセウスは数々の盗賊や猛獣を討伐し、英雄としての実績と、アイゲウス王への土産話を着実に積み上げていきます。


出典:Jastrow CC BY 2.5
お手本のような「最初の敵」!棍棒使いペリフェテスとの対決!
トロイゼンを発ち、アルゴリス地方に位置する港湾都市エピダウロスへと歩を進めていたテセウスは、不意打ちや奇襲で旅人の命を奪うと噂される盗賊――棍棒使いのペリフェテス(Περιφήτης)と遭遇しました。
この野蛮な男は、神に選ばれし英雄をもその手に掛けようとしましたが、闘いの結果は当然ながら、見事なまでの返り討ちに終わります。
テセウスは、憧れの英雄ヘラクレスが自ら討ち取ったネメアの獅子(Νεμέος λέων)の毛皮を身に着けたのに倣い、「ペリフェテスの棍棒」を自身を象徴する武器とすることに決めました。
道中で装備が充実していくRPG感!
これこそ冒険だよね~!
わしゃただのかませ犬かっ!!
このお話の詳細はコチラ!




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こだわりの処刑法を実践する変態!松曲げ男シニスとの対決!
エピダウロスを通過してコリントス地峡へと差し掛かったテセウスは、この地の街道でシニス(Σίνις)という名の盗賊に出会います。
「松曲げ男」を意味するピテュオカンプテス(Πιτυοκάμπτης)の名でも恐れられた彼は、以下のような奇妙奇天烈エキセントリックな犯罪手口を用いることで知られました。
| 手順① | 松の木(1本または2本)を地面まで強く曲げる | |
|---|---|---|
| 手順② | 【1本の場合】 | 旅人に「松の木」を押さえるのを手伝わせ、自分が手を離した反動で相手を空中に放り投げて死に至らしめる |
| 【2本の場合】 | 旅人の両腕または手足をそれぞれの「松の木」に縛りつけ、手を離した反動で相手の身体を引き裂く | |
| 結果 | 犠牲者は引き裂かれる、または激しく叩きつけられて死亡 | |


事情を知らぬテセウスも、シニスに松の木を押さえるよう頼まれて手を貸しますが、ここで物事が相手の思惑通りに進むはずはありません。
シニスが木を押さえる手を放しても、力自慢の青年は空中に弾き飛ばされるどころか、眉一つ動かすことなく、なおも松の幹を押し曲げ続けていたのです。
想定外の展開に困惑する盗賊が、様子を確認するために松の木に近付いた、その時――。
状況に飽きてしまったテセウスが手を放し、激しい反動で元の姿に戻ろうとした木の幹が、他でもないシニス自身を崖の底まで放り投げてしまいました。
こうして若き英雄は、自分が悪名高い盗賊を退治したことも知らぬまま、アテナイを目指す旅を再開します。
最後には自分を題材に捧げる
これぞ真のアートですぅ~
このお話の詳細はコチラ!




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分かりやす~い猛獣退治!クロムミオニアの雌豚との対決!
コリントス側からメガラ方面へと、コリントス地峡を進むテセウスは、クロムミオンと呼ばれる荒廃した村落を通りかかります。
彼には知る由もないことですが、この地には別名をパイア(Φαῖα)ともいう、巨大で獰猛な雌豚が出没し、周辺の農村や畑を荒らしまわって地域住民を悩ませていました。
テセウスは、たまたま遭遇したこのクロムミオニアの雌豚(Ὕς Κρομμύων)をワンパンで屠り、これまた何の自覚もないうちにクロムミオンの人々を災厄から解放して、アテナイへの旅を続けています。
ブヒー‼
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地峡地帯の変態再び!「足洗い」スケイロンとの対決!
コリントスとメガラの境界まで到達したテセウスは、「スケイロニア岩」と呼ばれる断崖絶壁のふちに佇む、スケイロン(Σκείρων)という名の盗賊に呼び止められます。
この男は、通りかかる旅人に通行料として「自分の足を洗う」よう命じ、ひざまずいて隙を見せた相手を岸壁から海へと蹴り落として、崖下で待ち構える人喰い海亀の餌食にするという、変質的な習慣を有しました。
同様の指図を受けたテセウスも、相手の意図を探るために一旦は言われた通りに振る舞いますが、概ねの状況を察した彼はスケイロンの脚を引っ掴み、当の本人を断崖の真下へと放り投げます。
結局、スケイロン自身が海亀の最後の餌となり、怪談じみた奇妙な噂話は、ここでひとまずの終息を見せました。
ふしゅるるるる…
亀はともだち、こわくないよ
このお話の詳細はコチラ!




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どこにでもいるタイマン系暴君!
エレウシス王ケルキュオンとの対決!
どうにかコリントス地峡を突破してアッティカ地方へとやってきたテセウスは、目的地であるアテナイにほど近い小都市エレウシスを通りかかります。
しかし、この地を治めるケルキュオン(Κερκύων)という名の王は、領地を通行する旅人に一対一のレスリング勝負を強要し、敗者には罰として「死」を与える暴君として、その悪名を轟かせていました。
例によって喧嘩を吹っ掛けられたテセウスは、力任せの原始的な戦い方をするケルキュオンを容易くいなし、脚技や関節技といった高度な技術を駆使して相手を翻弄――。
身の程知らずの愚かな王はこの勝負で命を落とし、古代の著述家はこの状況を、「テセウスはケルキュオンのレスリング学校を閉鎖した」と詩的に表現しました。
我が生涯に一片のkウボァァァ…‼
このお話の詳細はコチラ!




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常軌を逸した変態三たび!
シンデレラフィットの狂人プロクルステスとの対決!
アッティカ地方をアテナイ方面へと進むテセウスは、妙な処刑方法を用いることで悪名高い強盗・プロクルステス(Προκρούστης)に遭遇します。
にこやかな態度で旅人を自宅へと招き入れた彼は、以下の方法で数多くの人間の命を奪いました。
| 手順① | 客人を所定の寝台(ベッド)に案内して横たわらせ、隙を見てその身体を縛りつける | |
|---|---|---|
| 手順② | 客人の身長<ベッドの長さの場合 | 金床と槌を用いて客人の手足を引き伸ばし、その身長をベッドの長さにシンデレラフィットさせる |
| 客人の身長>ベッドの長さの場合 | のこぎりを用いてはみ出した部分(主に脚)を切断し、客人の身長をベッドの長さにシンデレラフィットさせる | |
| 結果 | 犠牲者は手足の関節をぐちゃぐちゃにされるか、四肢を切断されて死亡 ※背の高い者用と低い者用の2つのベッドがあったとも | |


この噂を事前に聞いていたテセウスは、何も知らないふりをして導かれるままに従い、一瞬の隙を突いてプロクルステスをベッドに押し倒します。
続けて、油断なくその手足を鎖で縛った英雄は、恐ろしい犯罪者の「脚」あるいは「首」を切断し、これまでプロクルステス自身が他人に行ってきた方法と同じやり方で刑を執行しました。
ふひひ…ぴったり…
ジャストフィット……
これこそが究極の「美」……
このお話の詳細はコチラ!


トロイゼンを出発して以降、5人と1匹の厄介者を始末して十分な実績を積み重ねたテセウスは、ここでようやく、父アイゲウスが待つアテナイの街に到着します。


-アテナイのアクロポリス
1846年 PD
アテナイに着いた英雄、
獅子身中の虫を排し父王アイゲウスに認められる!
アッティカ地方最大の都市国家であるアテナイへと辿り着いたテセウスは、その壮麗な街並みに圧倒されつつも、さっそく父アイゲウスが住む宮殿へと向かいます。
実はこの時期、アイゲウスの妻には元・コルキスの王女メディア(Μήδεια)がおり、彼女は、夫とのあいだにメードス(Μῆδος)という名の息子をもうけていました。


『メーデイア』
1866年-1868年 PD
順当にいけば自分の子どもが次の王位を継ぐという状況で、同じくアイゲウスの血を引くとされる若者が、トロイゼンの片田舎からアテナイに向かって近づいて来ている――。
さらにその人物は、道中で数多くの手柄を立て、英雄としての実績を着実に積み重ねている――。
そんな噂を耳にした王妃メディアの心中が、穏やかであるはずはありません。
目的のためならば実の弟の命すら奪い、さらには自ら腹を痛めて産んだ息子たちにまで手を下してきた実績をもつ彼女は、邪魔な後継者候補を排除するため、とある策を思いつきます。
メディアは、夫アイゲウスに
次にダーリンを訪ねてくる男、こいつぁ間違いなく、
あなたの命を狙ってきやすぜぇ
達成不可能な無理難題を吹っ掛けて、早々に
アテナイの土地から追い出した方が吉ってもんでさぁ
と、適当に考えた真っ赤な嘘を吹き込んだのです。


権力闘争による謀略や、身内の裏切りに常日頃から恐怖を感じていたアイゲウス王は、メディアの讒言をいとも容易く信じ込み、息子であるはずのテセウス青年に対して
えっ、謁見を望むなら、マラトンの地で暴れとる
凶暴な雄牛を退治してくるのじゃ~
と、面会に際しての条件を突き付けました。
当然ながら、この任務が達成されることなど最初から想定されておらず、何も知らぬ若者は不幸にも、旅の途中で命を落とす――というシナリオです。
ほーい、行ってきまーす
この「マラトンの雄牛」なる害獣、実は、海神ポセイドン(ΠΟΣΕΙΔΩΝ)によってクレタ島に遣わされた、いわゆる「クレタ島の雄牛(Κρὴς ταῦρος)」と同一の個体でした。


Canvaで作成
ヘラクレス(Ηρακλής)の『12の功業』における、7番目のミッションで捕獲されたこの雄牛は、英雄の手によって解放されたか、あるいは自力で逃げ出した後にコリントス地峡を横断し、マラトンへと辿り着いて、かの地を荒廃させる大暴れをかましていたのです。
この闘いで死亡することが想定されていたテセウスでしたが、当然ながら彼は易々とマラトンの雄牛を屠り、本人も知らぬうちに、憧れの英雄ヘラクレスがかつて相対したのと同じ猛獣に対して、見事な勝利を収めました。
事情を知っていたら、きっと大喜びだったろうね!


任務を遂行したテセウスはアテナイへと戻り、アイゲウス王と王妃メディアに成果物たる”雄牛の亡骸“を見せたあと、これを光明の神アポロン(ΑΠΟΛΛΩ)への犠牲に捧げます。
獣害問題が解決して万々歳ですが、この状況を忸怩たる思いで見守ったのが、他でもない陰謀の発案者メディアでした。


『メーデイア』
1889年 PD
彼女はプランBとして、夫アイゲウスに
いよいよあの小僧が、ダーリンの命に
王手をかけてきよりますぜ
ここに毒入りの葡萄酒があるけぇ、歓迎するふりをして、
あやつにこれを飲ませてくだされやぁ
と、さらなる讒言と具体的な”手段”を吹き込みます。
すっかりメディアに洗脳されていたアテナイ王は、妻に言われるがまま、テセウスを歓待する素振りを見せながら、彼に毒入りワインのグラスを手渡しました。
あっ、あざす!
いただきまーす
…ムムッ?
その唇が致死性の猛毒に触れるほんの一瞬前、アイゲウス王は、若き青年が身に着けていた、とあるアイテムに目を奪われます。
それは、若き日の自分自身が、かつて愛した女性アイトラに手渡した、特徴的な「剣」と「サンダル」でした。


『テセウスとアエトラ』
1634年-1636年頃 PD
この瞬間、目の前にいる若者の正体と、妻メディアの卑劣な策略のすべてに気付いたアイゲウスは、葡萄酒のグラスをはたき落とし、
マイソン、生きとったんかワレ
と言って、心待ちにした息子との再会、そしてその成長を大いに喜んだと伝えられています。
邪悪な洗脳からも解放されたアテナイ王は、続けて
- テセウスを、アイゲウス王の正当な王位継承者に指名すること
- メディアとその息子を、永久にアテナイから追放すること
という2つの布告を大々的に下しました。
「陰謀」と「策略」しか生き延びる術を知らぬ魔女メディアは、かつての夫イアソン(Ἰάσων)と袂を分かった時と同様、祖父・太陽神ヘリオス(Ἥλιος)が遣わした「翼をもつ蛇が牽く戦車」に乗って、空の彼方に逃げ去ったと伝えられています。
ちっ…今回はうまくいきそうだったのに……


『子を殺し、戦車に乗って逃げるメデイア』
1887年 PD


こうして、厄介な諸問題を解決したテセウスは、ようやく父王アイゲウスに認められ、アテナイの次期統治者としての立場を確固たるものとしました。
しかし、血気盛んな若者である彼の冒険譚が、ここで簡単に終わりを迎えるはずもありません。
むしろ、英雄としてのテセウスの物語は、ここから本番を迎えることになるのです。
まーだまだお話は続くのじゃ!


『父に認められたテセウス』
1832年 PD
生け贄の風習に反発した英雄、
クレタ島に乗り込んで怪物ミノタウロスを退治する!
名実ともにアテナイの王子となったテセウスは、しばらくの間幸せな生活を送りましたが、ここ最近、父王や街の人々が絶望しきったような浮かない顔をしていることに気が付きます。
なーんや辛気臭いのぅ、誰ぞの葬式でもあるんけぇ~?
近場の人間に事情を聞いてまわった彼は、自分自身の故郷が、以下のような問題を抱えていることを知りました。
- かつて、クレタ島の王子アンドロゲウス(Ἀνδρόγεως)が、アテナイの地で事故により命を落とした。
※先述のマラトンの雄牛を退治しようとして死亡したとも - 息子の死の原因がアテナイ側にあると考えた彼の父・クレタ王ミノス(Μίνως)は、報復のために大艦隊を率いて同市に侵攻。
- 戦況は膠着したが、ミノス王の祈りを聞き届けた神々により、アテナイ市を疫病と飢饉が襲う。
- 事態の解決のために神託を行ったアテナイ人に対して、神は「ミノスの言うことを何でも聞きなさ~い」と回答。
- ミノス王は、自国に幽閉された怪物ミノタウロス(Μινωταυρος)への生け贄とするために、9年ごとに若い男女7人ずつ(計14人)をアテナイ市からクレタ島へと送るよう要求した。
※毎年であったとも - 現在、第3回目を迎える生け贄の選抜の時期が近づいており、みんなテンションが下がっている。←イマココ!


『ミノタウロス』
1885年 PD
なんじゃそら!
クソみたいな因習じゃのぅ!!
近々わしが治めるこの国に、
そんな老〇文化は要らんのじゃ!
そのミノなんとかっちゅうバケモン、
このわしがぶちのめしたるわっ!!
あまりにも理不尽な取り決めに反感を覚えたテセウスは、自発的に贄の1人に立候補して、件の怪物ミノタウロスを自らの手で滅ぼすことを誓います。
しかし、ようやく正当な王位継承者を手元に置くことができたアイゲウス王は、息子が命を落としてしまうことを懸念して、その申し出に賛成することができませんでした。


『父に認められたテセウス』
1832年 PD
とはいえ、義憤に駆られたテセウス青年の意志は固く、強引に話を押し切られた父王は、
わしゃぁのぅ、一刻も早くおまえの
無事を確認したいんじゃ
帰還の際、お前が生きとるんなら船に「白い帆」をあげぃ
万一死んでしもうたなら、「黒い帆」
をあげて戻るよう部下に命じとくのじゃぞ
と言って、不安げに息子の旅立ちを見送ることしかできなかったと伝えられています。
はいはい、りょーかいよ
完全に理解した


こうして、生け贄の一人に扮しつつも強い意志を秘めた青年は、長い船旅を経て、ついに決戦の地クレタ島に上陸しました。
テセウスがクレタ島に到着してすぐ、島の王ミノスが彼らの前に現れ、生け贄の少女の一人にちょっかいを出そうとしました。
それをテセウスに咎められた王は、「わしは大神ゼウスの息子じゃぞ!」と言い、パパに頼んで大いなる雷を呼び寄せます。
これに対してテセウスは、自身は海神ポセイドンの息子であると主張。
この話を疑ったミノス王は、小さな金の指輪を海へと投げ込み、「本当に海神の息子なら、あの指輪をちゃちゃっと取って来い」と命じました。
その結果はご想像の通り――。
テセウスはいとも容易く指輪を取り戻し、大いに驚いたミノス王は、以後、少女たちに近づくことはなかったとされています。
※海の女神テティス(Θέτις)の助力があったとも


1844年-1861年
出典:ニューヨーク公共図書館 PD
さて、あとは供儀の本番を待つばかり、という状況にあったテセウスでしたが、そんな彼のもとに、見知らぬ美しい女性がふいに姿を現します。
あ、あのなぁ、お若い兄さんや…
彼女の名は、アリアドネ(Αριαδνη)――。
ミノス王の娘の一人で、とどのつまりは、ここクレタ島の王女さまです。
彼女は、裸一貫で試練に臨もうとするテセウスの事情を知ってか知らずか、彼に以下のような情報を開示しました。
- 行く先で待ち構えているのは、神々の呪いによって王妃パシパエ(Πασιφάη)とクレタ島の雄牛(Κρὴς ταῦρος)との間に生まれた、獰猛な性質をもつ牛頭人身の怪物であること。
※つまり、テセウスが退治したマラトンの雄牛は、ミノタウロスの父親でもある - ミノタウロスが幽閉されているのは、伝説の工匠ダイダロス(Δαίδαλος)によって建造された脱出不能の迷宮ラビュリントス(Λαβύρινθος)で、生け贄たちもここにぶち込まれる予定であるということ。
- 脱出不能とはいっても、入り口に「糸」を結びつけ、これを解きながら進めば、帰りはその「糸」を辿ることで安全に戻ってこられる、ということ。


一通りのことを話しきったアリアドネは、おずおずとした様子で、テセウスに脱出用の「糸の玉」と護身用の「剣」を手渡します。
これを使えば、地下迷宮からも迷わず脱出できるけぇ…
的の命ぁ取れるかは、兄さん次第っちゅうこっちゃ…
わしがここまでする意図(糸だけに)、
兄さんは汲んでくれるのぅ…?
そう、彼女は人身御供に選ばれながらも、いまだ眼の光を失っていない精悍な顔つきのテセウスにすっかり心を奪われ、その命を救うために、実質的に父親を裏切るような真似すらもしでかしたのです。
うむ、生還の暁には、君を妻に迎えると約束しよう
アリアドネの想いを受け止めたテセウスは、クエストアイテム「糸の玉」と「剣」をどうにかして現場に持ち込み、いよいよミノタウロスなる怪物と対面する時を迎えます。
他の生け贄候補に待機するよう命じた彼は、作戦通り「糸」の端を入り口の扉に結び付け、これを引きながら迷宮を地下へ地下へと進みました。


『迷宮のテセウスとミノタウロス』
1861年 PD
やがて、ラビュリントスの最奥部に潜む禍々しい異形の姿を認めたテセウスは、武器を片手に握りなおして真正面から勝負を挑みます。
おどれぇ牛野郎ぉ!!
命ぁもろたでぇぇぇ!!
ババァ‼
ノックしろよッ‼
…って誰だおめぇ!!
異常事態を察したミノタウロスも、生まれもっての凶暴性を即座に発揮して、襲撃者に対する応戦の構えをとりました。
両者はしばらくのあいだ激しい戦闘を繰り広げますが、この勝負の結果はご想像の通り、神の血を引く英雄テセウスが勝利を収め、ミノタウロスは容赦なくその命を奪われてしまいます。
※素手で仕留めた、短剣でやった、あるいは角を折ってそれを投げ槍のようにして倒したとも
もう…俺が居なくても大丈夫みたいだな…
最期に…お前らと一緒に戦えてよかったよ…


「テセウスとミノタウロス」
1896年 PD
……うし(牛だけに)、これで一仕事完了じゃな
とっとと地上に戻るべ
実は特に悪い事もしてない、哀しきモンスターだよ!


ミノス王も、ぶっちゃけ内心ほっとしていた
かもしれないよね!
無事にその使命を果たしたアテナイの王子は、予定通り糸を手繰って地上へと生還し、アリアドネと生き延びた若者たちを船に乗せてクレタ島を後にしました。


『アリアドネ』
1905年 PD
テセウスとアリアドネは、簡単な結婚の儀式を執り行って正式な夫婦となりましたが、不思議なことにその新婚生活は、わずか数日で終わりを迎えることになります。
彼らの船がナクソス島に寄港した後、なぜかこの夫婦は別々の行動を取ることになり、以後、二人が再びめぐり会うことはついになかったのです。
その理由には、以下のような様々な説が唱えられました。
- テセウスが心変わりをしたため、眠っているアリアドネを島に置き去りにして出航してしまった。
- 嵐に遭遇してキプロス島に漂着した際、テセウスは妊娠中で病弱なアリアドネをやむなく島に残す。
その後、旅の一行は再び海を漂流し、アリアドネは出産前に命を落として現地で埋葬された。 - 酩酊の神ディオニュソス(Διονυσος)がアリアドネを見初めたため、夢か何かで、彼女を島に残すようテセウスに命じた。
…などなど
あたしの苦労を返せやボケェ!
他にもいろいろな”末路”が語られた王女さまだよ!




『バッカスとアリアドネ』
1520年-1523年 PD
さて、いずれにせよ王女アリアドネと別れたテセウスは、堂々たる面持ちで父王アイゲウスが待つアテナイへと凱旋します。
しかし、彼はこの時、出発前に父と交わした、とある約束のことを完全に失念していました。
そう、旅立ちの前に取り決めた、
帰還の際、お前が生きとるんなら船に「白い帆」をあげぃ
万一死んでしもうたなら、「黒い帆」
をあげて戻るよう部下に命じとくのじゃぞ
という約束です。
うっかり屋さんのテセウスは、自身が元気いっぱいなのにも関わらず、「黒い帆」をあげたままアテナイへと接近。


その様子を見たアイゲウス王は、絶望に耐えかねて崖から身を投げ、その生涯の幕を下ろしたと伝えられています。
※アリアドネとの離別で取り乱していたため、帆の件を忘れたとも
アイゲウスパパ、メンタル繊細すぎぃーーっ!!
アイゲウス王が身を投げたことから、その海は
「エーゲ海(Αιγαίο Πέλαγος)*」と呼ばれるようになったのじゃ
※「アイゲウスの海」の意


こうして、長年にわたる苦しみからアテナイを解放した英雄は、帰還と同時にその王位を受け継ぐことになりました。
アッティカを統一した英雄、
自らあちこちに遠征してゴタゴタを引き起こす!!
父王アイゲウス亡きあと、その玉座を引き継いだ英雄テセウスは、叔父パラス(Πάλλας)の50人にも及ぶ子どもたちを問答無用で粛清――。
その他の反対勢力も徹底的に滅ぼし尽くした彼は、アテナイを中心とするアッティカ全域を政治的に統一した、偉大なる最初の王となりました。
テセウスは、パナテナイア祭(Παναθήναια)やイストミア競技祭(σθμια)といった主要な祭典を創設した一方で、大人しく宮殿に留まることをせず、あちこちの場所に王自ら赴いたことでも知られています。
ここでは、そんな彼の人生後半における冒険譚と、その結果生じたゴタゴタをざっくりと押さえてみましょう。


『ケンタウロス族のビアノールと戦うテセウス』
1867年
出典:メトロポリタン美術館 PD
憧れの英雄ヘラクレスとアマゾン遠征!
アマゾネスを誘拐してガッツリ恨みを買う!
アテナイ王としての仕事に一区切りをつけたテセウスは、幼い頃から憧れた半神の英雄ヘラクレス(Ηρακλής)と共に、アマゾンの地へと遠征に出かけます。
現地に到着した彼は、女性戦士アマゾネス(Ἀμαζόνες)の一人であるヒッポリュテ(Ἱππολύτη)またはアンティオペ(Ἀντιόπη)、あるいはメラニッペ(Μελανίππη)を誘拐し、彼女とのあいだに一子ヒッポリュトス(Ἱππόλυτος)をもうけました。


『ヒッポリタのベルトを手に入れるヘラクレス』
1650年 PD
当然、仲間を奪われたアマゾネスの戦士たちは武器を手にアテナイへと軍を進めましたが、アレスの丘付近で陣を張った彼女らは、テセウス率いる正規軍によって撃退されてしまったと伝えられています。
これだけでも十分に酷い話ですが、もはや並ぶ者なき権力者となったテセウスは、ほぼ同時期にクレタ島の王ミノス(Μίνως)の娘である王女パイドラ(Φαίδρα)をも妻に迎えました。
彼女は、若き日のテセウスが結婚を約束しつつも道中で生き別れた、王女アリアドネの姉妹です。
ふざけんじゃねーぞテメー
2人の結婚を知って再び怒りに燃えたアマゾネスの女性たちは、裏切られた妻ヒッポリュテを筆頭に武装し、披露宴が行われている真っ最中の現場へと乱入――。
参加者たちを葬らんと大暴れしましたが、やはりこの時も、テセウス側の軍勢によってきっちりと鎮圧されたといわれています。
※テセウス自らヒッポリュテの命を奪ったとも
このお話の詳細はコチラ!


一瞬だけ落ち着いたかに見えたアテナイ王家、
やっぱりゴタゴタしていた!!
新たな妻パイドラは、テセウスとのあいだにアカマス(Ἀκάμας)とデモポン(Δημοφῶν)という2人の息子を産みました。
しかし彼女は、ちょっとした信仰上のいざこざから、テセウスと前妻ヒッポリュテの息子であるヒッポリュトスに欲情するという呪いをかけられてしまいます。


「ヒッポリュトス、パイドラ、テセウス」
1750年 PD
夫の連れ子を誘惑し、こっ酷くフラれたパイドラは、この不貞行為の事実が暴露されることを恐れ、テセウスに
あんたー、わしゃぁ、あのヒッポリュトス
に襲われたんじゃ~
という、とんでもない虚偽の告発をかましました。
妻の言うことを真に受けたアテナイ王は、ヒッポリュトスを追放し、海神ポセイドン(ΠΟΣΕΙΔΩΝ)に祈りを捧げて彼の死を祈願します。
その願いは聞き入れられ、濡れ衣を着せられた息子は馬に轢かれて落命。
この一件の後、取り返しのつかない事態に罪悪感を募らせたパイドラも、首を吊って自らの命を絶ちました。
すべてが終わったあと、狩猟の女神アルテミス(ΑΡΤΕΜΙΣ)から事の仔細を聞いたテセウスは、1日にして妻と息子を失った事実に、大いに打ちのめされたと伝えられています。


『ヒッポリュトスの死』
1836年-1912年 PD
ちゃ~んと双方の話を聞いてりゃぁ、
防げた悲劇だったのにね
このお話の詳細はコチラ!


親友ペイリトオスと悪ノリした英雄、
冥界で4年もの時を無駄にする!!
今回の主人公テセウスには、ラピテス人の王ペイリトオス(Πειρίθοος)という無二の親友がいました。
若き日に厚い友情で結ばれた2人は、英雄メレアグロス(Μελέαγρος)が招集した「カリュドーンの猪(Καλυδώνιος κάπρος)狩り」に連れ立って参加したり、「ケンタウロマキア(Κενταυρομαχία)」と呼ばれるケンタウロス族(Κένταυρος)*との戦争で仲良く暴れ回るなどして、相互の絆を育んだといわれています。
※ギリシャ神話に登場する半人半馬の種族で、複数形はケンタウロイ(Κενταυροι)


Canvaで作成
そんなイケイケどんどんの若者たちは、ある時、「それぞれが主神ゼウスの娘を妻に迎える」という、あまりにも大胆な誓約を結びました。
意外にも乗り気だったテセウスは、主神の娘であるスパルタの王女ヘレネ(Ἑλένη)を誘拐し、その身柄を母アイトラに預けます。


「テセウスとペイリトオスがヘレネを誘拐する」
1814年 PD
一方のペイリトオスは、同じく最高神の娘である冥界の女王ペルセポネ(ΠΕΡΣΕΦΟΝΗ)を妻に迎えると息巻いて、死者の世界へと降る決意を固めました。
なんやかんやあって冥府へとやって来た2人でしたが、不死の神々は、愚かなる定命の人間たちよりも、一枚も二枚も上手だったようです。
冥界の王ハデス(ΑΙΔΗΣ)は、何も考えずにやって来たテセウスとペイリトオスを歓待するかのように装い、彼らを「忘却の椅子」へと誘導――。
呪いのアイテムに拘束された2人は、過去の記憶を根こそぎ奪われ、理性も意思も失ったまま、忘我の生ける屍へと変わり果ててしまいました。
結局、テセウスが再び自我を取り戻すまでには、都合4年もの月日を要することになります。


後に『12の功業』と呼ばれる冒険の一環として、番犬ケルベロス(Κέρβερος)を捕獲するために冥界を訪れていたヘラクレスが、偶然にも、「忘却の椅子」に囚われた若者たちを発見したのです。
テセウスは半神の英雄の手によって助け出されましたが、残念ながら相棒のペイリトオスは、神意によって永遠に死後の世界に留め置かれる運命となりました。
※2人とも助かったとする説もある
あ~ぁ、主人公補正って理不尽だよね~
このお話の詳細はコチラ!


ちなみに、テセウスが冥界でぼーっとしていた4年の間に、王女ヘレネは双子の戦士ディオスクロイ(Διοσκουροι)によって奪還され、ついでに母アイトラもスパルタの地へと連行されています。
また、これだけの長期間にわたって行政を疎かにした彼は、当然ながら王座からも追放され、その後任にはメネステウス(Μενεσθεύς)という名の人物が就いていました。


「ローマ、クイリナーレ宮殿のディオスクロイ像」
1546年
出典:メトロポリタン美術館 PD


晩年にやらかした英雄、スキュロス島で非業の死を遂げる!!
英雄ヘラクレスに救出され、辛うじて地上へと生還したテセウスでしたが、彼の帰還を待つ政治的なポストは、もはやどこにも残されていませんでした。
現アテナイ王であるメネステウスに追われたかつての統一王は、パイドラが残した2人の息子・アカマスとデモポンを政敵から守るため、遠く離れたスキュロス島に身を隠します。
しかし、現地の王リュコメデス(Λυκομήδης)は、怪物退治の英雄として名高いテセウスに人心を奪われてしまうことを恐れ、次第にその存在を疎ましく思うようになりました。
ある日、島内を案内すると連れ出されたテセウスは、切り立った断崖絶壁の淵に誘導され、リュコメデス王に海へと突き落とされて、その生涯の幕を閉じたと伝えられています。
※リュコメデスがメネステウスの支持者であったとも
アバババババー


こうして、数々の武勇伝を残した伝説の英雄は、最後には神々からも見放されて、あまりにもぱっとしない非業の死を遂げることになりました。
テセウスの死を悼んだアテナイの人々は、他の島へと避難していた彼の子どもたちを王位に迎え、救国の英雄を丁重に祀ったといわれています。


「ミノタウロスを倒すテセウス」
1843年
出典:メトロポリタン美術館 PD
ギリシャ神話をモチーフにした作品
参考までに、「ギリシャ神話」と関連する
エンタメ作品をいくつかご紹介するよ!
おわりに
今回は、ギリシャ神話に登場するアテナイの王テセウスについて解説しました。
めちゃくちゃ活躍した英雄にも
死ぬほど厳しい末路が待っている…
ギリシャ神話あるあるよね~
それでも、テセウスが残した武勇伝は
他の追随を許さない特別なものだったよね!
パパトトブログ-ギリシャ神話篇-では、雄大なエーゲ海が生み出した魅力的な神々や彼らの物語をご紹介していきます。
神さま個別のプロフィール紹介や神話の名場面をストーリー調で解説など、難しい言葉はできるだけ使わずに、あらゆる角度から楽しんでもらえるように持って行こうと考えています。
これからも「ギリシャ神話」の魅力をどんどんご紹介してきますので、良ければまた読んでもらえると嬉しいです!
また来てね!
しーゆーあげん!
参考文献
- ヘシオドス(著), 廣川 洋一(翻訳)『神統記』岩波書店 1984年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『イリアス 上』岩波書店 1992年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『イリアス 下』岩波書店 1992年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『オデュッセイア 上』岩波書店 1994年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『オデュッセイア 下』岩波書店 1994年
- アポロドーロス(著), 高津 春繁(翻訳)『ギリシア神話』岩波書店 1978年
- T. ブルフィンチ(著), 野上 彌生子(翻訳)『ギリシア・ローマ神話』岩波書店 1978年
- 吉田 敦彦『一冊でまるごとわかるギリシア神話』大和書房 2013年
- 阿刀田高『ギリシア神話を知っていますか』新潮社 1984年
- 大林 太良ほか『世界神話事典 世界の神々の誕生』角川ソフィア文庫 2012年
- 中村圭志『図解 世界5大神話入門』ディスカヴァー・トゥエンティワン 2020年
- 歴史雑学探究倶楽部『世界の神話がわかる本』学研プラス 2010年
- 沢辺 有司『図解 いちばんやさしい世界神話の本』彩図社 2021年
- かみゆ歴史編集部『マンガ 面白いほどよくわかる! ギリシャ神話』西東社 2019年
- 鈴木悠介『眠れなくなるほど面白い 図解 世界の神々』日本文芸社 2021年
- 松村 一男監修『もう一度学びたいギリシア神話』西東社 2007年
- 沖田瑞穂『すごい神話―現代人のための神話学53講―』新潮社 2022年
- 杉全美帆子『イラストで読む ギリシア神話の神々』河出書房新社 2017年
- 中野京子『名画の謎 ギリシャ神話篇』文藝春秋 2015年
- 千足 伸行監修『すぐわかるギリシア・ローマ神話の絵画』東京美術 2006年
- 井出 洋一郎『ギリシア神話の名画はなぜこんなに面白いのか』中経出版 2010年
- 藤村 シシン『古代ギリシャのリアル』実業之日本社 2022年
- 中村圭志『教養として学んでおきたいギリシャ神話』マイナビ出版 2021年
- かみゆ歴史編集部『ゼロからわかるギリシャ神話』イースト・プレス 2017年
- THEOI GREEK MYTHOLOGY:https://www.theoi.com/
他…










