あらすじでわかる『ヘラクレスと12の功業』|かんたんギリシャ神話入門

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あらすじでわかる『ヘラクレスの冒険』
とと(父)

こんにちは!
かんたんギリシャ神話入門の時間だよ!

ことと

今回は、ギリシャいち有名といっても過言ではない
最強のスーパーヒーロー…

ことと

ヘラクレスの冒険』をあらすじで紹介するわよ

ヒヒ

神々の女王ヘラにイビリ倒された、超絶苦労人の人生
『12の功業』が特に知られておるのじゃ

とと(父)

ではさっそくいってみよう!

※本編の内容は、ヘラクレス個人の記事と同一のものです。

目次

英雄ヘラクレスの誕生秘話

ヘラクレス(Ηρακλής)はギリシャ神話に登場する半神半人の青年で、最も有名な英雄の一人です。

『ヘラクレス』1880年
『ヘラクレス』1880年
出典:ニューヨーク公共図書館 PD

彼の母親となる王女アルクメネ(Ἀλκμήνη)は、ミュケナイの王エレクトリュオン(Ἠλεκτρύων)とその王妃アナクソス(Ἀναξώ)の間に生まれた、非常に美しい娘でした。

数多くの兄弟姉妹に囲まれて育った彼女は、長じて後、ティリンスの王子アムピトリュオン(Ἀμφιτρύων)と結婚します。

この夫婦は、紆余曲折を経てテーバイへと移り住むのですが、ここで見目麗しいアルクメネに目を付けたのが、可愛い女の子には目と節操がないオリュンポスの王・雷霆らいていの神ゼウス(ΖΕΥΣ)

ゼウス

うっわ~、ほんとにマジで美人じゃん

ゼウス

あの子ガードが堅いって噂だし、どうやって近づくかなぁ~

彼は、アムピトリュオンが遠征に出ている隙を突き、夫の姿に変身して、一人その帰りを待つアルクメネに接近。

首尾よく彼女を騙したゼウスは、月の女神セレネ(Σελήνη)に命じて「夜」を3日間も続けさせ、2人きりで過ごす時間を思う存分に楽しみました。

暗闇のイメージ
アルクメネ

なんっかやたらとしんどかったのよねぇ~、あの夜

――それから、しばらくして。

普段と変わらぬ生活を送ったアルクメネは、ある日、自分のお腹に子が宿ったことに気が付きます。

当然、夫アムピトリュオンとの間にできた赤ん坊であると信じて疑わぬ彼女でしたが、ここからが地獄の日々の始まりでした。

というのも、その胎内に宿った3つの生命のうち、1つが主神ゼウスの血を受け継いでいたからです。

さらにこの父親が、アルクメネの妊娠を知って、とんでもなく死ぬほど余計な真似をしてくれたからです。

Nicolas-André Monsiau-オリュンポス十二神
Nicolas-André Monsiau
-オリュンポス十二神 PD
ゼウス

わっはっは、次に生まれてくるペルセウスの子孫が、
全アルゴスの王となるであろう

※ヘラクレスは、半神の英雄ペルセウス(Περσευς)のひ孫にあたる

ゼウス

いや~、めでたい、めでたい

そう、新たな息子の誕生を今から喜んだゼウスが、オリュンポスの神々の前で、その子が成長した後に「王」となることを宣言したのです。

その「オリュンポスの神々」には、最高神の正妻である結婚の女神ヘラ(Ἥρα)も含まれていたのだから救いようがありません。

ヘラ

ブチブチブチブチ……
またやってくれたのぅ……あんの色ボケじじぃ‼‼

夫の浮気相手に対するえげつない報復に定評のあった神々の女王は、出産の女神エイレイテュイア(Ειλειθυια)と運命の女神モイライ(Μοῖραι)の3姉妹に命じて、アルクメネのお産を徹底的に妨害させることにしました。

アンニーバレ・カラッチ『ゼウスとヘーラー』1597年
アンニーバレ・カラッチ
『ゼウスとヘーラー』 1597年 PD

さらにヘラは、ミュケナイとティリンスの現支配者であるステネロス(Σθένελος)ニキッペ(Νικίππη)の子で、やはりペルセウスの血を引くエウリュステウス(Εὐρυσθεύς)の出産を早め、妊娠7ヶ月の段階で彼が誕生するよう強要――。

ゼウスが、

ゼウス

次に生まれてくるペルセウスの子孫が、
全アルゴスの王となるであろう

と宣言した対象が、別の赤ん坊になってしまうよう、人間たちの運命を意図的にじ曲げてしまいました。

ことと

まーた神々のやりたい放題で人間が振り回されているのね
ちょっと引くレベルの執拗さだわ

ヒヒ

このため、ミュケナイの王位はヘラクレスではなく
エウリュステウスが継ぐことになったのじゃ

ギリシャの風景

それでも怒りがおさまらないヘラは、これまた出産を司る女神ルキナ(lux)*に命じて、さらにアルクメネのお産を妨害させます。
※エイレイテュイアと同一視されるほか、ヘラの一側面とも言われる

アルクメネ

グェェェェェェ…
し、死ぬこれ…

ただでさえ予定日を大幅に超過しているうえ、異常に身体の大きな赤ん坊をその身に宿していたアルクメネは、7日7晩もの間とんでもない陣痛に耐えなければなりませんでした。

幸い、非常に賢かった侍女の一人ガランティス(Γαλανθίς)が、主人の出産に神々が介入していることに気が付き、その機転によって一時的に妨害を中止させることに成功します。

アルクメネはその隙に、元気な3人の赤ん坊を産み落としました。

ジャン・ジャック・フランソワ・ル・バルビエ『ヘラクレスの誕生』年代不明
ジャン・ジャック・フランソワ・ル・バルビエ
『ヘラクレスの誕生』 年代不明 PD

最初の2人は、イピクレス(Ἰφικλῆς)ラオノメ(Λαονόμη)の兄妹。

こちらは、本物の夫アムピトリュオンとの間にできた子どもたちでした。

そして、残るもう1人こそが、今回の主人公ヘラクレス――。

主神ゼウスの血を引く息子で、とんでもない苦労人としての人生を歩むことになる、ギリシャ神話随一のスーパーヒーローです。

とと(父)

彼の幼名(本名)は「アルケイデス(Ἀλκείδης)」といって、実際に「ヘラクレス」と呼ばれるようになるのは、だいぶ先の話なんだ!

ことと

とはいえややこしすぎるので、当ブログでは
便宜上「ヘラクレス」表記で統一しているわよ

シャピュイ、イポリット『蛇を締める幼いヘラクレス』1890年
シャピュイ、イポリット
『蛇を締める幼いヘラクレス』 1890年
出典:ニューヨーク公共図書館 PD

神々の妨害を受けながらも、無事に出産を終えたアルクメネ

ようやく平穏が訪れるかと思いきや、8ヶ月後、そんな彼女を次なる恐怖が襲いました。

アルクメネ

なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!

アルクメネが赤ん坊の様子を見るために寝室を覗き込んだところ、そこには見覚えのない、2匹の恐ろしい毒蛇の姿が。

それだけでも十分にヤバすぎる状況ですが、兄弟のイピクレスが泣きじゃくる一方で、生後間もないヘラクレスは、その蛇たちを一瞬のうちに素手でめ落としてしまいます。

実はこれ、いまだに怒り冷めやらぬヘラが、不義の子に対する嫌がらせとしてけしかけたものでした。
※ヘラクレスが自分の子か確かめようとしたアムピトリュオンが放ったとも

ベルナルディーノ・メイ『我が子に驚くアルクメーネー』1676年
ベルナルディーノ・メイ
『我が子に驚くアルクメーネー』 1676年 PD
ヘラ

ぐぬぬぬぬぬ……
一から十までなんか腹立つクソガキじゃのぅ……

こうして、嫉妬深い神々の女王に完全にロックオンされたヘラクレスは、ここから涙なしでは語れぬ、苦しみに満ちた波乱万丈の人生を送ることになったのです。

ヘラクレス誕生の詳細はコチラ!

【別伝】いろいろな逸話が語られたよ!ヘラとヘラクレスの因縁!

一説によると、ヘラクレスのポテンシャルとヘラの怒りを恐れたアルクメネは、神の血を引く幼子を市外の野原に捨てたとも言われています。

ある日、ヘラが戦いの女神アテナ(Αθηνη)を伴って下界を散歩していた時のこと。
※ゼウスの命でアテナがヘラを連れ出したとも

アテナ

あっ、ヘラの姐さん、あんなとこに赤ん坊が
捨てられとりまっせ

ヘラ

あらあら、こんなに可愛いのにのぅ

それが、夫ゼウスの不義の子ヘラクレスであることを知らぬヘラは、愛らしく頑健な赤ん坊に愛情を覚え、自分の乳を与えます。

しかし、死すべき人間の母から生まれたとはいえ、生後数日の時点で怪力無双の片鱗を見せたヘラクレスは、想像をはるかに超えた力でヘラの乳房を吸いました。

ヘラ

いっでェェェェェェェ!!!!

ヘラがあまりの苦痛に思わず飛びのいたので、彼女の乳はあたり一面に飛び散り、それらは無数の星となって「天の川(Milky Way)」になったと伝えられています。
※ゼウスがヘラクレスを不死にするために、こっそりヘラの乳を吸わせたとも

ヤコポ・ティントレット『天の川の起源』1575年
ヤコポ・ティントレット
『天の川の起源』 1575年 PD

この後、アテナは不死の力を得たヘラクレスを母アルクメネのもとに返し、彼を大切に育てるよう告げたとも言われています。

いずれにせよヘラクレスは、母の胎内にいる時点からヘラの恨みを買い、とんでもない苦難の人生を歩むことになりました。

ヒヒ

何がどうなっても、結局はヘラに憎まれる…
そういう運命だったのじゃなぁ~

【Tips】ヘラクレス少年の前に示された「2つの道」

今回の主人公ヘラクレスが成長し、ちょうど少年期から青年期へと移る頃、彼は、今後の方向性や進路について思い悩む時期を迎えていました。

そんな若き英雄の前に現れたのが、美徳の女神アレテー(Αρετη)と悪徳の女神カキア(Κακια)です。

アレテーは、ヘラクレスに「真理」と「節制」の道を示し、たゆまぬ努力によって「美徳」と「名誉」を追求する生き方を説きました。

一方でカキアは、若き青年に「快楽」と「怠惰」の道を示し、他者の労働から「富」と「楽しみ」を頂戴する人生を勧めます。

ヘラクレスは、頭の中に天使と悪魔が登場する、よくあるアレのような絵面えづらで悩み抜きましたが、最終的にはアレテーが示す「栄光」の道を選び取ったと伝えられています。

アンニーバレ・カラッチ『ヘラクレスの選択』1596年
アンニーバレ・カラッチ
『ヘラクレスの選択』 1596年 PD

あらすじでわかる『英雄ヘラクレス』の物語

とと(父)

ヘラクレスの活躍を見てみよう!

ことと

それぞれのお話の詳細は個別の記事でも解説しているので、
良ければそちらも見てみてね

若きヘラクレス、女神ヘラの呪いにより家族の命を奪う!

あれから、18年後――。

筋骨隆々とした凛々しくもたくましい青年に成長したヘラクレスは、

  • 継父けいふアムピトリュオンから「戦車の操縦」
  • 狡猾な盗人アウトリュコス(Αὐτόλυκος)から「レスリング」
  • オイカリアの王エウリュトス(Εὔρυτος)から「弓術」
  • 双子の英雄カストール(Κάστωρ)から「剣術」
  • 吟遊詩人ぎんゆうしじんリノス(Λῖνος)から「竪琴たてごとの演奏」

を学び、ガチガチの英才教育を受けた文武両道の人物として知られるようになりました。

その身長は6尺(約180cm)もあり、眼は火のように輝いていて、力においてはすべての者たちに勝り、矢を射ても槍を投げても命中しないということがまるでなかったと伝えられています。

「休息するヘラクレス像」初期ヘレニズム時代のギリシャのオリジナルを基に制作されたローマ帝国時代の複製
「休息するヘラクレス像」
初期ヘレニズム時代のギリシャのオリジナルを基に制作されたローマ帝国時代の複製
出典:Jastrow CC BY 2.5

しかし、彼は生まれつき粗暴な性格をしていたらしく、とあるトラブルによって、師の一人であるリノスの命を奪ってしまいました。
※殴られたのでキレてやり返したら死なせてしまった

この一件自体は、正当防衛により不起訴処分となりましたが、暴力事件の再発を恐れたアムピトリュオンは、ヘラクレスを山の牛飼い場で養育することにします。

そんな折、テスピアイの地で、とある獣害事件が発生しました。

キタイロン山から下りて来た獰猛どうもう獅子ししテスピオス(Θέσπιος)の領地で暴れまわり、彼と継父けいふアムピトリュオンが所有する牛の群れを襲うようになったのです。

有り余るエネルギーを持て余したヘラクレスは、この害獣退治に名乗りを上げ、見事に任務を達成――。

彼は戦利品として得た獅子ししの毛皮を頭にかぶり、以降これは、英雄ヘラクレスを象徴する代表的なアイテムとして知られるようになりました。

ネメアの獅子
ライオンのイメージ

ちなみに、神の血を引く英雄の遺伝子を欲したテスピオス王は、ヘラクレスがテスピアイに滞在した50日のあいだ、50人の愛娘たちを毎晩代わるがわるその寝室へと派遣。

その結果、彼女ら全員が予定通り身ごもり、当の本人が知らぬ間に、総勢51名もの子どもが誕生したと伝えられています。

ヘラクレス

毎晩、同じ子が通って来てると思ってたよ

51名のヘラクレスの子どもたちはコチラ!

その後、テスピアイを後にしたヘラクレスは、先王時代のトラブルに端を発する多額の賠償金問題を抱えたテーバイの街を訪れました。

彼はそこで、補償を請求しに来たオルコメノスの使者を酷い目に遭わせて送り返し、真正面から堂々と宣戦を布告――。

戦いの女神アテナ(Αθηνη)から武器を授かったヘラクレスは、自ら将軍として兵を率い、その圧倒的な力をもって敵勢を撃破したうえ、これまでに支払ってきた賠償の倍にもなる貢物みつぎものをテーバイの地にもたらすことに成功します。

戦場のイメージ
ことと

な、なんだか突拍子も脈絡みゃくらくもない
ムーブをかましてるように見えるわね…

とはいえ、この降って湧いたような奇跡の大勝利に、テーバイの王クレオン(Κρέων)は諸手を挙げて大歓喜。

テンションMAXのうっきうき状態となった彼は、ヘラクレスへの褒美として、娘の一人であるメガラ(Μεγάρα)をその妻にと差し出しました。

この縁談もなんやかんやでトントン拍子に進み、夫婦となった2人のあいだには、テリマコス(Θηρίμαχος)デイコオン(Δηικόων)クレオンティアデス(Κρεοντιάδης)という3人の息子たちも誕生します。

さらにヘラクレスは、このタイミングで、

  • 伝令の神ヘルメス(Ἑρμης)より「剣」
  • 光明の神アポロン(ΑΠΟΛΛΩ)より「弓」と「矢」
  • 鍛冶の神ヘパイストス(Ἥφαιστος)より「黄金の胸当て」
  • 戦いの女神アテナより「長衣ペプロス

を授かり、人間からも神々からも愛される、まさに絵に描いたような「人望のある英雄像」を体現しました。
※自慢の「棍棒こんぼう」だけは自前らしい

「ヘラクレスとその息子テレポス」大理石:西暦1世紀または2世紀のローマ時代の複製
「ヘラクレスとその息子テレポス」大理石
:西暦1世紀または2世紀のローマ時代の複製 PD

一家は幸せな生活を送りましたが、その様子を苦虫を嚙み潰したような表情で睨みつける、1人の女性の姿が――。

その正体は結婚の女神ヘラ(Ἥρα)、オリュンポスの頂点に君臨する神々の女王です。

彼女は、夫ゼウスとその不倫相手の間に生まれたヘラクレスのことを、執拗なまでに憎んでいました。

ヘラ

ぐぬぬぬ……
不義の子風情が、人並みの幸福を得られる
と思うたら大間違いじゃ!!

ヘラ

それぃ!!
自らの手で台無しにしてまえやぁぁ!!

嫉妬の炎を燃やした女神ヘラは、憎き半神の英雄に呪いをかけ、彼を狂気へと陥れます。

ヘラクレス

……!!!

ヘラクレス

ウォォォォオォォォォォォォォォォォ‼‼‼‼

突如として発狂したヘラクレスは、その神懸かみがかった怪力をリミッターが外れた状態でぶん回し、愛する妻メガラと3人の息子たち、そして異父兄弟であるイピクレス(Ἰφικλῆς)の2人の子どもを火中に投じて、その命を奪い去ってしまいました。
※メガラだけは生存するルートもある

狂気のヘラクレスが息子を手に掛ける様子-紀元前350~320年頃 マドリード国立考古学博物館
狂気のヘラクレスが息子を手に掛ける様子
-紀元前350~320年頃 マドリード国立考古学博物館
出典:Rowanwindwhistler CC BY-SA 4.0
メガラ

あ、あんたぁ……
なんてことを……

メガラ

急にどうしたんや……

メガラ

バタッ

メガラの気の毒な人生はコチラ!

幸せな家庭生活から一転、目の前に広がるのは地獄のような光景ばかり――。

正気を取り戻したヘラクレスは自身が犯した罪に絶望し、一人テーバイの地を後にします。

彼は、テスピアイの王テスピオスから罪を浄められた後も贖罪しょくざいすべを求めて各地を放浪し、ついに神託の地デルフォイ(Δελφοί)へと辿り着きました。

アルベール・トゥルネール-古代デルフィの想像図1894 年
アルベール・トゥルネール
-古代デルフィの想像図 1894年 PD

ヘラクレスが、

ヘラクレス

おぉぉお…
このとんでもなく罪深い私は、
どこに住み何を成せば良いというのでしょうか…

と、神に問うと、神託の巫女みこピュティア(Πυθία)は、

ピュティア

汝、ヘラクレス*よ…
そなたはティリンスに住み、そこでエウリュステウス
12年間仕え、命じられる10の仕事を行うがよい

ピュティア

さすれば汝は不死の存在となるであろう

と告げたと伝えられています。

ヒヒ

前項にも書いとるが、本来はここで初めて
ヘラクレス」の呼称が登場するのじゃな

こうしてヘラクレスは、ミュケナイの王エウリュステウス(Εὐρυσθεύς)に仕える身となり、ここからかの有名な『12の功業』と呼ばれる大冒険が幕を開けることになるのです。

贖罪のヘラクレスと、無理難題だらけの『12の功業』!

さて、デルフォイでの神託を受けたヘラクレスは、そのお告げに従い、エウリュステウス王のもとを訪ねました。

皆さんは、この「エウリュステウス」なる人物のことを覚えておいででしょうか。

そう、ヘラクレスがまだ母アルクメネのお腹の中にいた頃、女神ヘラの策略によって誕生の順番を操作され、主神ゼウスが発した

ゼウス

次に生まれてくるペルセウスの子孫が、
全アルゴスの王となるであろう

という予言の対象に無理やり据えられた、あのエウリュステウスです。

ダニエル・サラバット『ヘラクレスはエウリュステウスにアマゾネスの女王のベルトを渡す』
ダニエル・サラバット
『ヘラクレスはエウリュステウスにアマゾネスの女王のベルトを渡す』 PD
とと(父)

ペルセウスの孫にあたるのがエウリュステウス、ひ孫にあたるのがヘラクレスだから、どちらも条件は満たしているんだよね!

エウリュステウスは最高神の宣言通り、ティリンスやミュケナイといったアルゴスの主要都市を支配する王となっていましたが、やはり神々の無理な介入によってその地位に就いたためか、どう考えてもそれだけの大所帯を率いる器の人物ではありませんでした。

腑抜ふぬけの臆病者である彼は、バチバチに気合の入った親戚を見るなり、

エウリュステウス

(えっ、こんないかつい筋肉野郎にも王位継承権があんの…?)

エウリュステウス

(わしの地位、ワンチャン奪われるんじゃね…?)

と、すぐさま保身に走り、邪魔なヘラクレスを亡き者とするために、あえて達成不可能と思われる無理難題を彼に押し付けようと考えます。

ことと

いよいよ、ここから『12の功業』が始まるのね

ヘラクレス

いや~もうね、ほんとに大変だったんだから

リリアのモザイク(スペイン、バレンシア)「ヘラクレスの12の功業のすべて」
リリアのモザイク(スペイン、バレンシア)
「ヘラクレスの12の功業のすべて」
出典:Carole Raddato CC BY-SA 2.0

【第1の功業】ネメアの獅子の討伐

ヘラクレスに命じられた最初の課題は、アルゴリス地方を荒らし回っていた害獣、ネメアの獅子しし(Νεμέος λέων)を退治することでした。

彼は、神の血を引く膂力りょりょくを遺憾なく発揮して、満身の力を込めた矢を獣に放ちますが、鋼鉄の皮膚をもつ獅子ししには、ほんの少しのダメージすらも与えることができません。

そこでヘラクレスは、獰猛どうもうなライオンの首を締め上げ、気道を物理的にふさぐことで窒息死にもち込み、ついにその巨獣を仕留めました。

刃を通さぬ獅子ししの毛皮は、その後、英雄が装備する防具のアップグレードに活用されています。

第1の功業の詳細はコチラ!

ピーテル・パウル・ルーベンス『ヘラクレスとネメアの獅子の戦い』1639年頃
ピーテル・パウル・ルーベンス
『ヘラクレスとネメアの獅子の戦い』 1639年頃 PD

【第2の功業】レルネのヒュドラ退治

ヘラクレスは第2の試練として、レルネの泉の近くに棲む九頭の毒蛇ヒュドラ(Ὑδρα)の討伐を命じられました。

半神の英雄は自慢の棍棒こんぼうを振り回して水蛇の頭を潰しますが、ヒュドラの傷口からは叩きのめすたびに新しい首が生えてくるので、戦っても戦ってもまるできりがありません。

そこで彼は、甥でもある戦車兵イオラオス(Ἰόλαος)と協力し、ヘラクレスが首を斬り落とした直後に、間髪かんぱつ入れずイオラオスがその傷口を焼きふさぐという作戦で、どうにか勝利をつかみました。

ただし、この仕事はヘラクレスが単独で成し遂げたものではないと見なされ、エウリュステウス王によって「ノーカン認定」を受けています。

ちなみに、ヒュドラがもつ致死性の猛毒は、半神の英雄が放つ「矢」のアップグレードに活用されました。

第2の功業の詳細はコチラ!

アントニオ・デル・ポッライオーロ『ヘラクレスとヒュドラ』1475年
アントニオ・デル・ポッライオーロ
『ヘラクレスとヒュドラ』 1475年 PD

【第3の功業】ケリュネイアの鹿の捕獲

ヘラクレスが受注した第3の仕事は、アルカディア地方に棲むケリュネイアの鹿(Ελαφος Κερυνιτις)を捕獲する、というものでした。

その巨大な雌鹿めじかは、狩猟の女神アルテミス(ΑΡΤΕΜΙΣ)が所有する神聖な動物だったため、おいそれと傷付けるわけにはいきません。

そこで彼は、1年間にわたる執拗なストーキング行為でターゲットを疲れさせ、一瞬の隙を突いて彼女を生け捕りにするという作戦を採用しました。

アルテミス本人の承諾も得て雌鹿めじかを王都へと連れ帰ったヘラクレスは、最後には約束通り、その身柄を解放しています。

ちなみに、この鹿をペットにしようと目論んでいたエウリュステウス王は、ブチギレで英雄に次の指令を言い渡しました。

第3の功業の詳細はコチラ!

ルーカス・クラナッハ『ヘラクレスとアルカディアの鹿』1537年以降
ルーカス・クラナッハ
『ヘラクレスとアルカディアの鹿』 1537年以降 PD

【第4の功業】エリュマントスの猪の捕獲

ヘラクレスは第4の課題として、アルカディア地方を荒らすエリュマントスの猪(Ἐρυμάνθιος κάπρος)を捕獲せよ、という命令を受けました。

彼は、この仕事を始めるにあたって友人のポロス(Φόλος)のもとを訪ねますが、この時、葡萄酒ぶどうしゅをめぐってケンタウロス(Κένταυρος)*の一族と揉め事を起こし、両者の間には浅からぬ因縁が生じています。
※ギリシャ神話に登場する半人半馬の種族で、複数形はケンタウロイ(Κενταυροι)

本題の方はというと、ヘラクレスケンタウロスの賢者ケイロン(Χείρων)の助言を受け、猪を雪深い山地へと追い込み、疲弊させることでその捕縛に成功しました。

第4の功業の詳細はコチラ!

フランシスコ・デ・スルバラン『ヘラクレスとエリマンスの猪』1634年
フランシスコ・デ・スルバラン
『ヘラクレスとエリマンスの猪』 1634年 PD

【第5の功業】アウゲイアス王の家畜小屋掃除

どんな無茶振りに対しても”英雄的活躍”で返してくるヘラクレス苛立いらだったエウリュステウス王は、彼に与える第5のミッションとして、エリスの王アウゲイアス(Αυγειας)が所有する家畜小屋の清掃を命じました。

30年近く一切手入れもされずに放置されたその厩舎きゅうしゃは、想像を絶する不潔な状態となっていましたが、この仕事に不満を感じた半神の英雄は画期的な対応策を思い付きます。

彼は、付近を流れるアルフェイオス川(Αλφειός)とペネイオス川(Πηνειός)の流れを強引に合流させ、その濁流だくりゅうをもって30年分の汚れを海の彼方へと流してしまったのです。

しかし、エウリュステウスは、仕事をしたのは「川」であるという理由で今回の功業を「ノーカン認定」したうえ、アウゲイアス王もヘラクレスへの報酬の支払いを拒絶しました。

第5の功業の詳細はコチラ!

リリア出土のローマ時代のモザイク「アウゲイアスの厩舎を掃除するヘラクレス」3世紀頃
リリア出土のローマ時代のモザイク
「アウゲイアスの厩舎を掃除するヘラクレス」 3世紀頃
出典 CC BY-SA 3.0

ちなみにヘラクレスはこの冒険において、オレノスの王女ムネシマケー(Μνησιμάχη)に無理やり求婚した(とされる)ケンタウロスエウリュティオン(Ευρυτιων)をぶっ飛ばしたりもしています。

【第6の功業】ステュムパロスの鳥の討伐

ヘラクレスは第6のミッションとして、アルカディアの沼沢地しょうたくちに生息するという、ステュムパロスの鳥(Ορνιθες Στυμφαλος)の駆除を命じられました。

人間の鎧すらも容易に貫通するほどの鋭いくちばしをもち、その獰猛どうもうな性質で周辺地域を恐怖に陥れたとはいえ、所詮しょせん「鳥」は「鳥」。

ヘラクレスの相手になるような存在ではありませんでしたが、問題となったのは、気が遠くなるようなその「数」でした――。

どうにも手を出しあぐねた英雄は、戦いの女神アテナ(Αθηνη)より「青銅製のラトル」*を授かり、その爆音で動物たちを驚かせます。
※振ると音が鳴る赤ちゃん用のおもちゃ、「ガラガラ」のこと

ヘラクレスは、一斉に空へと飛び立った害鳥たちを一羽ずつ弓矢で叩き落し、無事に今回の功業をやり遂げました。

第6の功業の詳細はコチラ!

ギュスターヴ・モロー『ステュムパロス湖のヘラクレス』1875-1880年頃
ギュスターヴ・モロー
『ステュムパロス湖のヘラクレス』 1875-1880年頃 PD

【第7の功業】クレタ島の雄牛の捕獲

ヘラクレスは第7の課題として、海神ポセイドン(ΠΟΣΕΙΔΩΝ)によって地上にもたらされたという、クレタ島の雄牛(Κρὴς ταῦρος)の捕獲を命じられました。

この動物は、王妃パシパエ(Πασιφάη)と交わって牛頭人身ぎゅうとうじんしんの怪物ミノタウロス(Μινώταυρος)の父になったともされる、なかなかのいわくつき物件です。

とはいえ、中身は多少凶暴な性格をしているだけの単なる雄牛。

ヘラクレスはその生け捕りになんなく成功し、最終的に行き場を失った牛は、再び野に放たれることとなりました。

その後、彼はマラトンの地で暴れまわり、若き日のアテナイの王テセウス(Θησεύς)によって討伐されたと伝えられています。

第7の功業の詳細はコチラ!

フランシスコ・デ・スルバラン『ヘラクレスとクレタの牡牛』1634年
フランシスコ・デ・スルバラン
『ヘラクレスとクレタの牡牛』 1634年 PD

【第8の功業】ディオメデスの人喰い馬の捕獲

ヘラクレスは第8の試練として、トラキアの蛮族王ディオメデス(Διομηδης)が所有する人喰い牝馬の捕獲を命じられました。

この4頭の馬たちは、えさとして「人肉」を与えられていたため、次第に狂気じみた獰猛どうもうな性質を有するようになったのだとか。

軍勢を率いて現地に乗り込んだヘラクレスは、部下の一人を失いながらも、いつも通り危なげなく戦いに勝利。

ディオメデス王の遺体をむさぼった牝馬たちは、ここでようやく正気を取り戻し、人間たちの指示に従うようになったと言われています。

第8の功業の詳細はコチラ!

ギュスターヴ・モロー『自らの馬に喰い殺されるディオメデス』1866年
ギュスターヴ・モロー
『自らの馬に喰い殺されるディオメデス』 1866年 PD

【第9の功業】アマゾンの女王ヒッポリュテの腰帯を入手

エウリュステウス王は娘アドメテ(Ἀδμήτη)の願いを叶えるため、ヘラクレスに第9の課題として、アマゾンの女王ヒッポリュテ(Ἱππολύτη)が所有する「魔法の腰帯」を持ち帰ることを命じました。

戦う気満々で部隊を編成した半神の英雄でしたが、そんな彼に一目惚れした女王は、まさかの二つ返事で「腰帯」の譲渡に同意します。

しかし、ヘラクレスが労せず任務に成功することを良く思わなかった神々の女王ヘラ(Ἥρα)が、アマゾンの女性たちの間に不穏な噂を流布るふさせ、結局は両陣営が武力衝突する事態へと発展しました。

英雄は、混乱するヒッポリュテの「命」と「目的物」を奪い取り、足早に現地を後にしたと伝えられています。

第9の功業の詳細はコチラ!

ニコラウス・クニュプファー『ヒッポリタのベルトを手に入れるヘラクレス』1650年
ニコラウス・クニュプファー
『ヒッポリタのベルトを手に入れるヘラクレス』 1650年 PD

ちなみにこの冒険では、本題をクリアする前後に、以下のような紆余曲折が生じました。

  • パロス島(Πάρος)寄航きこうした際、クレタ島の王ミノス(Μίνως)の息子たちの手によって、2名の船員の命が奪われる。
  • 報復のために軍勢を派遣して敵を囲んだヘラクレス、手打ちとしてアルカイオス(Ἀλκαῖος)ステネロス(Σθένελος)の身柄をもらい受ける。
    ※今回の遠征の手伝いをさせている
  • ミュシアの王リュコス(Λύκος)の客人となり、ベブリュクス人との戦争に手を貸して多数の敵を討伐、獲得した土地を彼に与える。
    ※リュコスはその地全体を「ヘラクレイア(Ἡράκλεια)」と呼んだ
  • トロイアの王ラオメドン(Λαομέδων)の依頼で海の怪物ケトス(Κητος)を討伐するも、報酬の支払いを反故ほごにされる。
    ※『12の功業』が終わった後にきっちりと報復している
  • アイノスの王ポルテュスの客人となるが、帰り際に彼の兄弟であるサルペドン(Σαρπήδων)の命を奪う。
  • タソスに住むトラキア人を征服し、その土地をアルカイオスステネロスの兄弟に与える。
    ※行きの道中で船団に加わった2人
  • トロネに住むポリュゴノステレゴノスに相撲勝負を挑まれたので、返り討ちにして命を奪う。

トロイアでのゴタゴタの詳細はコチラ!

【第10の功業】ゲリュオンの牛の群れの捕獲

ヘラクレスは第10の功業として、三位一体さんみいったいの怪物ゲリュオン(Γηρυών)が所有する「赤い牛」を連れ帰ることを命じられました。

この世界の西の果て、大洋の神オケアノス(Ωκεανός)*の向こうにあるとされるエリュテイア島(Ερυθεια)を目指した英雄の一行は、太陽神ヘリオス(Ἥλιος)との出会いなどを果たしつつも、着実に目的地へと歩を進めます。
※大地を流れる川のような形で存在している

ついに伝説の島へと到達したヘラクレスは、そこで平和に牛を飼っていただけのゲリュオンと、番犬を務めた双頭の犬オルトロス(Ορθρος)、そして牧夫のエウリュティオン(Εὐρυτίων)を葬り、お目当ての牛の群れを奪い去って行きました。

第10の功業の詳細はコチラ!

キュリクスの外部と内部の赤像式装飾「ヘラクレスと戦うゲリュオン」1894年
キュリクスの外部と内部の赤像式装飾
「ヘラクレスと戦うゲリュオン」1894年
上部中央に矢で射られたオルトロス
出典:ニューヨーク公共図書館 PD

ちなみに今回の冒険の帰途においては、以下のようなミニイベントも発生しています。

  • 海神ポセイドン(ΠΟΣΕΙΔΩΝ)の息子であるイアレビオンデルキュノスが牛を奪おうとしてきたので、2人まとめてシバき上げる。
  • 1頭の牝牛が海に飛び込んでシシリーに泳ぎ渡ったことが、「イタリア」という地名の由来となる。
    ※一部の人々は牝牛を「イタロス(Italos)」と呼んだとされることから
  • これまたポセイドンの子であるエリュモイ人の王エリュクス(Ερυξ)が牛をパクろうとしたので、3度の相撲勝負で負かしたうえで命を奪い、目的物を奪還する。
  • 火を吐く巨人カクス(Κακος)にも牛をパクられたので、いつも通り暴力で相手をねじ伏せ、目的物を奪還する。
  • 結婚の女神ヘラが牛の群れにあぶを送り込み、トラキアの山の麓で散り散りとなって頭数を減らす。
  • ストリュモン河(Στρυμών)の流れを岩で塞いで道を切り拓く。

【第11の功業】ヘスペリデスの黄金の林檎りんごを入手

本来は、「10」の仕事をやり遂げれば解放されたはずのヘラクレスでしたが、うち2つの功業がエウリュステウス王によって「ノーカン認定」されたため、英雄はさらに2件の課題を押し付けられることになりました。

こうして11番目のミッションとされたのが、「ヘスペリデスの園」にあるという「黄金の林檎りんご」を持ち帰ること――。

この物語には、大きく分けて以下の2つの展開が存在します。

  • 自力で目的地にたどり着いたヘラクレスが、林檎りんごの樹を守る百頭の竜ラドン(Δρακων)をぶちのめし、普通に目的物を持ち帰る
  • 黄昏たそがれの娘たちヘスペリデス(Ἑσπερίδες)の父親である天を支える巨人アトラス(Ἄτλας)に依頼し、林檎りんごの実を持ってきてもらう
    ※ヘラクレスはアトラスにめられかけたが、機転を利かせて窮地を脱している

第11の功業の詳細はコチラ!

Aldegrever, Heinrich『Hercules Killing the Dragon Ladon』1550年
Aldegrever, Heinrich
『Hercules Killing the Dragon Ladon』 1550年
出典:ニューヨーク公共図書館 PD

ちなみに今回の冒険では、目的地である「ヘスペリデスの園」に到着する前に、以下のような紆余曲折が生じました。

  • 戦いの神アレス(ΑΡΗΣ)と凶暴な盗賊キュクノス(Κύκνος)の親子に喧嘩を売られたので、真正面からぶっ飛ばす。
    ※ゼウスの仲裁を受けたとする場合も
  • 眠っていた海の老人ネレウス(Νηρεύς)をシバき上げ、「ヘスペリデスの園」の場所と「林檎りんご」の在り処を吐かせる。
  • リビアの巨人王アンタイオス(Ανταιος)に相撲勝負を強制されたので、骨をバキバキに粉砕してほふる。
  • 異邦人をゼウスへの生け贄に捧げていたエジプトの王ブシリス(Βουσιρις)に拘束されたので、本人たちをぶっ飛ばして犠牲とする。
  • 他人様ひとさまの牛を勝手にほふって食料としたので、持ち主から呪われる。
    ※この逸話から、ヘラクレスに犠牲を捧げる際は呪いもセットになったらしい
  • 暁の女神エオス(Ἠώς)の息子であるアラビアの王エマティオン(Ἠμαθίων)の命を奪う
  • 太陽神ヘリオスから「黄金のさかずき」を授かり、オケアノスの海を渡る。
    ※三位一体の怪物ゲリュオンの話と被っている?
  • 先見の神プロメテウス(Προμηθεύς)の肝臓をついばんでいたコーカサスの大鷲おおわし(Αετος Καυκασιος)を、得意の矢で射落とす。
  • プロメテウスを解放する代わりに、自ら死を望んだケンタウロスの賢者ケイロン(Χείρων)を主神ゼウスに呈する。

【第12の功業】冥界の番犬ケルベロスの捕獲

ヘラクレスの功業の記念すべきラストを飾ったのが、冥界の番犬ケルベロス(Κέρβερος)の捕獲大作戦です。

最後のミッションといえば、難易度的にも最高レベルを誇るのが世の常というもの――。

意を決して恐ろしい死者の国へと降り立つ英雄でしたが、そこを支配する冥府の王ハデス(ΑΙΔΗΣ)は、

ハデス

武器を使ったり傷つけたりしないなら、別にいいよ~

と言って、意外にもあっさりとケルベロスの貸し出しに同意してくれました。

ヘラクレスは、獰猛どうもうな猟犬の姿をエウリュステウス王に見せつけてビビらせた後、約束通りケルベロスの身柄を無傷で冥界へと返還。

こうしてついに、半神の英雄は苦難に満ちた『12の功業』をすべてやり遂げ、ようやく自由の身となったのです。

第12の功業の詳細はコチラ!

フランシスコ・デ・スルバラン『ヘーラクレースとケルベロス』1634年
フランシスコ・デ・スルバラン
『ヘーラクレースとケルベロス』 1634年 PD

ちなみに最後の冒険では、冥界の主であるハデスとの謁見えっけんの前に、以下のような紆余曲折が生じました。

  • 死者の世界にとらわれたアテナイの王テセウス(Θησεύς)とラリッサの王ペイリトゥス(Πειρίθους)を発見し、どうにかテセウスのみ解放に成功する。
    ※両方助けたとする説も
  • 冥界の果樹農家アスカラポス(Ασκαλαφος)を封印した岩を転がして除ける
    ※豊穣の女神デメテル(ΔΗΜΗΤΗΡ)を怒らせて封じられた人物で、この後「みみずく」の姿に変えられる
  • 冥府の牝牛を1頭ほふって犠牲に捧げる
  • 牝牛の飼い主であるメノイテス(Μενοΐτης)に相撲勝負を挑まれたので、脇の骨を粉々に砕く
エウリュステウス

ぐぬぬ…
この無茶振りの過程で、あやつめが
亡き者となればと思うたが……

エウリュステウス

口惜しや……

ヘラの怒り再び!まだ許されぬヘラクレスの苦労は続く!

かの有名な『12の功業』を全クリしたヘラクレスは、テーバイの地を訪れ、オイカリアの王女イオレ(Ἰόλη)を妻に得るために、王主催の弓術大会に出場します。

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