
こんにちは!
今回はギリシャ神話より
俊足の女狩人アタランテを紹介するよ!



今回は人間族の紹介ね
彼女はどんなキャラクターなの?



彼女はアルカディア出身の狩人で、脅威の俊足と美貌を誇り、
様々な冒険譚で名声を得た女性なんだ!



有名なイベントには大体顔を出しているタイプの人物じゃな



ではさっそくいってみよう!
このシリーズでは、忙しいけど「ギリシャ神話」についてサクっと理解したいという方向けに、「かんたん・わかりやすい」がテーマの神々の解説記事を掲載していきます。
雄大なエーゲ海と石灰岩の大地が生み出した、欲望に忠実な神々による暴力的でありながらもどこかユーモラスな物語群が、あなたに新たなエンターテイメントとの出会いをお約束します。
人間味溢れる自由奔放な神々の色彩豊かで魅力的な物語に、ぜひあなたも触れてみてくださいね。
今回は、男児を望んでいた父に捨てられた苦労人ながらも、その苦境に負けず弓の名手としてメキメキと頭角を現し、アルゴナウタイの冒険やカリュドーンの猪狩りで名を馳せた、ド根性叩き上げの女狩人アタランテをご紹介します!



忙しい人はコチラから本編にすっ飛びじゃ
この記事は、以下のような方に向けて書いています。
- ギリシャ神話にちょっと興味がある人
- ギリシャ神話に登場する神さまのことをざっくり知りたい人
- とりあえず誰かにどや顔でうんちく話をしたい人
- ギリシャ神話に登場する「俊足の女狩人アタランテ」について少し詳しくなります。
- あなたのエセ教養人レベルが1アップします。
そもそも「ギリシャ神話」って何?
「ギリシャ神話」とは、エーゲ海を中心とした古代ギリシャ世界で語り継がれてきた、神々と人間の壮大な物語群です。
夏には乾いた陽光が降り注ぎ、岩と海とオリーブの木が広がる土地に暮らした人々は、気まぐれで情熱的、そして人間以上に人間らしい神々を生み出しました。
神々は不死である一方、人間と同じように嫉妬し、愛し、怒り、そしてときに残酷な運命に翻弄されます。
現代に伝わる物語の多くは、ホメロスの『イーリアス』『オデュッセイア』、ヘシオドスの『神統記』などの古代叙事詩を原典としています。
王族の愛憎劇に始まり、神々の争いや英雄たちの冒険、時に神と人間の禁断の関係まで——
あらゆる欲望と感情が渦巻くギリシャ神話の世界は、きっとあなたの心を掴んで離さないでしょう。


14世紀ギリシャの写本 PD
「ギリシャ神話」の全体像は、以下で解説しているよ!


俊足の女狩人アタランテってどんな人物?
俊足の女狩人アタランテがどんな人物なのか、さっそく見ていきましょう。



いくぜっ!
簡易プロフィール
正式名称 | アタランテ Ἀταλάντη |
---|---|
名称の意味 | 重さが等しい ※ギリシャ語の「atalantos」 |
その他の呼称 | アタランテー |
ラテン語名 (ローマ神話) | アタランタ(Atalanta) |
英語名 | アタランタ(Atalanta) |
神格 | アルカディアの女狩人 |
性別 | 女性 |
勢力 | 人間族 |
主な拠点 | アルカディアのマエナルス |
親 | 父:アルカディアの王イアソス(Ἴασος) 母:王妃クリュメネ(Κλυμένη) または 父:イアシオン(Ἰασίων)とも 父:イアシオス(Ἰάσιος)とも 父:スコイネウス(Σχοινεύς)とも ※「シェーネウス」とも読む 父:マイナロス(Μαίναλος)とも |
兄弟姉妹 | 諸説あり |
配偶者 | オンケストスの王子ヒッポメネス(Ἱππομένης)またはメラニオン(Μελανίων) |
子孫 | テーバイ攻めの武将パルテノパイオス(Παρθενοπαῖος) ※父親はメラニオンまたはメレアグロスまたは戦いの神アレス(ΑΡΗΣ) |
概要と出自
アタランテはギリシャ神話に登場する人間族の狩人です。
その出生は定かではありませんが、一説によると彼女は、アルカディアの王イアソス(Ἴασος)と王妃クリュメネ(Κλυμένη)の娘とされました。
この他、アタランテをボイオティア出身のスコイネウス(Σχοινεύς)の子とする説、父親の名をイアシオン(Ἰασίων)、イアシオス(Ἰάσιος)あるいはマイナロス(Μαίναλος)とする説などがありますが、いずれも明確な結論は出ていません。


『メレアグロスとアタランテ』1616年頃 PD
彼女の出自には大まかに「アルカディア出身ver.」と「ボイオティア出身ver.」の2つがあり、著述家によってはこれらを同一人物と見なす場合も、独立した個人として区別する場合もあるようです。



いずれにせよ、よく似た物語が語られておるので、
当ブログでは同一人物説で紹介しとるぞぃ
とはいえ、アタランテにとってその出自や家族関係は、たいして重要な問題でもありませんでした。
なぜなら彼女は、世継ぎとして男児を望んでいた父親に勝手に失望され、まだ無力な赤ん坊のうちに、パルテニオン山の洞窟の入り口に捨てられてしまったからです。
その後、雌熊に乳を与えられて命を繋いだアタランテは、森の狩人たちに発見されて養育され、腕の良い弓使いとなりました。
そのような生い立ちも影響してか、彼女は狩猟の女神アルテミス(ΑΡΤΕΜΙΣ)を深く崇拝し、生涯にわたって純潔を守ることを誓ったと伝えられています。



「結婚したら破滅する」という神託も受けていたんよ
ボーイッシュな美女に成長したアタランテは、弓の名手としてのみならず、人間のなかで最も足が速い者としても知られるようになりました。
彼女の貞操を狙った2人のケンタウロス(Κένταυρος)、ヒュライオス(Hylaios)とロエコス(Rhoecus)が森に押し入ってきた際、アタランテはその俊足と必中の矢を用いて、これらの好色な馬を見事に撃滅しています。


その後、「俊足の女狩人」の二つ名が定着した彼女は、コルキスの金羊毛を探し求めるという英雄イアソン(Ἰάσων)の船団「アルゴナウタイ(Ἀργοναῦται)」に参加。
さらに、イオルコスの王ぺリアス(Πελίας)を追悼する競技会において、レスリングで英雄ペレウス(Πηλεύς)に勝利したアタランテは、さらなる名声を得ることとなりました。
ちなみに、「アタランテ」の名前の由来となったのは、「重さが等しい」を意味するギリシャ語の「atalantos」です。
おそらく、狩りや戦いといったガチガチの男性社会において、女性である彼女が対等以上に成功したという事実が、その名称に反映されたものと考えられています。
また、基本的には処女を守ったとされるアタランテですが、どういうわけか彼女は、後のテーバイ攻めの武将パルテノパイオス(Παρθενοπαῖος)を生みました。
ただし、その父親は次項に登場する男性たちとも戦いの神アレス(ΑΡΗΣ)ともされており、その正確な事実は不明です。


『アタランテとヒッポメネス』1632年 PD



苦難に負けず、見事に出世した人なんだね!



ところが、ここからも話は続くのよ
アタランテが関わった主なストーリー



アタランテの活躍を見てみよう!
王さまのうっかりで土地が滅びかける!?
カリュドーンの猪狩りに参加する女狩人!!
あるとき、カリュドーンの王オイネウス(Οἰνεύς)は豊穣の年を祝って神々に盛大な犠牲を捧げることとし、豊穣の女神デメテル(ΔΗΜΗΤΗΡ)には穀物の初穂を、酩酊の神ディオニュソス(ΔΙΟΝΥΣΟΣ)にはワインを、戦いの女神アテナ(Ἀθηνᾶ)には聖なる木から採った油を贈りました。
しかし彼は、もう1柱、犠牲を捧げるべき重要な神格の存在をうっかり失念してしまいます。
その相手というのが、狩猟の女神アルテミス(ΑΡΤΕΜΙΣ)。
彼女は純潔を誓った処女神で、侮辱や不敬に対しては、ことのほか苛烈な態度で応じることでも知られた激情家の乙女でした。


『女狩人アルテミス』19世紀 PD



…は?



あえて、わしをハブると…
いい度胸ではないか、定命の者よ…
自分だけがのけ者にされたとして、怒髪天を突く勢いで怒り狂ったアルテミスは、カリュドーンの地に1頭の素晴らしく巨大な猪を放ちます。
目は血と焔で輝き、剛毛は槍の如く逆立っていて、インド象のような立派な牙をもつその獣は現地で激しく暴れまわり、葡萄やオリーブの木はもちろん、生い立ったあらゆる穀物を踏みにじってしまいました。
小鳥や獣たちの群れもめちゃくちゃに追い込まれ、カリュドーンの地は文字通り、未曾有の大混乱へと陥ります。


Canvaで作成



アバババババ、やってもうた…
事態の早急な解決を望んだオイネウス王は、全ギリシャから勇敢な戦士たちを招集し、件の大猪を討伐した者に、その皮を褒賞として与える旨のお触れを出しました。



王さまがまったく身銭を切っていない件



シャラップ!!
いずれにせよカリュドーンの地には、以下の勇者たちが集ったと伝えられています。
彼らを率いることになったのは、オイネウス王と王妃アルタイア(Ἀλθαία)の息子である英雄メレアグロス(Μελέαγρος)です。
名称 | 出身地 |
---|---|
メレアグロス(Μελέαγρος) | カリュドーン |
プレクシッポス(Πλήξιππος) | |
トクセウス(Τοξεύς) ※上記2名はメレアグロスの母方の叔父 | |
ドリュアース(Δρύας) ※軍神アレス(ΑΡΗΣ)の子 | |
イダス(Ἴδας) | メッセネ |
リュンケウス(Λυνκεύς) | |
カストール(Κάστωρ) | スパルタ ※2人合わせてディオスクロイ(Διόσκουροι) |
ポリュデウケス(Πολυδεύκης) ※上記2名は主神ゼウス(ΖΕΥΣ)とスパルタの王妃レダ(Λήδα)の子 | |
テセウス(Θησεύς) ※ミノタウロス退治の英雄 | アテナイ |
アドメトス(Αδμητος) | ペライ |
アンカイオス(Ἀγκαῖος) | アルカディア |
ケペウス(Κηφεύς) | |
アタランテ(Ἀταλάντη) | |
イアソン(Ἰάσων) ※アルゴナウタイ(Ἀργοναῦται)の船長 | イオルコス |
イピクレス(Ἰφικλῆς) ※ミュケナイの王女アルクメネ(Ἀλκμήνη)の子 | テーバイ |
ペイリトゥス(Πειρίθους) | ラリッサ |
ペレウス(Πηλεύς) ※英雄アキレウス(Ἀχιλλεύς)の父 | プティア |
エウリュティオン(Εὐρυτίων) | |
テラモン(Τελαμών) | サラミス |
アムピアラオス(Ἀμφιάραος) | アルゴス |
ネストル(Νέστωρ) | ピュロス |
ヒュレウス(Ὑλεὺς) | 不明 |
ほか多数、諸説あり


オイネウスはこの英雄たちを9日間にわたって歓待し、いよいよ討伐団が行動を開始する日がやって来ました。
しかし、ここで団長であるメレアグロスは、突拍子もない公私混同ムーブに突っ走ることになります。
というのも、討伐隊に志願した今回の主人公アタランテが、娘とするには男の子らしく、少年とするには女の子らしい凛々しい顔立ちをした見目麗しい女性だったので、武勲を挙げんと息巻く若き英雄の心を一発で掴んでしまったのです。
※アルゴナウタイに同船していたので、どの時点で惚れたかは不明。この時2人が初対面のパターンもある。
メレアグロスは、クレオパトラ・アルキュオネー(Κλεοπάτρη Ἀλκυόνη)という妻がいるにもかかわらず、彼女を自分のものにしたいと考え、独断でアタランテを討伐団の一員に加えました。
ケペウスやアンカイオスほか、23名ものメンバーが女性と共に狩りに出ることを良しとしませんでした*が、リーダーとしての立場を濫用したメレアグロスは、強引に現在の編成のままで軍を進めます。
※古代の価値観です



おれが頭領じゃ、ついてこーい!!



なんかもう、すでに不穏な雰囲気あるけど…
そんなこんなで、どうにかターゲットの大猪に遭遇した討伐隊の一行は、めいめいに剣や槍、斧を手に奮戦し、我こそが褒賞を得んと大立ち回りを演じました。


『カリュドンのイノシシ狩り』1650年 PD
ヒュレウスとアンカイオスは序盤にして早々に獣に屠られ、ペレウスは誤ってエウリュティオンを投げ槍でFF(フレンドリーファイア)してしまいます。
俊足の女狩人と称されたアタランテは猪の背に矢を射込み、ついでアムピアラオスがその眼を射抜きました。
この一瞬の隙を突いて、メレアグロスが大猪の脇腹に剣を突き立て、ついにカリュドーンの地を脅かした害獣が討ち滅ぼされます。
大きな歓声が上がり、英雄たちはみな集まって、互いの健闘を称え合い悦びを述べました。
しかしここで、密かに脳内お花畑状態となっていた討伐団のリーダー・メレアグロスが、血を流して戦った戦士たちを一瞬にして興ざめさせるような、とんでも発言を繰り出します。



う~ん、此度の戦い、MVPはぁ~?
アタランテちゃん!!



猪の毛皮は、彼女にあげちゃうよ~☆



…


『メレアグロスとアタランテ』17世紀 PD
多くの英雄たちは不服ながらも沈黙を守りましたが、母アルタイアの兄弟、つまりメレアグロスの叔父にあたるプレクシッポスとトクセウスは、この処遇に対して大いに不満を示しました。
団長であるメレアグロスが報酬を受け取らないのであれば、その権利は血縁関係のある自分たちに回って来るはずだ、という理屈です。
2人はアタランテの手から、強引に大猪の毛皮を奪い取ってしまいました。



おいこら、わしのアタランテちゃんに
何してくれとんのじゃ!!
激高したメレアグロスは、剣を手にしてプレクシッポスとトクセウスの命を奪い、戦利品をアタランテに与えます。



う~ん、良くない気がする


-アルテミス神殿でアタランテにカリュドーンの猪の首を捧げるメレアグロス
1530年–1535年 PD
これは後から知ったことですが、自分の兄弟が息子によって討たれたという事実を知ったアルタイアは、メレアグロスの生命を繋いでいた「予言の薪」を炉に投げ入れ、母である自らの手でその命を絶ってしまったのだそうです。
その後、アルタイア自身も、メレアグロスの妻であったクレオパトラも自刃し、アタランテの冒険譚とカリュドーンへの見事な貢献は、何とも後味の悪い結末を迎えることとなりました。


有名になり過ぎて求婚者が後を絶たず!
美しき女狩人は恐ろしいデスレースを開催する!?
アルゴナウタイへの参加、競技会での優勝、そしてカリュドーンの猪狩りにおける活躍で名を馳せたアタランテは、いつしかその類まれなる美貌でも有名になっていました。
彼女はこの時点で十分な功績を挙げていたので、父親から故郷へ戻ることを許されていましたが、そんなアタランテを待ち構えていたのは、次から次へと舞い込む有象無象からの「縁談」です。
ところが彼女は、女神アルテミスに純潔を誓っているし、「結婚すると身を滅ぼす」と神託を受けているし、直近ではメレアグロスを失って疲れているし―。


『メレアグロスとアタランテ』1635年頃 PD
いずれにせよ、アタランテの両親はどうにかして娘を嫁に出そうとしましたが、本人が乗り気になることはまったくなかったようです。
しかしながら、そんな彼女の心中にはまったく構うことなく結婚の申し込みに殺到するのが、アタランテの美しさに目がくらんだ軽率な男たち。
1回1回お断りするのが面倒になった彼女は、



私に徒競走で勝った相手と結婚したるわ



その代わり、私に負けたら死んでもらうでのぅ
という、とんでもなく物騒で極端な条件を提示しました。


これで求婚者はいなくなるだろう、というのがアタランテの目論見でしたが、その結果は彼女の予想とはまったく正反対のものとなります。
勝利すれば美しい乙女を妻に得られるが、しくじれば命を落とす。
「高嶺の花」の獲得に俄然意欲を燃やした愚かな男たちが、アタランテ主催の花嫁争奪デスレースにこぞって参加の意思を表明したのです。
こうなっては実際に徒競走大会を実施せざるを得ず、その審判は、オンケストスの王子ヒッポメネス(Ἱππομένης)が担当することになりました。
※ここで登場するのがメラニオン(Μελανίων)の場合もある



妻一人得るために命まで賭けるとな…?
そんな向こう見ずな話があるやろか…



アホちゃう…?
鼻息荒い男たちを半ば馬鹿にしたように見下ろすヒッポメネスですが、アタランテがいざ走り出さんと衣服を脱いだその瞬間、彼の考えは真逆の方向に振り切ります。



…!!!!
ズッキューン☆★☆★



前言撤回!!
若者たちよ、私が悪かった…



君たちがあれほど美しい女性を狙っているとは知らなんだ…
アタランテの完璧な肉体に魅せられたヒッポメネスは、その美しさに夢中になり、参加した男ども全員の敗北を願いました。
実際、彼女は遅れてスタートするなどして参加者たちにハンデを与えますが、その走りっぷりたるや見事なもの。
アタランテは、先行する男たちにあっという間に追いついては、手に握った狩猟用の槍でその命を奪いまくりました。





ほぉ~…
やっていること自体はえげつないものの、疾風の如く駆ける彼女の姿は、普段よりもなお一段と美しく思えます。
そよ風はアタランテの足に翼を与えているかのように感じられ、髪の毛は肩の上に流れて、上衣が華やかに後ろへとひるがえりました。
その真っ白な肌は、大理石の壁の上に赤い垂れ幕を投げたかのように、淡い朱に染まっています。



(な、なぜ私はここで己の運命を試さない…!)



(神々は勇気ある者に加護を与えるのだ…!!)
意を決したヒッポメネスは、他の男たちが辿った悲惨な末路には少しも動じることなく、コースの真ん中に立ってこう言いました。



そんなのろまどもに勝ったとて、大した自慢にはならぬ…!
この私と勝負しよう!!



途中参加はズルくない?
アタランテの方も、突如現れた美しい青年を目の当たりにして、自分が勝ちたいのか負けたいのか、本当の気持ちが分からなくなってきたようです。



(どんな神さまが、あんな美しい人を
そそのかして命を投げ出させるのん…?)



(気の毒に、まだ若いからのぅ…)



(あの人が勝てば良いとすら思うわ…)
走り出すことを躊躇する俊足の女狩人ですが、あまりモタモタしていると、観客たちがその状況を訝しんでしまいます。


『アタランテとの競争に勝利するヒッポメネス』1606年 PD
出典:メトロポリタン美術館
とりあえず、やるしかない…。
そんな局面にあって、勝負を挑んだヒッポメネスの方も、次の一手をどう打つか必死に頭をフル回転させていました。



ヤヴァイヤヴァイヤヴァイ…
言うたはいいものの、具体的なプランが一個もない…



おぉ、愛の女神アフロディーテよ…我を救いたまえ…
私の心に恋の炎を灯したのは、
他でもないあなたなのですから…



いくらなんでも行き当たりばったりすぎんかお前…



まぁ、そういうの嫌いじゃないけど
ほれ、これ使い~
愛のために命を懸けるヒッポメネスの祈りを聞き届けた愛と美と性の女神アフロディーテ(ΑΦΡΟΔΙΤΗ)は、彼に3つの「黄金の林檎」を与えます。
いざ、レースが開始され、ヒッポメネスは必死の形相で全力疾走し、アタランテも不審がられない範囲で様子を見ながら駆けました。
美しきランナーに追いつかれそうになったヒッポメネスは、その都度、アフロディーテに教わった通り黄金の林檎の実を背後に投げつけます。



えっ、なにあれ!?



…どうしてもあれを拾いたい…
その林檎に呪術的なパワーがあったのか、はたまたアタランテも忖度してわざと引っかかったふりをしたのか、いずれにせよ彼女は不思議な果実を拾うために、その都度、足を止めて大きく身をかがめました。
そんなやりとりを繰り返しているうちに、ついにヒッポメネスはゴールに到達、無事レースに勝利して、美しきアタランテを妻に迎えることができたのです。


『アタランテとヒッポメネス』1618年-1619年 PD
この絵の登場人物は女性1人と男性1人に限定されており、構図も単純ではあるものの、それだけに走る2人の躍動感・スピード感の表現がポイントになっています。
他の多くの画家と同様、レーニもヒッポメネスが林檎を後ろに投げ、アタランテが一時停止してそれを拾う瞬間を描きました。
2人の背中では、実用的な意味ではあまり必然性や必要性がない大きな布がひるがえっていますが、これは彼らの速さや勢いを暗示しているのだそうです。
2人は、なんやかんやで結婚できたことを喜びましたが、その嬉しさに浮かれるあまり、とても重要なことを忘れていました。
この愛の成就に直接的な役割を果たした女神アフロディーテに、彼らは感謝の祈りも捧げず、香のひとつも焚かなかったのです。



…あ?



誰のおかげでそうなったのか、もう忘れたんか…
脳内お花畑野郎には、こんな罰がふさわしいのぅ…
恩知らずな人間の態度に憤った彼女は、幸せいっぱいの新婚夫婦を惑わせ、あえて大地の女神キュベレ(Cybele)*の神殿で、彼らが初夜のあれこれに及ぶよう仕向けます。
※大地の女神レア(Ῥέα)と同義、ゼウスの神域を犯したとする説も
当然ながら現地の女神はとんでもない不敬に激しく怒り、ヒッポメネスとアタランテの2人をライオンの姿に変えてしまいました。
なんでも、獣を狩り、多くの男たちの血が流れることを悦んだ(のか?)乙女の精神性を、その姿に反映させたのだそうです。





(わしはアフロディーテの件、知らんかったんやけど…)



ちなみ古代ギリシャでは、ライオンはライオン同士では交わることができず、豹との間にのみ子を成すことができると信じられていたそうだよ!
以降、2頭のライオンには、女神レアが乗る戦車を牽く役割が与えられたと言われています。
彫刻や絵画のなかで描かれる彼女の周りには、今でもそのライオンたちの姿を見ることができるのだそうな。




出典:アムステルダム国立美術館 CC0



象徴的な果実を投げながら逃走するというシーンは、
日本神話の伊邪那岐命の物語にも出てくるのぅ



こちらでは、彼が「桃」の実を投げながら
予母都志許売の追跡をかわすのよね



勝利をもたらしたり邪を祓ったり、この逸話にも「呪術的逃走」のような特別な意味合いがあったのかもしれないよね!


ギリシャ神話をモチーフにした作品



参考までに、「ギリシャ神話」と関連する
エンタメ作品をいくつかご紹介するよ!
おわりに
今回は、ギリシャ神話に登場する俊足の女狩人アタランテについて解説しました。



たくさん活躍したのに、最後はライオンになっちゃったのね



彼女の物語には諸説あるから、
今回紹介したのはそのうちの1つのパターンなんだ!
パパトトブログ-ギリシャ神話篇-では、雄大なエーゲ海が生み出した魅力的な神々や彼らの物語をご紹介していきます。
神さま個別のプロフィール紹介や神話の名場面をストーリー調で解説など、難しい言葉はできるだけ使わずに、あらゆる角度から楽しんでもらえるように持って行こうと考えています。
これからも「ギリシャ神話」の魅力をどんどんご紹介してきますので、良ければまた読んでもらえると嬉しいです!



また来てね!
しーゆーあげん!
参考文献
- ヘシオドス(著), 廣川 洋一(翻訳)『神統記』岩波書店 1984年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『イリアス 上』岩波書店 1992年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『イリアス 下』岩波書店 1992年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『オデュッセイア 上』岩波書店 1994年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『オデュッセイア 下』岩波書店 1994年
- アポロドーロス(著), 高津 春繁(翻訳)『ギリシア神話』岩波書店 1978年
- T. ブルフィンチ(著), 野上 彌生子(翻訳)『ギリシア・ローマ神話』岩波書店 1978年
- 吉田 敦彦『一冊でまるごとわかるギリシア神話』大和書房 2013年
- 阿刀田高『ギリシア神話を知っていますか』新潮社 1984年
- 大林 太良ほか『世界神話事典 世界の神々の誕生』角川ソフィア文庫 2012年
- 中村圭志『図解 世界5大神話入門』ディスカヴァー・トゥエンティワン 2020年
- 歴史雑学探究倶楽部『世界の神話がわかる本』学研プラス 2010年
- 沢辺 有司『図解 いちばんやさしい世界神話の本』彩図社 2021年
- かみゆ歴史編集部『マンガ 面白いほどよくわかる! ギリシャ神話』西東社 2019年
- 鈴木悠介『眠れなくなるほど面白い 図解 世界の神々』日本文芸社 2021年
- 松村 一男監修『もう一度学びたいギリシア神話』西東社 2007年
- 沖田瑞穂『すごい神話―現代人のための神話学53講―』新潮社 2022年
- 杉全美帆子『イラストで読む ギリシア神話の神々』河出書房新社 2017年
- 中野京子『名画の謎 ギリシャ神話篇』文藝春秋 2015年
- 千足 伸行監修『すぐわかるギリシア・ローマ神話の絵画』東京美術 2006年
- 井出 洋一郎『ギリシア神話の名画はなぜこんなに面白いのか』中経出版 2010年
- 藤村 シシン『古代ギリシャのリアル』実業之日本社 2022年
- 中村圭志『教養として学んでおきたいギリシャ神話』マイナビ出版 2021年
- かみゆ歴史編集部『ゼロからわかるギリシャ神話』イースト・プレス 2017年
- THEOI GREEK MYTHOLOGY:https://www.theoi.com/
他…