
こんにちは!
今回はギリシャ神話より
最大最強の怪物テュポンを紹介するよ!



なかなか御大層な肩書ね
彼はどんなキャラクターなの?



彼は原始の奈落タルタロスと大地の女神ガイアのあいだに生まれた怪物で、最高神ゼウスにも比肩するほど強力だったんだ!



神々の時代のラスボスともいえる存在で、
某RPGシリーズの召喚獣としても知られとるぞぃ



ではさっそくいってみよう!
このシリーズでは、忙しいけど「ギリシャ神話」についてサクっと理解したいという方向けに、「かんたん・わかりやすい」がテーマの神々の解説記事を掲載していきます。
雄大なエーゲ海と石灰岩の大地が生み出した、欲望に忠実な神々による暴力的でありながらもどこかユーモラスな物語群が、あなたに新たなエンターテイメントとの出会いをお約束します。
人間味溢れる自由奔放な神々の色彩豊かで魅力的な物語に、ぜひあなたも触れてみてくださいね。
今回は、ギリシャ神話におけるラスボスとも称された規格外のサイズを誇る最強最大の怪物で、雷霆の神ゼウス倒すためだけに大地の女神ガイアによって生み出された悲しきモンスター・テュポンをご紹介します!



忙しい人はコチラから本編にすっ飛びじゃ
この記事は、以下のような方に向けて書いています。
- ギリシャ神話にちょっと興味がある人
- ギリシャ神話に登場する神さまのことをざっくり知りたい人
- とりあえず誰かにどや顔でうんちく話をしたい人
- ギリシャ神話に登場する「最大最強の怪物テュポン」について少し詳しくなります。
- あなたのエセ教養人レベルが1アップします。
そもそも「ギリシャ神話」って何?
「ギリシャ神話」とは、エーゲ海を中心とした古代ギリシャ世界で語り継がれてきた、神々と人間の壮大な物語群です。
夏には乾いた陽光が降り注ぎ、岩と海とオリーブの木が広がる土地に暮らした人々は、気まぐれで情熱的、そして人間以上に人間らしい神々を生み出しました。
神々は不死である一方、人間と同じように嫉妬し、愛し、怒り、そしてときに残酷な運命に翻弄されます。
現代に伝わる物語の多くは、ホメロスの『イーリアス』『オデュッセイア』、ヘシオドスの『神統記』などの古代叙事詩を原典としています。
王族の愛憎劇に始まり、神々の争いや英雄たちの冒険、時に神と人間の禁断の関係まで——
あらゆる欲望と感情が渦巻くギリシャ神話の世界は、きっとあなたの心を掴んで離さないでしょう。


14世紀ギリシャの写本 PD
「ギリシャ神話」の全体像は、以下で解説しているよ!


最大最強の怪物テュポンってどんな神さま?
最大最強の怪物テュポンがどんな神さまなのか、さっそく見ていきましょう。



いくぜっ!
簡易プロフィール
正式名称 | テュポン Τυφών | |
---|---|---|
名称の意味 | 旋風 煙とする説も | |
その他の呼称 | テューポーン テュポーン テューポース(Τυφώς) テュポーエウス(Τυφωεύς)など | |
ラテン語名 (ローマ神話) | テュポーン(Typhon) テュポエウス(Typhoeus) | |
英語名 | タイフォン(Typhon) | |
神格 | 特になし 怪物たちの祖先 | |
性別 | 男性 | |
勢力 | 原始の神々 | |
アトリビュート (シンボル) | 特になし | |
主な拠点 | 原始の奈落タルタロス(Τάρταρος) | |
親 | 父:原始の奈落タルタロス(Τάρταρος) 母:大地の女神ガイア(Γαῖα) | |
兄弟姉妹 | 異父兄弟が多数 | |
配偶者 | 怪物エキドナ(Ἔχιδνα) | |
子孫 | 双頭の犬オルトロス(Ὄρθρος) 冥界の番犬ケルベロス(Κέρβερος) 九頭の毒蛇ヒュドラ(Ὕδρᾱ) 百頭の竜ラドン(Λάδων) 金羊毛の守護竜 コーカサスの大鷲 クロムミオニアの雌豚(Ὕς Κρομμύων Hus Krommúōn) ※パイア(Φαῖα)とも 混成の怪物キマイラ(Χίμαιρα) 人面の獅子スフィンクス(σφίγξ) ネメアの獅子(Νεμέος λέων) 人食いの怪物スキュラ(Σκύλλα) トロイアの大海蛇 猛烈な嵐の精霊たち など諸説あり | |
由来する言葉 | 「typhoon」 :「台風」を意味する英単語。本来はアラビア語の「tufan」、中国語の「颱風」が語源とも。 |
概要と出自
テュポンはギリシャ神話に登場する、神とも怪物ともいわれる蛇のような巨人で、世界で最も恐ろしい生き物のひとつです。


ImageFXで作成
物語の設定上「最強最大」とされる彼は、原始の奈落タルタロス(Τάρταρος)と大地の女神ガイア(Γαῖα)のあいだに、雷霆の神ゼウス(ΖΕΥΣ)を倒すためだけに誕生しました。
その実力はゼウスにも比肩するとされ、実際にテュポンは一度、オリュンポスの王である彼との戦いで勝利を収めたこともあります。
ギリシャ神話の最高神を破った唯一の存在、テュポン。
彼がどれほど恐ろしい姿をしていたのか、古代ギリシャで活躍した著作家たちの言葉を借りて確認してみましょう。
ヘシオドスが著した『神統記』の記述によると、テュポンは「恐ろしく、乱暴で、無法者」であったそうです。
さらに彼は、この最強最大の怪物について、その著書で以下のように説明しています。
この者(テュポン)の腕は強力で、その力強い神の脚は、疲れを知らなかった。
彼の肩からは、恐ろしい竜のような蛇の頭が100も生え出ており、黒い舌を見せて揺らめいている。
眉の下には火の如く閃く両目があり、その眼で睨まれたものすべてからは火が燃え立った。
また、テュポンは、あらゆる種類の動物の声を発することができた。
神々に理解できる言語はもちろん、獰猛な牡牛の猛々しい声も、残忍な獅子の恐ろしい咆哮も、時には弱々しい獣の子の鳴き声にも似た音を発した。
さらに、彼が啾々と嘯けば、大地に連なる高い山々はいずれもが鳴動したという。
もし、人間たちと神々の父ゼウスがテュポンの出現をいち早く察知しなければ、彼は、死すべき定めの者たちと不死の神々の支配者として君臨することになっただろう。
ヘシオドス『神統記』
※多少文体を調整しています。


-テュポン PD



ひとつの神格にここまで紙幅が割かれているのは、
結構な特別扱いだよ!
また、『ギリシア神話』を著したアポロドーロスによると、テュポンは以下のような存在であったようです。
彼(テュポン)はその大きさと力において、大地の女神ガイアが生んだすべての子孫たちを凌駕していた。
頭から腿までは人間の形をしていたが、腿から下の部分は巨大な毒蛇がとぐろを巻いたような姿をしており、それを伸ばすと自分の頭にまで達して、シュウシュウと大きな音を発している。
テュポンの身体は途方もなく大きく、すべての山々よりも背が高かったので、彼の頭はしばしば天の星々をかすめるほどであった。
彼が手を伸ばすと一方は西に、もう片方は東にとどき、そこからは100の竜の頭が突き出ている。
テュポンの全身には羽があり、無造作に生えた髪が頭と頬から風になびいて、その目からは火が放たれた。
アポロドーロス『ギリシア神話』
※多少文体を調整しています。


紀元前540年頃~紀元前530年頃
ドイツ・ミュンヘンの州立古代美術博物館所蔵 PD



とりあえず、とんでもない化け物であることはよく伝わるわね



ゲッターエンペラー的な、とにかく規格外の
サイズ感をイメージしても良いかもしれんのぅ
原典となる文献の記述からも、「最強」の名が伊達ではないことが分かる怪物テュポン。
彼は、上半身が美女で下半身が蛇の姿をした怪物エキドナ(Ἔχιδνα)とのあいだに数多くの子をもうけ、あらゆるクリーチャーたちの父親にもなっています。
テュポンの子孫とされる怪物たちの名称を、ざっくり箇条書きで確認してみましょう。
- 双頭の犬オルトロス(Ὄρθρος)
- 冥界の番犬ケルベロス(Κέρβερος)
- 九頭の毒蛇ヒュドラ(Ὕδρᾱ)
- 百頭の竜ラドン(Λάδων)
- 金羊毛の守護竜
- コーカサスの大鷲
- クロムミオニアの雌豚(Ὕς Κρομμύων Hus Krommúōn)
※パイア(Φαῖα)とも - 混成の怪物キマイラ(Χίμαιρα)
- 人面の獅子スフィンクス(σφίγξ)
- ネメアの獅子(Νεμέος λέων)
- 人食いの怪物スキュラ(Σκύλλα)
- トロイアの大海蛇
- 猛烈な嵐の精霊たち
など諸説あり


『ケルベロス』19世紀 PD



ゲームやアニメでよく見る名前が勢揃いしているわね



まさに怪物たちの父って感じだね!
ヘシオドスの『神統記』によれば、もともとテュポンとエキドナの子とされたのはオルトロス、ケルベロス、ヒュドラ、キマイラだけでしたが、時代が下がるほどに設定が追加され、多くの怪物たちが彼らの子孫とされるようになったそうです。
ちなみに、皆さんご存じの『ファイナルファンタジー』シリーズには、元ネタとはかけ離れた姿をしたコミカルなビジュアルのテュポンが、召喚獣の一体として登場しています。
※作品中の名称は「テュポーン」
テュポンが関わった主なストーリー



テュポンの活躍を見てみよう!
神話上最大の決戦ギガントマキア!負けを認めないガイアの遅延行為により、最強最大の怪物が爆誕する!!
今回の主人公テュポンが誕生するまでに、神々の世界は二度にわたる大戦争を経験していました。
ひとつが、農耕の神クロノス(Κρόνος)が率いるティタン神族と、その子である雷霆の神ゼウス(ΖΕΥΣ)が率いるオリュンポスの神々による戦争「ティタノマキア(Τιτανομαχία)」。
我が子に王権を奪われることを恐れたクロノスが、片っ端から生まれた赤ん坊を飲み込んでしまったので、唯一難を逃れたゼウスが兄姉を助け出し、権力の座にしがみつく父に対して反旗を翻したのです。
この戦いに勝利したのはゼウスらオリュンポス勢力で、彼らはクロノスをはじめとしたティタン神族を、原始の奈落タルタロス(Τάρταρος)の底に閉じ込めてしまいました。


『ティターンズの陥落』1596–1598年頃 PD
しかし、大地の女神ガイア(Γαῖα)は、可愛い我が子たちが地底に幽閉されたことを不満に思い、今度は同じく自身の子である巨人族ギガンテス(Γίγαντες)を、オリュンポスの神々に差し向けます。
こうしてはじまったのが、神話上最大の決戦ともされる「ギガントマキア(ιγαντομαχία)」、テュポン誕生のきっかけともなる大イベントです。
「神々の力では滅ぼせない」という予言を受けたギガンテスは、オリュンポスの軍勢と互角の戦いを繰り広げましたが、半神半人の英雄ヘラクレス(Ηρακλής)の登場により形勢が逆転。
名の知られた巨人だけでも、それぞれ以下のような末路をたどりました。
神名 | 概要 |
---|---|
アルキュオネウス(Αλκυονεύς) | 一族のなかでも特に巨大であったとされるギガンテスの王。 地元にいる限り不死身という設定があったが、境界線から上手く引きずり出されてヘラクレスに討伐される。 |
ポルピュリオン(Πορφυρίων) | ギガンテスの王の1人。 戦いのどさくさに紛れて結婚の女神ヘラ(Ἥρα)に襲いかかり、雷霆の神ゼウスとヘラクレスにボコボコにされて絶命する。 |
エピアルテス(Ἐφιάλτης) | ギガントマキアの戦いでオリュンポスの神々と戦い、左目を光明の神アポロン(ΑΠΟΛΛΩΝ)に、右目をヘラクレスに射抜かれて絶命した。 |
エウリュトス(Εὔρυτος) | 先端に松ぼっくりが付いたテュルソスの杖(θύρσος)を携えた酩酊の神ディオニュソス(ΔΙΟΝΥΣΟΣ)と、毒矢を駆使するヘラクレスの合体攻撃によって討伐された。 |
クリュティオス(Κλυτίος) | ギガントマキアの戦いでオリュンポスの神々と戦い、魔術の女神ヘカテ(Ἑκάτη)に焼却される。 |
ミマス(Μίμας) | ギガントマキアの戦いでオリュンポスの神々と戦い、鍛冶の神ヘパイストス(ΗΦΑΙΣΤΟΣ)に燃えたぎる溶鉱を投げつけられて敗北。 |
エンケラドス(Ἐγκέλαδος) | ギガントマキアの戦いでオリュンポスの神々と戦い、戦いの女神アテナ(Ἀθηνᾶ)に圧倒され敗走。 その後、シチリア島のエトナ火山の麓で討伐された。 |
パラス(Πάλλας) | ギガントマキアの戦いでオリュンポスの神々と戦い、アテナに皮を剥ぎ取られ、彼女の盾の材料になった。 |
ポリュボテス(Πολυβώτης) | ギガントマキアの戦いでオリュンポスの神々と戦い、海神ポセイドン(ΠΟΣΕΙΔΩΝ)に圧倒され敗走。 その後、コス島の一部であるニシロスを投げつけられて息絶える。 |
ヒッポリュトス(Ἱππόλυτος) | 冥界の王ハデス(ΑΙΔΗΣ)が所有していた「透明になれる兜」を装備した伝令の神ヘルメス(Ἑρμῆς)にバックスタブを決められて絶命。 |
グラティオン(Γρατίων) | 狩猟の女神アルテミス(ΑΡΤΕΜΙΣ)とヘラクレスによって討伐される。 彼の名称はアイガイオン(Αἰγαίων)だった可能性もある。 |
アグリオス(Ἄγριος) | ギガントマキアの戦いでオリュンポスの神々と戦い、運命の三女神モイライ(Μοῖραι)に青銅製のこん棒でボコボコにされる。 |
トオーン(Θόων) | ギガントマキアの戦いでオリュンポスの神々と戦い、運命の三女神モイライに青銅製のこん棒でボコボコにされる。 |




-ヴィッラ・ロマーナ・デル・カサーレのモザイク画
出典:Wilson44691 CC0
その他のギガンテスも、ゼウスの雷霆とヘラクレスの矢によってほぼ完全に全滅しており、戦いの趨勢は決したと判断しても差し支えない状況です。
しかし、母なる大地ガイアは、子どもたちの敗北を認めることができませんでした。



ぐぬぬ…
かくなる上は…
彼女は、ゼウスらオリュンポスの神々を懲らしめるために、原始の奈落タルタロスと交わって新たな子を成す決意を固めます。



あーた!交わるわよ!



なんですと!?
こうして生まれたのが、今回の主人公である最強最大の怪物テュポン。
彼は、生まれた瞬間にゼウスと戦うことを命じられ、否応なくこの大戦争のラストを飾ることになるのです。



職業選択の自由を求めます




ゼウス大勝利!希望の未来へレディ・ゴーッ!!(最終回)
ギリシャ神話における最大規模の大戦争ギガントマキア。
オリュンポスの神々に反旗を翻したギガンテスの一族もほぼ完全に滅び去り、壮絶な戦いの勝敗もついに決したかと思われたその時、原始の奈落タルタロスの底から、蛇のような見た目をした恐ろしく巨大な怪物が姿を現しました。
その名はテュポン。
我が子たちの敗北を認めない大地の女神ガイアがタルタロスと交わり、ゼウスらを討つためのリーサルウェポン(遅延行為)として生み出した、最強最大のモンスターです。
ラスボスにふさわしい規格外のサイズと強大な力を誇る彼に、はたしてオリュンポスの神々は無事に勝利することができるのでしょうか!?


『エジプトのオイディプス』に登場するテュポーンの挿絵 1652年 PD



いやもう分かっとるがな
ここでは、ゼウスらオリュンポス勢力と、満を持して登場したラスボス・テュポンの壮絶な戦いを、2つのバージョンでご紹介します。
ヘシオドスの『神統記』ver.
こちらのバージョンでは、ゼウスとテュポンによる熾烈なタイマン勝負が描かれています。
雷霆の神ゼウスが激しく苛烈に雷鳴を轟かせると、大地はおろか天も海も大洋の流れも、地の底の深淵タルタロスまでもが激しく鳴動しました。
テュポンがその脚で歩を進めると、神々の国オリュンポスも打ち揺られたとされています。
ゼウスの雷鳴と雷光、テュポンから噴き出される火炎はぶつかり合い、稲妻伴う烈風と燃え盛る雷電の炎熱が生じました。
それらによって大地は炎上し、天も海も煮えたぎっています。
2神が戦うことで海岸一帯では大波が荒れ狂い、大地は激しく振動して、冥界の王ハデス(ΑΙΔΗΣ)やタルタロスに囚われたティタン神族をも恐れおののかせました。



どぉりゃぁぁぁ!!


出典:ニューヨーク公共図書館
しかし、ゼウスが気合を込めて放った雷霆がテュポンに直撃すると、彼の身体から生えた100の頭はことごとく焼き尽くされ、さすがのラスボスもよろめいて大地に倒れ込みます。
さらに、彼の身体は激しい炎に包まれ、その熱は大地にあるほとんどのものを焼き、鍛冶の神ヘパイストス(ΗΦΑΙΣΤΟΣ)が扱う溶鉱のように溶かしてしまいました。
その後、怒りに燃えるゼウスはテュポンの身体を持ち上げ、彼を原始の奈落タルタロスの底に放り込んだと伝えられています。



ウボァー



こっちでは、割とシンプルにゼウスの勝利なのね
アポロドーロスの『ギリシア神話』ver.
こちらのバージョンでは、ゼウスですらも圧倒するテュポンの強大な力と、力を合わせて戦うオリュンポスの神々の姿が描かれています。
オリュンポス勢力に戦いを挑んだテュポンは、火のついた岩を投げつつ、シュウシュウと音を立てながら叫び声をあげ、口からは烈火を噴き出しながら「天」に向けて突進してきました。
その恐ろしい様子を見た神々は、恐れをなしてエジプト方面に逃亡、それでも追いかけられた彼らは動物に姿を変えて難を逃れます。
それゆえにエジプト神話の神々は、動物のような姿をしているとも言われるそうです。


一方、ゼウスは、遠距離戦においては得意の雷霆を放ち、近距離戦においては金剛の鎌を振るって巨大な怪物に応戦しました。
戦う両者がシリアに聳えるカシオス山の付近に至ると、テュポンは身をひるがえして攻勢に転じ、巨大な蛇の身体でゼウスを縛り上げ、鎌を奪って彼の手足の「腱」を切り取ります。


-テュポーンと戦うゼウス 1795年
出典:メトロポリタン美術館



アダァーーー!!!
その後、テュポンは身動きの取れないゼウスをコーリュキオン洞窟の奥に押し込め、彼の「腱」を熊の皮に挟んで隠し、門番として半人半竜の女性の怪物デルピュネ(Δελφύνη)を配置しました。



今のうちに、わしもHPを回復しつつ次に備えよう
一旦は勝利をおさめた怪物が去った後、件の洞窟に現れたのが伝令の神ヘルメス(Ἑρμῆς)と牧神パン(Πάν)のコンビです。



おっ、神々の父がピンチだぜ、相棒



おっ、ここは恩を売っておくまたとないチャンスだぜ、兄弟
彼らは、見張りのデルピュネを上手く騙してゼウスの「腱」を盗み出し、それを元の所有者に付け直しました。



元気100倍!ライジンマン!!
再び本来の力を取り戻したゼウスは、以前にも増して激しく雷鳴を打ち鳴らし、ニューサと呼ばれる山までテュポンを追撃します。


-ゼウスの戦車 1879年 PD
予想以上のダメージを受けて焦ったテュポンは、自身の勝利を確実なものとするために、運命を司る三女神モイライ(Μοῖραι)のもとへと逃れました。
そこで彼は、女神たちを脅して、どんな願いも叶うという「勝利の果実」を差し出すよう要求します。



頼むわ、例のあれ出してくれや



あ、はいどうぞ
これでさらに強くなれまっせ
しかし、この3女神は最初から、ゼウス率いるオリュンポスの神々の味方でした。
彼女らがテュポンに差し出したのは、食べた者の望みが二度と叶うことがなくなるという「無常の果実」。
これを口にした最強の怪物は、この時すでに「敗北」の運命を背負わされていたのです。
その事実を知らぬテュポンはなおも敗走を続け、トラキアの地でハイモス山を持ち上げ、これをゼウスに投げつけようと試みました。
しかし、力を取り戻したゼウスの雷霆が山を直撃すると、それは再び地に落ち、下敷きとなったテュポンの身体からは大量の血がほとばしります。


出典:Don Pablo PD



ゼェ…ゼェ…
ま、まだじゃ…
満身創痍となったテュポンがシチリア島の付近まで敗走すると、それを追撃するゼウスはエトナ山を持ち上げて彼の上に投げつけ、巨大な怪物を巨大な山の下敷きにしてしまいました。



ウボァー
こうして、どうにか最強最大の怪物を封印したゼウスらオリュンポスの神々でしたが、それでもテュポンの命を奪うことまではできなかったようです。
以来、彼が山の重圧から逃れようともがくたびに噴火が起こるので、エトナ山は活発な火山として知られるようになりました。
ゼウスは、鍛冶の神ヘパイストス(ΗΦΑΙΣΤΟΣ)にテュポンの監視を命じ、



それならちょうどええやん
と考えた彼は、エトナ火山の麓で鍛冶の仕事をすることになったと伝えられています。
※エトナ火山に封印されているのはギガンテスのエンケラドス(Ἐγκέλαδος)とする説もあるよ
ギリシャ神話をモチーフにした作品



参考までに、「ギリシャ神話」と関連する
エンタメ作品をいくつかご紹介するよ!
おわりに
今回は、ギリシャ神話に登場する最大最強の怪物テュポンについて解説しました。



文献にもよるけど、ラスボスらしく
しっかりと描写されていることが多いみたいね



これでゼウスの絶対的な権力が確定し、
以後ガイアも口を出してこないようになったそうだよ!
パパトトブログ-ギリシャ神話篇-では、雄大なエーゲ海が生み出した魅力的な神々や彼らの物語をご紹介していきます。
神さま個別のプロフィール紹介や神話の名場面をストーリー調で解説など、難しい言葉はできるだけ使わずに、あらゆる角度から楽しんでもらえるように持って行こうと考えています。
これからも「ギリシャ神話」の魅力をどんどんご紹介してきますので、良ければまた読んでもらえると嬉しいです!



また来てね!
しーゆーあげん!
参考文献
- ヘシオドス(著), 廣川 洋一(翻訳)『神統記』岩波書店 1984年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『イリアス 上』岩波書店 1992年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『イリアス 下』岩波書店 1992年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『オデュッセイア 上』岩波書店 1994年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『オデュッセイア 下』岩波書店 1994年
- アポロドーロス(著), 高津 春繁(翻訳)『ギリシア神話』岩波書店 1978年
- T. ブルフィンチ(著), 野上 彌生子(翻訳)『ギリシア・ローマ神話』岩波書店 1978年
- 吉田 敦彦『一冊でまるごとわかるギリシア神話』大和書房 2013年
- 阿刀田高『ギリシア神話を知っていますか』新潮社 1984年
- 大林 太良ほか『世界神話事典 世界の神々の誕生』角川ソフィア文庫 2012年
- 中村圭志『図解 世界5大神話入門』ディスカヴァー・トゥエンティワン 2020年
- 歴史雑学探究倶楽部『世界の神話がわかる本』学研プラス 2010年
- 沢辺 有司『図解 いちばんやさしい世界神話の本』彩図社 2021年
- かみゆ歴史編集部『マンガ 面白いほどよくわかる! ギリシャ神話』西東社 2019年
- 鈴木悠介『眠れなくなるほど面白い 図解 世界の神々』日本文芸社 2021年
- 松村 一男監修『もう一度学びたいギリシア神話』西東社 2007年
- 沖田瑞穂『すごい神話―現代人のための神話学53講―』新潮社 2022年
- 杉全美帆子『イラストで読む ギリシア神話の神々』河出書房新社 2017年
- 中野京子『名画の謎 ギリシャ神話篇』文藝春秋 2015年
- 千足 伸行監修『すぐわかるギリシア・ローマ神話の絵画』東京美術 2006年
- 井出 洋一郎『ギリシア神話の名画はなぜこんなに面白いのか』中経出版 2010年
- 藤村 シシン『古代ギリシャのリアル』実業之日本社 2022年
- 中村圭志『教養として学んでおきたいギリシャ神話』マイナビ出版 2021年
- かみゆ歴史編集部『ゼロからわかるギリシャ神話』イースト・プレス 2017年
- THEOI GREEK MYTHOLOGY:https://www.theoi.com/
他…
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