
こんにちは!
今回は北欧神話より雷神トールを紹介するよ!



北欧神話の顔ともいえる有名な神さまね
彼はどんなキャラクターなの?



彼はアース神族最強とも謳われた雷神で、最高神オーディンを
凌ぐほど崇拝された農耕の神でもあるんだ!



地域によっては主神クラスの崇敬を集める実力派じゃ



ではさっそくいってみよう!
このシリーズでは、忙しいけど「北欧神話」についてサクっと理解したいという方向けに、「かんたん・わかりやすい」がテーマの神々の解説記事を掲載していきます。
厳しい自然環境が生み出した、欲望に忠実な神々による暴力的でありながらもどこかユーモラスな物語群が、あなたに新たなエンターテイメントとの出会いをお約束します。
人間味溢れる自由奔放な神々の色彩豊かで魅力的な物語に、ぜひあなたも触れてみてくださいね。
今回は、有名な大槌ミョルニルを振り回して巨人族をボコボコにした北欧神話最強の雷神で、実は農耕や天候の神として最高神オーディンよりも民草から愛された人間の守護神トールをご紹介します!



忙しい人はコチラから本編にすっ飛びじゃ
この記事は、以下のような方に向けて書いています。
- 北欧神話にちょっと興味がある人
- 北欧神話に登場する神さまのことをざっくり知りたい人
- とりあえず誰かにどや顔でうんちく話をしたい人
- 北欧神話に登場する「雷神トール」について少し詳しくなります。
- あなたのエセ教養人レベルが1アップします。
そもそも「北欧神話」って何?
「北欧神話」とは、北ヨーロッパのスカンジナヴィア半島を中心とした地域に居住した、北方ゲルマン人の間で語り継がれた物語です。
1年の半分が雪と氷に覆われる厳しい自然環境の中で生きた古代の人々は、誇り高く冷徹で、勇猛で死もいとわない荒々しい神々を数多く生み出しました。
彼らの死生観が反映された「北欧神話」の物語は、最終戦争・ラグナロクによって、神も人間もあらゆるものが滅亡してしまうという悲劇的なラストを迎えます。
現代の私たちが知る神話の内容は、2種類の『エッダ(Edda)』と複数の『サガ(Saga)』という文献が元になっています。
バッドエンドが確定している世界でなおも運命に抗い、欲しいものは暴力や策略を用いてでも手に入れる、人間臭くて欲望に忠実な神々が引き起こす様々な大事件が、あなたをすぐに夢中にさせることでしょう。


「北欧神話」の全体像は、以下で解説しているよ!


雷神トールってどんな神さま?
雷神トールがどんな神さまなのか、さっそく見ていきましょう。



いくぜっ!
簡易プロフィール
正式名称 | トール Þórr |
---|---|
名称の意味 | 雷 |
その他の日本語表記 | ソー(Thor) |
敬称や肩書 | 車のトール あらゆる神の首領 国土の神 巨人スレイヤー 人間の友 フルングニルの頭の粉砕者 赤ひげなど |
神格 | 雷神 天候の神 農耕の神 人類の守護神 死んだ奴隷の魂の支配者 |
性別 | 男性 |
勢力 | アース神族 ※自身はアース神族と巨人族の間の子 |
持ち物 | 大槌ミョルニル(Mjölnir) ※「粉砕するもの」の意 力の帯メギンギョルズ(Megingjörð) ※「力の帯」の意 鉄の小手ヤールングレイプル(jarngreipr) ※「鉄の手袋」の意 2匹の山羊が牽く車 |
不思議パワー | アースメギン(ásmegin) ※「アース神族の力」の意 |
ペット | 山羊のタングリスニル(Tanngrísnir) ※「歯ぎしりをする人」の意 山羊のタングニョースト(Tanngnjóstr) ※「歯の細い人」の意 |
従者 | 従者シャールヴィ(Þjálfi) 従者レスクヴァ(Röskva) |
曜日 | 木曜日(Thursday) トールの日 |
主な拠点 | スルードヴァンガル(Þrúðvangr)*1にある館ビルスキールニル(Bilskirnir)*2 ※1「力の場」の意、スルードヘイムとも ※2「稲妻の音」の意 |
親 | 父:最高神オーディン(Óðinn) 母:大地の女神ヨルズ(Jörð) |
兄弟姉妹 | 異母兄弟多数 |
配偶者 | 美しきアース女神シヴ |
子孫 | 雷神の息子モージ(Móði) 雷神の娘スルーズ(Þrúðr) 雷神の息子マグニ(Magni)* ※霜の巨人ヤールンサクサ(Járnsaxa)との子 狩猟の神ウル(Ullr)* ※シヴと霜の巨人の間に生まれた義理の息子 |
概要と出自
トールは北欧神話に登場する雷神です。
最高神オーディン(Óðinn)と大地の女神ヨルズ(Jörð)とのあいだに生まれた彼の体は山のように大きく、ずば抜けて強い力をもったことから、トールはアース神族、ひいては北欧神話で最強の存在とも謳われました。
顔いちめんにぼうぼうと赤い髭をはやした彼の風貌は恐ろしく、雷のように大きな声と、稲妻のようにきらめくその目は、人間のみならず霜の巨人や魔物たちをも震え上がらせたと言われています。
その一方、天候を操る力をもったトールは農耕の神としても崇拝されたほか、「単純で怒りっぽいけど根は親切なおっちゃん」キャラで、人間族の守護神としても愛されました。


『トールと巨人の戦い』1872年 PD
腕っぷしが強くて性格も豪快、しかし、少々お人好しなところがあって騙されやすく、人間たちには割と親切。
そんなトールには、美しきアース女神シヴ(Sif)という妻がいます。
彼女の自慢は太陽の光を浴びると黄金のように輝く金髪で、それは豊かに実った小麦畑、つまり豊穣を象徴するとも言われました。
農業の神でもあるトールとの相性は抜群と言えるでしょう。



あれの金髪はわしの自慢でもあるわぃ




トールとシヴのあいだには、息子のモージ(Móði)と娘のスルーズ(Þrúðr)が生まれました。
その他にもトールには、霜の巨人ヤールンサクサ(Járnsaxa)とのあいだに誕生したマグニ(Magni)という名の息子がおり、モージとマグニは、最終戦争ラグナロクを生き延びる数少ない神々の1人にも数えられています。
また、シヴもシヴで、トールとの結婚前に霜の巨人(名称不明)とのあいだに狩猟の神ウル(Ullr)を生んでおり、トールは彼を継子として養育しました。







その辺も割と豪快だったのね



人々から好かれる理由もなんとなく分かるよね!
多少複雑ながらも賑やかなトールの一家は、スルードヴァンガル(Þrúðvangr)*1と呼ばれる地方に建てられた、540もの広間をもつビルスキールニル(Bilskirnir)*2という立派な館に住んだと言われています。
※1「力の場」の意、スルードヘイムとも
※2「稲妻の音」の意
雷神トールが所有する伝説的な魔法アイテム
筋骨隆々の肉体をもつトールは単体でも充分な強さを誇りましたが、神話のなかで生み出された数々の魔法の品物が、彼の神力を大幅に底上げしていました。



トールのアイテムをざっと押さえるぞぃ
- 大槌ミョルニル(Mjölnir)
-
- まさにトールの代名詞ともいえる、尋常ならざる破壊力をもつ槌で、名称の意味は「粉砕するもの」。
- 投げれば百発百中の命中精度を誇り、ひとりでに所有者の手に戻ってくるうえ、決して壊れることなくコンパクトサイズに収縮も可能。
- 鍛冶の小人ブロック(Brokkr)とシンドリ(Sindri)によって生み出されたが、悪戯の巨人ロキ(Loki)に作業を妨害されたので、柄の部分だけが極端に短い。
- 紆余曲折あってトールの手に渡り、以降これは、アース神族にとって最も重要な対巨人用決戦兵器となる。
- 一撃で霜の巨人の頭を粉砕するトールの投擲は、自然界における「落雷現象」を表したもの。
パパ、ときどきトト【大槌ミョルニルなどの魔法の品々を作成】鍛冶の小人ブロックとシンドリ【北欧神話】 | パパ、ときどきト… 今回は北欧神話より鍛冶の小人ブロックとシンドリをご紹介!鍛冶と細工の腕に定評のある小人族の兄弟!ロキに煽られて黄金の猪グリンブリスティン、黄金の腕輪ドラウプニル… - 鉄の小手ヤールングレイプル(jarngreipr)
-
- トールが必ず身に着けた鉄製の小手で、名称の意味はズバリ「鉄の手袋」。
- 柄が短いミョルニルを握り損じないためにあったとも、常に熱く燃えているミョルニルの高温に耐えるために装備したとも言われる。
- 「イルアン・グライベル」と読む場合も。
- 力の帯メギンギョルズ(Megingjörð)
-
- アースメギン(ásmegin)*と呼ばれるトールの神力を2倍に高める力の帯で、名称の意味はそのまんま「力のベルト」。
※「アース神族の力」の意 - ただでさえとんでもない力を誇る雷神をパワーアップさせた、世界最古のチートアイテム。
- アースメギン(ásmegin)*と呼ばれるトールの神力を2倍に高める力の帯で、名称の意味はそのまんま「力のベルト」。



わしにとっては、これが文字通りの三種の神器じゃわぃ
雷神トールが可愛がった2匹のペット


-トールの乗った戦車を引くタングリスニルとタングニョースト 1874年 PD
初期のトールは外へ出かける際、たくましい2匹の山羊が牽く車に乗りました。
その山羊の名はタングリスニル(Tanngrísnir)*1とタングニョースト(Tanngnjóstr)*2。
※1「歯ぎしりをする人」の意、※2「歯の細い人」の意
彼らは主人が乗る戦車を牽くだけにとどまらず、戦闘においては自ら率先して、巨人や魔物と戦ったと言われています。
また、この2匹の山羊は死んでしまっても、トールがミョルニルを使って清めれば復活することが出来たので、移動手段として使われた後は食料にされることもありました。



昼間は車を牽いて、夜は〆られて食べられるの無限ループ…



なかなかのブラック労働じゃ
タングリスニルとタングニョーストが牽く車はすさまじい音をたてて空を駆けたので、古代北欧の人々は雷鳴が鳴り響くと、それを「トールが車に乗って出かけた」と表現したそうです。
雷神トールが引き連れた2人の従者
あちこちを旅しては霜の巨人をボコボコにしてまわったトールは、シャールヴィ(Þjálfi)とレスクヴァ(Röskva)という名の兄妹を従者として引き連れました。
もともとは、シャールヴィが上述の山羊を傷付けてしまったので、その償いとしてトールのもとで下働きすることになったのですが、彼は物語のいくつかの場面で、ただの人間族とは思えない立派な活躍を果たしています。
その一方、妹のレスクヴァに関する記述はほとんど残っていません。


『古エッダ』より
-トールと旅の一行 PD



お館様といれば退屈はせんよ~


超強力な魔法アイテムと賑やかな家族、そして忠実な従者とペットにめぐまれた最強の雷神は、今日も巨人の国ヨトゥンヘイムをうろついて、自慢の大槌ミョルニルを手当たり次第に霜の巨人の頭に叩き込んでいます。



めでたし、めでたし



トールは英語でソーとも呼ばれ、
有名なヒーロー映画の主人公にもなっているよ!
トールが関わった主なストーリー



トールの活躍をみてみよう!
巨人族との戦闘回数、最多記録!
あちこちで暴れまくった雷神の軌跡とは!?
百発百中の精度と驚異的な破壊力を誇る大槌ミョルニルを握った雷神トールは、神話のあちこちの場面に登場して、数々の巨人たちを一撃のもとに屠りました。
ここでは、いつしか巨人スレイヤーとして怖れられるようになったトールの戦歴を、ざっくりダイジェストでご紹介します。



トールの登場場面は本当に多いので、
本記事では簡略化してお伝えするよ!



詳しい内容は個別の記事に書いてあるので、
良ければそちらも見てみてね


『トールとヨルムンガンド』1895年 PD
V.S. 石工の巨人(名称不明)


『ロキとスヴァディルファリ』1909年 PD



う~ん、清々しいほどの○ズっぷりね



北欧神話の世界は厳しいのじゃ
このエピソードの詳細はコチラ!


V.S. 霜の巨人の王スリュム


-花嫁姿のトール 1902年 PD



まぁこれは自業自得だね~



二度と女装なんぞせんわぃ…
このエピソードの詳細はコチラ!


V.S. 霜の巨人の王ウートガルザ・ロキ
勝負の内容はコチラ
種目 | 競技者 | 結果 | ネタバレ |
---|---|---|---|
早食い競争 | ロキ V.S. ロギ(Logi) | ロギの勝利 | ロギの正体は、実は「野火」。 いくら早食いに自信があっても、野火が燃え広がる速さに勝てる者はいない。 ロギが骨や桶まで食べつくしたのは、彼が「火」だったから。 |
徒競走 | シャールヴィ V.S. フギ(Hugi) | フギの勝利 | フギの正体は、実は「思考」。 どれだけの駿足を誇ろうとも、思考が飛ぶ速さに勝てる者はいない。 |
飲み比べ対決 | トール V.S. 魔法の角杯 | トールの敗北 | 角杯の中身は、実は「海の水」。 海と直接つながった杯の中身が、どれだけ飲もうとも減るはずもなかった。 |
力比べ対決 | トール V.S. 灰色の猫 | トールの敗北 | 灰色の猫の正体は、実は大蛇ヨルムンガンド(Jörmungandr)。 人間の世界ミズガルズをぐるりと取り囲むほどの大きさを誇る彼を、持ち上げられないのは当然のこと。 |
レスリング対決 | トール V.S. エリ(Elli) | トールの敗北 | エリの正体は、実は「老い」。 どんなに勇猛な戦士でも、寄る年波に勝つことは出来ない。 |
最後に種明かしをされて頭にきたトールは、ウートガルザ・ロキをぶっ飛ばすためにミョルニルを持ち上げるも、振り返った先には野原が一面に広がっているだけだった。
またこの逸話では、トールとヨルムンガンドとの間に、最終戦争ラグナロクまで続く因縁が生じている。


-トールとミョルニル PD



知略の勝負では敗北したこともあるんじゃのぅ



あやつだけは許さん…
このエピソードの詳細はコチラ!


V.S. 山の巨人フルングニル
アース神族の世界アースガルズでの酒宴に招かれた山の巨人フルングニル(Hrungnir)は、酔った勢いで罵詈雑言を吐きアース神たちを侮辱する。
その対応のためにトールが呼び出されるも、アースガルズで血を流すわけにもいかないので、後日あらためて決闘をすることに。
当日、シャールヴィと共に現地に現れたトールは、見事なミョルニルの投擲でフルングニルの頭蓋骨を粉砕。
遺体の下敷きになって動けなくなった雷神を、生後3日しか経っていない息子のマグニ(Magni)が救った。
トールの頭にめり込んだ砥石の破片を取り除こうとした巫女のグローア(Gróa)が、その夫であるアウルヴァンディル(Aurvandill)の話を聞いて喜びのあまり呪いの文句を忘れてしまい、彼の頭の破片はそのまま残ることになったという小話も。


『トールとフルングニル』1865年 PD



あやつが所有したグルファクシ(Gullfaxi)とかいう馬は、
褒美として息子にくれてやったわぃ



実はそれを狙っていたのがオーディンで、
トールは主神の不況をおおいに買うことになったのよね
このエピソードの詳細はコチラ!


V.S. 霜の巨人ゲイルロズ
ヨトゥンヘイムを通過するロキを捕縛した霜の巨人ゲイルロズ(Geirröd)は、その身の安全と引き換えに、丸腰のトールをおびき出すよう人質に要求。
いつも通りロキの口車に乗せられた雷神は、大槌ミョルニルや力の帯メギンギョルズを身に着けずに現地入りするも、そこで出会った霜の巨人グリーズ(Gríðr)の警告を受け、いくつかの魔法装備をゲットする。
ゲイルロズは2人の娘たちと協力して雷神の命を奪おうと画策。
しかし、真っ赤に燃える鉄球をいとも簡単に投げ返されたゲイルロズは、身を隠していた柱ごとトールにうち貫かれて、その命を落とした。


『トールのゲイロズガルドへの旅』1906年 PD



絵に描いたようなやられキャラだったよね!



ジェットス○リームアタックでもわしを倒すことは出来んぞぃ
このエピソードの詳細はコチラ!


V.S. 海の巨人ヒュミル
一度にたくさんの酒を醸すことが出来る大釜を求めて、海の巨人ヒュミル(Hymir)のもとを訪ねたトール。
巨人スレイヤーとして悪名高いトールを内心で快く思わないヒュミルは、得意の釣りで雷神にマウントを取ってやろうと考える。
しかし、トールは大蛇ヨルムンガンドを釣り上げるというとんでもない事態を起こし、勝負の結果(?)はうやむやに。
苛立つヒュミルは、決して割れない魔法の杯を割ることが出来たら、大釜を譲るとトールを挑発。
しかし、ヒュミルの妻の助言により、彼はその条件を達成してしまう。
結局ヒュミルは、大勢の部下を引き連れて、大釜を持ち帰ろうとするトールを襲撃。
当たり前のように返り討ちにあってその命を落とした。


-トールとヒュミル、ヨルムンガンド PD



背後からはズルいけど、結局力で奪いにいってるのよね~



北欧神話の世界は厳しいのじゃ
このエピソードの詳細はコチラ!


基本的には、自慢の腕っぷしと、大槌ミョルニルから繰り出される破壊的な物理パワーで状況を打開してきたトール。
しかしそんな彼は、意外にも知略を働かせて、大事な娘であるスルーズ(Þrúðr)を守り抜いたこともありました。
V.S. 全知の小人アルヴィース
ある日、トールの元にふらりと現れた全知の小人アルヴィース(Alvíss)。
話を聞いてみると、アルヴィースと娘のスルーズの縁談が、父親が不在の間に決まっていたとのこと。
不満を覚えたトールは、その小人の「知識自慢」のプライドを刺激して、ありとあらゆる質問を投げかける。
得意になって答えるアルヴィースと、朝までじっと時間を稼ぐトール。
やがて太陽が昇り、朝日を浴びたアルヴィースの身体は、石になって弾け飛んでしまった。
※小人族(ドヴェルグ)は、太陽の光を浴びると死んでしまう


-トールの問いに答えるアルヴィース 1908年 PD



頭が悪いわけじゃなかったのね



ミョルニルぶち込むぞ
このエピソードの詳細はコチラ!


以上、雷神トールが繰り広げた戦いの代表的なケースのご紹介でした。
ついに到来する最終戦争ラグナロク!最強の雷神は因縁の相手ヨルムンガンドと死闘を繰り広げ、相討ちに倒れる!!
神話の数々の物語に登場し、大槌ミョルニルを振り回しては巨人族を片っ端からぶちのめした、北欧神話における最強の雷神トール。
そんな彼にも、「世界最期の日」は平等にやってきます。
最高神オーディンの息子である光の神バルドル(Baldr)の死によってアースガルズから光が失われると、一気に雲行きが怪しくなり、世界は坂道を転がる石のように破滅へと向かって突き進むのです。
終わりの始まりはちょっとした天候不良からやってきます。
太陽の光が輝きをひそめ、日差しが弱くなってきたかと思うと、今度は夏が来ず3年ものあいだ極寒のフィンブルの冬が続きました。


身を切るような風と冷たい霜はすべての者を苛立たせ、オーディンが散々引っ掻き回した人間の世界はすっかり荒廃してしまい、各地で戦乱が起こります。
やがて、2匹の狼スコル(Sköll)とハティ(Hati)が、普段追いかけまわしていた太陽の女神ソール(Sól)と月の神マーニ(Máni)をついに飲み込み、世界はいよいよ本格的な天変地異に見舞われました。


空からは光が消え星々は天から落ち、大地が揺れてすべての枷がちぎれ飛んだことで、捕えられていた悪戯の巨人ロキ(Loki)たちもその呪縛を解かれます。
この期に乗じた霜の巨人と炎の巨人ムスッペル(Múspell)、ニヴルヘルの死者たちが連合軍を結成して神々の世界に侵攻。
その気運を早々に察した光の神ヘイムダル(Heimdall)が角笛ギャラルホルン(Gjallarhorn)を高らかに吹き鳴らすと、ついに最終戦争ラグナロクが開始されました。


神々と巨人たちは、最終決戦の地・ヴィーグリーズ(Vígríðr)の野で激突します。


-ビフレストを渡る神々と、川を渡るトール 1895年 PD



トールの戦いを見てみよう!
トールが対峙するのは大蛇ヨルムンガンド(Jörmungandr)。
霜の巨人の王ウートガルザ・ロキ(Utgarða Loki)の一件で因縁が生じた両者は、ついにその決着をつけることになったのです。
兄である巨狼フェンリル(Fenrir)と共に神々の国に乗り込んだヨルムンガンドは、アースガルズの大地を洗い流してしまうような大津波を起こし、その巨体から吐き出される毒は、死の霧となって空と地上を覆います。
これを迎え撃ったトールは、大槌ミョルニルを大蛇の頭に叩き込み、ついにその命を奪うことに成功しました。


トールとミッドガルドの蛇』1905年 PD
しかし、これは最後の戦いにして、これまでアース神族から虐げられた巨人族にとって唯一の復讐のチャンス、ヨルムンガンドもただでは転びません。
彼は、最後の力を振り絞ってトールに猛毒の霧を吹きかけ、そのすぐ後に息を引き取りました。
手痛い一撃を受けたトールは9歩後ずさると大の字で地面に倒れ、その姿のままで、戦いと波乱に満ちた生涯を閉じます。
こうしてトールとヨルムンガンドの因縁の対決は、壮絶な相討ちによって幕を下ろしたのです。


-予言されたトールの死 1895年 PD



かなり悲壮な感じのラストバトルだったわね
その他の神々も奮戦しますが、ほとんどすべてが巨人族と相討ちになり倒れてしまいました。
アース神族も巨人族もほぼ完全に滅んでしまったところで、最後まで立っていたのが炎の巨人スルト(Surtr)です。
彼が巨大な炎の剣をヴィーグリーズの野に放つと、全世界は火の海となって燃え上がり、世界樹ユグドラシル(Yggdrasill)もついに炎に包まれ、大地は海の底へと沈んでいきました。
こうしてついに、『巫女の予言』に歌われた通り、神々の世界は完全に滅び去ってしまったのです。


-スルトの炎に包まれた世界 1905年 PD



ほんとに跡形もなく滅んじゃうのが北欧神話なんだね!
北欧神話の物語はここで終了ではありません。
オーディンの息子である森の神ヴィーダル(Víðarr)と復讐の神ヴァーリ(Váli)、トールの息子であるモージ(Móði)とマグニ(Magni)はこの戦いを生き延びました。
冥界からはバルドルと盲目の神ホズ(Hǫðr)も戻って来たようです。
彼らはアースガルズの跡地を眺めながらかつての時代を懐かしんだ後、黄金に輝くギムレーの館に住んだと言われています。
一方、人間にも1組の男女の生き残りがいました。
彼らはリーヴ(Líf、「生命」の意)とレイヴスラシル(Lífþrasir、「生命を継承する者」の意)と呼ばれ、ラグナロク後の世界に繫栄する次なる人類の祖となったのです。


-ラグナロク後の世界 1905年 PD



北欧神話の物語は、ここで完結するのじゃ



最後の最後までド派手な活躍を見せた、
豪快な神さまだったね!
破壊者?守護神?雷神トールの本来の姿とは!



単純で怒りっぽいけど、
人間には親切で農耕の神としても愛される…



どっかの最高神より、よっぽどトップの器なのでは?
北欧神話で最強とも称された雷神トールは、神話の中での地位こそ最高神オーディン(Óðinn)の下位につくものの、実際には主神以上に多くの人々から信仰されたと言われています。



ノルウェーやスウェーデンなどの地域では、
主神に近い崇敬を受けとるのじゃ
荒々しくて怒りっぽく、恐ろしい神であったトールはその一方で、割とすぐに機嫌をなおしてネチネチしない、竹を割ったような性格をしていました。
その様子を例えるなら、雷が鳴り響き、大雨が降り注いだあとに現れる、カラッと晴れあがる空のようなもの。
確かに一時は荒ぶりますが、かえってそれが大地を潤し、作物の成長を促すので、古代北欧の人々はトールを世界の守り神とも考えたのです。
特に農民階級にとっては、彼こそが最も頼りになる存在でした。





我が妻シヴとの相性もばっちりじゃぃ
また、トールが所有した大槌ミョルニルは敵を倒すだけでなく、「生産」や「回生(≒生き返ること)」、「結婚」や「死」を祝福する役割も担ったと言われています。
実際に神話の中でも、トールがミョルニルを使って清めることで2匹の山羊が生き返ったり、命を落とした光の神バルドル(Baldr)を火葬にする際、その火を浄化するためにミョルニルが使われたりもしました。



古代北欧の人々は、ミョルニルを象った
アイテムを使って結婚を祝福したそうよ


さらに、北欧における異教信仰*の聖地であったウプサラの神殿には、トールの巨大な像があり、それはオーディンと豊穣の神フレイ(Frey)の像を左右に侍らせるようにして中央に立っていたのだとか。
※キリスト教以外ってこと
さらにさらに、ゲルマン社会においては「水曜日」がオーディンの日、「木曜日」がトールの日とされていますが、彼らの文化において最も神聖とされたのは「木曜日」なのだそうです。



トールはギリシャ神話の最高神ゼウス(Zeus)、ローマ神話の最高神ユピテル(Juppiter)とも同一視されるのじゃ
※ゼウスとユピテルがそもそも同一人物



あっれれ~?おっかしぃな~?
これじゃどっちが最高神か分からないぞぉ~?



…
日本に北欧神話を広めた詩人・文芸評論家の山室静先生は、この問題に結論を出すことは出来ないと断ったうえで、トールとオーディンの立ち位置を以下のように考察されています。
雷神トール | ・農民の神であり、土地に定着して暮らす一般の人々の神 ・力は強いがやや単純なお人好しで、「信義」を重んじる性格 |
---|---|
最高神オーディン | ・戦士や貴族、詩人やインテリ階層の神 ・知識と狡知に長け、各地を旅して栄誉を求める性格で、時に人を裏切ることも意に介さない |


『ミッドガルドの蛇を倒すトール』1790年 PD
おそらく、自給自足的な古い農村社会が機能していた時代には、トールの方が篤い崇敬を受けていたのでしょう。
ところがその社会システムが崩れ、各地で戦乱が起こり、富と権力の集中が始まったヴァイキング時代に入ると、オーディンが一気にその地位を向上させたものと考えられています。



はぁ~、そもそもキャラが違うのね



神々もまた、人間の都合でその地位が変わるのじゃな
どっかの最高神はコチラ!


北欧神話をモチーフにした作品



参考までに、「北欧神話」と関連するエンタメ作品をいくつかご紹介するよ!
おわりに
今回は、北欧神話に登場する雷神トールについて解説しました。



北欧神話の主役を張る神だけあって、
情報も盛りだくさんだったわね



素朴な民衆の守り神だったという事実は、
もしかしたら意外かもしれないね!
パパトトブログ-北欧神話篇-では、北の大地で生まれた魅力的な神々や彼らの物語をご紹介していきます。
神さま個別のプロフィール紹介や神話の名場面をストーリー調で解説など、難しい言葉は出来るだけ使わずに、あらゆる角度から楽しんでもらえるように持って行こうと考えています。
これからも「北欧神話」の魅力をどんどんご紹介してきますので、良ければまた読んでもらえると嬉しいです!



また来てね!
しーゆーあげん!
参考文献
- 山室静 『北欧の神話』 ちくま学芸文庫 2017年
- P.コラム作 尾崎義訳 『北欧神話』 岩波少年文庫 1990年
- 杉原梨江子 『いちばんわかりやすい北欧神話』 じっぴコンパクト新書 2013年
- かみゆ歴史編集部 『ゼロからわかる北欧神話』 文庫ぎんが堂 2017年
- 松村一男他 『世界神話事典 世界の神々の誕生』 角川ソフィア文庫 2012年
- 沢辺有司 『図解 いちばんやさしい世界神話の本』 彩図社 2021年
- 中村圭志 『世界5大神話入門』 ディスカヴァー・トゥエンティワン 2020年
- 歴史雑学探求倶楽部編 『世界の神話がわかる本』 Gakken 2010年
- 沖田瑞穂 『すごい神話 現代人のための神話学53講』 新潮選書 2022年
- 池上良太 『図解 北欧神話』 新紀元社 2007年
- 日下晃編訳 『オーディンの箴言』 ヴァルハラ・パブリッシング 2023年
他…
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