
こんにちは!
今回はギリシャ神話より伝令の神ヘルメスを紹介するよ!



今回はオリュンポス12神の紹介ね
彼はどんなキャラクターなの?



彼は主神ゼウスと星の精霊マイアの息子で、
ありとあらゆる事柄を司る庶民の理想像なんだ!



権力の象徴であるアポロンと対等に渡り合ったことで、
古代ギリシャの人々のしたたかさを表しとるのじゃな



ではさっそくいってみよう!
このシリーズでは、忙しいけど「ギリシャ神話」についてサクっと理解したいという方向けに、「かんたん・わかりやすい」がテーマの神々の解説記事を掲載していきます。
雄大なエーゲ海と石灰岩の大地が生み出した、欲望に忠実な神々による暴力的でありながらもどこかユーモラスな物語群が、あなたに新たなエンターテイメントとの出会いをお約束します。
人間味溢れる自由奔放な神々の色彩豊かで魅力的な物語に、ぜひあなたも触れてみてくださいね。
今回は、最高神ゼウスと星の精霊マイアの間に生まれた早熟すぎる狡猾な神で、権力をもつ貴族層には良い顔をして器用に振る舞い、一方では窃盗や詐欺まで司った古代ギリシャにおける庶民たちの理想像、伝令の神ヘルメスをご紹介します!



忙しい人はコチラから本編にすっ飛びじゃ
この記事は、以下のような方に向けて書いています。
- ギリシャ神話にちょっと興味がある人
- ギリシャ神話に登場する神さまのことをざっくり知りたい人
- とりあえず誰かにどや顔でうんちく話をしたい人
- ギリシャ神話に登場する「伝令の神ヘルメス」について少し詳しくなります。
- あなたのエセ教養人レベルが1アップします。
そもそも「ギリシャ神話」って何?
「ギリシャ神話」とは、エーゲ海を中心とした古代ギリシャ世界で語り継がれてきた、神々と人間の壮大な物語群です。
夏には乾いた陽光が降り注ぎ、岩と海とオリーブの木が広がる土地に暮らした人々は、気まぐれで情熱的、そして人間以上に人間らしい神々を生み出しました。
神々は不死である一方、人間と同じように嫉妬し、愛し、怒り、そしてときに残酷な運命に翻弄されます。
現代に伝わる物語の多くは、ホメロスの『イーリアス』『オデュッセイア』、ヘシオドスの『神統記』などの古代叙事詩を原典としています。
王族の愛憎劇に始まり、神々の争いや英雄たちの冒険、時に神と人間の禁断の関係まで——
あらゆる欲望と感情が渦巻くギリシャ神話の世界は、きっとあなたの心を掴んで離さないでしょう。


14世紀ギリシャの写本 PD
「ギリシャ神話」の全体像は、以下で解説しているよ!


伝令の神ヘルメスってどんな神さま?
伝令の神ヘルメスがどんな神さまなのか、さっそく見ていきましょう。



いくぜっ!
簡易プロフィール
正式名称 | ヘルメス Ἑρμης |
---|---|
名称の意味 | 石の山 ※古代ギリシャ版の道祖神的な石柱「ヘルマ(herma)」に由来すると考えられている ほか諸説あり |
その他の呼称 | ヘルメース |
ラテン語名 (ローマ神話) | メルクリウス(Mercurius) |
英語名 | マーキュリー(Mercury) |
神格 | 伝令の神 旅人の神 交渉の神 発明の神 書記の神 富の神 幸運の神 商売の神 貿易の神 賭博の神 牧畜の神 占術の神 詐欺の神 窃盗の神 運動競技の神 魔術と錬金術の神 盗賊の守護者 冥界の先導役 |
性別 | 男性 |
勢力 | オリュンポス12神 |
アトリビュート (シンボル) | 伝令の杖ケリュケイオン(κηρύκειον) ※2匹の蛇が絡まった杖、「カドゥケウス(κηρύκειον)」とも 翼のついた黄金のサンダル 広いつばの旅人の帽子(有翼の場合も) 背負った羊 旅行用の短いマント 財布 ※富と商業の象徴 シュリンクス(笛) 数字の「4」 ※彼の誕生日が4日 クロッカス(サフラン) 木イチゴ イチジク クルミ キュウリ 椰子 |
聖獣 | 亀 鶴 鷹 野兎 山羊 羊 雄鶏 数種の魚 |
敬称 | アルゲイフォンテス(アルゴスの殺し手) プシューコポンポス(魂の導き手) ディアクトロス(伝令神) メカニオテス(詐欺師) ほか多数 |
主な拠点 | オリュンポス山 |
信仰の中心地 | アルカディア ほか、ギリシャ全土 |
親 | 父:雷霆の神ゼウス(ΖΕΥΣ) 母:星の精霊マイア(Μαῖα) または 父:酩酊の神ディオニュソス(ΔΙΟΝΥΣΟΣ) 母:愛と美と性の女神アフロディーテ(ΑΦΡΟΔΙΤΗ) |
兄弟姉妹 | 異母兄弟が多数、というか無数 |
配偶者 | なし または 愛と美と性の女神アフロディーテ(ΑΦΡΟΔΙΤΗ) キュレネ山の精霊ペネロペイア(Πηνελοπεια) フォキスの王女キオネ(Χιόνη) カリコロスの精霊ダイラ(Δαιρα) ※魔術の女神ヘカテと同一視される場合も アルカディアの精霊ソセ(Σωση) ドロスの娘イフティメ(Ἰφθίμη) 説得の女神ペイト(Πειθώ)とも 魔術の女神ヘカテ(Ἑκάτη)とも |
子孫 | アフロディーテとの間に、 両性具有の神ヘルマフロディトス(Ἑρμαφρόδιτος) 生殖と豊穣の神プリアポス(Πρίαπος)とも ペネロペイアとの間に、 牧神パン(Παν) ※牧草地の精霊パネス(Πανες)の1柱 狩猟と牧畜の精霊ノミオス(Νομιος) ※牧草地の精霊パネス(Πανες)の1柱 キオネとの間に、 狡猾な盗人アウトリュコス(Αὐτόλυκος) ダイラとの間に、 秘儀の女神エレウシス(Ελευσις) ソセとの間に、 狩猟と牧畜の精霊アグレウス(Αγρευς) ※牧草地の精霊パネス(Πανες)の1柱 イフティメとの間に、 サテュロスの伝令フェレスポンドゥス(Φερέσπονδος) サテュロスの使者リュコス(Λύκος) サテュロスの使者プロノモス(Πρόνομος) その他、 言伝の女神アンジェリア(Ανγελια) 格闘技の女神パライストラ(Παλαιστρα) 酒神の老従者シレノス(Σιληνός)とも 巨人の狩人オリオン(Ὠρῑ́ων)とする場合も ほか、人間族の子孫も死ぬほど多数 |
対応する星 | 水星(Mercury) :ローマ神話名のメルクリウスより |
同一視 | 北欧の最高神オーディン(Óðinn) 知恵の神トト(Thoth) |
曜日 | 水曜日(Wednesday) ヘルメスの日 |
概要と出自
ヘルメスはギリシャ神話に登場する伝令の神です。
彼は、貴族層からは「忠実な伝令役」として、庶民層からは、ありとあらゆる役割を卒なくこなす、古代ギリシャ人にとっての「理想像」として崇拝されました。
ヘルメスは、上流階級の人々からは「大人しく言うことを聞く便利屋」のように思われていますが、その一方で、こうした富裕層を手玉に取って利用する商売人やずる賢い詐欺師、盗賊たちの守護神としても知られています。



一見、忠実で使える部下やけど、
それだけでは終わりまへんで~
というのが、彼の基本的な性格といえるでしょう。


『メルクリウス』 PD
一筋縄ではいかぬ食えない男ヘルメスは、ギリシャ世界の王・雷霆の神ゼウス(ΖΕΥΣ)と、星の精霊マイア(Μαῖα)との間に誕生しました。
彼は、生後初日にして伝説的な武勇伝を残しているので、ここでは、その当時の様子をダイジェストで確認してみましょう。
生後初日にして完全犯罪を成し遂げた伝令神、ついでに無二の親友も得る
アルカディア地方のキュレネ山に住む美しいニンフ(Νύμφη)*のマイアは、ある時、主神ゼウスに見初められてその寵愛を受け、ヘルメスという名の息子を産みました。
※自然界の精霊みたいなもん
交易や旅人の守護のみならず、後に詐欺や窃盗までも司った彼は、この世に生を受けたその瞬間から強烈すぎる個性を発揮します。
なんとヘルメスは、生後初日にして母たちの目を盗んでゆりかごを脱出し、遠く離れたテッサリアへと向かって、光明の神アポロン(ΑΠΟΛΛΩ)が所有する50頭もの牛を丸ごと盗み出してしまったのです。


しかも、足あとを追跡されぬよう、牛たちの脚には即興で編んだ大きな草鞋を履かせているという用意周到っぷり。
人生1日目にして完全犯罪を成し遂げたヘルメスは、何事もなかったかのようにゆりかごへと戻り、無力な赤ん坊を装って眠りに就きました。



バブー
ヘルメス誕生の詳細はコチラ!!


ちなみに彼は、この犯罪の唯一の目撃者である老人バトゥス(Βάττος)から不正直な心を炙り出し、「天罰」の名目でその口を封じたりもしています。




-バトゥスを岩に変えるヘルメス 1767年 PD
被害者であるアポロンは「予言」と「神託」の力を駆使して、大泥棒の正体が生まれたばかりのヘルメスであることを突き止めました。



へいへい☆
ネタはもう上がってるよ、僕の大切な牛をどうしたんだい☆



しょーがねーだろ赤ちゃんなんだから
2人の大喧嘩は収拾がつかなくなり、ついには、それぞれの父親である最高神ゼウスが調停に乗り出す事態にまで発展します。
彼は、大人げない2神のやり取りを聞いてひとしきり大笑いすると、



まぁまぁ、つまらん喧嘩はもうよしんしゃい
アポロンは年下の者に優しくすること



ヘルメスは盗んだ牛の在り処を伝えて返却すること
これで終いじゃぁ
と、事実上の喧嘩両成敗を言い渡しました。


『メルクリウスとアポロン』1635年 PD
しかし、実はこのヘルメス、犯罪の証拠を隠滅するために、アポロンから盗んだ牛の群れをとうの昔に全頭屠ってしまっていたようです。
その事実を知った光明神は、再び怒髪天を衝く勢いで怒りますが、そのとき彼の目に、なにやら見慣れぬ不思議な楽器の姿が映りました。



ムムムッ…☆
小僧、これは一体なんね?☆



これは牛の腸と亀の甲羅で作った試作品の楽器ですぜ
まぁ、「竪琴」とでも呼びましょうか



どれ、試しに一曲聞かせて差し上げやしょう
ヘルメスがそう言って竪琴をかき鳴らすと、たちまち聞いたこともないような甘美な旋律が、芸術と音楽の神アポロンの心を揺さぶります。
光明神は先ほどまでの大喧嘩もすっかり忘れて、優秀な発明家であるヘルメスにこう言いました。



ヘルメスよ、君すごいじゃないか☆
音楽を司るこの僕ですら、この音色には驚かされたよ☆



もう牛なんてどうでも良いや☆
その代わり、この竪琴とやらを僕に譲ってはくれまいか☆



あっしの仕事に敬意を払ってくれるなんて…
う~ん、BFF(Best Friends Forever)!!
こうして、先ほどまで犬猿の仲であったヘルメスとアポロンの2神は一転、他に類を見ないほどの、無二の大親友になったと伝えられています。
アポロンは、友情の証としてヘルメスに黄金の杖を贈り、以降それは、伝令神のシンボル「ケリュケイオン(κηρύκειον)*」として知られるようになりました。
※2匹の蛇が絡まった杖、「カドゥケウス(κηρύκειον)」とも
また、生後初日にしてその有能さを遺憾なく発揮したヘルメスは、主神ゼウスから直々に、神々の伝令役を仰せつかったと言われています。



「ケリュケイオン」については、また後ほど解説するよ


ca. 475–465 BCE
出典:メトロポリタン美術館 PD


伝令の神のさまざまな役割
貴族層の金持ち連中には良い顔をして器用に振る舞い、庶民層には善も悪もひっくるめてオールラウンドに庇護を与えた、まさに神々のトリックスターともいえる伝令神ヘルメス。
ここでは、そんな彼が司った種々様々な事柄を、ざっくりダイジェストにまとめてご紹介しています。
「伝令」と「使者」の神
ヘルメスの役割といえばやはりコレ、「伝令」と「使者」の守護が挙げられます。
彼自身も、オリュンポスの王ゼウスの個人的なメッセンジャーであり、ヘルメスは神の言葉を方々に伝えるだけでなく、事あるごとに主神のやりたい放題の尻拭いを担当していました。
ヘルメスが所有する杖「ケリュケイオン(κηρύκειον)*」は、古代ギリシャにおいて、公式の使者が携える象徴のようなアイテムであったとされています。
※2匹の蛇が絡まった杖、「カドゥケウス(κηρύκειον)」とも


『野原にあるメルクリウス像』19世紀 PD
既に皆さんもご存じの通り、彼は神話のあらゆる場面に登場して、神々のメッセージを伝えたり、英雄に助けの手を差し伸べたりしました。
また、ヘルメスは「鳥」の姿をとり、予言の神アポロンの啓示を受けて天から遣わされることもあったと伝えられています。
神の庇護を受けた預言者だけが、「ヘルメスの声」と「ただの鳥の鳴き声」を区別し、その神聖なメッセージを解釈することができたのだそうです。
ギリシャ神話における「伝令役」といえば、もう1柱、虹の女神イーリス(Ἶρις)が有名です。
彼女はヘルメスとは異なる、より貴族色の強い伝令神で、庶民的な権能は一切もっていません。
イーリスは、基本的には神々の女王・結婚の女神ヘラ(Ἥρα)に仕え、主神夫婦の寝室のベッドメイキングなんかも担当しています。


『モーフィアスとアイリス』1811年 PD





古代ギリシャでは「伝令」のことを
「ヘラルド」とも呼んだのよ
「貿易」と「商人」の神
ヘルメスは「商業」の神であり、「商人」たちの守護神でもありました。
彼は、公共の空間や市場として利用された広場「アゴラ(Ἀγορά)」を司る神々の1柱で、経済活動を行う数多の人々を見守ったと考えられています。
市場には牛や羊、山羊なども持ち込まれたので、「畜産」の神としての役割も担ったヘルメスにとって、この仕事が回ってくるのはごく自然な流れだったのかもしれません。
また彼は、「窃盗」と「狡猾さ」あるいは「雄弁」の神として、商人たちの巧妙かついかがわしい取引も司っていました。


「言語」と「学問」の神
ヘルメスは、記憶の女神ムネモシュネ(Μνημοσύνη)と並んで「言語」の神と見なされることもありました。
一説によると、彼は「文字」の発明者とも言われており、古代ギリシャにおいては、伝令官が携行する書簡や、商人や地主の棚卸に初めて文字が用いられたと言われています。
また、ヘルメスは人類に多くの言語を教えたともされ、逆に言うと彼の働きによって、人々はそれぞれ異なる言葉を使うようになったとも考えられているのだそうです。
さらに彼は、「天文学」や「占星術」とも関連付けられました。
ヘルメスの母には星の精霊マイアが、祖父には天の星座を支える巨人アトラス(Ἄτλας)がいることも、この設定と無関係ではないのかもしれません。


『天球を支えるアトラス』1646年 PD


「旅」と「道」の神
ヘルメスは、「旅行者」の守護神としても崇敬を集めました。
古代ギリシャの道路には、「ヘルマ(ἕρμα)」と呼ばれる原始的な石柱が置かれており、これらは街道やその他の境界線を示す目印として用いられたほか、災いや邪悪を追い払う厄除けとしての役割も担ったとされています。
こうした機能はヘルメスの職能とも結びつけられており、そもそも彼の名称は、この「ヘルマ」に由来するという説も唱えられました。
一般的な「ヘルマ」では、髭を生やしたヘルメスの胸像が上部に象られ、台座の部分にはなんと、男性の「男性自身」が彫刻されていたと言われています。


ギリシャ・アルカディア 紀元前490年頃
出典:メトロポリタン美術館 PD



日本の「道祖神」と共通点が多い気もするわね



さらにあっしは、旅人を歓待する
「おもてなし」の神でもあったんだぜ~
「畜産」の神
ヘルメスは「畜産」の神として、牛や羊、山羊やラバなどの飼育を司りました。
彼はこの役割において、家畜の「保護と繁栄」、そして野獣などの被害による「財産の破壊」の両方を象徴したと考えられています。
この点から彼には、後ほど記載する「牛泥棒」としての属性も付与されました。
またヘルメスは、家畜の群れや家を守る「番犬」たちの守護神でもあったと言われています。


『アポロンとメルクリウスのいる風景』1645年頃 PD
ヘルメスの役割その他



おれっちの仕事ぶりは、まだまだこんなもんじゃないぜ~
- 「雄弁」と「狡猾さ」の神
-
ヘルメスは書物を書くだけでなく、「雄弁さ」や「説得力」をも象徴しました。
彼の庇護下にある伝令役や商人、泥棒や詐欺師たちは、ヘルメスが司る「狡猾さ」と「策略」を用いて言葉巧みに相手を説得し、欺瞞に満ちたやり取りを繰り広げたと言われています。
- 素朴な「道具」と「芸術」の発明者
-
ヘルメスは、羊飼いや牧夫が用いたさまざまな「道具」の発明者として知られています。
彼は、火起こし棒から、動物を縛るための拘束具、そして村の境界石(ヘルマ)まで、様々なアイテムを生み出しました。
また、亀の甲羅で作られた原始的な竪琴、笛、そして田園詩や寓話などの素朴な文化も、彼の発明によるものとされています。
リラを奏でるアポロンと芸術の女神ムーサイのイメージ
Canvaで作成 - 「泥棒」と「窃盗」の神
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ヘルメスは「盗賊」や「窃盗」の守護神でもありました。
古代ギリシャにおける主要な盗賊行為の一つは「牛泥棒」で、生後初日の彼が、50頭ものアポロンの牛の群れを盗み出したのは先述の通りです。
- 「祝宴」と「宴会」の神
-
畜産の神であるヘルメスは、肉を提供する「饗宴」をも司りました。
彼は、炉の女神ヘスティア(ΕΣΤΙΑ)と共に、不死の神々の宴会を取り仕切ったと言われています。
- 「家庭」の守り神
-
ヘルメスは主神ゼウスや炉の女神ヘスティアとも並ぶ、家庭の守護神でもありました。
古代ギリシャの人々は、家を守り盗難を防止するために、玄関先にヘルメスの祠を建てたとされています。
- 「死者の魂」を導く神
-
ヘルメスは、死者の魂を冥界の王ハデス(ΑΙΔΗΣ)の元に導く役割も担いました。
冥界の女王ペルセポネ(ΠΕΡΣΕΦΟΝΗ)がハデスによって誘拐された際、ゼウスの遣いで彼女を迎えに行ったのがヘルメスであったことから、彼にこのような仕事が割り振られたものと考えられています。
フレデリック・レイトン
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ヘルメスは、しばしば「眠り」と「夢」をもたらす神としても描かれました。
眠りの神ヒュプノス(Ὑπνος)や夢の神々オネイロイ(Ονειροι)といった神格は、もともと彼と同一視されていた可能性もあるとされています。
またヘルメスは、神々や死者からメッセージを託される「予言的な夢」も統括しました。
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ヘルメスは、羊飼いや牛飼いたちが小石を使って行っていた、素朴な「占い」の神でもありました。
彼はこの技術を、光明の神アポロンもしくはトリアイ(Thriai)と呼ばれるニンフたちから学んだとされています。
また、彼が竪琴や笛などの楽器を発明したのは先述の通りです。
- 「運動競技」と「訓練施設」の神
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ヘルメスは、古代ギリシャの運動選手の訓練施設である「ギュムナシウム(γυμνάσιον)」や、「パライストラ(παλαίστρα)」の守護も司りました。
彼の優れた身体能力と体格が、この役割と結びつけられたと考えられています。
以上、気が遠くなるほどに数多くの要素を司った伝令神ヘルメスは、『イソップ寓話』にもたびたび登場し、
- 泥棒の神
- 商人の神
- 知性の神
- 旅人ともてなしの神
- 田舎の神
として活躍しています。


『メルクリウス』1636年-1638年 PD
ヘルメスの役割を整理してみて気づくのが、貴族的で権力の強い光明神アポロンに対して、彼は「ずる賢さ」と「技術」で対等に渡り合っている、という他にはない特徴です。
事実、ヘルメスは、古代ギリシャの庶民の理想を体現する神として崇敬を集めました。
そのため彼は、「交渉」や「発明」「富」といったポジティブな要素から、「盗み」や「賭博」「詐欺」といった一般的にはネガティブとされる要素まで、人々に必要とされたさまざまな職能をもっていたのです。
神話のなかで、ヘルメスとアポロンは無二の親友として描かれていますが、この2神の関係性は、実は
- 真実の神 V.S. 詐欺の神
- 叡智の神 V.S. 狡知の神
- 貴族代表の神 V.S. 庶民代表の神
という対立構造も表していたのですね。
貴族的なアポロンには従わず、力(権力)では劣ってもその機転で対等に渡り合う――。
今回の主人公ヘルメスは、古代ギリシャの庶民たちが抱いた、そんな「気概」を体現する存在だったのかもしれません。


『ヴィーナスとメルクリウス』1688年 PD
ヘルメスが関わった主なストーリー



ヘルメスの活躍を見てみよう!
数々の英雄に「助言」と「援助」を届けた、オリュンポスのメッセンジャー
伝令神ヘルメスは、ギリシャ神話のさまざまな時代、場面に登場し、物語を彩る数多くの英雄たちに「神々のメッセージ」や「便利お助けアイテム」を授けました。
ここでは、そんな彼が本来の役割をまっとうした、いくつかのシーンを、ざっくりダイジェストでご紹介しています。



お話の詳細は個別の記事で解説しているから、
良ければそちらも見てみてね!



なお、時系列順にはなっとらん個所もあるので、
そこらへんはゆるく受け取ってほしいぞぃ
酩酊の神ディオニュソス誕生のゴタゴタで、新生児を保護し運搬
ゼウスの寵愛を受けたテーバイの王女セメレ(Σεμέλη)は身ごもりますが、結婚の女神ヘラ(Ἥρα)の呪いを受け、神の威光に焼かれて身を滅ぼしてしまいます。
主神は亡き彼女のお腹にいる胎児を救い出し、彼をこれまた息子であるヘルメスの手に委ねました。
その後、赤ん坊は叔母にあたるイノ(Ἰνώ)夫妻やニュサの谷に住むニンフ*たちのもとで養育され、やがて立派な青年に成長します。
※自然界の精霊みたいなもん
酩酊の神ディオニュソス(ΔΙΟΝΥΣΟΣ)と呼ばれた彼は、オリュンポス12神の1柱に数えられるまでになりました。


『バッカス』1598年 PD


英雄ペルセウスのメドゥーサ退治に現れ、神アイテムを授ける
英雄ペルセウス(Περσεύς)は母ダナエ(Δανάη)を救うため、セリフォス島の王ポリュデクテス(Πολυδέκτης)の元に、蛇髪の怪物メドゥーサ(Μεδουσα)の首を届けることを約束します。
ヘルメスは、この若き青年を3姉妹の怪物グライアイ(Γραῖαι)のもとへ導いたほか、彼に「翼のついたサンダル」という神アイテムを授けました。
他にも数多くの神々から加護を得たペルセウスは、見事にメドゥーサの討伐を成功させ、憎きポリュデクテスの手から大切な母を救い出しています。


『メデューサの頭部』1680年 PD


英雄ヘラクレスを助けたり売り払ったりする
半神の英雄ヘラクレス(Ηρακλής)は有名な『12の功業』の際、冥府から番犬ケルベロス(Κέρβερος)を連れてくるという指令を受けました。
一般的には、冥界の王ハデス(ΑΙΔΗΣ)から許可をもらい、平和的にミッションを達成したとされるこのお話ですが、その裏には伝令神ヘルメスと戦いの女神アテナ(Αθηνη)の助力があったとも言われています。
一方でヘルメスは、主神ゼウスの命を受けて奴隷商人に扮し、ヘラクレスをリディアの王女オムパレー(Ὀμφάλη)に売却したりもしています。


『アケロン川のほとりの魂たち、冥界のヘルメス』1898年 PD
『トロイア戦争』の遠因となる事件に、王子パリスを引っ張って来る
英雄ペレウス(Πηλεύς)と、海の女神テティス(Θέτις)の結婚式に招待されなかったことでブチ切れた争いと不和の女神エリス(Ἔρις)は、披露宴の現場に、「最も美しい女神へ」というメッセージが添えられた黄金の林檎を投げ込みました。
これを自分のものであると主張したのが、結婚の女神ヘラ(Ἥρα)、戦いの女神アテナ(Αθηνη)、愛と美と性の女神アフロディーテ(ΑΦΡΟΔΙΤΗ)の3神です。
主神ゼウスは調停を放棄し、伝令神ヘルメスに代役を連れてくるよう命令。
彼は、トロイアの王子パリス(Πάρις)にこの面倒な仕事を押し付け、この出来事が、後に勃発する「トロイア戦争」の遠因となりました。


『メルクリウスとパリス』1745年 PD
プリアモス王をアキレウスのもとへ導き、
ヘクトールの遺体を返還させる
時は、「トロイア戦争」の真っただ中――。
トロイアの王プリアモス(Πρίαμος)は、息子にして英雄のヘクトール(Ἕκτωρ)を失い悲嘆に暮れますが、そんな彼に救いの手を差し伸べたのが伝令神ヘルメスです。
ゼウスの命を受けた彼は老プリアモスを導き、息子を討ち取りその亡骸を占有した、英雄アキレウス(Ἀχιλλεύς)の天幕へと連れて行きました。
ギリシャ側の英雄はトロイア王の思いを汲み取り、王子ヘクトールの遺体の返還に応じたと言われています。


『アキレスにヘクトールの遺体を求めるプリアモス』1876年 PD
戦争の英雄オデュッセウスの、10年にも及ぶ故郷への帰還を助ける
「トロイア戦争」の終結後、イタキ島の王オデュッセウス(Ὀδυσσεύς)は故郷への帰途に就きますが、オリュンポスの神々の干渉を受けた彼の旅路は、10年間にも及ぶ長きものとなりました。
この旅の途中でアイアイエ島(Αιαίη)を訪れたオデュッセウスは、現地の魔女キルケー(Κίρκη)の策略に危うく嵌められそうになってしまいます。
しかし、伝令神ヘルメスから魔法の薬草モリー(Μῶλυ)を授かり、キルケーに関する助言を受けていた彼は、無事にこの難局を打開することができました。


『オデュッセウスに杯を差し出すキルケ』1891年 PD
ほか、めちゃくちゃ多数!!



「トロイア戦争」ではギリシャ側に味方した彼だけど、
女神レトには気を遣って勝負を辞退したんだよ



まぁ、マブダチ(アポロン)の母ちゃんに手は上げられないよね



「トロイア戦争」については別途まとめる予定だから、
楽しみにしていてね
単なる伝書鳩じゃぁねぇぞ!!
ヘルメス自身が活躍したいくつかの物語
最後に、単なる神々のメッセンジャーとしてのみならず、単独でもそれなりの活躍を果たしたヘルメスの、いくつかの武勇伝をざっくり一覧でご紹介します。
神々の女王の部下アルゴスを討伐し、なんか英雄っぽい扱いを受ける
アルゴス地方の王女イオ(Ῑ̓ώ)は、主神ゼウスに見初められて寵愛を受け、その不貞を神々の女王ヘラに怪しまれるという不運に遭遇します。
主神は彼女を「牝牛」の姿に変えてごまかそうとしますが、用心深いヘラはなおも訝しみ、イオの見張りに百眼の巨人アルゴス(Ἄργος)を配置しました。
さすがにまずいと焦ったゼウスは息子のヘルメスを呼び出し、王女イオの救出を命令。
伝令神は、得意の葦笛を吹いてアルゴスを眠らせ、その隙に彼の首を斬り落とし、見事にターゲットの奪還に成功しました。


『メルクリウスとアルゴス』1636年–1638年 PD
ヘルメスはその後、「アルゲイフォンテス(アルゴスの殺し手)」という敬称でも呼ばれるようになっています。




巨人戦争で主神を助ける活躍を果たすも、ラスボス戦の前に逃走する
オリュンポスの王ゼウス(ΖΕΥΣ)と大地の女神ガイア(Γαῖα)の対立によって生じた、宇宙の支配権を賭けた大戦争「ギガントマキア(Γιγαντομαχία)」。
この戦いも終盤に近付くと、大地母神は最後の切り札として、原始の奈落タルタロス(Τάρταρος)から最大最強の怪物テュポン(Τυφών)を召喚します。
主神ゼウスも果敢に戦いますが、彼は攻勢に転じたテュポンによって足の「腱」を切り取られ、コーリュキオン洞窟の奥に閉じ込められてしまいました。
そこに登場したのが、伝令神ヘルメスと牧神パン(Παν)の親子です。
2人は、門番をしていた半人半竜の怪物デルピュネ(Δελφύνη)を騙して「腱」を取り戻し、最高神を復活させて再び戦いへと送り出しました。
親子の活躍もあってか、この戦いはゼウス率いるオリュンポス勢力の勝利に終わっています。


『エジプトのオイディプス』に登場するテュポーンの挿絵
1652年 PD




また、前後関係が明らかではありませんが、ラスボス・テュポンの登場を知ったヘルメスは「トキ」に変身して現場から逃亡しようと考えました。
このことから彼は、エジプト神話に登場する知恵の神トト(Thoth)と同一視されています。


出典:ニューヨーク公共図書館 PD


その他、ヘルメスの登場シーン一覧
今回の主人公ヘルメスはこの他にも、以下の通り数々のユニークな逸話を残しています。
- 息子として生まれた牧神パンのビジュアルを面白がり、オリュンポスの神々に見せびらかしてまわる
- 先見の神プロメテウス(Προμηθεύς)をコーカサス山脈(Caucasus Mountains)の岩に縛り付ける
- 人類最初の女性パンドラ(Πανδώρα)が創造された際、彼女に「泥棒的なメンタル」と「恥知らずな精神性」を授ける
- 光明の神アポロン(ΑΠΟΛΛΩ)と同じタイミングでフォキスの王女キオネ(Χιόνη)に目をつけ、ほぼ同じタイミングで彼女を愛し、息子に狡猾な盗人アウトリュコス(Αὐτόλυκος)を得る
- アテナイの王女ヘルセ(Ἕρση)に恋をして地上に降り立つも、妨害してきた彼女の姉妹アグラウロス(Ἄγλαυρος)をシバきあげる
- 恋人のクロッカス(Κρόκος)の頭に円盤を直撃させて死なせてしまい、彼の亡骸をサフラン(≒クロッカス)の花に変える
- アポロンが蛇の怪物ピュトン(Πύθων)を追悼して開催した「ピュティア競技祭」に出場し、優勝して賞品の「琴」を受け取る
- 双子の巨人アロアダイ(Ἀλωάδαι)に拉致監禁されて死にかけた戦いの神アレス(ΑΡΗΣ)を救出する
- 第1回オリンピックでアポロンと徒競走を行い、負ける
- 結婚の女神ヘラを口説いたテッサリアの王イクシオン(Ἰξίων)を、永遠に回転し続ける火の車輪に縛り付ける
- アポロンの息子である医療の神アスクレピオス(Ασκληπιος)を保護する
ほか、死ぬほど多数!!


『メルクリウス』1611年 PD
ギリシャ神話をモチーフにした作品



参考までに、「ギリシャ神話」と関連する
エンタメ作品をいくつかご紹介するよ!
おわりに
今回は、ギリシャ神話に登場する伝令の神ヘルメスについて解説しました。



どメジャーな神だけあって、
役割やエピソードも盛りだくさんだったわね



庶民たちの理想像っていうのも、
なんとなく分かる活躍っぷりだよね!
パパトトブログ-ギリシャ神話篇-では、雄大なエーゲ海が生み出した魅力的な神々や彼らの物語をご紹介していきます。
神さま個別のプロフィール紹介や神話の名場面をストーリー調で解説など、難しい言葉はできるだけ使わずに、あらゆる角度から楽しんでもらえるように持って行こうと考えています。
これからも「ギリシャ神話」の魅力をどんどんご紹介してきますので、良ければまた読んでもらえると嬉しいです!



また来てね!
しーゆーあげん!
参考文献
- ヘシオドス(著), 廣川 洋一(翻訳)『神統記』岩波書店 1984年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『イリアス 上』岩波書店 1992年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『イリアス 下』岩波書店 1992年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『オデュッセイア 上』岩波書店 1994年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『オデュッセイア 下』岩波書店 1994年
- アポロドーロス(著), 高津 春繁(翻訳)『ギリシア神話』岩波書店 1978年
- T. ブルフィンチ(著), 野上 彌生子(翻訳)『ギリシア・ローマ神話』岩波書店 1978年
- 吉田 敦彦『一冊でまるごとわかるギリシア神話』大和書房 2013年
- 阿刀田高『ギリシア神話を知っていますか』新潮社 1984年
- 大林 太良ほか『世界神話事典 世界の神々の誕生』角川ソフィア文庫 2012年
- 中村圭志『図解 世界5大神話入門』ディスカヴァー・トゥエンティワン 2020年
- 歴史雑学探究倶楽部『世界の神話がわかる本』学研プラス 2010年
- 沢辺 有司『図解 いちばんやさしい世界神話の本』彩図社 2021年
- かみゆ歴史編集部『マンガ 面白いほどよくわかる! ギリシャ神話』西東社 2019年
- 鈴木悠介『眠れなくなるほど面白い 図解 世界の神々』日本文芸社 2021年
- 松村 一男監修『もう一度学びたいギリシア神話』西東社 2007年
- 沖田瑞穂『すごい神話―現代人のための神話学53講―』新潮社 2022年
- 杉全美帆子『イラストで読む ギリシア神話の神々』河出書房新社 2017年
- 中野京子『名画の謎 ギリシャ神話篇』文藝春秋 2015年
- 千足 伸行監修『すぐわかるギリシア・ローマ神話の絵画』東京美術 2006年
- 井出 洋一郎『ギリシア神話の名画はなぜこんなに面白いのか』中経出版 2010年
- 藤村 シシン『古代ギリシャのリアル』実業之日本社 2022年
- 中村圭志『教養として学んでおきたいギリシャ神話』マイナビ出版 2021年
- かみゆ歴史編集部『ゼロからわかるギリシャ神話』イースト・プレス 2017年
- THEOI GREEK MYTHOLOGY:https://www.theoi.com/
他…