
こんにちは!
今回はギリシャ神話より豊穣の女神デメテルを紹介するよ!



何だか平和そうな神格ね
彼女はどんなキャラクターなの?



彼女はオリュンポス12神の1柱にも数えられる女神で、
古代ギリシャ人の主食である「穀物」の収穫を司ったんだ!



全人類の胃袋を握る、隠れた権力者でもあるのじゃ



ではさっそくいってみよう!
このシリーズでは、忙しいけど「ギリシャ神話」についてサクっと理解したいという方向けに、「かんたん・わかりやすい」がテーマの神々の解説記事を掲載していきます。
雄大なエーゲ海と石灰岩の大地が生み出した、欲望に忠実な神々による暴力的でありながらもどこかユーモラスな物語群が、あなたに新たなエンターテイメントとの出会いをお約束します。
人間味溢れる自由奔放な神々の色彩豊かで魅力的な物語に、ぜひあなたも触れてみてくださいね。
今回は、農耕の神クロノスと大地の女神レアのあいだに誕生したオリュンポスの神々の初期メンバーで、愛娘のコレーを誘拐されたことで全人類と神々を滅ぼしかけたこともある、怒らせると本当に怖い豊穣の女神デメテルをご紹介します!



忙しい人はコチラから本編にすっ飛びじゃ
この記事は、以下のような方に向けて書いています。
- ギリシャ神話にちょっと興味がある人
- ギリシャ神話に登場する神さまのことをざっくり知りたい人
- とりあえず誰かにどや顔でうんちく話をしたい人
- ギリシャ神話に登場する「豊穣の女神デメテル」について少し詳しくなります。
- あなたのエセ教養人レベルが1アップします。
そもそも「ギリシャ神話」って何?
「ギリシャ神話」とは、エーゲ海を中心とした古代ギリシャ世界で語り継がれてきた、神々と人間の壮大な物語群です。
夏には乾いた陽光が降り注ぎ、岩と海とオリーブの木が広がる土地に暮らした人々は、気まぐれで情熱的、そして人間以上に人間らしい神々を生み出しました。
神々は不死である一方、人間と同じように嫉妬し、愛し、怒り、そしてときに残酷な運命に翻弄されます。
現代に伝わる物語の多くは、ホメロスの『イーリアス』『オデュッセイア』、ヘシオドスの『神統記』などの古代叙事詩を原典としています。
王族の愛憎劇に始まり、神々の争いや英雄たちの冒険、時に神と人間の禁断の関係まで——
あらゆる欲望と感情が渦巻くギリシャ神話の世界は、きっとあなたの心を掴んで離さないでしょう。


14世紀ギリシャの写本 PD
「ギリシャ神話」の全体像は、以下で解説しているよ!


豊穣の女神デメテルってどんな神さま?
豊穣の女神デメテルがどんな神さまなのか、さっそく見ていきましょう。



いくぜっ!
簡易プロフィール
正式名称 | デメテル ΔΗΜΗΤΗΡ |
---|---|
名称の意味 | 母なる大地 穀物の母など |
その他の呼称 | デーメーテール デオ(Δηώ) |
ラテン語名 (ローマ神話) | ケレス(Ceres) |
英語名 | セリーズ(Ceres) |
神格 | 豊穣の女神 穀物の女神 農業の女神 食物の女神 |
性別 | 女性 |
勢力 | オリュンポス神族 |
アトリビュート (シンボル) | 麦の穂 麦穂の冠 コルンコピア(豊穣の角) 黄金の剣 小麦 大麦 ミント ケシ |
聖獣 | ヘビ ブタ キジバト 馬 |
敬称 | アネシドラ(恵もたらす君) テスモポロス(掟をもたらす者)ほか多数 |
主な拠点 | オリュンポス山 |
信仰の中心地 | エレウシス(Ἐλευσίς) |
関連する星座 | おとめ座(Virgo)とも |
親 | 父:農耕の神クロノス(Κρόνος) 母:大地の女神レア(Ῥέα) |
兄弟姉妹 | 炉の女神ヘスティア(ΕΣΤΙΑ) 結婚の女神ヘラ(Ἥρα) 冥界の王ハデス(ΑΙΔΗΣ) 海神ポセイドン(ΠΟΣΕΙΔΩΝ) 雷霆の神ゼウス(ΖΕΥΣ) 異母兄弟として ケンタウロスの賢者ケイロン(Χείρων) |
配偶者 | 雷霆の神ゼウス(ΖΕΥΣ) 海神ポセイドン(ΠΟΣΕΙΔΩΝ) 人間イアシオン(Ἰασίων) 人間カルマノール(Καρμάνωρ) ※イアシオンと同一人物とも 人間メコン(Μήκων) |
子孫 | ゼウスとの間に、 乙女コレー(Κόρη) ※後の冥界の女王ペルセポネ(ΠΕΡΣΕΦΟΝΗ) ポセイドンとの間に、 女神デスポイナ(Δέσποινα) 名馬アレイオン(Ἀρίιων) イアシオンとの間に、 富と収穫の神プルトゥス(Πλοῦτος) 半神フィロメロス(Φιλόμηλος) カルマノールとの間に、 助言の神エウブレウス(Εὐβουλεύς) 半女神クリュソテミス(Χρυσοθεμις)など諸説あり |
由来する言葉 | ・「cereal」 :穀物、穀類や朝食用の「シリアル」を意味する英単語。デメテルのローマ神話名「ケレス」から。 |
概要と出自
デメテルはギリシャ神話に登場する豊穣の女神です。
その名称は「母なる大地」を意味するとされ、彼女は大地に種を撒いてそれを収穫し、古代ギリシャ人の主食であった「穀物」の生産に深く関わりました。
また、デメテルは「健康」や「出産」、「結婚」などを司る女神ともされており、その美称「テスモポロス(掟をもたらす者)」からは、彼女が「法」との関わりをもっていたこともうかがえます。
豊穣の女神らしく母性にあふれ、普段は非常に優しい性格をしていた彼女ですが、その反面、一度怒らせると誰よりも恐ろしい側面もありました。


デメテルの母なる女神と農業の女神としての側面を描いたレリーフ PD
そんなデメテルは、農耕の神クロノス(Κρόνος)と大地の女神レア(Ῥέα)のあいだに第二子として誕生。
しかし、「自分の子どもたちに王権を奪われる」という予言に囚われたクロノスは、レアが赤ん坊を生むたびに、それを片っ端から飲み込んでしまいます。
デメテルの姉弟には、
- 炉の女神ヘスティア(ΕΣΤΙΑ)
- 結婚の女神ヘラ(Ἥρα)
- 冥界の王ハデス(ΑΙΔΗΣ)
- 海神ポセイドン(ΠΟΣΕΙΔΩΝ)
が生まれましたが、結局は5人とも父・クロノスの胃袋に押し込められ、そこで幼少期を過ごすことになりました。



「全ギリシャ人の胃袋を握る」という設定は、
この逸話からきているのよ(嘘)
その後、6番目に生まれた雷霆の神ゼウス(ΖΕΥΣ)だけは、唯一難を逃れてクレタ島の洞窟で成長。
立派な青年となった彼は、クロノスの飲み物に催吐剤を盛ることで、5人の兄姉を救出することに成功しました。
この際、父クロノスは飲み込んだのと逆の順番で子どもたちを吐き出したので、デメテルは6人の神々のなかで、5番目の子になったともされています。


『ケレス』1660年頃 PD
その後、ゼウス率いる6人の兄弟姉妹は、横暴な父クロノスに対して宣戦を布告、「ティタノマキア(Τιτανομαχία)」と呼ばれる、10年にも及ぶ大戦争が始まりました。
原始の奈落タルタロス(Τάρταρος)に投獄されていた、単眼巨人キュクロプス(Κύκλωψ)や百手巨人ヘカトンケイル(Ἑκατόγχειρ)を解放したゼウス一派は、彼らの助力を得てさらに勢いを増し、ついにクロノス率いるティタン神族を撃破します。
敗北した先代の神々はタルタロスの囚人となり、世界の頂点には、ゼウスを筆頭とするオリュンポスの神々が君臨することになりました。






さらにその後、巨人族ギガンテス(Γίγαντες)とのあいだに勃発した世界史上最大の戦争、「ギガントマキア(Γιγαντομαχία)」にも勝利したゼウスらはその地位を確固たるものとし、オリュンポス神族は名実ともに世界の支配者となります。




『神々とタイタンの戦い』1600年 PD
これらの戦争において、デメテルが果敢に戦ったという記録は残っていませんが、一連の騒動に最初から関わっていた彼女は、しっかりと「オリュンポス12神」*の1柱にその名を連ねました。
※ギリシャ神話の神々でも特に主要な存在は「オリュンポス12神」に括られる
デメテルは古代ギリシャ全土の農業・収穫・穀物を司っていたため、事実上、全人類と神々の胃袋、ひいては世界の存亡をも握っていたといえるでしょう。
愛にあふれた豊穣の女神デメテルは複数の神々、あるいは人間とのあいだに子をもうけましたが、その中でも特に有名なのが、後に冥界の女王ペルセポネ(ΠΕΡΣΕΦΟΝΗ)と呼ばれることになる乙女コレー(Κόρη)です。
娘の失踪に端を発するエピソードでは、怒り狂ってすべての職務を放棄したデメテルが人類と神々を全滅の危機に追い込み、この出来事は古代ギリシャにおける「四季」の誕生神話ともなりました。



他にも、馬の姿でポセイドンと
交わったお話なんかも残されているんだ!
あらゆる穀物の生産に関わった豊穣の女神デメテル。
基本的には「裏の顔」なんてなさそうな彼女ですが、実は、デメテルは古代ギリシャにおける一種の密教的な集団にも関わっていました。
その名も、『エレウシスの秘儀(Ἐλευσίνια Μυστήρια)』。
これは、現世利益主義のギリシャ神話の世界観において、「死後の幸福」を求める異色の密儀のひとつです。
デメテルとペルセポネの母子はこの秘儀で重要な位置を占めていたとされますが、「儀式の内容を口外した者は死をもって償う」という掟があったため、その詳しい内容は現代でも分かっていないのだそうです。


出典:Marsyas CC BY 2.5



おそらくは、農業崇拝を基盤とした宗教的な
実践から発展したものと考えられとるようじゃ



なんか秘密結社みたいで面白いよね!
デメテルが関わった主なストーリー



デメテルの活躍を見てみよう!
娘の失踪事件の真実を知った豊穣の女神はぶちギレ!!
全職務を放棄して世界を滅亡の危機へと追い込む!!
古代ギリシャ人の主食であった「穀物」の生産に深く関わり、母性あふれる優しい女神さまとして慕われた今回の主人公デメテル。
そんな彼女が意外にも、全人類と神々を破滅寸前の危機に追い込んだことがありました。
これといった武力をもたないデメテルが、いかにして強大な力と不死を誇る神々をビビらせまくったのか、ここではその時のエピソードを追ってみましょう。
デメテルには、オリュンポスの王ゼウスとの間に生まれた、コレー(Κόρη)という名の美しい娘がいました。


-デメテルとペルセポネ 1914年 PD
その美貌は神々のなかにも知れ渡っており、
- 光明の神アポロン(ΑΠΟΛΛΩΝ)は「竪琴」
- 鍛冶の神ヘパイストス(ΗΦΑΙΣΤΟΣ)は「首飾り」
- 伝令の神ヘルメス(Ἑρμῆς)は「杖」
- 戦いの神アレス(ΑΡΗΣ)は「槍」
を、それぞれコレーに贈り、結婚を申し込んだと言われています。
しかし、母デメテルはそんな男神どもの申し出を



浮気ばっかりしよるオリュンポスの
ボンクラどもに可愛い娘は渡せんわぃ!



あと1人、バカみたいなセンスの奴おるぞ!
そういうとこやぞ!
と言って即却下。
愛する娘コレーを、遠く離れたシチリア島に隠して育てることにしました。



まさに「箱入り娘」って感じね



ギリギリ「毒親」のラインを超えてるけどねぇ…
しかし、そんなある日のこと。
デメテルが溺愛してやまない乙女コレーが、失踪してしまうという事件が起こります。
命よりも大切な我が子を探し求めた豊穣の女神は、半狂乱となって各地を渡り歩きますが、9日間ぶっ通しで捜索を続けるも、コレーの姿は一向に見つかりませんでした。



もともとコレーに仕えていたセイレーン(Σειρήν)を、
罰として化け物の姿にしたとも言われとるぞぃ




『ペルセポネーを悼んだデーメーテール』1906年頃 PD
娘のコレーを探して旅をしていたデメテルは、あるとき、アッティカのエレウシスの地で途方に暮れていました。
その時の彼女はみすぼらしい老婆の姿に変装していましたが、そんなデメテルにも優しく声をかける女性が現れます。
それが、ケレオス王の王妃メタネイラ。
彼女はデメテルを自分たちの家に招き、侍女たちと共に温かく歓待しました。



神々なんぞより、人間のほうがえぇ奴やんけ…
メタネイラたちの心遣いに感動した豊穣の女神は、その王子デモポンの養育係を申し出て、赤子を清めの火に入れて「不死」を与えようと試みます。
これはデメテルなりの恩返しだったのですが、たまたまその様子を盗み見たメタネイラは、当然ながらびっくり仰天。
子どもが焼かれてしまうと勘違いした彼女は、大声をあげて助けを求めます。
これに立腹したデメテルはその素性を明かし、メタネイラたちを許しはしましたが、不敬の償いとしてエレウシスの地に神殿を建てるよう命じたと伝えられています。



まぁ助けてもらった恩義はあるからな
不死ではないにせよ丈夫には育つやろ
場面は戻って、デメテルの旅の途中。



くそぅ、なんでどいつもこいつも口を割らんのじゃ…



あ、せや
デメテルの頭に浮かんだのは、太陽神ヘリオス(Ἥλιος)。
天高くに座して、下界で起こるすべての出来事を見ている彼ならば、娘の行方を知っているかもしれません。
いや、というよりもヘルメスは、「知らぬ存ぜぬ」という言い逃れができない唯一の存在ともいえるでしょう。





おいこら…
全部吐けや…



普段は偉っそうに高いとこから見下ろしよって…
こういう時だけ「知りませ~ん」が通用する思とんのか…



その頭の金ピカは飾りですかぁ~コラァ!!!



(怖っわ!!!)



コレーはんをさらったのは、冥府の王ハデスですじゃ…



あやつが彼女を地下深くに連れ去り、
自分の妻としたようですわ…
さすがに地底の話は、わしには見えませんがの?



あと、最高神ゼウスもグルで…
2人の結婚を認めたのは彼ですわ…
この物語の別のバージョンでは、デメテルにコレーの行方を報せたのは、トリプトレモス(Τριπτόλεμος)という名の若者ともされています。
彼のおかげで娘を取り戻すことができたデメテルは、そのお礼にトリプトレモスに「穀物の種」を与え、農業の方法を伝授しました。
さらに、豊穣の女神は若者に翼の付いた馬車を授け、すべての人々に農業の恵みをもたらすよう命じたと伝えられています。
どうやら、珍しく地上に出ていた冥界の王ハデス(ΑΙΔΗΣ)が偶然にもコレーに遭遇。
彼女に一目ぼれしたハデスは、一方的にコレーを地下の冥府へと連れ去り、自分の妻に迎えたということのようです。
さらに質が悪いことに、ハデスからの相談を受けた乙女の父ゼウスが、母デメテルの意向を完全に無視して結婚を承諾。
自分が何も知らない間に、手塩にかけて育てた愛娘の縁談が決まっていた、というわけです。


『プロセルピナの略奪』1631年頃 PD



(ゴゴゴゴゴゴゴ)



あっ!でも決して悪い話じゃないですやん!?
ハデスもいうて、世界の3分の1を治めとる権威
のあるお方ですしおすし…



あっ、ちょっ、待っ…
デメテルの姐さん!?
静かにぶちギレたデメテルはエレウシス(Ἐλευσίς)に立てこもり、自らの職務を完全に放棄しました。
※このタイミングで、人々に「エレウシスの秘儀」を授けたとも
豊穣と収穫を司る女神がストライキを起こしたということは、つまり、一切の植物が地上に実らなくなることを意味します。
当然ながら、すでにあった大地の作物もすべて枯れ果ててしまい、人間の世界では恐ろしい大飢饉が発生しました。
オウィディウスの『変身物語』によると、この時期の人々がいくら大地に種を撒こうとも、その一粒とて芽を出すことはなかったと伝えられています。
そして、神々を崇拝し犠牲を捧げる人間が一人もいなくなってしまうと、強大なオリュンポスの神も次第に飢えていき、やがては存在することができなくなるとされました。
まさに、全人類と神々の存亡の危機。





あいつら……駆逐してやる!
この世から……一匹残らず!
ここにきて、ようやく事の重大さを理解したオリュンポスの王ゼウスは、あらゆる神々をデメテルのもとに送って説得にあたらせます。
ゼウス自身も、



ま、まぁさ、ハデスもわしなんかと違って真面目やん?



欠点といえばくじ運が悪いことくらいやし…



案外相性良いかも分からんし、
冥界も「住めば都」って言うやんけ
と諭しますが、物で釣ろうと褒めちぎろうと、デメテルの機嫌がなおることはありませんでした。
さすがに焦った最高神は、コレーをデメテルのもとに返すしか方法がないと判断し、伝令の神ヘルメスを冥界に遣わして、今度はハデスのほうを説得します。



かくかくしかじかで、そりゃぁ地上は大変なのよ
悪いけど彼女を返してもらえんね?



まぁ、死人が多くてもわしの仕事が増えるだけですしの
わかりましたわ…



しかし我が妻よ、どうかわしのことを忘れないでおくれ
意外にも大人しく引き下がった冥府の王に、コレーもヘルメスもほっと安堵の息をつきました。
しかし、その一瞬の隙をついて、ハデスはコレーに一粒の甘い「柘榴の実」を食べさせます。
彼女はこの意味を理解していませんでしたが、母デメテルとの再会時に、ハデスの策略を知ることになりました。


『ペルセポネーの帰還』1891年 PD



おぉぉ!
我が娘よ、なんか悪いことされんかったかの?



もうとっくにされましたわ
あと、最後になんかワケの分からん実を食べさせられましたよ



なんですと!?
実は、神々の世界には、「冥界にある食べ物を口にした者は、冥界に繋ぎとめられてしまう」というルールがありました。
そのためコレーは、1年のうち3分の2(8ヶ月)を母デメテルのもとで過ごし、残りの3分の1(4ヶ月)を冥界でハデスの妃として過ごすことになったのです。
また、すでに処女ではなくなってしまった彼女は、以降、冥界の女王ペルセポネ(ΠΕΡΣΕΦΟΝΗ)と呼ばれるようになりました。



あの世の食べ物を食べると、あの世の住人になる
日本神話にも、同じように「黄泉戸喫」という概念があるよ!


一方、最後の最後でまたしても騙されたデメテルも、ただでは態度を変えません。



詐欺られた分は、きっちり働きませんし
彼女は、大切な娘が身近にいない3分の1の季節を憎み、この間を「植物を芽生えさせぬ不毛の時期」と定めました。
こうして、ギリシャ神話の世界に「季節」の概念が生じ、1年の3分の1にあたる「冬」のあいだには、一切の作物が育たず荒涼とした景色が広がることとなったのです。





ギリシャ神話版「季節の起源譚」ね



実際のギリシャの気候風土から、
不毛の時期を「夏」とみる説もあるそうじゃ



「実りをもたらす女神が機嫌を損ねて大ピンチ」という
展開は、日本の『天岩戸神話』にもみられるよね!


ほかにもたくさん!
「食べ物」にまつわるデメテルの珍エピソード集
母性あふれる豊穣の女神として愛されながらも、娘を奪われた際には怒髪天を衝く勢いで怒り狂い、人類も神々もまるごと滅ぼしてしまう寸前にまで追い込んだ食物の母デメテル。
そんな彼女が関わったエピソードはほかにもいくつか残されており、そのいずれもが、豊穣の女神にふさわしい「食べ物」にまつわるものでした。
ここでは、デメテルが登場した代表的な小話を、ダイジェスト形式でご紹介してみます。
聖なる木を切ったエリュシクトン
あるとき、デメテルの聖なる森の木を切って城を建てようとするエリュシクトン(Ἐρυσίχθων)なる人物が登場。
いつも通り、貧しい老女の姿に変装した豊穣の女神は、



これ、お若いの
デメテル様の聖域を荒らしてはならぬぞ
と忠告しますが、当のエリュシクトンはそれを完全に無視して、ガンガン木を切り倒してしまいます。
怒ったデメテルは罰として、彼に「飢餓」を命じ、食べても食べても満たされない無限の飢えを与えました。
エリュシクトンはありったけの食べ物を食い尽くし、私財を投げうって腹を満たそうとしますが、それでも足りず、ついには娘のメストラまでも売り払ってしまいます。
そこまでしても彼の空腹は癒されず、むしろ酷くなる一方だったので、エリュシクトンは結局、自分自身の指や手足をも食らいつくしてその命を落としました。


『ペルセポネーの帰還』1891年 PD
デメテルに踏みつぶされた「ミント」の誕生秘話
ミンテ(Μένθη)はコキュートス川に住む美しいニンフ(Νύμφη)*で、冥界の王ハデスの数少ない浮気相手の1人です。
※自然界の精霊みたいなもん
あるとき、その事実を知ったデメテル、もしくはペルセポネ本人が



お前なんぞ、「雑草」として存在すれば十分やろ…



お前なんぞ、「雑草」として存在すれば十分やろ…
と言ってミンテを容赦なく踏みつぶし、彼女を「ミント(薄荷)」の草に変えてしまいました。


古代ギリシャにおいて「ミント」は、死体の腐臭を隠すのに用いられていたので、冥界の面々との関係が深かったとされています。
また、デメテルとペルセポネの祭儀の際にも、この「ミント」が使われていたのだとか。
「怒ったときはマジで怖い」のが、この母子のそっくりポイントかもしれませんね。



ガタガタガタガタ…
サイコ野郎のタンタロスに唯一騙されるうっかり女神
神々の食卓に仲間入りを許されるほどに愛されたタンタロス(Τάνταλος)。
彼はある日、自身の息子ペロプス(Pelops)の命を奪ってその肉を食卓に供し、神々の力を試そうと謀ります。
当然ながらこの企みは露見し、激怒した神々はタンタロスを原始の奈落タルタロス(Τάρταρος)に堕としました。
彼は水辺の果樹の下に縛られ、目の前にある果実に手を伸ばすと風が吹いて決してつかめず、のどの渇きを癒そうとすると水が引いてしまうという、永遠の「飢え」と「渇き」に苦しめられる刑罰を与えられます。


『タンタロス』1640 年代頃 PD
しかしこの時、たった1人だけ、タンタロスの悪だくみを見抜けなかった女神がいました。
それが今回の主人公デメテル。
基本的におっとりしている彼女は、相手が悪意をもっていることに気付かず、間違って人間の肉を食べてしまったのです。



ウゲェェェェ!!!
このほかにもデメテルは、
- 恋した男と畑の上で交わる
※豊穣祈願で実際に行われたまじないの一種 - パンダレオス(Πανδάρεος)に「一生消化不良で悩まない」能力を授ける
※その代わりたくさん食べないと満たされない身体になった - 人間の少年が、ガッついておかゆを食べる様子を馬鹿にしてきたので、怒って彼をトカゲに変える
など、「食べ物」にまつわる彼女らしいエピソードを各地に残しました。
ギリシャ神話をモチーフにした作品



参考までに、「ギリシャ神話」と関連する
エンタメ作品をいくつかご紹介するよ!
おわりに
今回は、ギリシャ神話に登場する豊穣の女神デメテルについて解説しました。



普段は温厚だけど、怒らせるとマジで
ヤバイ人って現実にもいるわよね



全人類の胃袋を握っているというのは、
思った以上に絶大な権力なのかもしれないね!
パパトトブログ-ギリシャ神話篇-では、雄大なエーゲ海が生み出した魅力的な神々や彼らの物語をご紹介していきます。
神さま個別のプロフィール紹介や神話の名場面をストーリー調で解説など、難しい言葉はできるだけ使わずに、あらゆる角度から楽しんでもらえるように持って行こうと考えています。
これからも「ギリシャ神話」の魅力をどんどんご紹介してきますので、良ければまた読んでもらえると嬉しいです!



また来てね!
しーゆーあげん!
参考文献
- ヘシオドス(著), 廣川 洋一(翻訳)『神統記』岩波書店 1984年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『イリアス 上』岩波書店 1992年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『イリアス 下』岩波書店 1992年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『オデュッセイア 上』岩波書店 1994年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『オデュッセイア 下』岩波書店 1994年
- アポロドーロス(著), 高津 春繁(翻訳)『ギリシア神話』岩波書店 1978年
- T. ブルフィンチ(著), 野上 彌生子(翻訳)『ギリシア・ローマ神話』岩波書店 1978年
- 吉田 敦彦『一冊でまるごとわかるギリシア神話』大和書房 2013年
- 阿刀田高『ギリシア神話を知っていますか』新潮社 1984年
- 大林 太良ほか『世界神話事典 世界の神々の誕生』角川ソフィア文庫 2012年
- 中村圭志『図解 世界5大神話入門』ディスカヴァー・トゥエンティワン 2020年
- 歴史雑学探究倶楽部『世界の神話がわかる本』学研プラス 2010年
- 沢辺 有司『図解 いちばんやさしい世界神話の本』彩図社 2021年
- かみゆ歴史編集部『マンガ 面白いほどよくわかる! ギリシャ神話』西東社 2019年
- 鈴木悠介『眠れなくなるほど面白い 図解 世界の神々』日本文芸社 2021年
- 松村 一男監修『もう一度学びたいギリシア神話』西東社 2007年
- 沖田瑞穂『すごい神話―現代人のための神話学53講―』新潮社 2022年
- 杉全美帆子『イラストで読む ギリシア神話の神々』河出書房新社 2017年
- 中野京子『名画の謎 ギリシャ神話篇』文藝春秋 2015年
- 千足 伸行監修『すぐわかるギリシア・ローマ神話の絵画』東京美術 2006年
- 井出 洋一郎『ギリシア神話の名画はなぜこんなに面白いのか』中経出版 2010年
- 藤村 シシン『古代ギリシャのリアル』実業之日本社 2022年
- 中村圭志『教養として学んでおきたいギリシャ神話』マイナビ出版 2021年
- かみゆ歴史編集部『ゼロからわかるギリシャ神話』イースト・プレス 2017年
- THEOI GREEK MYTHOLOGY:https://www.theoi.com/
他…
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