
こんにちは!
今回はギリシャ神話より海神ポセイドンを紹介するよ!



今回はオリュンポス12神の紹介ね
彼はどんなキャラクターなの?



彼は抜群の知名度を誇る大海原の支配者で、
地震や干ばつを司る他、航海の安全なども守ったんだ!



意外にも目立った逸話が少ないものの、かつては
大地と豊穣を司る最高神の地位にもおったとされるのじゃ



ではさっそくいってみよう!
このシリーズでは、忙しいけど「ギリシャ神話」についてサクっと理解したいという方向けに、「かんたん・わかりやすい」がテーマの神々の解説記事を掲載していきます。
雄大なエーゲ海と石灰岩の大地が生み出した、欲望に忠実な神々による暴力的でありながらもどこかユーモラスな物語群が、あなたに新たなエンターテイメントとの出会いをお約束します。
人間味溢れる自由奔放な神々の色彩豊かで魅力的な物語に、ぜひあなたも触れてみてくださいね。
今回は、農耕の神クロノスと大地の女神レアのあいだに誕生したオリュンポスの神々の初期メンバーで、圧倒的な知名度と強キャラ感の割に重要な逸話が少なく、かつては大地と豊穣を司る最高神であったともいわれる海神ポセイドンをご紹介します!



忙しい人はコチラから本編にすっ飛びじゃ
この記事は、以下のような方に向けて書いています。
- ギリシャ神話にちょっと興味がある人
- ギリシャ神話に登場する神さまのことをざっくり知りたい人
- とりあえず誰かにどや顔でうんちく話をしたい人
- ギリシャ神話に登場する「海神ポセイドン」について少し詳しくなります。
- あなたのエセ教養人レベルが1アップします。
そもそも「ギリシャ神話」って何?
「ギリシャ神話」とは、エーゲ海を中心とした古代ギリシャ世界で語り継がれてきた、神々と人間の壮大な物語群です。
夏には乾いた陽光が降り注ぎ、岩と海とオリーブの木が広がる土地に暮らした人々は、気まぐれで情熱的、そして人間以上に人間らしい神々を生み出しました。
神々は不死である一方、人間と同じように嫉妬し、愛し、怒り、そしてときに残酷な運命に翻弄されます。
現代に伝わる物語の多くは、ホメロスの『イーリアス』『オデュッセイア』、ヘシオドスの『神統記』などの古代叙事詩を原典としています。
王族の愛憎劇に始まり、神々の争いや英雄たちの冒険、時に神と人間の禁断の関係まで——
あらゆる欲望と感情が渦巻くギリシャ神話の世界は、きっとあなたの心を掴んで離さないでしょう。


14世紀ギリシャの写本 PD
「ギリシャ神話」の全体像は、以下で解説しているよ!


海神ポセイドンってどんな神さま?
海神ポセイドンがどんな神さまなのか、さっそく見ていきましょう。



いくぜっ!
簡易プロフィール
正式名称 | ポセイドン ΠΟΣΕΙΔΩΝ | |
---|---|---|
名称の意味 | 不明 ※諸説あり | |
その他の呼称 | ポセイドーン クロニデス(Cronides) | |
ラテン語名 (ローマ神話) | ネプトゥヌス(Neptunus) | |
英語名 | ネプチューン(Neptune) ポセイドン(Poseidon) | |
神格 | 海の王 河川と泉の守護神 洪水の神 干ばつの神 地震の神 海難の神 「てんかん」の神 ※人間の発作を引き起こすと考えられた 馬の神 | |
性別 | 男性 | |
勢力 | オリュンポス12神 | |
アトリビュート (シンボル) | 三叉の鉾(トライデント) 松の冠 松 野生のセロリ ヒッポカンポス(ἱππόκαμπος)*に牽かせた戦車 ※上半身が馬、下半身がイルカ(魚)の生き物 | |
聖獣 | 馬 カモ イルカ 雄牛 その他の海洋生物 | |
直属の部下 | 海の神トリトン(Τριτων) 海の精霊ネレイデス(Νηρηΐδες) ※単数形でネレイス(Νηρηΐς) その他の海の神々 | |
敬称 | エンノシガイオス(大地を揺るがす君) ガイエオコス(大地を支える者) アスファリオス(航海安全の神) ヒッポクリオス(馬をならす君) ほか多数 | |
主な拠点 | エーゲ海 | |
信仰の中心地 | コリントス ボイオティア ほか、ギリシャ全土 | |
親 | 父:農耕の神クロノス(Κρόνος) 母:大地の女神レア(Ῥέα) | |
兄弟姉妹 | 炉の女神ヘスティア(ΕΣΤΙΑ) 豊穣の女神デメテル(ΔΗΜΗΤΗΡ) 結婚の女神ヘラ(Ἥρα) 冥界の王ハデス(ΑΙΔΗΣ) 雷霆の神ゼウス(ΖΕΥΣ) 異母兄弟として ケンタウロスの賢者ケイロン(Χείρων) | |
配偶者 | 海の女神アムピトリテ(Ἀμφιτρίτη) ほか、正妻以外にも トロイゼンの王女アイトラ(Αἴθρα) ボイオティアの祖アルネ(Ἄρνη) シキョニアの精霊ペロ(Πηρω)またはケロウサ(Κηλουση) ロードス島の精霊ハリア(Ἁλια) 豊穣の女神デメテル(ΔΗΜΗΤΗΡ) 海の女神タラッサ(Θαλασσα) テッサリアの王女イピメデイア(Ἰφιμέδεια) クレタ島の王女エウリュアレ(Εὐρυάλη) 蛇髪の怪物メドゥーサ(Μεδουσα) メガラの王女エウリュノメ(Εὐρυνόμη)またはエウリュメデ(Εὐρυμήδη) 海の精霊トオサ(Θόωσα) 愛と美と性の女神アフロディーテ(ΑΦΡΟΔΙΤΗ) 星の精霊アルキュオネー(Ἀλκυόνη) ※星の精霊プレイアデス(Πλειάδες)の1柱 メッセニアの女王アレーネ(Αρέν) 精霊エウリュテ(Εὐρύτη) 大地の女神ガイア(Γαῖα) 巨人の娘エウロペ(Εὐρώπη) エレアの王女テュロ(Τυρώ) クリニッサ島の美女テオファネ(Θεοφάνη) リビアの精霊トリトニス(Τριτωνις) など、死ぬほど多数(ギリシャ神話界一とされる) | |
子孫 | アムピトリテとの間に、 海の神トリトン(Τριτων) ロードス島の精霊ロードス(Ροδος) 波の精霊ベンテシキュメ(Βενθεσικυμη) 嵐の精霊キュモポレイア(Κυμοπολεια) アイトラとの間に、 アテナイの王テセウス(Θησεύς) アルネとの間に、 風の神アイオロス(Αἴολος) ※アイオリス諸島の王でもある イカリア島の王子ボイオトス(Βοιωτός) ペロまたはケロウサとの間に、 河神アソポス(Ασωπος)とも ハリアとの間に、 ロードス島の海底の神々プロセオス(Προσηωους) ロードス島の精霊ロードスとも デメテルとの間に、 秘儀の女神デスポイネ(Δεσποινη) 不死の馬アレイオン(Αρειων)またはアリオン(Αριον) | |
タラッサとの間に、 鍛冶師アクタイオス(Aktaios) 鍛冶師メガレシオス(Megalesios) 鍛冶師オルメノス(Ormenos) 鍛冶師リュコス(Lykos) | ロードス島の鍛冶師たちテルキネス(Τελχινες)とも ※単数形で「テルキス(Τελχις)」 | |
イピメデイアとの間に、 巨人エピアルテス(Εφιαλτης) 巨人オトゥス(Ωτος) | 双子の巨人アロアダイ(Ἀλωάδαι) | |
エウリュアレとの間に、 巨人の狩人オリオン(Ὠρῑ́ων) メドゥーサとの間に、 有翼の天馬ペガサス(Πγασος) 巨人クリュサオール(Χρυσαωρ) エウリュノメまたはエウリュメデとの間に、 コリントスの王ベレロフォンテス(Βελλεροφόντης)またはベレロフォン(Βελλεροφῶν) トオサとの間に、 名の知られた巨人ポリュペモス(Πολύφημος) アフロディーテとの間に、 海の精霊ヘロフィレ(Ἑροφιλη) アルキュオネーとの間に、 ボイオティアの王女アイトゥサ(Αἵθουσα) | ||
アレーネとの間に、 メッセニアの王子イダス(Ἴδας)とも メッセニアの王子リュンケウス(Λυνκεύς)とも | アパレーティダイ(Ἀφαρητίδαι)とも ※「アパレウスの子たち」の意 | |
エウリュテとの間に、 海神の息子ハリロティオス(Ἁλιρρόθιος) ガイアとの間に、 リビアの巨人王アンタイオス(Ανταιος) 不死の巨人カリュブディス(Χαρυβδις) 人食い巨人族の王ラエストリゴン(Λαιστρυγων) ※部族名は「ラエストリゴネス(Λαιστρυγονες)」 エウロペとの間に、 水上を駆ける者エウフェモス(Εὔφημος) テュロとの間に、 イオルコスの王ぺリアス(Πελίας) ピュロスの王ネレウス(Νηλεύς) テオファネとの間に、 空飛ぶ黄金羊クリュソマロス(Χρυσομαλλος) トリトニスとの間に、 戦いの女神アテナ(Αθηνη)とも その他、 古代の海神プロテウス(Πρωτευς) トローアスの精霊ウーレア(Oὔρεα) ほか、人間族の子孫も死ぬほど多数 | ||
対応する星 | 海王星(Neptune) :ローマ神話名のネプチューンより |
概要
ポセイドンはギリシャ神話に登場する海の神です。
地中海を中心とする海域を支配した彼は、津波や洪水、さらには地震や干ばつなど、荒々しい自然の脅威そのものを象徴する存在として畏れられました。
雲を集め、嵐を呼び起こすポセイドンは、同時に航海の安全を守り危機に陥った者を救うとも信じられ、数多に存在するギリシャの海の神々は、そのすべてが彼に従ったと言われています。


出典:Habib M’henni PD
ポセイドンはさらに「馬」の創造主とも見なされ、手綱で馬を操る術を人々に教えたことから、馬術競技の創始者にして守護者としても崇敬を受けました。
彼自身も、自ら馬の姿に変身して、豊穣の女神デメテル(ΔΗΜΗΤΗΡ)を欺いたという逸話を残しています。
※「馬」関連のもろもろの詳細は後述
また、古代ギリシャにおいては、「波」が人間の気の乱れ(発作やてんかんなど)を引き起こすとも信じられ、こうした現象がポセイドンの力と結びつけられることもありました。



大地震や大津波で文明をぶっ壊したり、一方では
新しい島を作ったり海を穏やかにして航海の安全を守ったり…



要するに、パワフルな大自然の「恵み」と「脅威」
をまるごと表現した神格なんじゃのぅ
そんなポセイドンの権能を象徴したのが、岩を砕き、嵐を起こし、大地を揺らす力を秘めた三叉の鉾「トライデント」です。
彼は古代ギリシャ美術において、たくましい体格に黒い髭と濃い巻き毛を備えた、鋭い眼光を放つ男性として描かれ、その手には常に、このシンボリックな武器が握られていました。


『Neptune with two hippocampus』1560年頃
出典:ニューヨーク公共図書館 PD



わしがトライデントを手に入れた経緯は、
後ほど詳しく紹介するぞ
また、ポセイドンは「馬」の創造者らしく、四頭立ての戦車や、海の生物ヒッポカンポス(ἱππόκαμπος)*に牽かせた戦車に乗る姿でも頻繁に描写されています。
※上半身が馬、下半身がイルカ(魚)の海の生き物
この他、海の支配者ポセイドンのビジュアルは、子孫にあたる海の神トリトン(Τριτων)や有翼の天馬ペガサス(Πγασος)らと共に表現されることも多かったようです。
その姿は、主神ゼウス(ΖΕΥΣ)の威厳ある静けさとは対照的に、荒れる海のような「激動」と、凪のような「静穏」の二面性を象徴すると考えられていました。
海神の波乱万丈な誕生秘話!
そして「海の王」となるまでの道のり!
ギリシャの海の支配者ポセイドンは、農耕の神クロノス(Κρόνος)と大地の女神レア(Ῥέα)のあいだに第五子として誕生。
しかし、「自分の子どもたちに王権を奪われる」という予言に囚われたクロノスは、レアが赤ん坊を生むたびに、それを片っ端から飲み込んでしまいます。
ポセイドンの兄姉には、
が生まれていましたが、結局は5人とも父・クロノスの胃袋に押し込められ、そこで幼少期を過ごすことになりました。



わしのキレやすい性格は、完全に父親譲りなのじゃな(嘘)


『Neptune』1890年頃
出典:ニューヨーク公共図書館 PD
その後、6番目に生まれた雷霆の神ゼウス(ΖΕΥΣ)だけは、唯一難を逃れてクレタ島の洞窟で成長。
立派な青年となった彼は、クロノスの飲み物に催吐剤を盛ることで、5人の兄姉を救出することに成功しました。
この際、父クロノスは飲み込んだのと逆の順番で子どもたちを吐き出したので、ポセイドンは6人の兄弟姉妹のなかで、「第五子にして次男坊」という立ち位置にもついています。
その後、ゼウス率いる6神は、横暴な父クロノスに対して宣戦を布告、「ティタノマキア(Τιτανομαχία)」と呼ばれる、10年にも及ぶ大戦争が始まりました。
立ち上がった神々は、原始の奈落タルタロス(Τάρταρος)に投獄されていた単眼巨人キュクロプス(Κύκλωψ)や、百手巨人ヘカトンケイル(Ἑκατόγχειρ)たちを解放。
この際、鍛冶や細工を得意とするキュクロプスは感謝のしるしとして、
- ゼウスには、万物を破壊し燃やし尽くす「雷霆」
- ポセイドンには、大海と大陸を支配する「三叉の鉾」
- ハデスには、姿を消すことができる「魔法の兜」
を贈ったと伝えられています。



わしのシンボルであるこのトライデントは、
親父どもとの戦いにおいて生まれたのよ!
文字通りの神アイテムを授かったゼウス一派は、解き放たれた巨人族の力を得てさらに勢いを増し、ついにクロノス率いるティタン神族を撃破します。








『神々とタイタンの戦い』1600年 PD
敗北した先代の神々はタルタロスの囚人となり、世界の頂点には、ゼウスを筆頭とするオリュンポスの神々が君臨する運びとなりました。
この際、ゼウス、ポセイドン、ハデスの3兄弟は、それぞれがどの領地を治めるのかを「くじ引き」にて決めることとし、
- ゼウスが「天界」
- ポセイドンが「海」
- ハデスが「冥界」
を支配する形になったとされています。


さらにその後、巨人族ギガンテス(Γίγαντες)とのあいだに勃発した世界史上最大の戦争、「ギガントマキア(Γιγαντομαχία)」にも勝利したゼウスらは、その地位を確固たるものとし、オリュンポス神族は名実ともに世界の統治者となりました。
この戦争において、ポセイドンはギガンテスの1人ポリュボテス(Πολυβώτης)にコス島の一部であるニシロスを投げつけて、その下敷きにするなどの戦果を挙げています。



他にも、ヘラクレス(Ηρακλής)の小僧と一緒に
ケンタウロス(Κένταυρος)共を滅ぼしてやったぞぃ




「ポセイドンとポリュボテスの戦い」紀元前475-470年頃
出典:Bibi Saint-Pol PD
一連の騒動に最初から関わっていた彼はその後、しっかりと「オリュンポス12神」*の1柱にその名を連ねました。
※ギリシャ神話の神々でも特に主要な存在は「オリュンポス12神」に括られる
今回の主人公ポセイドンの誕生については、上記でご紹介したものとは別の伝承も残されています。
それによると、ポセイドンを産んだ母レアは息子を父クロノスの魔手から守るため、彼を仔羊の群れの中に隠しました。



その代わり、クロノスには仔馬を渡して食べさせたそうよ
この出来事が起こったとされるマンティネイア近郊の井戸は、逸話にちなんで「仔羊の井戸(Arne)」と呼ばれるようになったのだとか。
また、幼いポセイドンを養育したのは、とある町の名前の由来にもなった乳母アルネ(Ἄρνη)とも、女神レアの要請を受けたロードス島の鍛冶師たちテルキネス(Τελχινες)*とも言われています。
※ポセイドンの子孫ともされる人たち
海の支配者ポセイドンの基本的な生活と家族関係
エーゲ海及び地中海全域を統治下においた海神ポセイドンは、一説によると、エウボイア島の伝説上の町「アイガイ(Αἰγαί)」沖合の海底にある、豪華な宮殿に住んだと伝えられています。
彼は、そこで真鍮製の蹄と黄金の鬣をもつ馬を飼い、時折これらの馬に牽かせた戦車に乗って、海の波間を駆け抜けることもあったのだとか。
その際、ポセイドンが近づいたエリアの波は穏やかになり、深海の怪物たちは海の王を認識して、その周囲を戯れるように泳ぎ回ったとされています。


「Neptune mounted on a hippocampus, or seahorse, reins in hand」
1844年-1861年頃
出典:ニューヨーク公共図書館 PD
上記の通り、普段は海のなかで悠々と暮らした彼ですが、何かしら重要な議題がある際には、ポセイドンはオリュンポスの神々の会議にも姿を見せました。
そんな大海原の支配者は、紆余曲折*を経て海の女神アムピトリテ(Ἀμφιτρίτη)を正妻に迎えています。
※最初は拒否されて逃亡されたので、贈り物をしまくって懐柔、どうにか結婚にこぎつけた。
夫婦の間には、子どもに
- 海の神トリトン(Τριτων)
- ロードス島の精霊ロードス(Ροδος)
- 波の精霊ベンテシキュメ(Βενθεσικυμη)
- 嵐の精霊キュモポレイア(Κυμοπολεια)
が誕生しました。


大いなる自然の脅威そのものを表すポセイドンは、その性格も荒々しく、何よりも好色です。
彼は、主神ゼウスや光明の神アポロン(ΑΠΟΛΛΩ)を抜いて、男神ナンバーワンの恋人の多さを誇り、上記の他にも数々のパートナーとの間に、気が遠くなるような数の子孫を残しました。
※「簡易プロフィール」参照のこと



これが男の甲斐性ってもんじゃ~い!!



子孫の多さがポセイドンの特徴といえるまであるよね!


『Neptune and Amphitrite』1890年
出典:ニューヨーク公共図書館 PD
ゼウスに次ぐ実力者?海王ポセイドンの意外な過去とは!?
古代詩におけるポセイドンは、最高神ゼウスとはほぼ同格ながらも、力は劣る存在として描かれています。
彼は、傲慢なゼウスに屈する場合もあれば、ヘラや戦いの女神アテナ(Αθηνη)と共謀して、主神を鎖につなごうとしたこともありました(後述)。
こうした関係性やパワーバランスには、古代ギリシャにおける、現実の崇拝の歴史が影響したと考えられています。
というのも、今回の主人公ポセイドンは、元々は「海」の神ではなく「大地」の神で、ミュケナイ文明の時代には最高神にも位置するほどの重要な神格でした。
しかし、徐々にその権威をゼウスに奪われ、結果として海に押しやられたという経緯があるのです。



だから、ゼウスには一歩及ばず、という描かれ方が多いのね



弟に花を持たせる、良いお兄ちゃんやろがぁ~い!!
だからといって、ポセイドンの威信が地に落ちてしまったわけでも、その崇拝が廃れてしまったわけでもありません。
特に、紀元前5世紀頃にペルシャ戦争が勃発すると、海軍や制海権の重要性が俄然高まり、「海」を司るポセイドンの人気がうなぎのぼりになったりもしています。


「The kingdom of Neptune」 1587年頃
出典:ニューヨーク公共図書館 PD
その時々の政治情勢によって地位や人気が乱高下するのは、ギリシャに限らず世界中の神々にとって、共通の「悩みのタネ」だったのかもしれません。
ポセイドンについてはこの他にも、リビア伝来説やペラスゴイ起源の水神説など、さまざまなルーツが語られました。
ポセイドンが関わった主なストーリー



ポセイドンの活躍を見てみよう!
複数の神々と領有権争いを繰り広げ、
そのたびに敗北する海の支配者
オリュンポス12神の1柱にその名を連ね、広い海を一手に支配した海王ポセイドンですが、意外なことに、彼の活躍が描かれた重要な逸話はあまり多くありません。
物語に登場するポセイドンは、専ら他のオリュンポスの神々と土地の「領有権争い」を繰り広げ、そのたびに敗北するか、仲裁を受けて引き下がる羽目になっています。
ここでは、そんな彼がアテナイ市の守護権を巡って戦いの女神アテナ(Αθηνη)と争った代表的なエピソードに、ざっくりと目を通してみましょう。


オリュンポスの神々がそれぞれの領地を分け合っていた時代、アテナと海神ポセイドンは、アッティカのとある都市の宗主権を巡って激しく対立しました。
2神は、どちらが現地の守護神として相応しいのかをはっきりさせるために、神々や人間たちが見ている前で、それぞれの「力」を競い合うことにします。


『アテナとポセイドンの競争』1748年 PD



具体的には、市民に贈り物をして、
より喜ばれた方が勝利というルールよ
最初に動いたのは、海王ポセイドン。



おらぁぁぁぁぁぁ人間どもぉぉぉぉぉ!!
偉大なるオリュンポス神の力を、とくと見やがれぇぇぇぇ!!
ここぞとばかりにイキり倒した彼は、自慢の武器である三叉の鉾を豪快に振り回して地面にぶっ刺し、アクロポリスの丘に大穴をぶち空けて大量の塩水を噴き出させました。



おらどうじゃ!これでいくらでも海水が手に入るぞぃ!!
ぐえははははは!!!
この時、ポセイドンが地面を穿った痕跡は、現在のアクロポリスでも見ることができるのだそうです。
なんでも、南風が吹くと、地下から波の音が聞こえてくるのだとか。


-ポセイドンがアクロポリスに三叉槍を突き刺した場所ともされる
出典:Melissopetra CC BY-SA 4.0
一方アテナは、終始淡々とした表情と所作で、アッティカの地に「オリーブの木」を植えました。
この木の実は食用にもできる他、油がよく取れ、丈夫な樹体は食器や武器の素材にも適しているという優れものです。
――そして、審判の時が…。



普通に考えて、アテナ様やろ



んだんだ、アテナ様に守護神になってもらうっぺ



海水なんかいくらあっても飲めへんっちゅうねん、
アホかあのおっさん
こうして、勝負には女神アテナが見事勝利し、アッティカ地方の首府は彼女の名にちなんで、「アテナイ(現アテナ)」と呼ばれるようになりました。
アテナが最初にオリーブをもたらした場所には、今でもその木が植えられているのだそうです。
以降「オリーブ」は、アテナイ市民の生活を助ける必需品としてのみならず、その経済基盤を支える重要な輸出品としても活躍しました。


-アテナイのアクロポリス 1846年 PD



ふざけるな小娘ぇぇぇぇぇぇぇ!!
この結末に唯一納得していなかったポセイドンは、怒りに任せて大洪水を引き起こし、アテナイ西のトリアシア平原を海の底に沈めてしまったと伝えられています。



この洪水は、実際の歴史上の出来事なのだそうじゃ



一説によると、ポセイドンはこの対決の折に
「馬」を創造したとも言われているわよ
※テッサリアで馬を創り、英雄ペレウス(Πηλεύς)に名馬を与えたとする説も
ポセイドンはこの他にも、複数の神々との間で、以下のような「領有権争い」を引き起こしました。
- アルゴリス地方のトロイゼンの領有権を巡って再びアテナと対立。
主神ゼウスが調停に入り、その地は2神の共同所有というかたちで運営されることに。 - 結婚の女神ヘラとアルゴリスの領有権を巡って対立し敗北。
ゼウスに「洪水は起こすな」と言われたので、付近の川すべてを干上がらせる。 - 太陽神ヘリオス(Ἥλιος)とコリントスの領有権を巡って衝突。
百手巨人ヘカトンケイル(Ἑκατόγχειρ)の1人ブリアレオス(Βριάρεως)の仲裁で、地峡部分をポセイドンが、アクロポリスをヘリオスが管理することに。 - 主神ゼウスとアイギナ島の領有権を巡って対立。
- 酩酊の神ディオニュソス(ΔΙΟΝΥΣΟΣ)とナクソス島の領有権を巡って対立。
- 大地の女神ガイア(Γαῖα)とデルフォイを共有していたが光明の神アポロン(ΑΠΟΛΛΩ)に快く譲り、代わりにカラウリアの地を与えられる
※人間たちの、大自然の脅威からの独立と文明の獲得という流れを表しているらしい


『アッティカの領有権をめぐるアテナとポセイドンの争い』1844年-1861年
出典:ニューヨーク公共図書館 PD
領土争いだけじゃない!?
あちこちで破天荒に暴れたポセイドンの物語
ここでは、今回の主人公ポセイドンが残したいくつかの逸話を、ざっくりダイジェストでご紹介しています。



お話の詳細は個別の記事で解説しているから、
良ければそちらも見てみてね!



なお、時系列順にはなっとらん個所もあるので、
そこらへんはゆるく受け取ってほしいぞぃ
他のオリュンポス神と共謀して主神ゼウスに謀反を起こし、普通に失敗する
あるとき、ポセイドンと天界の女王ヘラ、戦いの女神アテナの3神が何事かを企み、神々の王であるゼウスを捕えようとしたことがあったそうな。
※光明神アポロンが加わっている場合も



反乱の具体的な内容は分からないんだ!



ゼウスの残酷さに憤ったとも言われるの
その際、唯一、雷霆の神の味方をしたのが、後に英雄アキレウス(Ἀχιλλεύς)の母となる海の女神テティス(Θέτις)です。
彼女は、ゼウスの危機をタルタロスに居るヘカトンケイルの1人ブリアレオス(Βριάρεως)に報せ、彼を雲に聳えるオリュンポスへと呼び寄せました。
ブリアレオスが途方もなく巨大な姿を現すと、謀反を企んだ神々はその強大な力を恐れ、ゼウスに近づいて縛り上げるどころではなくなってしまいます。
その隙にテティスが最高神を逃れさせ、結果的に反乱計画は失敗に終わりました。


-オリンポスに召喚されたブリアレオス 1795年 PD


人間に扮してトロイアの王に仕えた海神、
報酬の支払いを拒否され、めちゃくちゃ根に持つようになる
ポセイドンと光明神アポロンはある時期、主神ゼウスの命を受けてトロイアの王ラオメドン(Λαομέδων)に仕えたことがありました。
これは上記の反乱に対する罰であったとも、ラオメドン王の傲慢さを試すための策であったとも言われています。
いずれにせよこのトロイア王は、オリュンポスの神である2人にとんでもないブラック労働を強要し、わずか1年の間に堅固な城壁を築かせました。
しかし、時が来てもラオメドンは労働に対する報酬を払おうとせず、あろうことかこの2神を脅迫して、最後には解雇を通告してしまいます。


『ポセイドンとアポロへの支払いを拒否するラオメドン』17世紀 PD
この処遇に激怒したポセイドンは、トロイアの地に海の怪物ケトス(Κητος)を召喚し、現地の人々を恐怖のどん底に陥れました。
※この怪物は半神の英雄ヘラクレスによって討伐された
これ以来、彼は大のトロイア嫌いとなり、後の「トロイア戦争」でもゼウスやアポロンの反対を振り切って、一貫してギリシャ側の味方をしています。



そらそうなるやろ
海の支配者には、都市の建設に携わる意外と生産的な一面も
「世界の中心」ともされたデルフォイの神託所には、ポセイドンとアポロン、炉の女神ヘスティア(ΕΣΤΙΑ)の3神が祀られていました。
古代ギリシャ人は新しい植民市を建設するにあたって、
- 神託の神アポロンに入植先を命じられる
- 航海の神ポセイドンに守られて現地へと向かう
- 入植先で国家の最初の「火」となる、ヘスティアの炉を灯す
という手順を踏んだと伝えられています。
こうした事情もあってか、アポロンとポセイドンの2神が、そろってヘスティアにプロポーズしたという、ちょっとした逸話も語られました。


『ウェスタへの供儀』1771年 PD


その他、ポセイドンの登場シーン一覧
今回の主人公ポセイドンはこの他にも、以下の通り数々のユニークな逸話を残しています。
- ゼウスと共に海の女神テティスとの結婚を望むが、「子が父を超えると」の予言を受けて引き下がる。
- 軍神アレス(ΑΡΗΣ)によって息子ハリロティオス(Ἁλιρρόθιος)の命が奪われたことを受け、「アレオパゴス(Άρειος Πάγος)」での裁判を提起する。
- その一方、アレスが鍛冶の神ヘパイストス(Ἥφαιστος)の罠で捕縛された際、自ら調停に入り身柄の解放を要求する。
- クレタ島の王ミノス(Μίνως)の要求に応えて聖なる牡牛を授けるも謀られたので、王妃パシパエ(Πασιφάη)に「牛」に欲情する呪いをかけ、牛頭人身の怪物ミノタウロス(Μινώταυρος)が誕生するきっかけを作る。
- 娘の美貌が海の精霊ネレイデス(Νηρηΐδες)にも勝ると豪語したエチオピアの女王カシオペイア(Κασσιόπεια)のもとに、海の怪物ケトスを送り込む。
※娘の名はアンドロメダ、英雄ペルセウスによって救出される - 馬の姿で豊穣の女神デメテル(ΔΗΜΗΤΗΡ)と交わり、不死の馬アレイオン(Αρειων)またはアリオン(Αριον)と秘儀の女神デスポイネ(Δεσποινη)が誕生する。
- 美しい海の少年神ネリテス(Νηριτης)と恋仲になるも、何らかの理由*で太陽神ヘリオス(Ἥλιος)とトラブルに発展し、彼を「貝」の姿に変える。
※少年を取り合ったとも、戦車競走の結果とも - 息子である名の知られた巨人ポリュペモス(Πολύφημος)の目を潰されたので、イタキ島の王オデュッセウス(Ὀδυσσεύς)のトロイアからの帰還を妨害しまくる。
※『オデュッセイア』の物語 - 伝説の大陸アトランティス(Ατλαντίς)*を治めていたが、住民たちが次第に堕落したので、島ごと海中に沈めて滅ぼす。
※哲学者プラトンが提唱した古代都市で、強大な力と富をもつユートピア


『Contes et légendes mythologiques』 (1936)より
ポセイドンとアンピトリテ 出典 PD
ギリシャ神話をモチーフにした作品



参考までに、「ギリシャ神話」と関連する
エンタメ作品をいくつかご紹介するよ!
おわりに
今回は、ギリシャ神話に登場する海神ポセイドンについて解説しました。



知名度と強キャラのイメージの割に、
本当に目立った物語が少ないのよね~



でも、元々は大地と豊穣を司る最高神だったっていうのは、
意外な事実かもしれないよね!
パパトトブログ-ギリシャ神話篇-では、雄大なエーゲ海が生み出した魅力的な神々や彼らの物語をご紹介していきます。
神さま個別のプロフィール紹介や神話の名場面をストーリー調で解説など、難しい言葉はできるだけ使わずに、あらゆる角度から楽しんでもらえるように持って行こうと考えています。
これからも「ギリシャ神話」の魅力をどんどんご紹介してきますので、良ければまた読んでもらえると嬉しいです!



また来てね!
しーゆーあげん!
参考文献
- ヘシオドス(著), 廣川 洋一(翻訳)『神統記』岩波書店 1984年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『イリアス 上』岩波書店 1992年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『イリアス 下』岩波書店 1992年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『オデュッセイア 上』岩波書店 1994年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『オデュッセイア 下』岩波書店 1994年
- アポロドーロス(著), 高津 春繁(翻訳)『ギリシア神話』岩波書店 1978年
- T. ブルフィンチ(著), 野上 彌生子(翻訳)『ギリシア・ローマ神話』岩波書店 1978年
- 吉田 敦彦『一冊でまるごとわかるギリシア神話』大和書房 2013年
- 阿刀田高『ギリシア神話を知っていますか』新潮社 1984年
- 大林 太良ほか『世界神話事典 世界の神々の誕生』角川ソフィア文庫 2012年
- 中村圭志『図解 世界5大神話入門』ディスカヴァー・トゥエンティワン 2020年
- 歴史雑学探究倶楽部『世界の神話がわかる本』学研プラス 2010年
- 沢辺 有司『図解 いちばんやさしい世界神話の本』彩図社 2021年
- かみゆ歴史編集部『マンガ 面白いほどよくわかる! ギリシャ神話』西東社 2019年
- 鈴木悠介『眠れなくなるほど面白い 図解 世界の神々』日本文芸社 2021年
- 松村 一男監修『もう一度学びたいギリシア神話』西東社 2007年
- 沖田瑞穂『すごい神話―現代人のための神話学53講―』新潮社 2022年
- 杉全美帆子『イラストで読む ギリシア神話の神々』河出書房新社 2017年
- 中野京子『名画の謎 ギリシャ神話篇』文藝春秋 2015年
- 千足 伸行監修『すぐわかるギリシア・ローマ神話の絵画』東京美術 2006年
- 井出 洋一郎『ギリシア神話の名画はなぜこんなに面白いのか』中経出版 2010年
- 藤村 シシン『古代ギリシャのリアル』実業之日本社 2022年
- 中村圭志『教養として学んでおきたいギリシャ神話』マイナビ出版 2021年
- かみゆ歴史編集部『ゼロからわかるギリシャ神話』イースト・プレス 2017年
- THEOI GREEK MYTHOLOGY:https://www.theoi.com/
他…