
こんにちは!
今回は北欧神話より英雄シグルズを紹介するよ!



今回は人間族の英雄の紹介ね
彼はどんなキャラクターなの?



彼はヴォルスング家の王シグムンドの息子で、
父の仇であるフンディング家を倒した英雄なんだ!



悪竜ファヴニールを討伐したドラゴンスレイヤーであり、
呪いの黄金に破滅させられた悲劇の男でもあるのじゃ



ではさっそくいってみよう!
このシリーズでは、忙しいけど「北欧神話」についてサクっと理解したいという方向けに、「かんたん・わかりやすい」がテーマの神々の解説記事を掲載していきます。
厳しい自然環境が生み出した、欲望に忠実な神々による暴力的でありながらもどこかユーモラスな物語群が、あなたに新たなエンターテイメントとの出会いをお約束します。
人間味溢れる自由奔放な神々の色彩豊かで魅力的な物語に、ぜひあなたも触れてみてくださいね。
今回は、フンディング一族を滅ぼし父の仇を討った英雄にして、悪竜ファヴニールを討伐したドラゴンスレイヤー、しかし呪いの黄金を手にしたばかりに破滅の運命を辿った悲劇の大英雄シグルズをご紹介します!



忙しい人はコチラから本編にすっ飛びじゃ
この記事は、以下のような方に向けて書いています。
- 北欧神話にちょっと興味がある人
- 北欧神話に登場する神さまのことをざっくり知りたい人
- とりあえず誰かにどや顔でうんちく話をしたい人
- 北欧神話に登場する「英雄シグルズ」について少し詳しくなります。
- あなたのエセ教養人レベルが1アップします。
そもそも「北欧神話」って何?
「北欧神話」とは、北ヨーロッパのスカンジナヴィア半島を中心とした地域に居住した、北方ゲルマン人の間で語り継がれた物語です。
1年の半分が雪と氷に覆われる厳しい自然環境の中で生きた古代の人々は、誇り高く冷徹で、勇猛で死もいとわない荒々しい神々を数多く生み出しました。
彼らの死生観が反映された「北欧神話」の物語は、最終戦争・ラグナロクによって、神も人間もあらゆるものが滅亡してしまうという悲劇的なラストを迎えます。
現代の私たちが知る神話の内容は、2種類の『エッダ(Edda)』と複数の『サガ(Saga)』という文献が元になっています。
バッドエンドが確定している世界でなおも運命に抗い、欲しいものは暴力や策略を用いてでも手に入れる、人間臭くて欲望に忠実な神々が引き起こす様々な大事件が、あなたをすぐに夢中にさせることでしょう。


「北欧神話」の全体像は、以下で解説しているよ!


英雄シグルズってどんな人物?
英雄シグルズがどんな人物なのか、さっそく見ていきましょう。



いくぜっ!
簡易プロフィール
正式名称 | シグルズ Sigurðr |
---|---|
名称の意味 | 勝利 勝利の守り手など |
その他の日本語表記 | シグルド シグルズルなど |
敬称や肩書・別名 | ジークフリート(Siegfried) ドラゴンスレイヤー シグムンドの子など |
神格 | 古代ゲルマン民族の英雄 |
性別 | 男性 |
勢力 | 人間族 |
持ち物 | 魔剣グラム(Gram) ※「怒り」の意 |
ペット | 馬のグラニ(Grani) |
親 | 父:ヴォルスング家の王シグムンド(Sigmund) 母:エイリミ王の娘ヒョルディース(Hjördís) |
養父 | 鍛冶屋レギン(Regin) |
兄弟姉妹 | 異母兄弟として 英雄ヘルギ(Helgi) 英雄シンフィエトリ(Sinfjötli) |
配偶者 | ギューキ王の娘グズルーン(Guðrún) |
子孫 | シグムンド(Sigmundr) ※祖父と同名をとった スヴァンヒルド(Svanhildr) アースラウグ(Áslaug) |
概要と出自
シグルズは北欧神話に登場する古代ゲルマン民族最大の英雄です。
彼の物語は『古エッダ』の「レギンの歌」や「ファヴニールの言葉」、『ヴォルスンガ・サガ』などの数多くの文献で描かれ、ドイツに古くから伝わる叙事詩『ニーベルンゲンの歌』では、ジークフリート(Siegfried)という名称で活躍しています。
当然、シグルズも彼らのもとで幼少期を過ごすこととなり、その養父に任命されたのが、フレイズマル(Hreiðmarr)の息子で鍛冶師のレギン(Regin)でした。
魔術にも長けていたレギンは、シグルズにさまざまな知識・知恵を授け、英雄の息子を大切に育てます。
やがて立派な青年に成長したシグルズは、父シグムンドの仇であるフンディング王の息子リュングヴィ(Lyngvi)兄弟を討ち滅ぼし、見事に復讐を果たしました。




『ジークフリートと神々の黄昏』の挿絵より
ジークフリート 1911年 PD
彼は後にギューキ王の娘グズルーン(Guðrún)と結婚し、シグムンド(Sigmundr)*やスヴァンヒルド(Svanhildr)、アースラウグ(Áslaug)といった子どもにも恵まれています。
※祖父と同名をとった
強敵も打ち倒して順風満帆といった様子の英雄シグルズですが、そのまま素直にハッピーエンドを許すはずもないのが、僕らの北欧神話。
彼は、「所有者に必ず破滅をもたらす」呪いがかけられたアンドヴァリ(Andvari)の黄金と出会ったがために、悲惨な末路を辿ることになるのです。



物語開始時点ですでに英雄って感じなのね



彼の本当の物語は、ここから始まるのじゃ
シグルズが関わった主なストーリー



シグルズの活躍をみてみよう!



彼が登場する文献は本当に多いので、
ここでは代表的なエピソードをご紹介するわよ
父の仇を討った英雄は悪竜を滅ぼしドラゴンスレイヤーに!
しかしその裏では壮大な裏切りと陰謀が!?
偉大な父シグムンド(Sigmund)の仇であるフンディング王の息子リュングヴィ(Lyngvi)兄弟を討ち滅ぼし、故郷へと凱旋した英雄シグルズ。
そんな彼を、シグルズの養父で鍛冶師でもあるレギン(Regin)が出迎えます。



若、これを見なされ



うわっ!すご、なにこれ!
彼の手には、何やら霊妙な力を発する輝く剣がありました。
その名は魔剣グラム(Gram)。
※「怒り」の意
もともとは最高神オーディン(Óðinn)がシグムンドに授けた魔法の剣で、これを振るった若き日の父は、破竹の快進撃を続けました。


しかし、そんなシグムンドの魂をエインヘリヤル(einherjar)として戦死者の館ヴァルハラ(Walhalla)に迎え入れたいと考えた主神は、自らその剣を叩き折り、父が戦死するように仕向けていたのです。
シグムンドはその折れた剣を、最も優秀な息子であるシグルズに授けてこの世を去りました。





さらっと書いてあるけど、ま~たとんでもない暗躍ね、最高神



最終戦争ラグナロクに備えるためじゃ、仕方なかろぅ




場面は戻って現在。
亡きシグムンドの息子シグルズの目の前には、かつての鋭さを取り戻し、刀身の中で炎が燃えているような煌めきを放つ美しい剣が。
シグルズが遠征に出ているあいだに、レギンが父の形見を鍛え直し、新生・魔剣グラムとして見事に復活させていたのです。
英雄の息子が試し切りをすると、レギンが作業に使う鉄敷が、いとも簡単に真っ二つになってしまいました。


-剣を検分するシグルズ 1901年 PD
その威力をすっかり気に入ったシグルズに、養父は続けてこう言います。



これを使って、やるべきことがあるのじゃ…
レギンによると、彼らが暮らす世界ミズガルズにはグニタヘイズ(Gnitaheiðr)と呼ばれる荒野があり、そこにある洞窟のひとつに、ファヴニール(Fáfnir)という名の悪竜が棲んでいるのだそうな。
その竜は洞窟の奥に莫大な財宝を隠しているので、魔剣グラムを使ってこれを打ち倒し、自分たちでその黄金を手に入れてしまおうと言うのです。
イケイケの若者であるシグルズは、養父にそそのかされるまま乗り気になり、愛馬グラニ(Grani)に跨ると、レギンを伴ってすぐに旅立ちました。



シグルズの馬グラニは、オーディンの愛馬スレイプニル(Sleipnir)の子孫と言われとるぞぃ




さっそく現地入りしたシグルズは、おそらくファヴニールが這って移動したのであろう跡を発見すると、その道筋に大きな穴を掘って身を潜めます。
しばらくすると、予想通り洞窟の奥から一匹の巨大な黒竜が現れ、水を飲むためにいつものルートを移動し始めました。
ファヴニールは毒の息を吐き散らし、それはシグルズの頭にも降りかかりますが、英雄はじっと耐えて攻撃のチャンスをうかがいます。
巨大な竜の腹がシグルズの潜む穴の上に覆いかぶさったその瞬間、彼は魔剣グラムに満身の力を込め、真上に向けてその切っ先を突き上げました。



グェー!!


『ジークフリートと神々の黄昏』の挿絵より
-ジークフリートとファヴニール 1911年 PD
突然鋭い痛みに襲われたファヴニールは、頭と尾を激しく振り動かしてのたうちまわります。
息も絶え絶えになった黒竜は、目の前に見知らぬ青年がいることに気が付きました。



若者よ、おぬしは何者じゃ…
わしの心臓に剣を突き立てたのは誰じゃ…
シグルズは、自分の名を明かすことを拒みます。
致命傷を受けた者が自分を攻撃した相手を名指しで呪うと、恐ろしい力を及ぼすと信じられていたからです。
2人はしばらくのあいだ問答を続けますが、最期を悟ったファヴニールはシグルズに、一気に捲し立てるようにこう言いました。



悪いことは言わん…
その財宝は置いて行け…



それにはとんでもない呪いがかかっとる…
おぬしもわしのような悲惨な末路を辿ることになるぞ…



お前の養父、あれもおぬしを裏切るじゃろう…



あと、アース神族はおいおい滅ぶよ…
部分的に意味がよく分からないところもありますが、要するに彼は「黄金を持って帰るな」と言いたいようです。
しかし、父の復讐を果たした英雄にして、魔剣グラムの所有者、さらにはドラゴンスレイヤーともなった「向かうところ敵なし」のシグルズの耳に、死にゆく竜の言葉など届くはずもありません。
戦いに勝利した若者は意気揚々と洞窟の奥へと進み、その様子を見届けたファヴニールは残念そうに眼を閉じて、その生涯を終えました。


シグルズが戦利品を物色していると、戦いの様子を隠れて見ていたレギンが現れ、彼にこう言います。



竜の心臓が食べたいのぅ、若、あれを焼いてくださらぬか
手塩にかけて自分を育ててくれた養父の望み、シグルズにも彼を無下に扱う理由はありません。
彼はファヴニールの心臓を串に刺すと、火を起こしてそれを炙りました。
しばらく後、焼き上がりを確かめるために心臓を指でつまもうとしたシグルズは、



アツァッ!!
軽いやけどをしてしまい、思わず指を口の中に突っ込みます。
するとなんということでしょう、シグルズの周囲から、これまでは耳に届かなかったさまざまな囁き声が聞こえ始めました。
実は、ファヴニールの心臓と血には、口にすると「動物たちの言葉が理解できるようになる」という不思議な力が秘められていたのです。
偶然にもその血を口にしたシグルズの耳に、小鳥たちの話し声が聞こえてきました。



レギンの野郎、余裕だね~
自分を信じている若者を罠に嵌めて、
黄金を奪おうとしてるってのに



老いぼれの首を刎ねちまえば、
あの財宝を独り占めにできるのになぁ



この若造はなんにも気付かない、とんでもないボンクラだね
どうやら、レギンは最終局面でシグルズを裏切り、ファヴニールの黄金を独占しようと目論んでいるようです。
幼い頃から自分を大切に育ててくれた優しき恩人、ルーン文字をはじめとしたさまざまな知識を授けてくれた育ての父の思わぬ裏切り。
普通ならショックと悲しみで打ちひしがれるところですが、シグルズの心には、自分でも不思議に思うほどに、別のどす黒い感情が芽生え始めていました。
黄金を奪われたくないという執着に駆られた彼は、躊躇うことなく魔剣グラムで養父レギンの命を奪い、ファヴニールの心臓と血を食します。


その後、シグルズは宝剣フロッティ(Hrotti)*1やヘギルヒャールム(ægishiálm)*2、黄金の指輪アンドヴァラナウト(Andvaranaut)*3を含めた莫大な財宝を宝箱に詰め込み、それを愛馬グラニの背に乗せて、荒野グニタヘイズを後にしました。
※1「突き刺すもの」の意
※2「恐怖の兜」「エギルの兜」の意
※3「アンドヴァリの貴重な所有物」の意



なんか、シグルズの様子変わってない?
実は、物語がこの場面に至るまでには、それはそれは理不尽でぶっ飛んだ経緯があったのです。
まず、今回シグルズが打ち倒した悪竜ファヴニールの正体はもともと人間族(または小人族)で、なんと養父レギンの実の兄でした。
宿を経営するフレイズマル(Hreiðmarr)という父のもとで暮らした兄弟には、もう一人、弟にオッタル(Ótr)がいたのですが、彼の命はアースガルズの神々の気まぐれによって理不尽に奪われています。
その事実を知った父フレイズマルはオーディン、悪戯の巨人ロキ(Loki)、謎のアース神ヘーニル(Hœnir)の3神を拘束、息子の命の賠償に莫大な黄金を要求しました。
こうして、ロキがフレイズマル一家にもたらしたのが、今回登場したファヴニールの黄金だったのです。


しかし、その財宝は単なる貴金属ではありませんでした。
これらの宝飾品や金塊は、ロキが黄金好きの小人アンドヴァリ(Andvari)から力づくで奪ったものだったので、理不尽な略奪を恨んだ元の所有者によって「持ち主に必ず破滅をもたらす」呪いがかけられていたのです。
その効力は絶大で、フレイズマルはアンドヴァリの黄金を独占して息子に譲らず、家族関係はあっという間に悪化しました。
当然、ファヴニールとレギンもその魔力に取り憑かれ、最終的には父の寝込みを襲ってその命を奪うに至ります。
兄弟は黄金を山分けにするはずでしたが、欲に駆られた兄ファヴニールは弟のレギンを追放し、父と同じように戦利品を独占してしまいました。
こうして、ファヴニールは洞窟の奥に黄金を隠して自分の姿を竜に変え、財宝を盗む者が現れないよう常に神経を尖らす化け物へと変貌します。
一方、追放されたレギンは流れに流れ、しがない鍛冶屋として生計を立てていた折に、今回の主人公シグルズとの出会いを果たした、という訳だったのです。
つまり、幼いシグルズを養育した熱心な男の正体も、呪いの黄金に魅せられた欲望の権化に過ぎなかったということになります。



シグルズを利用して兄を倒し、
今度は自分が黄金を独占しようと考えていたんだね!
ここまで読んで頂ければお分かりの通り、育ての父であるレギンの首を躊躇なく刎ねたシグルズの心も、既にアンドヴァリの黄金の呪いによって毒され始めていました。
闇が深いぜ、アース神族!




結婚の約束もその相手も忘れて別の女性と結婚した英雄、
普通に恨まれて絶命する
悪竜ファヴニールと裏切り者の養父レギンを打ち倒し、莫大な黄金を手にした英雄シグルズは旅の途中、小鳥たちの勧めでヒンダルフィヤルという山に立ち寄ります。
山頂には炎に囲まれた立派な館があり、その中には、武装したまま静かに眠る1人の女性の姿がありました。



ん?
誰ぞこれ?
シグルズが特に考えもなくその兜を取り、魔剣グラムで鎧を斬り裂いて脱がすと、その女性はぱっと目を覚まします。



ここは誰?
あたしはどこ?
彼女の名はシグルドリーヴァ(sigrdrífa)。
※「勝利をもたらす者」の意


『ブリュンヒルド』1897年 PD
最高神オーディン(Óðinn)に仕える戦乙女ヴァルキュリア(valkyrja)の1柱でしたが、主人の命に背いて別の人間を戦争に勝たせたため、罰として眠りの茨で刺され、この館に封印されていたのだそうな。
主神は彼女に、誰かの妻となるよう命じましたが、シグルドリーヴァは「断じて恐れを知らぬ男しか夫にはしない」と誓いを立ててもいたようです。
自分を解放したシグルズこそが運命の相手に違いないと確信したシグルドリーヴァは、彼にルーン文字の秘術や、勝利のための11の忠告など、さまざまな知識を授けました。
その好意を受け取ったシグルズも、彼女に黄金の指輪アンドヴァラナウトを手渡し、お互いに結婚の約束を交わします。



えっ、でもこれ呪いの指輪だったわよね



そう、そうなのじゃ…


それから2人は別々に山を下り、しばらくはそれぞれの道を行くことになりました。
シグルドリーヴァは父ブズリ王がいる実家へと戻り、ブリュンヒルデ(Brynhildr)と名乗って、織物をしながら暮らします。
一方、ギューキ王のもとに長期間滞在したシグルズは、あろうことかシグルドリーヴァ(ブリュンヒルデ)との婚約をすっかり忘れ、王の娘であるグズルーン(Guðrún)を妻に迎えてしまいました。
彼は、身内となったグンナル(Gunnarr)、ヘグニ(Högni)と義兄弟の誓いを結んだほか、グズルーンとのあいだにシグムンド(Sigmundr)*、スヴァンヒルド(Svanhildr)という子どもをもうけます。
※祖父と同名をとった



はっ!?
どゆこと!?



いや~、これも黄金の呪いのせいかなぁ~?
ただでさえワケが分からない状況ですが、さらにワケが分からないことに、義兄弟となったグンナルは、よりにもよってブリュンヒルデと結婚したいと言い出し、シグルズはその段取りを手伝うことにしました。
しかし、ブリュンヒルデは例によって



私の夫になる人は、最高に強い者でなければなりません
と言って、再びヒンダルフィヤルの山頂にある館に引きこもり、周りに炎を張り巡らせて求婚者を試します。
これを突破する猛者でなければ、彼女の夫となる資格はないということなのでしょう。
これは確かなことではありませんが、ブリュンヒルデはこうすることで、再びシグルズが現れるのを待っていたのかもしれません。
シグルズとグンナルの一行は、ブリュンヒルデの兄にあたるアトリ王(Atli)に挨拶を済ませてヒンダルフィヤル山を訪れますが、ここで炎を恐れたグンナルの馬が一歩も動かなくなってしまいます。


『火のそばのシグルズとグンナル』1909年 PD
そこでシグルズは、グンナルに変装して愛馬グラニで炎を飛び越え、館で待つブリュンヒルデに結婚を申し込みました。
彼女はグンナル(シグルズ)の勇気を称え、その申し出を受け入れます。



同じ場所で同じ隠れ方してたら、さすがに思い出さない?



あと、ブリュンヒルデも結局シグルズ以外
の人と結婚して良かったのかな?
古代の話だし、どっかで諦める必要もあったのかな?



この辺のワケの分からなさは最後にざっくりと解説するので、
とりあえず読み進めてほしいのじゃ
グンナル(シグルズ)はブリュンヒルデとベッドを共にしますが、彼は2人の間に魔剣グラムを置いて、その貞節を守りました。
翌朝、グンナル(シグルズ)は結婚の誓いとして自分の腕輪をブリュンヒルデに渡し、彼女もそのお返しに美しい黄金の指輪を差し出します。
それは、かつてシグルズがシグルドリーヴァ(ブリュンヒルデ)に贈った呪いの指輪アンドヴァラナウトだったのですが、彼はそのことにも気が付かなかったようです。



記憶がぶっ飛んでるとかいうレベルじゃないわね…



「所有者を破滅に導く」
指輪の呪いの力と解釈しても面白いかもしれんのぅ


その後シグルズとグンナルは変装を解き、ブリュンヒルデも本物のグンナルとの結婚生活を楽しみます。
しかし、そんな無理のあり過ぎる嘘は、ほんのささいな口論をきっかけに、いとも簡単に露見することになりました。
本物のシグルズの妻であるグズルーンと、ブリュンヒルデが川で髪を洗っていた際、その位置関係でモメるというしょうもないイベントが発生した時のこと。
つい熱くなってしまったグズルーンは、あの時ヒンダルフィヤルの炎を越えたのが自分の夫であるシグルズで、彼がグンナルに変装して、臆病な本人の代わりに求婚したことをバラしてしまったのです。
勇敢な男と見込んで結婚したのに、その相手は偽者だった。
それだけでなく、替え玉としてベッドを共にした男が、かつて結婚を約束し、激しく恋焦がれ、泣く泣く諦めたあのシグルズだった。


『ブリュンヒルドとグズルーンの河での口論』
1893年 PD
ブリュンヒルデのシグルズに対する強い愛は、瞬く間に激しい憎悪へとその姿を変えました。
彼女は夫グンナルとその兄弟のヘグニ、グトホルム(Guthormr)をそそのかし、シグルズの命を奪って莫大な財宝を奪ってしまうよう仕向けます。
最初は躊躇っていた3人ですが、相手はあのアンドヴァリ(Andvari)の呪いがかかったいわくつきの黄金です。
次第にその魔力に魅せられたグンナルたちは、ブリュンヒルデに促されるまま、3人でシグルズを襲撃。



グェェー!!


-シグルズの遺体と共に炎に包まれるブリュンヒルデとグラニ
1911年 PD
グトホルムは返り討ちにあって胴体を真っ二つにされましたが、シグルズはこの一件で命を落とし、アンドヴァリの黄金はグンナルとヘグニが引き継ぎました。
復讐を果たしたブリュンヒルデは、からからと一通り高笑いすると、自分をシグルズの遺体と共に火葬するよう周囲の人々に頼み、自らその命を絶ってしまいます。
こうして、「所有者に必ず破滅をもたらす」アンドヴァリの黄金は、またしても数多くの人々を不幸に陥れたのでした。
もちろん、財宝を受け継いだグンナルとヘグニや、その後「黄金」に関わった人々も、もれなく悲惨な末路を辿りました。


人物 | 末路 |
---|---|
グンナル(Gunnarr) | ブリュンヒルデにそそのかされてシグルズ討伐に参加。 後にアトリとの戦いに敗れ落命。 |
ヘグニ(Högni) | ブリュンヒルデにそそのかされてシグルズ討伐に参加。 後にアトリとの戦いに敗れ落命。 |
アトリ(Atli) | シグルズの遺産を受け継いだグンナルとヘグニを倒すも入手できず。 シグルズの妻グズルーン(Guðrún)とヘグニの子によって命を奪われる。 |
エルプ(Erpr) | グズルーンの息子。 母の命令で復讐の旅にでる直前、2人の兄セルリとハムディルに命を奪われる。 |
セルリ(Sörli) | グズルーンの息子。 母の命令で復讐の旅にでる直前、弟エルプの命を奪った。 自身も敵地にて投石により死亡。 |
ハムディル(Hamðir) | グズルーンの息子。 母の命令で復讐の旅にでる直前、弟エルプの命を奪った。 自身も敵地にて投石により死亡。 |
人々に不幸をもたらす黄金の指輪アンドヴァラナウトの行方は、その後、永遠に分からなくなってしまったと伝えられています。



タイトルの通りよ
ワケわかんなすぎて疲れたわ…



率直に言うと、ファヴニールの話と比べて
完全に支離滅裂だよね!
実は、今回登場したシグルドリーヴァとブリュンヒルデは、あまりにもその性格が異なるため、同一人物ではなく別人なのではないかとも言われています。
また、シグルズもブリュンヒルデも数多くの文献にその名が登場するので、細かい設定に微妙な違いがあったり、目立つものだけでも以下のような揺れがあったりします。
- 最初の出会いでシグルズとシグルドリーヴァは特に婚約はしておらず、ブリュンヒルデが怒ったのは「グンナル替え玉」の一点に対してのみ
- シグルドリーヴァと分かれた後、シグルズはヘイム王の義姉ブリュンヒルデと婚約するが、彼女がシグルドリーヴァと同一人物だった
以下の展開は同じ
他多数…



う~ん、やっぱりワケが分からないわね
大まかな流れは同じとはいえ、複数の文献で描かれる古代の物語なので、設定に多少の矛盾やワケの分からないポイントがあるのは仕方のないことなのかもしれません。
というより、そこを掘り下げてもキリがないので、そういうことで納得しておきましょう。



「ワケわからん」を楽しむのも、神話の嗜み方のひとつじゃ
北欧神話をモチーフにした作品



参考までに、「北欧神話」と関連するエンタメ作品をいくつかご紹介するよ!
おわりに
今回は、北欧神話に登場する英雄シグルズについて解説しました。



ゲルマン民族最大の英雄だけあって、
ここでは書ききれていないことも、まだまだあるわよ



今回は代表的なエピソードの紹介だったけど、
個人的にはそれでもお腹いっぱい!
パパトトブログ-北欧神話篇-では、北の大地で生まれた魅力的な神々や彼らの物語をご紹介していきます。
神さま個別のプロフィール紹介や神話の名場面をストーリー調で解説など、難しい言葉は出来るだけ使わずに、あらゆる角度から楽しんでもらえるように持って行こうと考えています。
これからも「北欧神話」の魅力をどんどんご紹介してきますので、良ければまた読んでもらえると嬉しいです!



また来てね!
しーゆーあげん!
参考文献
- 山室静 『北欧の神話』 ちくま学芸文庫 2017年
- P.コラム作 尾崎義訳 『北欧神話』 岩波少年文庫 1990年
- 杉原梨江子 『いちばんわかりやすい北欧神話』 じっぴコンパクト新書 2013年
- かみゆ歴史編集部 『ゼロからわかる北欧神話』 文庫ぎんが堂 2017年
- 松村一男他 『世界神話事典 世界の神々の誕生』 角川ソフィア文庫 2012年
- 沢辺有司 『図解 いちばんやさしい世界神話の本』 彩図社 2021年
- 中村圭志 『世界5大神話入門』 ディスカヴァー・トゥエンティワン 2020年
- 歴史雑学探求倶楽部編 『世界の神話がわかる本』 Gakken 2010年
- 沖田瑞穂 『すごい神話 現代人のための神話学53講』 新潮選書 2022年
- 池上良太 『図解 北欧神話』 新紀元社 2007年
- 日下晃編訳 『オーディンの箴言』 ヴァルハラ・パブリッシング 2023年
他…
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