こんにちは!
今回は北欧神話より最高神オーディンを紹介するよ!
斬鉄剣で一撃必殺を決めてくれる召喚獣ね
それはファイナル○ァンタジーにおける設定じゃ
オーディンは北欧神話における最高神で、
魔術や知識、戦いなどを司っているよ!
ではさっそくいってみよう!
このシリーズでは、忙しいけど「北欧神話」についてサクっと理解したいという方向けに、「かんたん・わかりやすい」がテーマの神々の解説記事を掲載していきます。
厳しい自然環境が生み出した、欲望に忠実な神々による暴力的でありながらもどこかユーモラスな物語群が、あなたに新たなエンターテイメントとの出会いをお約束します。
人間味溢れる自由奔放な神々の色彩豊かで魅力的な物語に、ぜひあなたも触れてみてくださいね。
今回は、原初の巨人ユミルをバラバラにして大地を創りあげた北欧神話の最高神で、貪欲に知識を求めるあまり、命を落とす寸前まで体を張った珍しいタイプの主神、オーディンをご紹介します!
忙しい人はコチラから本編にすっ飛びじゃ
この記事は、以下のような方に向けて書いています。
- 北欧神話にちょっと興味がある人
- 北欧神話に登場する神さまのことをざっくり知りたい人
- とりあえず誰かにどや顔でうんちく話をしたい人
- 北欧神話に登場する「オーディン」について少し詳しくなります。
- あなたのエセ教養人レベルが1アップします。
そもそも「北欧神話」って何?
「北欧神話」とは、北ヨーロッパのスカンジナヴィア半島を中心とした地域に居住した、北方ゲルマン人の間で語り継がれた物語です。
1年の半分が雪と氷に覆われる厳しい自然環境の中で生きた古代の人々は、誇り高く冷徹で、勇猛で死もいとわない荒々しい神々を数多く生み出しました。
彼らの死生観が反映された「北欧神話」の物語は、最終戦争・ラグナロクによって、神も人間もあらゆるものが滅亡してしまうという悲劇的なラストを迎えます。
現代の私たちが知る神話の内容は、2種類の『エッダ(Edda)』と複数の『サガ(Saga)』という文献が元になっています。
バッドエンドが確定している世界でなおも運命に抗い、欲しいものは暴力や策略を用いてでも手に入れる、人間臭くて欲望に忠実な神々が引き起こす様々な大事件が、あなたをすぐに夢中にさせることでしょう。
「北欧神話」の全体像は、以下で解説しているよ!
最高神オーディンってどんな神さま?
最高神オーディンがどんな神さまなのか、さっそく見ていきましょう。
いくぜっ!
簡易プロフィール
正式名称 | オーディン Óðinn |
---|---|
名称の意味 | 激怒する 狂気 |
その他の日本語表記 | オーディーン オージンなど |
敬称、肩書 | 万物の父 高き者 片目の男 広いつばの帽子をかぶった男 吊るされた者の神 絞首台の主 戦いの父 勝利の神 軍の指揮者 さすらう者 騒がしい男 遠くを旅する者 魔法の父 老いたる魔法使い 多くの姿をもつ者 戦死者の父 亡霊の父ほか多数 |
神格 | 知識の神 詩の神 戦いの神 魔術の神 死の神 風の神 |
性別 | 男性 |
勢力 | アース神族 |
持ち物 | 大槍グングニル 黄金の腕輪ドラウプニル 玉座フリズスキャールヴ |
ペット | 愛馬スレイプニル カラスのフギン(≒思考)とムニン(≒記憶) 狼のゲリとフレキ(≒貪欲なもの) |
曜日 | 水曜日(Wednesday) オーディンの日 |
同一視 | 旅人の神ヘルメス(ギリシャ神話) 商業の神メルクリウス(ローマ神話) |
主な拠点 | アースガルズの宮殿ヴァーラスキャールヴ 戦死者の館ヴァルハラ |
親 | 父:アース神ボル(Borr) 母:女巨人ベストラ(Bestla) |
兄弟姉妹 | 弟:ヴィリ(Vili) 弟:ヴェー(Vé) |
配偶者 | 愛と豊穣の女神フリッグ(Frigg) |
子 | 光の神バルドル(Baldr) 盲目の神ホズ(Hǫðr) 雷神トール(Þórr) ※大地の女神ヨルズ(Jörð)との子 森の神ヴィーダル(Víðarr) ※女巨人グリーズ(Gríðr)との子 司法の神ヴァーリ(Váli) ※アース女神リンド(Rindr)との子 |
概要と出自
オーディン(Óðinn)は北欧神話における主神・最高神で、知識や詩、戦いや魔術のほか死をも司る神さまとして知られています。
その名称は「狂う、激怒する」といった意味をもち、私たちが良く知る「水曜日(Wednesday)」は、ゲルマン民族の間では「オーディンの日」と呼ばれます。
彼は神話の最初期において、アース神族の祖ブーリ(Búri)の息子ボル(Borr)と巨人族の娘であるベストラ(Bestla)との間に、3兄弟の長男として誕生しました。
オーディンは弟であるヴィリ(Vili)、ヴェー(Vé)と共に天地創造を行ったことから、「万物の父」とも呼ばれるようになります。
その姿はつばの広い帽子を目深にかぶった隻眼の老人のビジュアルで描かれ、青いマントを羽織った肩にはカラスのフギン(Huginn)とムニン(Muninn)がとまっています。
フギンは「思考」を、ムニンは「記憶」を意味し、
世界中を飛び回って主人に様々な情報を伝達しているよ!
オーディン自身は象徴的な武器である大槍グングニル(Gungnir)をその手に握り、アース神族の世界アースガルズに建造された宮殿ヴァーラスキャールヴ(Valaskjálf)に住んで、この世のあらゆる情報を収集するためにフリズスキャールヴ(Hliðskjálf)と呼ばれる玉座からすべての世界を見渡しています。
そんな彼の足元にはゲリ(Geri)とフレキ(Freki)という2匹の狼が侍っており、葡萄酒以外はほとんど口にしない、オーディンが残したご馳走のおこぼれにあずかっています。
※「貪欲なもの」の意
またオーディンは、同じくアースガルズ内に存在する戦死者の館ヴァルハラ(Walhalla)にエインヘリヤル(einherjar)と呼ばれる勇者たちの魂を集め、来たる戦いに備えて彼らに厳しい訓練を行わせています。
オーディンがもつ性格のうち最も個性的なものは、「貪欲なまでに知識と知恵を追い求め、目的達成のためなら最高神自ら身体を張ることもいとわない」点であると言えるでしょう。
詳しくは以下の本編でご紹介するわよ
彼が世界中のあらゆる情報を求め戦死者たちの魂を鍛え上げるのは、あらゆるものが滅亡してしまう最終戦争・ラグナロク(Ragnarøk)を未然に防ぐためだと言われています。
オーディンは8本の脚をもつ愛馬スレイプニル(Sleipnir)を駆り、主神自ら東奔西走して破滅を防ぐための様々な策を講じていきます。
しかし、その過程で彼が用いた嘘や策略、裏切りや暴力がかえって世の中に混乱をもたらし、世界は坂道を転がる石のように終末に向かって突き進んでいくというのが、北欧神話の基本的なストーリーラインとなっているのです。
至高の存在でありながらどこまでも人間的で不完全、
それがオーディンなのじゃ
ドイツ語ではヴォーダン(Wodan)、英語ではウォドゥン(Woden)、日本語での発音は「オージン」の方が近いとされているよ!
『指輪物語』に登場する灰色の魔法使いガンダルフの
ビジュアル面のモデルとも言われているわね
最高神オーディンが常にその手に握る魔法の槍・グングニルは、投げれば必ず標的に命中し、いかなるものをも貫いてしまう文字通りの神アイテムです。
柄の部分は聖なるトネリコの木である世界樹・ユグドラシルから成り、穂先にはルーン文字が刻まれたこの槍は、イーヴァルディの息子たちと呼ばれる2人の小人(ドヴェルグ)によって作られました。
「揺れ動くもの」という意味の名前だよ!
アース神族とヴァン神族が争った際、オーディンが戦いの始まりの合図に、この槍を敵勢に向けて投げつけたとされています。
古代北欧のヴァイキングたちの戦いにおいても、戦闘開始の合図に指揮官が敵に向けて槍を投げる風習があったと言われており、この逸話にも実際の歴史上の出来事や文化が反映されたと考えて良いでしょう。
北欧世界におけるリーダーの武器は、
「槍」ということになるのね~
オーディンが関わった主なストーリー
オーディンの活躍を見てみよう!
いきなり原初の巨人を打ち倒し、その身体から天地を創造する(ついでに人間も作る)
オーディンは弟であるヴィリ、ヴェーと共に、アース神ボルと巨人の娘ベストラとの間に誕生しました。
この世界には彼らが属する「アース神族」のほかにも、原初の巨人ユミルを共通の祖とする「霜の巨人」と呼ばれる勢力が存在します。
同じエリアに異なるグループが存在すると、自然と対立して諍いに発展してしまうのは神の世も人の世も同じこと。
賢く野心的な神さまに成長した3兄弟は、いつしか巨人族とその頭領であるユミルの存在を、疎ましく思うようになっていきました。
そんなオーディンたちはある日、
あの巨人は邪悪で乱暴だからあかんよ
という理屈で、母方の先祖にあたる原初の巨人を始末してしまおうと決意します。
一方的にユミルに襲い掛かったオーディンたちは、残酷にも彼の身体をバラバラに解体して、原初の裂け目であるギンヌンガガップの大穴に投げ込んでしまいました。
な、なんでじゃ…
ユミルの身体はあまりにも巨大だったため、流れ出したおびただしい量の血液はやがて大洪水となり、彼の子孫である霜の巨人たちはそのほとんどが溺れ死んでしまいます。
ベルゲルミル(Bergelmir)という名の巨人とその妻だけが石臼の上に乗って難を逃れたので、彼らの子孫は巨人の国ヨトゥンヘイムで数を増やし、アース神族への復讐を固く誓うことになるのです。
冒頭から暴力的かつエキセントリック、それが北欧神話
そしてもうすでに溢れ出す自業自得感…
ユミルが邪悪というのはアース神族側の主張で、
彼が実際に悪事をはたらいたという記述はないんだよ~
正確な動機は不明ながらも、予定通り遠い先祖に当たるユミルを討伐したオーディンら3兄弟。
彼らは何を思ったのか、次はユミルの遺骸を再利用して、この世界を具体的に形作ることにしたようです。
3人の神々は、巨大なユミルの肉を利用して、まずは大地を創りあげました。
さらに彼らは、流れほとばしる血から川や海を創り、大きな骨で山や丘を、歯とあごと砕けた骨から大小の岩や石を、髪の毛からは木や草を創り出します。
一通り大地を創りあげた3兄弟は、これを宇宙の真ん中に据えてユミルのまつ毛を柵として植えました。
オーディンは最後の仕上げに、ユミルの大きな頭蓋骨を大地のはるか上の方に投げて丸い天を創り、脳みそを大空にまき散らして雲を創ります。
それだけではいつ天が落ちてくるか分からないので、彼らは四隅に以下の小人たちを送り込み、その肩で大空を支えさせることにしました。
神名 | 担当 |
---|---|
アウストリ(Austri) | 東 |
ヴェストリ(Vestri) | 西 |
スズリ(Suðri) | 南 |
ノルズリ(Norðri) | 北 |
こうして、ようやく形をもった宇宙が整いましたが、世界は依然として暗闇に包まれたままです。
そこでオーディンたちは、炎の世界ムスペルヘイムからたくさんの火花をとって来て空にまき散らし、これらは光り輝く星となりました。
神々は、特に大きな2つの火花を「太陽」と「月」として打ち上げ大地の周りを回らせることにしたので、このときから「昼」と「夜」の区別が生じ、日と年の計算が出来るようになったと言われています。
「昼」は昼の神ダグ(Dagr)が、
「夜」は夜の女神ノート(Nótt)がそれぞれ司っているわよ
さらにオーディンを始めとするアース神族たちは、大地の中央に巨大な砦を築き、黄金に輝く神々の国アースガルズを造ってそこに住むことにしました。
神々は会議の末、アースガルズの中ではいかなる争いも流血も許さないという、鉄の掟を定めたとされています。
妖精族(アールヴ)や小人族(ドヴェルグ)が暮らす場所も定めてやったオーディンたちは、こうしてとんでもなく暴力的で血なまぐさい「天地創造」の偉業を成し遂げたのです。
「北欧神話」の世界観の全体像は、以下の記事でご紹介しています!
大仕事も一段落して数日たったある日のこと、海辺を散歩していたオーディン、ヴィリ、ヴェーの3兄弟は、岸に流れ着いた2本の木を発見します。
そや、ええこと思いついた
オーディンはこの木を刻んで、一組の男女を作ることにしました。
トネリコの木からは「男」が、ニレの木からは「女」が作られ、オーディンはそれらに「命」と「魂」を授けます。
続いてヴィリが人形に「知恵」と「動く力」を与え、ヴェーは2人に「目」と「耳」と「言葉」を授けました。
ここでついに、人間たちの祖先となる最初の男女が誕生したのです。
男性はアスク(Askr)、女性はエンブラ(Embla)と名付けられ、ユミルのまつ毛の柵で囲われた人間の世界ミズガルズへと送られて、そこでたくさんの子どもたちを産みました。
ここでようやく、
北欧神話の物語の舞台が整ったことになるね!
知識と知恵を求めるあまりに最高神自ら体を張りまくる
オーディンは知的好奇心が非常に旺盛な神さまで、フギンとムニンという2羽のカラスを毎朝空に放っては世界中の情報を集めさせたほか、自らもアースガルズの玉座からすべての世界を見渡して、あらゆる出来事を把握しておこうと努めました。
そんな彼の行動の動機は、究極的には最終戦争ラグナロクを回避することにありましたが、もともとの理由は、かつて自分が世界の隅に追いやった霜の巨人たちからの復讐を恐れていたからだと考えられています。
ユミルを倒した時にほぼ全滅させたうえ、
ヨトゥンヘイムに押し込めちゃったものね
寝首を搔かれぬために、より賢くなる必要があるのじゃ
こういう場合、普通の最高神なら偉そうに玉座に座ったまま部下を各地に派遣して、彼らが持ち帰った成果物を当たり前のように自分のものにしてしまうもの。
しかしここがオーディンの面白いところで、彼は自らの足で世界各地を旅し、時には命を落とす寸前まで体を張ることで、大いなる知識・知恵をその手に収めているのです。
2つの逸話をご紹介するよ!
片目と引き換えに「ミーミルの泉」の膨大な知識をゲットする
北欧神話の世界そのものである世界樹ユグドラシルは、3本の大きな根によって支えられていますが、そのうちの1本は巨人の国ヨトゥンヘイムへと伸びていました。
さらにその根の先端は、あらゆる知識と知恵をたたえた「ミーミルの泉」へと続いています。
そのことを思い出したオーディンはある日、さらに偉大な知恵を身につけるために、泉の番人である知恵の巨人ミーミルのもとを訪れました。
彼は巨人族ですが、アース神族とヴァン神族の戦いの際に紆余曲折あって首を刎ねられ、オーディンの治療によって首だけの状態で蘇生し、それ以来この知識の泉を見守っているのです。
ミーミル自身も泉の水を飲んでいるので、彼は身体があった時代よりもさらに賢くなっていたとされています。
泉の水が飲みたいとな…?
ほんならその代償に片方の目をもらおうかのぅ
出来らあっ!
え!!知識の対価として片目を!?
ミーミルは泉の水を一口飲ませる代わりに、オーディンに片方の目を差し出すよう要求しました。
さすがの最高神も一瞬ひるみましたが、膨大な量の知識が得られるという誘惑と、来たる戦いに備えるという必要性から、ついに彼も意を決します。
オーディンは自分で自分の右目を抉り出すと、それをミーミルの泉に投げ込みました。
その様子を見届けたミーミルは、泉の水で満たされた大きな角の盃を彼に渡します。
オーディンはなみなみと注がれた水を一気に飲み干し、これまで以上に賢くなったうえ、未来をも見通す力を得たと伝えられています。
この時に使われた角の盃は、後に光の神ヘイムダル(Heimdall)が所有するギャラルホルン(Gjallarhorn)とも言われているよ!
九日九夜にわたって世界樹にぶら下がり、神秘のルーン文字を会得する
自分の知性を高めるためなら片目すら差し出すオーディンですが、その常軌を逸した気合の入りっぷりは、彼をより危険でストイックな行動に走らせました。
大いなる知恵と不老の力を得たいと願ったオーディンはある日、自らこの世界そのものである世界樹の枝に吊り下がって、自分の身体をグングニルの槍で貫きます。
その状態のまま九日九夜の苦行に耐え抜いた彼は、神秘の力を授けるという「ルーン文字」を会得しました。
オーディンはこの時ほとんど命を落とす直前でしたが、たまたま縄が切れたため一命を取り留めたとされています。
世界樹ユグドラシルの「ユグ」は「恐ろしい者」「恐るべき者」の意でオーディンを指し、「ドラシル」は「馬」の意で、その名称は「オーディンの馬」という意味をもっています。
昔のヨーロッパでは罪人が絞首刑になることを洒落て「馬に乗る」と表現したことから、オーディンが樹に吊り下がった様子を「馬に乗った」とみて、この樹をユグドラシル(≒オーディンの馬)と名付けたのだそうです。
余談ですが、タロットカードにある「吊るされた男(The Hanged Man)」のデザインは、このときのオーディンの姿がモチーフになっているんだとか。
命賭けすぎーっ!!
問題は多いけど、ここまで背中で見せてくれる
トップもなかなかいないわよね…
巨人族との対立を想定して、あるいは純粋に個人的な知的欲求を満たすために世界中を放浪し、あらゆる知識と知恵を求めたオーディン。
しかし彼は、旅の途中で受けた様々な予言から神々の破滅(≒最終戦争ラグナロク)が必ず訪れることを知り、その不安から知識へのこだわりをさらに強めていくことになります。
オーディンの不安を煽った予言は以下のようなものじゃ
- 知識の巨人ヴァフスルーズニルの予言
-
- 太陽は巨狼フェンリルに捕えられるが、彼女はその前に娘を生んでいる。神々が死んだ後は、娘が母の後を継いで軌道を巡るよ。
- 炎の巨人スルトの炎が消えるとき、森の神ヴィーダルと司法の神ヴァーリ(オーディンの息子たち)が神々の家に住むよ。雷神トールの息子モージとマグニが戦いのあと、父の槌ミョルニルを手に入れるよ。
- 狼(≒フェンリル)が万物の父(≒オーディン)を飲み込み、息子のヴィーダルがその復讐を遂げるよ。
- 冥界の女王ヘルの予言
-
- 盲目の神ホズが光の神バルドルの命を奪うよ。(両方ともオーディンの息子)
- オーディンの息子ヴァーリは生まれて一夜経つともう戦うよ。彼はバルドルの敵を火あぶりにするまで休まないよ。
- 悪戯の巨人ロキが捕縛から解かれ、破壊者として神々の終末がいたるまで、私を訪ねてくるものはいないよ。
- 悪竜ファヴニールの予言
-
- すべての神々が戦う場所はオースコープニルだよ。彼らが渡り終えると虹の橋ビフレストは壊れ、馬たちは川の中を泳ぐよ。
などです。
そこはかとなく不穏なものから、
ド直球火の玉ストレートまで…
そりゃどうにかしようと試行錯誤するかもね!
知識と知恵を求めるあまりに偽名を使い、詐欺も盗みも色仕掛けもやる
ミーミルの泉の水によってさらに賢くなり、ルーン文字も発明したオーディンでしたが、その知識への渇望がとどまることはありませんでした。
彼はある日、飲む者に知恵を授け、さらには詩を作る才能までも得られるという魔法の蜜酒の噂を聞きつけます。
そんなん、わしのためにあるようなモンやんけ!
オーディンはどうにかしてその霊酒を手に入れようと考え、方々を旅して調査を重ねた結果、現在は霜の巨人スットゥング(Suttungr)のもとに例のブツが秘蔵されているという事実を突き止めました。
彼は蜜酒を、誰にも奪われないようにフニットビョルグという山の洞窟に隠し、娘のグンロズ(Gunnlöð)に厳重に見張りをさせているそうな。
そこまで裏を取ったオーディンはまず、自分の名前を「ボルヴェルク」と変えて、スットゥングの弟であるバウギ(Baugi)のもとを訪ねます。
「ボルヴェルク」は「悪をなす者」や「不幸を支配する者」という意味だよ!
そこではバウギの9人の下男たちが乾草刈りをしていましたが、彼らが使う鎌は見るからになまくらで、仕事の進捗は芳しくないようです。
オーディンが気まぐれに1人の下男の鎌を砥石で研いでやると、生まれ変わった道具の切れ味に驚いた周りの下男たちが、争ってその砥石を欲しがりました。
ほ~ん、これは使えるかも分からんね
オーディンは例の砥石を空高くに投げ上げると、
これ拾った人にあげちゃうよ~ん
と宣言します。
9人の下男たちは、我先にと落下地点に駆け付けて砥石を奪い合い、互いに切り合って全員がその命を落としてしまいました。
下準備が出来たところでバウギの家を訪ねるオーディン、彼の予想通り、ターゲットは何か困った事情を抱えている様子です。
実はのぅ、9人いた下男たちが全員死んでしもうてのぅ…
これから収穫期なのにどうせぇいうんじゃい…
あっら~、それは気の毒やのぅ…(すっとぼけ
ほんならわしが、9人分の仕事しちゃるけん任しとき!
その代わり夏が終わったら、
あんたの兄貴が大事にしとる蜜酒…
一口飲ませてもらえるよう口利きしてくれや
バウギは内心難しい頼みだとは思いつつも、自身も窮地に立たされた状況だったので、ボルヴェルクことオーディンの要望を兄に伝えると約束しました。
オーディンはそれから夏の間、本当に9人分の下男の仕事を真面目にこなします。
最高神なのにほんとに自分で働いたのね
収穫も無事に済んできっちりと仕事を果たしたオーディンは、改めてバウギに蜜酒の件の約束を果たすよう求めました。
引くに引けないバウギはオーディンを兄スットゥングのもとに連れて行きますが、蜜酒を寄越せという彼の要求は、予想通りにべもなく断られてしまいます。
あ~あ~これは話が違いますねぇ~…
こうなったら別の策に手を貸してもらわんとねぇ~…
ぐぬぬ…
オーディンは革帯から1本の錐を取り出すと、それをバウギに手渡して、蜜酒が秘蔵されているフニットビョルグの山に穴をあけるように言いました。
きっちり仕事をしてもらっている手前、無下には断れないバウギ、彼は言われるがままに錐を回して、山の壁に穴をあけます。
穴が向こう側と繋がったことを確認したオーディンは、得意の変身術で蛇に変身すると、小さな穴にするりと潜り込んでしまいました。
慌てたバウギは錐を穴に突き刺して蛇を仕留めようと試みますが、オーディンの方が一歩素早く向こうに抜けてしまったので、もはや後の祭りです。
まんまとフニットビョルグの山に潜り込んだオーディンは、作戦の第2段階として、蜜酒を守る娘のグンロズを懐柔することにしました。
ミーミルの泉由来の知性から繰り出されるウィットに富んだ甘い囁きでグンロズを誘惑したオーディンは、いとも簡単に年頃の娘を落としてしまい、彼女とは三夜にわたってベッドを共にします。
完全にオーディンに夢中になってしまったグンロズはついに、彼の前に例の蜜酒が入った3つの壺を持ち出してこう言いました。
これあんたに飲ませたるよ
その代わり一口ずつね
オーディンはここぞとばかりに、オーズレーリルと呼ばれる釜に入った蜜酒を最初の一口で飲み干し、2口目でボドンの壺の中身を、3口目でソーンの壺の中身を丸ごと平らげてしまいます。
彼は身にまとうことで鷲に変身できるという魔法の羽衣を使うと、すぐさまアースガルズに向けて飛び立ちました。
後に残されたのは、状況が飲み込めずにただ呆然と立ち尽くすグンロズの姿だけでした。
アババ…
変身術が得意なら、アイテムが無くてもいけたでしょ
細かいツッコミはなしじゃ
この事実を知った霜の巨人スットゥングは怒り狂い、自身も鷲の姿に変身してオーディンを追いかけます。
オーディンは思ったより迅速な追跡に若干焦りつつも、どうにかアースガルズの城壁を越えて、胃の中の蜜酒の大半を壺の中に吐き出すことに成功しました。
とはいえ背後にはもうスットゥングの姿が迫りつつあったため、慌てた彼は蜜酒の一部を壺の外にこぼしてしまいます。
こぼれてしまった蜜酒は、飲みたい者は誰でも飲むことが許されたので、「へぼ詩人の分け前」と呼ばれるようになったそうです。
その後、怒った巨人たちがアースガルズを訪ねて来て「ボルヴェルク」の身柄引き渡しを要求しましたが、そんな名前の神さまは存在しないため、彼らはあきらめて帰るしかなかったと言われています。
こうして蜜酒を手に入れたオーディンは大変満足し、神々と詩が得意な人々に奇跡の霊酒を振舞いました。
それ以来、彼らは美しい言葉を組み合わせて紡ぎだし、人々の耳に心地よい詩を作る技術を身につけたのです。
う~ん、シンプルに強盗ね
しかし、なんでわざわざ「詩の能力」
なんて欲しがったんだろうね?
古代北欧の人々にとって、「詩」は単なるエンタメではなく、知恵と魔力を授ける魔術的な力をもった特別な存在だったそうです。
「詩人とは言葉を操る者であり、その言葉は力をもっていて現実の世界にも影響を及ぼす」と考えられたことから、当然神々からも非常に大切なものとして扱われました。
9~13世紀の北欧では「スカルド詩」という古ノルド語の韻文詩が詠まれ、代表的な詩人には、北欧神話の原典である『スノリのエッダ』を著したスノリ・ストルルソンも含まれています。
北欧における「詩」は霊的な力をもっていたのね
日本でいう「祝詞」みたいな感じかしら?
アース神族と巨人との間に新たな軋轢を生むきっかけとなった「詩人の蜜酒」ですが、これはどういう経緯でスットゥングの手元にやってきたのでしょうか。
この神秘の蜜酒の主原料は、なんと神々の「唾」であると言われています。
うげげっ…!
アース神族とヴァン神族が戦いをやめて休戦協定を締結した際、神々は和解のしるしとして、一つの壺にそれぞれが唾を吐き入れて混ぜ合わせました。
彼らが平和の誓いを永遠とするために、件のたん壺に生命を与えると、壺の中からなんと1人の男性が現れます。
非常に賢く知識が豊富で、どんな質問にも簡単に答えることが出来た彼は、賢者クヴァシル(Kvasir)と名付けられました。
彼は旅に出て多くの人々に知識を授けましたが、ある日、フィアラル(Fjalar)とガラール(Galar)という小人族(ドヴェルグ)の兄弟に命を奪われてしまいます。
小人たちはクヴァシルの流した血に蜜を混ぜ、オーズレーリルという釜と、ボドン、ソーンという壺の中でこれを醸しました。
こうして完成したのが、物語に登場した「詩人の蜜酒」です。
この小人たちは少々調子に乗り過ぎてしまったようで、彼らは後に霜の巨人ギリング(Gilling)とその妻までも手にかけてしまいます。
事実を知った夫妻の息子のスットゥングがフィアラルとガラールを水責めにして詰めると、小人の兄弟は命乞いをして、彼に「詩人の蜜酒」を提供すると持ち掛けました。
ここでスットゥングが和解に応じたことで、彼の手元に神秘の霊酒が秘蔵されることになったのです。
ここから本編に繋がるよ!
最終戦争ラグナロクに備えて英雄の魂を集めるが、結果的に世界の治安を悪化させる
あらゆる知識と知恵を獲得していったオーディンでしたが、彼は来たる最終戦争ラグナロクに備えて、軍備を増強することも忘れていませんでした。
オーディンはアースガルズの内部に戦死者の館ヴァルハラを設け、死の乙女ヴァルキュリア(valkyrja)に命じて、数多くの勇敢な戦死者の魂をそこに招きます。
選ばれた勇者たちの魂はエインヘリヤル(einherjar)と呼ばれ、彼らは間もなく訪れる全面戦争に備えて毎日朝から夕方まで戦い、互いに戦士としての腕を磨き続けました。
負けて死んじゃった魂は、夕方になると復活したそうだよ!
オーディンの兵士には、
狂戦士ベルセルク(berserk)などもおったのじゃ
ラグナロクに打ち勝つには強大な軍事力が必要で、それを実現するにはたくさんの戦士の魂を集めることが必須となります。
となると当然、オーディンはそれだけの数の「人間の戦死者」を必要としたわけです。
ここから彼は、人間の世界ミズガルズに気の赴くままに介入し、時には平和な国々に不和の種を蒔いてまで戦争を起こして、強い戦士を次々にリクルートしていくのです。
強い戦士を募集するために、
人間たちに戦争をさせたってわけね
オーディンが戦いの神ともされるゆえんじゃな
オーディンのモチベーションはあくまでも「気に入った強い戦士の魂を集めること」にあったので、人間の立場からすると、この最高神は望む者に勝利を与える存在である一方、その加護は大変に気まぐれで移ろいやすい信用のならないものでもありました。
彼は戦が起こったと聞くとヴァルキュリアを派遣して戦場の運命を支配したほか、時には自らが参戦して気に入った陣営に勝利をもたらしたと言われています。
オーディンが人間を振り回しまくった
逸話を簡単にご紹介するよ!
オーディンに気に入られたデンマークのハラルド戦歯王は、「楔形陣形」を授けられて連戦連勝を重ねるが、最高神の関心は彼の甥であるリング王に移ってしまう。
オーディンはリングにも楔形陣形を教えてハラルド王との対立を煽り、ついにブローバラで決戦をさせるに至る。
ハラルド王は最後にもう一度だけ勝利をもたらすよう願うも、オーディンはそれを聞かず、自ら王の御者に変装して馬車に乗り込んだ最高神に蹴落とされて落命する。
『デンマーク人の事績』より
英雄シグムンド王はオーディンから剣を授けられたことで数々の困難を乗り越え、勝利を重ねていく。
しかし、最後にはオーディン自身がその剣(後の魔剣グラム)を折ってしまい、そのせいで戦の形勢を逆転され命を落とした。
『ヴォルスンガ・サガ』より
デンマークのロルブ・クラキ王は名君の名を欲しいままにしたが、オーディンに捧げ物をしなかったことで彼の怒りを買い、従属させていた小国の王の謀反を受けて全滅した。
そのとき部下の剛勇ビャルキは、「わしらの真の敵はあの腹黒い不実者オーディンに違いないぜ」と呟いた。
『ロルブ・クラキとベズワル・ビャルキのサガ』より
この他にも、とにかく「自分が気に入った戦士をヴァルハラに連れて帰りたい」オーディンは、しばしばその資格のない者に勝利を与えて偉大な英雄を死なせたり、火の気のないところに火をつけて無用の争いを引き起こしたりしました。
このとんでもなく不公平なえいこひいきは、さまざまな詩やサガでもたびたび問題とされており、文献によっては「オーディン1人が、すべての悪を引き起こす」とまで書かれています。
まぁまぁ叩かれているわね
世界最古の炎上案件じゃ
それでも古代北欧の王侯たちは、
オーディンに戦勝を祈願したんだって
ここまで見て頂ければお分かりの通り、オーディンは「戦いの神」とはいっても、彼に「正々堂々」や「文武両道」のような一般的な善・陽性のイメージはありません。
そっちは軍神テュールの領分じゃな
オーディンは、
- 戦いの士気を掻き立てて、平和な両者の間に争いの種を蒔く
- 一方に特殊な戦術を教えてパワーバランスを変え、戦いを激化させる
- 敵の武器をなまくらにしたり、まじないで動けなくして戦局を支配する
といった方向性での「戦いの神」であり、バフデバフを駆使して戦う魔術師ビルド、あるいは知謀を巡らす策士ポジションのようなキャラクターなのです。
敵に回したくないじゃろぉ~
オーディンはその賢さを最大限に活用して、強い戦士たちの魂を集め続けました。
しかし、結局はこの行いが世界情勢を不安定にし、ラグナロクの実現可能性を跳ね上げてしまったことを、彼自身は知る由もありませんでした。
この自業自得感が極めて人間的だよね!
ついに実現するラグナロク!!最高神は巨狼に飲み込まれて命を落とす
最終戦争による滅亡を防ぐために世界中を旅したオーディンですが、その努力もむなしく、予言通りに「その時」はやって来ます。
彼の息子である光の神バルドルの死によってアースガルズから光が失われると、一気に雲行きが怪しくなり、世界は坂道を転がる石のように破滅へと向かって突き進むのです。
終わりの始まりは、ちょっとした天候不良からやってきます。
太陽の光が輝きをひそめ、日差しが弱くなってきたかと思うと、今度は夏が来ず3年ものあいだ極寒のフィンブルの冬が続きました。
身を切るような風と冷たい霜はすべての者を苛立たせ、オーディンが散々引っ掻き回した人間の世界はすっかり荒廃してしまい、各地で戦乱が起こります。
やがて、2匹の狼スコル(Sköll)とハティ(Hati)が、普段追いかけまわしていた太陽の女神ソール(Sól)と月の神マーニ(Máni)をついに飲み込み、世界はいよいよ本格的な天変地異に見舞われました。
空からは光が消え星々は天から落ち、大地が揺れてすべての枷がちぎれ飛んだことで、捕えられていた悪戯の巨人ロキたちもその呪縛を解かれます。
この期に乗じた霜の巨人と炎の巨人ムスッペル(Múspell)、ニヴルヘルの死者たちが連合軍を結成して神々の世界に侵攻し、光の神ヘイムダルが角笛ギャラルホルンを鳴らして敵の到来を告げたところで、ついに最終戦争ラグナロクが開始されました。
神々と巨人たちは、最終決戦の地・ヴィーグリーズ(Vígríðr)の野で激突します。
今回の主人公、オーディンの戦いと末路を見てみよう!
ラグナロクにおいてオーディンが対峙するのは、ロキがもうけた3人の子の1人で、かつて自身が魔法の紐グレイプニル(Gleipnir)で捕縛した巨狼フェンリルです。
黄金の甲冑と兜を身にまとい、大槍グングニルを握ったオーディンは愛馬スレイプニルに跨って敵陣に突き進みますが、彼に対する怒りが爆発したフェンリルもまた、下あごは地に上あごは天に届くほど大きく口を開けて、目と鼻から火を噴きながら迫ってきました。
両者はしばらくのあいだ死力を尽くして争いますが、次第に戦い疲れてしまったオーディンは、あっけなくフェンリルに丸飲みにされて命を落としてしまいます。
最高神なのに、割と普通に負けちゃうのね
インファイト向いてないもん、わし
オーディンの仇は、彼の息子である森の神ヴィーダルがとりました。
彼はフェンリルの下あごを足で踏み、手で上あごを抑えつけて一気に引き裂き、父の復讐を遂げたのです。
その他の神々も奮戦しますが、ほとんどすべてが敵の巨人と相討ちになり倒れてしまいます。
アース神族も巨人族もほぼ完全に滅んでしまったところで、最後まで立っていたのが炎の巨人スルト(Surtr)です。
彼が巨大な炎の剣をヴィーグリーズの野に放つと、全世界は火の海となって燃え上がり、世界樹ユグドラシルもついに炎に包まれ、大地は海の底へと沈んでいきました。
こうしてついに、『巫女の予言』に歌われた通り、神々の世界は完全に滅び去ってしまったのです。
ほんとに跡形もなく滅んじゃうのが北欧神話なんだね!
北欧神話の物語はここで終了ではありません。
オーディンの息子であるヴィーダルとヴァーリ、雷神トールの息子であるモージとマグニはこの戦いを生き延びました。
冥界からはバルドルとホズも戻って来たようです。
彼らはアースガルズの跡地を眺めながらかつての時代を懐かしんだ後、黄金に輝くギムレーの館に住んだと言われています。
一方、人間にも1組の男女の生き残りがいました。
彼らはリーヴ(Líf、「生命」の意)とレイヴスラシル(Lífþrasir、「生命を継承する者」の意)と呼ばれ、ラグナロク後の世界に繫栄する次なる人類の祖となったのです。
北欧神話の物語は、ここで完結するのじゃ
オーディンの紹介もこれで終わりだよ!
ざっくりまとめ
オーディンは最高神だけあって、設定も性質も複雑だったわね
ここで、彼のキャラクターについて
ざっくりとまとめておくよ!
欲望に忠実できわめて人間臭く、いくつもの複雑な表情をもつオーディンは、概ね以下のような神さまであると言えるでしょう。
知識と詩の神
あらゆる犠牲を払って大いなる知識と知恵、詩作の力を得たオーディンは、言葉の力を巧みに操りました。
彼はいつも雄弁で流暢に話し、その言葉は韻を踏んでいて美しく、まるで詩のようなオーディンの話にはあらゆる者が心地よく耳を傾けたそうです。
彼が語ることは、そのすべてが真実だと思えるほどだったとも伝えられています。
話術をもって物事を都合の良い方向にもっていく、そんな老獪な支配者としての表情も見えてきますね。
戦いの神
オーディンが戦死者の館ヴァルハラに、立派に戦って死んだ戦士の魂を集めていたことは先述の通りです。
彼は最終戦争ラグナロクに備えて軍備増強に努めましたが、そのためにたびたび人間世界に争いの種を蒔き、無用の戦争をも引き起こしました。
その際に、オーディンが気に入った陣営に勝利をもたらしたことから、王侯たちは戦いのたびに彼に戦勝祈願をしたのです。
またオーディンは人間たちに「楔形陣形」などの具体的な戦術や、勝利をもたらす剣なども授けています。
「戦いの神」とはいっても前線に立つタイプではなく、策を巡らし後方から戦局を支配するタイプの「戦いの神」でした。
魔術と死の神
オーディンは魔術の使い手で、変身術やルーン文字、あらゆる呪文や呪歌を使いこなしたとされています。
その力は人々の運命や未来を読み解くことにも、呪いで死や災い、病をもたらすことにも使われました。
上記の「戦いの神」要素と相まって、バフとデバフを使って戦局を覆す魔術師ビルドのパーティメンバーというイメージで良いでしょう。
また、彼の愛馬スレイプニルは、自在に現世と冥界を行き来することが出来たと言われています。
オーディンは北欧神話における最高神なので、彼は今回ご紹介したもの以外にも、
- 知識の巨人ヴァフスルーズニルとの知恵比べ合戦で勝利、オーディンであることがバレる
- カワウソに化けたオッタルを誤って死なせてしまい、人間に縛り上げられる
- 命を落とす予定の息子バルドルの復讐をさせるためだけに、さらに息子のヴァーリをこさえる
- 自分の都合で散々女性を泣かせてきた彼が、一度だけ巨人ビリングの娘にガチ恋するも、ガチで振られる
- 手塩にかけて世話した人間が性悪の王となってしまい、そんなに目をかけてなかった兄の方が立派だったことを後で知る
など、様々な場面に登場してユニークな活躍(?)を見せています。
これらの物語も、別の記事で順次ご紹介するのでよければぜひ見てみてください。
オーディンの格言をまとめた、『オーディンの箴言(高き者の言葉)』も別の記事でご紹介する予定だよ!
書きました!
世界の神話との関係
古代ローマの歴史家タキトスによると、北欧神話に登場するオーディンは、ギリシャ神話の旅人の神ヘルメス(Hermēs)及びローマ神話の商業の神メルクリウス(Mercurius)と同一の存在であると見なされたそうです。
彼らはオーディンと同様に知恵と計略に長けた神さまで、風のようにさすらう旅人としてのキャラクターも共通しています。
また、死者の魂を死後の世界に運ぶという役割も共有していると言えるでしょう。
私たちが普段言葉にする「水曜日(Wednesday)」は、ローマ暦で「メルクリウスの日」と呼ばれ、ゲルマン民族の間では「オーディンの日」とされています。
ギリシャ・ローマ神話と北欧神話の神々は、
各曜日の由来となっておることが多いのじゃ
メルクリウスは英語読みで
「マーキュリー (Mercury)」ともいうよ!
北欧神話をモチーフにした作品
参考までに、「北欧神話」と関連するエンタメ作品をいくつかご紹介するよ!
おわりに
今回は、北欧神話に登場する最高神オーディンについて解説しました。
最高神のくせに全く慈悲深くなくて、
目的の為なら手段を選ばない…
嘘も策略も平気で使うし、必要なら女性の恋心すら利用する…
でも…
世界の崩壊を防ぐために自らの足で旅し、
時には命まで賭けて体を張る…
上司には絶対したくないけど、背中で見せる男気もある…
ほんとうに複雑で多彩な表情をもつ神さまだね!
パパトトブログ-北欧神話篇-では、北の大地で生まれた魅力的な神々や彼らの物語をご紹介していきます。
神さま個別のプロフィール紹介や神話の名場面をストーリー調で解説など、難しい言葉は出来るだけ使わずに、あらゆる角度から楽しんでもらえるように持って行こうと考えています。
これからも「北欧神話」の魅力をどんどんご紹介してきますので、良ければまた読んでもらえると嬉しいです!
また来てね!
しーゆーあげん!
参考文献
- 山室静 『北欧の神話』 ちくま学芸文庫 2017年
- P.コラム作 尾崎義訳 『北欧神話』 岩波少年文庫 1990年
- 杉原梨江子 『いちばんわかりやすい北欧神話』 じっぴコンパクト新書 2013年
- かみゆ歴史編集部 『ゼロからわかる北欧神話』 文庫ぎんが堂 2017年
- 松村一男他 『世界神話事典 世界の神々の誕生』 角川ソフィア文庫 2012年
- 沢辺有司 『図解 いちばんやさしい世界神話の本』 彩図社 2021年
- 中村圭志 『世界5大神話入門』 ディスカヴァー・トゥエンティワン 2020年
- 歴史雑学探求倶楽部編 『世界の神話がわかる本』 Gakken 2010年
- 沖田瑞穂 『すごい神話 現代人のための神話学53講』 新潮選書 2022年
- 池上良太 『図解 北欧神話』 新紀元社 2007年
- 日下晃編訳 『オーディンの箴言』 ヴァルハラ・パブリッシング 2023年
他…
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