こんにちは!
かんたんギリシャ神話入門の時間だよ!
今回は、トロイア戦争の英雄オデュッセウス
の10年にも及ぶ故郷への旅を描いた物語…
『オデュッセイア』のあらすじを紹介するわよ
神々の怒りや恐ろしい怪物たちとの遭遇、そして
妻ペネロペとの愛が描かれた一大スペクタクルなのじゃ
ではさっそくいってみよう!
※本編の内容は、オデュッセウス個人の記事と同一のものです。
物語のはじまり「トロイア戦争」とは?
英雄ペレウス(Πηλεύς)と海の女神テティス(Θέτις)の結婚披露宴の場に投げ込まれた、たったひとつの黄金の林檎――。
争いと不和の女神エリス(Ἔρις)によってもたらされたこの果実は、結婚の女神ヘラ(Ἥρα)、戦いの女神アテナ(Αθηνη)、そして愛と美と性の女神アフロディーテ(ΑΦΡΟΔΙΤΗ)の対立を引き起こし、のちに『パリスの審判』と呼ばれる歴史的転換点を生じさせました。


『パリスの審判』 1636年 PD
そして、この出来事が遠因となって起こった、トロイアの王子パリス(Πάρις)とスパルタの王女ヘレネ(Ἑλένη)の「愛の逃避行」は、後代においても伝説として語られる「トロイア戦争」の勃発へと繋がっていきます。
※この戦争は、主神ゼウス(ΖΕΥΣ)による人口抑制政策の一環として仕組まれたとも
この物語の主人公であるイタキ島の王オデュッセウス(Ὀδυσσεύς)は、知略に富んだ狡猾な軍略家としての腕を買われ、半ば強引に将軍としてこの戦争へ招集されることとなりました。
こうして彼は、愛する妻ペネロペ(Πηνελόπη)と幼い息子のテレマコス(Τηλέμαχος)を故郷に残し、遠く離れたトロイアの地を目指します。
ミュケナイの王アガメムノン(Ἀγαμέμνων)を総大将とするギリシャ軍には、智将オデュッセウスの他にも、サラミス島の王子大アイアス(Αἴας)やティリンスの領主ディオメデス(Διομήδης)、半神の英雄アキレウス(Ἀχιλλεύς)といった傑物たちが参加しました。
対するトロイア側勢力も、賢王プリアモス(Πρίαμος)と有能な王子ヘクトール(Ἕκτωρ)を中心に鉄壁の布陣を敷き、暴力的な侵略軍の襲来に備えます。


「勝利したアキレウスがヘクトールの遺体をトロイの周りで引きずっている様子」
1892年 PD
ところが、この「トロイア包囲戦」は9年以上にもわたる長丁場となり、双方が生産性のない消耗を続けることになりました。
果てしない膠着状態が10年目に突入したある時、狡知に長けた軍師オデュッセウスは、事態を打開するための”とある作戦”を実行に移します。
それこそが、後の歴史に名を刻む伝説的な計略――「トロイの木馬」です。
巨大な木馬型の建造物に兵士を満載したギリシャ軍は、これを置き去りにしたまま、撤退を装って全軍を沖合へと引き上げさせました。
その後、勝利を確信したトロイア側軍勢は木馬を城内へと運び込み、終戦を記念して盛大な宴を催します。


『トロイアの木馬の行進』
1760年 PD
夜になると、その木馬からはオデュッセウスをはじめとした精鋭兵が現れ、堅牢な城門を開放したうえで、待機しているギリシャ軍本隊に合図を送りました。
やがて、市内には臨戦態勢で武装した兵士たちが怒涛のようになだれ込み、難攻不落を誇ったトロイアの町は瞬く間に炎に包まれます。
神官ラオコーン(Λαοκόων)や王女カサンドラ(Κασσάνδρα)といった面々は、この事態を予測していましたが、最後まで彼らの警告が活かされることはありませんでした。
結局、この攻勢が決定打となり、トロイアはついに陥落――。


『トロイの炎』
1759年–1762年 PD
華々しい勝利に大いに貢献した将軍オデュッセウスは、莫大な戦利品や捕虜、数多くの部下たちを合計12隻の船に乗せ、愛する妻と息子が待つ故郷へと帰還するために、10年間も滞在した異国の敵地を後にします。
あらすじでわかる『オデュッセイア』の物語
オデュッセウスの活躍を見てみよう!
それぞれのお話の詳細は個別の記事でも
紹介しているので、良ければそちらも見てみてね
トロイアを旅立った一行、さっそく進路を逸れて略奪を働く
10年にも及ぶ長期戦となった「トロイア戦争」にどうにか勝利し、故郷に残してきた美しい妻と幼い息子に1日でも早く再会するため、12隻の船団を率いて敵地を後にしたイタキ島の王オデュッセウス(Ὀδυσσεύς)――。
しかし、彼らの船旅は「順風満帆」とは真逆そのもので、神々の思惑と怒りに好き放題に振り回される、気の毒なレベルの苦難の連続となりました。
戦利品を満載した船で意気揚々と出航した旅の一行は、さっそく風に煽られて大きく進路を外れ、トラキア地方の都市イスマロスへと漂着します。
※マロネイアとイスマロスは同一視されることもあるほか、近隣に存在したとも言われる
皆さんは、見知らぬ土地を訪れた海の戦士たちが、まず初めに何を行うかご存じでしょうか。
――そう、「略奪」ですね。
選ばれたのは、略奪でした。
オデュッセウスと彼の部下たちは、戦争で得た金品だけでは飽き足らず、このイスマロスの地でも人々の命を踏みにじり、女性たちと大量の財宝を奪い去った後、慣れた手つきでそれらを山分けにします。


街が一通り戦火に包まれると、恐ろしい略奪団のリーダーは、廃墟に取り残された力なき子羊の群れを発見しました。
その先頭に立っていたのが、現地の神官マロン(Μαρων)。
酩酊の神ディオニュソス(Διονυσος)の子孫とも言われる人物で、現在は光明の神アポロン(ΑΠΟΛΛΩ)に仕える司祭です。


Canvaで作成
彼の風体を見て状況を察したオデュッセウスは、
アポロン神の神官か…
わしも、かの光明の神にはリスペクトを感じとるでなぁ
おい!おどれら!
この一家の命は奪ったらあかんぞ!!
と言って、マロンとその家族の命を助けるという判断を下します。
命拾いした司祭は、光明神への敬意に対する報償として、オデュッセウスに
- 混じりけのない強烈なワインを12壺
※水20倍で割って初めて飲めるほどに濃厚な逸品 - 金塊を7タラント
※諸説あるが、アッティカ基準でだいたい182kgくらい - 銀製のミキシングボウルを1つ
を差し出しました。
こうして、新たな戦利品を船に積載した旅の一団は、改めて故郷イタキ島を目指し、エーゲ海に船出します。


『オデュッセイア』の航路図
このお話の詳細はコチラ!!


大ピンチ!北アフリカに住むロトパゴイの悪意なき誘惑!
トラキアのイスマロスを出発した旅の一団は、あらためて故郷イタキ島を目指して船を進めますが、今度は雷霆の神ゼウス(ΖΕΥΣ)が起こした凄まじい嵐によって、北アフリカはリビアの海岸にまで流されてしまいました。


『オデュッセイア』の航路図
オデュッセウスは、10日間の漂流生活の疲れを癒すべくキャンプの設営を命じ、その間に、数名の部下を偵察として内陸部に派遣します。
その後、森の中を進んだクルーたちは、かの地に住む蓮食いの民ロトパゴイ(Λωτοφάγοι)と遭遇しました。
現地の人々は、船乗りたちに対して少しの敵意も見せず、それどころか彼らを親切に迎え入れたうえで、「蓮」という珍しい植物の種を振る舞います。
※食べるのは「花」の部分とも
すると、それを口にした兵たちは、瞬く間に謎の多幸感と全能感に支配され、摩訶不思議な木の実の虜となってしまいました。
実は、この「蓮」なる植物には、食べた者に「眠り」と「甘い夢」をもたらす一種の幻覚作用があったのです。


Canvaで作成
一方、その頃――。
仲間の戻りが遅いことを不審に思ったオデュッセウスは、自ら森の奥へと足を踏み入れ、彼らの無事を確かめるために先を急ぎました。
すると、そんな船長の目の前に、「忘却と至福の領域」あるいは「あらゆる悩みが消え時間が止まった場所」とでも表現できるような、この世のものとは思えない奇妙奇天烈な光景が広がります。
オデュッセウスは、
わしらはこのまま、この素敵な人たちと暮らしますけぇ…
ここでずっと、この木の実を食べて生きるんじゃぁ~
と泣いて叫ぶ船員たちを力ずくで本隊に連れ戻し、船団が薬物による事実上の全滅を迎える前に、大急ぎで船を発進させましたとさ。


「蓮食人の島にいるオデュッセウス」 PD
クルー全員ラリパッパで詰むところだったわ…
この木の実、良い木の実
ちゃんと合法よ
このお話の詳細はコチラ!!


恐怖!シチリア島の一つ目巨人ポリュペモスとの遭遇!
リビアの沿岸を発った旅の仲間たちは、ギリシャ方面に向けて航海を続けますが、今度は海を吹く風に西へ西へと導かれ、イタリア半島の南西にあるシチリア島に漂着します。


『オデュッセイア』の航路図
オデュッセウスは、自身を含めた12名の調査隊を編成し、例によって現地の視察へと出かけました。
まもなく一行は、海岸近くにある巨大な洞窟を発見。
その中にはたくさんの羊と山羊の群れがおり、彼らから作られたのであろう大量のチーズやその他の乳製品が、山のように置かれています。
ほほぅ、この住処の主人はそれなりの文明人と見える
しばし、本人の戻りを待ってみようぞ
船長のこの判断は、すぐに大きな間違いであることがはっきりしました。
この穴ぐらの住人は、山の峰ほどもある巨大な体躯と、額の中央に丸い「一つ目」をもち、人を生きたまま食べるような獰猛性を有する巨人族の一人、ポリュペモス(Πολυφημος)だったのです。
その怪物は一団を洞窟の中に閉じ込めると、手始めに2名のクルーを地面に叩きつけてバラバラに解体し、生き残った者たちの目の前で、その亡骸をむしゃむしゃと平らげてしまいます。


-ポリュフェモスの洞窟から逃げるオデュッセウス
1635年 PD
オデュッセウスたちは恐怖に打ち震えながらも、じっと耐え忍び、「報復」と「脱出」の機会を窺うことになりました。
結局、都合6名もの部下がポリュペモスの食糧となった後、ようやく作戦を実行に移す態勢が整います。
船長オデュッセウスは、かつてアポロン神の司祭マロンから譲り受けた極上の葡萄酒*を敵に振る舞い、野蛮な化け物を深い眠りへと誘いました。
※20倍の水で薄めることでやっとまともに飲めるほどの超濃厚な逸品だった
クルーたちはこの隙に、かねてより準備していた尖ったオリーブ材の丸太を取り出し、これを酔い潰れて眠るポリュペモスの瞼に突き立て、全身全霊の力を込めて一つしかない巨大な眼球を貫きます。


『プレート6: 燃える杭をポリュフェモスの目に突き刺すユリシーズ』 1756年
出典:メトロポリタン美術館 PD
焼かれたような激痛で目を覚ましたポリュペモスは、叫び声をあげて仲間に助けを求めますが、同族の巨人たちは彼の主張を理解することができません。
なぜなら、オデュッセウスは事前に、この怪物に対して
我が名は「ウーティス」といいますねん
※ギリシャ語で「誰でもない(Nobody)」の意
と名乗っていたから。
本人が、いくら
わ、わしの命を狙いやがったのは、
誰でもない(ウーティスな)んじゃぁぁぁぁ!!!
と訴えても、事情を知らぬ周囲の者からすれば
なんのこっちゃ?
というお話だったわけです。


『ポリュフェモスの洞窟から逃げるユリシーズ』
1812年 PD
見事な手腕で敵の警戒態勢を回避した彼は、自分自身と仲間たちを羊の腹の部分に括り付け、翌日の放牧に乗じて洞窟の外へと脱出。
どうにかこうにか船に戻り、命からがらティレニア海方面へと出航しました。
しかし、ここまでは「智将」の評判に違わぬ素晴らしい機転を見せたオデュッセウスが、たった一つ、取り返しのつかない大きなミスを犯します。
彼は、シチリア島を発つ間際、海岸沿いを彷徨うポリュペモスに対して、
このあほだらがぁ!!
お前を滅ぼしたのは、イタキ島の王にして
ラエルテスが一子、オデュッセウス様じゃぁ!!
と、怒りのあまり、自身の本当の名を明かしてしまったのです。


『オデュッセウスとポリュフェモス』
1896年 PD
その結果、一つしかない大切な目を奪われた巨人は、この事実を父親である海神ポセイドン(ΠΟΣΕΙΔΩΝ)に報告――。
海の支配者の大いなる怒りを買ったオデュッセウスの一行は、これまで以上に過酷な旅を強いられることとなりました。
このお話の詳細はコチラ!!


悲劇!風の神アイオロスの親切が完全に無駄になる!
這う這うの体でシチリア島を脱出した船団は、ひとまず態勢を整えるために、現在地のすぐ北にあるアイオリア諸島に停泊します。
幸運なことに、諸島の長にして偉大な風の神でもあるアイオロス(Αιολος)は、オデュッセウスたちを温かく迎え入れ、1ヶ月間にもわたって親切に歓待してくれました。
さらに彼は、この一団が抱える事情を詳しく聞くと、部下でもある風の神々アネモイ(Ἄνεμοι)のうち、
- 北風の神ボレアス(Βορεας)
- 南風の神ノトス(Νοτος)
- 東風の神エウロス(Ευρος)
を牛の革で作った袋に封じ込め、西風の神ゼピュロス(Ζεφυρος)だけを自由にすることで、オデュッセウスらのギリシャへの旅を手助けすると申し出ます。


『オデュッセウスに風を与えるアイオロス』
年代不明 PD
その銀の紐は漏れ出し防止用だから
ゆるめないように気を付けてね~
偉大なる風神の、あまりにも寛大な振る舞いに涙がちょちょ切れそうになりながらも、オデュッセウスとクルーたちは9日9夜にわたって船を進め、ついに10日目には、夢にまで見た故郷イタキ島を肉眼で確認できるほどの位置にまで到達しました。
ここまで来れば、後は消化試合じゃな
さすがに疲労が蓄積していた船長は、このタイミングで船の操舵を部下に任せ、自身は少しのあいだ睡眠をとることにします。


その数分後――。
船員の一人が風神アイオロスから受け取った「牛革の袋」を発見し、あろうことか彼は
ぐへへへ…
中に宝石でも隠しとるんちゃうやろな……
まぁちょっとくらい見てもええやろ
と勘違いをして、封印に使われていた銀の紐を解いてしまいました。
その瞬間、中に封じられていたボレアス、ノトス、エウロスの3神が一気に外へと飛び出し、恐ろしいまでの暴風を巻き起こして、船団をアイオリア諸島へと逆戻りさせます。


『オデュッセイア』の航路図
オデュッセウスは、死ぬほど気まずい表情で再びアイオロス王のもとを訪ね、もう一度助けを得られるよう交渉しますが、この一団が神々の怒りによって呪われていることに気づいた風の支配者は態度を一変。
我が島々は健全な運営をモットーとしております
反社会的勢力との取引には応じられません
として、オデュッセウスと旅の一行を冷酷なまでに厳しく突き放しました。
結局、アイオリア諸島を追放された船団は、ここから改めて、自力で故郷への帰還を目指すこととなります。
このお話の詳細はコチラ!!


船団ほぼ壊滅!人喰い巨人ラエストリゴネスの襲撃!
アイオリア諸島を出発した愉快な旅の仲間たちは、6日6夜にわたって航海を続けた後、日没後にまもなく太陽が昇る―つまり、白夜のような現象が起こる―異様な土地へと漂着しました。


『オデュッセイア』の航路図
オデュッセウスは船員たちの船を港内に侵入させ、自身の船は外海側に停泊させると、この地の様子を探るために3名の部下を偵察に派遣します。
クルーたちが内陸に向かって歩を進めると、やがて、並の人間をはるかに超える巨躯を備えた一人の女性が、アルタキエの泉で水を汲んでいる現場に遭遇しました。
事情を説明した偵察隊が、彼女に従って壮麗な造りの立派な屋敷に案内されると、そこには、最初に出会った娘よりもさらに巨大な男の姿が――。
どうやらこの地の王と思われるその男は、3名の客人を一瞥すると、ろくな会話を交わすこともなくそのうちの1人を掴み上げ、その場でバリバリと生きながらに捕食してしまいます。
この野蛮な部族は、アンティパテス(Ἀντιφάτης)を酋長とする人喰い巨人のラエストリゴネス(Λαιστρυγονες)。
オデュッセウスたちが今回迷い込んだのは、彼らの縄張りである「テレピュロス」という土地だったのです。


Canvaで作成
生き残った2名のクルーが本隊への報告を急ぐ一方、巨人の長アンティパテスは大声をあげて、同族の仲間たちを招集しました。
あっという間に一斉包囲されたオデュッセウスの船団は、ラエストリゴネスの容赦のない投石攻撃を受け、なんと、12隻あった船のうち11隻がこの戦いで轟沈してしまいます。
船長は、最も外海側に停泊していたため無傷だった自身の船に、生き残ったわずかな乗組員たちを避難させ、なす術もなく尻尾を巻いて逃げることしかできませんでした。
ここまでは、そこそこの「船団」として旅をしてきたオデュッセウス隊ですが、ついに彼らも一隻ぽっちの「船」となり、事実上の”ほぼ壊滅状態”にまで追い込まれています。
なんの成果も‼
得られませんでした‼


「オデュッセイア風景画」
紀元前 60年-40年 PD
このお話の詳細はコチラ!!


1年間の休息と愛!アイアイエ島の魔女キルケー!
もはや風前の灯火ともいえる満身創痍の旅の一団は、イタリア半島南西部に位置するアイアイエ島へと辿り着きます。


『オデュッセイア』の航路図
島の中央から煙が立ち昇る様子を確認したオデュッセウスは、嫌な予感がしながらも、例によって偵察部隊を内陸部に派遣することにしました。
今回は、籤引きで公正に選ばれた、副官のエウリュロコス(Εὐρύλοχος)以下22名がその役目を務めます。
選ばれし仲間たちが森の中を進んでいくと、やがて、開けた場所に建つ石造りの壮麗な宮殿が姿を現しました。
そこに住んでいたのは、古代ギリシャ世界でも有数の魔術師として知られた、キルケー(Κιρκη)という名の女性です。


『オデュッセウスに杯を差し出すキルケ』
1891年 PD
彼女の不思議な魅力に惹かれた男たちは、言われるがまま、堅牢な宮殿の中へと進み、めいめいに椅子に座ってくつろぎ始めました。
キルケーはそんな船員たちに、チーズと大麦、蜂蜜とプラム酒を混ぜた、よく分からない食べ物を与えます。
またしても言われるがまま、それらを口にしたクルーたちは、なんと、人間の心だけを残したまま「豚」の姿に変身させられてしまいました。
唯一、状況を警戒して無事だった副官エウリュロコスは、この緊急事態を急ぎ船長に報告。
彼が単独で現地に乗り込もうと走り出すと、そこに伝令の神ヘルメス(Ἑρμης)が現れ、オデュッセウスにいくつかの助言を与えました。
この魔除けの薬草「モーリュ(moly)」を持って行きな
これがあれば、とりあえずは大丈夫さ


『キルケー宮殿のユリシーズ』
1667年 PD


魔女キルケーは、オデュッセウスに対しても同様の罠を仕掛けますが、ヘルメスの加護により変身の魔法が効かなかったことにびっくり仰天。
彼女は、この男性が「予言の英雄」であることを悟り、決して害意をもたないという誓いを立てたうえで、オデュッセウスを自分の寝室へと誘います。
結局、彼のことがすっかり気に入ったキルケーは、豚に変えてしまった部下たちも解放し、1年間にわたって、この一団を温かくもてなしました。


『オデュッセウスとキルケ』
17世紀前半 PD
その後、心身ともにすっかり回復した船乗りたちでしたが、やがて、ぽつぽつと帰郷を望む声が聞こえ始めます。
仲間たちに促されたオデュッセウスが、キルケーに出立の旨を伝えると、彼女は寂しそうな表情を見せつつも、冥界に住む盲目の預言者テイレシアス(Τειρεσίας)の助言を受けるよう彼に勧めました。
諸々の儀式を終え、テイレシアスから
君、最終的には故郷イタキ島の地を踏めるでな、
頑張んなさいよ
と、エールを受け取ったオデュッセウスは、一度は愛した美しきキルケーに別れを告げ、故郷へと向けた帰還の旅を再開します。


『死の国のオデュッセウスと予言者テイレシアース』
1780年-1785年 PD
このお話の詳細はコチラ!!




危険な歌声!海の怪物セイレーンとの闘い!
アイアイエ島を出発した旅の一団は、海の怪物セイレーン(Σειρήν)が生息するという岩礁地帯を通りかかります。
上半身が人間の女性、下半身が「鳥」または「魚」の姿をしたこの海の怪物は、得も言われぬ美しい歌声で男たちを誘惑し、数多くの船を難破させたことから、「死」の象徴として大いに恐れられました。


『オデュッセウスとセイレーンたち』
1891年 PD
魔女キルケーからも、
その海域におるセイレーンはマジでヤバいから
お前ら全員、耳に蜜蝋をぶち込んで栓しとけや
じゃないと死ぬるぞ
と警告を受けていたオデュッセウス。


彼は、部下たちに言われた通りの準備をさせますが、当の本人は、
そんなにすごい歌声なら、
死ぬまでにいっぺん聞いてみたいのぅ
と考え、自分一人だけ耳栓を付けず、乗組員に命じて自身の身体を船の帆柱(マスト)に縛り付けさせました。
やがて、一行が予定通りセイレーンの群れに遭遇すると、彼女たちは美しく魅惑的な声で朗々と歌い始めます。
魔物たちの甘美な歌声を耳にしたオデュッセウスは、たちまちのうちに正気を失い、
お前らぁぁ!!
この縄を解くんじゃぁぁ!!
わしはあいつらの棲む島に
行かなならんのじゃぁぁぁあ!!
と、身をよじりながら絶叫しました。


『ユリシーズとセイレーン』
1909年頃 PD
しかし、他の船員たちは皆、耳にバッチリ蜜蝋を詰めているので、セイレーンの歌声はおろか雇用主の叫び声すらも届くことはありません。
とはいえ、何やら様子がおかしいのは明らかなので、部下たちはオデュッセウスをさらにきつく縛り上げました。
こうして旅の一行は、セイレーンの海域を無事に突破。
オデュッセウスが落ち着きを取り戻した様子から、歌が聞こえなくなったと判断した乗組員は、主人の縄を解いて耳栓を外し、何食わぬ顔で航海を続けました。
セイレーンたちのその後は語られていませんが、彼女たちは歌を聞いた人間が生き残った場合には死ぬ運命となっていたため、全員が海に飛び込んで自らの命を絶ったとも伝えられています。


『オデュッセイア』の航路図
このお話の詳細はコチラ!!


鬼門!カリュブディスとスキュラが棲む魔の海峡!
セイレーンを突破した旅の一行は、続いて、イタリア半島とシチリア島を隔てるメッシーナ海峡に差し掛かります。
※これ以前に、「プランクタイ(放浪する岩)」と呼ばれる危険な岩礁地帯を避けてこちらに来た
この海域には、渦潮の怪物カリュブディス(Χαρυβδις)と人喰いの怪物スキュラ(Σκυλλα)という2大強キャラがごく近距離に生息しており、どちらかを避けようとすればどちらかに近付くことになる、ジレンマ的難所としても知られました。
いずれにせよ無傷では通過できないこのエリアについて、魔女キルケーは
カリュブディス側はマジでシャレにならんから、
行くんならスキュラ側をかすめる感じにした方がいいね
と言っていたため、オデュッセウスと仲間たちも、その点を念頭に慎重な航海を続けます。
やがて、愉快な仲間たちの前に現れたカリュブディスが周辺の海水を一気に飲み込むと、肉眼で海底が見えるほどに高い渦が巻き上がり、周囲の岩が轟音を立てて揺れ動きました。


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眼前に突き付けられた圧倒的な”死の恐怖”に震えた船長と乗組員たちは、キルケーの助言とは無関係にカリュブディスを避け、一方のスキュラ側の岩礁に向けて舵を切ります。
しかし、そこで待ち受けているのも、多くの人々から恐れられた獰猛な怪物であることに変わりはありません――。
普段からイルカやサメといった巨大な海獣を捕食しているスキュラは、バチバチに仕上がった肉体をフル活用して船に襲い掛かり、船尾にいた6名もの腕力自慢たちを一瞬にして連れ去ります。
宙吊りにされたクルーは、泣き叫びながらオデュッセウス船長に助けを求めましたが、魚を釣り上げる漁師のように獲物を捕らえたモンスターは、その場で部下たちをバリバリと踊り食いにしてしまいました。
※「武装するとさらに犠牲が出る」という忠告を無視してこうなったとも


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オデュッセウスは後に、この状況を「海で見た最も悲惨な光景」と回顧しています。
結局、旅の一行はいつも通り、這う這うの体でこの海峡を突破することになりました。


『オデュッセイア』の航路図
このお話の詳細はコチラ!!




完全壊滅!太陽神ヘリオスの牛に手を出したクルーたち!
どうにかメッシーナ海峡を通過した船は、見るも無残な姿のまま、伝説に語られるトリナキア島へと漂着します。
そこは太陽神ヘリオス(Ἥλιος)が管轄するエリアで、島に生息する聖なる家畜たちは彼の所有物であるため、決して手を出してはならないと定められていました。


『太陽のヘリオス』
1588年-1589年 PD


オデュッセウスと船乗りたちは一時的なキャンプを設営し、しばしの休息をとりますが、風向きの都合が悪かったことから、1ヶ月間もこのトリナキア島に釘付けとなってしまいます。
やがて食料が底を尽きると、部下たちのなかから「現地の動物を仕留めて食い繋ごう」という意見が相次ぐようになりました。
しかし、ヘリオスの家畜をどうこうしてはならないと厳重な警告を受けていたオデュッセウス船長は、船員たちの要求を断固として拒絶し、決して余計な真似をせぬよう口酸っぱく言い含めます。


ところが、彼はよりにもよってこのタイミングで、―いや、これすらも神々の意思によるものだったのでしょう―抗いがたい猛烈な睡魔に襲われました。
オデュッセウスが深い眠りに落ちると、副官のエウリュロコス(Εὐρύλοχος)が腹をすかせた船員たちを扇動し、上官の言いつけを無視して、その辺にいた1頭の牛をついに屠ってしまいます。
彼らは一応、神々に犠牲を捧げる儀式を執り行い、その残りの肉を調理して食料としました。
この現場を目撃したのが、太陽神ヘリオスの娘たちで、父が所有する家畜の世話を任されていた、パイトゥーサ(Φαεθουσα)とランペティア(Λαμπετιη)の姉妹です。
自分が担当する大切な牛を傷付けられたパイトゥーサは、すぐさま天界へと飛び立ち、ヘリオスに事の経緯を報告しました。


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それを聞いて激怒した太陽神は、彼らに厳正なる処罰が下されるよう最高神ゼウスに嘆願――。
願いを聞き届けた雷霆の神は、オデュッセウスらが所有する唯一の船に大いなる雷を落として木端微塵に破壊すると、船長を除くすべてのクルーたちを、容赦なく海の藻屑へと変えてしまいます。
こうして、船とすべての仲間たちを失ったオデュッセウスは、残骸となった木々の切れ端に捕まって海を漂い―再びカリュブディスに飲み込まれそうになるという憂き目に遭いながらも―、たった一人で旅を続けることになりました。


『オデュッセイア』の航路図
このお話の詳細はコチラ!!


長くない?女神カリュプソのもとで7年間もヒモ生活!
太陽神ヘリオスと主神ゼウスの怒りを受けて、船と仲間たちのすべてを失ってしまったオデュッセウスは、幾日にもわたって大海原を一人漂流しました。
ちょうど10日目に差し掛かった頃、もはやボロ雑巾のようにやつれ果てた彼の姿を、オギュギア島に住む海の女神カリュプソ(Καλυψω)が発見します。
オデュッセウスの凛々しい顔立ちを一目見てすっかり恋に落ちてしまった彼女は、深い愛情をもってその看護にあたり、甲斐甲斐しく世話を焼くようになりました。


『カリプソ』
1950年 PD
最初は警戒していた漂流者ですが、カリュプソが「決して危害を加えない」と誓うと、やがてはオデュッセウスも、彼女の愛を受け入れるようになったとされています。
結局、彼は7年*もの時をカリュプソの洞窟で過ごし、その好意に甘え続けたほか、2人の間には数人の子どもたちも誕生しました。
※文献によっては5年だったり8年だったり
しかし、オデュッセウスはカリュプソのことを愛しつつも、故郷イタキ島へと戻る意思だけは、決して曲げなかったと言われています。


『オデュッセウスとカリプソ』
1883年 PD
そんなある日、天高くに聳えるオリュンポスから伝令の神ヘルメス(Ἑρμης)がやって来て、女神カリュプソに対し、
オデュッセウスを解放して、故郷へと帰らせるのじゃ~
と告げました。
なんでも、主神ゼウスと戦いの女神アテナ(Αθηνη)の協議によって、この方向性が決定されたのだとか。
天界の神々の決定ならば、無理に逆らっても仕方がない――。
カリュプソは不満を感じつつも、愛する男に「筏の材料」や「食料」と「水」、さらに「葡萄酒」と「衣服」を与えたうえ、おまけに「追い風」までもたらしてその旅を後押しします。
カリュプソや~い、末永く達者での~ぅ
男なんて、シャボン玉~☆
こうして、彼女は再び独りとなり、静かにその余生を過ごすこととなりました。


『カリプソ』
1869年 PD
「英雄オデュッセウスの10年間にも及ぶ帰還の旅」(キリッ
なんて言ってるけど…
そのうち7~8年は、カリュプソとよろしく
やってるヒモ期間だからね
ヘイ、そこ!
シャラーーーーップ‼


『オデュッセイア』の航路図
このお話の詳細はコチラ!!


ゴール目前!王女ナウシカアと親切なパイアキアの人たち!
オギュギア島を出発したオデュッセウスは、粗末な1枚の筏に自らの命運を託し、17日間にわたって航海を続けます。
18日目、はるか前方に島の影を確認して、ほっと安堵の息を漏らす彼を、エーゲ海の支配者ポセイドン(ΠΟΣΕΙΔΩΝ)の脅威が襲いました。
愛する息子ポリュペモスの一件を忘れていなかった彼が、自慢の三叉の鉾を振り回して、英雄の行く手にえげつない暴風を巻き起こしたのです。




いよいよ本格的な「死」を覚悟するオデュッセウスでしたが、そんな彼を海の女神レウコテア(Λευκοθόη)と戦いの女神アテナが助け、水面に浮かぶ一枚の葉っぱのような男を、前方に見えるパイアキア人の島*へと導きます。
※文献によっては「スケリア島」とも表記
紆余曲折あって全裸の状態で島に上陸したオデュッセウスは、最低限の保護と衣服を求めて、人里を目指すことにしました。
そんな彼が道中で出会ったのが、この島の王女である見目麗しきナウシカア(Ναυσικάα)です――。
突如現れた全裸のおっさんに、侍女たちが慌てふためいて逃げ惑うなか、アテナから勇気を授けられた彼女だけは、オデュッセウスのことを「危険な人間ではない」と冷静に判断します。


『ユリシーズとナウシカ』
1888年 PD
ナウシカアは漂流者を宮殿に招き、入浴をさせて衣服と食事を与えると、オデュッセウスを父王アルキノオス(Ἀλκίνοος)に謁見させる段取りを進めました。
パイアキアの王は彼を盛大に歓迎し、英雄としてもてなしたうえ、その帰還を支援するとして、一隻の黒船に50名を超える船員をはじめとした破格の餞別をオデュッセウスに与えます。
アルキノオス王はアルゴナウタイの船長イアソンの物語にも登場するよ!!


こうして、トロイア戦争の英雄は島の人々から温かく見送られ、故郷イタキ島に向けた「最後の航海」に出発しました。


『オデュッセウスとナウシカアー』
1874年 PD
ちなみに、英雄オデュッセウスを助けた親切なパイアキアの人々は、彼のことが嫌いなポセイドンの怒りを買い、
- イタキ島から折り返した帰りの船が「石」に変えられて海底に沈む。
- パイアキアの周辺を峻厳な山々で取り囲まれ、交通アクセスをめっちゃ悪くされる。
という嫌がらせを受けています。


『オデュッセイア』の航路図
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ついに帰還!妻ペネロペとの再会とオデュッセウス大勝利!
10年にも及ぶ紆余曲折に耐え抜いてきたオデュッセウスは、親切なるパイアキア人の船団によって運ばれ、神々の力でぐっすりと眠っている間に、ようやく故郷イタキ島へと送り届けられました。
目を覚ました彼は、女神アテナの力で年老いた物乞いの姿に変装し、クレタ島から来た亡命者という体で周辺の調査に乗り出します。
オデュッセウスはさっそく、忠実な豚飼いのエウマイオス(Εὔμαιος)が住む小屋へと向かい、20年前に別れたっきりの―そして、今や立派な青年へと成長した―一人息子テレマコス(Τηλέμαχος)と、感動の再会を果たしました。
忠実なる部下と愛する息子からイタキ島の近況を聞いた彼は、
- 妻ペネロペ(Πηνελόπη)が100名を超える求婚者に迫られて困っていること
- 目の上のたん瘤であるテレマコスが、割と露骨に命を狙われていること
- 求婚者たちが宮殿の財産を食い荒らし、島の治安が悪化していること
- 一部の侍女たちも男たちとよろしくやって、すっかり堕落してしまっていること
を知ります。
愛する妻を救い出し、己が故郷を健全な姿へと戻す決心をしたオデュッセウスは、テレマコスや忠実な部下たちと綿密な打ち合わせを行い、絶好のタイミングを窺うことにしました。


『ペネロペと求婚者たち』
1911年-1912年 PD
――それから、数日後。
ペネロペのもとに集った求婚者たちがいよいよ痺れを切らし、再婚の意思の有無や、誰を相手に選ぶのかについて、態度をはっきりさせるよう彼女に詰め寄るという事態が発生します。
これまでは、義父のラエルテス(Λαέρτης)*に贈る死装束が完成すれば返事をするとして、昼にこれを織り、夜になったら解くことで、3年もの間、しつこい求婚者たちを誤魔化し続けた彼女。
※オデュッセウスの父
しかし、堕落した侍女の一人メラント(Μελανθώ)の密告によってこの策略が露見し、さすがのペネロペも絶体絶命のピンチに追い込まれていたのです。


「ペネロペは、紡ぎと織りをする女たちに囲まれ、大きな織物の台の中央に立っている」
1540年~1550年頃
出典:メトロポリタン美術館 PD
そんな彼女は最後の手段として、求婚者たちに以下のような条件を突きつけました。
我が夫が愛用したこの弓を用いて、
12本の斧の枘穴に矢を射通してみせよ!
これくらいのことができぬようでは、
私の相手など到底務まらぬわ!!
(…と、言いつつ、求婚の贈り物として、
奴らの財産はしっかり巻き上げてるんだけどね☆)


その逸品は、並の人間では十分に引くこともままならぬほどの強弓であったため、当然ながら男たちは全員、次々に候補者から脱落していきます。
彼らも彼らで、弓を温めたり油を塗ったりして工夫しますが、ペネロペが課す条件を満たす者はついぞ現れませんでした。
(計画通り)
彼女がそう思った矢先、求婚者の群れの後ろの方から、物乞いのような身なりをした貧相な男がふらりと前に歩み出ます。
彼は、件の強弓をいとも容易く引き絞ると、凄まじい勢いの矢を放ち、12本の斧の穴を見事に射抜いてみせました。
アバババババババ…
ま、まさか本当にやりやがる者がおるとは……
しかし、約束したもんはしゃぁない…
兄さんや、あんたの名前を……
サプラーイズ!


「ペネロペは、物乞いの姿で戻ってきたオデュッセウスに遭遇する」
出典:Miguel Hermoso Cuesta CC BY-SA 4.0
完璧なタイミングで正体を明かしたオデュッセウスは、息子テレマコス、豚飼いのエウマイオス、そして牛飼いのフィロイティオス(Φιλοίτιος)と共に、切った張ったの大立ち回りを開始。
ゆうに100名を超える求婚者たちを一人残らず討伐し、メランティオス(Μελάνθιος)をはじめとした離反者や、男たちと交わった12人の侍女も容赦なく極刑に処してしまいます。
※一部の詩人などは助命されたらしい


『オデュッセウスとテーレマコスによる求婚者の殺戮』
1812年 PD
一通りの内患が根絶やしにされた後、乳母エウリュクレイア(Εὐρύκλεια)はペネロペに、
この物乞いこそ、あなたの夫オデュッセウスですのょ
と報告しますが、当の本人は、風呂を済ませ王衣をまとったその姿を見てもなお、
えっ、信じられませんわぁ…
20年もおらんかったもんが、
昨日の今日で戻った言われましても…
と、いまだにその現実を受け入れられない様子。
ペネロペは、最後の試みとして、
ほんなら、結婚の時にもらったベッドを
別室に移動してくれますやろか
と問うと、オデュッセウスは、
えっ…?
ベッドの脚は生きたオリーブの木で作ったから、
そこから動かせるはずないやんけ
と回答。
あ、あんたーーーーー‼‼


出典:ニューヨーク公共図書館 PD
2人しか知り得ぬことを知っていたことが、何よりの真実の証拠となり、彼女はここでようやく、夢にまで見た夫との再会を喜びました。
アテナは、暁の女神エオス(Ἠώς)に命じて「夜」を延長し、この2人が20年分の愛を語り合えるよう、十分な時間を与えたと伝えられています。


その後、ペネロペはオデュッセウスと共に幸福に暮らし、夫婦の間には新たな息子ポリポルテス(Πολιπόρθης)も誕生しました。
こうして、20年もの歳月をかけて繰り広げられた夫の過酷な冒険と、妻の忍耐の日々は、美しい大団円として報われることになったのです。
めでたし、めでたし――。


『ユリスとペネロペ』1706年
出典:ニューヨーク公共図書館 PD
オデュッセウスの長い冒険も、
ついに終わりを迎えたんだね!
これはさすがに、ハッピーエンドを迎えて
良かったと思いますわ


『オデュッセイア』の航路図
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『オデュッセイア』の公式エンディング&別エンディング
見事なまでに美しい大団円を迎えたオデュッセウスの冒険譚ですが、実は、その原典ともいえるホメロスの『オデュッセイア』では、旅を終えた英雄が再び冥界へと赴き、かつての戦友たちと会話を交わす件などが描写されています。
また、オデュッセウスの物語ではその他にも、あまりメジャーではない別エンディングや、ifストーリーのようなものも語り継がれました。
ここでは、そうした一般的なラストシーンの「後日談」にあたる逸話の数々を、ざっくりダイジェストにてご紹介しておきます。


児童書『世界の物語』シリーズより
1909年 PD
真の公式エンディング:再び冥府の物語。和解。
すべてが終わった後、オデュッセウスは以下のようなやり取りを行っています。
- 再び冥府へと降る。
- 「トロイア戦争」を共に戦ったミュケナイの王アガメムノン(Ἀγαμέμνων)や半神の英雄アキレウス(Ἀχιλλεύς)と再会し、かつての思い出や、オデュッセウスの最後の戦いについて語り合う。
- 現世に戻って父ラエルテスと再会し、しばらくのあいだ語り合い、共に過ごす。
- エウペイテス(Εὐπείθης)が求婚者の遺族たちを扇動して、オデュッセウスへの襲撃を企てる。
- 女神アテナの力を授かった父ラエルテスがエウペイテスを葬る。
- ゼウスとアテナの介入によって抗争が中断され、強制的に和解が成立する。


「オデュッセウスはイタケ島に戻る途中で父ラエルテスと会う」
1600年 PD
ifストーリー①:新たなる旅立ちと女王カリディケとの結婚
状況が落ち着いた後、オデュッセウスは家畜の点検をするためにエリス地方へと旅立ち、戻って来たかと思えば、返す刀でテスプロティアへと向かいます。
そこで海神ポセイドン(ΠΟΣΕΙΔΩΝ)との和解の儀式を行った彼は、現地の女王カリディケ(Καλλιδίκη)と出会い、彼女と結婚することにしました。
オデュッセウスはイタキ島の王にしてテスプロティアの王ともなり、夫婦の間には息子のポリュポイテス(Πολυποίτης)も誕生します。
英雄は、この国を周辺諸民族の襲撃から幾度も守り抜き、さすがといえる軍事的成功を収めました。
しかし、妻カリディケが早世すると、オデュッセウスはテスプロティアの王権を息子ポリュポイテスに譲り、自らはイタキ島へと帰還。
そんな彼を、妻ペネロペと、新たに生まれた息子のポリポルテスが出迎えました。


Canvaで作成
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ifストーリー②:息子テレゴノスとの邂逅と人生の終わり
オデュッセウスとアイアイエ島の魔女キルケー(Κιρκη)の間には、数人の息子たちが生まれていました。
そのうちの一人、若きテレゴノス(Τηλέγονος)は、母の命を受けて父探しの旅に出発し、その故郷イタキ島へと到着します。
しかし、そこを敵地あるいは別の島と勘違いした彼は、ゴールであるはずのこの地で略奪行為を開始。
島の守備兵たちの命を奪い、騒ぎを聞きつけたイタキ島の主オデュッセウスと―親子であるとも知らずに―対峙することになりました。
勝負は若きテレゴノスの勝利に終わり、老いたかつての英雄は、死の間際に自らの身分を明かします。
実の父を討ってしまった彼は、その事実を大いに嘆き、オデュッセウスの遺体とペネロペ、そしてテレマコスを連れて、母が待つアイアイエ島へと戻りました。
魔女キルケーはこの3名に「不死性」を与え、テレゴノスはペネロペと、キルケー自身はテレマコスとそれぞれ結婚し、そろって祝福された島々エリュシオン(Ἠλύσιον)に送られたと伝えられています。


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上記のほかにも、オデュッセウスと妻ペネロペの末路については、以下のような説も唱えられました。
- ペネロペは求婚者の一人であるアンティノオス(Ἀντίνοος)に乱暴されたので、夫によって父イカリオス(Ἰκάριος)のもとに送り返され、伝令の神ヘルメス(Ἑρμης)との間に牧神パン(Παν)を生んだ。
※キュレネ山の精霊ペネロペイア(Πηνελοπεια)と同一視される関係で - ペネロペが求婚者の一人であるアムピノモス(Ἀμφίνομος)と不倫したので、オデュッセウスにより追放された、あるいは命を奪われた。
- オデュッセウスは求婚者の遺族に訴えられ、エペイロスの王ネオプトレモス(Νεοπτόλεμος)の審判によって国外追放とされた。
- その後、アイトリアの地でトアス王(Θόασ)の娘と結婚し、レオントポノス(λεοντόφωνος)という子をもうけた後に老齢で死去した。
一つとしてまともなルートがないじゃない!
綺麗なハッピーエンドの後に、
ろくでもない後日談を付け加えるんじゃぁねぇぜ!
ギリシャ神話をモチーフにした作品
参考までに、「ギリシャ神話」と関連する
エンタメ作品をいくつかご紹介するよ!
おわりに
今回は、『オデュッセイア』の物語をあらすじでご紹介しました。
う~ん、「壮大」という言葉だけでは足りないくらいの、
凄まじい冒険だったわね
これ以前に10年間の大戦争も経験してるんだから、
本当にとんでもない人生だよね!
パパトトブログ-ギリシャ神話篇-では、雄大なエーゲ海が生み出した魅力的な神々や彼らの物語をご紹介していきます。
神さま個別のプロフィール紹介や神話の名場面をストーリー調で解説など、難しい言葉はできるだけ使わずに、あらゆる角度から楽しんでもらえるように持って行こうと考えています。
これからも「ギリシャ神話」の魅力をどんどんご紹介してきますので、良ければまた読んでもらえると嬉しいです!
また来てね!
しーゆーあげん!
参考文献
- ヘシオドス(著), 廣川 洋一(翻訳)『神統記』岩波書店 1984年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『イリアス 上』岩波書店 1992年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『イリアス 下』岩波書店 1992年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『オデュッセイア 上』岩波書店 1994年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『オデュッセイア 下』岩波書店 1994年
- アポロドーロス(著), 高津 春繁(翻訳)『ギリシア神話』岩波書店 1978年
- T. ブルフィンチ(著), 野上 彌生子(翻訳)『ギリシア・ローマ神話』岩波書店 1978年
- 吉田 敦彦『一冊でまるごとわかるギリシア神話』大和書房 2013年
- 阿刀田高『ギリシア神話を知っていますか』新潮社 1984年
- 大林 太良ほか『世界神話事典 世界の神々の誕生』角川ソフィア文庫 2012年
- 中村圭志『図解 世界5大神話入門』ディスカヴァー・トゥエンティワン 2020年
- 歴史雑学探究倶楽部『世界の神話がわかる本』学研プラス 2010年
- 沢辺 有司『図解 いちばんやさしい世界神話の本』彩図社 2021年
- かみゆ歴史編集部『マンガ 面白いほどよくわかる! ギリシャ神話』西東社 2019年
- 鈴木悠介『眠れなくなるほど面白い 図解 世界の神々』日本文芸社 2021年
- 松村 一男監修『もう一度学びたいギリシア神話』西東社 2007年
- 沖田瑞穂『すごい神話―現代人のための神話学53講―』新潮社 2022年
- 杉全美帆子『イラストで読む ギリシア神話の神々』河出書房新社 2017年
- 中野京子『名画の謎 ギリシャ神話篇』文藝春秋 2015年
- 千足 伸行監修『すぐわかるギリシア・ローマ神話の絵画』東京美術 2006年
- 井出 洋一郎『ギリシア神話の名画はなぜこんなに面白いのか』中経出版 2010年
- 藤村 シシン『古代ギリシャのリアル』実業之日本社 2022年
- 中村圭志『教養として学んでおきたいギリシャ神話』マイナビ出版 2021年
- かみゆ歴史編集部『ゼロからわかるギリシャ神話』イースト・プレス 2017年
- THEOI GREEK MYTHOLOGY:https://www.theoi.com/
他…










