
こんにちは!
今回は北欧神話より霜の巨人スットゥングを紹介するよ!



今回は巨人族の紹介なのね
彼はどんなキャラクターなの?



彼は詩の才能をもたらす「詩人の蜜酒」を所有していたんだけど、それを最高神オーディンに狙われてしまうんだ!



一家そろってアース神族にコケにされる、
巨人族の中でも屈指の被害者じゃ



ではさっそくいってみよう!
このシリーズでは、忙しいけど「北欧神話」についてサクっと理解したいという方向けに、「かんたん・わかりやすい」がテーマの神々の解説記事を掲載していきます。
厳しい自然環境が生み出した、欲望に忠実な神々による暴力的でありながらもどこかユーモラスな物語群が、あなたに新たなエンターテイメントとの出会いをお約束します。
人間味溢れる自由奔放な神々の色彩豊かで魅力的な物語に、ぜひあなたも触れてみてくださいね。
今回は、飲む者に詩の才能を与えるという「詩人の蜜酒」を所蔵し、弟と娘が最高神オーディンに騙されたことで秘蔵の霊酒を失ってしまう霜の巨人スットゥングをご紹介します!



忙しい人はコチラから本編にすっ飛びじゃ
この記事は、以下のような方に向けて書いています。
- 北欧神話にちょっと興味がある人
- 北欧神話に登場する神さまのことをざっくり知りたい人
- とりあえず誰かにどや顔でうんちく話をしたい人
- 北欧神話に登場する「霜の巨人スットゥング」について少し詳しくなります。
- あなたのエセ教養人レベルが1アップします。
そもそも「北欧神話」って何?
「北欧神話」とは、北ヨーロッパのスカンジナヴィア半島を中心とした地域に居住した、北方ゲルマン人の間で語り継がれた物語です。
1年の半分が雪と氷に覆われる厳しい自然環境の中で生きた古代の人々は、誇り高く冷徹で、勇猛で死もいとわない荒々しい神々を数多く生み出しました。
彼らの死生観が反映された「北欧神話」の物語は、最終戦争・ラグナロクによって、神も人間もあらゆるものが滅亡してしまうという悲劇的なラストを迎えます。
現代の私たちが知る神話の内容は、2種類の『エッダ(Edda)』と複数の『サガ(Saga)』という文献が元になっています。
バッドエンドが確定している世界でなおも運命に抗い、欲しいものは暴力や策略を用いてでも手に入れる、人間臭くて欲望に忠実な神々が引き起こす様々な大事件が、あなたをすぐに夢中にさせることでしょう。


「北欧神話」の全体像は、以下で解説しているよ!


霜の巨人スットゥングってどんな神さま?
霜の巨人スットゥングがどんな神さまなのか、さっそく見ていきましょう。



いくぜっ!
簡易プロフィール
正式名称 | スットゥング Suttungr |
---|---|
名称の意味 | 不明 |
その他の日本語表記 | スッツングなど |
敬称や肩書 | 特になし |
神格 | 霜の巨人 |
性別 | 男性 |
勢力 | 巨人族 |
持ち物 | 詩人の蜜酒 |
親 | 父:霜の巨人ギリング(Gilling) 母:名称不明のギリングの妻 |
兄弟姉妹 | 弟:霜の巨人バウギ(Baugi) |
配偶者 | 不明 |
子孫 | 霜の巨人グンロズ(Gunnlöð) |
概要と出自
スットゥングは北欧神話に登場する霜の巨人です。
彼は巨人ギリング(Gilling)と名称不明の母のあいだに生まれた子で、弟には霜の巨人バウギ(Baugi)がいます。
スットゥングとバウギは、フィアラル(Fjalar)とガラール(Galar)という小人族(ドヴェルグ)の兄弟の策略によって、まだ若い頃に両親を失ってしまいました。
しかし、スットゥングはその仇を討つ際に償いの品として、飲む者に知恵を授け、さらには詩を作る才能までも与えるという「詩人の蜜酒」を入手しています。
彼は、それを自身の住居であるフニットビョルグ(Hnitbjorg)山の洞窟の奥に隠し、娘のグンロズ(Gunnlöð)に命じて厳重に保管させました。


スットゥングは偶然にも手に入れた霊酒を大切に所蔵しますが、そのために、他者から奪うことに一切の良心の呵責を感じないアース神族から目を付けられてしまいます。
最高神オーディン(Óðinn)の暗躍によって騙されたこの巨人の一家は、その他の巨人族と同様に、アース神と関わったばかりにロクでもない目に遭うことになりました。



う~ん、ハッピーエンドじゃないのは確定ね…



わしらの方からは一切手を出してないからね、マジで
スットゥングが関わった主なストーリー



スットゥングの活躍をみてみよう!
神話本編の前日譚!
スットゥングが「詩人の蜜酒」を手に入れるまで!
飲む者に知性と詩の才能を与えるという「詩人の蜜酒」。
霜の巨人スットゥングがそれを手に入れるまでには、それなりに複雑に入り組んだ経緯がありました。
ここでは、彼が秘蔵の霊酒を入手するまでの、神話本編の前日譚とも呼べるお話をご紹介しましょう。
事の発端ははるか昔、アース神族とヴァン神族が争った史上初の戦い「ヴァン戦争」の時代にまで遡ります。
長きに渡る不毛な抗争に嫌気が差した神々は、互いに人質を交換することで、休戦協定を結ぶことになりました。


-戦いの始まりに槍を投げるオーディン 1895年 PD
両陣営の神々は平和の誓いを永遠とするために、ひとつの壺にそれぞれが「唾」を吐き入れ、それを混ぜ合わせたものに「生命」を与えます。



うげげっ…!
すると、壺の中から1人の男性が誕生。
非常に賢く知識が豊富で、どんな質問にも簡単に答えることが出来た彼は、賢者クヴァシル(Kvasir)と名付けられました。
彼は旅に出て多くの人々に知識を授けましたが、ある日、フィアラル(Fjalar)とガラール(Galar)という小人族(ドヴェルグ)の兄弟に命を奪われてしまいます。
小人たちはクヴァシルの流した血に蜜を混ぜ、オーズレーリルという釜と、ボドン、ソーンという壺の中でこれを醸しました。
こうして完成したのが、物語に登場する「詩人の蜜酒」です。


この小人たちは少々調子に乗り過ぎてしまったようで、彼らは後に霜の巨人ギリング(Gilling)を船に乗せて罠に嵌め、たいした理由もなく溺れ死なせてしまいました。
さらに小人の兄弟は、夫の死を嘆くギリングの妻も、その頭上に石臼を落とすことで死亡させています。
理不尽に両親の命を奪われ、復讐のために立ち上がったのが今回の主人公スットゥングです。
彼はフィアラルとガラールを捕え、満潮になると海面に沈む暗礁に2人を縛りつけて放置しました。
小人の兄弟は涙ながらに命乞いをし、償いの品として件の「詩人の蜜酒」を贈呈すると提案。


『巨人スットゥングと小人たち』1900年 PD



ほ~ん、それならええやろ
スットゥングはその申し出を受け入れ、魔法の霊酒を手に、小人たちとの和解に応じます。
彼は「詩人の蜜酒」を自分の住居に持ち帰ると、それをフニットビョルグ山の洞窟の奥に隠し、娘のグンロズ(Gunnlöð)に命じて厳重に保管させることにしました。



ろくでもない兄弟だったね!



酒で手打ちにするスットゥングも大概よ



こうして、話は神話の本編へと続くのじゃな
魔法アイテムを手に入れたが故にアース神族に目を付けられ、
家族そろって騙される
スットゥングと弟のバウギ(Baugi)、娘のグンロズ(Gunnlöð)が登場する物語は、『スノリのエッダ』の「詩語法」にて紹介されています。
フィアラルとガラールの一件により、飲む者にさらなる知恵と詩の才能をもたらす「詩人の蜜酒」を手に入れたスットゥング。
彼はそれを家宝のように大切に思い、フニットビョルグ山の洞窟の奥に秘蔵して、娘のグンロズに厳重な見張りを命じました。
セキュリティ面も万全に整えて安心するスットゥング、しかし強大な魔力を誇る神アイテムのうわさは、どこからともなく漏れ出てしまうものです。
もしその話が、他人からものを奪うことに一切の躊躇いを見せないアース神族の耳に入ったら、それはもう最悪のバッドエンドが確定してしまいます。
今回の主人公スットゥングも、他の巨人族の例に漏れず、不運にも見事なまでにジョーカーを引いてしまう羽目になりました。


ある日スットゥングのもとを、弟バウギに連れられた見知らぬ男性が訪ねて来ます。
彼の名はボルヴェルク(Bǫlverkr)、何でもたっての願いがあって巨人の国ヨトゥンヘイムへとやって来たのだそうな。



「ボルヴェルク」は「悪をなす者」や
「不幸を支配する者」という意味だよ!



う~ん、すでに不穏
突如現れた不審な男は、こう言ってスットゥングを驚かせました。



あんたの持っとる「詩人の蜜酒」、
一口でいいから飲ませてくれんね



くっ…!!
こいつ、その情報をどこで!!
厳重に保管しているはずの霊酒の情報が漏洩した。
狼狽えたスットゥングはにべもなくその要求を拒絶し、遠方からの客人を追い出してしまいます。
立ち去るボルヴェルクはバウギに、何やら「話が違う」という旨のことをまくし立てているようですが、虚を突かれた彼にそれ以上のことを考える余裕はありませんでした。


それから数日の後、スットゥングは不審な光景を目にします。
それは、何やら焦った様子でヨトゥンヘイムを去って行く一羽の大鷲と、涙を流して呆然と立ち尽くす娘グンロズの姿。
先日の不躾な来訪者のことも思い出した彼は、何か良くないことがあったのだと、すぐにピンときました。
スットゥングの勘は見事に当たっており、どうやらグンロズはボルヴェルクに騙されて、「詩人の蜜酒」を丸ごと奪われてしまったようです。



あんのク○野郎!!!


『SÁM 66』より
スットゥングから逃げるオーディン PD
怒ったスットゥングは自らも大鷲の姿に変身し、猛然と略奪者の追跡を開始します。
ボルヴェルクの方も思ったより迅速な追跡に若干焦りつつ、どうにかアース神族の世界アースガルズの城壁を越えて、胃の中の蜜酒の大半を壺の中に吐き出すことに成功しました。
とはいえ背後にはもうスットゥングの姿が迫りつつあったため、慌てた彼は蜜酒の一部を壺の外にこぼしてしまいます。
こぼれてしまった蜜酒は、飲みたい者は誰でも飲むことが許されたので、「へぼ詩人の分け前」と呼ばれるようになったそうです。
秘蔵の霊酒が奪われたうえ、盗人も見失ってしまったスットゥングら霜の巨人の一団は、後日あらためてアーズガルズを訪問し、「ボルヴェルク」なる人物の身柄引き渡しを要求します。
しかし、アース神族の国にもそんな名前の神は本当に存在していないようで、



そんな奴、うちにはおりませんけど?
と突っぱねられた巨人たちは、すべてを諦めて泣く泣くヨトゥンヘイムへと帰るほかありませんでした。



わしら、何か悪い事したぁ!?



これは完全に被害者ね


スットゥングたちは知る由もありませんが、彼らを騙して「詩人の蜜酒」を強奪した真犯人は、アース神族の王にして北欧神話の最高神であるオーディン(Óðinn)でした。
霊酒の噂を聞きつけた彼が、どうにかしてそれを手に入れようと暗躍し、結果としてスットゥング一家が丸ごと騙されることになったのです。



陰湿な略奪者の手口をみてみよう!
- オーディンは蜜酒の持ち主であるスットゥングに近づくためにバウギに接触
- 労働力を失って困っている彼に手を貸す代わりに、見返りとしてスットゥングとの面会と霊酒の試飲を要求した
- そもそも、バウギの9人の下男がいっぺんに命を落としてしまったのは、ボルヴェルクに化けたオーディンの策略だった
- スットゥングに要求を断られた後は、バウギの罪悪感を刺激して、フニットビョルグ山の壁に錐で穴をあけさせた
- 蛇に変身したオーディンは、その穴を通って中に侵入した



アババババ
続いて、オーディンの作戦第2ステージは以下のように進められました。
- 年頃の若い娘であるグンロズに近づいて、自慢の雄弁とウィットに富んだ甘い囁きで乙女を誘惑
- 3夜にわたってベッドを共にし、心身ともにボルヴェルクに夢中にさせる
- 脳内お花畑になったグンロズが、例の蜜酒を持ち出すよう仕向けた
- 予定通りに目的物を前にしたオーディンは、3口ですべての霊酒を飲み干し、グンロズを放置してアースガルズへと飛び去った



アババババ
こうして、スットゥングたちは一家そろってアース神族の王にコケにされ、大切な「詩人の蜜酒」を失ってしまったのです。


山に錐で穴を空けるバウギ PD


その一方、オーディンやその近くにいた詩人たちは、蜜酒を飲んでさらなる詩の才能を獲得し、これまで以上に美しい言葉を紡ぎ出すようになりましたとさ。
めでたし、めでたし。



最終戦争ラグナロク、わたしは巨人族を応援します!
この物語のヴィラン視点はコチラ


北欧神話をモチーフにした作品



参考までに、「北欧神話」と関連するエンタメ作品をいくつかご紹介するよ!
おわりに
今回は、北欧神話に登場する霜の巨人スットゥングについて解説しました。



もうさ、巨人族は「アース神族被害者の会」
を立ち上げるべきだと思うの



自業自得な巨人族もいるにはいるけど、今回のスットゥング一家はガチの被害者だったよね!
パパトトブログ-北欧神話篇-では、北の大地で生まれた魅力的な神々や彼らの物語をご紹介していきます。
神さま個別のプロフィール紹介や神話の名場面をストーリー調で解説など、難しい言葉は出来るだけ使わずに、あらゆる角度から楽しんでもらえるように持って行こうと考えています。
これからも「北欧神話」の魅力をどんどんご紹介してきますので、良ければまた読んでもらえると嬉しいです!



また来てね!
しーゆーあげん!
参考文献
- 山室静 『北欧の神話』 ちくま学芸文庫 2017年
- P.コラム作 尾崎義訳 『北欧神話』 岩波少年文庫 1990年
- 杉原梨江子 『いちばんわかりやすい北欧神話』 じっぴコンパクト新書 2013年
- かみゆ歴史編集部 『ゼロからわかる北欧神話』 文庫ぎんが堂 2017年
- 松村一男他 『世界神話事典 世界の神々の誕生』 角川ソフィア文庫 2012年
- 沢辺有司 『図解 いちばんやさしい世界神話の本』 彩図社 2021年
- 中村圭志 『世界5大神話入門』 ディスカヴァー・トゥエンティワン 2020年
- 歴史雑学探求倶楽部編 『世界の神話がわかる本』 Gakken 2010年
- 沖田瑞穂 『すごい神話 現代人のための神話学53講』 新潮選書 2022年
- 池上良太 『図解 北欧神話』 新紀元社 2007年
- 日下晃編訳 『オーディンの箴言』 ヴァルハラ・パブリッシング 2023年
他…
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