
こんにちは!
今回はギリシャ神話より夢の神々オネイロイを紹介するよ!



なんだかファンタジックな神格ね
彼らはどんなキャラクターなの?



彼らは夜の女神ニュクスの息子たちで、
眠る人々が見る「夢」を司ったんだ!



「しょうもないただの夢」から「神々の預言」まで内容は
様々で、その数は1,000柱にも及んだとされるぞぃ



ではさっそくいってみよう!
このシリーズでは、忙しいけど「ギリシャ神話」についてサクっと理解したいという方向けに、「かんたん・わかりやすい」がテーマの神々の解説記事を掲載していきます。
雄大なエーゲ海と石灰岩の大地が生み出した、欲望に忠実な神々による暴力的でありながらもどこかユーモラスな物語群が、あなたに新たなエンターテイメントとの出会いをお約束します。
人間味溢れる自由奔放な神々の色彩豊かで魅力的な物語に、ぜひあなたも触れてみてくださいね。
今回は、夜の女神ニュクスの数多くの子孫の一角として生まれた「夢」の擬人化で、人々に「特に意味のない夢」や「正夢」、時には「神々の預言」までも届けた真夜中のメッセンジャー・オネイロイをご紹介します!



忙しい人はコチラから本編にすっ飛びじゃ
この記事は、以下のような方に向けて書いています。
- ギリシャ神話にちょっと興味がある人
- ギリシャ神話に登場する神さまのことをざっくり知りたい人
- とりあえず誰かにどや顔でうんちく話をしたい人
- ギリシャ神話に登場する「夢の神々オネイロイ」について少し詳しくなります。
- あなたのエセ教養人レベルが1アップします。
そもそも「ギリシャ神話」って何?
「ギリシャ神話」とは、エーゲ海を中心とした古代ギリシャ世界で語り継がれてきた、神々と人間の壮大な物語群です。
夏には乾いた陽光が降り注ぎ、岩と海とオリーブの木が広がる土地に暮らした人々は、気まぐれで情熱的、そして人間以上に人間らしい神々を生み出しました。
神々は不死である一方、人間と同じように嫉妬し、愛し、怒り、そしてときに残酷な運命に翻弄されます。
現代に伝わる物語の多くは、ホメロスの『イーリアス』『オデュッセイア』、ヘシオドスの『神統記』などの古代叙事詩を原典としています。
王族の愛憎劇に始まり、神々の争いや英雄たちの冒険、時に神と人間の禁断の関係まで——
あらゆる欲望と感情が渦巻くギリシャ神話の世界は、きっとあなたの心を掴んで離さないでしょう。


14世紀ギリシャの写本 PD
「ギリシャ神話」の全体像は、以下で解説しているよ!


夢の神々オネイロイってどんな神さま?
夢の神々オネイロイがどんな神さまなのか、さっそく見ていきましょう。



いくぜっ!
簡易プロフィール
正式名称 | オネイロイ Ονειροι ※単数形でオネイロス(Ονειρος) | |
---|---|---|
名称の意味 | 夢 | |
その他の呼称 | 特になし | |
ラテン語名 (ローマ神話) | ソムニア(Somnia) ※単数形でソムニウム(Somnium) | |
英語名 | オネイロイ(Oneiroi) ※単数形でオネイロス(Oneiros) | |
個別の名称 | モルペウス(Μορφευς) ※「形づくる者」の意 イケロス(Ικελος)またはフォベトール(Φοβητωρ) ※「似ている」あるいは「恐れられる者」の意 パンタソス(Φαντασός) ※「幻影」の意 | |
神格 | 夢の神々 | |
性別 | 男性 | |
勢力 | ギリシャの神々 | |
主な拠点 | 永遠の闇の地エレボス(Ἔρεβος) | |
親 | 父:基本的にはなし 父:暗闇の神エレボス(Ἔρεβος)とも 父:眠りの神ヒュプノス(Ὕπνος)とも 母:夜の女神ニュクス(Νύξ) | |
兄弟姉妹 | 運命と死の神モロス(Μόρος) 戦死をもたらす悪霊ケール(Κήρ) ※複数形でケレス(Κῆρες) 死の神タナトス(Θάνατος) 眠りの神ヒュプノス(Ὑπνος)とも 非難と皮肉の神モモス(Μῶμος) 苦悩の神オイジュス(Ὀϊζύς) 黄昏の娘たちヘスペリデス(Ἑσπερίδες) ※単数形はヘスペリス(Ἑσπερίς) | |
運命の女神クロト(Κλωθώ) 運命の女神ラケシス(Λάχεσις) 運命の女神アトロポス(Ἄτροπος) | 運命の三女神モイライ(Μοῖραι) ※単数形はモイラ(Μοῖρα) | |
憤怒の女神ネメシス(Νέμεσις) 欺瞞の女神アパテ(Ἀπάτη) 愛欲の女神ピロテス(Φιλότης) 老年の神ゲラス(Γῆρας) 争いと不和の女神エリス(Ἔρις) 光の神アイテル(Αἰθήρ)とも 昼の女神ヘメラ(Ἡμέρα)とも | ||
配偶者 | なし | |
子孫 | なし | |
由来する言葉 | ・「oneiric」 :「夢に関する」「夢を連想させる」を意味する英単語。ギリシャ語で夢を意味する「oneiros」から ・「モルヒネ(morphine)」 :ケシを原料とする、極めて強力な鎮痛作用をもつオピオイド系化合物。メンバーの1人「モルペウス」の名称から。 |
概要と出自
オネイロイはギリシャ神話に登場する夢の神々です。
※単数形でオネイロス(Ονειρος)
彼らは夜の女神ニュクス(Νύξ)の息子たちで、その兄弟姉妹には、人間という存在に深く関わるさまざまな概念――特に「負の側面」を象徴する数多くの神々が存在します。
※「簡易プロフィール」参照のこと
オネイロイたちは基本的に、母ニュクスによって単独で生み出された子どもたちとされていますが、場合によっては、暗闇の神エレボス(Ἔρεβος)がその父親であるとも考えられました。
また、彼らは、上記の設定では兄弟にあたる眠りの神ヒュプノス(Ὑπνος)の息子とも言われています。
オネイロイの兄弟姉妹については、お母ちゃんの記事でざっくり紹介しているよ!






ImageFXで作成
夢の神々オネイロイは、その数が1,000柱にも及ぶとされ、眠る人々の心を休ませると同時に、神意を伝えるという重要な役割を担いました。
『オデュッセイア』などを著したホメロスによれば、彼らは大洋の神オケアノス(Ωκεανός)*の遥か西方にある、暗い岸辺に棲みついていたとされています。
※全世界を取り囲む大河や外洋の海流のイメージで存在した
オネイロイは毎夜、昇る太陽の彼方にある永遠の闇の地エレボスの洞窟のような住処から、コウモリの群れのように姿を現しました。
彼らは黒い翼を羽ばたかせて空を飛び、眠る人々の「夢」に現れることになりますが、その際、オネイロイたちは2つの門(ピュライ)のうちのどちらか一方を通過したと伝えられています。
象牙の門から出てくるオネイロイは「実のない偽り」を人に伝え、他方、磨かれた角の門から出てくるオネイロイは「真実」、あるいは「神の預言」を相手に授けたのだそうです。



つまり、「しょうもない普通の夢」を見せる担当と、
「正夢」とか「神託」を伝える担当がいたわけよ


Canvaのイメージ
また、夢の擬人化である彼らのうちでも、特に「悪夢」を見せる精霊たちのことを、メラス・オネイロス(melas oneiros)*1またはエピアルテス(Επιαλτης)*2と呼びました。
※1「黒い夢」の意、※2単数形でエピアレス(Επιαλης)、「悪夢」の意
彼らもまた女神ニュクスの息子たちであると考えられますが、正確な情報はどこにも明記されていません。



オネイロイのことを、ヘシオドスは「夜の子ら」と呼び、
オウィディウスは「眠りの子ら」と呼んだのじゃ



エウリピデスは彼らを「ガイアの子ら」と呼んだそうだよ!
夢の精霊オネイロイのなかでも、特に主要な役割を果たしたと目されるのが、以下の3名のネームドキャラたちです。
神名 | 概要 |
---|---|
モルペウス Μορφευς | その名は「形づくる者」の意。 |
「人間」の姿をとって人の夢に現れることを得意とし、歩き方や話の仕方、衣服の着こなし方や物腰まで完璧に再現したとされる。 | |
特に王族の夢に現れ、神々からの意志を伝える役割を担った。 | |
オネイロイのリーダー的存在。 | |
イケロス Ικελοςまたは フォベトール Φοβητωρ | その名は「似ている」あるいは「恐れられる者」の意。 |
「獣」や「鳥」、「蛇」などのクリーチャーの姿をとって人の夢に現れた神。 | |
神々は彼のことを「イケロス」と呼び、地上の人間の部族は彼を「フォベトール」と呼称した。 | |
パンタソス Φαντασός | その名は「幻影」の意。 |
「土」や「岩」、「水」や「木」など、あらゆる無機物・無生物の姿をとって人の夢に現れた神。 | |
ややこしくて訳の分からない夢は彼の領分だったとも。 |



一口に「夢」といっても色々あるから、
全方位全ジャンルに対応していないとねっ!



すんごい生々しい実感のある、「この世のすべて」
を手に入れた夢を見させてください!!
オネイロイが関わった主なストーリー



オネイロイの活躍を見てみよう!
オネイロイの面々が、人格をもったキャラクターとして登場する場面はそう多くはありませんが、ここではそんな彼らの貴重な活躍シーンを、ざっくりダイジェストにまとめてご紹介します。


ImageFXで作成
ちょっと調子に乗っただけの人間の夫婦に神々の怒りが!?
配偶者の訃報を伝えに空を駆けるモルペウス
テッサリアの王ケユクス(Κήϋξ)とアルキュオネー(Αλκυονη)の2人は、非の打ち所がないとても幸福な結婚をしました。
互いに深く愛し合っていた彼らの仲は大変睦まじく、誰がどう見ても理想の夫婦であったと言われています。
ところがこのカップル、ほんのちょっとばかり脳内お花畑状態になってしまったようで、彼らは互いのことを、



やぁ、今日も美しいね、ヘラ



あなたこそとても素敵よ、ゼウス
と、オリュンポスの神々の名で呼び合っていました。
無力な人間たちの一時のイキがりを、笑って見過ごしてくれるような優しい神さまは、ギリシャ神話の世界には存在しません。
アルキュオネーとケユクスのちょっとした夫婦間ジョークは、最高神夫妻によって万死に値する「不敬」「傲慢」と見なされ、以降彼らの行動は神々にきっちりとマークされることとなりました。


そんなある時、光明の神アポロン(ΑΠΟΛΛΩΝ)の神託を受けるために船旅に出たケユクスは、その途中で大嵐に遭遇し、雷霆の神ゼウス(ΖΕΥΣ)の雷を受けて海の藻屑となってしまいます。
夫はすでに命を落としているにもかかわらず、その無事を祈り続けた妻アルキュオネーに対し、結婚の女神ヘラ(Ἥρα)は、「夢」を通じて真実を伝えることにしました。
虹の女神イーリス(Ἶρις)は眠りの神ヒュプノス(Ὑπνος)に神々の女王の命令を伝え、ヒュプノスは息子の1人であるモルペウス(Μορφευς)を、この仕事の担当者に指名します。
翼を広げて空を駆け、アルキュオネーのもとへと向かった彼は、得意の変身術でケユクスの姿をとり、彼女に配偶者の訃報を伝えました。
結局、真相を知って世を儚んだアルキュオネーは、自らも海に身を投げてその命を絶ってしまったと伝えられています。
このあと2人の亡骸は、神々の手によってカワセミの姿へと変えられました。


『ノイエロフネーター・ムゼン・テンペル』より
アルキュオネーとケイクスがハルシオンに変身 1733年 PD



後味の悪い仕事を振らないで欲しいよね~


人間たちの争いにガッツリと介入する神々!!
オネイロイはメッセンジャーとしての仕事もこなす
この物語は、ホメロスが著した『イリアス』に描かれる一場面です。
時は、トロイア戦争の真っ只中――。
人間たちがギリシャ勢力とトロイア勢力に分かれて激しく争うさなか、天上に住む神々もまた、それぞれの思惑や好みに応じて特定の勢力に肩入れし、便宜を図っていました。
だいたい以下のような感じだよ!
ギリシャ陣営側 | トロイア陣営側 |
---|---|
雷霆の神ゼウス(ΖΕΥΣ) 両軍に加担。中立といえば中立。 | |
戦いの女神アテナ(Ἀθηνᾶ) | 狩猟の女神アルテミス(ΑΡΤΕΜΙΣ) |
結婚の女神ヘラ(Ἥρα) | 光明の神アポロン(ΑΠΟΛΛΩΝ) |
海神ポセイドン(ΠΟΣΕΙΔΩΝ) | 戦いの神アレス(ΑΡΗΣ) |
鍛冶の神ヘパイストス(Ἥφαιστος) | 愛と美と性の女神アフロディーテ(ΑΦΡΟΔΙΤΗ) |


そんな折、主神ゼウスはお気に入りの英雄アキレウス(Ἀχιλλεύς)に栄誉を授けつつ、アカイカ人(ギリシャ陣営の人々のこと)の船団と、その他の勢力を一気にうち滅ぼす良い方法がないかと思いを巡らせます。



ゼウスはどちらの味方というわけではなく、この大戦を利用して増えすぎた人口を調整しようと考えていたんだ!



せやっ、ええこと考えた
おそらく良からぬことを思いついた最高神は、夢の神々オネイロイのうちの1柱を呼び出し、ギリシャ陣営の総大将・ミュケナイの王アガメムノン(Ἀγαμέμνωνn)のもとを訪れるよう命じました。



合点承知の助
黒い翼を広げ、夜空を滑るように駆けたオネイロスは、アガメムノンが最も信頼する相談役ネストル(Νέστωρ)の姿をとって、彼の夢枕に立ちこう言います。
※おそらくここで登場したのもオネイロイのリーダー・モルペウスと思われる



こりゃ、起きんかい!
責任ある立場のお主が、いつまで眠っとるのか!!



わしはゼウスの使者
お主を気遣って、こうしてここまでやって来た



アガメムノンよ、アカイア人たちに戦いの準備をさせるのじゃ
さすれば、お主らは広大な都市を占領できるやもしれぬ



トロイア人よ、大神ゼウスはお前らに災いを用意してある


『アガメムノンの夢に現れるネストール』1805年 PD
くしくもアガメムノン王はこの日、トロイアの王プリアモス(Πρίαμος)の都市を陥落させようと目論んでいました。
目を覚ました彼は、本物のネストルをはじめとした部下たちを招集し――主神ゼウスの真意も知らぬまま――軍を動かすべきか否か、綿密な協議を重ねます。
この後の展開は、皆さんご存じの通り。
10年にも及ぶ長期戦となった戦争では、ギリシャ側の陣営もトロイアの軍勢も、双方が甚大な被害を受け、苦しみの涙を流すこととなりました。



な~んか、嫌な役ばっかりやってるのよねん
ギリシャ神話をモチーフにした作品



参考までに、「ギリシャ神話」と関連する
エンタメ作品をいくつかご紹介するよ!
おわりに
今回は、ギリシャ神話に登場する夢の神々オネイロイについて解説しました。



ギリシャ神話では、人々が見る「夢」
ひとつも擬人化されているのね



ほんとに、日本のアニメ文化なんかとも
相性が良いのは間違いない気がするよね!
パパトトブログ-ギリシャ神話篇-では、雄大なエーゲ海が生み出した魅力的な神々や彼らの物語をご紹介していきます。
神さま個別のプロフィール紹介や神話の名場面をストーリー調で解説など、難しい言葉はできるだけ使わずに、あらゆる角度から楽しんでもらえるように持って行こうと考えています。
これからも「ギリシャ神話」の魅力をどんどんご紹介してきますので、良ければまた読んでもらえると嬉しいです!



また来てね!
しーゆーあげん!
参考文献
- ヘシオドス(著), 廣川 洋一(翻訳)『神統記』岩波書店 1984年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『イリアス 上』岩波書店 1992年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『イリアス 下』岩波書店 1992年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『オデュッセイア 上』岩波書店 1994年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『オデュッセイア 下』岩波書店 1994年
- アポロドーロス(著), 高津 春繁(翻訳)『ギリシア神話』岩波書店 1978年
- T. ブルフィンチ(著), 野上 彌生子(翻訳)『ギリシア・ローマ神話』岩波書店 1978年
- 吉田 敦彦『一冊でまるごとわかるギリシア神話』大和書房 2013年
- 阿刀田高『ギリシア神話を知っていますか』新潮社 1984年
- 大林 太良ほか『世界神話事典 世界の神々の誕生』角川ソフィア文庫 2012年
- 中村圭志『図解 世界5大神話入門』ディスカヴァー・トゥエンティワン 2020年
- 歴史雑学探究倶楽部『世界の神話がわかる本』学研プラス 2010年
- 沢辺 有司『図解 いちばんやさしい世界神話の本』彩図社 2021年
- かみゆ歴史編集部『マンガ 面白いほどよくわかる! ギリシャ神話』西東社 2019年
- 鈴木悠介『眠れなくなるほど面白い 図解 世界の神々』日本文芸社 2021年
- 松村 一男監修『もう一度学びたいギリシア神話』西東社 2007年
- 沖田瑞穂『すごい神話―現代人のための神話学53講―』新潮社 2022年
- 杉全美帆子『イラストで読む ギリシア神話の神々』河出書房新社 2017年
- 中野京子『名画の謎 ギリシャ神話篇』文藝春秋 2015年
- 千足 伸行監修『すぐわかるギリシア・ローマ神話の絵画』東京美術 2006年
- 井出 洋一郎『ギリシア神話の名画はなぜこんなに面白いのか』中経出版 2010年
- 藤村 シシン『古代ギリシャのリアル』実業之日本社 2022年
- 中村圭志『教養として学んでおきたいギリシャ神話』マイナビ出版 2021年
- かみゆ歴史編集部『ゼロからわかるギリシャ神話』イースト・プレス 2017年
- THEOI GREEK MYTHOLOGY:https://www.theoi.com/
他…