
こんにちは!
今回はギリシャ神話より
三位一体の怪物ゲリュオンを紹介するよ!



今回はクリーチャー枠の紹介ね
彼はどんなキャラクターなの?



彼は3人の男性が合体したような姿をもつ怪物で、
西方のエリュテイア島で赤い牛の群れを飼っていたんだ!



ヘラクレスの『12の功業』の一つで葬られる、
理不尽な被害者の1人なのじゃ



ではさっそくいってみよう!
このシリーズでは、忙しいけど「ギリシャ神話」についてサクっと理解したいという方向けに、「かんたん・わかりやすい」がテーマの神々の解説記事を掲載していきます。
雄大なエーゲ海と石灰岩の大地が生み出した、欲望に忠実な神々による暴力的でありながらもどこかユーモラスな物語群が、あなたに新たなエンターテイメントとの出会いをお約束します。
人間味溢れる自由奔放な神々の色彩豊かで魅力的な物語に、ぜひあなたも触れてみてくださいね。
今回は、はるか西方にあるという伝説上の島エリュテイアの主で、3つの頭に1つの胴体、6本ずつの手脚をもつという異形の怪物ながらも普通に真面目に牛を飼って暮らし、にもかかわらず英雄ヘラクレスによって一方的に討滅された気の毒な王ゲリュオンをご紹介します!



忙しい人はコチラから本編にすっ飛びじゃ
この記事は、以下のような方に向けて書いています。
- ギリシャ神話にちょっと興味がある人
- ギリシャ神話に登場する神さまのことをざっくり知りたい人
- とりあえず誰かにどや顔でうんちく話をしたい人
- ギリシャ神話に登場する「三位一体の怪物ゲリュオン」について少し詳しくなります。
- あなたのエセ教養人レベルが1アップします。
そもそも「ギリシャ神話」って何?
「ギリシャ神話」とは、エーゲ海を中心とした古代ギリシャ世界で語り継がれてきた、神々と人間の壮大な物語群です。
夏には乾いた陽光が降り注ぎ、岩と海とオリーブの木が広がる土地に暮らした人々は、気まぐれで情熱的、そして人間以上に人間らしい神々を生み出しました。
神々は不死である一方、人間と同じように嫉妬し、愛し、怒り、そしてときに残酷な運命に翻弄されます。
現代に伝わる物語の多くは、ホメロスの『イーリアス』『オデュッセイア』、ヘシオドスの『神統記』などの古代叙事詩を原典としています。
王族の愛憎劇に始まり、神々の争いや英雄たちの冒険、時に神と人間の禁断の関係まで——
あらゆる欲望と感情が渦巻くギリシャ神話の世界は、きっとあなたの心を掴んで離さないでしょう。


14世紀ギリシャの写本 PD
「ギリシャ神話」の全体像は、以下で解説しているよ!


三位一体の怪物ゲリュオンってどんな存在?
三位一体の怪物ゲリュオンがどんな存在なのか、さっそく見ていきましょう。



いくぜっ!
簡易プロフィール
正式名称 | ゲリュオン Γηρυών |
---|---|
名称の意味 | 不明 ※「大地」または「歌」に由来するという説も |
その他の呼称 | ゲリュオネス(Γηρυονης) ゲリュオネウス(Γηρυονεύς) ゲーリュオーン ゲーリュオネウス テトラプティロン(Τετραπτιλον) ※「4つの翼」の意 トリケファロス(Τρικεφαλος) ※「3つの頭」の意 |
ラテン語名 (ローマ神話) | ゲリュオン(Geryon) ゲリュオネス(Geryones) |
英語名 | ゲリュオン(Gêryôn) ゲリュオネス(Gêryonês) |
神格 | 特になし |
性別 | 男性 |
勢力 | 巨人族 ※ギガンテス(Γίγαντες)とは別種とされる |
主な拠点 | エリュテイア島(Ερυθεια) |
親 | 父:巨人クリュサオール(Χρυσαωρ) 母:海の精霊カリロエ(Καλλιρρόη) |
兄弟姉妹 | 半人半蛇の怪物エキドナ(Ἔχιδνα)とする場合も |
配偶者 | 不明 |
子孫 | エリュテイア(Ερυθεια) ※島と同名の娘がいたとも? |
概要と出自
ゲリュオンはギリシャ神話に登場する伝説上の怪物で、西方の地へスペリア*の王の1人です。
※そのまんま「西方の地」の意
彼は巨人クリュサオール(Χρυσαωρ)と海の精霊カリロエ(Καλλιρρόη)の1人息子で、説によっては、半人半蛇の怪物エキドナ(Ἔχιδνα)と兄妹関係にあるともされました。
そんなゲリュオンが”怪物”と称される理由は、そのビジュアルにあります。
彼は、3人の男性がひとつに合体したような姿をしており、3つの身体が腹部で繋がり、脇腹から上と腿から下の部分が再び3つに分かれていたのです。


Canvaで作成



つまり、頭が3つに胴体が1つ、そして
手と脚が各6本ずつあったってわけだね!



さらに、4つの翼をもつというおまけ付きじゃい!



当ブログでは彼を、文字通り
「三位一体の怪物」と称しとるぞぃ
一見すると恐ろしい容姿をもつゲリュオンは、西の果てに存在するという伝説上の島エリュテイア(Ερυθεια)に住み、そこで夕日を受けて赤毛に染まる壮麗な牛の群れを所有していました。
家畜たちの世話には牧夫のエウリュティオン(Εὐρυτίων)があたり、双頭の犬オルトロス(Ορθρος)が番犬としての役目を担ったと伝えられています。


さて、エリュテイア島で暮らしたこの面々、その大部分は確かに「怪物」と呼ばれる存在ですが、彼らは何かしらの悪事を働いていたのでしょうか――。
いいえ、彼らはただ自分の島で、酪農ないし畜産という自分の仕事に従事していただけです。
しかし、ゲリュオンが守っていた「赤い牛」が、半神の英雄ヘラクレス(Ηρακλής)による『12の功業』のターゲットにされてしまったのが運の尽き。
彼は、部下のエウリュティオンとペットのオルトロスと共に、贖罪を求める英雄の手によって滅ぼされる運命を辿りました。



彼は元々、「オリオン座(Orion)」に関連付けられていた、
とも言われているわよ
牛を飼っていただけのゲリュオン、英雄ヘラクレスにぶっ飛ばされる



ゲリュオンの活躍を見てみよう!
これは、半神の英雄ヘラクレス(Ηρακλής)が各地であらゆる難行に挑戦した、有名な『12の功業』の物語のひとつです。
これまでに数々の無茶振りをクリアしてきた彼は、ミュケナイの王エウリュステウス(Εὐρυσθεύς)から10番目の課題として、「三位一体の怪物ゲリュオン(Γηρυών)が所有する赤い牛を連れ帰ること」を命じられました。



彼奴らが住んどるのは、エリュテイア島やったな
エリュテイア島(Ερυθεια)はこの世界の西の果て、大洋の神オケアノス(Ωκεανός)*の向こうにあるとされる伝説の島です。
※大地を流れる川のような形で存在している



この島は後に「ガデイラ島」または
「ガデス島」とも呼ばれたわよ
※現在のスペインにある「カディス(Cádiz)」のこと
目的地を設定したヘラクレスは、迷うことなく航海に乗り出し、一路ゲリュオンの住処を目指しました。
旅の一行はヨーロッパを西へ西へと進み、途中で数多くの野獣たちを屠りながら、ついにリビアの地へと足を踏み入れます。
北アフリカの砂漠を横断している途中、あまりの暑さにイライラが最高潮に達したヘラクレスは、天に輝く太陽神ヘリオス(Ἥλιος)に向かって



おぃコラ嫌がらせのつもりかテメェ!!
これ以上気温を上げるならわしの弓で
射落としたるでコラァ!!
と啖呵を切り、手にした弓を引き絞りました。


それを聞いた太陽神は、



その剛気、さすがは神の血を引く男やね



わしは個人的に好きやね



ほら、これを貸してあげる
これがあれば、オケアノスの海を渡ることができようぞ
と機嫌を良くし、ヘラクレスに「黄金の杯」を授けています。




『太陽のヘリオス』1588年-1589年 PD
さらに旅を続けたヘラクレスは、スペインの古代王国タルテッソス(Τάρτησσος)に到達した際、南岸にある現在のジブラルタル海峡を見て、



旅の記念に、海峡の南北に向かい合う
山の頂上に「柱」を立てようやん!!
と思い立ちました。
これが現代にも残る有名な「ヘラクレスの柱(The Pillars of Hercules)」で、北側の柱は「ジブラルタルの岩」、南側の柱は「セウタの岩」といった名称で知られています。
※南側の柱の位置には諸説ある


出典:Hansvandervliet PD
それなりに寄り道もしつつ西へと旅をしたヘラクレスは、ヘリオスから授かった「黄金の杯」を使ってオケアノスの海を突破し、ついに目的地であるエリュテイア島に到着しました。
しかし、島の住民からすれば、急に現れたライオンの皮を身にまとう不審なマッチョが、家畜をパクるためにやる気満々で辺りを練り歩いている様子は、「恐怖」以外のなにものでもありません。
ここで颯爽と登場したのが、島に住む牛の群れの番を務める、双頭の魔犬オルトロス(Ορθρος)です。



バゥバゥバゥバゥ!!!
彼は、家畜の番犬としての役目を全うするために、そして大切な主人であるゲリュオンの留守を守るために、見るからに怪しい侵入者に向かって果敢にも突進していきました。


アッティカの 黒絵式 首付きアンフォラ 紀元前550-500年頃
出典:Bibi Saint-Pol PD



どすこ~い!!
しかし、神の血を引く英雄ヘラクレスは、満身の力を込めて棍棒を振り下ろし、意気揚々と突っ込んできたオルトロスを秒で葬ってしまいます。



キャーーーーーン‼‼‼‼


彼は続けて、異変を察知して駆けつけてきた牧夫のエウリュティオン(Εὐρυτίων)をも叩き潰し、お目当ての「赤い牛」の群れを拉致する段取りに入りました。
ちょうどその頃、冥府の牛飼いメノイテス(Μενοΐτης)から緊急事態を告げられたのが、今回の主人公にしてエリュテイア島の主であるゲリュオンです。


Canvaで作成



ななななななんやとぉぉぉぉ!?
青天の霹靂の如く訪れた災厄――。
理不尽な略奪に激怒した彼は、3本の槍を3本の右手に持ち、3枚の盾を3本の左手に掲げ、頑丈な甲冑を着込み、3つの兜から伸びる冠羽を揺らしながら、軍神アレス(ΑΡΗΣ)のように力強く前進しました。
ゲリュオンは、アンテムース河畔に差しかかったヘラクレスの姿を捉えると、質の悪い盗賊に向かって



待たんかぃおどれぇぇ!!
好き放題やってタダで済むと思うなゃコラァァ!!
と凄みます。



あ…?
なんや、まだおったんかいな…



それっ
怒り狂った島の主人の姿を横目に認めたヘラクレスは、先日の功業で討伐した九頭の毒蛇ヒュドラ(Ὕδρᾱ)から抽出した「毒」を矢尻に塗り付け、それを三位一体の巨人に向けて放ちました。
矢はゲリュオンの頭蓋骨の一つを正確に射抜き、恐ろしい猛毒が残り2つの頭部までを瞬時に蝕んで、一つしかないその命をほんの数秒で奪い去ってしまいます。


「ヘラクレスと戦うゲリュオン」1894年
上部中央に矢で射られたオルトロス
出典:ニューヨーク公共図書館 PD



ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!



(えっ!?マジでこれでクランクアップ!?!?!?)
こうして、自分の島で自分の仕事に勤しんでいただけのゲリュオンとその部下たちは、英雄ヘラクレスの介入によって、極めて理不尽かつ悲惨な末路を辿ることになりました。
文献のなかには、ゲリュオンを高貴な身分の人物として描き、ヘラクレスを明確に悪逆非道な「賊」として扱っているものも存在します。
それほどこの物語は、――当時のギリシャ人にとってさえも――まぁまぁ「酷いお話」だったのかもしれませんね。



神ノ名ノ下ニ行ワレル「暴力」ハ、スベテ「正義」デース
スムーズに仕事を終えた英雄は、目的物である牛の群れを「黄金の杯」に乗せて再びタルテッソスへと渡航し、この神器を太陽神ヘリオスに返却。
その後、彼はエウリュステウス王のもとに帰還し、無事に「10番目の課題」をクリアしてみせました。



まぁ、今回は比較的楽な仕事やったわね
実は、この旅の帰りの道中にも、
- 海神ポセイドン(ΠΟΣΕΙΔΩΝ)の息子であるイアレビオンとデルキュノスが牛を奪おうとしてきたので、2人まとめてシバき上げる
- 1頭の牝牛が海に飛び込んでシシリーに泳ぎ渡ったことが、「イタリア」という地名の由来となる
※一部の人々は牝牛を「イタロス(Italos)」と呼んだとされることから - これまたポセイドンの子であるエリュモイ人の王エリュクス(Ἔρυξ)が牛をパクろうとしたので、3度の相撲勝負で負かしたうえで命を奪い、目的物を奪還する
- 結婚の女神ヘラ(Ἥρα)が牛の群れに虻を送り込み、トラキアの山の麓で散り散りとなって頭数を減らす
- ストリュモン河(Στρυμών)の流れを岩で塞いで道を切り拓く
といった、端折ってしまうには惜しい紆余曲折がありましたが、それはまた別のお話。
ギリシャ神話をモチーフにした作品



参考までに、「ギリシャ神話」と関連する
エンタメ作品をいくつかご紹介するよ!
おわりに
今回は、ギリシャ神話に登場する三位一体の怪物ゲリュオンについて解説しました。



見た目の設定もユニークで掘り下げ甲斐がありそうなのに、
そんな最期なのね…



彼らすらも蹂躙して突き進む、
ヘラクレスのヤバさが際立つってもんだね!
パパトトブログ-ギリシャ神話篇-では、雄大なエーゲ海が生み出した魅力的な神々や彼らの物語をご紹介していきます。
神さま個別のプロフィール紹介や神話の名場面をストーリー調で解説など、難しい言葉はできるだけ使わずに、あらゆる角度から楽しんでもらえるように持って行こうと考えています。
これからも「ギリシャ神話」の魅力をどんどんご紹介してきますので、良ければまた読んでもらえると嬉しいです!



また来てね!
しーゆーあげん!
参考文献
- ヘシオドス(著), 廣川 洋一(翻訳)『神統記』岩波書店 1984年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『イリアス 上』岩波書店 1992年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『イリアス 下』岩波書店 1992年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『オデュッセイア 上』岩波書店 1994年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『オデュッセイア 下』岩波書店 1994年
- アポロドーロス(著), 高津 春繁(翻訳)『ギリシア神話』岩波書店 1978年
- T. ブルフィンチ(著), 野上 彌生子(翻訳)『ギリシア・ローマ神話』岩波書店 1978年
- 吉田 敦彦『一冊でまるごとわかるギリシア神話』大和書房 2013年
- 阿刀田高『ギリシア神話を知っていますか』新潮社 1984年
- 大林 太良ほか『世界神話事典 世界の神々の誕生』角川ソフィア文庫 2012年
- 中村圭志『図解 世界5大神話入門』ディスカヴァー・トゥエンティワン 2020年
- 歴史雑学探究倶楽部『世界の神話がわかる本』学研プラス 2010年
- 沢辺 有司『図解 いちばんやさしい世界神話の本』彩図社 2021年
- かみゆ歴史編集部『マンガ 面白いほどよくわかる! ギリシャ神話』西東社 2019年
- 鈴木悠介『眠れなくなるほど面白い 図解 世界の神々』日本文芸社 2021年
- 松村 一男監修『もう一度学びたいギリシア神話』西東社 2007年
- 沖田瑞穂『すごい神話―現代人のための神話学53講―』新潮社 2022年
- 杉全美帆子『イラストで読む ギリシア神話の神々』河出書房新社 2017年
- 中野京子『名画の謎 ギリシャ神話篇』文藝春秋 2015年
- 千足 伸行監修『すぐわかるギリシア・ローマ神話の絵画』東京美術 2006年
- 井出 洋一郎『ギリシア神話の名画はなぜこんなに面白いのか』中経出版 2010年
- 藤村 シシン『古代ギリシャのリアル』実業之日本社 2022年
- 中村圭志『教養として学んでおきたいギリシャ神話』マイナビ出版 2021年
- かみゆ歴史編集部『ゼロからわかるギリシャ神話』イースト・プレス 2017年
- THEOI GREEK MYTHOLOGY:https://www.theoi.com/
他…