
こんにちは!
今回はギリシャ神話より狩猟の女神アルテミスを紹介するよ!



今回はオリュンポス12神の紹介ね
彼女はどんなキャラクターなの?



彼女は一般に太陽神アポロンの姉、月の女神として知られているけど、実際にはもっと様々な役割を担っていたんだ!



もともとはアポロンよりも古く、
その影響力も大きかったと言われておるぞぃ



ではさっそくいってみよう!
このシリーズでは、忙しいけど「ギリシャ神話」についてサクっと理解したいという方向けに、「かんたん・わかりやすい」がテーマの神々の解説記事を掲載していきます。
雄大なエーゲ海と石灰岩の大地が生み出した、欲望に忠実な神々による暴力的でありながらもどこかユーモラスな物語群が、あなたに新たなエンターテイメントとの出会いをお約束します。
人間味溢れる自由奔放な神々の色彩豊かで魅力的な物語に、ぜひあなたも触れてみてくださいね。
今回は、最高神ゼウスと母性の女神レトのあいだに生まれた双子の姉で、弟アポロンと共にあちこちで大暴れをかまし、後の時代には月の女神としても信仰を受けた狩猟乙女アルテミスをご紹介します!



忙しい人はコチラから本編にすっ飛びじゃ
この記事は、以下のような方に向けて書いています。
- ギリシャ神話にちょっと興味がある人
- ギリシャ神話に登場する神さまのことをざっくり知りたい人
- とりあえず誰かにどや顔でうんちく話をしたい人
- ギリシャ神話に登場する「狩猟の女神アルテミス」について少し詳しくなります。
- あなたのエセ教養人レベルが1アップします。
そもそも「ギリシャ神話」って何?
「ギリシャ神話」とは、エーゲ海を中心とした古代ギリシャ世界で語り継がれてきた、神々と人間の壮大な物語群です。
夏には乾いた陽光が降り注ぎ、岩と海とオリーブの木が広がる土地に暮らした人々は、気まぐれで情熱的、そして人間以上に人間らしい神々を生み出しました。
神々は不死である一方、人間と同じように嫉妬し、愛し、怒り、そしてときに残酷な運命に翻弄されます。
現代に伝わる物語の多くは、ホメロスの『イーリアス』『オデュッセイア』、ヘシオドスの『神統記』などの古代叙事詩を原典としています。
王族の愛憎劇に始まり、神々の争いや英雄たちの冒険、時に神と人間の禁断の関係まで——
あらゆる欲望と感情が渦巻くギリシャ神話の世界は、きっとあなたの心を掴んで離さないでしょう。


14世紀ギリシャの写本 PD
「ギリシャ神話」の全体像は、以下で解説しているよ!


狩猟の女神アルテミスってどんな神さま?
狩猟の女神アルテミスがどんな神さまなのか、さっそく見ていきましょう。



いくぜっ!
簡易プロフィール
正式名称 | アルテミス ΑΡΤΕΜΙΣ |
---|---|
名称の意味 | 不明 ※ギリシャ語以前の時代に起源をもつと考えられている |
その他の呼称 | ポイベー(Φοίβη) |
ラテン語名 (ローマ神話) | ディアナ(Diana) |
英語名 | ダイアナ(Diana) アルテミス(Artemis) |
神格 | 狩猟の女神 弓矢の女神 荒野の女神 野生動物の女神 出産の女神 処女の女神 貞潔の女神 子どもの女神 死と病の女神 月の女神 自然の女神 |
性別 | 女性 |
勢力 | オリュンポス12神 |
アトリビュート (シンボル) | 黄金の弓矢 狩猟用の槍 ひざ丈のスカート 狩猟用ブーツ 松明 毛皮 竪琴 月 糸杉 胡桃 アマランス 棕櫚(ヤシの木) 月桂樹 |
聖獣 | 鹿 熊 猪 ホロホロ鳥 ウズラ 魚 猟犬 |
直属の部下 | 星の精霊プレイアデス(Πλειάδες)ほか 自然界の精霊ニンフ(Νύμφη)たち |
敬称 | ヘカテーボロス(遠矢射る君) クリュセラカトス(金の矢そそぐ君) セラスフォロス(光明神) フォロメイラクス(少女を愛する神) ほか多数 |
主な拠点 | オリュンポス山 |
信仰の中心地 | エフェソスなど |
親 | 父:雷霆の神ゼウス(ΖΕΥΣ) 母:母性の女神レト(Λητώ) 母:豊穣の女神デメテル(ΔΗΜΗΤΗΡ)とも |
兄弟姉妹 | 光明の神アポロン(ΑΠΟΛΛΩΝ) ほか異母兄弟姉妹が多数 |
配偶者 | なし |
子孫 | なし |
対応する星 | 月(the Moon) ※ラテン語で「Luna」、ギリシャ語で「Selene」。後に月と関連付けられる。 |
由来する言葉 | ・「Artemisia」 :キク科の植物の1種ヨモギ属の学名。アルテミシア属。アルテミスの名称から。 ・アルテミス計画(Artemis program) :アメリカ航空宇宙局(NASA)による有人宇宙飛行(月面着陸)計画。アルテミスの名称から。 |
同一視 | 月の女神セレネ(Σελήνη) 魔術の女神ヘカテ(Ἑκάτη) 猫の女神バステト(Bastet) |
概要
アルテミスは、ギリシャ神話に登場する狩猟と月、そして貞潔を司る女神です。
彼女はそのほかにも、荒野と野生動物、出産と生まれてくる赤ん坊、突然訪れる死や病といった、さまざまな概念と関連付けられていました。
その名称の意味は現在でも明らかになっておらず、おそらくはギリシャ語が成立する以前の時代に起源をもつと考えられています。
古代美術におけるアルテミスは一般に、矢筒を背負い弓矢を携えた、若く美しく力強い狩人として描かれました。
彼女のお決まりのスタイルはひざ丈のスカートに狩猟用のブーツで、そのそばには、鹿や猟犬などの動物が付き従う姿もしばしば見られます。


『女狩人アルテミス』19世紀 PD
また、後に月の女神としての属性も獲得したアルテミスは、長いローブを身にまとい、三日月の冠を戴く姿で描写されることもありました。
生まれてきたら、そこは修羅場でした―
双子のとんでもない誕生秘話とは!?
女神アルテミスは、オリュンポスの支配者・雷霆の神ゼウス(ΖΕΥΣ)と母性の女神レト(Λητώ)の娘として誕生。
双子の弟には、光明の神アポロン(ΑΠΟΛΛΩΝ)が生まれています。
この姉弟の誕生の経緯というのが、ギリシャ神話のなかでも屈指の理不尽エピソードとして特に有名です。
ゼウスに一方的に見初められた母レトは、選択の余地もなくアルテミスとアポロンの双子をその身に宿しました。
しかし、その事実を知って嫉妬に狂った主神の正妻・結婚の女神ヘラ(Ἥρα)は、レトに対して地上のあらゆる場所での出産を禁じます。


『ゼウスとヘーラー』1597年 PD



いかなる理由でも、不貞行為は許さん…


臨月を迎え、満身創痍の状態で方々を彷徨った彼女は、ようやくヘラの規制の対象から外れた浮島オルテュギア(Ὀρτυγία)へとたどり着きました。
そこでも恐ろしい正妻の妨害は続きましたが、虹の女神イーリス(Ἶρις)や法の女神テミス(Θέμις)らの協力を得たレトは、神話史上最大クラスの難産を経て、ようやく第一子のアルテミスを出産。
彼女は生後すぐに、続いて生まれてくる弟アポロンを取り上げるのを手伝ったと伝えられています。
このことからアルテミスは、出産と新生児の守護を司る女神となり、母が味わった常軌を逸した苦しみを目の当たりにしたことで、自らは生涯にわたって純潔を貫く処女神として生きる決意を固めました。


『アポロとダイアナの誕生』1692年-1709年頃 PD



あの子、ちょ~っと誤解してるんだけど…
まぁ、仕方ないわよね~…
双子の詳しい誕生の経緯はコチラ!


もともと岩がちな浮島に過ぎなかったオルテュギアは、双子の神の誕生を受け入れたことで美しい黄金の光に包まれ、緑豊かな「デロス島」に生まれ変わったと伝えられています。


『ラトーナとその子供たちアポロとダイアナ』1769年 PD
天真爛漫かつ苛烈な乙女アルテミス!
幼い彼女が見せたその片鱗とは!?
色恋沙汰よりも野に出て狩りをすることを好んだアルテミスは、純潔を貫く乙女らしい、男を知らぬがゆえの、ある種の冷酷な厳しさをもつ女神でもありました。
彼女には、特に人間からの侮辱や不敬に対して、苛烈かつ容赦のない復讐で報いる激情家としての一面もあったと伝えられています。
ここでは、そんなお転婆なアルテミスが比類なき「才能」の片鱗を見せつけた、とある幼少期のエピソードをご紹介します。


『アルテミス』1879年 PD
これは、アルテミスがまだ、よちよち歩きの子どもだった時代のお話。
ゼウスの膝にちょこんと座った彼女は、父の顔を見上げてこう言いました。



ねぇパパ、私は一生処女を貫きたいから、
しょうもない縁談は持って来ないでちょうだい



少なくとも、弟のアポロンよりもたくさんの美称が欲しいわ



キュクロプスあたりに作らせた、上等な弓矢も欲しいわね



あと、私を弟と同じくらい
「光をもたらす女神」にして欲しいの



刺繍の縁取りがあしらわれた、
ひざ丈のミニスカートを履きたいとも思っているわ



あ、そうだ、それと野生の獣たちを狩る権利も必要だわね



そうね、それと私のための踊り手として、
60人の娘を揃えてちょうだい
あ、もちろん全員9歳で、処女であることが条件よ



それプラス~、侍女としてさらに20人必要ね!
狩猟用ブーツの手入れや、猟犬の世話係も
いないと困っちゃうものね



あとはね~、私は狩人だから、
ギリシャのすべての山々をちょうだい



最後に、パパのおすすめの町を私にちょうだい
どうせお産の手伝いくらいでしか里には下りないけれどね
それを聞いた父ゼウスは答えて曰く、



う~ん、さすがは我が娘
素晴らしき野心じゃ



お前には、1つどころか30の都市と30の塔を与えよう



さらに、街路と港の守護神としての
役割もおまけしちゃうぞ~☆
カリマコス『アルテミス讃歌第3番』1節以降より意訳
その後、20人の侍女と60人の合唱団を得たアルテミスは、宣言通り鍛冶の神ヘパイストス(Ἥφαιστος)の工房を訪ね、手伝いの単眼巨人キュクロプス(Κύκλωψ)たちをシバき上げて仕事を中断させ、自分のために立派な弓矢を作らせました。





アルテミスをあやそうと抱きかかえたブロンテス(Βροντης)は、
思いっきり胸毛を引きちぎられたんだよ




さらに、牧神パン(Πάν)から十数匹の猟犬を受け取り、戦車を牽かせるための黄金の角を持つ4頭の鹿を得た彼女は、新調した弓矢をあたり構わず試し打ち。
最初は木を狙っていたものが次は獣となり、最終的には人間たちまでもが試射のターゲットとなりました。
ひとしきり大暴れして、定命の者どもに処女神の恐ろしさを分からせたアルテミスは、ようやく満足してオリュンポスへと帰還。
その美しさゆえ、多くの神々が自分の隣に座るよう彼女を誘いましたが、男嫌いのアルテミスは、つんとした表情で弟アポロンの隣に腰を下ろすのでした。


『女狩人アルテミス』1550年 PD



確かに僕も大概だけどね☆
姉者のほうがよっぽど酷いってこと
が分かってもらえたかな?☆



ここから彼女のえげつない伝説が幕を開けるのね…
狩猟の女神のさまざまな役割
基本的には、弓矢を携え野山を駆け巡る狩人としてのイメージが強いアルテミス。
しかし彼女は狩猟以外にも、人間たちの生活に深く関わるあらゆる分野において、非常に重要な役割を果たしました。



アルテミスの役割をざっくりと押さえるわよ
自然全般に関わる女神
アルテミスが司るものといえば「狩猟」ですが、彼女はそれ以上に「野生」そのものや「野獣」たちの女神でもありました。
アルテミスは人間の子どもの守護女神であるのみならず、動物の子どもの守護神でもあると考えられていたのだそうです。
また、彼女はこうした「自然」と関連して、「森林火災」や「湖と泉」さらには「釣り」とも結びつけられました。
アルテミスは父ゼウスから「道路と港」の守護も命じられていましたが、これは彼女の、「荒野」と「漁業」の女神としての役割の延長であると考えられています。


『アルテミスの狩猟』1616年 PD
さらに、アルテミスはもともと、「暁」と「霜」の女神ともされていました。
彼女は、動植物の成長を促す光の女神であると同時に、農作物を枯らす冷たい自然の女神でもあったのです。



一見相反するようじゃが、「自然」という括りで見れば、
優しくもあり厳しくもあるのは当然かもしれんのぅ



夜明けの女神としての役割は、後に
暁の女神エオス(Ἠώς)に引き継がれたんだよ!


出産と子どもに関わる女神
生後数分で弟の出産に立ち会ったアルテミスは、お産と幼児の女神としても崇敬を受けました。
双子はそれぞれ子どもの守護神とも信じられ、女の子はアルテミスに、男の子はアポロンに捧げられたと言われています。
彼女は、結婚の女神ヘラ(Ἥρα)、出産の女神エイレイテュイア(Εἰλείθυια)と共にお産の現場に立ち会い、アルテミスが生まれてくる乳児を、ヘラとエイレイテュイアが母親を守護しました。



出会い方は最悪だったけど…



仕事は仕事よ、割り切りなさい



ヘラは「母乳」を司った一方、アルテミスは
「乳児」そのものの守護神だったそうよ


『野原にあるアルテミス』1739年 PD
アルテミスとアポロンの双子は、生まれてから成人するまでの、子どもたちの成長も見守ったと伝えられています。
アルテミスは水の精霊オケアニデス(Ὠκεανίδες)の力を借りて女の子を、アポロンは河神ポタモイ(Ποταμοί)の力を借りて男の子を守護しました。
双子の神を称える成人の儀式では、女の子はオケアニデスに、男の子は地元の川の神に一房の髪を捧げたと言われています。
少女が成人して結婚することになると、その女性はアルテミスの保護下から、ヘラまたは愛と美と性の女神アフロディーテ(ΑΦΡΟΔΙΤΗ)の庇護下に移りました。
結婚式では、幼少期にアルテミスから受けた守護への感謝として、彼女を宥める儀式が執り行われたのだそうです。



古代ギリシャ人の人生が、常に神々と共に
あったことがよく分かるお話だね!
突然死と病気に関わる女神
アルテミスは意外にも、幼児、少女、女性に突然の死と病をもたらす女神でもありました。
彼女は女性たちの守護者であると同時に、急に手のひらを反してくる破壊者でもあったのです。
例によって弟のアポロンは、男性に対して同様の役割をもちました。
この双子の姉弟は「光明」を司りましたが、それは必ずしもポジティブな側面ばかりではありません。


「光」は、時に隠しておきたいものを暴き立て、植物を枯らし、物を腐らせ、疫病を流行らせて生き物の命を奪います。
それゆえに彼らは、人々に恩恵を与えると同時に、彼らから奪い去って行く神格でもあったというわけです。



あんまりナメてると、泣き見まっせ…?



この繋がりで、「狂犬病」とも関連付けられたよ!
月と関わる女神
時代が下がって、弟のアポロンが太陽神ヘリオス(Ἥλιος)の役割を吸収していくと、アルテミスもまた月の女神セレネ(Σελήνη)と同一視されるようになりました。
古代ギリシャにおいて、妊娠の経過は太陰月で測定されたため、彼女はもともと「月」とも深く関連すると考えられていたようです。
さらに、ローマの詩人たちが活躍する時代に入ると、上記の2神に魔術の女神ヘカテ(Ἑκάτη)を加えた3女神が、三位一体で「月」の満ち欠けを司ると考えられるようになりました。


『夜空にあるアルテミス』1765年 PD
古代ギリシャ暦における「1ヶ月」は新月から始まり、10日間ごとの3つの期間に区分されたと言われています。
最初の10日間は上弦の月で、次の10日間が満月およびそれに近い月、最後の10日間が下弦の月という具合に分けられていたのだそうです。
人々は、祭日や1ヶ月のうちの吉日・凶日を、こうした「月」の周期に基づいて定めていました。
セレネ、アルテミス、ヘカテの3女神は、上記のような「月」のルーティーンに、以下の分担で関わったとされています。
時期 | 月の状態 | 担当者 |
---|---|---|
1~10日 | 上弦の月または三日月 | 狩猟の女神アルテミス(ΑΡΤΕΜΙΣ) |
11~20日 | 満月およびそれに近い状態 | 月の女神セレネ(Σελήνη) |
21日~30日 | 下弦の月または新月と闇夜 | 魔術の女神ヘカテ(Ἑκάτη) |







アルテミスとヘカテはよく似たファッションをしていたり、ペルセポネの遊び相手にアルテミスが登場したりもするのじゃ



このあたりは同一視の影響がちょいちょい出ているわね
その他の役割
女神アルテミスは、他にも以下のような役割を果たしたと考えられています。
- 乙女の踊りと歌
- 癒しと健康
※突然死と病をもたらす「光」のポジティブな側面として - 浄化の儀式
※人命が奪われるような凄惨な事件の穢れを清める - 祖国の守護神
- アマゾネスの守護女神
※女性だけで構成された、弓を操る伝説上の部族 - ヒュペルボレア人の守護女神
※神話上の部族
さらに彼女は、エジプト神話に登場する猫の女神バステト(Bastet)をはじめとした、世界各地の女神とも同一視されました。


『アルテミス』の神格まとめ
幅広い分野に影響力をもった女神アルテミス。
しかし、男性中心の古代ギリシャ社会において、彼女が重要な位置を占める神格として扱われることはありませんでした。


『森にあるニンフたちによって囲まれたアルテミス』19世紀頃 PD
なぜなら、アルテミスは処女神ですが、戦いの女神アテナ(Ἀθηνᾶ)のように男性を益することはほとんどなく、彼女は幼児や少女、童貞の少年など、「まだ正式な社会の一員ではない」*人々の守護を担当していたからです。
※古代ギリシャの価値基準です
また、アルテミスは文明社会とは距離を置いた未開や野生の女神でもあったので、彼女の神殿は、人間が住む領域と手つかずの自然との境界に建てられていました。
森の動物や乙女の処女など、アルテミスの管轄下にあるものを男どもが乱暴に奪い取ると、彼女はその相手に、苛烈で容赦のない反撃を加えたと言われています。



この「主流派」との距離感、筆者は個人的にとても好き



ごちゃごちゃしたところは嫌いじゃ、面倒くさい…
ところでアルテミスといえば、弟のアポロンとセットで語られることが多いイメージがありませんか。
しかし、実は彼女、元々はアポロンよりも強大で古い神格であったとされています。



実際、アルテミスが先に「姉」として生まれとるからのぅ
アルテミスが「野生」と「女性」を象徴するのに対し、アポロンは「文明」と「男性」を象徴しました。
自然より先に文明が興るわけはありませんし、女性がいなければ男性が生まれてくることはない、とも言えるわけですね。
※若干「鶏が先か卵が先か」論争になりそうではあるが
時代が下がるごとに立場が逆転したのは事実ですが、アポロン生誕の地として有名なデロス島は、元々はアルテミスの聖地だったのだそうです。
そして、古代世界で最も巨大かつ最も壮麗とされたエフェソスの神殿も、これまた女神アルテミスに捧げられたものでした。


出典:ニューヨーク公共図書館 PD
現代では、「太陽神アポロン」と「月の女神アルテミス」として並べられることの多い2神ですが、この設定も後代に付け加えられたもので、彼女は決して弟の影に隠れる力の弱い女神ではないのです。
要するにアルテミスは、誰かの力で立場を維持するようなたまではなく、バチバチに己の実力で崇敬を集める、正統派かつ実力派の神格だったということですね。



そんなことはね☆
30分一緒にいればわかるよ☆
あの我の強さって言ったら…☆



黙れ…
弟でもシバくぞ…
アルテミスが関わった主なストーリー



アルテミスの活躍を見てみよう!
女神アルテミスがどれほどに強烈な存在なのか、それはここまでの内容をお読みくださった皆さま方であれば、もうすでに嫌というほどお分かり頂けていることでしょう。
彼女は私たちの期待を決して裏切らず、神話の物語においても、「苛烈」「残酷」「理不尽」「冷酷」「凄惨」といったすべてのニーズを満たす、情け容赦のない大暴れをかましてくれています。


『アルテミスの水浴』1830年 PD



アルテミスの登場場面は非常に多いので、
ここではそれらをダイジェスト形式で紹介するぞぃ



それぞれの物語の詳細は個別記事で紹介しているから、
良ければそちらも見てみてね
巨人の狩人オリオンとの悲恋の物語
基本的には大の男嫌いで通しているアルテミスですが、そんな彼女も恋に落ちかけたことがありました。
そのお相手が、巨人の狩人オリオン(Ὠρῑ́ων)。
背が高く、精悍な顔つきをした美丈夫で、弓の腕前も一級品であった彼はすぐにアルテミスと意気投合し、共に狩りに出るようになります。
しかし、その様子が気に食わない弟のアポロンは、オリオンに猛毒の蠍をけしかけて沖合へと逃げるよう仕向け、姉のアルテミスには、海に浮かぶ彼の頭を射抜くようそそのかしました。
※遠すぎて正体が分からなかった
愛する人の命を奪ってしまったアルテミスは、オリオンを蘇らせるよう父ゼウスに泣きつきますが、その願いは叶わず。
彼の亡骸は天に上げられ「オリオン座(Orion)」となり、その死のきっかけとなった蠍もまた「さそり座(Scorpius)」に変じました。




「ウラニアの鏡」に描かれたオリオン座
1825年頃 PD


「ウラニアの鏡」に描かれたさそり座
1825年頃 PD
本当に偶然アルテミスの入浴現場を目撃した狩人アクタイオン、容赦なく消される
ある日、ボイオティアの猟師アクタイオン(Ἀκταίων)は、1日の狩りを終えて、ふらりと森の中を散歩していました。
すると彼は偶然にも、普段から女神アルテミスが水浴の場として利用している、とある泉のほとりを通りかかります。
非常に運が悪いことに、現場ではまさにその処女神が、狩猟の疲れを癒し汚れを清めるために、全裸になって泳ぎ回っているところでした。
もちろんアクタイオンには1ミリも悪意はありませんが、大嫌いな男に裸を見られた乙女アルテミスは即座に激高、言い訳する暇も与えずに彼を「鹿」の姿に変えてしまいます。
結局、アクタイオンは人間の言葉を発して弁解することもできずに逃げ回り、自分が飼っていた猟犬たちに食い尽くされるという末路を辿りました。




『ディアナとアクタイオン』1602年-1603年頃 PD



よく似た話に狩人シプロイテス(Σιπροίτης)が登場するけど、
彼は男性から女性に変えられるくらいで済んだみたいだね!



まぁ、それも大変っちゃ大変よね
母レトに子宝の数でマウントを取った人間、残酷な双子にシバき倒される
テーバイの王妃ニオベ(Νιόβη)は、母性の女神レト(Λητώ)とその子どもたち、アルテミスとアポロンを称える祭りの現場に現れ、「こんなくだらない儀式は取りやめよ」と命じます。
なんでも、子どもが2人しかいない女神レトよりも、7男7女の子宝に恵まれた自分の方が、よっぽど崇敬に値するという理屈のようです。
人間たちの振る舞いを悲しんだ母レトは、ニオベの言いぐさをアルテミスとアポロンの2人に愚痴りました。
双子は無言のまま地上へと降り、得意の弓矢でニオベの子どもたち全員の命を奪い去ってしまいます。
一瞬にして自慢の子宝を失ってしまったニオベは、悲しみのあまり動かなくなり、そのまま石に変じました。




-ニオベの子の命を奪うアルテミスとアポロン1591年 PD
不可抗力の事情があっても許さない、侍女カリストが追放された話
アルテミスの侍女の1人に、カリスト(Καλλιστώ)という名の乙女がいました。
彼女は主人と同様、一生涯にわたり純潔を貫くことを誓っていましたが、その一方でカリストは、神々の目を引くほどの美貌を誇る女性でもあったようです。
当然それは色情狂の最高神ゼウス(ΖΕΥΣ)の目に留まり、彼女は選択の余地もなく処女の誓いを破らされ、その身に新たな命を宿すこととなりました。
カリストの妊娠は水浴の際に発覚しますが、純潔が汚されたことに激怒した女神アルテミスは、彼女を即座に追放したとも、魔法で大熊の姿に変えたとも、自ら弓矢で射抜いたとも伝えられています。
アルテミスは、当然ながら今回も、本人に過失が無いことを考慮することはありませんでした。




『ユピテルとカリスト』1744年 PD
自分にだけ捧げ物がなかったことにぶちギレ!
カリュドーンの地に大猪を放つ!
カリュドーンの王オイネウス(Οἰνεύς)は、豊穣の年を祝って神々に盛大な犠牲を捧げることとし、豊穣の女神デメテル(ΔΗΜΗΤΗΡ)には穀物の初穂を、酩酊の神ディオニュソス(ΔΙΟΝΥΣΟΣ)にはワインを、戦いの女神アテナ(Ἀθηνᾶ)には聖なる木から採った油を贈りました。
しかし彼はもう1柱、犠牲を捧げるべき重要な神格、つまりアルテミスの存在をうっかり失念してしまいます。
自分だけのけ者にされたことに怒髪天を突く勢いで怒り狂った処女神は、カリュドーンの地に1頭の素晴らしく巨大な猪を放ちました。
その獣は葡萄やオリーブの木はもちろん、生い立ったあらゆる穀物を踏みにじり、現地を文字通りの大混乱に陥れます。
結局、王子メレアグロス(Μελέαγρος)や、俊足の女狩人アタランテ(Ἀταλάντη)といった数多くの英雄たちによって猪は討伐されますが、人間たちの世界には物理的な被害のほかにも様々な禍根が残されることとなりました。




『カリュドンのイノシシ狩り』1650年 PD
恋愛体質の川の神に惚れられるも、普通に拒否する
恋多き河神アルペイオス(Ἀλφειός)は女神アルテミスに恋をしていました。
伝説によると、どんなに説得しても彼女を妻に迎えることはできないと悟った彼は、力づくの強硬手段でアルテミスを我がものにせんと画策したそうです。
アルペイオスは、アルテミスとお供のニンフたちがレトリノイで夜通しの宴を開いているところに忍び込み、お目当ての女神を攫ってしまおうと考えました。
しかし、そんな浅はかな計画はすでにお見通し。
アルテミスとニンフたちは、全員が顔面に泥を塗りたくり、誰が誰なのかさっぱり分からないようにして対策をとったのです。
アルペイオスは群衆の中に加わりましたが、アルテミスと他の者を見分けることができず、すごすごとその場を立ち去るしかありませんでした。
また、アルテミスは、同じくアルペイオスに狙われた侍女のアレトゥーサ(Ἀρέθουσα)の逃亡を手助けをしたこともあります。




『アルフェウスとアレトゥーサ』1650年 PD
自分に忠実な奴にはたまに優しくする、
ヒッポリュトスを復活させた話
アテナイの王テセウス(Θησεύς)の息子ヒッポリュトス(Ἱππόλυτος)は、アルテミスに忠誠を誓い、生涯独身を貫くと宣言していました。
それだけならまだ良いのですが、若い彼は、愛と美と性の女神アフロディーテ(ΑΦΡΟΔΙΤΗ)を軽蔑し、彼女が神々のなかで最も卑しい存在であるとまでディスり倒してしまいます。
当然ながらぶちギレた愛の女神は、彼の継母であるアテナイの女王パイドラ(Φαίδρα)に呪いをかけ、親族間でドロドロの恋愛模様が繰り広げられるよう仕向けました。
ヒッポリュトスはこの修羅場の末に、馬に轢かれて命を落としてしまいますが、それを憐れんだアルテミスは、こっそりと医術の神アスクレピオス(Ἀσκληπιός)に相談。
特例的に復活したヒッポリュトスは、ウィルビウス(Virbius)と名を変えてイタリアへと逃れ、そこで新たな人生を送りました。
その一方、死せる者を蘇らせたという事実は、全く別の大騒動を引き起こしましたが、それはまた別のお話。




『ヒッポリュトスの死』1836年-1912年 PD
ギガントマキアで果敢に戦うも、
さすがにラスボスのテュポンからは逃げる
オリュンポスの王ゼウスと大地の女神ガイア(Γαῖα)の対立によって生じた、宇宙の支配権を賭けた大戦争「ギガントマキア(Γιγαντομαχία)」。
アルテミスはこの戦いで、得意の弓矢を用いて巨人族ギガンテス(Γίγαντες)のグラティオン(Γρατίων)またはアイガイオン(Αἰγαίων)を討伐しています。
しかしながら、最高神ゼウスと最大最強の怪物テュポン(Τυφών)が争ったラストバトルの際、ほとんどの神々は敵を恐れ、自身を動物の姿に変えてエジプトへと逃亡しました。
アルテミスの一家も例外ではなく、彼らはそれぞれ、
- レトは「尖鼠」に変身して蛇の女神ウアジェト(Wadjet)に、
- アポロンは「鷹」に変身して天空の神ホルス(Horus)に、
- アルテミスは「猫」に変身して猫の女神バステト(Bastet)または戦いの女神ネイト(Neith)
になったとも言われています。



あんな連中と心中する気はないわよね






『エジプトのオイディプス』に登場するテュポーンの挿絵1652年 PD
最後に、女神アルテミスが関わったその他のシーンを簡単にご紹介しておきましょう。
- 魔術の女神ヘカテとの同一視の関係で、豊穣の女神デメテルによる冥界の女王ペルセポネ(ΠΕΡΣΕΦΟΝΗ)の捜索に関わる
- 月の女神セレネとの同一視の関係で、カリアの羊飼いエンディミオン(Ἐνδυμίων)に恋して永遠の眠りを押し付ける
- 母レトを襲おうとした巨人ティテュオス(Τιτυός)をアポロンと共にシバく
- 調子に乗った双子の巨人アロアダイ(Ἀλωάδαι)をシバく
- 酩酊の神ディオニュソス(Διόνυσος)がインドに遠征して神々と対立した際、ヘラと戦って普通に負ける
ほか多数!!






『女狩人アルテミス』1624年-1630年 PD
ギリシャ神話をモチーフにした作品



参考までに、「ギリシャ神話」と関連する
エンタメ作品をいくつかご紹介するよ!
おわりに
今回は、ギリシャ神話に登場する狩猟の女神アルテミスについて解説しました。



なんとな~く「月の女神」って印象が強いけど、
むしろこれは後代の設定なのよね



お転婆で破天荒な元気娘のほうが
イメージに合っているかもね!
パパトトブログ-ギリシャ神話篇-では、雄大なエーゲ海が生み出した魅力的な神々や彼らの物語をご紹介していきます。
神さま個別のプロフィール紹介や神話の名場面をストーリー調で解説など、難しい言葉はできるだけ使わずに、あらゆる角度から楽しんでもらえるように持って行こうと考えています。
これからも「ギリシャ神話」の魅力をどんどんご紹介してきますので、良ければまた読んでもらえると嬉しいです!



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しーゆーあげん!
参考文献
- ヘシオドス(著), 廣川 洋一(翻訳)『神統記』岩波書店 1984年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『イリアス 上』岩波書店 1992年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『イリアス 下』岩波書店 1992年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『オデュッセイア 上』岩波書店 1994年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『オデュッセイア 下』岩波書店 1994年
- アポロドーロス(著), 高津 春繁(翻訳)『ギリシア神話』岩波書店 1978年
- T. ブルフィンチ(著), 野上 彌生子(翻訳)『ギリシア・ローマ神話』岩波書店 1978年
- 吉田 敦彦『一冊でまるごとわかるギリシア神話』大和書房 2013年
- 阿刀田高『ギリシア神話を知っていますか』新潮社 1984年
- 大林 太良ほか『世界神話事典 世界の神々の誕生』角川ソフィア文庫 2012年
- 中村圭志『図解 世界5大神話入門』ディスカヴァー・トゥエンティワン 2020年
- 歴史雑学探究倶楽部『世界の神話がわかる本』学研プラス 2010年
- 沢辺 有司『図解 いちばんやさしい世界神話の本』彩図社 2021年
- かみゆ歴史編集部『マンガ 面白いほどよくわかる! ギリシャ神話』西東社 2019年
- 鈴木悠介『眠れなくなるほど面白い 図解 世界の神々』日本文芸社 2021年
- 松村 一男監修『もう一度学びたいギリシア神話』西東社 2007年
- 沖田瑞穂『すごい神話―現代人のための神話学53講―』新潮社 2022年
- 杉全美帆子『イラストで読む ギリシア神話の神々』河出書房新社 2017年
- 中野京子『名画の謎 ギリシャ神話篇』文藝春秋 2015年
- 千足 伸行監修『すぐわかるギリシア・ローマ神話の絵画』東京美術 2006年
- 井出 洋一郎『ギリシア神話の名画はなぜこんなに面白いのか』中経出版 2010年
- 藤村 シシン『古代ギリシャのリアル』実業之日本社 2022年
- 中村圭志『教養として学んでおきたいギリシャ神話』マイナビ出版 2021年
- かみゆ歴史編集部『ゼロからわかるギリシャ神話』イースト・プレス 2017年
- THEOI GREEK MYTHOLOGY:https://www.theoi.com/
他…