
こんにちは!
今回はギリシャ神話より戦いの神アレスを紹介するよ!



今回はオリュンポス12神の紹介ね
彼はどんなキャラクターなの?



彼は主神ゼウスと神々の女王ヘラの息子として生まれたプリンスなんだけど、古代ギリシャ一の嫌われ者だったんだ!



戦争の凄惨さを象徴したばかりにそうなったのじゃが、
ローマ神話では見事な出世を果たしとるのじゃ



ではさっそくいってみよう!
このシリーズでは、忙しいけど「ギリシャ神話」についてサクっと理解したいという方向けに、「かんたん・わかりやすい」がテーマの神々の解説記事を掲載していきます。
雄大なエーゲ海と石灰岩の大地が生み出した、欲望に忠実な神々による暴力的でありながらもどこかユーモラスな物語群が、あなたに新たなエンターテイメントとの出会いをお約束します。
人間味溢れる自由奔放な神々の色彩豊かで魅力的な物語に、ぜひあなたも触れてみてくださいね。
今回は、最高神ゼウスと結婚の女神ヘラの間に誕生した超正統派プリンスボーイであるにも関わらず、「戦争」の血生臭く凄惨で暴力的な側面を司ったばかりに蛇蝎の如く憎まれ、あちこちの物語でボコボコにやられまくった古代ギリシャ一の嫌われ者・軍神アレスをご紹介します!



忙しい人はコチラから本編にすっ飛びじゃ
この記事は、以下のような方に向けて書いています。
- ギリシャ神話にちょっと興味がある人
- ギリシャ神話に登場する神さまのことをざっくり知りたい人
- とりあえず誰かにどや顔でうんちく話をしたい人
- ギリシャ神話に登場する「戦いの神アレス」について少し詳しくなります。
- あなたのエセ教養人レベルが1アップします。
そもそも「ギリシャ神話」って何?
「ギリシャ神話」とは、エーゲ海を中心とした古代ギリシャ世界で語り継がれてきた、神々と人間の壮大な物語群です。
夏には乾いた陽光が降り注ぎ、岩と海とオリーブの木が広がる土地に暮らした人々は、気まぐれで情熱的、そして人間以上に人間らしい神々を生み出しました。
神々は不死である一方、人間と同じように嫉妬し、愛し、怒り、そしてときに残酷な運命に翻弄されます。
現代に伝わる物語の多くは、ホメロスの『イーリアス』『オデュッセイア』、ヘシオドスの『神統記』などの古代叙事詩を原典としています。
王族の愛憎劇に始まり、神々の争いや英雄たちの冒険、時に神と人間の禁断の関係まで——
あらゆる欲望と感情が渦巻くギリシャ神話の世界は、きっとあなたの心を掴んで離さないでしょう。


14世紀ギリシャの写本 PD
「ギリシャ神話」の全体像は、以下で解説しているよ!


戦いの神アレスってどんな神さま?
戦いの神アレスがどんな神さまなのか、さっそく見ていきましょう。



いくぜっ!
簡易プロフィール
正式名称 | アレス ΑΡΗΣ |
---|---|
名称の意味 | 戦い 戦争 などを意味する古代の言葉とされる |
その他の呼称 | アレース アーレース エンヤリウス(Enyalius) ※「好戦的な」の意 |
ラテン語名 (ローマ神話) | マルス(Mars) |
英語名 | アレス(Ares) |
神格 | 戦争の神 戦闘の神 破滅の神 勇気の神 闘志の神 略奪の神 反乱の神 山賊の神 強盗の神 殺生の神 都市の守護神 |
性別 | 男性 |
勢力 | オリュンポス12神 |
アトリビュート (シンボル) | 槍 兜 盾 剣 戦士の武具 舵 トネリコ |
聖獣 | キツツキ メンフクロウ ハゲワシ ワシミミズク 雄鶏 羽を矢のように射る神話上の鳥 犬 狼 蛇 |
直属の部下 | 恐怖の神フォボス(Φόβος) 恐慌の神デイモス(Δεῖμος) 戦争の女神エニュオ(Ἐνυώ) |
敬称 | アンドレイフォンテス(男の命を奪う神) ギュナイコトイナス(女を喜ばす神) ミアイフォノス(血まみれの神) テイケシプレテス(都市を荒らす神) ほか多数 |
主な拠点 | オリュンポス山 |
信仰の中心地 | トラキア コルキス スパルタ ほか |
親 | 父:雷霆の神ゼウス(ΖΕΥΣ) 母:結婚の女神ヘラ(Ἥρα) |
兄弟姉妹 | 出産の女神エイレイテュイア(Ειλειθυια) 青春の女神ヘベ(Ἡβη) 鍛冶の神ヘパイストス(Ἥφαιστος) 他、異母兄弟が多数 |
配偶者 | なし(独身) または 愛と美と性の女神アフロディーテ(ΑΦΡΟΔΙΤΗ) アテナイの王女アグラウロス(Ἄγλαυρος) ギリシャの女性ぺロピア(Πελόπεια)またはピュレネ(Πυρήνη) アマゾンの女王オトレラ(Ὀτρηρή) 戦争の女神エニュオ(Ἐνυώ)とも ほか多数 |
子孫 | アフロディーテとの間に、 愛の神エロス(Ἔρως)とも 恐怖の神フォボス(Φόβος) 恐慌の神デイモス(Δεῖμος) 調和の女神ハルモニア(Ἁρμονία) 返愛の神アンテロス(Ἀντέρως) アグラウロスとの間に、 軍神の娘アルキッペ(Ἀλκίππη) ぺロピアまたはピュレネとの間に、 凶暴な盗賊キュクノス(Κύκνος) オトレラとの間に、 アマゾンの女王ペンテシレイア(Πενθεσιλεια) エニュオとの間に、 戦争の精霊エンヤリオス(Ενυαλιος)とも ※アレスの別名に過ぎないとする説も その他、 勝利の女神ニケ(Νίκη)とも 他、人間族の子孫が多数 |
対応する星 | 火星(Mars) :ローマ神話名のマルスより |
概要と出自
アレスはギリシャ神話に登場する戦いの神です。
彼は、オリュンポスの王・雷霆の神ゼウス(ΖΕΥΣ)と結婚の女神ヘラ(Ἥρα)の息子で、その兄弟姉妹には、出産の女神エイレイテュイア(Ειλειθυια)、青春の女神ヘベ(Ἡβη)、鍛冶の神ヘパイストス(Ἥφαιστος)が生まれています。
※ヘパイストスは、ヘラが単独で生んだとされる


ImageFXで作成











…あれ?
オリュンポス12神の1柱で「戦いの神」って、
他にもいなかったっけ…?
――仰る通り。
オリュンポスの神々にはもう1柱、戦いの女神アテナ(Ἀθηνᾶ)という神格がその名を連ねています。
一見するとキャラ被りしているようにも思えるこの2神ですが、アテナが「知恵」を司り、「軍略」や「兵法」を用いて戦う軍神であったのに対し、アレスは戦争の「荒々しさ」や「破滅的な側面」を象徴する存在とされました。
無益な殺生に飢えていて血を求める、「戦略」や「正義」「秩序」とは無縁の、残忍で獰猛な破壊の神――。
「戦い」のために戦い、あちこちで戦争の火種をばらまく、人間たちの命を奪い去ることが大好きな、純粋な暴力と残忍さの神――。
それが、軍神アレスの本質的な属性です。


『Mars between two Graces』1844年-1861年
出典:ニューヨーク公共図書館 PD
古代ギリシャの人々は、アレスが好むような無秩序でルールのない戦争を野蛮視する傾向にあったので、彼は自然と「嫌われ者」としてのキャラが定着し、神話の中でも戦いでボコボコにされる役回りばかりが押し付けられました。



アレスの「ボコボコにされ列伝」は、
後ほど詳しくご紹介するぞぃ



実際、彼に対する崇拝も神殿の数も、
それほど多くはなかったそうよ
多くの神々や人間たちに嫌われた、少し気の毒でもあるアレスですが、そんな彼を――主流ではないものの――盛大に称える古代の讃歌も存在します。
また、スパルタの人々はアレスの像に足枷をはめていましたが、これには



勝利をもたらす軍神アレスは、
鎖にでも繋いどかなすぐに逃げてまう!!



彼がスパルタ以外に行かんように、
こうするしかないんじゃぁ!!
という理由があったのだとか。
残虐で暴れん坊な戦神アレスも、そういう価値観の人々にとっては、勝利をもたらす助けの神で、敬意と愛を示す対象となったのでしょう。



万人受けとか、そういうサムいの最初っから狙ってねぇし…



分かる人には分かる、そういうのが一番カッケェんだから…


ImageFXで作成
基本的には、戦いに明け暮れてばかりのウォージャンキーな彼ですが、そんなアレスには他にも、家族や恋人を守るために戦いに身を投じる情の深い一面もありました。
古代ギリシャ美術におけるアレスは通常、戦闘に備えて全身を武装で固めた髭のある成熟した男性、あるいは兜と槍を装備した髭のない裸の青年として描かれます。
また彼は、時に聖獣である犬やハゲワシを従え、四頭立ての戦車を駆り、息子であり部下でもある恐怖の神フォボス(Φόβος)と恐慌の神デイモス(Δεῖμος)を引き連れる姿でも描写されました。
とはいえ、尖った戦士の兜や短いチュニック、胸当てや脛あてを身に着けたビジュアルは、標準的な古代ギリシャの戦士のそれとさほど変わらず、絵面だけでアレスを特定するのは非常に困難であったとされています。



誰も触れねぇから自分で言うけど、
ルックスは誰もが目を引かれるほどの美男だったんだぜ!
戦いの神のさまざまな役割
戦争の悲惨な側面を象徴し、基本的にはあまり人々から好かれることのなかった軍神アレス。
ここでは、彼が担った役割を改めて整理し、その概要をざっくりと押さえておきましょう。



とはいえ、結局はほぼほぼ「戦争」と
それによる「刃傷沙汰」に関わる神格よ


Canvaで作成
なんやかんや結局これ、「戦争」と「破壊」の神
軍神アレスは言わずもがな戦争の神であり、彼は軍隊の編成、その前進と結集、そして実際の戦いにおける戦術を統率しました。
アレスは、自ら軍隊を率いて戦場に赴き、通常は同志である争いと不和の女神エリス(Ἔρις)や戦争の女神エニュオ(Ἐνυώ)、直属の部下である恐怖の神フォボスと恐慌の神デイモスを従えたと言われています。



俺の名前は、「戦争」や「戦闘」の
同義語としても使われたんだぜ
戦いによって兵が戦死すると、その事実はしばしば「アレスに命を奪われた」と表現され、人々の亡骸はアレスの「血への渇望」を満たすとも考えられました。
彼は槍や剣、矢といった武器の擬人化として、複数の部族から崇拝の対象にされたとも伝えられています。
嫌になるくらい戦争ばかりを司ったアレスですが、その一方で彼は、”逆に”平和をもたらす神としても認識されました。
適切に宥めさえすれば、アレスはその国から戦争を遠ざけ、故郷が炎に包まれて荒廃するのを防いでくれると信じられたのだそうです。





「アレスが去る」=「平和の訪れ」とも解釈できるわけじゃな
略奪と防衛の神
アレスは都市を略奪して破壊する神であると同時に、その都市の守護神でもあると考えられていました。
伝説によると、テーバイ戦争が勃発した際、人々は都市を侵略から守るために、軍神アレスに対して人身御供を捧げたとも言われています。
このほか、アレスから授かった「紫色の髪の毛」が王国の統治を安泰にさせたという伝説や、彼の神殿に捧げられた金羊毛が都市の防衛に一役買ったという逸話も語られました。


『テーベ』1842年 PD
反乱と治安の神
アレスは内乱や暴動、反乱や蜂起の神としても知られています。
その一方、彼は同時に治安維持の神でもあり、古代の警察や武装警備隊の守護神としても崇敬を受けることがありました。
祖先の神、祖国の守護神
国家の祖先神とは、伝統的に他の神々よりも優先して崇拝されていた神々のことを指します。
アレスは意外にも、数多くの古代都市国家において、上記の立場で信仰を受けていました。
戦時には、これらの祖先神(≒アレス)が国家の防衛に招集されたと言われています。



意味合いとしては、「都市の守護神」とかなり近いかもな
軍神アレスはこの他にも、
- 盗賊と強盗の神
- 怒りと憎しみ、その結果としての暴力の神
- 殺生とその下手人の神
- 勇気と男らしさ、臆病と恐怖の神
- 戦車レースの神
- 火星の神
として、崇拝を受けたり恐れられたりしました。



「暴力的な衝動を抑えたい」と願う人々も、
あえてアレスに祈りを捧げたそうだよ!
嫌われ者の軍神アレス、『ローマ神話』に進出して大出世を果たす!
ここまでご紹介した通り、主に戦争にまつわる血なまぐさい、凄惨な事柄ばかりに関わって嫌われ者となってしまった、今回の主人公アレス。
そんな彼は、ローマ神話の軍神マルス(Mars)と同一視されたことで、ギリシャの神々のなかでもトップクラスの大出世を果たしています。
というのも、実はこのマルス神、ローマ建国の祖であるロムルス(Romulus)の父親とされているのです。
これによって、今まであちこちでボコボコにされるという冷遇を受けてきたアレスは、一躍大人気の高貴な神格として、一気に格上げの恩恵にあずかりました。



時代がやっと、おれに追いついたのよね


『戦争の惨禍』1637年–1638年 PD
また、アレスはエジプト神話に登場する地方神オヌリス(Onuris)*や、スキタイ人が崇拝した戦争の神とも同一視されたほか、トラキアの三大神の1柱にも数えられたと言われています。
※エジプト名は「アンフル(Anhur)」
アレスが関わった主なストーリー



アレスの活躍を見てみよう!
「戦いの残虐さ」の末路は決まっている!?
各地でボコボコにされる軍神アレス!!
古代ギリシャにおいて、基本的には嫌われ者として扱われ、物語のなかでもロクな目に遭っていない軍神アレス。
ここではそんな彼の、だんだん気の毒にもなってくる『ボコボコにされ列伝』をざっくりダイジェストで押さえてみましょう!



まったく迷惑な企画だぜ



お話の詳細は個別の記事で解説しているから、
良ければそちらも見てみてね!



なお、時系列順にはなっとらん個所もあるので、
そこらへんはゆるく受け取って欲しいぞぃ


『ウルカヌスに驚かされるマルストヴィーナス』1827年 PD
アレスと言えばこの話!?アフロディーテとの不倫が発覚し、晒し者にされて故郷へと逃げ帰る!
ほぼ強制的に鍛冶の神ヘパイストス(Ἥφαιστος)の妻とされた愛と美と性の女神アフロディーテ(ΑΦΡΟΔΙΤΗ)は、その処遇にまったく納得せず、性格はアレだけど見た目だけは美しい軍神アレスとの不貞行為に走ります。
しかし、彼らの不倫関係は太陽神ヘリオス(Ἥλιος)の密告によってすぐに発覚、怒ったヘパイストスは得意の鍛冶の技術を駆使して、2人を罠にはめるための復讐アイテムを制作しました。
そうとは知らず、今日も逢瀬を重ねるアレスとアフロディーテ。
2人がベッドになだれ込もうと腰かけると、ヘパイストスが仕掛けた見えない魔法の鎖が発動し、盛りのついた2柱の神をあられもない姿のまま、がんじがらめに拘束してしまいました。


『ウルカヌスに驚かされるヴィーナスとマルス』1555年頃 PD
アレスとアフロディーテの情事はオリュンポスの神々すべての知るところとなり、恥ずかしすぎる現場を目撃された軍神は、そそくさと故郷トラキアに逃亡したと伝えられています。




息子をそそのかして英雄ヘラクレスに喧嘩を売る軍神、
親子そろってボコボコにぶっ飛ばされる
アレスの息子である凶暴な盗賊キュクノス(Κύκνος)は、光明の神アポロン(ΑΠΟΛΛΩ)の聖域とされた森を拠点として山賊まがいの略奪を行い、周辺の人々を恐れさせていました。
ある日、そんな彼の活動領域を、半神の英雄ヘラクレス(Ηρακλής)が率いる旅の一行が通りかかります。
アレスは息子キュクノスをそそのかし、2人揃ってヘラクレスを討伐して、その所持品をすべて奪ってやろうと画策しました。
かくして、正面切って相対する両陣営――。
しかし、さまざまな難行をクリアしてきた苦労人の英雄の側には、アポロン神や戦いの女神アテナ(Ἀθηνᾶ)、鍛冶神ヘパイストスといった面々が味方に付いていました。
キュクノスはヘラクレスの槍の一撃を受けて即座に絶命。
アレスも英雄の攻撃を太ももにくらい、直属の部下である恐怖の神フォボス(Φόβος)と恐慌の神デイモス(Δεῖμος)に担がれ、すごすごとオリュンポスに逃げ帰ったと伝えられています。




わずか9歳の巨人の双子に負けた軍神、
13ヶ月ものあいだ監禁されて普通に死にかける
アロアダイ(Ἀλωάδαι)と呼ばれた双子の巨人エピアルテス(Εφιαλτης)とオトゥス(Ωτος)は、9歳になった記念に、オリュンポスの神々全員に喧嘩を売ることに決めました。
当然ながら最終的には敗北し、厳しい罰を受けることになるこの兄弟ですが、実は彼ら、軍神アレスをボコボコにシバきあげ、鎖で縛って13ヶ月ものあいだ青銅の壺に監禁するという戦果をあげています。
アレスはその状態で普通に死にかけ、本当に危ないところを伝令の神ヘルメス(Ἑρμῆς)によって密かに救出されました。
なお、この戦いで目に見えた形での敗北を喫したのは、我らが戦いの神アレスのみとされています。



余計な補足はいらねぇんだよ




-左側のエフィアルテスを含むティターン神と巨人 1856年 PD
『トロイア戦争』でイキり散らかすも、人間にボコられて敗走し、
父親からもディスられる
古代ギリシャ地域の人類を二分した未曽有の大戦、『トロイア戦争』。
軍神アレスは当初、母ヘラや女神アテナと共にギリシャ陣営の味方をすると約束していましたが、結局はアフロディーテに説得され、トロイア側に寝返っています。
彼は、いつも通りアテナにボコボコにされて敗北を喫したほか、彼女の加護を受けた英雄ディオメデス(Διομήδης)に槍で脇腹を貫かれ、兵士1万人分の悲鳴を上げながらオリュンポスへと敗走しました。
その際、父ゼウスに泣きついたアレスは



う~ううう、あんまりだ…
HEEEEYYYY!あんまりだアアアア!



もう少し遅かったら、不死の神たるこの俺が
マジで死ぬとこだったじゃねぇかぁぁぁぁ!!!
と泣きわめき、その様子にうんざりした主神が、



ビービー泣くなや、この無節操な軟弱者が!



わしゃぁオリュンポスの神々のなかで、
お前がいっちばん嫌いなんじゃ



お前はことあるごとに「戦争」だの「喧嘩」などと……
ほんにしょうもない!!



だいたいお前はなぁ……
と、アレスを散々にディスり倒したうえで、終わらない説教をかましたと伝えられています。



ちーん


『トロイアの木馬の行進』1760年 PD
アレスは他にも、
- 母ヘラとトラブったヘパイストスを力づくで呼び戻そうとするも、燃え盛る金属片の雨に襲われるという罠にかかり、見事に撃退される
- ピュロスの戦いで英雄ヘラクレスと対峙し、その攻撃を3度防ぐも、4度目に太ももを貫かれて敗走
- 最初のオリンピック競技祭が開催されたとき、アポロンにボクシングの試合を挑んで普通に敗北
- ヘラの恨みを買った母性の女神レト(Λητώ)の追放を命じられるも、最終的に出産妨害の任務には失敗する
- ニンフのタナグラ(Τανάγρα)をめぐって伝令神ヘルメスと殴り合いの喧嘩をするも、普通に敗北する
など、数多くの敗北エピソードを残しています。



「トロイア戦争」の中だけでも、
結構な数の逸話があるんだぜ~
ボコボコにされるばかりじゃない、
たまには普通に役割も果たす軍神アレス!!
最後に、アレスが登場して比較的まともな役割を果たした、非常に珍しく数少ないいくつかの逸話を、ざっくりダイジェストでご紹介しておきます。
愛人または妻の関心を奪われた軍神、こっそりと報復行為に参加する
あるとき、アレスの愛人または妻である女神アフロディーテは、アッシリアの王子アドニス(Ἄδωνις)という美少年に夢中になります。
2人は、1年のうち3分の2の期間を共に過ごすほどのラブラブっぷりを見せつけますが、同じくアドニスに恋をしていた冥界の女王ペルセポネ(ΠΕΡΣΕΦΟΝΗ)が、その事実をアレスに密告。
怒った軍神は獰猛な猪の姿に変身して現地を訪れ、狩りを楽しむ美しいアドニスの脇腹に一撃を加え、その命を奪ったと言われています。




1684年-1686年 PD
真面目にお勤めを果たした王に娘を嫁がせる軍神、
最後は苦労ばかりの娘夫婦を楽にしてあげる
アレスの聖域を汚したテーバイの王カドモス(Κάδμος)は、8年に及ぶ償いの日々を真面目に勤め上げ、その褒美として軍神とアフロディーテの娘である調和の女神ハルモニア(Ἁρμονία)を妻に迎えます。
しかし彼女は、結局は誰かを不幸にする不貞関係の末に生まれてきた、いわゆる不義の子。
各方面の神々から、いわれのない恨みや憎しみを買っていました。
それも関係してか、カドモスとハルモニア自身もその子どもたちも、普通では経験しないようなヘビーな苦労を味わい、大部分が不幸な最期を迎えます。
完全に疲れ果ててしまった娘夫婦を憐れんだアレスは、彼らを蛇の姿に変え、死後の楽園エリュシオン(Ἠλύσιον)へと導き平和な暮らしを与えたと伝えられています。
※アレスの怒りが鎮まっていなかったため、蛇に変えられたとする説も






『竜と戦うカドモス』1500年 PD
娘の貞操の危機を救った父アレス、世界初の裁判に被告人として出廷し、見事に無罪を勝ち取る!
アレスの娘の一人アルキッペ(Ἀλκίππη)は、以前からしつこく言い寄って来ていた海神ポセイドン(ΠΟΣΕΙΔΩΝ)の息子ハリロティオス(Ἁλιρρόθιος)から、強引に襲われてしまいます。
しかし、偶然現場に居合わせた父アレスがハリロティオスを成敗し、乙女アルキッペはすんでのところでその純潔を守ることができました。
それはそれでよかったのですが、オリュンポス12神の1柱・ポセイドンの息子の命を奪ったとあっては、話が簡単に終わるはずもありません。
そこで、古代ギリシャの歴史上初めての裁判が行われ、被告人として出廷したアレスは、見事に無罪判決を勝ち取りました。
審理が行われたその丘には、「アレスの丘」を意味する「アレオパゴス(Άρειος Πάγος)*」という名が付けられ、古代ギリシャの人々はそこで、様々な重大事件の裁判を行ったと言われています。
※「アレイオパゴス」または「アレイオス・パゴス」とも表記




出典:O.Mustafin CC0 1.0
単なる不満から冥界を訪れた軍神、死の神を救い「世界の理」を元に戻す
ある日、凄惨な戦争を引き起こして、人間たちが血で血を洗う戦いを繰り広げる様子を、楽しそうに眺めていた軍神アレス。
しかし彼は、人々がいくら戦おうとも、一向に一人の犠牲者もでないことに違和感を覚えます。
アレスが冥界の様子をうかがいに行くと、そこには、コリントスの王シシュポス(Σίσυφος)に騙されて拘束を受けた、死の神タナトス(Θανατος)の姿が――。
「死」の概念そのものが捕縛されて、その機能を果たせなくなっていたので、あらゆる人類が事実上、死を免れた状態となっていたわけです。
アレスは身動きが取れなくなっていたタナトスを解放し、改めてシシュポスの身柄を、死の神の手に引き渡しました。
本人は楽しみを邪魔されて文句を言いに行っただけなのですが、結果的には「世界の秩序」が維持されることとなった、何ともシュールな物語です。



バンバン死人が出ねぇと戦いは面白くねぇだろ
しゃきっと仕事してくれや~






『眠りと死、夜の子供たち』1883年 PD
ギガントマキアで果敢に戦うも、
さすがにラスボスのテュポンからは逃げる
オリュンポスの王ゼウスと大地の女神ガイア(Γαῖα)の対立によって生じた、宇宙の支配権を賭けた大戦争「ギガントマキア(Γιγαντομαχία)」。
アレスはこの戦いで、巨人族ギガンテス(Γίγαντες)のミマス(Μίμας)*を討伐しています。
※ミマスはヘパイストスが倒したとする説も



ちなみに、その前の戦いである「ティタノマキア(Τιτανομαχία)」でも、アレスはそれなりの活躍を果たしているわよ



そこをもっと詳しく紹介せんかい
しかしながら、最高神ゼウスと最大最強の怪物テュポン(Τυφών)が争ったラストバトルの際、ほとんどの神々は敵を恐れ、自身を動物の姿に変えてエジプトへと逃亡しました。
軍神アレスもその例にもれず、彼はレピドトス(lepidotus)という名の魚*の姿に変身して敵前逃亡をかましたと伝えられています。
※先述のエジプト神オヌリス(Onuris)と関連付けられた聖なる魚






『エジプトのオイディプス』に登場するテュポーンの挿絵1652年 PD
アレスは他にも、
- 人間の娘アエロペ(Ἀερόπη)と恋に落ち子をもうけるも、彼女は出産の際に死亡。乳を欲しがる息子のために、しばらくアエロペの亡骸から母乳がでるようにしてやる
など、意外と家族思いなところがある一面も見せています。
ギリシャ神話をモチーフにした作品



参考までに、「ギリシャ神話」と関連する
エンタメ作品をいくつかご紹介するよ!
おわりに
今回は、ギリシャ神話に登場する戦いの神アレスについて解説しました。



まぁ、知ってはいたけど、結構かわいそう
になるレベルの嫌われっぷりだったわね



「戦争の悲惨さ」の象徴だから、負けてもらわないと困る
ボコボコにされて退散するまでが、彼の役割だったのかもしれないね!
パパトトブログ-ギリシャ神話篇-では、雄大なエーゲ海が生み出した魅力的な神々や彼らの物語をご紹介していきます。
神さま個別のプロフィール紹介や神話の名場面をストーリー調で解説など、難しい言葉はできるだけ使わずに、あらゆる角度から楽しんでもらえるように持って行こうと考えています。
これからも「ギリシャ神話」の魅力をどんどんご紹介してきますので、良ければまた読んでもらえると嬉しいです!



また来てね!
しーゆーあげん!
参考文献
- ヘシオドス(著), 廣川 洋一(翻訳)『神統記』岩波書店 1984年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『イリアス 上』岩波書店 1992年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『イリアス 下』岩波書店 1992年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『オデュッセイア 上』岩波書店 1994年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『オデュッセイア 下』岩波書店 1994年
- アポロドーロス(著), 高津 春繁(翻訳)『ギリシア神話』岩波書店 1978年
- T. ブルフィンチ(著), 野上 彌生子(翻訳)『ギリシア・ローマ神話』岩波書店 1978年
- 吉田 敦彦『一冊でまるごとわかるギリシア神話』大和書房 2013年
- 阿刀田高『ギリシア神話を知っていますか』新潮社 1984年
- 大林 太良ほか『世界神話事典 世界の神々の誕生』角川ソフィア文庫 2012年
- 中村圭志『図解 世界5大神話入門』ディスカヴァー・トゥエンティワン 2020年
- 歴史雑学探究倶楽部『世界の神話がわかる本』学研プラス 2010年
- 沢辺 有司『図解 いちばんやさしい世界神話の本』彩図社 2021年
- かみゆ歴史編集部『マンガ 面白いほどよくわかる! ギリシャ神話』西東社 2019年
- 鈴木悠介『眠れなくなるほど面白い 図解 世界の神々』日本文芸社 2021年
- 松村 一男監修『もう一度学びたいギリシア神話』西東社 2007年
- 沖田瑞穂『すごい神話―現代人のための神話学53講―』新潮社 2022年
- 杉全美帆子『イラストで読む ギリシア神話の神々』河出書房新社 2017年
- 中野京子『名画の謎 ギリシャ神話篇』文藝春秋 2015年
- 千足 伸行監修『すぐわかるギリシア・ローマ神話の絵画』東京美術 2006年
- 井出 洋一郎『ギリシア神話の名画はなぜこんなに面白いのか』中経出版 2010年
- 藤村 シシン『古代ギリシャのリアル』実業之日本社 2022年
- 中村圭志『教養として学んでおきたいギリシャ神話』マイナビ出版 2021年
- かみゆ歴史編集部『ゼロからわかるギリシャ神話』イースト・プレス 2017年
- THEOI GREEK MYTHOLOGY:https://www.theoi.com/
他…