
こんにちは!
忙しい人のための神話解説コーナーだよ!
この記事では、忙しいけど北欧神話についてサクっと理解したいという方向けに、『エッダ』をベースにした神話のメインストーリーをざっくりとご紹介していきます。
とりあえず主だった神々の名前と、ストーリーラインだけ押さえておきたいという方向けのシリーズとなります。
個々の神さまについての詳細は個別記事で解説していますので、良ければそちらもご覧ください。



とりあえず大まかな流れをつかむというコンセプトじゃ
補足情報は【Tips】として解説しとるが、
読み飛ばしても全然OKじゃぞ



関連記事のリンクを貼っているから、
気になった方はそちらもチェックしてね



ではさっそくいってみよう!



忙しい人はコチラから本編にすっ飛びじゃ
この記事は、以下のような方に向けて書いています。
- 北欧神話にちょっと興味がある人
- 北欧神話に登場する神さまのことをざっくり知りたい人
- とりあえず誰かにどや顔でうんちく話をしたい人
- 北欧神話のメインストーリーをざっくりと把握できます。
- あなたのエセ教養人レベルが1アップします。
まじで忙しい人のための結論
本気で忙しいあなたのために、今回ご紹介する物語のストーリーラインを、箇条書きでざっくりまとめておきます。



ぱっと見で把握してね



何ならここを読むだけでもOKじゃぞ
今回ご紹介する『神々の時代』のストーリー
- 初期のアースガルズを黄金の女神グルヴェイグ(Gullveig)が訪れ、神々のあいだで「セイズ呪術」を流行させる。
- 悪徳を蔓延させたとしてアース神族はグルヴェイグを3度処刑し、これがきっかけでヴァン神族との間で戦争が起こる(ヴァン戦争)。
- アース神族とヴァン神族は和解し、人質として富と豊穣の神ニョルズ(Njǫrðr)、豊穣の神フレイ(Frey)、愛と美の女神フレイヤ(Freyja)がアースガルズにやって来る
- 最高神オーディン(Óðinn)と義兄弟の契りを結んだ狡知の巨人ロキ(Loki)が、神々に大槍グングニル(Gungnir)や大槌ミョルニル(Mjölnir)などの宝物をもたらす。
- 「ロキの子どもたちが災いをもたらす」という予言を信じたオーディンが、大蛇ヨルムンガンド(Jörmungandr)と冥界の女王ヘル(Hel)を追放し、巨狼フェンリル(Fenrir)をアースガルズに拘留する。
- アースガルズの城壁を造るという鍛冶屋の仕事を妨害した神々は、成果物だけを没収し、その過程で駿馬スレイプニルが誕生する。
そもそも「北欧神話」って何?
「北欧神話」とは、北ヨーロッパのスカンジナヴィア半島を中心とした地域に居住した、北方ゲルマン人の間で語り継がれた物語です。
1年の半分が雪と氷に覆われる厳しい自然環境の中で生きた古代の人々は、誇り高く冷徹で、勇猛で死もいとわない荒々しい神々を数多く生み出しました。
彼らの死生観が反映された「北欧神話」の物語は、最終戦争・ラグナロクによって、神も人間もあらゆるものが滅亡してしまうという悲劇的なラストを迎えます。
現代の私たちが知る神話の内容は、2種類の『エッダ(Edda)』と複数の『サガ(Saga)』という文献が元になっています。
バッドエンドが確定している世界でなおも運命に抗い、欲しいものは暴力や策略を用いてでも手に入れる、人間臭くて欲望に忠実な神々が引き起こす様々な大事件が、あなたをすぐに夢中にさせることでしょう。


「北欧神話」の全体像は、以下で解説しているよ!


主な登場人物



この物語の登場人物(神)をざざ~っと挙げておくぞい
詩篇2:神々の時代、狡神の来訪
―前回までのあらすじ
原初の混沌には巨大な裂け目ギンヌンガガップ(Ginnungagap)と氷の世界ニブルヘイム(Niflheim)、炎の世界ムスペルヘイム(Múspellsheimr)だけが存在しました。
やがて、ニブルヘイムから吹き付ける冷たい寒気と、ムスペルヘイムから昇ってきた熱い蒸気がぶつかり合い、近くの氷が溶けだして一滴の雫がこぼれ、そこから原初の巨人ユミル(Ymir)が誕生します。
牝牛のアウズフムラ(Auðhumla)に養育されたユミルは成長し、単独で複数の霜の巨人を生みました。
一方、アウズフムラが舐める氷の中からはアース神族の祖ブーリ(Búri)が誕生、彼も彼で子孫を増やしていきます。
ブーリの息子ボル(Borr)と巨人族の娘ベストラ(Bestla)が結婚し、2人の間には最高神オーディン(Óðinn)とヴィリ(Vili)、ヴェー(Vé)の3兄弟が誕生しました。
賢く野心的な神さまに成長した3兄弟は巨人族を疎んじるようになり、ついにユミルを討伐。
その肉体を余すことなく利用して天地を創造しました。
神々は岸に流れ着いた木を刻んで1組の男女を生み出し、ミズガルズ(Miðgarðr)へと送って人間族の祖とします。
こうして、ついに北欧神話の世界が形成されました。



今回は、アース神族を中心とした神々の活躍が描かれるわよ



この時点から「滅亡」の種まきをしている
チャーミングな神々が登場するよ!
お知らせ
ご紹介している「北欧神話」の物語は、『古エッダ』や『スノリのエッダ』を原典としますが、これらは必ずしも物語順には描かれていません。
もともとは、それぞれが口頭で語られた単独の「詩」なので、「出来事」や「神々のプロフィール」単位で配置されており、物語の時系列が明示されているわけではないのです。
そのため、文献や登場人物の状況、アイテムの所持状況から時系列を推定する必要があるのですが、これがなかなか難しい…



例えば以下のような感じじゃ
- ヴァン戦争でオーディンが投げたのがグングニルなら、それがもたらされた場面にヴァン神族のフレイがいるのは矛盾する
※普通の大槍だったとする説もある - ヴァン戦争のきっかけとなったグルヴェイグを貫いたのがグングニルなら、これまた順番が前後する
※この場合の「槍」は、集団での暴行の暗喩とする説もある
などなど…
どうにかまとめようとした筆者は発狂しかけたので、このシリーズでは、
- できるだけスムーズに理解しやすい
- 可能な限り矛盾が生じない、納得しやすそうな
流れで物語をご紹介しています。



序盤と終盤のメインストーリーは固まってるけど、
それ以外は自由度が高いオープンワールドゲーみたいなもんかな



だから難しいツッコミはしないでね☆
アース神族、さっそく他種族と戦争をするも最終的に和解する
昔、オーディンをはじめとする神々が、アース神族の世界アースガルズ(Ásgarðr)に暮らし始めて間もない頃のことです。
まだ未完成の国とは言え、そこでの生活は明るく華やかで、皆が幸福に満ち足りていたそうな。
神々は豪華な首飾りや指輪・衣装を身に着け、彼らが住む家もまた黄金や宝石できらびやかに飾られていました。
あらゆる宝飾品が、アース神族の住む世界を明るく輝かせていたと言われています。



この時点からダメになりそうな感はある


そんなある日、平和なアースガルズに、グルヴェイグ(Gullveig)と呼ばれるひとりの女性がやってきました。
彼女は、性的な快楽を伴う魔術「セイズ呪術」を、アース神たちの間で流行らせるために現れたのだと言われています。
グルヴェイグは時にヘイズル(Heiðr)と名乗り、家々を回って得意の魔法を披露しては、「セイズ呪術」を普及していきました。



これ、めっちゃ良いから
アース神族の女神たちはその快感にコロッと溺れてしまい、さらにはその貪欲な心を掻き立てられ、アースガルズには次第に不穏な空気が蔓延します。
また、他の神々もグルヴェイグの力ゆえか「黄金」への欲望に憑りつかれてしまい、彼らの心は日に日に荒んでいきました。
事態の悪化を憂えたアース神族の神々は、問題の根本的な原因がグルヴェイグにあると結論付けます。



ぜ~んぶ、あの女が悪い!



何でもかんでもわしのせいにして!
あんたらの自重のなさも大概やで!
神々は協議の末、「セイズ呪術」をもたらした余所者の魔女を処刑することに決定しました。
グルヴェイグは身柄を拘束され、オーディンらに取り囲まれて、槍でその身を貫かれます。
しかし彼女の魔力は非常に強く、不死身に近い肉体をもっていたため、なんとグルヴェイグはあっという間に息を吹き返してしまったのです。
結局彼女は3度も槍で刺されたうえ、3度も炎で焼かれる羽目になりました。


-グルヴェイグの処刑 1895年 PD



この「不死身」要素は、人間の「黄金」に対する
飽くなき欲望を表すとも言われているよ!
グルヴェイグはその後どうにか生き残ったとも、さすがに肉体は灰となって消えたが心臓だけはピンピンして残り、ロキによって食べられてしまったとも伝えられています。


しばらくして後、アース神族の神々はグルヴェイグがヴァン神族の一員であることを知りました。
身内をボコボコにされた先方の神々が激しく怒り、集団でアースガルズにやって来て賠償金を要求してきたのです。
ヴァン神族と言えばアース神族にも匹敵するほどの力をもつ神々で、特にその魔術の腕前はオーディンたちをも凌いだと言われています。
とはいえアース神たちにも、ヴァン神族がもたらした「セイズ呪術」によって、一族が侮辱されたという怒りがありました。
当然ながら交渉は決裂、オーディンが大槍を敵陣に向けて投げつけると、ここに世界で最初の戦争の火蓋が切られます。



この戦いは「ヴァン戦争」とも呼ばれるぞぃ


-戦いの始まりに槍を投げるオーディン 1895年 PD
戦いはヴァン神族がやや優勢で、まだ防備の薄かったアースガルズの城壁はたびたび彼らによって破壊されたと言われています。
対立は長きに渡り、一向に決着がつく様子もなかったことから、両陣営の神々は次第にこの不毛な戦争に嫌気が差してしまいました。
そこで、双方が互いに人質を出して交換することで、この件を手打ちにするという話が成立します。
アース神族からは知恵の巨人ミーミル(Mímir)と謎のアース神ヘーニル(Hœnir)が、ヴァン神族からは富と豊穣の神ニョルズ(Njǫrðr)と息子の豊穣の神フレイ(Frey)、娘の愛と美の女神フレイヤ(Freyja)が人質として送られました。


こうしてヴァン神族とアース神族の和解が成立し、人質として送り出されたヴァン神たちは以後、基本的にはアース神の一員として活躍することになります。
ここからの神々は、基本的にはやりたい放題。
勇敢な戦士の魂を手に入れるために、人間の世界に争いと不和の種を蒔き散らす神もいれば、宝飾品欲しさに他種族に身体を許す女神も現れます。




狡知の巨人ロキの来訪、義兄弟の契りと神器の数々
こうして北欧神話の物語を彩る主要な面々が揃い踏みしましたが、もう一人、決して忘れてはならない重要なキャラクターが存在します。
それが、狡知の巨人ロキ(Loki)。
霜の巨人ファールバウティ(Fárbauti)とラウフェイ(Laufey)またはナール(Nál)のあいだに生まれた彼は生粋の巨人族ですが、いつの頃からかアースガルズに出入りするようになり、主神オーディンとも義兄弟の契りを結びました。


-魚網を持つロキ PD
そのため、私たちが知る神話の物語では、ロキは基本的にアース神族の一員として描かれています。
彼の無軌道で予測不可能な行動は神々に害悪を及ぼすこともありましたが、逆にアース神たちに貴重な宝物をもたらすこともありました。
ここでは、「トリックスター」とも呼ばれたロキの、初期における活躍(?)を見てみましょう。
ある日、雷神トール(Þórr)が不在のあいだに、その妻シヴ(Sif)が1人で眠っていた時のこと。
すやすやと眠る彼女の枕元に、何やら不審な人影が現れます。
その正体は狡知の巨人ロキ。



グヒヒ…
こりゃおもろいコトになるで…
彼は何を思ったのか、シヴが眠っている隙に、その美しい金髪を根元からまるごと刈り上げてしまいました。


『ロキがアスガルドに悪事を働いた経緯』1920年 PD
太陽を浴びると黄金のようにきらきらと輝く、まさに「豊穣」の象徴ともいえる彼女の金髪は、本人のみならず夫のトールにとってもこの上ない自慢です。
それを一夜にして失ったとあっては、被害者であるシヴが冷静でいられるはずもありません。



なんじゃこりゃぁぁ!!!!!!
かつて不祥事を起こした某アイドルのような姿になってしまった彼女は、帰宅した夫に泣きついてその被害を訴えました。



なんじゃこりゃぁぁ!!!!!!



こんなふざけた真似すんのはロキ以外におらんやろけ!!



あんだらぁ、骨一本残らずへし折っちゃるけんのぅ!!
美しい妻の美しい金髪を台無しにされて怒り狂ったトールは、勢いそのままに外に飛び出して、犯人であろうロキを探します。
特にこれといったエピソードもなく標的を発見した雷神は、骨ごと握りつぶさんばかりの力でロキの腕をむんずと掴み、何か心当たりはないかと彼を問い詰めました。



アダダダダダダ!!!
悪かった、悪かった!!!



どうにかして代わりの髪を見つけるから!!
少しばかり待ってくれぃ!!



何を言うとんのか!
おまえにそんなことが出来るんか!



小人族(ドヴェルグ)に話をつけるんだよ!
あいつら、何でも作れるだろう?
愛する妻シヴの髪が元通りになるのならと、トールは握り締めた手の力をゆるめます。
しかし、このロキという男、本当にどこまで信用してよいのか分かったものではありません。



よかろう、しかしそれをしくじったら…



お前の骨の数が倍以上になるけんのぅ…
トールはロキに対して、二度と裏切ることのないようにしっかりと釘を刺すと、その身を自由にしてやりました。


それから数日の後、シヴとトールのもとに、ニコニコ顔のロキがやってきます。



やぁやぁお二人さん
無事に素晴らしいアイテムを手に入れてきましたぜ
彼の手には、確かに美しい金の糸で編まれた「かつら」が握られています。
シヴがそれを頭に乗せると、かつらは皮膚にぴったりとはりつき、さらにその髪はあっという間に長く伸びていきました。
こうして、彼女の金髪は以前にもまして美しくきらめき、誰もが目を奪われるような輝きを放つことになったのです。
散々な目に遭ったシヴも、この結果には大変満足している様子。
やりたい放題やったロキも、どうにかしくじりをリカバリーして命拾いしたのでした。


『シヴ』1909年 PD




ところで彼は、トールとシヴを納得させるような魔法のかつらを、どうやって手に入れたのでしょうか。
今回彼が頼ったのは、イーヴァルディ(Ívaldi)と呼ばれる有名な小人族(ドヴェルグ)の息子たちです。
優秀な鍛冶屋であった父の後を継いだ息子たちもまた、優れたモノづくりの才能をもっており、ロキの無茶苦茶な要求にも快く応えました。
※息子たちの個別の名称は不明。「ドヴァリン(Dvalinn)」と呼ばれることも
また、ロキに褒められて気を良くしたイーヴァルディの息子たちは、黄金のかつらに加えて、さらに2つの贈り物を作っています。



これだぜ
- 大槍グングニル(Gungnir)
-
投げれば必ず標的に命中し、いかなるものをも貫いてしまう文字通りの神アイテム。
柄の部分は聖なるトネリコの木である世界樹ユグドラシル(Yggdrasill)から成り、穂先にはルーン文字が刻まれている。
- 魔法の帆船スキーズブラズニル(Skíðblaðnir)
-
どの方角に向けても常に追い風を受け、陸でも空でも自由に走ることができる不思議な船。
しかも、大勢の神々が一度に乗れるほどの大きさをもちながら、折りたたんでポケットに入るサイズにも出来る優れもの。


ロキの行動はこれだけでは終わりません。
イーヴァルディの息子たちの作品を携えた彼は、その足で鍛冶の小人ブロック(Brokkr)とシンドリ(Sindri)のもとを訪れました。
彼は素晴らしい品々を見せびらかしながら、こう言って兄弟のプライドを煽ります。



いやぁ~、あの兄弟の腕は素晴らしいね
小人族一かもれん!



君ら兄弟でも、これほどの品物は作れんやろぅね~



もし出来たら、わしの頭をくれてやってもいいくらいじゃ
鍛冶の腕前に並々ならぬ誇りをもっていたブロックとシンドリも、ここまでコケにされては黙っていられません。



できらぁ!



えっ、これを超えるような品物を!?
こうしてロキの挑発にまんまと乗せられてしまった兄弟は、鍛冶場に火を入れて仕事の準備を整えます。
炎が勢いよく上がり、その温度が十分なレベルに達すると、シンドリはブロックに



火が弱まらんように、常に鞴を押し続けるんやぞ
と言って、本人は別の作業をするために鍛冶場を出ていきました。
そんなブロックとシンドリの仕事ぶりを、ロキが黙って見ているはずもありません。
なぜなら、彼らが本当に素晴らしい品物を作ってしまった場合、約束通り自分の頭が失われることになるからです。
ロキは悟られないようにそっと魔法を使うと、自身を虻の姿に変化させました。
この姿でブロックの周りを飛び回り、仕事の邪魔をしてやろうという作戦です。


-ブロックとシンドリ、邪魔をするロキ 1907年 PD



ぶ~ん、チクッ



…
ロキはブロックの手を思いっきり刺しますが、制作に集中している彼はそれを気にも留めません。



ぷ~ん、チクチクッ



…
今度は首元に2発もぶっ刺しますが、ゾーンに入った小人の職人は何も感じていない様子です。



ほんならやったらぁ!
オラァ!!



アダーーーーーー!!!!
さすがに焦ったロキは3度目に、ブロックのまぶたを渾身の力で突き刺しました。
いくら仕事に集中していても、流れ出る血が目に入ってしまってはどうしようもありません。
ブロックはこの時、目に入った血を拭うために、ほんの一瞬だけ鞴を押す手を休めてしまいました。
とたんに火勢は弱まりますが、そんなことに動揺する鍛冶職人ではありません。
ブロックはロキの妨害を受けながらもしっかりと状況を立て直し、3つの素晴らしい魔法アイテムを作り上げました。





どやぁ~オラァ!!
見てみぃ!!
- 黄金の猪グリンブリスティン(Gullinbursti)
-
黄金の猪で、その名は「恐るべき歯をもつ者」の意。
どんな馬よりも速く走り、空中や水中も自在に移動可能、その輝きのおかげで暗い闇夜でも道に迷うことはない。
- 黄金の腕輪ドラウプニル(Draupnir)
-
その名は「滴るもの」の意。
9夜ごとに同じ重さの腕輪を8つ生み出す黄金の腕輪。
- 大槌ミョルニル(Mjölnir)
-
「粉砕するもの」という意味の名をもつ、アース神族にとって最強の対巨人用決戦兵器。
投げれば百発百中の命中精度を誇り、ひとりでに所有者の手に戻ってくるうえ、決して壊れることなくコンパクトサイズに収縮も可能。
最後にブロックが鞴を押す手を緩めてしまったため、柄の部分だけが極端に短い。


こうして仕事をやり遂げたブロックとシンドリですが、どちらの品物が優れているか決めるためには、それを判定する審判員が必要です。
ロキと鍛冶職人の兄弟は勝負の決着をつけるために、アース神族が暮らすアーズガルズに向けて出発しました。
それぞれに自慢の品物を引っ提げて神々の国へとやって来たブロックとシンドリ、そしてロキ。
一行はオーディン、トール、フレイの3名を広間に招き、どちらの贈り物が優れているか、最終判定を下してほしいと頼みます。



うん、普通にブロックたちの勝ちじゃの



わしもそう思いますわ



意義な~し



えっ!?!?!?!?!
アース神族の神々は、ブロックとシンドリの兄弟に軍配を上げました。
勝利を手にして得意満面の兄弟は、約束通りロキの頭を引き渡すよう要求します。
窮地に立たされた彼は、金で2人を抱き込もうとしたり、逃亡してトールにとっ捕まったりと悪あがきを繰り返しました。
しかし、一度はプライドを傷つけられたブロックとシンドリは、あくまでも彼の「頭」にこだわります。



ほれ、約束やろがぃ、往生せぇや…



ぐぬぬ
絶体絶命のピンチに陥ったロキは、頭をフル回転させて得意の悪知恵を働かせました。



頭をやるとは言ったけど、首をやるとは言ってないけんの~



首を傷付けずにやれるんなら、この頭、好きに持っていきや~



ぐぬぬ
思わぬトンチを持ち掛けられたシンドリは言葉に窮し、ついに兄弟はロキの頭を諦めます。
2人は腹いせにロキの口を革ひもで縫い付けますが、それも大した効果はなかったようです。
ブロックとシンドリの兄弟は、神々に贈り物を渡しただけで何の見返りも得られずに、すごすごと自分の住家に帰っていきました。






アースガルズにもたらされた数々の魔法の品物は、審判を担当した3人の神々のあいだで分配されます。
大槍グングニルと黄金の腕輪ドラウプニルはオーディンの手に、黄金のかつらと大槌ミョルニルはトールの手にそれぞれ渡り、魔法の帆船スキーズブラズニルと黄金の猪グリンブリスティンはフレイが引き取りました。
これらのアイテムはその後の物語にも度々登場し、戦いの場面や高価な贈り物が必要なシーンで活躍しています。
破滅への第一歩?ロキの子どもたちに対する最高神のえげつない処遇
神々に貴重な魔法の品物をもたらしたロキ。
そんな彼は巨人の国ヨトゥンヘイム(Jötunheimr)に住んでいた時代、魔獣たちの母アングルボザ(Angrboða)を妻に迎え、彼女とのあいだに巨狼フェンリル(Fenrir)、大蛇ヨルムンガンド(Jörmungandr)、冥界の女王ヘル(Hel)の3兄妹をもうけました。
彼らは特に問題を起こすこともなくすくすくと育ちますが、ある日そんな3兄妹に、青天霹靂の如き災難が降りかかります。
「ロキの子どもたちが神々に災いをもたらす」という予言を信じた最高神オーディンが、一方的に彼らの身柄を拘束したのです。



この子どもたちは神々に災いをもたらすかもしれんね
最高神はヨルムンガンドをひっつかむと海に投げ込み、ヘルを霜と氷に覆われた極寒の世界ニブルヘイム(Niflheim)の奥底へと突き落としました。
遥かな高みにある天上世界から真っ暗な深淵の海へと投げ捨てられたヨルムンガンド少年は、アース神族への怒りを胸に秘め、腹の内で復讐の炎を燃やしながら、いつか来る報復の時を思って「生」にしがみつきます。
一方、ヘルには主神から直々に、9つの世界を支配し「藁の死*」を遂げた死者たちの魂を支配・管理する役割が与えられました。
※老衰や病気による死亡
彼らはその後も生き残り、最終戦争ラグナロクにおいて、アース神族への復讐を果たすため神々の国へと戻ってくることになります。


『ロキの子孫』1905年 PD




一方、この時点ではまだ小さな狼にしか見えなかったフェンリルは、厳重な監視のもとで神々の国に拘留されました。
子どもながらに凶暴な性格をもつ彼を世話したがるアース神はおらず、その養育係には、勇猛果敢で大胆不敵な軍神として知られたテュール(Týr)が就くことになります。
幼いフェンリル少年は、消えることのない復讐心を心の奥底で燃やしながら、アース神族の世界アースガルズで生きていくことになりました。



グルルル…


-テュールとフェンリルの挿絵 1911年 PD


我が子が酷い仕打ちを受ける様を見たロキが、何を思ったのかは分かりません。
しかし、彼が最終的に神々と敵対し、ラグナロクの戦いで巨人側についたことには、この一件が大きく影響したとみて間違いないでしょう。
偉大なはずの神々が寄ってたかって巨人を欺く中、
その裏で奇跡の名馬が誕生する
これは、アース神族とヴァン神族が戦った「ヴァン戦争」の少し後のこと。
アースガルズは今でこそ堅牢な城壁に囲まれた砦のような国ですが、当時はまだまだ未完成で、その「守り」にはいくつもの懸念点が残っていました。
ちょうどそんな折、見知らぬ鍛冶屋が神々の国を訪れ、アースガルズをぐるりと取り囲む頑丈な城壁を造らせてほしいと申し出てきます。
渡りに船とはまさにこのこと、アース神たちは一斉に色めき立ちますが、その一方で気になるのが費用面です。



でも、お高いんでしょう?



そうですね~、報酬として「太陽」と「月」、
そして愛と美の女神フレイヤはんを頂きましょか



その代わり、1年で仕事を終えまっせ



何ですと!?
鍛冶屋が要求した報酬はとんでもなく法外なものでしたが、アースガルズ全体を守る城壁造りを外注できるという話にも、どうにも諦めがたい魅力がありました。
神々が答えを出しあぐねていると、巨人族でありながら最高神オーディンと義兄弟の契りを交わした、狡知の巨人ロキが一歩前に歩み出ます。



納期は半年で、かつ他の誰の手も借りずに
仕事をするならその条件でええよ



ただし、夏が始まる日に石1個でも足らんかったら契約無効や



合点承知の助
ただ、石を運ぶのにわしの愛馬だけは使わせてくれや



ほ~ん、まぁええやろ


こうしてアース神族と鍛冶屋の間で契約が成立し、ついにアースガルズの城壁の建築が始まります。
このとき、神々は余裕のホクホク顔でその様子を眺めていました。
なぜなら、彼らはどう考えても達成不可能な納期を鍛冶屋に押し付けており、最初から報酬を支払う気などなかったからです。
城壁が完成したら、納期遅れなどで因縁をつけて契約無効に持ち込み、商品だけを頂くという算段でした。



えっ、すみません、あなたたち、神ですよね?



北欧の生存競争は厳しいのじゃ


-石工とスヴァジルファリ 1919年 PD
しかし、そんなアース神族の悪だくみは、そうそう上手くは事を運びません。
ロキは、鍛冶屋が石を運ぶのに馬を使うことを承諾しましたが、このスヴァジルファリ(Svaðilfari)と呼ばれる雄馬がとんでもない曲者だったのです。
彼は巨大な石を軽々と運ぶうえ、鍛冶屋の何倍もの仕事をこなしました。
冬の間に、岩石がみるみるうちに積み上げられ、どんな攻撃にも耐えられそうな堅固な城壁が、次第にその姿を現していきます。
夏が始まる3日前には、鍛冶屋の仕事は残すところ「城壁の門造り」のみ、というところまできていました。
こうなるとにわかに焦り始めるのが、古代の特殊詐欺グループ・アース神族です。
鍛冶屋が仕事を完成してしまうと、神々は途方もなく莫大な報酬を支払わねばならなくなってしまいます。



これ、ロキ
あんな条件飲んだのお前さんじゃったのう



責任もって何とかして来いや
失敗したら、分かっとるのぅ…?



アバババババ
全ての元凶にされたロキはすっかり怯えてしまい、どうにかして事態を収拾しようと頭をフル回転させました。
そして彼は、絶体絶命の窮地を脱するために、以下のような作戦を実行します。



ヤバくなったらロキ1人をスケープゴートにするって、
アース神族の性格はどうなってるのかしら



北欧の生存競争は、厳しい
ある夜、鍛冶屋が石を採りに外出した際、彼の馬であるスヴァジルファリのもとに、1頭の牝馬が近づいてきました。
その牝馬は意味ありげにいななくと、



兄さん良い男なのに、文字通り
馬車馬の如く働かされてやっとられんでしょう



たまには自分の娯しみ、満喫しなさいな
と誘惑します。



ヒヒーン!!!!


『ロキとスヴァディルファリ』1909年 PD
過酷なブラック労働にうんざりしていたスヴァジルファリは、暴れまわって手綱を引きちぎり、牝馬を追いかけて森の中へと突撃していきました。
実はこの牝馬の正体はロキ、変身術が得意な彼はスヴァジルファリ好みの牝馬に化けて彼を誘惑し、作業の進捗を妨害しようとしたのです。
雇用主に対する不満が爆発寸前になっていたスヴァジルファリはいとも簡単に篭絡され、仕事をほっぽリ出して牝馬ことロキとのお楽しみの時間に明け暮れました。



ヒヒーン!!!!
さて、重要な働き手を失った鍛冶屋の仕事は、途端にその進捗を鈍化させ、夏の1日目が刻一刻と近づいてきます。
ただ時間が過ぎるばかりで、何もできない鍛冶屋は次第に苛立ち始め、期限までに仕事が完成しないと分かった彼は狂ったように暴れ出してしまいました。
その様子を見て、神々は鍛冶屋の正体が山の巨人であったことに気が付きます。



な~んだ、相手が巨人なら最初っから
支払いの必要なんてねぇじゃん
雷神トールが暴れ狂う巨人に近づくと、彼は必殺の槌ミョルニル(Mjölnir)をその頭に向けて振り抜き、一撃で頭蓋骨を粉砕してしまいました。
鍛冶屋に化けていた山の巨人は、そのまま死者の世界ニブルヘルに投げ込まれてしまったそうです。



り、理不尽過ぎる…



北欧の(以下省略)
一方その頃、山の巨人の馬スヴァジルファリの方を担当していたロキにも変化が訪れていました。
彼は牝馬の姿のまま、スヴァジルファリとの子をその身に宿していたのです。
後に誕生したその子馬は、灰色の毛並みに8本の脚という変わった風貌をもっていました。
それが8本脚の駿馬スレイプニル(Sleipnir)です。
空でも海でも冥界でも、どんなところでも最速で駆け抜ける彼はそのうち最高神の目に留まり、オーディンの愛馬として世界中を走り回ることになりました。


-オーディンとスレイプニル 1911年 PD
こうしてアース神族の神々は、巨人にただ働きをさせて堅牢な城壁をまんまと手に入れたうえ、副産物として世界最速の駿馬・スレイプニルをもその手中に収めたのです。



何だかねぇ…



まぁ、ラグナロクの到来待ったなしなのは分かるよね!
北欧神話をモチーフにした作品



参考までに、「北欧神話」と関連するエンタメ作品をいくつかご紹介するよ!
おわりに
今回は、北欧神話の物語「神々の時代、狡神の来訪」について解説しました。



ロキのハチャメチャな行動が、神々にさまざまな品物をもたらす話がメインだったわね



その一方で、最終戦争ラグナロクへの
布石もしっかり打たれているよね!
パパトトブログ-北欧神話篇-では、北の大地で生まれた魅力的な神々や彼らの物語をご紹介していきます。
神さま個別のプロフィール紹介や神話の名場面をストーリー調で解説など、難しい言葉は出来るだけ使わずに、あらゆる角度から楽しんでもらえるように持って行こうと考えています。
これからも「北欧神話」の魅力をどんどんご紹介してきますので、良ければまた読んでもらえると嬉しいです!



また来てね!
しーゆーあげん!
参考文献
- 山室静 『北欧の神話』 ちくま学芸文庫 2017年
- 谷口幸男訳『エッダ-古代北欧歌謡集』新潮社 1973年
- P.コラム作 尾崎義訳 『北欧神話』 岩波少年文庫 1990年
- 杉原梨江子 『いちばんわかりやすい北欧神話』 じっぴコンパクト新書 2013年
- かみゆ歴史編集部 『ゼロからわかる北欧神話』 文庫ぎんが堂 2017年
- 松村一男他 『世界神話事典 世界の神々の誕生』 角川ソフィア文庫 2012年
- 沢辺有司 『図解 いちばんやさしい世界神話の本』 彩図社 2021年
- 中村圭志 『世界5大神話入門』 ディスカヴァー・トゥエンティワン 2020年
- 歴史雑学探求倶楽部編 『世界の神話がわかる本』 Gakken 2010年
- 沖田瑞穂 『すごい神話 現代人のための神話学53講』 新潮選書 2022年
- 池上良太 『図解 北欧神話』 新紀元社 2007年
- 日下晃編訳 『オーディンの箴言』 ヴァルハラ・パブリッシング 2023年
他…
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