【心臓が大好きなオシリスの部下】幻獣アメミト-Ammit-【エジプト神話】

この記事は、以下のような方に向けて書いています。

• エジプト神話にちょっと興味がある人
• エジプト神話に登場する神さまのことをざっくり知りたい人
• とりあえず誰かにどや顔でうんちく話をしたい人

そもそも「エジプト神話」って何？

「幻獣アメミト」はエジプト神話に登場する怪物です。

エジプト神話とは、ナイル川流域で栄えた古代エジプト文明の人々に信仰された神さま達の物語。鳥やカエルなど、動物をモチーフにしたユニークな神さまも数多く登場する多神教の世界です。

大きく分けて4つの地域でそれぞれ異なるストーリー(創世神話)が語られており、そのすべてを「エジプト神話」として認めるおおらかさと寛容さを持っています。

そのぶん矛盾や混乱が見られますが、それもまたエジプト神話の魅力であり他の神話とは一線を画す持ち味にもなっています。

主に以下のあたりの地域で信仰された神話です。

エジプト神話は起源の特定が難しいと言われます。

古代エジプト文明成立の時期から考えても、約5,000年前には神話に登場する神さま達への信仰があったようです。

とても長い歴史を持つ、ミステリアスな魅力あふれる物語です。

幻獣アメミトってどんな神さま？

幻獣アメミトは『死者の書』の中でも最も有名なシーンである「死者の審判」に登場する怪物です。

ワニ、ライオン、カバが合体したような独特のビジュアルで描かれ、怪物と言ってしまいましたがれっきとした1柱の女神さまです。

彼女の仕事はズバリ、罰の執行人。

「死者の審判」において罪人と判定された亡者の心臓を平らげ、その魂を永遠に葬り去ってしまうという恐ろしい役割を持っていました。

その役割からも当然といえば当然ですが、アメミトはほかの神さまのように個別の崇拝は受けておらず、『死者の書』の中にのみ登場します。

また女神さまとはいえ実態としては悪魔に近いものとして認識され、人々に恐れられることを意図してデザインされた存在のようです。

とはいえあくまでも罪人にとって恐ろしい存在なのであって、善良な魂にとってはそうではないかもしれません。

その可能性を示すものとして、有名なツタンカーメンの副葬品の寝台には彼女の姿が描かれています。

こんなビジュアル

アメミトは一般的にワニの頭部、ライオンの上半身、カバの下半身を持つ合成獣(キメラ)のような姿で描かれます。

彼女はどう見ても恐ろしい怪物ですがれっきとした1柱の女神であり、つまり女の子です。

よってライオン部分も雌ではあると考えられますが、図像としてはライオンと特定するためにたてがみがある状態で表されることもあります。

そのほか頭に3色のネメス(ファラオの頭巾)をかぶった状態で描かれることもありました。

アメミトのモチーフには、

ライオン

ご存じ百獣の王で陸上で最も恐ろしい存在。
また太陽や王権を象徴する古代エジプトの神聖動物。

カバ

古代エジプトの神聖動物にして水辺で最も恐ろしい存在。
水辺どころか地上最強の動物説すらある。

ワニ

これまた古代エジプトの神聖動物にして水中で最も恐ろしい存在。
実際古代エジプト人のワニ被害は多かったと言われている。

と、ナイル川周辺の生態系で特に恐れられると同時に、宗教上神性とされた動物たちが採用されています。

これらの組み合わせには、悪しきものの魂はたとえ死後の世界であっても逃げる事能わず、必ず滅ぼされるというメッセージが込められていたとされています。

とはいえ常にこのような姿で描かれたわけではなく、第22王朝の時代になるとカバの頭部に乳の垂れ下がった犬のような胴体をした獣として描かれました。

またプトレマイオス朝の時代まで下ると、ワニの頭と犬の体を持つアメミトの姿が残されています。

簡易プロフィール

名前	アメミト(Ammit)
その他の呼び名	アメミット アンムト(Ammut) マメミット アムムト アーマーン 亡者を貪り食う者 亡者を飲み込む者
象徴	ワニ ライオン カバ
役割	「死者の審判」で罪人の心臓を食べる
家族	なし
職場関係	上司：冥界の王オシリス 同僚：知恵の神トト 同僚：冥界の神アヌビス 同僚：法の女神マアト

アメミトの主要な業務

「死者の審判」に同席して悪人の魂を滅ぼす処刑人

古代エジプトにおいて人間は他界後、冥界の王オシリスの前で「死者の審判」を受けるとされました。

亡くなった人間は「2つの真理の間」に通され、オシリスの前で自らの身の潔白を宣言、その証明をするために自分の心臓を差し出します。

次に知恵の神トトが故人の生前のデータを携えて傍らに立ち、冥界の神アヌビスがその心臓と法の女神マアトの羽根を秤にかけます(心臓計量の儀式)。

天秤が釣り合えば潔白の証明となり、その人は復活して理想の楽園に行けますが、逆に言うと天秤が傾いた場合は嘘をついた罪人であるという証明になります。

そこで登場するのがお腹を空かせてイライラし始めている冥界の処刑人アメミトちゃん。

彼女は罪人の心臓を一口で食べてしまい、その魂は未来永劫完全に滅び去ってしまうのです。

魂が完全に消滅する＝永遠に復活のチャンスはなくなる＝楽園行きも転生もナシという、古代エジプト人の価値観からすると最も恐ろしい極刑中の極刑だったのです。

なぜ心臓が食べられるのがヤバいことなの？

古代エジプト人たちの重要な世界観として、「霊魂は復活して楽園にいく」という考え方がありました。

人間の「死」とは肉体と霊体が切り離されることだと考えられていて、この霊体には2つの種類がありました。

肉体に付属する「カー(精霊)」と肉体から離れる「バー(魂)」の2種類です。

人間が亡くなった時、バー(魂)は冥界に旅立ちますが、カー(精霊)は肉体に残り続けます。

冥界に行ったバー(魂)は冥界の王オシリスの元を訪れ、上記の通り「死者の審判」を受けます。

この審判を無事にクリアすると故人は「アアルの野」や「葦の原野」と呼ばれる楽園に入る事を許されます。

そこは地上そっくりではあっても病気や川の氾濫は起こらず、労働の必要もなく、過酷な現世とは違って何不自由ない穏やかな暮らしができると信じられていました。

しかしこの楽園で生きていくために霊魂は復活する必要があり、復活するためにはきちんと保存された肉体を器としてバー(魂)とカー(精霊)が再び揃う必要があったのです。

以上の理由により、古代エジプトでは死後も遺体を大切に保存する必要が生じ、ミイラづくりが行われるようになりました。

ミイラづくりにおいて重要とされた臓器は、摘出されてそれぞれ保管されましたが、心臓だけは特別で元の肉体に残したままにされました。

霊魂が復活するためにはこれらの臓器の1つでも欠けてはならないので、神々が二重に守護を担当するほどの厳重っぷりでした。

さて、この状況下で心臓が食べられ失われてしまうことがどれほどまずい事態か、いくらかイメージしていただけたかと思います。

「死者の審判」にて有罪判決を受けた魂は、肉体に引き続き魂までも失い、楽園に行くことも生まれ変わる事も出来ずに永遠に冥界の闇の中(ドゥアト)を彷徨う運命になってしまうのです。

かくして古代エジプト人は執行人たるアメミトを心底恐れ、「死者の審判」の時にうしろめたいものがないように、真面目に生きていこうと決意を固めるのでした。

アメミトが登場するエンタメ作品

真・女神転生シリーズ

『真・女神転生』は、西谷史先生による小説『デジタル・デビル・ストーリー』から派生したコンピュータRPGのシリーズ作品。
様々な悪魔や神さまなどを仲魔にして戦うゲームです。
この作品では「アーマーン」という名称で、ワニ要素強めのビジュアルで登場しており、やはりシンプルに物理が強いキャラクターとして描かれていました。

ANUBIS ZONE OF THE ENDERS

2003年に発売されたプレイステーション2用のゲームソフトです。
メタルギアソリッドシリーズを手掛けた小島秀夫さんがプロデュースされたということで話題になりました。
スピーディでカッコいい演出が光るとても面白い作品です。
この作品では敵の軍事要塞として「アーマーン」が登場、敵ボスのアヌビスと合体して強くなるといった形で描かれていました。

MCUドラマ『ムーンナイト』

『ムーンナイト』は、マーベル・スタジオが製作するアメリカ合衆国のインターネットテレビドラマシリーズ。
神話モチーフのキャラクターが活躍しますが、こちらでは「アメミット」の名前で彼女が登場。
魂を食らう凶悪な女神という設定に忠実なキャラクターのようです。
個人的には『The Elder Scrolls』シリーズに出てくるアルゴニアンという種族にも似ている気がしました。

おわりに

今回は、エジプト神話の幻獣アメミトを紹介してきました。

エジプト神話に登場する神さまは途方もないほどに数が多く、一説には名前が分かっているだけでも約1,500の神さまがいるとも言われています。

他にも見た目が可愛かったり言動がぶっ飛んでいたり、魅力的な神さまがたくさん存在します。

その他の記事でもどんどんご紹介していきますので、良ければまた読んでもらえると嬉しいです！

しーゆーあげん！