【4番目に現れた生成の神】宇摩志阿斯訶備比古遅神-ウマシアシカビヒコジノカミ-【日本神話】

このシリーズでは、忙しいけど日本神話についてサクっと理解したいという方向けに、「かんたん・わかりやすい」がテーマの神々の解説記事をお送りしています。

超個性的な八百万の神々が織りなす、笑いあり、涙ありのトンデモぶっ飛びストーリーが、あなたに新たなエンターテイメントとの出会いをお約束します。

人間味溢れる自由奔放な神々の色彩豊かで魅力的な物語に、ぜひあなたも触れてみてくださいね。

今回は、世界のはじまりに4番目に現れた原初の神で、特別に尊い別天津神ことあまつがみの1柱に数えられる生成の神、宇摩志阿斯訶備比古遅神うましあしかびひこじのかみをご紹介します！

この記事は、以下のような方に向けて書いています。

• 日本神話にちょっと興味がある人
• 日本神話に登場する神さまのことをざっくり知りたい人
• とりあえず誰かにどや顔でうんちく話をしたい人

そもそも「日本神話」って何？

「日本神話」とは、ざっくり言うと「日本ってどうやって生まれたの？」を説明してくれる物語です。

原初の神々や日本列島の誕生、個性豊かな神さまが活躍する冒険譚や、彼らの血を引く天皇たちの物語が情緒豊かに描かれています。

現代の私たちが知る「日本神話」の内容は、『古事記こじき』と『日本書紀にほんしょき』という2冊の歴史書が元になっています。

これらは第四十代天武てんむ天皇の立案で編纂が開始され、それぞれ奈良時代のはじめに完成しました。

国家事業として作られた以上、政治的な色合いがあることは否めませんが、堅苦しくて小難しいかと思ったらそれは大間違い。

強烈な個性を持つ神々がやりたい放題で引き起こすトラブルや恋愛模様は、あなたをすぐに夢中にさせることでしょう。

さぁ、あなたも情緒あふれる八百万やおよろずの神々が住まう世界に、ともに足を踏み入れてみましょう。

宇摩志阿斯訶備比古遅神うましあしかびひこじのかみってどんな神さま？

宇摩志阿斯訶備比古遅神うましあしかびひこじのかみ(以下、ウマシアシカビヒコジ)がどんな神さまなのか、さっそく見ていきましょう。

簡易プロフィール

正式名称	宇摩志阿斯訶備比古遅神うましあしかびひこじのかみ Umashiashikabihikojinokami
別称	可美葦牙彦舅尊うましあしかびひこじのみこと
神格	生成の神 形成の神
性別	なし(独神ひとりがみ)
勢力	天津神あまつかみ
グループ1	別天津神ことあまつがみ
親	なし
兄弟姉妹	なし
配偶者	なし
子	なし
神徳(ご利益)	・農業の守護 ・五穀豊穣 ・開運招福 ・交通安全 ・健脚 ・足に関する病の治癒 ・旅行安全など
神社	出雲大社 浮嶋神社ほか ※別途詳述

誕生と家族

ウマシアシカビヒコジは日本神話に登場する原初の神々の1柱です。

彼はこの世界の始まり、天地開闢てんちかいびゃくの折に

• 天之御中主神あめのみなかぬしのかみ
• 高御産巣日神たかみむすびのかみ
• 神産巣日神かみむすびのかみ

に続いて、4番目にこの世界に現れました。

この「現れた」というのが意外と重要で、彼は誰かによって「生み出された」のでも「創り出された」のでもありません。

彼は自然の生成力によって「成った」存在なので、ウマシアシカビヒコジに両親はおらず、また彼自身も特定の性別を持たない「独神ひとりがみ」とされます。

最初の神さまである天之御中主あめのみなかぬしから、ウマシアシカビヒコジの次に現れる天之常立神あめのとこたちのかみまでの5柱は「別天津神ことあまつがみ」と呼ばれ、日本の八百万やおよろずの神々の中でも特に尊い存在として位置付けられています。

「天地開闢てんちかいびゃく」という言葉は、天地の始まりや世界の初めを意味します。

それ以前の世界はまだしっかりとした形をもっておらず、陰陽の区別も天地の区別もなく、ただ混沌だけが広がっていました。

あるとき原初の混沌にほの暗い何かが芽生え、それが澄んで明らかになると、澄んで軽いものと重く濁ったものがそれぞれに分裂します。

澄んで軽いものは高く昇って「天」となり、重く濁ったものはとどまって「地」となりました。

日本神話においては、この「天」と「地」が大まかに分かれたタイミングのことを「天地開闢てんちかいびゃく」と呼んでいます。

このときに天となった世界は「高天原たかまがはら」と呼ばれ、地となった世界は後に「葦原中国あしはらのなかつくに」と呼ばれるようになりました。

ウマシアシカビヒコジはこの天地開闢てんちかいびゃくの際に天の世界・高天原たかまがはらに姿を現しましたが、特に物語性のある活躍をするわけでもなく、この世界がおおむね形作られるとその姿を隠してしまったと言われています。

名前の由来

ウマシアシカビヒコジの正式名称である宇摩志阿斯訶備比古遅神うましあしかびひこじのかみには、どのような意味が込められているのでしょうか。

一般には、

• 神名全体で「葦あしが芽を吹くように萌え伸びるものによって成った」という彼の誕生シーンを表現している
• 「宇摩志うまし」は良いものを褒めた美称、「阿斯訶備あしかび」は「葦牙あしかび」、つまり「葦あしの芽」の意で、彼が葦あしの芽が神格化された存在であることを示す
• 同じく「阿斯訶備あしかび」には、葦あしの芽から人類の始祖が出現したという神話が反映されている
• 「比古ひこ」は男性の意、「遅じ」は「祖父おほじ」や「伯父おじ」と同じニュアンスで、「比古遅ひこじ」で男性に対する尊称や敬称を意味する

といったことが言われているようです。

「原初の植物から人類が誕生する」という神話は、他にも中国南西部・東南アジアからミクロネシア・ポリネシアまで広く分布しており、ウマシアシカビヒコジの出現シーンにもこれらの神話との類似が指摘されています。

また彼についての描写には、人類発生の神話というよりも「世界樹せかいじゅ」や「宇宙樹うちゅうじゅ」のような世界観が反映されたとも考えられています。

その一方で、「葦牙あしかび」というのは観念的な例えに過ぎず、ウマシアシカビヒコジが葦あしの芽の成長に例えて、国土の豊かな成長力を象徴しているという考え方も存在します。

ほかにも、

• 天地が未だ分かれていない混沌の中に立つ「生命の樹」、あるいは「天柱てんちゅう」のイメージが、「葦あし」の姿で表現された
• ウマシアシカビヒコジは、地上世界に生まれる「生命」の根源となる、天上世界における「生命」が具象化された存在である
• 後に地上世界は「葦原中国あしはらのなかつくに」と呼ばれることから、これを見据えた神名が付けられた

とも考えられています。

さらに、本来は性別をもたない独神ひとりがみであるはずのウマシアシカビヒコジの神名に、男性のニュアンスが含まれている点についてもさまざまな考察がなされています。

これには、「国土の成長力」を「男性的な活力」で例えたとする説や、中国大陸から伝わった陰陽思想の影響を受けたとする説などが唱えられているようです。

いずれにしてもウマシアシカビヒコジは、混沌とした状態からこの世界を構成するあらゆる存在が芽吹くという、生成力や活力、生命力が神格化された存在であると言えるでしょう。

宇摩志阿斯訶備比古遅神うましあしかびひこじのかみの活躍シーン

世界のはじまりに4番目に登場し、特に描写もなくすぐに身を隠す

ウマシアシカビヒコジは天地開闢てんちかいびゃくのときに4番目にその姿を現しましたが、彼はそのまますぐに身を隠してしまい、神話の物語にはその後一切登場していません。

ウマシアシカビヒコジが果たした役割については、上述の名称の由来や、彼が生じた順番とその立ち位置からいくつかの考察がなされています。

彼より前に出現した原初の3神は「造化三神ぞうかのさんしん」と呼ばれ、ウマシアシカビヒコジを含む原初の5神が「別天津神ことあまつがみ」と呼ばれています。

そして6番目に現れる国之常立神くにのとこたちのかみ以降の神々は、「神世七代かみよななよ」と呼ばれるグループに分類されています。

このポジションにどのような意味が込められているのかについては諸説あり、

• 天之常立あめのとこたちまでの「別天津神ことあまつがみ」が天上世界の成立に関与し、国之常立くにのとこたち以降の神々が地上世界の成立の段取りを行って、最終的に「国生み」と「神生み」を行う伊邪那岐命いざなぎのみこと・伊邪那美命いざなみのみこと夫婦の誕生に着地する
• 「造化三神ぞうかのさんしん」と呼ばれる原初の3神が「天」に関与し、国之常立くにのとこたち以降の「神世七代かみよななよ」が「地」に関与するが、その間に立つウマシアシカビヒコジと天之常立あめのとこたちが「天」と「地」の両方に関わる

といったことが考えられているようです。

『古事記』においては4番目に出現したとされる彼ですが、実は『日本書紀』の方では、ウマシアシカビヒコジまたは国之常立くにのとこたちが天地開闢てんちかいびゃくの最初に現れた神さまとされています。

その理由は一説によると、『日本書紀』の編者が、天界の成り立ちよりも現実の国土のはじまりに関心を寄せていたためだとも言われており、実際にウマシアシカビヒコジは、地上寄りの神さまだったと考えることも出来るでしょう。

そんなウマシアシカビヒコジを含む原初の神々は、自分たちの仕事を終えると「独神ひとりがみとなって身を隠した」とされています。

彼らのこの行動には、後に登場して日本の最高神に君臨する、天照大御神あまてらすおおみかみの権威の絶対性を確保する意図があるとも言われています。

宇摩志阿斯訶備比古遅神うましあしかびひこじのかみを祀る神社ガイド

ウマシアシカビヒコジは、いくつかの神社で祀られています。

出雲大社

島根県出雲市大社町杵築東

公式ページ

浮嶋神社

愛媛県東温市牛渕

公式ページ

高見神社

福岡県北九州市八幡東区高見

公式ページ

物部神社

島根県大田市川合町川合

公式ページ

間山豊富神社

長野県中野市大字間山字宮上

公式ページ

胸形神社

栃木県鹿沼市村井町

公式ページ

蟻通神社

大阪府泉佐野市長滝

公式ページ

宇麻志神社

兵庫県相生市矢野町小河

公式ページ

天将神社

兵庫県高砂市米田町米田

公式ページ

などです！

おわりに

今回は、日本神話に登場する宇摩志阿斯訶備比古遅神うましあしかびひこじのかみについて解説しました。

パパトトブログ-日本神話篇-では、私たちの祖国に伝わる魅力的な神々や彼らの物語をご紹介していきます。

神さま個別のプロフィール紹介や神話の名場面をストーリー調で解説など、難しい言葉は出来るだけ使わずに、あらゆる角度から楽しんでもらえるようにしようと考えています。

これからも「日本神話」の魅力をどんどんご紹介してきますので、良ければまた読んでもらえると嬉しいです！

しーゆーあげん！