こんにちは!
今回は日本神話より一言主神を紹介するよ!
一言主神?
どんな役割をもつ神さまなの?
彼は託宣や言霊を司る神さまで、
善悪も吉凶も一言で断言する力をもつとされているよ
隆盛と衰退の落差が激しい、
珍しいタイプの神さまでもあるのじゃ
ではさっそくいってみよう!
このシリーズでは、忙しいけど日本神話についてサクっと理解したいという方向けに、「かんたん・わかりやすい」がテーマの神々の解説記事をお送りしています。
超個性的な八百万の神々が織りなす、笑いあり、涙ありのトンデモぶっ飛びストーリーが、あなたに新たなエンターテイメントとの出会いをお約束します。
人間味溢れる自由奔放な神々の色彩豊かで魅力的な物語に、ぜひあなたも触れてみてくださいね。
今回は、第二十一代雄略天皇との対峙で有名な託宣の神で、権威の失墜とともに段々扱いが雑になるちょっと気の毒な言霊の神、一言主神をご紹介します!
忙しい人はコチラから本編にすっ飛びじゃ
この記事は、以下のような方に向けて書いています。
- 日本神話にちょっと興味がある人
- 日本神話に登場する神さまのことをざっくり知りたい人
- とりあえず誰かにどや顔でうんちく話をしたい人
- 日本神話に登場する「一言主神」について少し詳しくなります。
- あなたのエセ教養人レベルが1アップします。
そもそも「日本神話」って何?
「日本神話」とは、ざっくり言うと「日本ってどうやって生まれたの?」を説明してくれる物語です。
原初の神々や日本列島の誕生、個性豊かな神さまが活躍する冒険譚や、彼らの血を引く天皇たちの物語が情緒豊かに描かれています。
現代の私たちが知る「日本神話」の内容は、『古事記』と『日本書紀』という2冊の歴史書が元になっています。
これらは第四十代天武天皇の立案で編纂が開始され、それぞれ奈良時代のはじめに完成しました。
国家事業として作られた以上、政治的な色合いがあることは否めませんが、堅苦しくて小難しいかと思ったらそれは大間違い。
強烈な個性を持つ神々がやりたい放題で引き起こすトラブルや恋愛模様は、あなたをすぐに夢中にさせることでしょう。
「日本神話」の全体像は、以下で解説しているよ!
さぁ、あなたも情緒あふれる八百万の神々が住まう世界に、ともに足を踏み入れてみましょう。
一言主神ってどんな神さま?
一言主神(以下、ヒトコトヌシ)がどんな神さまなのか、さっそく見ていきましょう。
いくぜっ!!
簡易プロフィール
正式名称 | 一言主神 Hitokotonushinokami |
---|---|
別称 | 葛城之一言主之大神 葛木一言主神 一事主神 葛城神 ほか |
神格 | 託宣の神 言霊の神 葛城山の神 |
性別 | 男性 |
勢力 | 国津神 |
親 | 不明 |
配偶者 | 不明 |
子 | 不明 |
神徳(ご利益) | ・商売繁盛 ・心願成就など |
神社 | 葛城一言主神社 土佐神社ほか ※別途詳述 |
誕生と家族、出自
ヒトコトヌシは日本神話に登場する託宣の神さまです。
彼は大和国(奈良県)の葛城山に棲むとされ、第二十一代雄略天皇の御代にて初登場を果たします。
ヒトコトヌシは事の善悪を「一言」で断言できる力をもつとされ、また「一言」の願いであれば何でも叶えてくれると信じられたことから、地域の人々からは「一言さん」の呼び名で親しまれています。
そんな彼の出自に関する情報は多くありませんが、ヒトコトヌシはもともと、葛城山の東麓を拠点とした古代の豪族・賀茂氏(鴨氏)や葛城氏によって祀られた神さまであったとされています。
※賀茂氏と葛城氏の関係については、以下のサイトを参考にさせて頂きました。
https://blue32earth.blog.fc2.com/blog-entry-599.html
またヒトコトヌシは、呪言・託宣(神のお告げのこと)の性格を有し言霊信仰と関わりをもつという共通点から、大国主神の息子である事代主神と同一視されることもあるようです。
名前の発音の類似も指摘されているそうね
割と珍しい仕事だから仲良くなっちゃうよね~
さらに彼は、同じく大国主の息子で迦毛之大御神という別名をもつ、阿遅鉏高日子根神とも同一神とされる場合があります。
設定がややこしい部分じゃが、
両者共に賀茂氏によって祀られたのは間違いないぞい
このあたりは以下の本編でも、もう少し解説するよ!
名前の由来
ヒトコトヌシの正式名称である一言主神には、どのような意味が込められているのでしょうか。
『古事記』によると彼は「言離」の神さまであるとされており、この語の読み方は概ね「コトサカ」、「イヒハナツ」そして「コトハナツ」の3パターンに分かれると考えられています。
どの読み方を採用するかによって神名の解釈が若干変わり、
- 「言離」と読んだ場合、「言」には本来「事」の字が充てられるとし、悪事とも善事とも関係を絶つ(離れる)という意味をもつ
- 「言離」を「別に離す」と解釈して「決断」の意と捉え、ヒトコトヌシの託宣が事の吉凶を「一言」で決定する様子を表している
- 「言離」と読んだ場合は「言い放つ」の意で、彼が物事を決定する託宣の神さま、あるいは「一言」口にしたことを必ず実現させてしまう言霊信仰の神さまであることを示す
- 「言離」と読んだ場合もほぼそのままの「言離つ」の意で、ヒトコトヌシが託宣の神さまであることを表す
といったことが言われているようです。
いずれにせよヒトコトヌシは、物事の善悪や吉凶をたった「一言」でバシッと言い切る、まさに「THE・お告げの神さま」といったキャラクターと言えるでしょう。
元祖・サバサバ系って感じかしらね
だらだら話しても時間の無駄じゃん?
リソースは有限なんだぜ~?
一言主神の活躍シーン
ヒトコトヌシの活躍を見てみよう!
葛城山で雄略天皇と出遭うも、時代が下がるごとに扱いが段々雑になる
ヒトコトヌシに関する逸話として有名なのは、彼が葛城山にて第二十一代雄略天皇と遭遇し対峙するシーンです。
この物語は『古事記』と『日本書紀』にはもちろん、さらに後に編纂された『続日本紀』にも掲載されていますが、実は時代が下がるごとにその内容の描写に変化が見られるのです。
各文献のストーリーをざっくりと抑えてみるぞい
共通部分
物語の冒頭、ヒトコトヌシと雄略天皇が出遭うところまでは、いずれの文献でも概ね同じ内容となっています。
雄略天皇はある日、数人のお伴を引き連れて葛城山に鹿狩りに出かけました。
一行が山中を歩いていると、紅紐の付いた青摺の衣服を身にまとう、雄略天皇たちと全く同じ恰好、人数の一団と遭遇します。
えっ、ドッペルゲンガー!?
えっ、ドッペルゲンガー!?
謎の一団は姿かたちが瓜二つなだけでなく、発する言葉もそっくりそのまま天皇一行と同じ言動を繰り返しました。
驚きとともに不審に思った雄略天皇がリーダーらしき人物に名を問うと、彼はその正体を顕し、
わしは悪事も善事も「一言」で言い切っちゃう、
葛城のヒトコトヌシよ~ん
と答えたのです。
ここまでが物語の共通パートじゃ
ここから先の展開が文献によって異なっているのね
さっそく見ていきましょう!
ヒトコトヌシの一団が、雄略天皇たちと全く同じ恰好をしていたり同じ言葉を繰り返した描写には、限られた状況下でしか見ることが出来ない、「蜃気楼」や「山彦」などの自然現象に対する驚異の念が含まれるとも考えられています。
また彼らが天皇たちと同じ姿をしていた点については、現実世界の地方豪族のみなさんが、大和朝廷の人々と同じ水準の生活をしていた事実が反映されているとも言われています。
ヒトコトヌシを祀った賀茂氏も葛城氏も、一時期は天皇家に匹敵するほどの影響力をもったとされているのよね
あとちなみに、厳密に言うと「言動を繰り返す」描写は『古事記』にのみ見られるのじゃ
『古事記』ver.(712年)
『古事記』では、以下のようなストーリーが続きます。
ヒトコトヌシの名を聞いて驚いたのがほかでもない雄略天皇です。
彼は、偉大な神さまに対面していたことに気が付くと大いに恐れ入り、携行していた太刀や弓矢、家臣たちが着ていた衣服まで全部脱がせてヒトコトヌシに献上しました。
彼はその貢ぎ物を受け取ると大変喜び、ニッコニコで雄略天皇の一行を見送ったと記されています。
ヒトコトヌシはリスペクトされる
立派な神格として登場しているわね
気性の荒さに定評のある雄略天皇が畏まった、
というのがエモポイントじゃ
『日本書紀』ver.(720年)
『日本書紀』では、以下のようなストーリーが続きます。
ヒトコトヌシの正体を知った雄略天皇は、
「朕」と共に鹿狩りに興じぬか?
と誘い、ヒトコトヌシも
良いねぇ、「僕」も付き合うよ!
と応じました。
2人はしばらくの間、共に狩りを楽しんだと記されています。
こちらでは2人がほぼ対等な立場になっているんだね!
一人称の使い方からして、なんなら雄略天皇の方が上まであると指摘されとるのじゃ
『古事記』と『日本書紀』には完成までに8年ほどの開きがありますが、その間に物語の描写が大きく変更されています。
一説によると、国内をほぼほぼ制圧し終えた大和朝廷と、周辺諸国の協力をまだ必要とせざるを得なかったそれ以前の王権の差が、ヒトコトヌシの扱いに反映されたとも考えられています。
露骨すぎ~
『続日本紀』ver.(797年)
『続日本紀』では、以下のようなストーリーが続きます。
正体を顕したヒトコトヌシは、対峙した雄略天皇に対して、狩りでの勝負を挑みました。
なんたる不遜な態度!
おどれは島流しの刑じゃぁ~!!
ヒトコトヌシの態度に激しく怒った天皇は、彼を土佐国(高知県)へと流刑に処してしまいましたとさ。
※単に2人が獲物を取り合って喧嘩したとする説も存在します。
えっ、急に!?
辛いわ~
85年ほどの間に、信じられないレベルで待遇が悪化してしまったヒトコトヌシ。
この描写の変化には、
- 彼を祀った賀茂氏の地位がこの時期に著しく低下していた
- 彼を祀った葛城氏が、第二十代安康天皇を討った眉輪王を匿ったために、雄略天皇によって滅ぼされた
ことが影響したとも考えられています。
ヒトコトヌシと同一視される阿遅鉏高日子根神にも、
なんだか似たようなエピソードがあるよね!
実際に阿遅鉏高日子根にも、「葛城山で雄略天皇に出遭う」というエピソードがあり、その時の彼は迦毛之大御神の名で登場しています。
一説には、葛城山の神にはもともとヒトコトヌシがいたものの、上記の通り流刑となってしまったため、空席になった神座に阿遅鉏高日子根が据えられたとも言われているのです。
それで両者が混同されるようになったのね
さらに後に著された『日本霊異記』(822年)では、ヒトコトヌシが讒言(要するに嘘っぱち)を使って役小角を流罪にしてしまったため、怒った彼に呪縛されて使役される立場にまでその地位を落としています。
役小角と言えば有名な呪術者にして修験道の開祖であり、彼もまた賀茂氏の一族です。
賀茂氏に祀られた神さまと賀茂氏出身の人間が内ゲバで争い、さらには2人仲良く島流しの刑にも遭っているのです。
呪術に長けた賀茂氏の力を恐れた大和朝廷が、彼らを都から遠ざけた事実が反映されたとも考えられておるぞい
神話の物語では割と散々な目に遭っているヒトコトヌシですが、ここでもう一度彼のキャリアをおさらいしてみましょう。
- 元々は葛城山の神さまとして、山の民の狩猟や農事を見守っていた
※山の民の頭目がおそらく賀茂氏 - 大和朝廷が勢力を拡大すると、各地の豪族が彼らに服従したのに合わせて、葛城山の人々もその軍門に降った
- 同様に事代主神や阿遅鉏高日子根といった出雲系の神々が、朝廷を支える神さまとしての地位を確立していくと、それに合わせてヒトコトヌシにも宮廷を守護する託宣の神さまとしての役割が生じた
- 雄略天皇の時代に、ヒトコトヌシが正式に大和朝廷から認められた
※物語におけるヒトコトヌシの登場には、雄略天皇を守護するという目的もあったとされる - とはいえ朝廷の権勢が確固たるものになると、ヒトコトヌシにあんまり気を遣う必要がなくなった
- ヒトコトヌシを祀った賀茂氏や葛城氏の地位の低下に合わせるように、彼の扱いもどんどん可哀想なことになっていった
いずれにしてもヒトコトヌシは、人間たちの政治の影響をもろに受けてしまったが故に目に見えて零落した、ある意味で稀有な神さまでもあると言えるでしょう。
政治的にはなんとも残念な扱いを受けたヒトコトヌシですが、彼の言霊の神さまとしてのご神徳は今も健在で、商売繁盛やちょっとしたお願いを叶えてくれる神さまとして人々から親しまれています。
無理やりいい感じにまとめたわね~
政治は政治じゃ、わしの力とは関係ないわい
一言主神を祀る神社ガイド
ヒトコトヌシは、いくつかの神社で祀られています。
代表的な場所をご紹介するわね!
- 葛城一言主神社
-
奈良県御所市森脇
- 一言主神社
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茨城県常総市大塚戸町
- 土佐神社
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高知県高知市一宮しなね
- 鳴無神社
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高知県須崎市浦ノ内東分字鳴無
- 一言主神社
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和歌山県橋本市山田
- 春日大社・一言主神社
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奈良県奈良市春日野町
- 一言主神社
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和歌山県伊都郡かつらぎ町平
- 一言主神社
-
福井県三方郡美浜町坂尻
などです!
おわりに
今回は、日本神話に登場する一言主神について解説しました。
託宣の神さまという役割も珍しいけど、
彼が辿った運命もかなりの珍しさだったわね
政治的な色合いが強い日本神話でも、
ここまで露骨に翻弄された神さまは他にいないかもね!
パパトトブログ-日本神話篇-では、私たちの祖国に伝わる魅力的な神々や彼らの物語をご紹介していきます。
神さま個別のプロフィール紹介や神話の名場面をストーリー調で解説など、難しい言葉は出来るだけ使わずに、あらゆる角度から楽しんでもらえるようにしようと考えています。
これからも「日本神話」の魅力をどんどんご紹介してきますので、良ければまた読んでもらえると嬉しいです!
また来てね!
しーゆーあげん!
参考文献
- 倉野憲司校注 『古事記』 岩波文庫 2010年
- 島崎晋[監修] 日本博学倶楽部[著] 『日本の「神話」と「古代史」がよくわかる本』 PHP文庫 2010年
- 由良弥生 『眠れないほど面白い『古事記』』 王様文庫 2014年
- 由良弥生 『読めば読むほど面白い『古事記』75の神社と神さまの物語』 王様文庫 2015年
- 歴史雑学研究倶楽部 『世界の神話がわかる本』 Gakken 2010年
- 宮崎市神話・観光ガイドボランティア協議会編集 『ひむか神話伝説 全212話』 鉱脈社 2015年
- 中村圭志 『図解 世界5大神話入門』 ディスカヴァー・トゥエンティワン 2020年
- かみゆ歴史編集部 『マンガ面白いほどよくわかる!古事記』 西東社 2017年
- 戸部民夫 『「日本の神様」がよくわかる本』 PHP文庫 2007年
- 三浦佑之 『あらすじで読み解く 古事記神話』 文藝春秋 2013年
- 國學院大學 「古典文化学」事業:https://kojiki.kokugakuin.ac.jp/research/
- 茂木貞純監修『日本の神様ご利益事典』だいわ文庫 2018年
- 武光誠『知っておきたい日本の神様』角川ソフィア文庫 2005年
- 阿部正路監修『日本の神様を知る事典』日本文芸社 1987年
他…
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