【正義・秩序・法、ライトサイドの化身】法の女神マアト-Maat-【エジプト神話】

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法と秩序と正義そのもの、法の女神マアト
一部素材出典 CC BY-SA 4.0
とと(父)

こんにちは!今回はエジプト神話より
法の女神マアトを紹介するよ!

ことと

なんだか真面目そうな女神さまね

とと(父)

彼女は女神さまであり、法や秩序そのものでもある、
スケール違いの存在だよ!

とと(父)

ではさっそくいってみよう!

この記事は、以下のような方に向けて書いています。

  • エジプト神話にちょっと興味がある人
  • エジプト神話に登場する神さまのことをざっくり知りたい人
  • とりあえず誰かにどや顔でうんちく話をしたい人
この記事を読むあなたのメリット
  • エジプト神話に登場する「法の女神マアト」について少し詳しくなります。
  • あなたのエセ教養人レベルが1アップします。
目次

そもそも「エジプト神話」って何?

法の女神マアト」はエジプト神話に登場する女神さまです。

エジプト神話とは、ナイル川流域で栄えた古代エジプト文明の人々に信仰された神さま達の物語。鳥やカエルなど、動物をモチーフにしたユニークな神さまも数多く登場する多神教の世界です。

大きく分けて4つの地域でそれぞれ異なるストーリー(創世神話)が語られており、そのすべてを「エジプト神話」として認めるおおらかさと寛容さを持っています。

そのぶん矛盾や混乱が見られますが、それもまたエジプト神話の魅力であり他の神話とは一線を画す持ち味にもなっています。

ヒヒ

概念そのものすら擬人化する古代エジプト人、
日本人とも気が合いそうじゃのう

主に以下のあたりの地域で信仰された神話です。

世界地図でエジプト周辺に目印を置いている画像
出典:ニューヨーク公共図書館

エジプト神話は起源の特定が難しいと言われます。

古代エジプト文明成立の時期から考えても、約5,000年前には神話に登場する神さま達への信仰があったようです。

とても長い歴史を持つ、ミステリアスな魅力あふれる物語です。

法の女神マアトってどんな女神さま?

マアトは頭にダチョウの羽根飾りをつけた女性の姿で表される、法と秩序の女神さまです。

太陽神ラーの娘にして知恵の神トトの妻、書記の女神セシャトの母親であるとされています。

彼女は特定の分野を司る女神さまというより、正義や秩序、道徳といった概念そのものが神格化された存在だと認識されていました。

そのため「マアト」という言葉は彼女の名前でもあり、「正しくあろうとする精神」や「正義を実践する事」も意味しました。

ファラオにも一般市民にも崇拝された彼女は、冥界における「死者の審判」の裁判官としても登場します。

概念として全エジプトに浸透していたマアトはあらゆる地域で尊敬された一方、特定の神殿や祭儀、信仰の拠点などはほとんど持たなかったとされています。

エジプト神話の法の女神マアト
出典:Jeff Dahl CC BY-SA 4.0

こんなビジュアル

マアトは一般的に頭にダチョウの羽根飾りをつけた若い女性として描かれます。

ほかにも彼女は、両腕に大きな翼を持つ女性の姿で登場することもありました。

マアトが身に着けているダチョウの羽根は、『ヘリオポリス神話』に登場する大気の神シューのシンボルとよく似ています。

シューもまた物語の中で天地を開き、世界の始まりを起こした神さまなので、秩序の化身としてモチーフに採用されたとも考えられます。

法の女神マアト
出典:ニューヨーク公共図書館 PD

マアトは非常に複雑な女神さまですが、一説には彼女はもともと2柱の神さまで構成される存在であったとも言われています。

そのうちの1柱がシューであったため、マアトにも同じダチョウの羽根のシンボルが描かれたという可能性が指摘されています。

テフヌートが「二柱のマアト」の一方のマアトと明確に同一視される一方で、シューがもう一方のマアトと同一視される理由は、シューの図像学的な特徴からも推察される。

すなわち、シューが図像として登場する場合、多くの場合において彼は頭にダチョウの羽根を載せた男神として描写される。

この特徴は、同じく頭にダチョウの羽根を載せたマアト女神の図像と著しく類似する。

このような図像的特徴もまた、男神であるシューが「二柱のマアト」のうちの一柱であると考えられた要因の一つであると筆者は考える。

https://kansai-u.repo.nii.ac.jp/records/17257
ことと

なんだか難しくなってきたわね

ヒヒ

さまざまな解釈が生まれるほど
古代エジプトに浸透した女神さまと覚えておけばOKじゃ

簡易プロフィール

名前マアト(Maat)
その他の呼び名マァト
マート
メアート
メアアート
象徴ダチョウの羽根
天秤
役割秩序と法そのもの
「死者の審判」の裁判官
以下のものを司る
・真実
・バランス
・秩序
・調和
・法
・道徳
・正義
主な業績単独でのストーリーは特になし
家族父:太陽神ラー
母:愛と美の女神ハトホル
夫:知恵の神トト
子:書記の女神セシャト

誕生と家族

マアトに関する最も古い記録は古王国時代(紀元前2686年~紀元前2185年頃)のものが見つかっており、世界最古の葬祭文書として有名なウナス王『ピラミッド・テキスト』にも、彼女についての記述が残っています。

マアト正義や秩序、あるいはすべてのものが従うべき法そのものを神格化した女神さまであったため、他の神さまと習合したり姿を変えたりすることなく信仰されました。

後に彼女には知恵の神トトの妻であるという設定が追加されました。

彼もまた宇宙や物質の法則を司る神さまで、マアトの属性と共通点が多かったほか、2人は後述する「死者の審判」を成立させるための重要な登場人物(神)でもありました。

ことと

社内恋愛とか職場結婚的な感じかしら

他の伝承では、これまた似たような属性を持つ書記の女神セシャトマアトトトの娘であるとされています。

さらに第18王朝(紀元前1570年~紀元前1293年頃)の時代に入ると、マアト太陽神ラーの娘として描かれるようになりました。

ラーを主体として語られる創世神話では、彼が原初の水ヌンから姿を現すと、混沌の闇を「」で照らして世界の創造を始めたと説明されています。

この時にラーがもたらした「」こそがマアトであったとも考えられているのです。

ラー

ルー〇ス マキシマ!!

マアト

ぱぁぁぁ~

Tips:原初の水ってなに?

原初の水」とは、4つのエジプト創世神話のすべてに登場する「世界のはじまりに存在したもの」のことで、基本的にはここからあらゆるものが生まれ出てくるという設定になっています。

物語によって立ち位置が若干異なっているので、詳細は以下をご参照ください。

この文脈で考えると、マアトは単に物理的な意味での「光」だけでなく、文明の発展や秩序と法の整備といった、概念的な「光明」全般を意味していると受け取ることが出来ます。

まさにマアトの属性や役割にぴったりの登場演出で、古代のストーリーテラーもかなりの腕前を持っていたことが分かります(筆者の感想)。

太陽神ラーとも関連付けられたマアトはその重要性をさらに高め、代々のファラオたちは彼女の権威を通じてエジプトを統治するのだと信じられるようになりました。

とと(父)

ギリシャ神話の光明の神アポロンと似た雰囲気も感じるね!

マアトの主要な業務

とと(父)

マアトの主な仕事を見てみよう!

全エジプトの秩序そのものとして人々を束ねる

マアト真理と正義と秩序そのものを神格化した女神さまです。

彼女は古代エジプトにおいて双極をなすもの、つまり

  • 上エジプトと下エジプト
  • 肥沃な大地と不毛の砂漠
  • 善と悪

の間のバランスを象徴し、文明の基礎として、全エジプトの力の源として崇拝されました。

ことと

な、なんか壮大な話になってるわね

ヒヒ

とにかく概念的な女神さまなのじゃ

マアトの語源は「正しくある」や「導く」を意味する動詞であると考えられています。

このことから、彼女の名前自体が「エジプト国民全員が守るべき倫理的・道徳的原則」を表しました。

古代エジプト人たちは平和な生活や死後の復活、楽園行きを願って、それぞれがマアトを実践しようと試みました。

また「マアトを行う」ということは、非難されることなく、罪のない方法で行動することを意味していました。

翼を持つ法の女神マアト
翼を持つ法の女神マアト
出典:Rama CC BY-SA 3.0

ファラオたちもマアトした

古代エジプトのファラオたちは、自分が法と正義を守る存在であることを強調するために、しばしばマアトの紋章と共に登場しました。

王たちには利害が対立する多様な人々をまとめあげ、エジプト王国を混乱から守る責務があります。

彼らは自らを「マアトの主」と称し、その時々で必要とされたルール(≒マアト)を命じました。

秩序の維持を目的に命じられたマアト(≒ルール)は、徐々にエジプト法の基礎となっていきました。

とはいえ、「マアト」という概念は規則の詳細な説明をする性格のものではなく、「正義を実践する精神」あるいは「正しくあろうとする価値観」を表すとされました。

ことと

こんがらがってきたわ…

ヒヒ

ざ~っくりと「清く正しく」あろうとする
メンタリティが、「マアト」なのじゃ

またマアトの考え方の対極をなすものに、「イスフェト」という概念がありました。

これは不正混沌暴力悪事を行う事などを意味しています。

ファラオが真面目にマアトせずにイスフェトに傾くと、個人のみならず国家そのものに悪影響が出ると信じられました。

不信心な王はエジプトに飢餓をもたらし、マアトへの冒涜はファラオを失明させる可能性があるともされました。

エジプト人

つれー実質1時間しかマアトしてないからつれーわー
実質1時間しかマアトしてないからなー

一般市民もマアトした

マアト」の実践は王族にだけ求められたものではなく、庶民たちにとっても大切なことでした。

一般の人たちは他の神々よりもまずマアトを崇拝することを求められました。

庶民たちの間にも当然貧富の差はありましたが、マアトは富裕層の人々に、恵まれない人々を助けるように呼びかけたとされています。

彼女についての記録の中にも、「私は飢えた人にパンを与え、裸の人に衣服を与えた」や「私は未亡人の夫であり、孤児の父であった」といった記述が残っています。

蛇の女神ウアジェトとマアト
出典:ニューヨーク公共図書館 PD

またマアトの倫理的な性質は、知識人や書記官といったエリート階級の発生を促したと考えられています。

特に書記官は、宗教的、政治的、商業的情報を伝達するのに不可欠の存在だったので、古代エジプト社会では名誉ある地位だと認識されました。

当時の一般市民に正確な読み書きができる人は少なかったようですが、彼ら書記官を介した手紙のやりとりは、さまざまな共同体の中でのコミュニケーションを可能にしました。

ことと

夫のトトは書記の神さまだし、親和性が高いわね

書記官たちが正しくマアトすることによって、貧しい者はその貧困を王に訴えることができ、力のない者も権力を濫用する人間を告発することが出来ます。

マアトの実践が世界をさらにマアトにしていくという、理論上は素晴らしい好循環が形成されるというわけです。

神々の書記官である知恵の神トトも、「マアトを明らかにし、マアトを数える者、マアトを愛し、マアトを行う者にマアトを与える者」と表現されました。

実際に古代エジプトの市民生活において、手紙のやりとりは非常に重要な位置を占めていました。

また中王国時代(紀元前2055年~紀元前1795年頃)になると、マアトの実践者である書記官を育成するための書記学校も出現します。

マアトの羽根を持つトト
マアトの羽根を持つトト
出典:メトロポリタン美術館 PD

「死者の審判」で心臓計量の儀式を担当する

エジプト神話の物語でも特に有名なものに『オシリス神話』があります。

この神話の中で、冥界の王オシリスは弟の砂漠の神セトに討ち取られ、どうにか復活を果たすも、冥界に残って死後の世界を統治することになります。

この時マアトオシリスについて冥界に下り、そこで彼の仕事を手伝うようになったとされています。

マアト

地上のマアトは亡くなりました

彼女が登場するのは冥界において行われる「死者の審判」の場面であり、そこでは夫の知恵の神トトとも共演します。

古代エジプトにおいて人間はその死後、冥界の王であるオシリスの前で「死者の審判」を受けるとされました。

亡くなった人間は自らの身の潔白を宣言し、その証明をするために自分の心臓を差し出します。

書記を務めるトトが見守る前で、冥界の神アヌビスが天秤の片方に故人の心臓を、もう片方に「真実の羽根」と呼ばれるマアトの羽根を載せます(心臓計量の儀式)。

マアト

さぁ、お前の罪を数えろ!

ヒヒ

ここではキーアイテムとしてマアトが登場するのじゃ

エジプト神話における死者の審判の様子を描いた図
右の天秤に登場するマアト
出典:Hunefer PD

天秤が釣り合えば潔白の証明となり、その人は復活して理想の楽園に行けますが、天秤が傾いた場合は罪人であるという証明になり、その心臓は幻獣アメミトに食べられてゲームオーバー。

永遠に復活のチャンスはなくなってしまいます。

この審判をクリアした故人は、「アアルの野」や「葦の原野」と呼ばれる楽園に入る事を許されます。

そこは地上そっくりではあっても病気や川の氾濫は起こらず、労働の必要もありません。

現世でマアトを実践してきた善良な故人は、楽園では過酷な現世とは違う、何不自由ない穏やかな暮らしができると信じられていました。

このことからも、マアトの存在の重要性が一般大衆レベルまでしっかりと浸透していたことが分かります。

エジプト神話の死者の書の一場面の図
マアトが登場する「死者の審判」
出典:メトロポリタン美術館 PD
エジプト人

そうだ アアル、行こう。

とと(父)

マアトの同僚たちを紹介しておくよ

ヒヒ

『オシリス神話』については以下で解説しておるぞ

神々の食べ物として供えられる!?

法の女神マアトの小像
マアトの小像
出典:メトロポリタン美術館 PD

マアトは1柱の独立した女神さまであり、正義や秩序といった概念そのものであり、また神々にも人間にも必要とされた「正しくあろうとする精神」でもありました。

エジプトの神々の中でも飛びぬけたスケールを持つ彼女は、その性質から一風変わった扱いを受ける場面もあったようです。

マアトの価値観や象徴はファラオが持つ最も貴重なものであり、神々もマアトの精神を常に取り込まなくてはならないと考えられていました。

そのため彼女は、祭儀上の食事の代わりに供物として、神々に奉呈されることがあったと言われています。

ファラオは神々を讃えるために、自身が持つ最上のものを差し出す意味で、マアトの小像を捧げたと伝えられているのです。

マアト

ブッダの前世かあたしゃ!!

世界の神話との関係

正義や秩序、法を司るマアトは、ギリシャ神話法と掟の女神テミスと同一視されたと伝えられています。

ローマ神話における彼女はユースティティアと呼ばれ、名前はラテン語で「正義」を意味します。

天秤と剣を手に持ち目隠しをした姿の彼女の彫像は、日本の最高裁判所にも置かれているそうです。

マルチェロ・バッチャレッリによる天秤と剣を持ったテミスの絵画
マルチェロ・バッチャレッリによる
天秤と剣を持ったテミスの絵画 PD
ことと

意外なところでつながるものね~

マアトが登場するエンタメ作品

とと(父)

マアトはいくつかのエンタメ作品に登場していたよ!

ことと

マアトが登場する作品を簡単に紹介するわよ~

遊☆戯☆王シリーズ

『遊☆戯☆王』は1996年から2004年まで週刊少年ジャンプにて連載された、高橋和希先生による漫画作品、およびその派生作品です。
漫画ももちろんですがやはりカードゲームが有名ですよね。
この作品に登場するマアトは神々しい白系の鎧を身にまとってウアス杖のようなものを持っており、性別不明なビジュアルで描かれています。
レベルは10で光属性、条件を満たす2体のモンスターを生贄にすることで召喚できるという設定で、強いのかどうかはわかりませんが特別感のある雰囲気をもっていました。

神姫PROJECT

『神姫PROJECT』は、テクロスが開発し、DMM.comより配信されているブラウザゲームです。
この作品では風属性を持つ金髪の女の子の姿でマアトが登場しています。
彼女は数学が好きという設定で、数学に分類されるものは全て習得しており様々な理論を用いて、敵の動きを解析・予測すると説明されています。

おわりに

今回は、エジプト神話の法の女神マアトを紹介してきました。

エジプト神話に登場する神さまは途方もないほどに数が多く、一説には名前が分かっているだけでも約1,500の神さまがいるとも言われています。

他にも見た目が可愛かったり言動がぶっ飛んでいたり、魅力的な神さまがたくさん存在します。

その他の記事でもどんどんご紹介していきますので、良ければまた読んでもらえると嬉しいです!

ことと

概念や価値観そのものが女神さまとはすごいスケールね

とと(父)

古代エジプトのファラオから民までまとめたすごい存在だね!

しーゆーあげん!

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参考文献

  • ヴェロニカ・イオンズ 『エジプト神話』 青土社 1997年
  • 大林太良 伊藤清司 吉田敦彦 松村一男 『世界神話事典 世界の神々の誕生』 角川ソフィア文庫 2023年
  • 沢辺有司 『図解 いちばんやさしい世界神話の本』 彩図社 2021年
  • 歴史雑学研究倶楽部 『世界の神話がわかる本』 Gakken 2010年
  • 沖田瑞穂 『すごい神話 現代人のための神話学53講 』 新潮社 2022年
  • かみゆ歴史編集部 『ゼロからわかるエジプト神話』 文庫ぎんが堂 2019年

他…

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