
こんにちは!
今回はギリシャ神話より知性の女神メティスを紹介するよ!



今回は真面目系の女神さまね
彼女はどんなキャラクターなの?



彼女は「並びなき賢い女神」と称されたティタン神族の子孫で、主神ゼウスとのあいだに戦いの女神アテナを産むんだ!



ゼウスに丸飲みにされて生き続ける、
唯一無二のキャラクターじゃ



ではさっそくいってみよう!
このシリーズでは、忙しいけど「ギリシャ神話」についてサクっと理解したいという方向けに、「かんたん・わかりやすい」がテーマの神々の解説記事を掲載していきます。
雄大なエーゲ海と石灰岩の大地が生み出した、欲望に忠実な神々による暴力的でありながらもどこかユーモラスな物語群が、あなたに新たなエンターテイメントとの出会いをお約束します。
人間味溢れる自由奔放な神々の色彩豊かで魅力的な物語に、ぜひあなたも触れてみてくださいね。
今回は、ティタン神族の血統を受け継ぐオケアニデスの1人で、最高神ゼウスの最初の妻となり、その体内で戦いの女神アテナを産んだ後、主神に賢明な助言を与え続けた知性派の女神メティスをご紹介します!



忙しい人はコチラから本編にすっ飛びじゃ
この記事は、以下のような方に向けて書いています。
- ギリシャ神話にちょっと興味がある人
- ギリシャ神話に登場する神さまのことをざっくり知りたい人
- とりあえず誰かにどや顔でうんちく話をしたい人
- ギリシャ神話に登場する「知性の女神メティス」について少し詳しくなります。
- あなたのエセ教養人レベルが1アップします。
そもそも「ギリシャ神話」って何?
「ギリシャ神話」とは、エーゲ海を中心とした古代ギリシャ世界で語り継がれてきた、神々と人間の壮大な物語群です。
夏には乾いた陽光が降り注ぎ、岩と海とオリーブの木が広がる土地に暮らした人々は、気まぐれで情熱的、そして人間以上に人間らしい神々を生み出しました。
神々は不死である一方、人間と同じように嫉妬し、愛し、怒り、そしてときに残酷な運命に翻弄されます。
現代に伝わる物語の多くは、ホメロスの『イーリアス』『オデュッセイア』、ヘシオドスの『神統記』などの古代叙事詩を原典としています。
王族の愛憎劇に始まり、神々の争いや英雄たちの冒険、時に神と人間の禁断の関係まで——
あらゆる欲望と感情が渦巻くギリシャ神話の世界は、きっとあなたの心を掴んで離さないでしょう。


14世紀ギリシャの写本 PD
「ギリシャ神話」の全体像は、以下で解説しているよ!


知性の女神メティスってどんな神さま?
知性の女神メティスがどんな神さまなのか、さっそく見ていきましょう。



いくぜっ!
簡易プロフィール
正式名称 | メティス Μῆτις |
---|---|
名称の意味 | 知恵 技術 工芸など |
その他の呼称 | メーティス |
ラテン語名 (ローマ神話) | メティス(Metis) |
英語名 | メティス(Metis) |
神格 | 知性の女神 知恵の女神 助言の女神 深い思慮の女神 |
性別 | 女性 |
勢力 | ティタン神族 オケアニデス(Ὠκεανίδες) ※海や泉、地下水などに関わる女神たちの総称で、単数形はオケアニス(Ὠκεανίς) |
主な拠点 | 雷霆の神ゼウス(ΖΕΥΣ)の体内 |
親 | 父:大洋の神オケアノス(Ωκεανός) 母:原始の女神テテュス(Τηθύς) |
兄弟姉妹 | 大河の女神ステュクス(Στύξ) 海の女神ドリス(Δωρίς) ほか、3,000の水のニンフ*のオケアニデス ※自然界の精霊みたいなもん 3,000の河神ポタモイ(Ποταμοί) ※単数形はポタモス(Ποταμός) |
配偶者 | 雷霆の神ゼウス(ΖΕΥΣ) |
子孫 | 戦いの女神アテナ(Ἀθηνᾶ) 便宜と策略の擬人化ポロス(Πόρος) |
対応する星 | 衛星メティス(Jupiter XVI):木星の第16衛星 小惑星メティス(9 Metis):火星と木星の間の小惑星帯にある大型の小惑星 |
概要と出自
メティスはギリシャ神話に登場する知性の女神です。
大洋の神オケアノス(Ωκεανός)と原始の女神テテュス(Τηθύς)のあいだに生まれた彼女は、オリュンポスの神々よりも古いティタン神族の血統に属し、また、主に「淡水」に関わるニンフ(Νύμφη)*1の集団「オケアニデス(Ὠκεανίδες)*2」の1人でもありました。
※1自然界の精霊みたいなもん
※2海や泉、地下水などに関わる女神たちの総称で、単数形はオケアニス(Ὠκεανίς)
メティスには、大河の女神ステュクス(Στύξ)や海の女神ドリス(Δωρίς)をはじめとする、総勢3,000にも及ぶオケアニデスたち、そして同じく3,000柱の河神ポタモイ(Ποταμοί)たちという、膨大な数の兄弟姉妹がいます。


『レ オセアニド』1860年 PD
『神統記』を著したヘシオドスによると、メティスは「並びなく賢い女神」であったとされ、彼女は賢明な助言や深い思慮、計画性や狡猾さ、そして知恵を司りました。
メティスの両親は、共に大地を取り囲むあらゆる「淡水」の源泉を象徴するとされ、父オケアノスが河川や井戸、泉や雨雲などの水を管理し、母テテュスが地下の帯水層を通してそれらを地球全体に分配したと言われています。
その性格ゆえか、彼らはティタン神族の一員ながらも、農耕の神クロノス(Κρόνος)による父・天空の神ウラノス(Οὐρανός)の去勢には荷担せず、また雷霆の神ゼウス(ΖΕΥΣ)率いるオリュンポスの神々との10年戦争「ティタノマキア(Τιτανομαχία)」にも参加しませんでした。
夫婦の賢明なる娘メティスも同様で、彼女はむしろクロノスに飲み込まれた兄弟姉妹を救出せんとするゼウスに手を差し伸べ、彼に催吐剤を授けています。
メティスの助力もあって、ゼウスは5人の兄姉を無事に助け出し、その父クロノスを打ち倒してオリュンポスの王となりました。


『オリュンポス、巨人族の戦い』1764年 PD
若き神々の勝利におおいに貢献した彼女は、他のティタン神族のように原始の奈落タルタロス(Τάρταρος)に幽閉されることもなく、主神ゼウスの最初の妻となります。



ゼウスの正妻といえばヘラだけど、
実はそれ以前にも結婚していたんだね!
しかし、祖父や父と同様に「子に王座を奪われる」という予言を受けたゼウスは、祖父や父と同様に、このとき既に妊娠していたメティスを丸飲みにしてしまいました。
メティスは夫の体内で戦いの女神アテナ(Ἀθηνᾶ)を産み、父の頭をかち割って世に出た娘は、母親の知性を受け継いだ賢き女神として、最高神の補佐に就くことになります。
これ以降、飲み込まれたメティスは、神々の王ゼウスの「善悪を判断する力」という一側面を象徴することになりました。



この出来事によって、ゼウスは知性の源泉を得て、
さらに賢くなったとされるのじゃ



私がブレーキをかけたうえでの、あの節操のなさよ…
ちょっと荷が重いわ…



メティスには他にも、便宜と策略の擬人化ポロス(Πόρος)
という子がいるとされるわよ
名画と共に楽しむ、「メティス」の物語



メティスの活躍を見てみよう!
メティスは、大洋の神オケアノス(Ωκεανός)と原始の女神テテュス(Τηθύς)のあいだに生まれた女性で、「並びなく賢い女神」とも称された知性派の神格です。
地球を巡るあらゆる「淡水」を司る両親のもとで育った彼女は、彼らと同様に、権力闘争や派閥争いには特に関心を示しませんでした。
そのためこの一家は、農耕の神クロノス(Κρόνος)による父・天空の神ウラノス(Οὐρανός)の去勢事件にもまったく関与していません。


『クロノスに去勢されるウーラノス』1560年 PD





よぅやるわ…
叔父のクロノスが神々の王に君臨して、しばらく経ってからのこと。
ここから、メティスの物語も少しずつ動き始めます。
クロノスは妹でもある大地の女神レア(Ῥέα)を妻に迎え、夫婦のあいだには複数の子どもが生まれました。
しかし、「自分の子どもたちに王権を奪われる」という予言に囚われた彼は、妻が赤ん坊を生むたびに、それを片っ端から飲み込んでしまいます。
その後、6番目に生まれた雷霆の神ゼウス(ΖΕΥΣ)だけは、唯一難を逃れて遠く離れたクレタ島の洞窟で成長。


立派な青年となった彼は、父クロノスの体内に捕えられた5人の兄姉を救出するべく、単身神々の王宮へと忍び込みました。



う~ん、来たはええけど、どないしよ
特に作戦もなく行動に出たゼウス、そんな彼に救いの手を差し伸べたのが、今回の主人公メティスです。



やぁ従姉弟よ、これを使うとよろしいよ
クロノスに飲み込まれた5人の神々もまた、彼女にとっては従姉弟にあたる他、メティスは同じ女性として、生んだばかりの子を次々と奪われたレアの悲しみの方に感情移入していました。
そこで彼女は、兄姉の奪還に乗り出したゼウスに、一瓶の催吐剤を渡します。



ウボェァァ!!!オロオロオロロオ!!!
彼はそれを見事に活用し、父クロノスに胃の内容物をすべて吐き出させ、
の5人を助け出しました。
後にオリュンポスの神々と呼ばれる6柱の兄弟姉妹は、クロノス率いるティタン神族に宣戦を布告。
「ティタノマキア(Τιτανομαχία)」と名付けられたその戦いは、単眼巨人キュクロプス(Κύκλωψ)や百手巨人ヘカトンケイル(Ἑκατόγχειρ)といった異種族をも巻き込んだ、10年間にも及ぶ大戦争となりました。


『ティターンズの陥落』1596–1598年頃 PD
結局、この争いはゼウス率いるオリュンポス勢力の勝利に終わり、クロノスをはじめとしたティタン神族は、原始の奈落タルタロス(Τάρταρος)の牢獄に閉じ込められることになります。


しかし、ゼウスの勝利におおいに貢献したメティスと、戦争に参加しなかった彼女の両親、オケアノスとテテュスはその限りではありませんでした。



やぁ、あの時は大変世話になったね



ところで、わしの妻にならんか?



別にいいょ
新たに神々の王となったゼウスは、彼に栄光をもたらした賢きメティスを、最初の妻に迎えます。
聡明な彼女は最高神の妻にふさわしい存在でしたが、この夫婦にも、例によって非常に嫌な予言が下されました。



メティスが最初に生むのは、強く賢き女神
しかし、その次に生まれる男の子が、
ゼウスを玉座から追放するであろう



お前もわしらと同じ目に遭うのじゃ、ざまぁみそらせぇ!
祖父ウラノスは父クロノスによって失脚させられ、その父を息子である自分が討伐。
そして自らもまた、我が子によって滅ぼされてしまうという因果な運命。



失脚は嫌だ…
失脚は嫌だ…
失脚は嫌だ…
予言の成就を恐れた主神ゼウスは、祖父ウラノスと父クロノスがやったのとまったく同じように、むしろそれよりも一手先んじて、息子を産む予定の妻メティスを丸飲みにしてしまいました。



わしごといくんかーーい!!



どんな姿にもなれるメティスを煽って彼女を「一滴の雫」または「蠅」に変身させ、それを飲み込んだとも言われているわよ
しかし、このとき既に、メティスの胎内にはゼウスとの子が宿っていました。
彼女は夫の腹の中で、生まれてくる娘のために、兜や鎧、盾や槍を準備して時を過ごします。


その後、メティスは無事に第一子を出産、生まれた子はゼウスの体内ですくすくと成長し、やがて父の頭部に移動していきました。



…‼⁉⁉⁉⁉



グェェェェェェ‼‼‼‼
頭痛が痛いぃぃぃぃぃぃ‼‼‼
ある日、突然謎の頭痛に襲われた主神ゼウスは、頭の中で大蛇がのたうち回るような苦痛に悶え苦しみます。



あ、あかん…
これはもうあかん…



へパイストスよ、その斧でわしの頭をかち割るのじゃ…!!



え、まじでいいんすか?
あまりの苦しみに耐えかねた彼は、鍛冶の神ヘパイストス(Ἥφαιστος)に命じて、自分の頭を斧で叩き割らせることにしました。
そうでもしないと解消の見込みがないほど、前例のない強烈な激痛だったのです。



は、早ぅ…
早ぅ楽にしてくれや…



チェストォォォォォォ!!!!
ヘパイストスが万力を込めて斧を振り下ろすと、かち割れた最高神の頭からは、全身をガチガチの武装で固めた、見るからに勇壮な女神が現れました。




『アテーナーの誕生』1688年 PD
彼女の名は戦いの女神アテナ(Ἀθηνᾶ)。
父ゼウスの体内で産声を上げたメティスの娘で、戦争のほかにも織物や音楽、さまざまな技巧技術を司るオールマイティな神格です。
※アテナを「母なき女神」と表現する場合も多い



私だ
母親の優れた知性を受け継いだ彼女は、以降、主神ゼウスに最も信頼される娘となりました。
一方、メティスはその後もゼウスの体内に留まり、彼にとっての「賢明な助言者」として機能するようになります。
彼女のサポートでゼウスはより賢くなり、メティスは特に「善悪の判断」において、その後も長く神々と人間たちの世界に影響力をもちました。
この意味で彼女は、もともと独立した神格というよりも、ゼウスの一側面と見なされていたと考えられています。



最初の妻を我が身に宿しながらその浮気三昧…
ちょっと信じられんわ…



世界の支配者の頭脳となる
知恵の女神にとっては、これ以上ない居場所じゃな!
ギリシャ神話をモチーフにした作品



参考までに、「ギリシャ神話」と関連する
エンタメ作品をいくつかご紹介するよ!
おわりに
今回は、ギリシャ神話に登場する知性の女神メティスについて解説しました。



ゼウスも祖父や父と同じルートを通りかけたけど、
どうにか回避したってことなのかしらね



メティスの制御がなかったら、最高神はどんな無茶苦茶をしたんだろうってのも気になるよね!
パパトトブログ-ギリシャ神話篇-では、雄大なエーゲ海が生み出した魅力的な神々や彼らの物語をご紹介していきます。
神さま個別のプロフィール紹介や神話の名場面をストーリー調で解説など、難しい言葉はできるだけ使わずに、あらゆる角度から楽しんでもらえるように持って行こうと考えています。
これからも「ギリシャ神話」の魅力をどんどんご紹介してきますので、良ければまた読んでもらえると嬉しいです!



また来てね!
しーゆーあげん!
参考文献
- ヘシオドス(著), 廣川 洋一(翻訳)『神統記』岩波書店 1984年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『イリアス 上』岩波書店 1992年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『イリアス 下』岩波書店 1992年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『オデュッセイア 上』岩波書店 1994年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『オデュッセイア 下』岩波書店 1994年
- アポロドーロス(著), 高津 春繁(翻訳)『ギリシア神話』岩波書店 1978年
- T. ブルフィンチ(著), 野上 彌生子(翻訳)『ギリシア・ローマ神話』岩波書店 1978年
- 吉田 敦彦『一冊でまるごとわかるギリシア神話』大和書房 2013年
- 阿刀田高『ギリシア神話を知っていますか』新潮社 1984年
- 大林 太良ほか『世界神話事典 世界の神々の誕生』角川ソフィア文庫 2012年
- 中村圭志『図解 世界5大神話入門』ディスカヴァー・トゥエンティワン 2020年
- 歴史雑学探究倶楽部『世界の神話がわかる本』学研プラス 2010年
- 沢辺 有司『図解 いちばんやさしい世界神話の本』彩図社 2021年
- かみゆ歴史編集部『マンガ 面白いほどよくわかる! ギリシャ神話』西東社 2019年
- 鈴木悠介『眠れなくなるほど面白い 図解 世界の神々』日本文芸社 2021年
- 松村 一男監修『もう一度学びたいギリシア神話』西東社 2007年
- 沖田瑞穂『すごい神話―現代人のための神話学53講―』新潮社 2022年
- 杉全美帆子『イラストで読む ギリシア神話の神々』河出書房新社 2017年
- 中野京子『名画の謎 ギリシャ神話篇』文藝春秋 2015年
- 千足 伸行監修『すぐわかるギリシア・ローマ神話の絵画』東京美術 2006年
- 井出 洋一郎『ギリシア神話の名画はなぜこんなに面白いのか』中経出版 2010年
- 藤村 シシン『古代ギリシャのリアル』実業之日本社 2022年
- 中村圭志『教養として学んでおきたいギリシャ神話』マイナビ出版 2021年
- かみゆ歴史編集部『ゼロからわかるギリシャ神話』イースト・プレス 2017年
- THEOI GREEK MYTHOLOGY:https://www.theoi.com/
他…