こんにちは!
今回はギリシャ神話より
イタキ島の女王ペネロペを紹介するよ!
今回は人間族の紹介ね
彼女はどんなキャラクターなの?
彼女はスパルタ王家に生まれた王女で、「トロイア戦争」
の英雄であるイタキ島の王オデュッセウスの妻なんだ!
20年ものあいだ夫の帰りを待ち続けた、
物語のラストを飾るにふさわしい人物なのじゃ
ではさっそくいってみよう!
このシリーズでは、忙しいけど「ギリシャ神話」についてサクっと理解したいという方向けに、「かんたん・わかりやすい」がテーマの神々の解説記事を掲載していきます。
雄大なエーゲ海と石灰岩の大地が生み出した、欲望に忠実な神々による暴力的でありながらもどこかユーモラスな物語群が、あなたに新たなエンターテイメントとの出会いをお約束します。
人間味溢れる自由奔放な神々の色彩豊かで魅力的な物語に、ぜひあなたも触れてみてくださいね。
今回は、スパルタの王家に生まれた美しき才女で、後にトロイア戦争の英雄となるイタキ島の王オデュッセウスと結婚し、20年ものあいだ夫の帰りを待ち続けた、気丈かつ健気な偉大なる女王ペネロペをご紹介します!
忙しい人はコチラから本編にすっ飛びじゃ
この記事は、以下のような方に向けて書いています。
- ギリシャ神話にちょっと興味がある人
- ギリシャ神話に登場する神さまのことをざっくり知りたい人
- とりあえず誰かにどや顔でうんちく話をしたい人
- ギリシャ神話に登場する「イタキ島の女王ペネロペ」について少し詳しくなります。
- あなたのエセ教養人レベルが1アップします。
そもそも「ギリシャ神話」って何?
「ギリシャ神話」とは、エーゲ海を中心とした古代ギリシャ世界で語り継がれてきた、神々と人間の壮大な物語群です。
夏には乾いた陽光が降り注ぎ、岩と海とオリーブの木が広がる土地に暮らした人々は、気まぐれで情熱的、そして人間以上に人間らしい神々を生み出しました。
神々は不死である一方、人間と同じように嫉妬し、愛し、怒り、そしてときに残酷な運命に翻弄されます。
現代に伝わる物語の多くは、ホメロスの『イーリアス』『オデュッセイア』、ヘシオドスの『神統記』などの古代叙事詩を原典としています。
王族の愛憎劇に始まり、神々の争いや英雄たちの冒険、時に神と人間の禁断の関係まで——
あらゆる欲望と感情が渦巻くギリシャ神話の世界は、きっとあなたの心を掴んで離さないでしょう。


14世紀ギリシャの写本 PD
「ギリシャ神話」の全体像は、以下で解説しているよ!


イタキ島の女王ペネロペってどんな人物?
イタキ島の女王ペネロペがどんな人物なのか、さっそく見ていきましょう。
いくぜっ!
簡易プロフィール
| 正式名称 | ペネロペ Πηνελόπη |
|---|---|
| 名称の意味 | 諸説あり |
| その他の呼称 | ペーネロペー ペネロペイア(Πηνελοπεια) ペーネロペイア |
| ラテン語名 (ローマ神話) | ペネロペ(Penelope) |
| 英語名 | ペネロペ(Penelope) |
| 神格 | イタキ島の女王 |
| 性別 | 女性 |
| 勢力 | 人間族 |
| 主な拠点 | イタキ島 |
| 親 | 父:スパルタの王イカリオス(Ἰκάριος) 母:水の精霊ペリボイア(Περίβοια) |
| 兄弟姉妹 | スパルタの王子トアス(Θόας) スパルタの王子ダマシッポス(Δαμάσιππος) スパルタの王子イメウシモス(Ἰμεύσιμος) スパルタの王子アレテス(Ἀλήτης) スパルタの王子ペリレオス(Περίλεως) |
| 配偶者 | イタキ島の王オデュッセウス(Ὀδυσσεύς) 魔女の息子テレゴノス(Τηλέγονος)とも 伝令の神ヘルメス(Ἑρμης)とも ※キュレネ山の精霊ペネロペイア(Πηνελοπεια)と同一視される関係で |
| 子孫 | オデュッセウスとの間に、 イタキ島の王子テレマコス(Τηλέμαχος) イタキ島の王子ポリポルテス(Πολιπόρθης) ヘルメスとの間に、 牧神パン(Παν)とも ※キュレネ山の精霊ペネロペイア(Πηνελοπεια)と同一視される関係で |
概要と出自
ペネロペはギリシャ神話に登場する人間族の女王です。
彼女はスパルタの王イカリオス(Ἰκάριος)と水の精霊ペリボイア(Περίβοια)の娘で、その兄弟には
- トアス(Θόας)
- ダマシッポス(Δαμάσιππος)
- イメウシモス(Ἰμεύσιμος)
- アレテス(Ἀλήτης)
- ペリレオス(Περίλεως)
といった戦士たちがいました。
紅一点の美女であったペネロペは、後にトロイア戦争の英雄と謳われるイタキ島の王オデュッセウス(Ὀδυσσεύς)と結婚。
最終的に、王子テレマコス(Τηλέμαχος)やポリポルテス(Πολιπόρθης)といった息子たちをもうけたと伝えられています。


『ペーネロペー』 1864年 PD
実は、そもそもペネロペとオデュッセウスの結婚自体が、トロイア戦争物語の”前日譚”とも呼べるものでした。
美しきスパルタの王女ヘレネ(Ἑλένη)のもとに有象無象の求婚者の群れが集った際、自分が夫に選ばれる可能性は限りなく低いと判断した狡猾な策士オデュッセウスは、候補者全員に対して、
誰が彼女に選ばれようとも、ここにいる求婚者は全員、
花婿と花嫁を生涯にわたって支えると誓おうではないか!!
と、宣言。
後々のトラブルを見事に回避する奇策で、スパルタ王家を大いに喜ばせます。
この手柄を起点にテュンダレオス王(Τυνδάρεως)に接触したオデュッセウスは、見返りとして彼に、ヘレネほどではないにせよ十分に美しい―かつ、今のところは誰も狙っていない―ペネロペとの結婚の仲介を依頼しました。
その後、王女の父であるイカリオス王の承諾も得たことで、この2人はめでたく夫婦となったのです。


『オデュッセウスとペネロペ』1563年頃 PD
へぇ、そんな裏話があったなんて、今の今まで
知りませんでしたわ…(ビキビキビキ
なんだかんだで、しばらくは幸せな生活を送った彼らですが、トロイアの王子パリス(Πάρις)と件の王女ヘレネの「愛の逃避行」事件が勃発すると、事態は一変――。
※誘拐とする説も
ギリシャ勢力は軍を挙げてトロイアに攻め込むことになり、智将として名高いオデュッセウスもまた、この戦争に容赦なく招集されてしまいます。
こうして、生まれたばかりの息子テレマコスを抱えたペネロペは、ここから都合20年もの間、女手一つでイタキ島の運営を切り盛りすることになりました。


『イサカ』 1821年 PD
そんな彼女は、夫オデュッセウスの10年にも及ぶ故郷への旅を描いた物語『オデュッセイア(Ὀδύσσεια)』に登場。
最後の最後まで気丈に振る舞い、愛する人を待ち続けた、凛とした魅力的な女性としての活躍が描かれています。
ペネロペが関わった主なストーリー
ペネロペの活躍を見てみよう!
夫オデュッセウスの帰りを待つペネロペ、
100名を超える求婚者たちに追いつめられる!!
ここはギリシャ西部、イオニア海に浮かぶイタキ島――。
この島を治める女王ペネロペは、なんと20年ものあいだ、たった一人であらゆる政治・行政を取り仕切っていました。
というのも、彼女の夫にして王でもあるオデュッセウス(Ὀδυσσεύς)が、「トロイア戦争」に出征して以降、10年待てども15年待てども、一向に故郷へと戻る様子がなかったからです。
それでもペネロペは、律儀かつ健気に愛する人の帰還を待ち続けましたが、イタキ島の住民全員が、同じ忠誠心を持ち合わせているとは限りません。
事実、いつしか「オデュッセウス死亡説」なるとんでもない噂も流布されるようになり、それを聞きつけた内外のしょうもない男たちが、次なるペネロペの夫の座を狙って島へと押しかけてくるようになりました。
この自称・求婚者たちはオデュッセウス家の宮廷を占拠し、家畜を食い荒らしては、毎晩のように豪奢な宴を続けたとされています。


1823年-1838年
出典:ニューヨーク公共図書館 PD
ペネロペのもとに集ってきた100名を超える求婚者は、
以下の通りだよ!
完全なる筆者の自己満足じゃから、
真面目にみる必要は1mmもないぞぃ
※同名の人物もいます
とりあえず、バカみたいな規模感であること
を感じてもらえればOKよ
| ドゥーリキオン出身者 | ||
| アンフィノモス(Ἀμφίνομος) | トアス(Θόας) | デモプトレモス(Δημοπτόλεμος) |
| アンフィマコス(Ἀμφίμαχος) | エウリュアロス(Εὐρύαλος) | パラロス(Πάραλος) |
| エヴェノリデス(Εὐηνορίδης) | クリティオス(Κλύτιος) | アゲノール(Ἀγήνωρ) |
| エウリュピュロス(Εὐρύπυλος) | ピュライメネス(Πυλαιμένης) | アカマース(Ἀκάμας) |
| テルシロコス(Θερσίλοχος) | ハギオス(Ἅγιος) | クリュメノス(Κλυμένης) |
| フィロデモス(Φιλόδημος) | メネプトレモス(Μενεπτόλεμος) | ダマストール(Δαμάστωρ) |
| ビアス(Βίας) | テルミオス(Τέλμιος) | ポリュイドス(Πολύιδος) |
| アスチュロコス(Ἀστυλόχος) | スケディオス(Σχήδιος) | アンティゴノス(Ἀντίγονος) |
| マルプシオス(Μάρψιος) | イピダマス(Ἰφιδάμας) | アルギオス(Ἀργῖος) |
| グラウコス(Γλαῦκος) | カリュドネウス(Καλυδόνειος) | エキオン(Ἐχίων) |
| ラマス(Λάμας) | アンドライモン(Ἀνδραίμων) | アゲロコス(Ἀγήροχος) |
| メドーン(Μέδων) | アグリオス(Ἄγριος) | プロモス(Πρόμος) |
| クテシオス(Κτήσιος) | アカルナーン(Ἀκαρνάν) | キュクノス(Κύκνος) |
| プセラス(Ψηράς) | ヘッラニコス(Ἑλλάνικος) | ペリフロン(Περίφρων) |
| メガステネス(Μεγασθένης) | スラシュメーデス(Θρασυμήδης) | オルメニオス(Ὀρμένιος) |
| ディオピテス(Διοπίθης) | メキステウス(Μεκίστευς) | アンティマコス(Ἀντίμαχος) |
| プトレマイオス(Πτολεμαῖος) | レストリデス(Ληστωρίδης) | ニコマコス(Νικόμαχος) |
| ポリュポイテース(Πολυποίτης) | ケラオス(Κέραος) | アゲラオス(Ἀγέλαος) |
| ピサンドロス(Πείσανδρος) | エラトス(Ἔλατος) | クテシッポス(Κτήσιππος) |
| ヒッポドコス(Ἱππόδοχος) | エウリュストラトス(Εὐρύστρατος) | アルケモロス(Ἀρχέμολος) |
| イタコス(Ἰθακός) | ピセノール(Πεισήνωρ) | ヒュペレノール(Ὑπέρηνωρ) |
| ペロエテース(Φεροίτης) | アンティステネス(Ἀντισθένης) | ケルベロス(Κέρβερος) |
| ペリメデス(Περιμήδης) | キュンノス(Κύννος) | トリアソス(Θρίασος) |
| エテオネウス(Ἐτεωνεύς) | クリティオス(Κλύτιος) | プロトオス(Πρόθοος) |
| リュカイトス(Λύκαιθος) | エウメロス(Εὔμελος) | イタノス(Ἴτανος) |
| リュアンモス(Λύαμμος) | ||
| ザキントス島出身者 | ||
| エウリュロコス(Εὐρύλοχος) | ラオメデース(Λαομήδης) | モレブス(Μόλεβος) |
| フレニオス(Φρένιος) | インディオス(Ἴνδιος) | ミニス(Μίνις) |
| リオクリトス(Λιόκριτος) | プロノモス(Πρόνομος) | ニーサス(Νίσας) |
| ダイモーン(Δαίμων) | アルケストラトス(Ἀρχέστρατος) | ヒッポマコス(Ἱππόμαχος) |
| エウリュアロス(Εὐρύαλος) | ペリアロス(Περίαλλος) | エヴェノリデス(Εὐηνορίδης) |
| クリティオス(Κλύτιος) | アゲノール(Ἀγήνωρ) | ポリュボス(Πολύβος) |
| ポリュドロス(Πολύδωρος) | タデュティオス(Θαδύτιος) | ストラティオス(Στράτιος) |
| フレニオス(Φρένιος) | インディオス(Ἴνδιος) | ダエセノール(Δαισήνωρ) |
| ラオメドン(Λαομέδων) | ラオディコス(Λαοδίκης) | ハリオス(Ἁλίος) |
| マグネース(Μάγνης) | オロエトロコス(Ὀλοίτροχος) | バルタス(Βάρθας) |
| テオプロン(Θεόφρων) | ニッサイオス(Νισσαῖος) | アルカロプス(Ἀλκαρώψ) |
| ペリクリュメノス(Περικλύμενος) | アンテノール(Ἀντήνωρ) | ペラス(Πέλλας) |
| ケルトス(Κέλτος) | ペリポス(Πέριφος) | オルメノス(Ὀρμηνός) |
| ポリュボス(Πολύβος) | アンドロメデス(Ἀνδρομήδης) | |
| イタキ島出身者 | ||
| アンティノオス(Ἀντίνοος) | プロノオス(Πρόνοος) | リオデス(Λειώδης) |
| エウリュノモス(Εὐρύνoμος) | アンフィマコス(Ἀμφίμαχος) | アンフィアロス(Ἀμφίαλος) |
| プロマコス(Πρόμαχος) | アンフィメドン(Ἀμφιμέδων) | アリストラトス(Ἀρίστρατος) |
| ヘレノス(Ἕλενος) | デュリケウス(Δουλίχειος) | クテシッポス(Κτήσιππος) |
以上、アポロドーロス『ギリシア神話』より抜粋


『ペネロペと求婚者たち』1911年-1912年 PD
はぁ~~~~(クソデカため息)
ただでさえクソ忙しいってのに、
頭が痛いったらありゃしないわ……
蠅のように鬱陶しい男たちから返事を急かされたペネロペは、
義父のラエルテス(Λαέρτης)*に贈る死装束を
織るのに忙しゅうてのぅ……
この仕事が終わったら、腰を据えて再婚を検討しますわ
と言って、これを昼に織り、夜に解くことで、3年もの間、しつこい求婚者たちを誤魔化し続けました。


「ペネロペは、紡ぎと織りをする女たちに囲まれ、大きな織物の台の中央に立っている」
1540年~1550年頃
出典:メトロポリタン美術館 PD
とはいえ、さすがに無理のあったこの計略は、男どもと懇ろになっていた侍女メラント(Μελανθώ)の密告により露見してしまいます。
求婚者たちは女王のもとに詰め寄り、機知に富んだ才女のペネロペも、さすがに苦しい状況へと追い込まれました。
ぐぬぬぬ……
ついに帰還したオデュッセウス、
忠臣と息子と共に作戦を立てる!!
――その、数日前のこと。
イタキ島のとある海岸に、深い眠りについた一人の男性の姿がありました。
この人物こそが島の王オデュッセウス――。
10年も続いた「トロイア戦争」のあと、さらに10年ものあいだ放浪の旅を余儀なくされ、ついにようやく、故郷の土を踏むことが許された英雄です。
彼は、親切なるパイアキア人の船団によって運ばれ、神々の力でぐっすりと眠っている間に、ここイタキ島へと送り届けられました。


『オデュッセイア』の航路図
前回までのお話はコチラ!!


……ふぁぁ~、どこじゃぁ、ここはぁ?
アホか、ようやく故郷に戻ったんやで、おどれは
戦いの女神アテナ(Αθηνη)の助言を受けたオデュッセウスは、彼女の力で年老いた物乞いの姿に変装し、クレタ島から来た亡命者という体で周辺の調査に乗り出します。
いろいろ状況が変わっとるからなぁ
いきなりご本人登場は、さすがに悪手やろがぃ
オデュッセウスはさっそく、忠実な豚飼いのエウマイオス(Εὔμαιος)が住む小屋へと向かいました。
彼は、みすぼらしいなりの老人を温かくもてなし、相手が本人であることも知らずに、主君オデュッセウスを盛大に褒め称えます。


『豚飼い頭のエウマイオス』 1925年 PD
(ぐすん、こやつは昔っからええ奴じゃったのぅ~…)
すると、2人が語らいを続ける小屋に、精悍な顔立ちをした、若く逞しい一人の青年が現れました。
!!!!???
お、お前、まさか、テレマコスか!?
……?
はて、どこかでお会いしましたかな?
そう、その人物はオデュッセウスの一人息子であるテレマコス(Τηλέμαχος)――。
「トロイア戦争」勃発時、まだ生まれたばかりの赤ん坊であった彼は、20年の時を経て立派な若者へと成長していたのです。


「エウマイオスと、変装したオデュッセウス、テーレマコス」
年代不明 PD
女神アテナは、エウマイオスが出かけて行ったこのタイミングで魔法を解き、オデュッセウスを再び若々しい姿に戻します。
ダディ、生きとったんかワレ
あたしってば気が利く~☆


感動の再会を果たした親子はしばらくのあいだ語り合い、テレマコス自身も父を探してあちこちを旅していたこと、スパルタの地にアテナが自らやって来て、すぐにイタキ島へと戻るよう彼を促したことを聞きました。
その後、オデュッセウスは息子から、
- 妻ペネロペが100名を超える求婚者に迫られて困っていること
- 目の上のたん瘤であるテレマコスが、割と露骨に命を狙われていること
- 求婚者たちが宮殿の財産を食い荒らし、島の治安が悪化していること
- 一部の侍女も男たちとよろしくやって、すっかり堕落してしまっていること
を聞き出します。


「求婚者たちが彼女の手をめぐって争う中、ペネロペが機織りをしている絵」1474年
出典:ニューヨーク公共図書館 PD
親子で綿密な打ち合わせを行った後、イタキ王は再び年老いた物乞いの姿に変身し、エウマイオスを伴って宮廷の実地調査に出向きました。
現地の状況と言ったら、聞いていた以上に惨憺たるものであったようです。
貧相な姿に扮したオデュッセウスは、求婚者の一人であるアンティノオス(Ἀντίνοος)に散々に嘲られ、足台を投げつけられたほか、別の物乞いであるイーロス(Ἶλος)と強制的に喧嘩をさせられて、やむなく自身が勝利を収めるという場面もありました。
唯一、オデュッセウスの愛犬であったアルゴス(Ἄργος)だけは、その正体にいち早く気付き主人の戻りを歓迎しますが、20年の時を経てすっかり老犬となっていた彼は、久方ぶりの再会の直後に天へと召されてしまいます。
(おぉ、我が愛犬よ…しかし、ここで泣くわけにはいかぬ…)
(正体がバレてしまうからのぅ…ぐすっ…)


1886年 PD
さらに、男共との不貞行為に耽る下女たちの乱れっぷりや、密告の侍女メラントの暴言、その兄弟であるメランティオス(Μελάνθιος)の横暴を目の当たりにしたイタキ島の主は、
よろしい、ならば戦争だ
として、獅子身中の虫どもを討滅する決意を固めました。
あいつら……駆逐してやる!
この世から……一匹残らず!
オデュッセウスは息子テレマコスと共に、愛する妻ペネロペを助け出す絶好のタイミングを窺います。
乳母のエウリュクレイア(Εὐρύκλεια)に足を洗ってもらった際、太ももの傷跡からオデュッセウスの正体がバレたんだけど、空気を読んで秘密が保たれるという一幕もあったんだよ!


『ユリスとエウリュクレ』 1849年 PD
ついに再会を果たす夫婦!
邪魔者どもを根絶やしにして20年分の「愛」を語り合う!!
時間を戻して、現在――。
侍女メラントの密告によって窮地に立たされた女王ペネロペは、最後の手段として、求婚者たちに以下のような条件を突きつけました。
我が夫が愛用したこの弓を用いて、
12本の斧の枘穴に矢を射通してみせよ!
これくらいのことができぬようでは、
私の相手など到底務まらぬわ!!
(…と、言いつつ、求婚の贈り物として、
奴らの財産はしっかり巻き上げてるんだけどね☆)


その逸品は、並の人間では十分に引くこともままならぬほどの強弓であったため、当然ながら男たちは全員、次々に候補者から脱落していきます。
彼らも彼らで、弓を温めたり油を塗ったりして工夫しますが、ペネロペが課す条件を満たす者はついぞ現れませんでした。
(計画通り)
彼女がそう思った矢先、求婚者の群れの後ろの方から、物乞いのような身なりをした貧相な男がふらりと前に歩み出ます。
彼は、件の強弓をいとも容易く引き絞ると、凄まじい勢いの矢を放ち、12本の斧の穴を見事に射抜いてみせました。
アバババババババ…
ま、まさか本当にやりやがる者がおるとは……
しかし、約束したもんはしゃぁない…
兄さんや、あんたの名前を……
サプラーイズ!


「ペネロペは、物乞いの姿で戻ってきたオデュッセウスに遭遇する」
出典:Miguel Hermoso Cuesta CC BY-SA 4.0
完璧なタイミングで正体を明かしたオデュッセウスは、息子テレマコス、豚飼いのエウマイオス、そして牛飼いのフィロイティオス(Φιλοίτιος)と共に、切った張ったの大立ち回りを開始。
ゆうに100名を超える求婚者たちを一人残らず討伐し、メランティオスをはじめとした離反者や、男たちと交わった12人の侍女も容赦なく極刑に処してしまいます。
※一部の詩人などは助命されたらしい


『オデュッセウスとテーレマコスによる求婚者の殺戮』
1812年 PD
一通りの内患が根絶やしにされた後、乳母エウリュクレイアはペネロペに、
この物乞いこそ、あなたの夫オデュッセウスですのょ
と報告しますが、当の本人は、風呂を済ませ王衣をまとったその姿を見てもなお、
えっ、信じられませんわぁ…
20年もおらんかったもんが、
昨日の今日で戻った言われましても…
と、いまだにその現実を受け入れられない様子。
ペネロペは、最後の試みとして、
ほんなら、結婚の時にもらったベッドを
別室に移動してくれますやろか
と問うと、オデュッセウスは、
えっ…?
ベッドの脚は生きたオリーブの木で作ったから、
そこから動かせるはずないやんけ
と回答。
あ、あんたーーーーー‼‼


出典:ニューヨーク公共図書館 PD
2人しか知り得ぬことを知っていたことが、何よりの真実の証拠となり、彼女はここでようやく、夢にまで見た夫との再会を喜びました。
アテナは、暁の女神エオス(Ἠώς)に命じて「夜」を延長し、この2人が20年分の愛を語り合えるよう、十分な時間を与えたと伝えられています。
その後、ペネロペはオデュッセウスと共に幸福に暮らし、夫婦の間には新たな息子ポリポルテス(Πολιπόρθης)も誕生しました。
こうして、20年もの歳月をかけて繰り広げられた夫の過酷な冒険と、妻の忍耐の日々は、美しい大団円として報われることになったのです。
めでたし、めでたし――。


『ユリスとペネロペ』1706年
出典:ニューヨーク公共図書館 PD
めでたくハッピーエンドを迎えたペネロペとオデュッセウスですが、この『オデュッセイア』の物語には、ほかにも様々な後日談が存在します。
ここでは、その中から女王ペネロペの末路に関係するものを、ざっくり箇条書きでご紹介しておきます。
- 島を去ったオデュッセウスがテスプロティアの女王カリディケ(Καλλιδίκη)と結婚し、息子ポリュポイテス(Πολυποίτης)が誕生。
その後、彼が再びイタキ島に戻ってきた頃にポリポルテスが生まれている。 - オデュッセウスとアイアイエ島の魔女キルケー(Κιρκη)の息子であるテレゴノス(Τηλέγονος)が、事故で父親の命を奪う。
その後、ペネロペはこのテレゴノスと、テレマコスはキルケーと結婚する。 - ペネロペが求婚者の一人であるアムピノモス(Ἀμφίνομος)と不倫したので、オデュッセウスにより追放された、あるいは命を奪われた。
ろくな展開がないじゃない!!
なんで綺麗に終わらせてくれなかったのかしら?
ギリシャ神話をモチーフにした作品
参考までに、「ギリシャ神話」と関連する
エンタメ作品をいくつかご紹介するよ!
おわりに
今回は、ギリシャ神話に登場するイタキ島の女王ペネロペについて解説しました。
一大叙事詩のラストを飾るにふさわしい、
劇的な展開の物語だったわね~
20年も待つって、普通に考えたら、
なかなかできることじゃないよね!
パパトトブログ-ギリシャ神話篇-では、雄大なエーゲ海が生み出した魅力的な神々や彼らの物語をご紹介していきます。
神さま個別のプロフィール紹介や神話の名場面をストーリー調で解説など、難しい言葉はできるだけ使わずに、あらゆる角度から楽しんでもらえるように持って行こうと考えています。
これからも「ギリシャ神話」の魅力をどんどんご紹介してきますので、良ければまた読んでもらえると嬉しいです!
また来てね!
しーゆーあげん!
参考文献
- ヘシオドス(著), 廣川 洋一(翻訳)『神統記』岩波書店 1984年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『イリアス 上』岩波書店 1992年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『イリアス 下』岩波書店 1992年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『オデュッセイア 上』岩波書店 1994年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『オデュッセイア 下』岩波書店 1994年
- アポロドーロス(著), 高津 春繁(翻訳)『ギリシア神話』岩波書店 1978年
- T. ブルフィンチ(著), 野上 彌生子(翻訳)『ギリシア・ローマ神話』岩波書店 1978年
- 吉田 敦彦『一冊でまるごとわかるギリシア神話』大和書房 2013年
- 阿刀田高『ギリシア神話を知っていますか』新潮社 1984年
- 大林 太良ほか『世界神話事典 世界の神々の誕生』角川ソフィア文庫 2012年
- 中村圭志『図解 世界5大神話入門』ディスカヴァー・トゥエンティワン 2020年
- 歴史雑学探究倶楽部『世界の神話がわかる本』学研プラス 2010年
- 沢辺 有司『図解 いちばんやさしい世界神話の本』彩図社 2021年
- かみゆ歴史編集部『マンガ 面白いほどよくわかる! ギリシャ神話』西東社 2019年
- 鈴木悠介『眠れなくなるほど面白い 図解 世界の神々』日本文芸社 2021年
- 松村 一男監修『もう一度学びたいギリシア神話』西東社 2007年
- 沖田瑞穂『すごい神話―現代人のための神話学53講―』新潮社 2022年
- 杉全美帆子『イラストで読む ギリシア神話の神々』河出書房新社 2017年
- 中野京子『名画の謎 ギリシャ神話篇』文藝春秋 2015年
- 千足 伸行監修『すぐわかるギリシア・ローマ神話の絵画』東京美術 2006年
- 井出 洋一郎『ギリシア神話の名画はなぜこんなに面白いのか』中経出版 2010年
- 藤村 シシン『古代ギリシャのリアル』実業之日本社 2022年
- 中村圭志『教養として学んでおきたいギリシャ神話』マイナビ出版 2021年
- かみゆ歴史編集部『ゼロからわかるギリシャ神話』イースト・プレス 2017年
- THEOI GREEK MYTHOLOGY:https://www.theoi.com/
他…










