【忙しい人のための日本神話】エピソード5/太陽の御子と約束の地【あらすじ紹介】

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忙しい人のための日本神話エピソード5
とと(父)

こんにちは!
忙しい人のための神話解説コーナーだよ!

この記事では、忙しいけど日本神話についてサクっと理解したいという方向けに、『古事記』をベースにした神話のメインストーリーをざっくりとご紹介していきます。

とりあえず主だった神さまの名前と、ストーリーラインだけ押さえておきたいという方向けのシリーズとなります。

日本書紀』にのみ見られる独自の展開や、各地に伝わる『風土記ふどき』に記されたエピソードなどは、神さま個人(神)を紹介した個別記事をご覧ください。

ヒヒ

とりあえず大まかな流れをつかむというコンセプトじゃ
補足情報は【Tips】として解説しとるが、読み飛ばしても全然OKじゃぞ

ことと

関連記事のリンクを貼っているから、
気になった方はそちらもチェックしてね

とと(父)

ではさっそくいってみよう!

ヒヒ

忙しい人はコチラから本編にすっ飛びじゃ

この記事は、以下のような方に向けて書いています。

  • 日本神話にちょっと興味がある人
  • 日本神話に登場する神さまのことをざっくり知りたい人
  • とりあえず誰かにどや顔でうんちく話をしたい人
この記事を読むあなたのメリット
  • 日本神話のメインストーリーをざっくりと把握出来ます。
  • あなたのエセ教養人レベルが1アップします。
目次

まじで忙しい人のための結論

本気で忙しいあなたのために、今回ご紹介する物語のストーリーラインを、箇条書きでざっくりまとめておきます。

ことと

ぱっと見で把握してね

ヒヒ

何ならここを読むだけでもOKじゃぞ

今回ご紹介する『天孫降臨てんそんこうりん神話』のストーリー

  • 葦原中国あしはらのなかつくにを手中に収めた高天原たかまがはらの神々、天照大御神あまてらすおおみかみは地上統治の担当者に天之忍穂耳命あめのおしほみみのみことを指名する
  • 天之忍穂耳あめのおしほみみはこれを辞退し、自身の息子である邇邇芸命ににぎのみことを推薦する
  • 旅立ちの準備のさなか、突如現れた猿田毘古神さるたびこのかみ天津神あまつかみの先導役を申し出る
  • 天宇受売命あめのうずめのみことをはじめとした有力な神々の護衛のもと、邇邇芸ににぎ筑紫つくし(九州)日向ひむか(宮崎県)にある高千穂たかちほの嶺に天降あまくだ
  • 地上の統治を軌道に乗せた邇邇芸ににぎは、木花之佐久夜毘売命このはなのさくやびめのみことに結婚を申し込む
  • 女神の父・大山津見神おおやまつみのかみは姉の石長比売命いわながひめのみことも一緒に嫁がせるが、邇邇芸ににぎはこれを拒否、歴代の天皇に寿命の概念が生まれる
  • 邇邇芸ににぎ佐久夜毘売さくやびめの間に、火照命ほでりのみこと火須勢理命ほすせりのみこと火遠理命ほおりのみことの3兄弟が誕生する

そもそも「日本神話」って何?

日本神話」とは、ざっくり言うと「日本ってどうやって生まれたの?」を説明してくれる物語です。

原初の神々や日本列島の誕生、個性豊かな神さまが活躍する冒険譚や、彼らの血を引く天皇たちの物語が情緒豊かに描かれています。

現代の私たちが知る「日本神話」の内容は、『古事記こじき』と『日本書紀にほんしょき』という2冊の歴史書が元になっています。

これらは第四十代天武てんむ天皇の立案で編纂が開始され、それぞれ奈良時代のはじめに完成しました。

国家事業として作られた以上、政治的な色合いがあることは否めませんが、堅苦しくて小難しいかと思ったらそれは大間違い

強烈な個性を持つ神々がやりたい放題で引き起こすトラブルや恋愛模様は、あなたをすぐに夢中にさせることでしょう。

とと(父)

日本神話」の全体像は、以下で解説しているよ!

枝年昌『岩戸神楽之起顕』1889年
枝年昌『岩戸神楽之起顕』1889年 PD

さぁ、あなたも情緒あふれる八百万やおよろずの神々が住まう世界に、ともに足を踏み入れてみましょう。

主な登場人物

ヒヒ

この物語の登場人物(神)をざざ~っと挙げておくぞい

エピソード5/太陽の御子みこと約束の地

前回までのあらすじ

根之堅洲國ねのかたすくにの統治者である建速須佐之男命たけはやすさのをのみことの数々の試練を乗り越えた大国主神おおくにぬしのかみは、彼の娘である須勢理毘売命すせりびめのみことを正妻に迎え、地上の王に即位するべく再び葦原中国あしはらのなかつくにへと戻りました。

かつて自身を陥れた八十神やそがみを残らず粛清した大国主おおくにぬしは、八千矛神やちほこのかみと名乗って各地を巡り、子種をばら撒いては数多くの子孫を残します。

その後、須勢理毘売すせりびめとの関係も改善し、家庭内の問題も片付いた大国主おおくにぬしは、いよいよ真面目に国作りに取り組む決意をしました。

そんな折に彼が偶然出会ったのが、海の彼方の常世国とこよのくにからやって来た少名毘古那神すくなびこなのかみです。

神産巣日神かみむすびのかみの命によりタッグを組むことになった2神は、力を合わせて国土開発事業に激しい情熱を燃やしました。

加えて大物主神おおものぬしのかみの助力も得た大国主おおくにぬしは、無事に国作りを完了し、地上を治める善王として大地を大いに栄えさせます。

しかし、平和に暮らしていた国津神くにつかみのもとに、青天霹靂せいてんへきれきの侵略者が現れました。

天の世界・高天原たかまがはらを治める天照大御神あまてらすおおみかみが、地上の支配権譲渡と天津神あまつかみへの服属を要求してきたのです。

老獪な政治家のような手腕を身につけた大国主おおくにぬしは、天之菩卑能命あめのほひのみこと天若日子あめのわかひこといった天からの使者を次々と懐柔かいじゅうし、ゆうに10年を超える時を稼ぎます。

しかし高天原たかまがはらの神々は、最終兵器とも呼べる刀剣の神・建御雷之男神たけみかづちのをのかみを地上に派遣。

大国主おおくにぬしの2人の息子である事代主神ことしろぬしのかみ建御名方神たけみなかたのかみも彼に敗れ、進退窮まった地上の王は、ついに天津神あまつかみへの降伏を宣言します。

こうして「国譲くにゆずり」は成され、地上の世界・葦原中国あしはらのなかつくにの統治権は高天原たかまがはらの神々に移譲されることになりました。

前回のストーリーはコチラ!

とと(父)

今回は、地上の世界を手中に収めた天津神あまつかみたちの物語だよ!

ことと

果たした役割は重要なのに、
肝心なところで残念なアイツが主人公ね

ヒヒ

有名な『天孫降臨てんそんこうりん神話』の場面じゃな

【名誉?】生まれたばかりの日の御子みこ、地上赴任を任される【しわ寄せ?】

天の世界・高天原たかまがはらに住まう天津神あまつかみは、老獪な手練手管てれんてくだを駆使する大国主おおくにぬしに大いに手を焼きながらも、十数年の時を経てようやく地上の世界・葦原中国あしはらのなかつくにをその手中に収めました。

こうなると必要になってくるのが、実際に地上世界に赴任して、現地を円滑に統治する担当者です。

天の世界のイメージ

その第一候補に挙がったのが、天照あまてらすの長男坊である天之忍穂耳命あめのおしほみみのみことでした。

皆さんは覚えておいででしょうか。

この天之忍穂耳あめのおしほみみはそもそも「国譲くにゆずり」の前、地上平定の使者第一号に選ばれながら、荒ぶる国津神くにつかみに恐れをなして職務を放棄した、生粋のボンボンです。

母である天照あまてらすも、形だけでも花をもたせておかないと長男のメンツに関わると考えたのでしょうか。

彼女は葦原中国あしはらのなかつくにの地方官に、改めて天之忍穂耳あめのおしほみみを指名したのです。

アマテラス

下の連中はもう逆らわんから、あんたもう1回行ってきなさい

アメノオシホミミ

その話なんじゃがのう…

ここで手のかかる長男坊から返ってきた答えは、実に意外なものでした。

アメノオシホミミ

この大変に栄光ある大役ですが…
その名誉は我が息子に譲りたいとです…(キリッ

先述の通り、天之忍穂耳あめのおしほみみが地上平定の使者に指名されてから実際に「国譲くにゆずり」が成されるまでの間には、ゆうに10年を超える歳月が経っています。

何と彼はその間に、高御産巣日神たかみむすびのかみの娘である万幡豊秋津師比売命よろづはたとよあきつしひめのみことと結婚し、邇邇芸命ににぎのみこと天火明命あめのほあかりのみことという2人の息子が生まれていたのです。

ことと

へー、みんなが必死に頑張ってる間に
子どもつくってたんだー(棒

天之忍穂耳あめのおしほみみは自身の息子の1人、邇邇芸ににぎに地上統治の役割を任せたいと推しているようです。

アメノオシホミミ

いつまでも年寄りが出しゃばっちゃいかん…
若者を信頼して、栄誉ある仕事を任せんといかん(キリッ

アマテラス

ほ~ん、まぁええやろ

音川安親『万物雛形画譜』より邇邇芸命
音川安親『万物雛形画譜』より邇邇芸命 PD

邇邇芸ににぎ天之忍穂耳あめのおしほみみの息子であるならば、彼は天照あまてらすにとって目に入れても痛くない程に可愛い孫。

彼女もその人(神)選にケチをつける理由はありませんでした。

こうしてついに、生まれたばかりの若き日の御子みこ邇邇芸ににぎによる天降あまくだりが決定したのです。

アメノオシホミミ

うんうん、頑張るのじゃぞ我が子孫よ…

ことと

若手に譲って身を引いた美談みたくしてるけど、
要は転勤が嫌でごねてただけじゃ…

ニニギ

パパは内勤にこだわっとるのぢゃ

アメノオシホミミ

ちがうもん!!

太陽神の御子みこは、そうそうたるメンバーを引き連れて地上に天降あまくだる【天孫降臨てんそんこうりん

さて、なんやかんやで地上の世界・葦原中国あしはらのなかつくにへと降ることになった若き邇邇芸ににぎですが、一行が旅立ちの準備をしていると、遥か前方に異様な光景が広がっているのに気が付きます。

彼らが通るであろう道の辻に、何やら見知らぬ神さまが仁王立ちで立ちはだかっているのです。

???

それだけなら特に気にもしませんが、その神さまは非常に高い身長に天狗てんぐを思わせる長い鼻、真っ赤な酸漿ほおずきのように爛爛らんらんと輝く目をもち、彼の口と尻は明るく光っていて、その輝きは上は高天原たかまがはら、下は葦原中国あしはらのなかつくにまでをあまねく照らしていました。

まぶしい光のイメージ

要するに周囲にとんでもない圧を放っていたその神さまは、高天原たかまがはらの神々を大いに警戒させます。

大事な孫の出立にケチを付けたくない天照あまてらすは、お気に入りの部下である天宇受売命あめのうずめのみことにこう言いました。

アマテラス

あんたは敵と真正面から向かい合っても勝つ逸材よ

アマテラス

あそこに行って、奴が何者か聞いてきんさい

アメノウズメ

ぎょぎょいの御意ぎょい

天宇受売あめのうずめは謎の神さまのところへズカズカと進んでいくと、自分の服をまくり上げて胸をあらわにし、(ボトムスのこと)を際どいところまで押し下げてこう言います。

アメノウズメ

おぅおぅ何もんじゃワレェ!
ダンスバトルでいわしたろか~!

???

(えっ、こっわ…!)

???

(天津神あまつかみってこんなんばっかなのか…?)

小林永濯『鮮斎永濯画譜』初篇「猿田毘古神」
小林永濯『鮮斎永濯画譜』初篇 PD
出典:次世代デジタルライブラリー

原因は別のところにありますが、その神さまは天宇受売あめのうずめの目論見通りに気圧されている様子。

彼は半裸の女神を下手に刺激しないように、なるべく穏やかな言葉を選んで答えます。

???

いや、そうじゃなくて…
わし、道案内に来たんですが…

彼の名は猿田毘古神さるたびこのかみ、独特のビジュアルをもち天狗てんぐとも関連付けられる導きの神さまで、地上に降る邇邇芸ににぎの一行を先導するために、こうして道の途中で待っていたのだそうな。

ニニギ

おぢゃ、そういうことなら問題なし!
採用、採用、即採用じゃ~!

こうして土地勘のある国津神くにつかみの助力をも得た天孫てんそん(=邇邇芸ににぎ)の一行は、ついに地上の世界・葦原中国あしはらのなかつくにへと降る準備を完了しました。

一口に準備と言っても、この一大事業の中核を成すのはあの邇邇芸ににぎ

彼は、太陽神にして日本の最高神である天照あまてらすの孫であるのはもちろん、母方の祖父には、高天原たかまがはらの最高司令官との呼び声も高い高御産巣日たかみむすびがいます。

要するに、とんでもなく高貴な血筋に生まれたロイヤルプリンスボーイである邇邇芸ににぎの旅の準備は、当然ながら痒い所に完璧に手が届く、至れり尽くせりの規格外の万全さを誇ったのです。

ニニギ

準備の内容をざっくりとまとめてみるのぢゃ

五伴緒神いつとものおのかみ

まず、天照あまてらすは愛する孫・邇邇芸ににぎのお伴に、「五伴緒神いつとものおのかみ」と呼ばれる有力な5柱の神々を付けました。

彼らは皆、かつて天照あまてらすが洞窟の奥に引きこもった『天岩戸あまのいわと事件』で、事態の解決に大いに貢献した立役者たちです。

天岩戸あまのいわと神話』はコチラ

また「伴緒とものお」は職業集団の長を意味するとされており、この5神はそれぞれ、独自の専門技術で朝廷の祭祀に奉仕する有力な氏族の祖神にもなりました。

とと(父)

五伴緒神いつとものおのかみ」のメンバーを紹介するぜ!

天児屋命あめのこやねのみこと

祝詞のりと言霊ことだまを司る神さまで、朝廷の祭祀をとりまとめる中臣なかとみ氏の祖となる。

布刀玉命ふとだまのみこと

玉串たまぐし注連縄しめなわなどの祭具を司る神さまで、上に同じく朝廷の祭祀を統括した忌部いんべ氏の祖となる。

伊斯許理度売命いしこりどめのみこと

鏡や金属加工を司る女神さまで、重要な祭具である鏡造りを担当した作鏡連かがみづくりのむらじの祖となる。
また三種の神器のひとつ、「八咫鏡やたのかがみ」を造った。

玉祖命たまのおやのみこと

玉造りを司る神さまで、重要な祭具である勾玉造りを統括した玉祖連たまのおやのむらじの祖となる。
また三種の神器のひとつ、「八尺瓊勾玉やさかにのまがたま」を造った。

天宇受売命あめのうずめのみこと

芸能を司る女神さまで、祭祀において神楽かぐらを舞うことを務めとする猿女君さるめのきみの祖となる。

ヒヒ

大和朝廷の中枢を構成するメンバーは、
神さまの代から一緒だったという設定じゃな

あらゆる属性攻撃に対する厳重な護衛

また「五伴緒神いつとものおのかみ」の他にも、邇邇芸ににぎには以下のような優秀なメンバーが護衛に付けられます。

天手力男神あめのたぢからをのかみ

天岩戸あまのいわと神話』で天照あまてらすを洞窟から引きずり出した筋力の神さまで、物理特化のタンク職として邇邇芸ににぎを守る。

思金神おもいかねのかみ

天岩戸あまのいわと神話』で天照あまてらす奪還作戦を立案・主導した知恵の神さまで、その類まれなる優れた頭脳で邇邇芸ににぎを助ける。

天石門別神あめのいわとわけのかみ

天岩戸あまのいわと神話』で天照あまてらすが引きこもった石屋戸いわやとを神格化した神さまで、悪霊の侵入を防ぐ門の神のパワーで邇邇芸ににぎを守る。

ことと

逆に高天原たかまがはらの戦力が弱体化せんか…?

と、思わなくもないほどにぶ厚い人(神)員配置ですが、話はこれだけでは終わりません。

後の「三種の神器」をも授ける

もはや孫を溺愛していた天照あまてらすは、非常に貴重な「三種の神器」までも邇邇芸ににぎに授けてしまうのです。

アマテラス

これをわしやと思うて大事にするんやでぇ~

後に天皇家の宝物となり、王権のシンボルともなる「三種の神器」は以下のアイテムで構成され、それぞれに重要な意味を持っています。

八咫鏡やたのかがみ
  • 天照あまてらすの神霊が宿る依り代
  • 古代の農耕祭祀において、太陽神を祀るのに最も重要とされた祭具で、太陽と稲作農耕の関係を反映している
  • 伊勢国いせのくに五十鈴宮いすずのみやに祀られ、伊勢神宮いせじんぐうの起源となる
草薙剣くさなぎのつるぎ
  • 建速須佐之男命たけはやすさのをのみこと八俣遠呂智やまたのおろち退治で手に入れた宝剣
  • 荒ぶる川の神さまとしての蛇を征服したという意味で、稲作農耕と水(川の氾濫や治水)の関係を反映している
  • この時点では「都牟刈太刀つむがりのたち」と呼ばれている
八尺瓊勾玉やさかにのまがたま
  • 玉祖たまのおやが作ったという設定のほかに、御倉板挙之神みくらたなのかみと関連するという説がある
  • 上記設定から、稲の種もみを守り、翌年の豊穣をもたらす機能をもつとも考えられている
三種の神器
三種の神器
提供元:いらすとや

こうしてガチガチに準備を固めた邇邇芸ににぎの一行は、幾重にも重なる雲を押し分けて力強く進み、筑紫つくし(九州)日向ひむか(宮崎県)にある高千穂たかちほの嶺に天降あまくだりました。

この時、天忍日命あめのおしひのみこと天津久米命あまつくめのみことの2神が、武装して彼らを先導したと言われています。

無事に地上に降り立った邇邇芸ににぎは、

ニニギ

もろもろの条件ヨシ!
良き土地ぢゃ!(要約)

と言い、そこに立派な宮殿を建てて定住し、いよいよ葦原中国あしはらのなかつくにの統治に着手したのです。

高千穂町国見ヶ丘の邇邇芸像
高千穂町国見ヶ丘の邇邇芸像
ニニギ

これにて『天孫降臨てんそんこうりん』の完了ぢゃ

【Tips】天孫降臨てんそんこうりんの地って具体的にどこ?

邇邇芸ににぎたちが降り立った地についての伝承は複数存在し、各地方に伝わる『風土記ふどき』の中にもいくつかの場所が登場しています。

今日有力とされているのは、

  • 宮崎県北西部に位置する西臼杵にしうすき群高千穂町
  • 宮崎県と鹿児島県の境にある霧島連山の第二峰、高千穂峰たかちほのみね

の2ヶ所となっています。

【番外編】猿田毘古さるたびこ天宇受売命あめのうずめのその後…

天孫降臨てんそんこうりん』の序盤にて、極めてエキセントリックな邂逅かいこうを果たした猿田毘古さるたびこ天宇受売あめのうずめですが、この2神には実はその後のエピソードが存在します。

とと(父)

飛ばしてもOKだよ!

先導役の務めをしっかりと果たした猿田毘古さるたびこが、そろそろおいとましようと出立の準備をはじめた時のこと。

彼を見送ろうとした邇邇芸ににぎが、珍しく気を利かせてこんなことを言い出しました。

ニニギ

おぢゃ、これ、宇受売うずめ
彼を地元まで送りしばらくお仕えするのじゃ

サルタビコ

えっ!

アメノウズメ

えっ!

多少思うところがあったとしても天孫てんそん天孫てんそん、彼らも命令には従う他ありません。

猿田毘古さるたびこは、初対面でいきなり半裸で威嚇してきた天宇受売あめのうずめと共に、地元である伊勢いせの地(三重県)に向かうことになったのです。

さぞや気まずい旅路になるだろうと思っていた両者ですが、これが意外や意外、話しているうちに2人はすっかり意気投合してしまいます。

歌川国芳『日本国開闢由来記』
歌川国芳『日本国開闢由来記』 PD

こうして伊勢国いせのくに(三重県)にある狭長田さなだ五十鈴川いすずがわのほとりにたどり着いた猿田毘古さるたびこは、天宇受売あめのうずめと結婚して、その地に定住することにしました。

アメノウズメ

第一印象最悪のやつが運命の相手、恋愛モノあるあるよね~

サルタビコ

そういう次元だったか…?

天宇受売あめのうずめと彼女の子孫は、夫である猿田毘古さるたびこの名をとって、「猿女君さるめのきみ」を名乗ったと伝えられています。

この「猿女君さるめのきみ」は、後に宮廷祭祀の鎮魂祭ちんこんさい大嘗祭だいじょうさいにおいて、「神楽かぐら」を舞うことを務めとする主要な氏族となります。

神楽の様子の写真

その名称に使われている「さる」は「る」に通じ、「猿女さるめ」という呼び名は、宮廷祭祀の際に滑稽な役割を演じる集団に付けられたものだと考えられました。

その一方でこの「猿女君さるめのきみ」という一族は、シャーマニスティックな女性を中心に構成された特殊な霊能力者集団でもあったようで、その魅惑的かつ熱狂的な踊りで神々の託宣たくせん(≒お告げみたいなもの)を引き出すという、呪力のようなパワーも行使したとされています。

天宇受売あめのうずめは、笑いも取れるけどガチで魅入らせることもできる、まさに「俳優」の名にふさわしい一族の祖神として信奉されることになったのです。

アメノウズメ

やっぱり役者ってのは振り幅が大事なの…
何の役やっても天宇受売あめのうずめぢゃダメなのよ…

猿田毘古さるたびこ天宇受売命あめのうずめには、他にもいくつかの後日談があるので、良ければそちらもご覧ください。

海で溺れかけちゃうお茶目エピソードはコチラ

物理で忠誠を誓わせる猟奇的なエピソードはコチラ

立派に成長した邇邇芸ににぎ、地上のお姫さまと結婚して天皇家に連なる子孫を残す

邇邇芸ににぎはその後立派に成人し、地上統治の仕事もそれなりに軌道に乗せました。

そんな彼はある日、笠沙かささの岬(九州南部)を散歩中に運命的な出会いを果たします。

ニニギ

うわバチクソ可愛い!
ちん、惚れたなり…

邇邇芸ににぎは、偶然見かけたとある美しい娘に一目惚れしてしまい、たまらず声をかけました。

彼女の名は木花之佐久夜毘売命このはなのさくやびめのみこと(別名:神阿多都比売かむあたつひめ)、栄華を司る火と酒造の女神さまです。

筋金入りの温室育ちで高貴な血を引く邇邇芸ににぎは、恋愛の駆け引きなどという概念は持ち合わせていませんでした。

ニニギ

ちんはそなたに惚れたのじゃ
そなたとのまぐわいを所望するぞよ~

サクヤビメ

こっわ!

あまりにもド直球な申し出に佐久夜毘売さくやびめもたじろぎますが、彼の身なりを見る限りは、それなりに良いところの出ではあるようです。

場合によっては玉の輿のチャンスかもしれない、ぶっきらぼうに拒否するのも悪手あくしゅかもしれない、そう考えた彼女は積極的な邇邇芸ににぎにこう答えました。

サクヤビメ

パパンに聞いてみらんとねぇ…

南さつま市笠沙町のリアス式海岸
南さつま市笠沙町のリアス式海岸

善は急げ、邇邇芸ににぎは早速彼女に頼み込んで、佐久夜毘売さくやびめの父親である山の神・大山津見神おおやまつみのかみの元を訪れます。

オオヤマツミ

ほほぉ~、あの天照あまてらすさんのお孫さんで、
今はこの葦原中国あしはらのなかつくにを治めておられると!

ニニギ

おぢゃ、邇邇芸ににぎと申す
よしなに~

サクヤビメ

(わしの勘当たっとるやんけぇ~!!)

天孫てんそんからの結婚の申し出ということで、露骨に目の色を変える地上の親子。

この縁談を大変喜んだ大山津見おおやまつみは、ノリノリでこんなことを言い出しました。

オオヤマツミ

大変ありがたいお話です!
そして今ならなんと!
姉の石長比売いわながひめも付いてきま~す!

ニニギ

お、おぢゃ…?

邇邇芸ににぎが惚れたのはあくまでも佐久夜毘売さくやびめだったのですが、彼女の父はなんと、その姉である延命長寿の女神・石長比売命いわながひめのみことまで一緒に嫁がせてきたのです。

イワナガヒメ

よ、よろしゅぅ~

岩のイメージ

古代においては、姉妹が同一人物に嫁ぐのは珍しい事でもありませんでしたが、邇邇芸ににぎは正直困ってしまいました。

というのも、この石長比売いわながひめが当時の価値観でいう醜女しこめというタイプで、要するに邇邇芸ににぎの好みのビジュアルではなかったからです。

ニニギ

おぢゃ…
大変言いにくいんぢゃがの…

筋金入りのボンボンである邇邇芸ににぎもさすがに言いにくかったようですが、どうにか上手いこと意向を伝えて石長比売いわながひめには実家に帰ってもらい、彼は佐久夜毘売さくやびめと契りを交わしました。

ニニギ

抱き合わせ販売は独占禁止法により禁止されております

サクヤビメ

(ね、姉さん、すまんのう…)

たとえ本人たちが納得していても、この状況を黙って受け入れられるはずもないのが姉妹の父親である大山津見おおやまつみです。

なんせ、娘たちが無事に巣立っていった喜びと共に、急に広く感じるようになった我が家に少しの寂しさを感じ始めていた矢先に、

イワナガヒメ

ガラツ) お前だけ帰れ言われたわ…

と、愛する娘の1人がノータッチで送り返されてきたのですから。

オオヤマツミ

あんのク〇ボンボンめぇ~!!

我が子を侮辱された大山津見おおやまつみは、想像以上にこの事実を恥じ入ったようです。

彼は怒りを込めて、邇邇芸ににぎのろいの言葉を送りました。

オオヤマツミ

あ~ぁ、やってくれましたのう…
2人一緒なのにはちゃんと意味があったのに…

オオヤマツミ

石長比売いわながひめがおれば、天津神あまつかみ御子みこの命は、
岩のように永遠となりました

オオヤマツミ

佐久夜毘売さくやびめがおれば、天津神あまつかみ御子みこの治世は、
花が咲き誇るかのように栄えるのです

オオヤマツミ

でも石長比売いわながひめを送り返してきたってことは~…
おたくの子孫の命は、木の葉が散るように
儚いということですわ…

オオヤマツミ

あ~あ、残念だなぁもう知らんけど…

この出来事によって、邇邇芸ににぎの子孫である歴代の天皇たちの命は永遠ではなくなり、その他の人間たちと同じように寿命があることになってしまったのです。

儚く散った木の葉のイメージ
ヒヒ

天津神あまつかみの子孫であるはずの天皇が、
不死ではない理由を説明するための物語じゃな

サクヤビメ

「咲き誇るような繁栄」と「散る花のように儚い命」、
わたしには2つの意味があったってことね

ニニギ

後出しじゃんけんにも程があるのぢゃ~…

イワナガヒメ

そういうのは先に言っとかんと…
わしも無駄に傷つかずに済んだわなぁ…

オオヤマツミ

えっ、そんな言う?

とはいえ落ち込んでいても仕方なし、邇邇芸ににぎは気を取り直して佐久夜毘売さくやびめとの生活を楽しむことにしたようです。

ところがある日、そんな天孫てんそんの妻に異変が起こります。

サクヤビメ

ボォエェッ…!
…もしかしてこれって…!

どうやら彼女は邇邇芸ににぎとの子を妊娠したようです。

高貴な血統を継ぐ天津神あまつかみ御子みこを宿した佐久夜毘売さくやびめは、誇らしげに夫の元に報告に向かいます。

しかしそこで返ってきたリアクションは、彼女の予想を大きく裏切るものでした。

ニニギ

えっ、あのたった1回で!?
そこら辺の国津神くにつかみとの子ぢゃねぇの~?

サクヤビメ

カッチーーーーン!!!

あろうことか邇邇芸ににぎは、たった1回でそんなにうまく妊娠するはずがない、その辺の行きずりの男との間に出来た子ではないかと疑いをかけてきたのです。

あまりにもデリカシーに欠けた空気の読めない夫の発言に、さすがの佐久夜毘売さくやびめも静かにぶちギレます。

スイッチが入った彼女は、身重の体でありながら戸のない大きな産屋うぶやを建てるとその中に入り、さらに周囲の隙間を粘土で塗り固めて塞いで、自ら内側に閉じこもってしまいました。

そして佐久夜毘売さくやびめはなんと、自分が入っている産屋うぶやに自ら火を放ったのです。

サクヤビメ

国津神くにつかみの子ならタダじゃ済まんけど、
天津神あまつかみの子なら余裕なはずですわねぇ…

ニニギ

えっ、あっ、ちょっ、ちょっと待って…えっ!?

炎のイメージ画像

邇邇芸ににぎがテンパり倒している間にお産の準備に入った佐久夜毘売さくやびめは、燃え盛る火炎の中で無事に子どもを産みました。

それが火照命ほでりのみこと火須勢理命ほすせりのみこと火遠理命ほおりのみこと(別名:天津日高日子穂々手見命あまつひこひこほほでみのみこと)の3兄弟です。

ニニギ

おほ~でかしたぞ、わが御子みこたちぢゃ~

サクヤビメ

あんたは外で稼いできてくれれば良いわ

その後、邇邇芸ににぎの家庭と夫婦関係が冷え切ってしまったことは言うまでもありません。

日本書紀』によると、3兄弟の誕生を喜んだ祖父の大山津見おおやまつみは、厳選された神聖な狭奈田さなだ茂穂しげほ(よく実った米)から「天甜酒あまのたむけざけ」と呼ばれるお酒を醸造し、お祝いとして天地の神々に気前よく振舞ったとされています。

ニニギ

あれ、そのパーティ…
ちん、呼ばれてない…

ホオリ

っつい火の中で生まれたと思ったら、
家庭の方はキンキンに冷え切ってましたー

ホオリ

なんつって☆

天照あまてらすの命により、地上の世界・葦原中国あしはらのなかつくにへと天降あまくだった邇邇芸ににぎの、『天孫降臨てんそんこうりん神話』はこれにて完結です。

次回は、彼の息子である火照ほでりが「海幸彦うみさちひこ」として、火遠理ほおりが「山幸彦やまさちひこ」として登場し、なおも続く日本神話のメインストーリーを紡いでいくことになります。

ホデリ

先に伝えとくと、マジで無茶苦茶な話だからね!

…to be continued!!!

おわりに

今回は、日本神話の名場面のひとつ、『天孫降臨てんそんこうりん神話』について解説しました。

ことと

う~ん、何回この件を読んでも
邇邇芸ににぎの何とも言えない残念さが心に残るわ~

とと(父)

中枢に近い神さまほど妙な性格をしているのが、
日本神話の面白いところでもあるよね!

パパトトブログ-日本神話篇-では、私たちの祖国に伝わる魅力的な神々や彼らの物語をご紹介していきます。

神さま個別のプロフィール紹介や神話の名場面をストーリー調で解説など、難しい言葉は出来るだけ使わずに、あらゆる角度から楽しんでもらえるようにしようと考えています。

これからも「日本神話」の魅力をどんどんご紹介してきますので、良ければまた読んでもらえると嬉しいです!

とと(父)

また来てね!

しーゆーあげん!

参考文献

  • 倉野憲司校注 『古事記』 岩波文庫 2010年
  • 島崎晋[監修] 日本博学倶楽部[著] 『日本の「神話」と「古代史」がよくわかる本』 PHP文庫 2010年
  • 由良弥生 『眠れないほど面白い『古事記』』 王様文庫 2014年
  • 由良弥生 『読めば読むほど面白い『古事記』75の神社と神さまの物語』 王様文庫 2015年
  • 歴史雑学研究倶楽部 『世界の神話がわかる本』 Gakken 2010年
  • 宮崎市神話・観光ガイドボランティア協議会編集 『ひむか神話伝説 全212話』 鉱脈社 2015年
  • 中村圭志 『図解 世界5大神話入門』 ディスカヴァー・トゥエンティワン 2020年
  • かみゆ歴史編集部 『マンガ面白いほどよくわかる!古事記』 西東社 2017年
  • 戸部民夫 『「日本の神様」がよくわかる本』 PHP文庫 2007年
  • 三浦佑之 『あらすじで読み解く 古事記神話』 文藝春秋 2013年
  • 國學院大學 「古典文化学」事業:https://kojiki.kokugakuin.ac.jp/research/
  • 茂木貞純監修『日本の神様ご利益事典』だいわ文庫 2018年
  • 武光誠『知っておきたい日本の神様』角川ソフィア文庫 2005年
  • 阿部正路監修『日本の神様を知る事典』日本文芸社 1987年

他…

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