【忙しい人のための日本神話】エピソード4/出雲の王-後編-【あらすじ紹介】

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忙しい人のための日本神話エピソード4後編
とと(父)

こんにちは!
忙しい人のための神話解説コーナーだよ!

この記事では、忙しいけど日本神話についてサクっと理解したいという方向けに、『古事記』をベースにした神話のメインストーリーをざっくりとご紹介していきます。

とりあえず主だった神さまの名前と、ストーリーラインだけ押さえておきたいという方向けのシリーズとなります。

日本書紀』にのみ見られる独自の展開や、各地に伝わる『風土記ふどき』に記されたエピソードなどは、神さま個人(神)を紹介した個別記事をご覧ください。

ヒヒ

とりあえず大まかな流れをつかむというコンセプトじゃ
補足情報は【Tips】として解説しとるが、読み飛ばしても全然OKじゃぞ

ことと

関連記事のリンクを貼っているから、
気になった方はそちらもチェックしてね

とと(父)

ではさっそくいってみよう!

ヒヒ

忙しい人はコチラから本編にすっ飛びじゃ

この記事は、以下のような方に向けて書いています。

  • 日本神話にちょっと興味がある人
  • 日本神話に登場する神さまのことをざっくり知りたい人
  • とりあえず誰かにどや顔でうんちく話をしたい人
この記事を読むあなたのメリット
  • 日本神話のメインストーリーをざっくりと把握出来ます。
  • あなたのエセ教養人レベルが1アップします。
目次

まじで忙しい人のための結論

本気で忙しいあなたのために、今回ご紹介する物語のストーリーラインを、箇条書きでざっくりまとめておきます。

ことと

ぱっと見で把握してね

ヒヒ

何ならここを読むだけでもOKじゃぞ

今回ご紹介する『大国主神おおくにぬしのかみの冒険-後編-』のストーリー

  • 根之堅洲國ねのかたすくにの統治者である建速須佐之男命たけはやすさのをのみことの数々の試練を乗り越えた大国主神おおくにぬしのかみは、須勢理毘売命すせりびめのみことを正妻に迎え、地上の王となるお墨付きを得て、葦原中国あしはらのなかつくにに帰還する
  • かつて自身を陥れた八十神やそがみを残らず粛清した大国主おおくにぬしは、八千矛神やちほこのかみと名乗って各地を巡り、子種をばら撒いては数多くの子孫を残す
  • 真面目に国作りに取り組むことにした大国主おおくにぬしは、たまたま出会った少名毘古那神すくなびこなのかみとタッグを組んで、国土開発事業に激しい情熱を燃やす
  • 大物主神おおものぬしのかみの力も得て国作りを完了させた大国主おおくにぬしは、王として葦原中国あしはらのなかつくにを立派に治める
  • 高天原たかまがはら天照大御神あまてらすおおみかみ国津神くにつかみに対し、地上の支配権譲渡と天津神あまつかみへの服属を要求する
  • 大国主おおくにぬしは見事な手腕を駆使して天之菩卑能命あめのほひのみこと天若日子あめのわかひこ懐柔かいじゅうし、10年を超える時を稼ぐ
  • 最後に派遣された建御雷之男神たけみかづちのをのかみに、息子の建御名方神たけみなかたのかみ事代主神ことしろぬしのかみが敗れたため、大国主おおくにぬし天津神あまつかみへの降伏を宣言する

そもそも「日本神話」って何?

日本神話」とは、ざっくり言うと「日本ってどうやって生まれたの?」を説明してくれる物語です。

原初の神々や日本列島の誕生、個性豊かな神さまが活躍する冒険譚や、彼らの血を引く天皇たちの物語が情緒豊かに描かれています。

現代の私たちが知る「日本神話」の内容は、『古事記こじき』と『日本書紀にほんしょき』という2冊の歴史書が元になっています。

これらは第四十代天武てんむ天皇の立案で編纂が開始され、それぞれ奈良時代のはじめに完成しました。

国家事業として作られた以上、政治的な色合いがあることは否めませんが、堅苦しくて小難しいかと思ったらそれは大間違い

強烈な個性を持つ神々がやりたい放題で引き起こすトラブルや恋愛模様は、あなたをすぐに夢中にさせることでしょう。

とと(父)

日本神話」の全体像は、以下で解説しているよ!

枝年昌『岩戸神楽之起顕』1889年
枝年昌『岩戸神楽之起顕』1889年 PD

さぁ、あなたも情緒あふれる八百万やおよろずの神々が住まう世界に、ともに足を踏み入れてみましょう。

主な登場人物

ヒヒ

この物語の登場人物(神)をざざ~っと挙げておくぞい

エピソード4/出雲いずもの王-後編-

前回までのあらすじ

地上の世界・葦原中国あしはらのなかつくに出雲国いずものくに(島根県)に、建速須佐之男命たけはやすさのをのみことの6代後の子孫である大国主神おおくにぬしのかみが住んでいました。

大勢の兄弟の末っ子である彼は、因幡国いなばのくに(鳥取県)に住む八上比売やがみひめに求婚するという八十神やそがみ(大勢の兄たち)の荷物を背負って、気多けたの岬を訪れます。

そこで大国主おおくにぬしが目にしたのは、半分は自業自得ながらも、八十神やそがみの嘘によって怪我が悪化し苦しんでいる稲羽之素菟いなばのしろうさぎでした。

素菟しろうさぎに適切な治療法を教えた大国主おおくにぬしは、傷が治って大喜びの彼から八上比売やがみひめとの結婚を予言されます。

かくして予言は現実のものとなり、大国主おおくにぬし八上比売やがみひめの夫に選ばれますが、八十神やそがみの恨みを買って命を狙われる羽目にもなりました。

実際に一度はその命を奪われ、𧏛貝比売きさがいひめ蛤貝比売うむぎひめの治療によってどうにか蘇生した彼は、木国きのくに(=紀伊国きいのくに・和歌山県)に住む大屋毘古神おおやびこのかみのもとに避難します。

しかし八十神やそがみの追跡は執拗で、あっという間にその潜伏場所が割れてしまった大国主おおくにぬしは、ついに死者の世界である根之堅洲國ねのかたすくにへと亡命しました。

彼はその地で須勢理毘売命すせりびめのみことと、その父にして死後の世界の統治者・須佐之男すさのをと遭遇します。

かつての荒神あらがみ、そして八俣遠呂智やまたのおろち退治の大英雄である須佐之男すさのをから課せられた、数々の困難な試練を乗り越えた大国主おおくにぬしは、ついに須勢理毘売すせりびめとの結婚が許され、さらには地上の世界・葦原中国あしはらのなかつくにの王となるお墨付きまでも得ることが出来ました。

義父から授かった生太刀いくたち生弓矢いくゆみや(威力の高い武具)あめ詔琴のりごと(祭具)を携えた大国主おおくにぬしは、正妻を伴って再び地上世界へと帰還します。

前回のストーリーはコチラ!

とと(父)

今回は、根之堅洲國ねのかたすくにでの冒険を経て地上に戻った大国主おおくにぬしの、その後の物語を紹介するよ!

ことと

地上の世界・葦原中国あしはらのなかつくにの王となってからの物語ね!

ヒヒ

有名な『国譲くにゆずり神話』の場面じゃな

地上の王となって調子に乗った男、あちこちの女性に手を出しまくる【八千矛やちほこ妻問つまどい】

根之堅洲國ねのかたすくにの統治者にして遠い先祖でもある須佐之男すさのをから認められた大国主おおくにぬしは、須勢理毘売すせりびめを正妻に迎えて、再び地上の世界・葦原中国あしはらのなかつくにへと舞い戻ります。

義父から授かった強力な武具を携えた彼は、誰に言われるでもなく、かつて自身を陥れた八十神やそがみたちを容赦なく粛清してまわり、大勢の兄を全滅させた大国主おおくにぬしは、ついに名実ともに地上世界の統治者となりました。

とと(父)

さらっとしているけど、まぁまぁハードだよね!

ことと

優し気な顔してしっかり根に持っていたのね…

ここからの展開には、立派な王さまが偉大な国家を築いていく、まさに王道をくような英雄譚が期待されるところですが、残念ながら我らが「日本神話」ではそうはなりません。

私たちはしばらくの間、大国主おおくにぬしの家庭内のゴタゴタを見せられることになるのです。

大国主おおくにぬし須勢理毘売すせりびめは地上に立派な宮殿を建てて新婚生活を送っていましたが、ある日そこに、意外な訪問者が現れます。

ヤガミヒメ

お邪魔いたしますですわよ…

それは因幡国いなばのくに(鳥取県)に住む八上比売やがみひめ、かつて稲羽之素菟いなばのしろうさぎによって婚姻が予言された、大国主おおくにぬしの事実上の最初の妻でした。

フィアンセが命を狙われて他国に亡命したため、泣く泣く遠距離恋愛を余儀なくされていた彼女は、大国主おおくにぬしの帰還を知って遠路はるばる、ここ出雲いずもの地(島根県)までやって来たのだそうな。

オオクニヌシ

おっほ~、久しぶりやね、いらっしゃい

御殿のイメージ

能天気な大国主おおくにぬしは、特に後先を考えることもなく、そんな八上比売やがみひめを暖かく宮殿に迎え入れました。

彼はこれから、穏やかで平和な生活がはじまると考えていたようですが、当然ながら現実はそう上手くはいきません。

なんせこの宮殿には、八上比売やがみひめよりも先に(正式に)結婚し、嫡妻ちゃくさい(≒正妻)という絶対的なポジションを確保した須勢理毘売すせりびめが住んでいるのです。

須佐之男すさのをから受け継いだ気性の荒さと、やや病的なまでの嫉妬深さをもつ彼女が、八上比売やがみひめの存在を知って喜ぶはずもありませんでした。

スセリビメ

へ、へぇ~、じゃああの時
追い返しておけばよかったわねぇ~(ビキビキ

荒神あらがみの血を遺憾なく発揮した彼女は、激しい嫉妬に駆られて常にイライラを振りまき、宮殿内は極度にピリピリした空気に支配されてしまいます。

スセリビメ

ギロリ…

ヤガミヒメ

ビクビクビク…

ヤガミヒメ

(あてくしの美しさに嫉妬していらっしゃるのね…
まぁあの顔じゃ無理もない…)

ヤガミヒメ

(しかし相手が須佐之男すさのをの娘じゃ現実問題キビしいわね…)

須勢理毘売すせりびめとはそりが合わない上に、立場的にも形勢不利であることを悟った八上比売やがみひめ

彼女は大国主おおくにぬしとの間に生まれたばかりの木俣神きまたのかみを文字通り木の叉に置いて、ひとり故郷の因幡国いなばのくに(鳥取県)へと帰ってしまいました。

地元に戻った八上比売やがみひめ売沼めぬま神社に鎮座し、この世を去ってからは神社の近くにある嶽古墳だけこふんに埋葬されたと伝えられています。

翡翠のイメージ
ことと

子どもは完全にとばっちりじゃない

この木俣神きまたのかみは別名を御井神みいのかみともいい、樹木や井泉せいせんを司る神さまとして知られています。

しかしその事跡がほとんど残されていないことから、この神さまの役割や八上比売やがみひめが彼を木の叉に置いて行った理由など、具体的な性格には不明な点が多いとされています。

ヒヒ

一説には、神さまの降臨を迎える
儀礼に基づく行為とも言われるぞい

邪魔者を無事に追い出して、ようやく2人だけのラブラブ生活が戻ってくることを喜ぶヤンデレ系女神・須勢理毘売すせりびめ

しかしそんな彼女の期待とは裏腹に、八上比売やがみひめを失って悲しみにくれる大国主おおくにぬしは、その行動を斜め下方向にエスカレートさせていきました。

何と彼は八千矛神やちほこのかみという偽名まで使って、全国各地を巡っては女性遍歴を重ねるという不可解な暴挙に出たのです。

ことと

よ、抑圧された幼少期からの反動かしら…

大国主おおくにぬし宗像三女神むなかたさんじょしんの1柱として名高い多紀理毘売命たきりびめのみことと契りを交わし、2神の間には阿遅鉏高日子根神あじすきたかひこねのかみ高比売命たかひめのみことの兄妹が生まれました。

また神屋楯比売命かむやたてひめのみこととの間には事代主神ことしろぬしのかみが、鳥取神ととりのかみとの間には鳥鳴海神とりなるみのかみが誕生しています。

さらに彼は、遠路はるばる高志国こしのくに(福井県・石川県・富山県・新潟県)まで旅をして、姫川ひめかわのほとりに住む沼河比売命ぬなかわひめのみことにも結婚を申し込みます。

彼女もまた他国にまで聞こえるほどの美貌をもつ、翡翠ひすいを司る女神さまでした。

女神の家のイメージ

沼河比売ぬなかわひめの家を訪ねた大国主おおくにぬしは、自分の思いのたけを込めて、閉じられた戸に向かってこんな歌を詠います。

オオクニヌシ

(要約)
わたし八千矛やちほこ言いますねんけど
こちらに賢く美しい女性がいると聞いて求婚に来てまして

オオクニヌシ

荷も解かずその子の家の戸をがたがた開けようとやってみとりますが
鳥どもがうるせぇなぁ!!

オオクニヌシ

黙らせて朝が来るのをやめさせたいものですわ
そんな感じ

それを聞いた沼河比売ぬなかわひめも、戸は開けぬまま大国主おおくにぬしにアンサーソングを返しました。

ヌナカワヒメ

(要約)
あてくしはその辺の草のようなか弱き女
今はダメですがそのうちあなたのものになりまっしゃろ

ヌナカワヒメ

夜になったら朝日のような笑顔で来ておくれやす
あてくしの若々しいわがままボディを触ってえぇよ

ヌナカワヒメ

だから今は落ち着いておくんなまし
そんな感じ

つまるところ沼河比売ぬなかわひめは、大国主おおくにぬしと契りを交わすことに同意したのです。

彼らは翌日の夜に無事に結ばれ、『先代旧事本紀せんだいくじほんぎ』ではこの2神の間に建御名方神たけみなかたのかみが生まれたと説明されています。
※『古事記』『日本書紀』などでは建御名方たけみなかたの母親についての言及はない

正史では語られない悲劇的な結末もあるよ…

この章で神々が詠んでいる歌は、本当はもっとちゃんとした言葉選びがされていて韻を踏んでおり、美しいリズムで綴られています。

ただいかんせん長い歌なので、とりあえずざっくりと理解してもらうという当ブログの趣旨に鑑み、これまたざっくりと要約しております。

ことと

興味がある方はぜひ原文に近い文献を見てみてね!

各地で美しい女神さまたちを妻に迎える大国主おおくにぬしですが、その様子を知る彼の正妻・須勢理毘売すせりびめの機嫌が良いはずがありません。

何と言っても彼女はあの荒神あらがみ須佐之男すさのをの娘、嫉妬に狂った際の激情も常人並みでないことは明らかでした。

スセリビメ

(ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…)

ヒヒ

嫉妬深い正妻といえば、ギリシャ神話のヘラを思い出すのぅ

山道のイメージ

ここで大国主おおくにぬしが反省してくれれば良いのですが、残念ながらそうはなりません。

嫉妬に狂う激情型の正妻に手を焼いた彼は、宮殿がある出雲いずも(島根県)を出て大和国やまとのくに(奈良県)に逃れようと画策したのです。

その際に大国主おおくにぬしは、片足を馬のくらにかけた状態でこんな歌を詠みました。

オオクニヌシ

(要約)
旅支度をしたけど服が気に入らなくてわちゃわちゃしたよ
でも今着ているコレはいい感じ!

オオクニヌシ

…それはええねん
わしが旅立つと言ったらおぬしは泣かないというだろうが

オオクニヌシ

実際には首をうなだれて泣くだろう
そんなおぬしが愛おしいぞ、わが妻よ

状況的には正妻に別れを告げるために詠んだ歌です。

しかし、前半に自分のファッションの話題を織り交ぜたり、自分が去って泣くと分かっている妻に最後の最後に甘い言葉を囁いたり、ちょっと情緒不安定になっている感が否めない大国主おおくにぬしに対して、須勢理毘売すせりびめもまた歌で返します。

スセリビメ

(要約)
ダーリンは立派な神さまだから
あちこちに若く美しい妻がいるんでしょう

スセリビメ

わたしも1人の女やけど、ダーリン以外の男はいないわ
だからわたしを抱いてちょうだい

スセリビメ

さぁ、美味しいお酒を召し上がれ

破天荒がカッコいいと勘違いして変な方向にイキっちゃっているとはいえ、須勢理毘売すせりびめは夫である大国主おおくにぬしを心から愛していました。

それに加えて若干言葉が通じない気配も感じた彼女は、ド直球で情に訴えて泣き落とし、さらに酒という物理的な手段も行使する方向に舵を切ったのです。

これが面白いくらいに効果てきめん、大国主おおくにぬし

オオクニヌシ

キャワイイ!!

と、かつての愛情が熱く蘇るのを感じました。

2人はそそくさと家の中に引き返し、あらためて契りを結び直して仲睦まじく鎮まったと伝えられています。

めでたし、めでたし

陶器のイメージ
とと(父)

何の話やねーーーーーん!!

ことと

何って、停滞期の夫婦のク〇どうでもいい話よ

オオクニヌシ

男は最初の男になりたがり、女は最後の女になりたがる

【Tips】一応は主人公なのでフォローを入れておこう

ここまで大国主おおくにぬしのことを散々いじってきたので、いくつかフォローを入れておきましょう。

日本各地で妻を娶り子を成してきた彼ですが、地上の王たる大国主おおくにぬしが文字通り種を蒔き散らすことは、実際には大漁や豊作と同じで、神さまが示すありがたい恵みだと考えられていたようです。

現代の人々は眉をひそめるかもしれませんが、古代の価値観ではこれがジャスティスだったのですね。

また、大国主おおくにぬしが各地のお姫さまを妻に迎える描写には、王さまがその土地土地の宗教的支配権を獲得して、葦原中国あしはらのなかつくに全体を統治する支配者になっていく過程が反映されたとも考えられています。

もちろん須勢理毘売すせりびめも他の女神さまと同様に、大国主おおくにぬしによる地上支配の正当性を強調する役割をもっています。

では何故、須勢理毘売すせりびめ嫡妻ちゃくさい(≒正妻)という特別な地位に置かれたかというと、地上における生産や生活の基盤となる地中世界の代弁者として、彼女が特に重要な存在であると見なされたからだとも言われています。

ことと

例えば農作物は良い土がないと育たないとか、
生活にはきれいな湧き水が必須とかそういう感じかしらね?

ヒヒ

一見ぶっ飛んでいても最後まで政治的、それが日本神話じゃ

オオクニヌシ

わしの偉さが分かったかのーー??

小さき相棒と共に国作りに真面目に取り組む【常世国とこよのくにからの来訪者】

極めて個人的な事情で国家運営の進捗を停滞させた大国主おおくにぬしは、正妻である須勢理毘売すせりびめとの関係も改善したことから、ようやく腰を据えて国作りに取り組む姿勢を見せ始めます。

とはいっても国の運営なんてまったくの未経験、彼は出雲いずも(島根県)美保みほの岬にたたずんで、どうしたものかと思い悩んでいました。

オオクニヌシ

う~ん、どないしよ…
…ん?あれ??

大国主おおくにぬしはそんな時、海の彼方からこちらに向かってやって来る、何やら小さな物体に気が付きます。

良く目を凝らして見ると、それは天之羅摩あめのかがみ(ガガイモのこと)で作った小舟で、その上にはの皮を剥いで作った服を着た小さな神さまが乗っていました。

歌川國芳『日本国開闢由来記』巻一より波に乗った少名毘古那が出現する場面
歌川國芳『日本国開闢由来記』巻一より
波に乗った少名毘古那が出現する場面 PD
オオクニヌシ

きみ、誰ね?

???

大国主おおくにぬしが尋ねても、その小さき神さまは何も答えません。

お伴の部下たちもその神さまのことは知らないようで、彼をどう扱って良いものか困っている様子。

そこに現れたのが、地の果てを支配するともいわれるヒキガエル・多邇具久たにぐくです。

タニグク

久延毘古くえびこさんなら知っとるですやろ

彼は国土の隅々まで知り尽くしていると噂されるほど、この界隈では有名な情報屋で、地道に足で稼いだ「ネタ」の正確さには定評がありました。

そんな多邇具久たにぐくは、自身の相棒である久延毘古くえびこが「身元不明の神さま案件」を得意としていることを、大国主おおくにぬしの一行に伝えます。

彼のアドバイス通りに久延毘古くえびこの元を訪れた大国主おおくにぬしたち、彼らが求める答えはいとも簡単に見つかりました。

クエビコ

あぁ、その方は神産巣日神かみむすびのかみさんとこのお子さんですわ

多邇具久たにぐくとコンビで探偵事務所を経営する久延毘古くえびこは、案山子かかしなので方々を旅することは出来ません。

その代わりに、常に高い位置から世の中を見渡しているため、彼はあらゆる物事を見通す幅広い知見を持っていたのです。

クエビコ

何かお困りごとがあれば、「田守たもり探偵事務所」まで~

最初から大当たりを引いた大国主おおくにぬしは、スムーズに謎の神さまの父親である神産巣日かみむすびのもとにたどり着きます。

カミムスビ

そうそう確かにわしの子よ
小さくてわしの指の間から漏れ落ちとったのよ~

どうやら久延毘古くえびこの話は事実であったようで、その小さき神さまの名は少名毘古那神すくなびこなのかみというそうな。

著者不明:大国主と少名毘古那
大国主と少名毘古那
出典:Wikipedia PD
スクナビコナ

わっはっは

カミムスビ

丁度良い機会やし、
あんたら2人コンビ組んでこの国を作り固めんさいな

大国主おおくにぬしにとって神産巣日神かみむすびは、幼少の頃に自分の命を救ってくれた恩人でもありました。

頭は上がらないし、足を向けて眠ることも出来ませんから、ご本人たっての命とあらば断わるという選択肢はありません。

詳しくは前回『エピソード4/出雲の王-前編-』を見てね!

そんなこんなで、大国主おおくにぬし少名毘古那すくなびこな凸凹でこぼこコンビがここに結成。

急ごしらえのタッグながら、彼らはここから協力して全国を巡り、国家建設に激しい情熱を燃やします。

ことと

やっと真面目に働くのね

ヒヒ

彼らの業績をざっくりとまとめておくのじゃ

  • 五百津鉏いおつすき」で国を造り固め、国土開発事業を大きく前進させる
    ※『出雲国風土記いずものくにふどき』より
  • 人々や家畜のために病気治療の方法を定め、少名毘古那すくなびこな薬神くすしのかみとも呼ばれるようになる
  • 鳥獣昆虫の害を払い除けるための禁厭まじないの方法を定める
  • 農業技術を指導する
  • 酒造技術を普及させる
  • 温泉の開発
スクナビコナ

我ながら良き仕事じゃ

オオクニヌシ

うんうん

小林永濯『鮮斎永濯画譜』初篇 より大国主と少名毘古那
小林永濯『鮮斎永濯画譜』初篇 PD
出典:次世代デジタルライブラリー
【Tips】他の文献にもあるよ!2神の友情物語

このほか『伊予国風土記いよのくにふどき』には、大国主おおくにぬし少名毘古那すくなびこなの間に友情が芽生えたことを感じさせる、以下のような逸話も残されています。

2神が国作り事業に邁進しているさなか、あるとき大国主おおくにぬしが病気になって倒れてしまいます。

彼を助けようと考えた少名毘古那すくなびこなは、大分県にある速見湯はやみのゆ地下樋ちかといを使って運び、大国主おおくにぬし湯浴ゆあみをさせました。

オオクニヌシ

おほ~、こりゃたまらんのう!

温泉に入った大国主おおくにぬしは見る間に回復して復活、何なら以前より健康になります。

ことのときに少名毘古那すくなびこなが開いた湯が、現在の愛媛県にある「道後どうご温泉」のもとになったと伝えられています。
※文献によっては2神の立ち位置が逆で説明されているものもあります。

道後温泉
スクナビコナ

温泉を医療に用いる「湯治とうじ」はわしが始めたのじゃ

数々の事業を共に成し遂げた大国主おおくにぬし少名毘古那すくなびこなの間には、強い信頼関係が結ばれました。

しかし、少名毘古那すくなびこなは自分の任務を概ね達成したとして、突然彼の故郷である海の彼方の常世国とこよのくにへと帰ってしまいます。

オオクニヌシ

えっ、急だなぁ~
寂しくなるよ

スクナビコナ

また会えるよ
じゃぁのっ

彼は最後に淡島あわしまあわの茎に登り、その弾力を利用して弾き飛ばされるように常世国とこよのくにに帰ったとも、熊野くまの御崎みさきから海を渡って故郷に帰ったとも伝えられています。

少名毘古那すくなびこなが海の彼方の常世国とこよのくにから来たという設定は、異世界からやって来て豊穣や富をもたらすという「客人神まれひとがみ(来訪神らいほうしん)」の性格とも重なります。

実際に彼は海の向こうから現れて、人々の身体健康に関わるあらゆる恵みをもたらしたことから、少名毘古那すくなびこなもまた異世界の神さまだったのではないかとも考えられています。

海の彼方の常世の国のイメージ
オオクニヌシ

残りの仕事、どないしよ…

少名毘古那すくなびこなが去ってしまい、寂しいやら先が不安やら途方に暮れている大国主おおくにぬしの元に、今度は別の神さまが海を輝かせながら近づいてきました。

オオモノヌシ

わし、大物主神おおものぬしのかみやけどね

オオモノヌシ

わしを立派に祀ってくれたら後の仕事、手伝うよん

猫の手も借りたい大国主おおくにぬし大物主おおものぬしを大和の三輪山みわやま(奈良県)に丁寧に祀り、彼の助力を得てどうにか無事に国作りを完了させたのでした。

ことと

物語の序盤から思ってたんだけど…

ことと

あんた1人っきりで何かを
成し遂げたこと1回もないわよね…?

オオクニヌシ

シャラーーーーーーーーーーーーーーップ!

オオクニヌシ

ここぞという時に協力者が現れる!
これも王の器の成せる御業ぞ!

【Tips】神話に出てくる色々な世界
ことと

そういえば今さらだけど常世国とこよのくにって…

ことと

どこ?

「日本神話」には、天の世界である高天原たかまがはらや地上の世界である葦原中国あしはらのなかつくにの他にも、さまざまな世界が登場します。

初めて目にした方は少し混乱するかもしれないので、ここで簡単に整理しておきましょう。

スクロールできます
黄泉よみの国死後の世界
暗くじめじめした、邪霊が棲む世界
伊邪那美命いざなみのみことが闇堕ちした姿である黄泉津大神よもつおおかみが君臨する
生者が行き来することは出来ない
根之堅洲國ねのかたすくに死後の世界
割と明るくて人々の暮らしも地上と変わらない
現役を退いた建速須佐之男命たけはやすさのをのみことが統治する
生者が行き来することが可能
常世とこよの国地上とは時間の流れが異なる異世界神仙境しんせんきょう
ここにいれば永久不変、不老不死が約束される理想郷
さまざまな神々がここ出身で、物語でも行き来している
ヒヒ

各地に伝わる伝承を1本にまとめる過程で、
ややこしい世界設定になったと考えられておる

国譲くにゆずり】天津神あまつかみの侵攻とはぐらかかす国津神くにつかみ葦原中国あしはらのなかつくに平定】

紆余曲折はありながらも大国主おおくにぬしは立派な王となって地上を統治し、葦原中国あしはらのなかつくに出雲いずも(島根県)を中心に大いに栄えていました。

仕事も家庭も順調、大国主おおくにぬしも自らを慕う民たちと共に穏やかに暮らし、最近では建御名方神たけみなかたのかみ事代主神ことしろぬしのかみの2人の息子に権限の大部分を委譲して、世代交代の準備もバッチリという状況です。

オオクニヌシ

ほっほっほ~
よしなに~

しかし、そんな平和な地上の世界には、思いもよらぬ敵の魔の手が忍び寄っていました。

天の世界・高天原たかまがはらから地上の繫栄をじっと観察していた天照大御神あまてらすおおみかみが、葦原中国あしはらのなかつくにに住まう国津神くにつかみの勢力に対して、事実上の宣戦布告を行ったのです。

アマテラス

地上の世界は、我が御子みこが統治することになってますねん

オオクニヌシ

何言ってんのあいつ

天の世界のイメージ

ここでいう「御子みこ」とは、天照あまてらすの長男坊である天之忍穂耳命あめのおしほみみのみことのことに他なりません。

唐突に地上の支配権を主張し始めた太陽神は、自分の息子に葦原中国あしはらのなかつくにへと降りるよう命じます。

釈然としないまま天浮橋あめのうきはしに降り立った天之忍穂耳あめのおしほみみは、地上の世界をのぞき込んでびっくり仰天。

国津神くにつかみというのはなんと粗暴でガラが悪いのでしょう、彼の目に地上世界は治安の悪い危険な町そのもののように映ったのです。

天之忍穂耳あめのおしほみみは踵を返して天照ママの元に戻るとこう言いました。

アメノオシホミミ

地上は荒れているので赴任したくありません!

困った天照あまてらす高御産巣日神たかみむすびのかみと相談し、地上を平定するために誰を派遣するべきか調整を進めます。

もちろん天之忍穂耳あめのおしほみみの業務命令違反は、お咎めなしでさらりと流されました。

ことと

これだからボンボンは…

第一波:天之菩卑能命あめのほひのみこと

天津神あまつかみが事実上の最初の使者に指名したのは、天照あまてらすの次男坊にして天之忍穂耳あめのおしほみみの弟にあたる天之菩卑能命あめのほひのみことです。

アメノホヒ

兄貴の尻ぬぐいかよ、仕方ねぇな…

彼は多少不満には思いながらも、母の命に従い地上の世界へとおもむきます。

とはいえ国津神くにつかみは、兄がビビッて踵を返して戻ってくるほどに恐ろしい存在だと聞いていた天之菩卑あめのほひ、彼も内心はそれなりにびくびくしていました。

ついに葦原中国あしはらのなかつくにに降り立った彼は、様子を見に来た地上の神々を見て身構えます。

地上世界のイメージ
オオクニヌシ

やっほ~いらっしゃい!
長旅お疲れさまでした!

オオクニヌシ

疲れたでしょ?
荷物持とうか?

オオクニヌシ

わしの宮殿においでよ
お腹空いたでしょ~

アメノホヒ

え…いいんすか…?

天之菩卑あめのほひを出迎えた葦原中国あしはらのなかつくにの王・大国主おおくにぬしは、天からの使者を大いに歓迎しました。

国津神くにつかみは荒々しく恐ろしいという話ばかり聞いていた天之菩卑あめのほひは、拍子抜けしたばかりかその大きなギャップにだいぶ心を持っていかれます。

オオクニヌシ

これ地上で有名なお酒!
ご飯も美味しいからいっぱい食べてね~

アメノホヒ

え~めっちゃ良い人やん…
好き!!

宴席のイメージ

老獪な政治家のような手腕を誇る大国主おおくにぬしにいとも簡単に懐柔かいじゅうされた天之菩卑あめのほひは、地上での安楽な生活にズブズブに浸ってしまい、結局3年ものあいだ高天原たかまがはらにいる神々になんの連絡もしませんでした。

彼はよほど大国主おおくにぬしに心酔してしまったのか、「国譲くにゆずり」が成った後も出雲国いずものくに(島根県)に残って彼に仕えたとされています。

アメノホヒ

国譲くにゆずり?
何それ美味しいの?

オオクニヌシ

赤子の手をひねるかのごときじゃ~

まるで逆のパターンの物語もあるよ!

第二波:天若日子あめのわかひこ

3年ものあいだ使者からの連絡が途絶えて困り果てた高天原たかまがはらの神々は、さすがに次の人員を地上に派遣することにしました。

ここで白羽の矢が立ったのが、『七夕たなばた伝説』の彦星ひこぼしのモデルとも言われる穀物の神・天若日子あめのわかひこです。

アメノワカヒコ

まぁボンボンのとこの息子じゃ厳しいだろうね~ん☆

2番目の使者に任命された彼には、天之麻迦古弓あめのまかこゆみ天之波々矢あめのははやという弓矢が授けられました。

必要なら暴力も辞するなという、天の神々からの暗黙のメッセージです。

天若日子あめのわかひこは強力な武具を携え、鼻息も荒く猛りまくって葦原中国あしはらのなかつくにへと降り立ちます。

野原のイメージ
アメノワカヒコ

オゥオゥオゥオゥなんぼでもやったるぞコラァー!!
(僕ってなんて演技派☆)

しかしこの時には既に、大国主おおくにぬしによる次なる懐柔かいじゅう作戦が実行に移されていました。

彼は、宗像三女神むなかたさんじょしんの1柱・多紀理毘売命たきりびめのみこととの間に生まれた娘の高比売命たかひめのみことを呼び出します。

彼女は、親の欲目を差し引いても明らかな美貌をもつ容姿端麗な女神さまでした。

なんと大国主おおくにぬしは、天若日子あめのわかひこに娘を差し出して、この事態を上手く収めようと画策していたのです。

オオクニヌシ

なぁ娘~、あの兄ちゃんどう思う?
なかなかのイケメンやと思うけど

タカヒメ

え~大事な娘を政略結婚に出すんかいな…

当然良い気分はしない高比売たかひめですが、急に現れた夫候補の顔面を拝んだ瞬間、彼女の態度は一変します。

というのも、天若日子あめのわかひこは眉目秀麗な容姿をしているのみならず、その顔が高比売たかひめの兄・阿遅鉏高日子根神あじすきたかひこねのかみと瓜二つだったのです。

タカヒメ

(あ、兄ぃの顔と、ご、合法的に…じゅるり…)

彼女にそんな癖があった設定は公式には存在しませんが、いずれにせよ高比売たかひめは兄と同じ顔をした天津神あまつかみのことが気に入った様子。

準備が整った大国主おおくにぬしは、鼻息荒くこちらを恫喝している天若日子あめのわかひこに話を持ちかけます。

アメノワカヒコ

オゥオゥオゥオゥ何とか言うてみぃコラー!!

オオクニヌシ

ねぇねぇ、うちの娘が兄ちゃんのこと好き言うとるけど、
どない~?

タカヒメ

チラッ…(☆キラキラキラ☆)

アメノワカヒコ

僕も好きーーーっ☆

下照比売したでるひめとも呼ばれる高比売たかひめは、その名の通りあたり一面を照り輝かせるほどの美しさを誇ったとされます。

そんな彼女は父の思惑通りに、一瞬にして敵将を虜にしてしまったのでした。

家庭のイメージ

こうして高比売たかひめ天若日子あめのわかひこと結婚し、それなりに仲良く夫婦生活を送ります。

それどころか、美しい妻にぞっこんに惚れこんでしまった天若日子あめのわかひこは、

アメノワカヒコ

義父とうさんの後を継いで、僕が葦原中国あしはらのなかつくにを治めるよ☆

と、反逆の野心を起こしたので、結局8年ものあいだ高天原たかまがはらへの連絡を断ってしまいました。

オオクニヌシ

(計画通り)

天之菩卑あめのほひに続いて天若日子あめのわかひこまでもが、大国主おおくにぬしの老獪な策により見事に篭絡ろうらくされたのです。

さすがに8年も連絡が途絶えると、進展を待っている天照あまてらすたちもいよいよ困り果ててしまいます。

そこで彼女らは、きじ鳴女なきめを地上に遣わし、様子を見てくるように命じました。

鳴女なきめはすぐに現地に赴くと、天若日子あめのわかひこが住む家の木の枝にとまり、彼をうるさく問い詰めます。

ナキメ

おいお前~!
8年ブッチはさすがにやばすぎるぞ~!

それを聞いていたのが天若日子あめのわかひこの召使いとして働く天佐具売あめのさぐめ天邪鬼あまのじゃくの原形になったとも言われる邪心の女神でした。

彼女は何を思いついたのか、その場にいる主人をこう言ってそそのかします。

アメノサグメ

旦那、あいつは不吉なやつでっせ
例の弓矢でいてもうたってくだされや~

雉が飛んでいるイメージ

高比売たかひめの魅力の前にポンコツと化していた天若日子あめのわかひこは、言われるがまま天之麻迦古弓あめのまかこゆみ天之波々矢あめのははやを持ち出し、鳴女なきめを射抜いてしまいました。

ナキメ

わし、ただのメッセンジャーなのに…バタッ

鳴女なきめを貫いた矢はそのまま天高く昇って行き、高天原たかまがはらにいる天照あまてらす高御産巣日たかみむすびの足元に突き刺さります。

アマテラス

うわびっくりしたー!!!

タカミムスビ

あれ、これ天若日子あめのわかひこに渡したやつじゃん

かつて部下に渡した矢に血がべっとりと付いている、不穏な空気を察した高御産巣日たかみむすびは一計を案じました。

タカミムスビ

天若日子あめのわかひこが良い子なら当たらなーい!
天若日子あめのわかひこが悪い子なら当ーたる!

彼は矢にまじないをかけると、地上に向かって射返します。

すると天之波々矢あめのははやは迷うことなく天若日子あめのわかひこのいる方角にすっ飛んでいき、見事に彼の胸板を貫通したのです。

アメノワカヒコ

ウボァー

矢が命中するイメージ
ヒヒ

還矢かえしや恐るべし」ということわざはここから生まれたのじゃ

とと(父)

きぎし頓使ひたづかい」(意:たった1人で使いをやるもんじゃねぇぞ)もねっ

夫を失った高比売たかひめの泣き声は、遠く高天原たかまがはらにまで届きました。

彼女の悲しみに呼応して、夫の父である天津国玉神あまつくにたまのかみ天若日子あめのわかひこの天界での妻たちが出雲いずもの地(島根県)に降り立ちます。

タカヒメ

えっ、あいつ結婚してたの…!?

彼らはがんさぎ、カワセミやすずめきじといった鳥たちに手伝ってもらい、天若日子あめのわかひこの葬儀を執り行いました。

そこにふらりと現れたのが高比売たかひめの兄の阿遅鉏高日子根あじすきたかひこね、彼もまた天若日子あめのわかひことは懇意にしており、急に亡くなった友人を弔いに急ぎやって来たのです。

アジスキタカヒコネ

あっここでやってたんだね~

ここで再び出てくるのが、阿遅鉏高日子根あじすきたかひこね天若日子あめのわかひこが瓜二つの顔を持つという設定です。

息子にそっくりな阿遅鉏高日子根あじすきたかひこねを見て勘違いした天津国玉あまつくにたまたちは、

アマツクニタマ

若日子わかひこ生きとったんかワレ

と彼の手足に取りすがりました。

すると、友人を弔いに来たのに死者と間違われた阿遅鉏高日子根あじすきたかひこねは大激怒。

アジスキタカヒコネ

わしを死人扱いするんか貴様らぁ~!!

彼は「大量おおはかり(別名:神度かむどつるぎ)」と呼ばれる剣を振り回し、天若日子あめのわかひこを弔うための喪屋もやをなぎ倒して蹴り飛ばしてしまいました。

これが飛んで行った先が美濃国みののくに(岐阜県)喪山もやまであると伝えられています。

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