こんにちは!
忙しい人のための神話解説コーナーだよ!
この記事では、忙しいけど日本神話についてサクっと理解したいという方向けに、『古事記』をベースにした神話のメインストーリーをざっくりとご紹介していきます。
とりあえず主だった神さまの名前と、ストーリーラインだけ押さえておきたいという方向けのシリーズとなります。
『日本書紀』にのみ見られる独自の展開や、各地に伝わる『風土記』に記されたエピソードなどは、神さま個人(神)を紹介した個別記事をご覧ください。
とりあえず大まかな流れをつかむというコンセプトじゃ
補足情報は【Tips】として解説しとるが、読み飛ばしても全然OKじゃぞ
関連記事のリンクを貼っているから、
気になった方はそちらもチェックしてね
ではさっそくいってみよう!
忙しい人はコチラから本編にすっ飛びじゃ
この記事は、以下のような方に向けて書いています。
- 日本神話にちょっと興味がある人
- 日本神話に登場する神さまのことをざっくり知りたい人
- とりあえず誰かにどや顔でうんちく話をしたい人
- 日本神話のメインストーリーをざっくりと把握出来ます。
- あなたのエセ教養人レベルが1アップします。
まじで忙しい人のための結論
本気で忙しいあなたのために、今回ご紹介する物語のストーリーラインを、箇条書きでざっくりまとめておきます。
ぱっと見で把握してね
何ならここを読むだけでもOKじゃぞ
今回ご紹介する『大国主神の冒険-後編-』のストーリー
- 根之堅洲國の統治者である建速須佐之男命の数々の試練を乗り越えた大国主神は、須勢理毘売命を正妻に迎え、地上の王となるお墨付きを得て、葦原中国に帰還する
- かつて自身を陥れた八十神を残らず粛清した大国主は、八千矛神と名乗って各地を巡り、子種をばら撒いては数多くの子孫を残す
- 真面目に国作りに取り組むことにした大国主は、たまたま出会った少名毘古那神とタッグを組んで、国土開発事業に激しい情熱を燃やす
- 大物主神の力も得て国作りを完了させた大国主は、王として葦原中国を立派に治める
- 高天原の天照大御神が国津神に対し、地上の支配権譲渡と天津神への服属を要求する
- 大国主は見事な手腕を駆使して天之菩卑能命や天若日子を懐柔し、10年を超える時を稼ぐ
- 最後に派遣された建御雷之男神に、息子の建御名方神と事代主神が敗れたため、大国主は天津神への降伏を宣言する
そもそも「日本神話」って何?
「日本神話」とは、ざっくり言うと「日本ってどうやって生まれたの?」を説明してくれる物語です。
原初の神々や日本列島の誕生、個性豊かな神さまが活躍する冒険譚や、彼らの血を引く天皇たちの物語が情緒豊かに描かれています。
現代の私たちが知る「日本神話」の内容は、『古事記』と『日本書紀』という2冊の歴史書が元になっています。
これらは第四十代天武天皇の立案で編纂が開始され、それぞれ奈良時代のはじめに完成しました。
国家事業として作られた以上、政治的な色合いがあることは否めませんが、堅苦しくて小難しいかと思ったらそれは大間違い。
強烈な個性を持つ神々がやりたい放題で引き起こすトラブルや恋愛模様は、あなたをすぐに夢中にさせることでしょう。
「日本神話」の全体像は、以下で解説しているよ!
さぁ、あなたも情緒あふれる八百万の神々が住まう世界に、ともに足を踏み入れてみましょう。
主な登場人物
この物語の登場人物(神)をざざ~っと挙げておくぞい
エピソード4/出雲の王-後編-
―前回までのあらすじ
地上の世界・葦原中国の出雲国(島根県)に、建速須佐之男命の6代後の子孫である大国主神が住んでいました。
大勢の兄弟の末っ子である彼は、因幡国(鳥取県)に住む八上比売に求婚するという八十神(大勢の兄たち)の荷物を背負って、気多の岬を訪れます。
そこで大国主が目にしたのは、半分は自業自得ながらも、八十神の嘘によって怪我が悪化し苦しんでいる稲羽之素菟でした。
素菟に適切な治療法を教えた大国主は、傷が治って大喜びの彼から八上比売との結婚を予言されます。
かくして予言は現実のものとなり、大国主は八上比売の夫に選ばれますが、八十神の恨みを買って命を狙われる羽目にもなりました。
実際に一度はその命を奪われ、𧏛貝比売と蛤貝比売の治療によってどうにか蘇生した彼は、木国(=紀伊国・和歌山県)に住む大屋毘古神のもとに避難します。
しかし八十神の追跡は執拗で、あっという間にその潜伏場所が割れてしまった大国主は、ついに死者の世界である根之堅洲國へと亡命しました。
彼はその地で須勢理毘売命と、その父にして死後の世界の統治者・須佐之男と遭遇します。
かつての荒神、そして八俣遠呂智退治の大英雄である須佐之男から課せられた、数々の困難な試練を乗り越えた大国主は、ついに須勢理毘売との結婚が許され、さらには地上の世界・葦原中国の王となるお墨付きまでも得ることが出来ました。
義父から授かった生太刀と生弓矢(威力の高い武具)、天の詔琴(祭具)を携えた大国主は、正妻を伴って再び地上世界へと帰還します。
前回のストーリーはコチラ!
今回は、根之堅洲國での冒険を経て地上に戻った大国主の、その後の物語を紹介するよ!
地上の世界・葦原中国の王となってからの物語ね!
有名な『国譲り神話』の場面じゃな
地上の王となって調子に乗った男、あちこちの女性に手を出しまくる【八千矛の妻問い】
根之堅洲國の統治者にして遠い先祖でもある須佐之男から認められた大国主は、須勢理毘売を正妻に迎えて、再び地上の世界・葦原中国へと舞い戻ります。
義父から授かった強力な武具を携えた彼は、誰に言われるでもなく、かつて自身を陥れた八十神たちを容赦なく粛清してまわり、大勢の兄を全滅させた大国主は、ついに名実ともに地上世界の統治者となりました。
さらっとしているけど、まぁまぁハードだよね!
優し気な顔してしっかり根に持っていたのね…
ここからの展開には、立派な王さまが偉大な国家を築いていく、まさに王道を征くような英雄譚が期待されるところですが、残念ながら我らが「日本神話」ではそうはなりません。
私たちはしばらくの間、大国主の家庭内のゴタゴタを見せられることになるのです。
大国主と須勢理毘売は地上に立派な宮殿を建てて新婚生活を送っていましたが、ある日そこに、意外な訪問者が現れます。
お邪魔いたしますですわよ…
それは因幡国(鳥取県)に住む八上比売、かつて稲羽之素菟によって婚姻が予言された、大国主の事実上の最初の妻でした。
フィアンセが命を狙われて他国に亡命したため、泣く泣く遠距離恋愛を余儀なくされていた彼女は、大国主の帰還を知って遠路はるばる、ここ出雲の地(島根県)までやって来たのだそうな。
おっほ~、久しぶりやね、いらっしゃい
能天気な大国主は、特に後先を考えることもなく、そんな八上比売を暖かく宮殿に迎え入れました。
彼はこれから、穏やかで平和な生活がはじまると考えていたようですが、当然ながら現実はそう上手くはいきません。
なんせこの宮殿には、八上比売よりも先に(正式に)結婚し、嫡妻(≒正妻)という絶対的なポジションを確保した須勢理毘売が住んでいるのです。
須佐之男から受け継いだ気性の荒さと、やや病的なまでの嫉妬深さをもつ彼女が、八上比売の存在を知って喜ぶはずもありませんでした。
へ、へぇ~、じゃああの時
追い返しておけばよかったわねぇ~(ビキビキ
荒神の血を遺憾なく発揮した彼女は、激しい嫉妬に駆られて常にイライラを振りまき、宮殿内は極度にピリピリした空気に支配されてしまいます。
ギロリ…
ビクビクビク…
(あてくしの美しさに嫉妬していらっしゃるのね…
まぁあの顔じゃ無理もない…)
(しかし相手が須佐之男の娘じゃ現実問題キビしいわね…)
須勢理毘売とはそりが合わない上に、立場的にも形勢不利であることを悟った八上比売。
彼女は大国主との間に生まれたばかりの木俣神を文字通り木の叉に置いて、ひとり故郷の因幡国(鳥取県)へと帰ってしまいました。
地元に戻った八上比売は売沼神社に鎮座し、この世を去ってからは神社の近くにある嶽古墳に埋葬されたと伝えられています。
子どもは完全にとばっちりじゃない
この木俣神は別名を御井神ともいい、樹木や井泉を司る神さまとして知られています。
しかしその事跡がほとんど残されていないことから、この神さまの役割や八上比売が彼を木の叉に置いて行った理由など、具体的な性格には不明な点が多いとされています。
一説には、神さまの降臨を迎える
儀礼に基づく行為とも言われるぞい
邪魔者を無事に追い出して、ようやく2人だけのラブラブ生活が戻ってくることを喜ぶヤンデレ系女神・須勢理毘売。
しかしそんな彼女の期待とは裏腹に、八上比売を失って悲しみにくれる大国主は、その行動を斜め下方向にエスカレートさせていきました。
何と彼は八千矛神という偽名まで使って、全国各地を巡っては女性遍歴を重ねるという不可解な暴挙に出たのです。
よ、抑圧された幼少期からの反動かしら…
大国主は宗像三女神の1柱として名高い多紀理毘売命と契りを交わし、2神の間には阿遅鉏高日子根神と高比売命の兄妹が生まれました。
また神屋楯比売命との間には事代主神が、鳥取神との間には鳥鳴海神が誕生しています。
さらに彼は、遠路はるばる高志国(福井県・石川県・富山県・新潟県)まで旅をして、姫川のほとりに住む沼河比売命にも結婚を申し込みます。
彼女もまた他国にまで聞こえるほどの美貌をもつ、翡翠を司る女神さまでした。
沼河比売の家を訪ねた大国主は、自分の思いのたけを込めて、閉じられた戸に向かってこんな歌を詠います。
(要約)
わたし八千矛言いますねんけど
こちらに賢く美しい女性がいると聞いて求婚に来てまして
荷も解かずその子の家の戸をがたがた開けようとやってみとりますが
鳥どもがうるせぇなぁ!!
黙らせて朝が来るのをやめさせたいものですわ
そんな感じ
それを聞いた沼河比売も、戸は開けぬまま大国主にアンサーソングを返しました。
(要約)
あてくしはその辺の草のようなか弱き女
今はダメですがそのうちあなたのものになりまっしゃろ
夜になったら朝日のような笑顔で来ておくれやす
あてくしの若々しいわがままボディを触ってえぇよ
だから今は落ち着いておくんなまし
そんな感じ
つまるところ沼河比売は、大国主と契りを交わすことに同意したのです。
彼らは翌日の夜に無事に結ばれ、『先代旧事本紀』ではこの2神の間に建御名方神が生まれたと説明されています。
※『古事記』『日本書紀』などでは建御名方の母親についての言及はない
正史では語られない悲劇的な結末もあるよ…
この章で神々が詠んでいる歌は、本当はもっとちゃんとした言葉選びがされていて韻を踏んでおり、美しいリズムで綴られています。
ただいかんせん長い歌なので、とりあえずざっくりと理解してもらうという当ブログの趣旨に鑑み、これまたざっくりと要約しております。
興味がある方はぜひ原文に近い文献を見てみてね!
各地で美しい女神さまたちを妻に迎える大国主ですが、その様子を知る彼の正妻・須勢理毘売の機嫌が良いはずがありません。
何と言っても彼女はあの荒神・須佐之男の娘、嫉妬に狂った際の激情も常人並みでないことは明らかでした。
(ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…)
嫉妬深い正妻といえば、ギリシャ神話のヘラを思い出すのぅ
ここで大国主が反省してくれれば良いのですが、残念ながらそうはなりません。
嫉妬に狂う激情型の正妻に手を焼いた彼は、宮殿がある出雲(島根県)を出て大和国(奈良県)に逃れようと画策したのです。
その際に大国主は、片足を馬の鞍にかけた状態でこんな歌を詠みました。
(要約)
旅支度をしたけど服が気に入らなくてわちゃわちゃしたよ
でも今着ているコレはいい感じ!
…それはええねん
わしが旅立つと言ったらおぬしは泣かないというだろうが
実際には首をうなだれて泣くだろう
そんなおぬしが愛おしいぞ、わが妻よ
状況的には正妻に別れを告げるために詠んだ歌です。
しかし、前半に自分のファッションの話題を織り交ぜたり、自分が去って泣くと分かっている妻に最後の最後に甘い言葉を囁いたり、ちょっと情緒不安定になっている感が否めない大国主に対して、須勢理毘売もまた歌で返します。
(要約)
ダーリンは立派な神さまだから
あちこちに若く美しい妻がいるんでしょう
わたしも1人の女やけど、ダーリン以外の男はいないわ
だからわたしを抱いてちょうだい
さぁ、美味しいお酒を召し上がれ
破天荒がカッコいいと勘違いして変な方向にイキっちゃっているとはいえ、須勢理毘売は夫である大国主を心から愛していました。
それに加えて若干言葉が通じない気配も感じた彼女は、ド直球で情に訴えて泣き落とし、さらに酒という物理的な手段も行使する方向に舵を切ったのです。
これが面白いくらいに効果てきめん、大国主は
キャワイイ!!
と、かつての愛情が熱く蘇るのを感じました。
2人はそそくさと家の中に引き返し、あらためて契りを結び直して仲睦まじく鎮まったと伝えられています。
めでたし、めでたし
何の話やねーーーーーん!!
何って、停滞期の夫婦のク〇どうでもいい話よ
男は最初の男になりたがり、女は最後の女になりたがる
ここまで大国主のことを散々弄ってきたので、いくつかフォローを入れておきましょう。
日本各地で妻を娶り子を成してきた彼ですが、地上の王たる大国主が文字通り種を蒔き散らすことは、実際には大漁や豊作と同じで、神さまが示すありがたい恵みだと考えられていたようです。
現代の人々は眉をひそめるかもしれませんが、古代の価値観ではこれがジャスティスだったのですね。
また、大国主が各地のお姫さまを妻に迎える描写には、王さまがその土地土地の宗教的支配権を獲得して、葦原中国全体を統治する支配者になっていく過程が反映されたとも考えられています。
もちろん須勢理毘売も他の女神さまと同様に、大国主による地上支配の正当性を強調する役割をもっています。
では何故、須勢理毘売が嫡妻(≒正妻)という特別な地位に置かれたかというと、地上における生産や生活の基盤となる地中世界の代弁者として、彼女が特に重要な存在であると見なされたからだとも言われています。
例えば農作物は良い土がないと育たないとか、
生活にはきれいな湧き水が必須とかそういう感じかしらね?
一見ぶっ飛んでいても最後まで政治的、それが日本神話じゃ
わしの偉さが分かったかのーー??
小さき相棒と共に国作りに真面目に取り組む【常世国からの来訪者】
極めて個人的な事情で国家運営の進捗を停滞させた大国主は、正妻である須勢理毘売との関係も改善したことから、ようやく腰を据えて国作りに取り組む姿勢を見せ始めます。
とはいっても国の運営なんてまったくの未経験、彼は出雲(島根県)の美保の岬にたたずんで、どうしたものかと思い悩んでいました。
う~ん、どないしよ…
…ん?あれ??
大国主はそんな時、海の彼方からこちらに向かってやって来る、何やら小さな物体に気が付きます。
良く目を凝らして見ると、それは天之羅摩(ガガイモのこと)で作った小舟で、その上には蛾の皮を剥いで作った服を着た小さな神さまが乗っていました。
きみ、誰ね?
…
大国主が尋ねても、その小さき神さまは何も答えません。
お伴の部下たちもその神さまのことは知らないようで、彼をどう扱って良いものか困っている様子。
そこに現れたのが、地の果てを支配するともいわれるヒキガエル・多邇具久です。
久延毘古さんなら知っとるですやろ
彼は国土の隅々まで知り尽くしていると噂されるほど、この界隈では有名な情報屋で、地道に足で稼いだ「ネタ」の正確さには定評がありました。
そんな多邇具久は、自身の相棒である久延毘古が「身元不明の神さま案件」を得意としていることを、大国主の一行に伝えます。
彼のアドバイス通りに久延毘古の元を訪れた大国主たち、彼らが求める答えはいとも簡単に見つかりました。
あぁ、その方は神産巣日神さんとこのお子さんですわ
多邇具久とコンビで探偵事務所を経営する久延毘古は、案山子なので方々を旅することは出来ません。
その代わりに、常に高い位置から世の中を見渡しているため、彼はあらゆる物事を見通す幅広い知見を持っていたのです。
何かお困りごとがあれば、「田守探偵事務所」まで~
最初から大当たりを引いた大国主は、スムーズに謎の神さまの父親である神産巣日のもとにたどり着きます。
そうそう確かにわしの子よ
小さくてわしの指の間から漏れ落ちとったのよ~
どうやら久延毘古の話は事実であったようで、その小さき神さまの名は少名毘古那神というそうな。
わっはっは
丁度良い機会やし、
あんたら2人コンビ組んでこの国を作り固めんさいな
大国主にとって神産巣日神は、幼少の頃に自分の命を救ってくれた恩人でもありました。
頭は上がらないし、足を向けて眠ることも出来ませんから、ご本人たっての命とあらば断わるという選択肢はありません。
詳しくは前回『エピソード4/出雲の王-前編-』を見てね!
そんなこんなで、大国主と少名毘古那の凸凹コンビがここに結成。
急ごしらえのタッグながら、彼らはここから協力して全国を巡り、国家建設に激しい情熱を燃やします。
やっと真面目に働くのね
彼らの業績をざっくりとまとめておくのじゃ
- 「五百津鉏」で国を造り固め、国土開発事業を大きく前進させる
※『出雲国風土記』より - 人々や家畜のために病気治療の方法を定め、少名毘古那は薬神とも呼ばれるようになる
- 鳥獣昆虫の害を払い除けるための禁厭の方法を定める
- 農業技術を指導する
- 酒造技術を普及させる
- 温泉の開発
我ながら良き仕事じゃ
うんうん
このほか『伊予国風土記』には、大国主と少名毘古那の間に友情が芽生えたことを感じさせる、以下のような逸話も残されています。
2神が国作り事業に邁進しているさなか、あるとき大国主が病気になって倒れてしまいます。
彼を助けようと考えた少名毘古那は、大分県にある速見湯を地下樋を使って運び、大国主に湯浴みをさせました。
おほ~、こりゃたまらんのう!
温泉に入った大国主は見る間に回復して復活、何なら以前より健康になります。
ことのときに少名毘古那が開いた湯が、現在の愛媛県にある「道後温泉」のもとになったと伝えられています。
※文献によっては2神の立ち位置が逆で説明されているものもあります。
温泉を医療に用いる「湯治」はわしが始めたのじゃ
数々の事業を共に成し遂げた大国主と少名毘古那の間には、強い信頼関係が結ばれました。
しかし、少名毘古那は自分の任務を概ね達成したとして、突然彼の故郷である海の彼方の常世国へと帰ってしまいます。
えっ、急だなぁ~
寂しくなるよ
また会えるよ
じゃぁのっ
彼は最後に淡島の粟の茎に登り、その弾力を利用して弾き飛ばされるように常世国に帰ったとも、熊野の御崎から海を渡って故郷に帰ったとも伝えられています。
少名毘古那が海の彼方の常世国から来たという設定は、異世界からやって来て豊穣や富をもたらすという「客人神(来訪神)」の性格とも重なります。
実際に彼は海の向こうから現れて、人々の身体健康に関わるあらゆる恵みをもたらしたことから、少名毘古那もまた異世界の神さまだったのではないかとも考えられています。
残りの仕事、どないしよ…
少名毘古那が去ってしまい、寂しいやら先が不安やら途方に暮れている大国主の元に、今度は別の神さまが海を輝かせながら近づいてきました。
わし、大物主神やけどね
わしを立派に祀ってくれたら後の仕事、手伝うよん
猫の手も借りたい大国主は大物主を大和の三輪山(奈良県)に丁寧に祀り、彼の助力を得てどうにか無事に国作りを完了させたのでした。
物語の序盤から思ってたんだけど…
あんた1人っきりで何かを
成し遂げたこと1回もないわよね…?
シャラーーーーーーーーーーーーーーップ!
ここぞという時に協力者が現れる!
これも王の器の成せる御業ぞ!
そういえば今さらだけど常世国って…
どこ?
「日本神話」には、天の世界である高天原や地上の世界である葦原中国の他にも、さまざまな世界が登場します。
初めて目にした方は少し混乱するかもしれないので、ここで簡単に整理しておきましょう。
黄泉の国 | 死後の世界 |
---|---|
暗くじめじめした、邪霊が棲む世界 | |
伊邪那美命が闇堕ちした姿である黄泉津大神が君臨する | |
生者が行き来することは出来ない | |
根之堅洲國 | 死後の世界 |
割と明るくて人々の暮らしも地上と変わらない | |
現役を退いた建速須佐之男命が統治する | |
生者が行き来することが可能 | |
常世の国 | 地上とは時間の流れが異なる異世界、神仙境 |
ここにいれば永久不変、不老不死が約束される理想郷 | |
さまざまな神々がここ出身で、物語でも行き来している |
各地に伝わる伝承を1本にまとめる過程で、
ややこしい世界設定になったと考えられておる
【国譲り】天津神の侵攻とはぐらかかす国津神【葦原中国平定】
紆余曲折はありながらも大国主は立派な王となって地上を統治し、葦原中国は出雲(島根県)を中心に大いに栄えていました。
仕事も家庭も順調、大国主も自らを慕う民たちと共に穏やかに暮らし、最近では建御名方神と事代主神の2人の息子に権限の大部分を委譲して、世代交代の準備もバッチリという状況です。
ほっほっほ~
よしなに~
しかし、そんな平和な地上の世界には、思いもよらぬ敵の魔の手が忍び寄っていました。
天の世界・高天原から地上の繫栄をじっと観察していた天照大御神が、葦原中国に住まう国津神の勢力に対して、事実上の宣戦布告を行ったのです。
地上の世界は、我が御子が統治することになってますねん
何言ってんのあいつ
ここでいう「御子」とは、天照の長男坊である天之忍穂耳命のことに他なりません。
唐突に地上の支配権を主張し始めた太陽神は、自分の息子に葦原中国へと降りるよう命じます。
釈然としないまま天浮橋に降り立った天之忍穂耳は、地上の世界をのぞき込んでびっくり仰天。
国津神というのはなんと粗暴でガラが悪いのでしょう、彼の目に地上世界は治安の悪い危険な町そのもののように映ったのです。
天之忍穂耳は踵を返して天照の元に戻るとこう言いました。
地上は荒れているので赴任したくありません!
困った天照は高御産巣日神と相談し、地上を平定するために誰を派遣するべきか調整を進めます。
もちろん天之忍穂耳の業務命令違反は、お咎めなしでさらりと流されました。
これだからボンボンは…
第一波:天之菩卑能命
天津神が事実上の最初の使者に指名したのは、天照の次男坊にして天之忍穂耳の弟にあたる天之菩卑能命です。
兄貴の尻ぬぐいかよ、仕方ねぇな…
彼は多少不満には思いながらも、母の命に従い地上の世界へと赴きます。
とはいえ国津神は、兄がビビッて踵を返して戻ってくるほどに恐ろしい存在だと聞いていた天之菩卑、彼も内心はそれなりにびくびくしていました。
ついに葦原中国に降り立った彼は、様子を見に来た地上の神々を見て身構えます。
やっほ~いらっしゃい!
長旅お疲れさまでした!
疲れたでしょ?
荷物持とうか?
わしの宮殿においでよ
お腹空いたでしょ~
え…いいんすか…?
天之菩卑を出迎えた葦原中国の王・大国主は、天からの使者を大いに歓迎しました。
国津神は荒々しく恐ろしいという話ばかり聞いていた天之菩卑は、拍子抜けしたばかりかその大きなギャップにだいぶ心を持っていかれます。
これ地上で有名なお酒!
ご飯も美味しいからいっぱい食べてね~
え~めっちゃ良い人やん…
好き!!
老獪な政治家のような手腕を誇る大国主にいとも簡単に懐柔された天之菩卑は、地上での安楽な生活にズブズブに浸ってしまい、結局3年ものあいだ高天原にいる神々になんの連絡もしませんでした。
彼はよほど大国主に心酔してしまったのか、「国譲り」が成った後も出雲国(島根県)に残って彼に仕えたとされています。
国譲り?
何それ美味しいの?
赤子の手をひねるかのごときじゃ~
まるで逆のパターンの物語もあるよ!
第二波:天若日子
3年ものあいだ使者からの連絡が途絶えて困り果てた高天原の神々は、さすがに次の人員を地上に派遣することにしました。
ここで白羽の矢が立ったのが、『七夕伝説』の彦星のモデルとも言われる穀物の神・天若日子です。
まぁボンボンのとこの息子じゃ厳しいだろうね~ん☆
2番目の使者に任命された彼には、天之麻迦古弓と天之波々矢という弓矢が授けられました。
必要なら暴力も辞するなという、天の神々からの暗黙のメッセージです。
天若日子は強力な武具を携え、鼻息も荒く猛りまくって葦原中国へと降り立ちます。
オゥオゥオゥオゥなんぼでもやったるぞコラァー!!
(僕ってなんて演技派☆)
しかしこの時には既に、大国主による次なる懐柔作戦が実行に移されていました。
彼は、宗像三女神の1柱・多紀理毘売命との間に生まれた娘の高比売命を呼び出します。
彼女は、親の欲目を差し引いても明らかな美貌をもつ容姿端麗な女神さまでした。
なんと大国主は、天若日子に娘を差し出して、この事態を上手く収めようと画策していたのです。
なぁ娘~、あの兄ちゃんどう思う?
なかなかのイケメンやと思うけど
え~大事な娘を政略結婚に出すんかいな…
当然良い気分はしない高比売ですが、急に現れた夫候補の顔面を拝んだ瞬間、彼女の態度は一変します。
というのも、天若日子は眉目秀麗な容姿をしているのみならず、その顔が高比売の兄・阿遅鉏高日子根神と瓜二つだったのです。
(あ、兄ぃの顔と、ご、合法的に…じゅるり…)
彼女にそんな癖があった設定は公式には存在しませんが、いずれにせよ高比売は兄と同じ顔をした天津神のことが気に入った様子。
準備が整った大国主は、鼻息荒くこちらを恫喝している天若日子に話を持ちかけます。
オゥオゥオゥオゥ何とか言うてみぃコラー!!
ねぇねぇ、うちの娘が兄ちゃんのこと好き言うとるけど、
どない~?
チラッ…(☆キラキラキラ☆)
僕も好きーーーっ☆
下照比売とも呼ばれる高比売は、その名の通りあたり一面を照り輝かせるほどの美しさを誇ったとされます。
そんな彼女は父の思惑通りに、一瞬にして敵将を虜にしてしまったのでした。
こうして高比売は天若日子と結婚し、それなりに仲良く夫婦生活を送ります。
それどころか、美しい妻にぞっこんに惚れこんでしまった天若日子は、
お義父さんの後を継いで、僕が葦原中国を治めるよ☆
と、反逆の野心を起こしたので、結局8年ものあいだ高天原への連絡を断ってしまいました。
(計画通り)
天之菩卑に続いて天若日子までもが、大国主の老獪な策により見事に篭絡されたのです。
さすがに8年も連絡が途絶えると、進展を待っている天照たちもいよいよ困り果ててしまいます。
そこで彼女らは、雉の鳴女を地上に遣わし、様子を見てくるように命じました。
鳴女はすぐに現地に赴くと、天若日子が住む家の木の枝にとまり、彼をうるさく問い詰めます。
おいお前~!
8年ブッチはさすがにやばすぎるぞ~!
それを聞いていたのが天若日子の召使いとして働く天佐具売、天邪鬼の原形になったとも言われる邪心の女神でした。
彼女は何を思いついたのか、その場にいる主人をこう言ってそそのかします。
旦那、あいつは不吉なやつでっせ
例の弓矢でいてもうたってくだされや~
高比売の魅力の前にポンコツと化していた天若日子は、言われるがまま天之麻迦古弓と天之波々矢を持ち出し、鳴女を射抜いてしまいました。
わし、ただのメッセンジャーなのに…バタッ
鳴女を貫いた矢はそのまま天高く昇って行き、高天原にいる天照と高御産巣日の足元に突き刺さります。
うわびっくりしたー!!!
あれ、これ天若日子に渡したやつじゃん
かつて部下に渡した矢に血がべっとりと付いている、不穏な空気を察した高御産巣日は一計を案じました。
天若日子が良い子なら当たらなーい!
天若日子が悪い子なら当ーたる!
彼は矢に呪いをかけると、地上に向かって射返します。
すると天之波々矢は迷うことなく天若日子のいる方角にすっ飛んでいき、見事に彼の胸板を貫通したのです。
ウボァー
「還矢恐るべし」という諺はここから生まれたのじゃ
「雉の頓使い」(意:たった1人で使いをやるもんじゃねぇぞ)もねっ
夫を失った高比売の泣き声は、遠く高天原にまで届きました。
彼女の悲しみに呼応して、夫の父である天津国玉神や天若日子の天界での妻たちが出雲の地(島根県)に降り立ちます。
えっ、あいつ結婚してたの…!?
彼らは雁や鷺、カワセミや雀、雉といった鳥たちに手伝ってもらい、天若日子の葬儀を執り行いました。
そこにふらりと現れたのが高比売の兄の阿遅鉏高日子根、彼もまた天若日子とは懇意にしており、急に亡くなった友人を弔いに急ぎやって来たのです。
あっここでやってたんだね~
ここで再び出てくるのが、阿遅鉏高日子根と天若日子が瓜二つの顔を持つという設定です。
息子にそっくりな阿遅鉏高日子根を見て勘違いした天津国玉たちは、
若日子生きとったんかワレ
と彼の手足に取りすがりました。
すると、友人を弔いに来たのに死者と間違われた阿遅鉏高日子根は大激怒。
わしを死人扱いするんか貴様らぁ~!!
彼は「大量(別名:神度の剣)」と呼ばれる剣を振り回し、天若日子を弔うための喪屋をなぎ倒して蹴り飛ばしてしまいました。
これが飛んで行った先が美濃国(岐阜県)の喪山であると伝えられています。
阿遅鉏高日子根はぷりぷり怒って飛び去ってしまいましたが、彼の妹である高比売はそんな兄を天の神々に紹介するために、「夷振」という田舎風の詩歌を歌いました。
これが後に「民謡」として、人々の間に広まったと伝えられています。
よく似た顔面を持つ阿遅鉏高日子根と天若日子の関係は、稲穂とその神霊の異なる状態、つまり「死と生」を象徴するとされています。
秋に刈り取られて死んだ稲穂は、次の季節には新しい生命を宿して同じ姿で再生します。
彼らが登場するこの物語は、農耕祭祀における穀霊の死と再生を扱う儀式がテーマになったと考えられているのです。
話は分かったんだけどさ…
天の神々が侵攻してきたっていう話はどうなったんだい!
天若日子絡みの逸話は本筋から外れまくっているので、もともとは独立した別の神話だったとも考えられているよ!
ということで本題に戻るのじゃ
第三波:建御雷之男神
その見事な手腕で、ゆうに10年を超える歳月をのらりくらりとかわし続けた大国主ですが、相手は強大な力を誇る天津神の勢力。
持久戦で敗れるのは時間の問題で、ついに彼にも年貢の納め時がやって来ます。
天照や高御産巣日、思金神といった天界のブレーンたちは事態を打開するために、最後の手段としてリーサルウェポンとも呼べる2柱の神々を派遣の候補に挙げました。
それこそが剛の者として名高い伊都之尾羽張神(または天之尾羽張神)と建御雷之男神の親子です。
伊都之尾羽張は天安川の上流に住んでいたので、険しい地形を踏破出来る天迦久神という鹿の神さまが交渉に派遣されます。
伊都之尾羽張は天迦久に、
えぇえぇ、お仕えいたしやしょ
しかしこの大役にはぜひ我が息子をお使い下され
と回答、こうして建御雷は鳥之石楠船神(別名:天鳥船神)をお伴に、葦原中国に殴り込みをかけることになったのです。
他のもんが頼りないけんのぅ~
建御雷は出雲国(島根県)の伊耶佐の小浜に威風堂々と降り立つと、打ち寄せる波の上に切っ先を上に向けた十拳剣を突き立て、その剣先に平然と胡坐をかいて座りました。
(うわぁ、なんか偉そうなの来たなぁ…)
(とういかこれはどういう状況…?)
(何かのマウントを取っているつもりなのか…?)
お伴の鳥之石楠船ですら「何をやっているんだ…?」と内心思っていましたが、これは自分自身の力を誇示するために行う、建御雷独特の威嚇行為だったのです。
ほんとはちょっと尻痛かった
建御雷は例のポーズのまま大国主を見下ろすと、
あんたが支配する葦原中国は本来、
天津神のもんやとウチの姐さんが言うとる
あんたはどうする?
と単刀直入に本題に入りました。
大国主が答えて曰く、
そう言われましても、実権はすでに息子2人に渡しとりますでのう…
あやつらに聞いてくださらんかのう…
建御雷は鳥之石楠船を遣いにやって、まずは彼の息子の1人である事代主神を連れて来させました。
彼にも同じように従属を要求してみると、
素晴らしいですやん!
父上、この方たちに譲ってしまいましょ!
秒で降伏。
事代主は「天の逆手」と呼ばれる呪いで自分の船を青柴垣に変化させると、さっさと海の中に隠れ去ってしまいました。
ま、マイソン…
情けないのぅ~
他に何か言いそうなやつはおらんのけ?
建御雷が答えを聞く前に、大国主のもう一人の息子である建御名方神が話を聞きつけて現れます。
彼は千人がかりでやっと動かせそうな大岩を軽々と担いで、自慢の剛力を見せつけるように歩いて来ました。
こうして独特のマウンティング手法を使う2神が揃い踏み、両者は真正面から向き合います。
建御雷が改めて天津神への服従を要求すると、
ほんなら力比べでといきまひょか
承知つかまつった
武勇の神さまとして名高い両名は、うだうだ話し合うよりも拳で決着を付けることを選びました。
建御名方が建御雷の手を掴もうとすると、その腕は氷柱や鋭い剣の刃に変化してどうにも手の出しようがなく、当然ながら彼も幻惑されてしまいます。
(えっ、「力比べ」ってこういうのもありなん…???)
困惑している建御名方の腕を、今度は建御雷の方が握りつぶし、雑草を抜くかのごとく彼の身体を放り投げてしまいました。
シンプルに力負けしているのはもちろんですが、いろんな意味で自分の常識が通用しないことに恐れをなした建御名方は、勝負を捨てて逃走してしまいます。
彼はもはや戦意を喪失していましたが、「兎を狩るにも全力で」がモットーの建御雷は、執拗に建御名方を追跡し続けました。
果てしない逃走劇の後、信濃国(長野県)の諏訪の地まで来たところで、ついに建御名方も観念します。
こいつマジでネジが飛んでるヤベェやつだわ…
(分かりました、降伏してあなた方に従いましょう)
逆ゥー!
あと私はこの諏訪の地から動かないことを誓いましょう
ま、マイソン…
国津神の降伏
建御雷は再び出雲国(島根県)に戻ると、息子2人が降伏した旨を父親に告げ、改めて従属を迫りました。
こうなっちまったらしゃあねぇな
地上の王たる神さまとその息子たちが降伏に同意したことで勝負は決着、葦原中国の支配権は高天原の天津神に移譲され、ここに有名な『国譲り』がなされます。
建御名方は建御雷との約束通り、諏訪湖のほとりに隠棲することになりました。
建御名方の妻はコチラ!
また、事代主は父・大国主より、天津神に仕える神々をとりまとめる役を任されたと伝えられています。
ついに地上の王の座を降りることになった大国主ですが、彼もまた百戦錬磨の老練なる為政者、ただでは転ぶはずもありませんでした。
その代わりと言っては何ですがのう…
わしが隠居するための立派な宮殿を建てて下されや…
なんと彼は、武力で侵攻してきた高天原の勢力に対し、自分が余生を過ごすための御殿を造るよう要求したのです。
今回は力でねじ伏せたとはいえ、相手は老獪な手腕を持つ大国主、そのうち二心を持つやもしれません。
天津神側にとっても、それで大人しくしてくれるならという気持ちがあったのでしょうか、彼の要求はすんなりと受け入れられました。
こうして大国主の終の棲家は、出雲国(島根県)の多芸志の小浜に造営されることになります。
天高く伸びる柱の上にそびえ立つその宮殿は、今日では出雲大社の名で良く知られています。
わしはもう引退するのじゃ~
こうして大国主をはじめとした国津神の勢力は、高天原の天津神の勢力に敗北を喫し、葦原中国の支配権を譲り渡すという結果に終わりました。
大国主の人(神)生という切り口でみると、あれだけ活躍したのに何とも残念な最後だなと言う気持ちになりますが、この物語には神話的にどのような意味があったのでしょうか。
ざっくりまとめるのじゃ
- そもそも大和朝廷と地方勢力の政治的な対立を反映した服属神話である
- 建御名方の降伏は「政治的、武力的支配力の献上」を表し、事代主の降伏は「呪術的、宗教的支配力の献上」を表す
- 建御名方と建御雷の力比べは、農耕儀礼の神事として行われた相撲神事を反映している
- 建御雷の武力の強さによって刀剣の威力を示そうとした
- 朝廷の主要な氏族である中臣氏(後の藤原氏)の氏神として祀られた、建御雷の権威を向上するために創作された
後半なんてバチバチに個人的ね
『古事記』や『日本書紀』編纂の過程においても、有力な各氏族の間で静かなる権威争いが繰り広げられていたことが、なんとなく見てとれますね。
現実の古代日本においても、出雲(島根県)は宗教的な権威をもつ特別な地であったそうです。
大国主が隠居した出雲大社も、平安時代においては日本一高い建物とされ、当時は48メートルもの高さがあったと伝えられています。
これから日本を丸ごと統一しようという大和朝廷にとって、独特の威厳と現実の影響力を持つ出雲勢力は、とても放っておける存在ではありませんでした。
朝廷の権威の正当性を内外に示すことが神話の目的ですから、天津神(≒大和朝廷)の勢力が大国主ら国津神(≒出雲をはじめとした地方勢力)を服従させ、あの出雲の地まで支配下に置いたという物語は、大々的に語られる必要があったのです。
また、相手が強大かつ偉大であればあるほど、それを屈服させた天皇家のルーツたる神々の権威も増すというもの。
そういった意図もふまえて、各地の地方神を統合した大国主なる神さま像が描かれたとも考えられています。
めっちゃ強い敵の存在が、
結果的に主人公の力を引き立てるってことだね!
だから大国主の物語がやたらと大ボリュームなのじゃな
最後は武力で解決なのもリアルっちゃリアルよね~
他にもあるよ!『国譲り神話』のいろいろなパターン
『日本書紀』をはじめとしたその他の文献には、今回ご紹介したものとは少し違う展開を見せる『国譲り神話』が描かれています。
さて、前後編に分けてご紹介した大国主の冒険と人生の物語はこれにて完結です。
次回は、地上の世界・葦原中国を手中に収めた天津神による、有名な『天孫降臨神話』について解説していきます。
お楽しみに!
…to be continued!!!
次回はコチラ!
おわりに
今回は、日本神話における一大叙事詩、『大国主神の冒険-後編-』について解説しました。
後半だけでもこのボリューム…
古代日本において出雲の存在がどれだけ重要だったかが分かるわね
物語を楽しみつつも、古代の人々の絶妙なパワーバランスに思いをはせる…
なかなかロマンあふれる趣味かもねん!
パパトトブログ-日本神話篇-では、私たちの祖国に伝わる魅力的な神々や彼らの物語をご紹介していきます。
神さま個別のプロフィール紹介や神話の名場面をストーリー調で解説など、難しい言葉は出来るだけ使わずに、あらゆる角度から楽しんでもらえるようにしようと考えています。
これからも「日本神話」の魅力をどんどんご紹介してきますので、良ければまた読んでもらえると嬉しいです!
また来てね!
しーゆーあげん!
参考文献
- 倉野憲司校注 『古事記』 岩波文庫 2010年
- 島崎晋[監修] 日本博学倶楽部[著] 『日本の「神話」と「古代史」がよくわかる本』 PHP文庫 2010年
- 由良弥生 『眠れないほど面白い『古事記』』 王様文庫 2014年
- 由良弥生 『読めば読むほど面白い『古事記』75の神社と神さまの物語』 王様文庫 2015年
- 歴史雑学研究倶楽部 『世界の神話がわかる本』 Gakken 2010年
- 宮崎市神話・観光ガイドボランティア協議会編集 『ひむか神話伝説 全212話』 鉱脈社 2015年
- 中村圭志 『図解 世界5大神話入門』 ディスカヴァー・トゥエンティワン 2020年
- かみゆ歴史編集部 『マンガ面白いほどよくわかる!古事記』 西東社 2017年
- 戸部民夫 『「日本の神様」がよくわかる本』 PHP文庫 2007年
- 三浦佑之 『あらすじで読み解く 古事記神話』 文藝春秋 2013年
- 國學院大學 「古典文化学」事業:https://kojiki.kokugakuin.ac.jp/research/
- 茂木貞純監修『日本の神様ご利益事典』だいわ文庫 2018年
- 武光誠『知っておきたい日本の神様』角川ソフィア文庫 2005年
- 阿部正路監修『日本の神様を知る事典』日本文芸社 1987年
他…
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