【忙しい人のための日本神話】エピソード3/追放されし荒神と稲穂の姫【あらすじ紹介】

この記事では、忙しいけど日本神話についてサクっと理解したいという方向けに、『古事記』をベースにした神話のメインストーリーをざっくりとご紹介していきます。

とりあえず主だった神さまの名前と、ストーリーラインだけ押さえておきたいという方向けのシリーズとなります。

『日本書紀』にのみ見られる独自の展開や、各地に伝わる『風土記ふどき』に記されたエピソードなどは、神さま個人(神)を紹介した個別記事をご覧ください。

この記事は、以下のような方に向けて書いています。

• 日本神話にちょっと興味がある人
• 日本神話に登場する神さまのことをざっくり知りたい人
• とりあえず誰かにどや顔でうんちく話をしたい人

まじで忙しい人のための結論

本気で忙しいあなたのために、今回ご紹介する物語のストーリーラインを、箇条書きでざっくりまとめておきます。

今回ご紹介する『八俣やまたの大蛇おろち退治』のストーリー

• 高天原たかまがはらを追放された建速須佐之男命たけはやすさのをのみことは、地上に降りる道中で空腹を覚え、大気津比売神おほげつひめのかみに助けを求める
• 大気津比売おほげつひめのもてなし方に激高した須佐之男すさのをは彼女を斬り捨て、神産巣日神かみむすびのかみの介入によって『穀物起源神話』になってしまう
• 須佐之男すさのをは出雲国いずものくに(島根県)の肥河ひのかわ(現在の斐伊川ひいかわ)を訪れ、生贄を要求された櫛名田比売命くしなだひめのみことの一家を救うことを決意する
• 「八塩折之酒やしおりのさけ」を中心に組んだ作戦が功を奏し、須佐之男すさのをは見事、八俣遠呂智やまたのおろちの討伐に成功する
• 八俣遠呂智やまたのおろちの尾から現れた「都牟刈太刀つむがりのたち」は高天原たかまがはらに献上され、後に三種の神器のひとつに数えられる「草薙剣くさなぎのつるぎ」となる
• 英雄となった須佐之男すさのをは須賀すがの地(島根県雲南市)に宮殿を構えて定住し、そこで多くの家族に囲まれて幸せに暮らす。

そもそも「日本神話」って何？

「日本神話」とは、ざっくり言うと「日本ってどうやって生まれたの？」を説明してくれる物語です。

原初の神々や日本列島の誕生、個性豊かな神さまが活躍する冒険譚や、彼らの血を引く天皇たちの物語が情緒豊かに描かれています。

現代の私たちが知る「日本神話」の内容は、『古事記こじき』と『日本書紀にほんしょき』という2冊の歴史書が元になっています。

これらは第四十代天武てんむ天皇の立案で編纂が開始され、それぞれ奈良時代のはじめに完成しました。

国家事業として作られた以上、政治的な色合いがあることは否めませんが、堅苦しくて小難しいかと思ったらそれは大間違い。

強烈な個性を持つ神々がやりたい放題で引き起こすトラブルや恋愛模様は、あなたをすぐに夢中にさせることでしょう。

さぁ、あなたも情緒あふれる八百万やおよろずの神々が住まう世界に、ともに足を踏み入れてみましょう。

主な登場人物

エピソード3/追放されし荒神あらがみと稲穂の姫

前回のストーリーはコチラ！

さすが荒ぶる高貴な神！キレて暴れただけなのに『穀物起源神話』になっちゃった！

高天原たかまがはらを追い出された須佐之男すさのをは、他に行くところもないので、ひとまず地上の世界・葦原中国あしはらのなかつくにに降りることにしました。

地上への道をさまよう中で空腹を覚えた彼は、たまたまその辺にあった民家を訪ねます。

須佐之男すさのをを出迎えたのは大気津比売神おほげつひめのかみ、穀物や農業を司る食物の女神さまです。

彼女は薄汚い身なりの須佐之男すさのをを見て、即座に警戒を強めました。

血筋だけは無駄に高貴な暴れん坊が乱暴狼藉をはたらき、高天原たかまがはらを追放されたという噂は、すでに大気津比売おほげつひめの耳にも入っていたからです。

この顔にピンときた彼女ですが、大気津比売おほげつひめもまた伊邪那岐命いざなぎのみことと伊邪那美命いざなみのみことの間に生まれた娘。

同じ父をもつ彼女にとって、須佐之男すさのをは実質的に弟のような存在ともいえました。

須佐之男すさのをの境遇に少し同情してしまった大気津比売おほげつひめは、腕によりをかけて彼をもてなすことに決めます。

しかしここで須佐之男すさのをは、これまでの旅の疲れもすべて吹っ飛んでしまうような衝撃的な光景を目撃することになりました。

なんと大気津比売おほげつひめは、鼻、口、尻など、自身の身体の穴という穴から食べ物をひりだして、それを何食わぬ顔で皿に並べたのです。

そして彼女は、何なら少し誇らしげな表情で、須佐之男すさのをに渾身の一皿を差し出しました。

追放されたうえに空腹に襲われて、ただでさえイライラしていた須佐之男すさのをは即座に大激怒。

彼は怒りのままに剣を抜き、大気津比売おほげつひめを一刀のもとに斬り伏せてしまいました。

すると何ということでしょう、大気津比売おほげつひめの頭からは「蚕かいこ」が生まれ、目には「稲」が生じ、耳からは「粟あわ」が出てきます。

さらに鼻からは「小豆」、股の間からは「麦」が、尻からは「大豆」が生じたのです。

須佐之男すさのをはぷりぷりしながらその場を立ち去りましたが、しばらくして彼を原初の神である神産巣日神かみむすびのかみが呼び止めました。

神産巣日かみむすびは、大気津比売おほげつひめから生じた穀物を高天原たかまがはらに持ち帰って穢けがれを祓はらい、須佐之男すさのをに地上に持って行くよう言い含めたのです。

須佐之男すさのを自身は特に何も考えていませんでしたが、彼がこれらの穀物の種を地上にもたらしたことから、葦原中国あしはらのなかつくにで稲作をはじめとした農耕が始まったと伝えられています。

真の三貴子さんきしじゃないと高天原たかまがはらを追い出されたので、葦原中国あしはらのなかつくにでスーパーヒーローすることにしました

そんなこんなで旅を続ける須佐之男すさのをはある日、出雲国いずものくに(島根県)の肥河ひのかわ(現在の斐伊川ひいかわ)の上流付近にたどり着きます。

彼が、今後の行く末をぼんやりと考えながら川の流れを眺めていると、上流から1本の箸が流れてきました。

特にやることもない須佐之男すさのをは、川をさかのぼって、その箸の持ち主を訪ねてみることにします。

彼がしばらく進むと案の定、一軒の民家が見えてきましたが、そこには何やら不穏な雰囲気が漂っていました。

その家には老いた一組の夫婦がおり、1人の若い娘を中心に置いてしくしくと鳴いているのです。

ただならぬ空気を察した須佐之男すさのをは、とにもかくにも声をかけてみることにしました。

明らかに粗暴な雰囲気を持つ薄汚い身なりの怪しい男を一家は警戒しますが、彼らはそれ以上の問題を抱えていた様子、須佐之男すさのをに自分たちが置かれた状況について話し始めます。

聞くところによると、夫は山の神・大山津見神おおやまつみのかみの子で足名椎命あしなづちのみことといい、その妻は手名椎命てなづちのみこと、そして娘は櫛名田比売命くしなだひめのみことというそうな。

実はこの家族のもとには毎年、高志国こしのくに(福井県・石川県・富山県・新潟県)に棲む八俣遠呂智やまたのおろちなる怪物がやって来て、人身御供ひとみごくう、つまり生贄いけにえを要求するのだそうです。

櫛名田比売くしなだひめには7人の姉がいましたが、彼女たちは既に怪物の犠牲になっており、ついに今年は最後の生き残りである彼女が差し出される番となった、というお話のようです。

足名椎あしなづちは須佐之男すさのをに、八俣遠呂智やまたのおろちがいかに恐ろしい怪物であるかを語りました。

その目は赤加賀智あかかがち(熟れたホオズキ)のように赤く燃え、体一つに八つの頭と八つの尾があり、その体には苔こけや檜ひのき・杉が生え、長さは谷を八つ尾根を八つも渡るほどに大きく、その腹はあちこちが爛ただれていつも血を垂らしている

『古事記』

須佐之男すさのをも内心ではビビっていたのかもしれませんが、それ以上に彼の意識を占有する存在がありました。

それは娘の櫛名田比売くしなだひめ、彼女は須佐之男すさのをの好みにド直球でぶっ刺さるとても美しい娘だったのです。

須佐之男すさのをは、生存の危機に瀕している無力な家族の足元を見てこう言いました。

急にふらっと現れた、粗野な身なりのろくに仕事もしていなさそうな男が、怪物を倒してやる代わりに娘を嫁によこせとのたまっています。

足名椎あしなづちは父として、一家の大黒柱として、いかに追い詰められた状況であってもその威厳を保たねばなりません。

すると須佐之男すさのをは、伝家の宝刀を抜くかのようにこう返しました。

話はとんとん拍子に勝手に進んでしまい、八俣遠呂智やまたのおろち退治の暁には櫛名田比売くしなだひめの嫁入りが決定してしまいました。

俄然やる気になった須佐之男すさのをは、以下のような段取りを組んで敵の到来に備えます。

• 櫛名田比売くしなだひめを櫛に変えて自分の頭に刺し、安全を確保する
• 老夫婦に命じて八つの門と八つの桟敷さじき(演劇を観る時の一段高い特等席みたいなもの)を設営させる
• 老夫婦に命じてめちゃくちゃ強い酒を醸造させ、八つの樽いっぱいに満たして②の桟敷さじきにセットさせる

そんなこんなで準備は完了、一同は敵の襲来を今か今かと待ち構えます。

しばらくすると遠方から、ドシンドシンと凄まじい地響きが聞こえはじめ、件の八俣遠呂智やまたのおろちが聞いた通りの恐ろしい姿で現れました。

見慣れない不思議な設備を見た八俣遠呂智やまたのおろちは一瞬警戒しますが、すぐにその意識は別の方向へと向かいます。

謎の装置に設置された大きな樽の中には、「八塩折之酒やしおりのさけ」と呼ばれる、何度も何度も醸かもすことで強烈なアルコール度数をもつに至った日本酒が入っていました。

最近日本酒にハマっていた八俣遠呂智やまたのおろちは、罠を警戒することもすっかり忘れて、八つの頭を八つの酒樽に突っ込んで一息にお酒を飲み干してしまいます。

強烈な日本酒を八つの頭すべてで平らげた八俣遠呂智やまたのおろちは、次第に酔いが回って深い眠りへと落ちてしまいました。

ここで満を持して登場するのが今回の主人公・須佐之男すさのをです。

彼は十拳剣とつかのつるぎを鞘からぬらりと抜くと、眠って動かない八俣遠呂智やまたのおろちの頭をひとつひとつチョンチョンしていきました。

須佐之男すさのをが八つの頭の次に八つの尾をチョンチョンしていると、突然彼の十拳剣とつかのつるぎが欠けてしまいます。

彼が不審に思ってよく見てみると、八俣遠呂智やまたのおろちの尾からは、何やら霊妙な力を放つ不思議な剣が出てきました。

それは天の世界・高天原たかまがはらにいる天照あまてらすに献上されて、しばらくの間「都牟刈太刀つむがりのたち」と呼ばれます。

時代が大きく下がって再びこの剣が登場したとき、それは「草薙剣くさなぎのつるぎ」の名で呼ばれ、天皇家の権威を象徴する「三種の神器」の一つに数えられることになるのです。

草薙剣くさなぎのつるぎの由来はコチラ！

こうして須佐之男すさのをは、敵を眠らせた隙にやってしまうという、賢いと言えば賢いけど少しもやっとする方法で、恐ろしい怪物を討伐してしまいました。

やり方はともかく、須佐之男すさのをが大ピンチの一家の命を救ったのは事実。

彼は約束通り、お目当ての櫛名田比売くしなだひめを妻に迎えることが出来ました。

立派な地上の英雄となって安住の地を求め、多くの家族に恵まれる

若かりし頃はやらかしまくって黒歴史を量産した須佐之男すさのをですが、八俣遠呂智やまたのおろち退治の功績により、彼は今や立派な地上の英雄となりました。

彼は櫛名田比売くしなだひめを伴い、宮殿を造るにふさわしい土地を探し求め、須賀すがの地(島根県雲南市)を終の棲家とすることにします。

須佐之男すさのをは安住の地に立ち昇る雲を見て、以下のような歌を詠みました。

これは日本で最初に詠まれた和歌であるといわれています。

また、須佐之男すさのをは義父である足名椎あしなづちに宮殿の長となるよう命じ、以降彼は稲田宮主須賀之八耳神いなだのみやぬしすがのやつみみのかみと呼ばれるようになりました。

須佐之男すさのをと櫛名田比売くしなだひめはその宮殿で結ばれ、子に八島士奴美神やしまじぬみのかみを得ます。

さらに彼は山の神・大山津見神おおやまつみのかみの娘である神大市比売命かむおおいちひめのみことも妻に迎え、彼女との間には大年神おおとしのかみと宇迦之御魂神うかのみたまのかみが生まれました。

こうしてついに、破天荒な荒神あらがみが辿った波乱万丈な冒険譚は、ここで一旦の終わりを迎えます。

日本神話の物語はここから少し時代が進み、須佐之男すさのをの6代後の子孫にあたる大国主神おおくにぬしのかみを主人公に据えて紡がれてゆくのです。

実は彼の冒険譚にも、現役を退いて根之堅洲國ねのかたすくにの統治者となった須佐之男すさのをが再登場を果たし、やはり一筋縄ではいかないキャラクターを演じています。

…to be continued!!!

次回はコチラ！

おわりに

今回は、日本神話のヒーロー物語、『八俣やまたの大蛇おろち退治』について解説しました。

パパトトブログ-日本神話篇-では、私たちの祖国に伝わる魅力的な神々や彼らの物語をご紹介していきます。

神さま個別のプロフィール紹介や神話の名場面をストーリー調で解説など、難しい言葉は出来るだけ使わずに、あらゆる角度から楽しんでもらえるようにしようと考えています。

これからも「日本神話」の魅力をどんどんご紹介してきますので、良ければまた読んでもらえると嬉しいです！

しーゆーあげん！