こんにちは!
今回はギリシャ神話より
アイアイエ島の魔女キルケーを紹介するよ!
いかにも神話って感じの肩書ね
彼女はどんなキャラクターなの?
彼女はイタリア半島に住んだといわれる凄腕の魔女で、
太陽神ヘリオスや魔術の女神ヘカテの子孫とされているんだ!
イアソンやオデュッセウスといった英雄たちの物語
に登場する、隠れた主役級の人物なのじゃ
ではさっそくいってみよう!
このシリーズでは、忙しいけど「ギリシャ神話」についてサクっと理解したいという方向けに、「かんたん・わかりやすい」がテーマの神々の解説記事を掲載していきます。
雄大なエーゲ海と石灰岩の大地が生み出した、欲望に忠実な神々による暴力的でありながらもどこかユーモラスな物語群が、あなたに新たなエンターテイメントとの出会いをお約束します。
人間味溢れる自由奔放な神々の色彩豊かで魅力的な物語に、ぜひあなたも触れてみてくださいね。
今回は、太陽神ヘリオスや魔術の女神ヘカテの血を引くともいわれる凄腕の魔女で、イアソンやオデュッセウスといった英雄たちの物語で華々しい活躍を果たし、ちょっと変わった恋愛エピソードも残した、謎めいた魅力の持ち主キルケーをご紹介します!
忙しい人はコチラから本編にすっ飛びじゃ
この記事は、以下のような方に向けて書いています。
- ギリシャ神話にちょっと興味がある人
- ギリシャ神話に登場する神さまのことをざっくり知りたい人
- とりあえず誰かにどや顔でうんちく話をしたい人
- ギリシャ神話に登場する「アイアイエ島の魔女キルケー」について少し詳しくなります。
- あなたのエセ教養人レベルが1アップします。
そもそも「ギリシャ神話」って何?
「ギリシャ神話」とは、エーゲ海を中心とした古代ギリシャ世界で語り継がれてきた、神々と人間の壮大な物語群です。
夏には乾いた陽光が降り注ぎ、岩と海とオリーブの木が広がる土地に暮らした人々は、気まぐれで情熱的、そして人間以上に人間らしい神々を生み出しました。
神々は不死である一方、人間と同じように嫉妬し、愛し、怒り、そしてときに残酷な運命に翻弄されます。
現代に伝わる物語の多くは、ホメロスの『イーリアス』『オデュッセイア』、ヘシオドスの『神統記』などの古代叙事詩を原典としています。
王族の愛憎劇に始まり、神々の争いや英雄たちの冒険、時に神と人間の禁断の関係まで——
あらゆる欲望と感情が渦巻くギリシャ神話の世界は、きっとあなたの心を掴んで離さないでしょう。


14世紀ギリシャの写本 PD
「ギリシャ神話」の全体像は、以下で解説しているよ!


アイアイエ島の魔女キルケーってどんな人物?
アイアイエ島の魔女キルケーがどんな人物なのか、さっそく見ていきましょう。
いくぜっ!
簡易プロフィール
| 正式名称 | キルケー Κιρκη |
|---|---|
| 名称の意味 | 輪で囲む 輪で固定する ※魔法の束縛力を示すとされる |
| その他の呼称 | キルケ |
| ラテン語名 (ローマ神話) | キルケー(Circe) |
| 英語名 | キルケー(Kirke) |
| 神格 | アイアイエ島の魔女 魔術の女神 |
| 性別 | 女性 |
| 勢力 | ギリシャの神々 |
| アトリビュート (シンボル) | カップ 杓子 |
| 主な拠点 | アイアイエ島 |
| 信仰の中心地 | アッティカ近郊の島々 イタリア中部ほか |
| 親 | 父:太陽神ヘリオス(Ἥλιος) 母:海の精霊ペルセ(Πέρση)またはペルセイス(Πέρσηΐς) または 父:コルキスの王アイエテス(Αἰήτης) 母:魔術の女神ヘカテ(Ἑκάτη) または 父:太陽神ヒュペリオン(Ὑπερίων) 母:アエロペ(Ἀερόπη) |
| 兄弟姉妹 | コルキスの王アイエテス(Αἰήτης) クレタ島の女王パシパエ(Πασιφάη) コルキスの王ペルセス(Πέρσης) コリントスの王アロエウス(Ἀλωεύς) ほか、採用する説によっても多数 |
| 配偶者 | イタキ島の王オデュッセウス(Ὀδυσσεύς) イタキ島の王子テレマコス(Τηλέμαχος) 海神ポセイドン(ΠΟΣΕΙΔΩΝ) |
| 子孫 | オデュッセウスとの間に、 魔女の息子テレゴノス(Τηλέγονος) 魔女の息子アグリオス(Ἄγριος) ラテン人の王ラティヌス(Λατῖνος) 英雄の息子ナウシトオス(Ναυσίθοος)とも テレマコスとの間に、 ラテン人の王ラティヌス(Λατῖνος)とも ポセイドンとの間に、 森の神ファウノス(Φαυνος) |
概要と出自
キルケーはギリシャ神話に登場する魔女、そして魔術の女神です。
彼女は「変身術」や「幻術」、「死霊術」に卓越した人物で、しばしば魔術や呪文の発明者、あるいは薬草学の創始者としても言及されました。
その名称「キルケー」は、ギリシャ語の「kirkoô」に由来し、この語は「輪で囲む」や「拘束する」といった意味をもっています。
つまり、彼女の名前自体が、その強大な魔力による「束縛」そして「支配力」を表すとも解釈されているのです。


『オデュッセウスに杯を差し出すキルケ』 1891年 PD
古代ギリシャの詩人ホメロスは、私のことを
「多くの薬を操る魔女(polypharmake)」と呼んだわよ
そんなキルケーの出自については諸説あり、その両親候補には以下の神々(または人物)が挙げられました。
- 太陽神ヘリオス(Ἥλιος)と海の精霊ペルセ(Πέρση)またはペルセイス(Πέρσηΐς)
- コルキスの王アイエテス(Αἰήτης)と魔術の女神ヘカテ(Ἑκάτη)
- 太陽神ヒュペリオン(Ὑπερίων)とアエロペ(Ἀερόπη)
キルケーは母ヘカテから薬草知識を学び、
彼女を凌ぐほど多種の薬草を発見したとも言われているよ!






1518年頃あるいは1531年頃 PD
いずれにせよ、古代ギリシャきっての凄腕魔術師となった彼女は、この世界の西の果て、大洋の神オケアノス(Ωκεανός)*の近くにあるとされるアイアイエ島に住み、自然界の精霊ニンフ(Νύμφη)たちと共に暮らしたと伝えられています。
※大地を流れる川のような形で存在している
この島の比定地*にも複数の候補が存在しますが、当ブログでは、イタリア半島南西部の海岸にあるモンテ・チルチェオを指すとする説を採用しました。
※文献や伝承などにある地名や場所が、現在のどこにあたるかを比較・推定して特定した場所のこと
一説によると、キルケーは父ヘリオスの戦車に乗ってティレニア海方面に連れて来られたとも、コルキスの地から有翼の竜によってかの地に運ばれたとも考えられたようです。
太陽神の血統を受け継ぐ西方の魔女キルケーは、イオルコスの英雄イアソン(Ἰάσων)やイタキ島の王オデュッセウス(Ὀδυσσεύς)の冒険譚といった、ギリシャ神話でも屈指の名場面に登場。
その他にも、彼女は、何とも言えない展開のちょっとした恋愛物語でヒロインを演じたりと、なかなかにクセの強いユニークな活躍を見せています。
キルケーが関わった主なストーリー
キルケーの活躍を見てみよう!
アイアイエ島の魔女、ガチでヤベェ姪っ子の「罪」を清める!!
キルケーはアイアイエ島に住む、あらゆる魔術に精通した高位の魔女です。
ある日、彼女は人とも獣ともつかない奇怪な生物の群れを従え、近くの浜辺で水浴を行っていました。
あー頭痛ぇ…
妙な夢を見たが、何かの予兆やろうか……
すると、そんなキルケーの目の前に、何やら見たこともない大きな船が現れ、中からぞろぞろと屈強な男たちが降りてきます。


『アルゴー船』 19世紀後半 PD
彼女が訝し気な表情で様子を探っていると、彼らの頭領と思しき青年が歩み寄ってきて、事の顛末を話し始めました。
実は、かくかくしかじかでしてのぅ…
曰く、その人物の正体は、イオルコスの正当な王位継承権者であるイアソン(Ἰάσων)――。
父王アイソン(Αἴσων)から王位を簒奪した叔父のぺリアス(Πελίας)を黙らせるため、名だたる英雄たちを集めた戦士団「アルゴナウタイ(Ἀργοναῦται)」を率いてコルキスへと向かい、かの地に眠る秘宝「金羊毛」を手に入れるため旅をしていたのだとか。
聞けば、肝心の目的物を入手したは良いものの、コルキス王の軍勢による追撃を受けた際、秘宝奪取の段取りに協力してくれた現地の王女メディア(Μήδεια)なる人物が、実の弟である王子アプシュルトス(Ἄψυρτος)を始末。
その亡骸をバラバラに解体し、敵の追跡を振り切るためのデコイとして、大海原に投げ捨ててしまったというのです。


『金羊毛』 1904年 PD
結局、アルゴナウタイの面々はコルキス軍から逃れることに成功しましたが、メディアの悪逆非道な行いは、天の神々の盛大な怒りを買うことになりました。
イアソンと旅の一行は、全ギリシャ世界を統べる至高の王・雷霆の神ゼウス(ΖΕΥΣ)がもたらした大嵐にさらされ、にっちもさっちもいかない大ピンチに陥ります。
すると、彼らが乗る船「アルゴー号」が
あ、アウソニア方面*に行って魔女キルケーの浄めを受けねば、全員仲良く海の藻屑ですぜぇ!!
※イタリアのこと
と、船長に進言。
※アルゴー号には「ものを言う木」が取り付けられているという設定がある
こうして、アルゴナウタイの戦士たちは、全員揃ってここアイアイエ島へとやって来た、というお話のようです。
このお話の詳細はコチラ!!




っちゅう理由で、わしらの「罪」を
清めて頂きたいのですじゃ…
………
………
キルケーは、メディアの目に宿る黄金の光から、彼女が太陽神ヘリオスの血を引く、自身の親族であることを瞬時に悟ります。
(我が身内ながら、とんでもなくヤベェ女じゃのう……)
(姪っ子が甥っ子を屠った話なんて、
普通なら遭遇できんでしかし…)
※説によっては異母兄弟姉妹である場合も
とはいえ、罪の清めを求める嘆願者には、分け隔てなく庇護を与えるのが、力ある者に課せられた責務というもの。


『キルケ』 1911年 PD
魔女は子豚を犠牲に捧げ、その血を2人の手に垂らし、神々に献上する供物を燃やすことで、主神ゼウスと復讐の女神エリニュス(Ἐρινύς)たちの怒りが鎮まるよう祈りました。
※若い船乗りたちを誘惑しようとしたが、イアソンとメディアにうまく断られたとも




無事に一通りの儀式を終え、改めて詳しい事情を聞いたキルケーは、
あんま言いたくないけどさぁ…
あんたの帰郷は不幸と恥辱に満ちることになるわよ…
あんた地獄に落ちるわよ
と、イアソンに忠告。
さらに彼女は、
まぁ、いうてもあんたらは嘆願者の立場やし、
一応は親族にあたる女子もおるし…?
これ以上は責めんけども、やったこと自体は許容できん
悪いけど、ここから出て行ってくれんね
として、アルゴナウタイの一団に即時退去を要求しました。
ガーン


『キルケー』 1910年 PD
こうして、イアソンとメディア、そしてアルゴナウタイの船乗りたちは、再びイオルコスの地を目指して旅立っていったと伝えられています。
アイアイエ島の魔女、
トロイア戦争の英雄とよろしくやる!!
今回の主人公キルケーは、イタキ島の王オデュッセウス(Ὀδυσσεύς)の10年にも及ぶ故郷への旅を描いた物語『オデュッセイア(Ὀδύσσεια)』にも登場しています。
ある日、彼女が住むアイアイエ島に、見るからに満身創痍といった風体の一隻の船が漂着しました。
その中から降りてきた人物こそが、「トロイア戦争」の英雄でもあるオデュッセウス。


『トロイアの木馬の行進』 1760年 PD
戦勝国側の将として、数え切れないほどの戦利品を満載して故郷イタキ島へと凱旋する途中の彼でしたが、その割には、本人たちも船団そのものも、えらく見すぼらしいなりをしています。
実は彼ら、ここアイアイエ島に辿り着く前にテレピュロスなる地を訪れ、そこに住む人喰い巨人族ラエストリゴネス(Λαιστρυγονες)の一団と遭遇――。
蛮族たちの容赦のない攻撃を受け、12隻あった船のうち11隻が轟沈、乗組員の大部分も命を落として、生き残ったわずかなメンバーと唯一無事であった一隻の船だけで、どうにかこうにか死地を脱出してきたのです。
いや、あれはマジで死ぬて……
ほぼ全滅やんけ、わしら……
前回までのお話はコチラ!!




島に到着してから最初の2日間、旅の一行は深い悲嘆に暮れつつも、激しい疲労を癒すためにひたすら休養をとりました。
3日目、オデュッセウス船長が様子見がてら付近の森をうろつき、槍で巨大な鹿を仕留めていると、島の中央から煙が立ち昇る様子が確認されます。
(ふーむ、やはりここにも誰かしらが住んどるか…)
(毎度、嫌な予感しかせんけど、
調べんわけにもいくまいのぅ……)
そう思い立った彼は、わずかに残った船員たちを2組に分け、A部隊のリーダーをオデュッセウス自身、B部隊のリーダーを副官のエウリュロコス(Εὐρύλοχος)として、互いに籤を引きました。
そして、当たりを引いたB部隊、つまりエウリュロコス以下22名の船乗りたちを、偵察として内陸部に派遣します。
もう何が起こっても不思議やない、気を付けるんやで~


『キルケー宮殿のユリシーズ』 1667年 PD
さて、エウリュロコスと選ばれし仲間たちが森の中を進んでいくと、やがて、開けた場所に建つ石造りの壮麗な宮殿が姿を現しました。
その前庭では、獅子や狼といった本来は獰猛な動物たちが放し飼いにされていますが、不思議なことに彼らが人を襲う様子はありません。
さらにその奥、宮殿の内部には、杼*を動かしながら歌を歌う、1人の美しい女性が佇んでいました。
※機織りの際、縦糸と横糸を通すために使う舟形の道具
その人物こそが、今回の主人公キルケー。
ここアイアイエ島に住む、類まれなる力をもったギリシャ有数の魔術師です。


『キルケ』 1889年 PD
あら、素敵な殿方たち…
長旅でお疲れでしょう、どうぞ、
我が館で一休みしてくださいな…
彼女の不思議な魅力に惹かれた男たちは、言われるがまま、堅牢な宮殿の中へと進み、めいめいに椅子に座ってくつろぎ始めました。
キルケーはそんな船員たちに、チーズと大麦、蜂蜜とプラム酒を混ぜた、よく分からない食べ物を与えます。
またしても言われるがまま、それらを口にしたクルーたちは、なんと、人間の心だけを残したまま「豚」の姿に変身させられてしまいました。
わしの魔術に、「記憶を失う薬」も加えた強力な一品じゃ
これで当面の食糧問題は解決!
コラぁ豚ども、さっさと家畜小屋に行かんかーい!!


『キルケのスケッチ』 1911年-1914年 PD
唯一、状況を警戒して宮殿に入らなかった副官のエウリュロコスは、一瞬の隙をついて姿を隠し、オデュッセウスに最悪の事態を報告するべく走ります。
うそ……夢だ、夢だ!
さめろさめろ、さめろ!
報せを聞いた船長は、
はぁ~(クソデカため息)
やっぱりこうなるのねん…
と肩を落としつつも、ただでさえ数が減ってしまった部下をこれ以上失わぬために、単独で件の館へと向かいました。
すると、どこからともなく黄金の杖を持つ伝令の神ヘルメス(Ἑρμης)が現れ、こう言ってオデュッセウスに忠告を与えます。
これこれ、丸腰のまま行っても同じ目に遭うだけだぜ、兄弟
この魔除けの薬草「モーリュ(moly)」を持って行きな
黒い根と白い花から作られた、人間には手の届かないレア物さ
魔女のところで客人として招かれたら、
まずはこの薬草を持ったまま酒を飲む
魔法が効かないのを確認したら、剣を抜いて脅してやりな
あ、でも、彼女が求めるならベッドを共にしちゃってもいいよ
ただし、事前に危害を加えないよう「誓い」をさせとくんだぜ
んじゃなっ!!
あ、あの、ありが…


『野原にあるメルクリウス像』 19世紀 PD


オデュッセウスが宮殿に到着すると、魔女キルケーは予想通り、彼をゲストとしてもてなす素振りを見せました。
あら、これまた凛々しい殿方が一人…
さぁさ、どうぞこちらで休んでくださいな
英雄はヘルメスの助言通り、まずは薬入りと思われる酒を大人しく飲み干し、特段の効果がないことを確認すると、鞘から剣を抜いて相手を威嚇します。
※薬草は持ったままで効果があったのか、直前にこっそりと服用していたのか
おぅコラぁクソ魔女ぉ‼‼
わしの大事な仲間たちを一人残らず返してもらうでぇ‼‼
な…なんだって―――‼


『キルケのワイン』 1900年頃 PD
オデュッセウスのぴんぴんした様子に驚愕したキルケーは、その正体が「予言の英雄」であることを悟り、決して害意をもたないという誓いを立てたうえで、彼を自分の寝室へと誘いました。
相対→ベッドインまでの流れが意味わかんないのが、
海外作品あるあるなのよね
一通りのコトを済ませたオデュッセウスは、ここで改めてキルケーに、豚にされた仲間たちの解放を要求。
……?
おばあちゃんだめ、ここにはお父さんも
お母さんもいないもん。
いない!?
それがおまえの答えかい?
………うん!
おお当たりーー!


魔女によって人間の姿に戻されたクルーたちは、以前よりも若く、美しくなっていたとも伝えられています。
一行は一度船に戻った後、荷物を洞窟の中に保管し、改めて全員で宮殿へと向かいました。
事情を知らぬエウリュロコスが猛烈に反対し、ブチギレたオデュッセウスに討たれかけますが、すんでのところで仲間たちがその暴挙を止めるという一幕もあったようです。
若干、すでにキルケーの魔性にやられてる感もあるよね!
館に到着した戦士たちは、暖かい風呂に真新しい油、上質な衣服と豪勢な―ノンケミカルの―食事でもてなされ、互いの無事を喜びあって安堵の涙を流しました。
オデュッセウスに情が移っていたキルケーも、進んでこの男たちを歓待し、結局、彼らは1年もの間、魔女の宮殿でご馳走と酒を楽しむ毎日を送ります。


『オデュッセウスとキルケ』 17世紀前半 PD
これは後の話になりますが、オデュッセウスとキルケーの間には、
- テレゴノス(Τηλέγονος)
- アグリオス(Ἄγριος)
- ラティヌス(Λατῖνος)
- ナウシトオス(Ναυσίθοος)
といった子どもたちも生まれました。
さて、1年も贅沢三昧の暮らしを続けた船乗りたちは、心身ともにすっかり回復し、ぽつぽつと帰郷を望む声が聞こえ始めます。
仲間たちに促されたオデュッセウスが、キルケーに出立の旨を伝えると、彼女は寂しそうな表情を見せつつも、
んだらばぁ、冥界で予言者テイレシアスに会って、
航海の助言を受けるとえぇよ
と教えてくれました。


『キルケ』 1650年-1660年頃 PD
これ以上無駄な被害を受けたくない船長は、死後の世界というものに若干ビビりつつも、キルケーの指示に従って冥府へと降る準備を進めます。
その段取りには、以下のような工程が含まれていました。
- 冥王の館の前に穴を掘る。
- 「乳」、「蜜」、「酒」、「水」、「小麦の粉」を注ぎ入れる。
- 亡霊たちに、望みが叶う(=イタキ島への帰還)ならば、最上の牝牛とさまざまな供物を犠牲に捧げると誓う。
- 盲目の預言者テイレシアス(Τειρεσίας)には、全身が真っ黒の羊を捧げると誓う。
- 牡羊と黒い牝羊を屠り、穴をそれらの血で満たす。
- 血に誘われて現れた亡霊たちを、剣で振り払って近寄らせないようにする。
- 部下に命じて羊の皮を剥いで焼かせ、冥界の王ハデス(ΑΙΔΗΣ)と女王ペルセポネ(ΠΕΡΣΕΦΟΝΗ)に祈らせる。
- テイレシアスが現れたら、旅の道筋や帰国の手順について聞く。


『風景画の中のキルケーとその恋人たち』 1525年頃 PD
面倒な段取りを経てテイレシアスに面会したオデュッセウスは、彼から
無事に帰りたくば、太陽神ヘリオスの牛は傷つけなさるな
あと君、最終的には故郷イタキ島の地を踏めるでな、
頑張んなさいよ
といったエールを受け取り、先に逝ったかつての戦友たちとの再会を果たしつつも、再び現世へと戻ります。




『死の国のオデュッセウスと予言者テイレシアース』 1780年-1785年 PD
いよいよ別れの時を迎えた際、キルケーは愛するオデュッセウスに、
その先の海域には、ヤベェ怪物が2匹棲んどる
カリュブディス側はマジでシャレにならんから、
行くんならスキュラ側をかすめる感じにした方がいいね
と、直近の航路に関する助言を与え、もの寂しげな面持ちで、共に過ごした戦士たちの背中を見送りました。
シャレにならない怪物はコチラ!


しっかりと英気を養ったこの集団は、その後も神々の思惑や怒りに振り回されて、とんでもなく長い旅路を歩んでいますが、それはまた別のお話――。
キルケーのその他の活躍【恋愛事情編】
アイアイエ島の魔女キルケーは上記のほかにも、ちょっとしたクセ強めの恋愛エピソードを残しています。
ここでは、それらのお話を、ざっくりダイジェストにてまとめてみました。
恋敵を怪物に変えてしまう、お茶目な乙女キルケー
魔女キルケーはある時、海の神の一柱であるグラウコス(Γλαῦκος)に恋をしました。
しかし、肝心のグラウコスは、当時美しい少女であったスキュラ(Σκύλλα)に夢中になってしまいます。
憧れの人(神)に相手にされず嫉妬に狂ったキルケーは、スキュラが水浴に使っていた浜辺を毒草で汚染し、そこに入った彼女を恐ろしい人喰いの怪物に変えてしまいました。
スキュラは後に、キルケーが愛したオデュッセウスの船を襲撃しており、間接的に復讐を果たしたことになっています。


『キルケー・インヴィディオーサ』 1892年 PD
自分を振った相手を動物に変えてしまう、ピュアな女子キルケー
ラティウム地方*を治めた王ピクス(Picus)は、狩猟と馬を愛する魅力的な若者でした。
※後の「ローマ」の所在地
彼にはカネンス(Canens)という名の妻がいましたが、魔女キルケーは、そんなピクスに横恋慕をかましてしまいます。
キルケーはグイグイと積極的に相手に言い寄りますが、妻を愛するピクスは、それらの誘惑をすべて拒絶しました。
怒ったキルケーは、魔術を用いてピクスを「キツツキ」の姿に変え、彼の従者たちを種々様々な獣に変身させたと伝えられています。
妻カネンスは夫を求めて各地をさまよい、悲しみの末に消え去ってしまいましたとさ。


『ピークスとキルケ』 年代不明 PD
追われると逃げたくなる、裏腹な純情をもつ恋愛体質のキルケー
ダウニア地方の王カルコス(Calchus)は、―よりにもよって―魔女キルケーに恋し、彼女に王権すらも譲りました。
しかし、当時のキルケーはオデュッセウスに首ったけであったため、横から言い寄ってくるこの男を激しく嫌悪。
執拗な求愛にブチギレた彼女は、呪薬を混ぜた料理をカルコスに与え、彼を狂気に陥れたうえで豚小屋にぶち込んでしまいました。
後にダウニア人が救出に現れた際、キルケーは、本人に厳重な接近禁止命令を言い渡し、その身柄を解放しています。


『魔女キルケーの王国』 1630年頃 PD
ろくな真似していないわね、この女
さすが、メディアの叔母なだけはあるわ…
あんた地獄に落ちるわよ
ギリシャ神話をモチーフにした作品
参考までに、「ギリシャ神話」と関連する
エンタメ作品をいくつかご紹介するよ!
おわりに
今回は、ギリシャ神話に登場するアイアイエ島の魔女キルケーについて解説しました。
ぶっ飛んだ振る舞いは多いものの、完全な悪人でもない、
なんとも魅力的なキャラクターだったわね
死ぬほど恐ろしかったり、時に純情だったり、掴みどころ
のない「魔女」という存在をよく体現した人物だよね!
パパトトブログ-ギリシャ神話篇-では、雄大なエーゲ海が生み出した魅力的な神々や彼らの物語をご紹介していきます。
神さま個別のプロフィール紹介や神話の名場面をストーリー調で解説など、難しい言葉はできるだけ使わずに、あらゆる角度から楽しんでもらえるように持って行こうと考えています。
これからも「ギリシャ神話」の魅力をどんどんご紹介してきますので、良ければまた読んでもらえると嬉しいです!
また来てね!
しーゆーあげん!
参考文献
- ヘシオドス(著), 廣川 洋一(翻訳)『神統記』岩波書店 1984年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『イリアス 上』岩波書店 1992年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『イリアス 下』岩波書店 1992年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『オデュッセイア 上』岩波書店 1994年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『オデュッセイア 下』岩波書店 1994年
- アポロドーロス(著), 高津 春繁(翻訳)『ギリシア神話』岩波書店 1978年
- T. ブルフィンチ(著), 野上 彌生子(翻訳)『ギリシア・ローマ神話』岩波書店 1978年
- 吉田 敦彦『一冊でまるごとわかるギリシア神話』大和書房 2013年
- 阿刀田高『ギリシア神話を知っていますか』新潮社 1984年
- 大林 太良ほか『世界神話事典 世界の神々の誕生』角川ソフィア文庫 2012年
- 中村圭志『図解 世界5大神話入門』ディスカヴァー・トゥエンティワン 2020年
- 歴史雑学探究倶楽部『世界の神話がわかる本』学研プラス 2010年
- 沢辺 有司『図解 いちばんやさしい世界神話の本』彩図社 2021年
- かみゆ歴史編集部『マンガ 面白いほどよくわかる! ギリシャ神話』西東社 2019年
- 鈴木悠介『眠れなくなるほど面白い 図解 世界の神々』日本文芸社 2021年
- 松村 一男監修『もう一度学びたいギリシア神話』西東社 2007年
- 沖田瑞穂『すごい神話―現代人のための神話学53講―』新潮社 2022年
- 杉全美帆子『イラストで読む ギリシア神話の神々』河出書房新社 2017年
- 中野京子『名画の謎 ギリシャ神話篇』文藝春秋 2015年
- 千足 伸行監修『すぐわかるギリシア・ローマ神話の絵画』東京美術 2006年
- 井出 洋一郎『ギリシア神話の名画はなぜこんなに面白いのか』中経出版 2010年
- 藤村 シシン『古代ギリシャのリアル』実業之日本社 2022年
- 中村圭志『教養として学んでおきたいギリシャ神話』マイナビ出版 2021年
- かみゆ歴史編集部『ゼロからわかるギリシャ神話』イースト・プレス 2017年
- THEOI GREEK MYTHOLOGY:https://www.theoi.com/
他…










