
こんにちは!
今回はギリシャ神話より
光明神の保養地ヒュペルボレアを紹介するよ!



あら、今回は珍しくロケーションの解説ね
そこはどんな場所なの?



ヒュペルボレアはギリシャの遥か北にあるとされた一種の理想郷で、アポロン神の大のお気に入りの場所なんだ!



設定には諸説ありまくるので、ざっくり
イメージしてもらうことを目的としてまとめたぞぃ



ではさっそくいってみよう!
このシリーズでは、忙しいけど「ギリシャ神話」についてサクっと理解したいという方向けに、「かんたん・わかりやすい」がテーマの神々の解説記事を掲載していきます。
雄大なエーゲ海と石灰岩の大地が生み出した、欲望に忠実な神々による暴力的でありながらもどこかユーモラスな物語群が、あなたに新たなエンターテイメントとの出会いをお約束します。
人間味溢れる自由奔放な神々の色彩豊かで魅力的な物語に、ぜひあなたも触れてみてくださいね。
今回は、古代ギリシャの北方、北風の神ボレアスの故郷の遥か彼方にあるとされた伝説上の国で、光明の神アポロンが毎年冬になると訪れるバケーションの地としても知られた、「老い」も「病」も「飢え」もない理想郷ヒュペルボレアをご紹介します!



忙しい人はコチラから本編にすっ飛びじゃ
この記事は、以下のような方に向けて書いています。
- ギリシャ神話にちょっと興味がある人
- ギリシャ神話に登場する神さまのことをざっくり知りたい人
- とりあえず誰かにどや顔でうんちく話をしたい人
- ギリシャ神話に登場する「光明神の保養地ヒュペルボレア」について少し詳しくなります。
- あなたのエセ教養人レベルが1アップします。
そもそも「ギリシャ神話」って何?
「ギリシャ神話」とは、エーゲ海を中心とした古代ギリシャ世界で語り継がれてきた、神々と人間の壮大な物語群です。
夏には乾いた陽光が降り注ぎ、岩と海とオリーブの木が広がる土地に暮らした人々は、気まぐれで情熱的、そして人間以上に人間らしい神々を生み出しました。
神々は不死である一方、人間と同じように嫉妬し、愛し、怒り、そしてときに残酷な運命に翻弄されます。
現代に伝わる物語の多くは、ホメロスの『イーリアス』『オデュッセイア』、ヘシオドスの『神統記』などの古代叙事詩を原典としています。
王族の愛憎劇に始まり、神々の争いや英雄たちの冒険、時に神と人間の禁断の関係まで——
あらゆる欲望と感情が渦巻くギリシャ神話の世界は、きっとあなたの心を掴んで離さないでしょう。


14世紀ギリシャの写本 PD
「ギリシャ神話」の全体像は、以下で解説しているよ!


光明神の保養地ヒュペルボレアってどんな場所?
光明神の保養地ヒュペルボレアがどんな場所なのか、さっそく見ていきましょう。



いくぜっ!
簡易プロフィール
正式名称 | ヒュペルボレア Ὑπερβορεα | |
---|---|---|
名称の意味 | 北風*の彼方 ※北風の神ボレアス(Βορέας)を指す | |
その他の呼称 | ハイパーボレア | |
ラテン語名 (ローマ神話) | ヒュペルボレア(Hyperborea) | |
英語名 | ヒュペルボレア(Hyperborea) | |
場所の概要 | 永遠の春に祝福された地 母性の女神レト(Λητώ)の故郷とも | |
主要なロケーション | リファエアン山脈(Ῥιπαῖα ὄρη) エリダノス川(Ηριδανος) ※同名の河神も存在 | |
主要な住民たち | 光明神の司祭たちヒュペルボレアデス(ὙπερΒορεαδες) ヒュペルボレイオイ(Ὑπερβορειοι) ※「ヒュペルボレア人」の意 預言者アバリス(Abaris) | |
極北の精霊ウピス(Ουπις) ※「標的」の意 極北の精霊ロクソ(Λοξο) ※「弾道」の意 極北の精霊ヘカエルゲ(Ἑκαεργη) ※「射程距離」の意 | ヒュペルボレアのニンフ(Νύμφη)*たち ※自然界の精霊みたいなもん | |
エリダノス川の精霊ヘスペリアイ(Ἑσπεριαι) ※淡水の精霊ナイアデス(Ναιάδες)の一集団 北風の神ボレアス(Βορέας) 黄金を守るグリフィン(γρύψ) ※ギリシャ語読みだと「グリプス」 片目の男たちアリマスポイ族(Αριμσασποι) ※「アリムパイオイ(Αριμφαιοι)」とも | ||
信仰の対象 | 光明の神アポロン(ΑΠΟΛΛΩΝ) |
ヒュペルボレアの概要
ヒュペルボレアはギリシャ神話に登場する伝説上の土地(島)です。
そこは、北風の神ボレアス(Βορέας)の故郷よりも遥か北方に位置する、永遠の春に祝福された場所とされました。


左上の海とハイパーボレフスがアイスランドとグリーンランドを隔てている
現地に住むヒュペルボレイオイ(Ὑπερβορειοι)*たちは、戦争や過酷な労働、老いや病の苦しみとは無縁で、普通の人間よりもはるかに長い寿命を誇ったと言われています。
※「ヒュペルボレア人」の意
また、ヒュペルボレアは肥沃な土地で、あらゆる作物を産出し、さらに非常に温暖な気候であったことから、毎年2度の収穫期に恵まれました。



いわゆる、「理想郷(ユートピア)」ってやつだね!
この地の主要な河川はエリダノス川(Ηριδανος)で、そこには同名の河神が宿っていたとされています。
その両岸には琥珀色の枝垂れポプラが並び立ち、水辺には美しい白鳥の群れが生息していました。
さらにその流域には、エリダノス川に特有のナイアデス(Ναιάδες)*として、ヘスペリアイ(Ἑσπεριαι)と呼ばれる乙女たちが暮らしていたとも言われています。
※淡水域に生息するニンフ(自然界の精霊)の一集団で、単数形はナイアス(Ναιάς)


ImageFXで作成
ヒュペルボレアの人々とアポロン信仰
伝説によると、ヒュペルボレアは母性の女神レト(Λητώ)の故郷とも考えられました。
そのため、島民の間では彼女の息子である光明の神アポロン(ΑΠΟΛΛΩΝ)が他のどの神よりも崇拝され、住民たちのほとんどが彼に仕える司祭と見なされていたのだそうです。




『ラトーナとその子供たちアポロとダイアナ』1769年 PD
そんなヒュペルボレアの人々を束ねていたのが、ヒュペルボレアデス(ὙπερΒορεαδες)と呼ばれる3人の神官たち。
彼らは、北風の神ボレアスと雪の女神キオネ(Χιονη)の息子たちで、それぞれの身長はなんと、6キュビト(約2.8m)もあったと言われています。
そんな3兄弟をリーダーに据えた住民たちは、毎日歌を捧げてアポロン神を称え、その偉大なる神格を深く敬いました。
島には壮麗なアポロンの聖域と、多くの奉納物で飾られた著名な神殿が建造され、特に首都にある円形の聖堂では、百頭のロバが神への敬意の証として生け贄に捧げられたとされています。
さらに、ヒュペルボレアの地にはアポロンを都市単位で祀るような場所もあり、現地の住民の大半は四六時中「キタラ(κιθάρα)*」と呼ばれる古代ギリシャの弦楽器を奏で、光明神への讃美歌を歌い、その功績を称えました。
※ぱっと見は「竪琴」みたいな感じ
この国の田園地帯の大部分は実際には荒れ地でしたが、それでもそこは美しい森に覆われており、人々はこれらを「アポロンの庭園」とも呼んだそうな。


Canvaで作成
観光地の絵葉書みたい…



う~ん☆
この土地の人々は、本当に僕のことを良く分かっているね☆
ここまで仰々しくもてはやされては、自己顕示欲の強いアポロンがヒュペルボレアの地を「大のお気に入り」とするのも無理はないでしょう。
実際、彼は毎年冬になると古代ギリシャを離れてヒュペルボレアにバカンスに向かい、その間、有名なデルフォイ(Δελφοί)の神託所も完全に休業していたといいます。
アポロンは春が訪れるまでの期間、ヒュペルボレア人と共に過ごし、音楽と踊り、そして尽きることのない若さに満ちた、牧歌的な日々を満喫しました。
彼はもともと外来の神とされており、そのルーツは北方にあるともアジアにあるとも考えられていたので、アポロンの軸足が古代ギリシャに置かれていなかった事実は、当時の人々にとってそこまで不自然なことでもなかったのかもしれません。


-古代デルフィの想像図 1894 年 PD



えっ、ギリシャ?☆



あんな殺伐としてて、わがまま放題な神々だらけの土地、
好きでも何でもないよ☆



普通に考えたら分かるでしょ?☆



実際、アポロンはトロイア戦争でもトロイアに味方して、
ギリシャ人をぶちのめしまくっとるのじゃ
ヒュペルボレアの人々はその一方で、独自の言語をもっていたとも伝えられており、ギリシャ人、特にアテナイ人とデロス人に対しては非常に友好的なことでも知られました。
当のアポロン自身はそうでもなかったようですが、少なくとも彼を崇拝した人々は、ギリシャに対してとても好意的な感情をもっていたようです。
この他、ヒュペルボレアの地には、アポロンの双子の姉である狩猟の女神アルテミス(ΑΡΤΕΜΙΣ)に仕えたニンフたち、
極北の精霊ウピス(Ουπις) ※「標的」の意 | ヒュペルボレアのニンフ(Νύμφη)*たち ※自然界の精霊みたいなもん |
極北の精霊ロクソ(Λοξο) ※「弾道」の意 | |
極北の精霊ヘカエルゲ(Ἑκαεργη) ※「射程距離」の意 |
の3姉妹が暮らしており、彼女たちはそれぞれ、様々な弓術の技を司りました。





この娘たちもまた、北風ボレアスの子なのじゃ



預言者アバリス(Abaris)がアポロンの矢に
乗って世界中を飛び回ったり…



ヒュペルボレア人がオリンピック創設神話
に関わったとするお話もあるわよ
ヒュペルボレアって、実際はどのあたりにあったの?
ヒュペルボレアは通常、大陸に囲まれた土地、あるいは島国として描写されました。
その北方には大地を取り囲む大洋の神オケアノス(Ωκεανός)*が広がり、ヒュペルボレアの南境は、極寒の峰々にして通行不能の伝説の山脈リファエアン(Ῥιπαῖα)に守られていたと言われています。
※神さま自体が地球を取り囲む「水」のようなイメージ
この山こそが北風の神ボレアスの故郷であり、そこから生じる冷たい息吹が、南の地(=ギリシャ)に「冬」をもたらすと信じられていました。
また、リファエアン山脈の頂上には黄金を守るグリフィン(γρύψ)*1が住み、渓谷には獰猛な片目の男たちアリマスポイ族(Αριμσασποι)*2が暮らしていたと伝えられています。
※1ギリシャ語読みだと「グリプス」、※2「アリムパイオイ(Αριμφαιοι)」とも
また、南斜面の麓にはプテロフォロス(πτεροφόρος)と呼ばれる地が広がり、そこは永遠の冬に呪われた、荒涼とした豪雪地帯として知られました。


Canvaで作成
さて、今回のテーマであるヒュペルボレアという国が、実際にはどのあたりに存在したのか――。
そのヒントとなりそうなのが、上述したリファエアン山脈です。
古代ローマの博物学者大プリニウス(Plinius Maior)は、この伝説上の山がカルパティア山脈(Munții Carpați)を指すと考え、その遥か北の地にヒュペルボレア人という幸福な種族が住むと記しました。
また、ヒュペルボレアの人々は、スキタイ人(Σκύθαι)が生活していた地域――現在のウクライナや南ロシアに相当するエリア――のさらに外側、北北東に住んでいたとする説もあります。
これまで挙げた2つの説を踏まえると、ヒュペルボレアの地は、現在のロシア周辺に存在していたと考えることもできるでしょう。
古代ローマ時代の地理学者ストラボン(Στράβων)は、トラキア地方(Θράκη)の少し北、ゲタイ(Γέται)の地を候補に挙げたため、この場合ヒュペルボレアは、現在のブルガリアからルーマニアにかけてのエリアに位置していたことになります。
※ドナウ川流域にあるとする説も提唱された
さらにこれ以外にも、古代ギリシャの歴史家ディオドロス(Διόδωρος)は、ケルト人たちが暮らす地域の彼方にシチリア島ほどの大きさの島があると考え、そこにヒュペルボレア人が住んでいると主張しました。
とはいえ、ケルト人の居住領域はブリテン島(現在のイギリス)を含む広範囲に及んだため、具体的なエリアを正確に絞り込むのはやや難しいと言えるでしょう。



ここまで御託を並べておいてなんだけど、
正確な場所ははっきりしていないんだよ!



この記事で挙げた例から考えると、ギリシャ北方から北東にかけて、ロシアとの間にあったっぽい感じはするわよね



他にも数多くの説が唱えられとるぞぃ
神話の物語に登場したヒュペルボレア
最後に、神話の物語においてヒュペルボレアの地が登場した場面を、ざっくりダイジェスト箇条書きでご紹介します。
- 太陽神ヘリオス(Ἥλιος)の息子パエトン(Φαέθων)が、父の戦車に乗って墜落した先がエリダノス川ともされている。
※兄の死を悲しんだ妹のヘリアデス(Ἡλιαδες)は、エリダノス川の精霊ヘスペリアイとも同一視された。 - 英雄ペルセウス(Περσεύς)は旅の途中、ヒュペルボレアの地を訪れて歓待を受けている。
- 英雄ヘラクレス(Ηρακλής)も12の功業の途中、2度ほどヒュペルボレアに来訪した。


ImageFXで作成



最後の方、明らかに息切れしてるよね



それぞれの細かい話は、
それぞれの記事でしっかり紹介しているよ!


ギリシャ神話をモチーフにした作品



参考までに、「ギリシャ神話」と関連する
エンタメ作品をいくつかご紹介するよ!
おわりに
今回は、ギリシャ神話に登場する光明神の保養地ヒュペルボレアについて解説しました。



ギリシャ神話では珍しいロケーションの紹介だったけど、
なかなか設定が凝っていたわね



現実の土地とリンクしているのがギリシャ神話の特徴だから、調べるのが大変な一方で、古代ロマンに触れる楽しみがあるよね!



ぶっちゃけ、設定に諸説あり過ぎて
全部紹介するのは放棄したぞぃ
パパトトブログ-ギリシャ神話篇-では、雄大なエーゲ海が生み出した魅力的な神々や彼らの物語をご紹介していきます。
神さま個別のプロフィール紹介や神話の名場面をストーリー調で解説など、難しい言葉はできるだけ使わずに、あらゆる角度から楽しんでもらえるように持って行こうと考えています。
これからも「ギリシャ神話」の魅力をどんどんご紹介してきますので、良ければまた読んでもらえると嬉しいです!



また来てね!
しーゆーあげん!
参考文献
- ヘシオドス(著), 廣川 洋一(翻訳)『神統記』岩波書店 1984年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『イリアス 上』岩波書店 1992年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『イリアス 下』岩波書店 1992年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『オデュッセイア 上』岩波書店 1994年
- ホメロス(著), 松平 千秋(翻訳)『オデュッセイア 下』岩波書店 1994年
- アポロドーロス(著), 高津 春繁(翻訳)『ギリシア神話』岩波書店 1978年
- T. ブルフィンチ(著), 野上 彌生子(翻訳)『ギリシア・ローマ神話』岩波書店 1978年
- 吉田 敦彦『一冊でまるごとわかるギリシア神話』大和書房 2013年
- 阿刀田高『ギリシア神話を知っていますか』新潮社 1984年
- 大林 太良ほか『世界神話事典 世界の神々の誕生』角川ソフィア文庫 2012年
- 中村圭志『図解 世界5大神話入門』ディスカヴァー・トゥエンティワン 2020年
- 歴史雑学探究倶楽部『世界の神話がわかる本』学研プラス 2010年
- 沢辺 有司『図解 いちばんやさしい世界神話の本』彩図社 2021年
- かみゆ歴史編集部『マンガ 面白いほどよくわかる! ギリシャ神話』西東社 2019年
- 鈴木悠介『眠れなくなるほど面白い 図解 世界の神々』日本文芸社 2021年
- 松村 一男監修『もう一度学びたいギリシア神話』西東社 2007年
- 沖田瑞穂『すごい神話―現代人のための神話学53講―』新潮社 2022年
- 杉全美帆子『イラストで読む ギリシア神話の神々』河出書房新社 2017年
- 中野京子『名画の謎 ギリシャ神話篇』文藝春秋 2015年
- 千足 伸行監修『すぐわかるギリシア・ローマ神話の絵画』東京美術 2006年
- 井出 洋一郎『ギリシア神話の名画はなぜこんなに面白いのか』中経出版 2010年
- 藤村 シシン『古代ギリシャのリアル』実業之日本社 2022年
- 中村圭志『教養として学んでおきたいギリシャ神話』マイナビ出版 2021年
- かみゆ歴史編集部『ゼロからわかるギリシャ神話』イースト・プレス 2017年
- THEOI GREEK MYTHOLOGY:https://www.theoi.com/
他…