こんにちは!
忙しい人のための神話解説コーナーだよ!
この記事では、忙しいけど日本神話についてサクっと理解したいという方向けに、『古事記』をベースにした神話のメインストーリーをざっくりとご紹介していきます。
とりあえず主だった神さまの名前と、ストーリーラインだけ押さえておきたいという方向けのシリーズとなります。
『日本書紀』にのみ見られる独自の展開や、各地に伝わる『風土記』に記されたエピソードなどは、神さま個人(神)を紹介した個別記事をご覧ください。
とりあえず大まかな流れをつかむというコンセプトじゃ
補足情報は【Tips】として解説しとるが、読み飛ばしても全然OKじゃぞ
関連記事のリンクを貼っているから、
気になった方はそちらもチェックしてね
ではさっそくいってみよう!
忙しい人はコチラから本編にすっ飛びじゃ
この記事は、以下のような方に向けて書いています。
- 日本神話にちょっと興味がある人
- 日本神話に登場する神さまのことをざっくり知りたい人
- とりあえず誰かにどや顔でうんちく話をしたい人
- 日本神話のメインストーリーをざっくりと把握出来ます。
- あなたのエセ教養人レベルが1アップします。
まじで忙しい人のための結論
本気で忙しいあなたのために、今回ご紹介する物語のストーリーラインを、箇条書きでざっくりまとめておきます。
ぱっと見で把握してね
何ならここを読むだけでもOKじゃぞ
今回ご紹介する『大国主神の冒険-前編-』のストーリー
- 建速須佐之男命の6代後の子孫である大国主神は、八上比売に求婚するという八十神の荷物持ちとして気多の岬を訪れる
- 大国主は八十神の噓によって怪我が悪化した稲羽之素菟を助け、八上比売との結婚を予言される
- 八上比売は予言通り大国主を夫に選ぶが、嫉妬に狂った八十神に計略により、大国主はその命を奪われる
- 神産巣日神の娘である𧏛貝比売と蛤貝比売の姉妹が大国主を蘇生させる
- その後も命を狙われた大国主は、木国(=紀伊国・和歌山県)に住む大屋毘古神の元に避難する
- それでも居場所が割れた大国主は、死者の世界である根之堅洲國へと亡命し、須勢理毘売命と出遭う
- 根之堅洲國の統治者である須佐之男の数々の試練を乗り越えた大国主は、須勢理毘売を正妻に迎え、地上の王となるお墨付きを得て、葦原中国に帰還する
そもそも「日本神話」って何?
「日本神話」とは、ざっくり言うと「日本ってどうやって生まれたの?」を説明してくれる物語です。
原初の神々や日本列島の誕生、個性豊かな神さまが活躍する冒険譚や、彼らの血を引く天皇たちの物語が情緒豊かに描かれています。
現代の私たちが知る「日本神話」の内容は、『古事記』と『日本書紀』という2冊の歴史書が元になっています。
これらは第四十代天武天皇の立案で編纂が開始され、それぞれ奈良時代のはじめに完成しました。
国家事業として作られた以上、政治的な色合いがあることは否めませんが、堅苦しくて小難しいかと思ったらそれは大間違い。
強烈な個性を持つ神々がやりたい放題で引き起こすトラブルや恋愛模様は、あなたをすぐに夢中にさせることでしょう。
「日本神話」の全体像は、以下で解説しているよ!
さぁ、あなたも情緒あふれる八百万の神々が住まう世界に、ともに足を踏み入れてみましょう。
主な登場人物
この物語の登場人物(神)をざざ~っと挙げておくぞい
エピソード4/出雲の王-前編-
―前回までのあらすじ
高天原を追放された建速須佐之男命は、自身に食事を振舞ってくれた大気津比売神を斬り伏せて『穀物起源神話』にしてしまうなど、一風変わった武勇伝を残しながら地上の世界・葦原中国に降り立ちました。
そんな彼が、出雲国(島根県)の肥河(現在の斐伊川)の近くを通りかかった時のこと。
須佐之男は、一組の老夫婦と若い娘がしくしくと泣いている、異様な現場に遭遇します。
その娘の名は櫛名田比売命、なんでも高志国(福井県・石川県・富山県・新潟県)に棲む八俣遠呂智なる怪物が、彼女を生贄によこせと要求していたようです。
美しい櫛名田比売のことが気に入った須佐之男は、彼女との結婚を条件に、人身御供を求める巨大な怪物の討伐を引き受けます。
かくして襲来した八俣遠呂智でしたが、須佐之男が用意させた「八塩折之酒」を飲み干した彼らは、酔いが回って深い眠りへと落ちてしまいました。
須佐之男はその隙に八つの頭と八つの尾を切り落とし、見事に八俣遠呂智の討伐に成功します。
怪物の尾からは不思議な霊剣が現れますが、時代が大きく下がって後、それは「草薙剣」の名で呼ばれ、天皇家の権威を象徴する三種の神器のひとつに数えられました。
こうして怪物退治の英雄となった須佐之男は、約束通り櫛名田比売を妻に迎えます。
安住の地を探し求めた彼らは須賀の地(島根県雲南市)に根を下ろし、多くの家族に囲まれて幸せに暮らしました。
前回のストーリーはコチラ!
今回は、須佐之男の6代後の子孫、
大国主神の冒険をご紹介するよ!
若くて優しいイケメンの神さまが、
地上の世界・葦原中国の王となるまでの物語よ!
この『出雲神話』は非常にボリュームがあるので、
今回は前後編に分けておるぞい
医療知識を活かして小動物を助ける心優しい青年は、お姫さまとの結婚を予言される【因幡の白兎】
地上の英雄となった須佐之男は美しい櫛名田比売を妻に迎え、2神の間には八島士奴美神が生まれました。
その後も彼らの系譜は連綿と続き、須佐之男の直系の血を引く天之冬衣神とその妻・刺国若比売の間には、後に地上の世界・葦原中国の王となる偉大なる神が生まれます。
それが今回の主人公・大国主神、須佐之男の6代後の子孫です。
※『日本書紀』では、須佐之男と櫛名田比売の子
これは、そんな大国主の若かりし頃、彼が大穴牟遅神と呼ばれていた時代のお話です。
大国主には他にも様々な名称があり、大穴牟遅や八千矛神など、物語の進行度や業績の達成度などに応じて、割と頻繁にその呼称が変わっています。
本来ならそれぞれのタイミングで適切な名前を用いるべきですが、当ブログでは分かりやすさの方を重視しているため、基本的には一貫して彼を「大国主」と呼ぶことにしています。
出世魚かな?
読みやすい方が良くない?
大国主には、八十神と呼ばれるそれはたくさんの異母兄弟がおり、末っ子の彼はいつも兄たちからこき使われていました。
そんな大勢の兄たちにはいろいろと屈折した面があり、その恋愛観もなかなか世間ずれした特殊なものだったようです。
なんと八十神たちは、よりにもよって全員一緒に1人のお姫さまに惚れこんでしまい、仲良く雁首を揃えて求婚の旅に出ることにしたのです。
なんじゃそら…
ターゲットになったのは因幡国(鳥取県)に住む八上比売、翡翠や瑪瑙などの美しい玉類を司る女神さまです。
そんな彼女自身も絶世の美女として有名で、その界隈で知らぬ者は存在しないちょっとした有名人(神)でした。
八十神たちは美しい女神さまにプロポーズをするために、荷物をすべて末っ子の大国主に押し付けて、意気揚々と出雲国(島根県)を出発します。
とんでもない量の荷を抱えた大国主は、特に逆らったりするでもなく、兄たちの後を追ってとぼとぼと歩き出すのでした。
まるで従者や召使いのような扱いを受ける彼は、後に自分自身が地上の世界・葦原中国に王として君臨することを、まだ知る由もありません。
屈辱的な立場からの這い上がり…
熱い展開が期待できそうね
旅の一行が気多の岬に差し掛かった時のこと。
大荷物を抱えた大国主が兄たちのはるか後方を歩いていると、何やら皮をひん剥かれた痛々しい姿の兎が転がっているのが目に入ります。
アバババババ
うわなんかグロっ…
どしたんね
実は、かくかくしかじかでして…
放ってはおけなかった大国主が兎に事情を聞くと、概ね以下のような経緯があったことが分かりました。
その兎の名は稲羽之素菟。
彼は淤岐の嶋に住んでいましたが、何かしらの用事を思い出して本土に渡ろうと考えたそうです。
しかし彼は単なる兎、単独で海を渡る術をもっていません。
そこで一計を案じた素菟は、近海に棲む和邇(サメやフカの類)に、こう声をかけました。
ヘイヘイ!!
ユーの一族とミーの一族、
どちらの数が多いか競べてみないかい?
気多の岬の方まで一列に並んでくれたら、
ミーが背中を踏み渡って数を数えてあげるよ!
ええよ
和邇が一族を総動員して整列したので、素菟は適当な数字を数えながら、彼らの背中の上をぴょんぴょんと飛び跳ねます。
もう少しで目的の本土にたどり着くというタイミングで、気の緩みが生じた彼は余計な一言を口走ってしまいました。
はっはっは!
ミーの目的は海を渡ること、間抜けな
和邇どもは騙されたのよ~ん!!
もっとも岸の近くに並んでいた和邇はその言葉を聞いて激怒し、素菟に襲い掛かって、全身の皮をまるごと剥ぎ取ってしまったのだそうです。
アバババババババ!!
さらに悪いことに、苦しんでいる素菟の近くを、大国主の兄である八十神たちが通りかかります。
意地の悪い彼らは、素菟の存在に気が付くと、ニヤニヤしながら声をかけました。
お前、そんな姿で何をしとんのけ?
実は、かくかくしかじかでして…
おぉ~そら大変じゃ!
すぐに海水を浴びて高いところで風に当たりんさい!
あっという間に良くなるぞ~
八十神の言葉を信じた素菟は、言われた通り海の塩水を浴びて小高い場所に登り、身を伏せて傷の回復を待ちます。
アバババババババ!!
余計に痛いやんけ!!!
騙しやがったなあのク○ども!!!
目的のために和邇を騙した直後に、今度は性格の悪い神々に自分が騙されてしまった素菟。
彼の容体が悪化して苦しんでいるところに、たまたま大国主が通りかかった、ということのようです。
ほぼ自業自得なんじゃぁねぇの…?
えっ!ちゃんと台本通りにやって!!!
とはいえ大国主も、ここまで酷い怪我を負った小動物を放置することは出来ません。
海水は逆効果じゃ…
真水で身体を洗って、蒲の穂を敷いて
その上に横たわっときんさい
素菟が大国主のアドバイス通りにするとあら不思議、彼の身体はたちまちのうちに元通りに治ってしまいました。
回復を喜んだ素菟は、大国主にこう言います。
八上比売はあんなア〇どもは選びやせん!!
選ばれるのは兄貴に違いありませんぜ!!
大国主は素菟に優し気な笑顔を返すと、再び大荷物を背負い、兄たちの後を追って歩き始めました。
一方その頃…
はるか先を行く八十神たちは、ついに因幡国(鳥取県)の八上比売のもとにたどり着いていました。
(お~お~ジャガイモが無駄に豊作だこと…)
類まれなる美貌を誇る八上比売、彼女のもとを訪れる求婚者は後を絶たず、おのずと目が肥えていった彼女は、ろくな男が訪ねて来ない毎日にややうんざりし始めていたようです。
八十神たちは我先にと美しき女神さまにアピール合戦を始めますが、そこは普段の求婚者捌きで場慣れしている彼女、多少のことでは動じません。
(なんかこいつら、困っている兎をいじめそうな顔しているわね…)
(っていうか誰ひとり土産も荷物も持ってないじゃない…)
(おおかた一番立場の低い奴に持たせてんのね…)
もはや名探偵の域に達した八上比売の洞察力は、八十神たちの性格の悪さを一瞬にして暴き出しました。
とはいえ普段はおしとやかな美人で通している彼女、コトを荒立てないようにオブラートに包んだ表現で、やんわりとお断りを申し上げます。
群れでしか行動出来ない有象無象のチンピラとは、
添い遂げられませんことよ…
まったく包まれてないよ!
もはや抜き身の刀だよ!
そんなこんなしているうちに遅れてやって来たのが、八上比売の予想通りとんでもない量の荷物を1人で抱えた、兄弟の末っ子と思われる大国主でした。
一見すると家来や従者のような扱いを受けている彼ですが、八上比売はそんな大国主の優れた資質を一発で見抜きます。
加えて、これは断じて決定的な要素ではありませんが、大国主は他の八十神どもと違って、均整の取れた非常に凛々しい顔立ちをしていたのです。
八上比売は、この神さまこそが自分の夫となる存在だと確信し、言葉をオブラートに包むのも忘れて、その場にいる全員にこう宣言します。
お前たち(八十神)嫌い、
優しい(顔が良い)大国主好き
言うなら後半だけで良かったんじゃないかな!?
かくして八上比売は末っ子の大国主を夫に選び、稲羽之素菟の予言は現実のものとなりました。
ユニークな小動物も登場したここまでの物語には、概ね以下のような意味が込められていると言われています。
- シンプルに、大国主と八上比売の婚姻達成を予言することが素菟の役割だった
- 大国主の優しさを語ることで、国土の支配者としての徳性を明らかにする意図があった
- 大国主には医療の神さまとしての側面もあり、傷を癒す民間療法の起源を語った民間説話が神話に組み込まれた
ちゃんと意味があったよ!!
不遇な扱いを受ける心優しい末っ子が、最後にはすべてを持っていく。
物語的には王道であり典型的なものですが、この出来事は、大国主を絶体絶命のピンチに陥れることにもなりました。
嫉妬に狂った兄たちに2度も命を狙われ、命からがら死後の世界へと亡命する【八十神の迫害】
美しい八上比売のお眼鏡にかなった大国主でしたが、それは同時に、八十神たちからの激しい嫉妬や恨みを一身に背負うことを意味していました。
なんせ今までは召使いのようにこき使ってきた末っ子が、誰もが羨むような絶世の美女に気に入られてしまったのです。
ただでさえ性格の悪い八十神の怒りは凄まじく、彼らはどうにかして大国主を陥れてやろうと画策します。
渦中の大国主はある日、伯耆国(鳥取県中西部)の手間の山に現れたという赤猪を狩るために、八十神たちから急遽呼び出されました。
疑いもせずに現場に登場した大国主は、
わしらが獲物を追い立てるから、
お前は麓でしっかり受け止めろや!
という兄の命令を信じ、真面目に予定ポイントにてその時を待ち構えます。
かくして山の頂上から何かが激しい勢いで転がり落ちてきましたが、それは猪などではなく、真っ赤になるまで焼かれた猪に似た形の大きな岩石だったのです。
謀ったな兄ぃ!
と思う間もなく、大国主は大岩に押しつぶされて木端微塵になってしまいました。
息子の死を悲しんだ彼の母は天の世界・高天原へと昇り、原初の神々である造化三神の1柱・神産巣日神に泣きついて助けを求めます。
あらあらあら
助けようね~
神産巣日は命を落とした大国主を助けるために、自身の娘である𧏛貝比売と蛤貝比売の2神を地上の世界に派遣しました。
はいやりまっせ~
ほいやりまっせ~
𧏛貝比売が、焼けた岩にへばりついた大国主だったものを、貝の殻を使って刮げ集めると、今度はそれらを蛤貝比売に渡します。
これを待ち受けた蛤貝比売は、母の乳汁に薬を混ぜ合わせて作った軟膏を、大国主の焼けただれた身体に塗りたくりました。
するとあら不思議、大国主はこれまでと何ら変わらない元の姿を取り戻し、元気いっぱいに出歩いて遊びまわるようになったのです。
はいやりました~
ほいやりました~
この姉妹との関わりにも、大国主がもつ「医療の神さま」としての性格が反映されているみたいだね!
こうして一命をとりとめた大国主ですが、その学習能力の低さまでは完治しませんでした。
確実にとどめを刺したはずの弟が元気に生きているのを目撃した八十神が、再び彼の命を奪おうと画策し、大国主は見事にその罠に嵌まってしまうのです。
八十神たちは、大きな樹を切り倒して途中まで縦に切り裂くと、割れ目を左右に開いて楔を打ち込み、その裂け目にのこのこと付いてきた大国主を立たせました。
兄弟の1人がタイミングを計って楔を外すと、
バツーン!!
大国主は案の定、巨木に挟まれて瀕死の重傷を負ってしまいます。
幸いにも彼は、その現場をすぐに発見した母親によって救助され、今回は命を落とすことはありませんでした。
大国主の母・刺国若比売は、息子の今後と生命の安全を真剣に憂います。
あの腹違いの兄どもはマジでイ○れとる…
そういうわけで彼女は息子の大国主を、木国(=紀伊国・和歌山県)に住む大屋毘古神のもとに逃がすことにしました。
彼は伊邪那岐命と伊邪那美命の間に生まれた木や家屋を司る神さまで、須佐之男の息子である五十猛命と同一神であるとも言われています。
大国主は命からがら逃走して大屋毘古の元に身を寄せますが、八十神の執念も恐ろしいもので、彼らはあっという間に弟の潜伏先を割り出してしまいました。
大勢の兄たちは大屋毘古の居所を取り囲み、めいめいに弓矢を構えると、物々しい雰囲気で脅しをかけてきます。
もしも~し!!
大屋毘古さんご在宅ですよね~!!
そこにうちの弟がいますよね~!!
家族の問題なんで帰してくださいね~!!
お前の兄弟、まじでヤッベェやつじゃん…
なんかもう慣れてきたまであるよね
聞いていた以上にまずい状況であることを悟った大屋毘古は、木の洞穴を通って根之堅洲國へと逃れるよう大国主に助言しました。
そこにおる須佐之男いうおっさんを頼りんさい!
そしたら何とかなるけぇ!
こうして大国主は怒り狂った兄たちから逃れ、一旦は命の安全を確保することが出来たのです。
大屋毘古がその後の状況をどう収めたのか文献には描かれていませんが、彼がかなり骨を折ったことは間違いないでしょう。
ついに逃げ場を失った大国主は、死後の世界・根之堅洲國へと足を踏み入れますが、彼はそこで自身の人(神)生を変える非常に重要な出会いを果たします。
事実上の故郷からの追放で始まる物語…
まぁ面白くなるパターンの序章ではあるわよね
あの世で暮らす情熱的な女神さまと結婚!遠い先祖でもある厳つい荒神を振り切って駆け落ちを決める!【根之堅洲國訪問】
八十神の迫害から逃れて、根之堅洲國を訪れた大国主。
そこは地の底にある国とも、海の彼方にある国とも言われる場所、いったいどのような冒険が彼を待ち受けているのでしょうか。
とはいえ、人(神)生を通して数々の浮名を流すことに定評のある大国主、たとえそこが死後の世界でも、彼がまずやることと言えば一つしかありませんでした。
大国主はさっそく、現地に住むとある美しい女性に目を留めます。
か、かわうぃ…!
えっ、めっちゃイケメン…!
普通なら警戒されるところですが、どうやらその女性の方もなかなかまんざらでもない様子。
彼女の名は須勢理毘売命、縁結びなどを司る女神さまで、前章『追放されし荒神と稲穂の姫』の主人公にして根之堅洲國の現・統治者である、建速須佐之男命の娘です。
彼女もまた荒神の娘らしく、感情のアップダウンの激しさで右に出る者は存在しませんでした。
2神は互いに目を合わせただけで心を通わせ、その恋心は激しく燃え上がり、そのままその場で結ばれたと言われています。
いや早っ!軽くね!?
人の子のものさしで神を測るでないわ!
この痴れ者め!!
コトが済んで気持ちも落ち着いた2神は、ここでようやく本題に戻ります。
そういえばあんた誰ね?
せやったせやった
大国主は自己紹介をして、自分が根之堅洲國にやってきたワケを彼女に話しました。
細かい事情はさておき、地上から現れたイケメンのことをすっかり気に入ってしまった須勢理毘売は、彼を自分の父親に紹介することにします。
パパーン、めっちゃええ子連れて来たよ~☆
ここで再登場を果たすのが三貴子の荒ぶる1柱・須佐之男です。
八俣遠呂智退治の英雄となって現役を退いてから久々の登場となる彼は、のっそりと表に出て来て大国主を一瞥するとこう言いました。
こいつは葦原色許男やね
須佐之男もさすがのもので、彼が素質のある立派な神さまであることを一目で見抜いたようです。
須勢理毘売の狙い通り、大国主は父に招かれて立派な宮殿の中に足を踏み入れるのでした。
須佐之男は自分の数代後の子孫が
来たことに気づいたのかしら…?
どうだろう…?
そう明記されてはいないようだけど、
言わないだけで気づいていたのかも…?
豪奢な宮殿に招かれた大国主は、豪勢な料理や酒での歓待を受けるものと勝手な期待をしていました。
しかし相手はあの須佐之男、そう都合よく話が進むはずもありません。
根之堅洲國の王は、ひとまず疲れた身体を休めるようにと大国主を寝室に案内しますが、実はこの時すでに、彼の娘婿としての適性を測る厳しい試験が開始されていたのです。
パパンがダーリンに課した試練をダイジェストでまとめるわ!
試練 | 対処 |
---|---|
床一面に蛇がうごめく部屋に通される | 須勢理毘売から受け取った領巾(布状の呪具)を使って蛇を撃退。 快眠。 |
百足と蜂がいっぱいに充満した部屋に通される | 同じく須勢理毘売から受け取った領巾を使って撃退。 快眠。 |
この時、須勢理毘売が大国主に渡した「領巾」が毒虫を退けたことから、彼女は悪鬼・悪霊の類を祓う呪力をもつとも考えられました。
あっけらかんとした顔で試練を突破する大国主を見た須佐之男は、自分の娘が手を貸しているとも露知らず、さらに厳しいテストを考案します。
彼はある日、鏑矢を野原に射放つと、大国主にそれを探して取ってくるよう命じました。
ク〇面倒くっさいのぉ~
(はい!お義父さん!)
ダーリンそれ逆ゥー!!
大国主が鏑矢を探しはじめると、なんと須佐之男は、未来の娘婿がいる野原に向けて即座に火を放ちます。
当然ながら周りは草だらけ、火が燃え広がるスピードは凄まじく、大国主はあっという間に炎に囲まれてしまいました。
グッフッフ、この難局をどう乗り切るかのぅ~
パパンやめて!
さすがにやり過ぎだって!!
さすがに万事休すとなった大国主の足元に、小さなネズミがやって来てこう言います。
内はホラホラ、外はスブスブ
何言ってんの?
とはいえ他に打つ手もない彼は、ネズミが何かヒントをくれているのだと信じ、その言葉の意味を解明しようと試みました。
あっ!そういうこと!?
どうやら、「ホラホラ」は「洞穴」のことで、「スブスブ」は「すぼまる」という意味のようです。
地上(外)はすぼまっていて、地中(内)は洞穴になっている、何かにピンときた大国主は、自分が立っている足元の土を強く踏みつけました。
すると地面にはぽっかりと穴があき、彼は地下に広がる洞穴に転がり落ちてしまいます。
しかしこれが幸いして、激しい勢いで広がる炎は大国主の頭上を通り過ぎてしまいました。
フィー、助かったぜ
あの、これ良かったらお土産にどうぞ
あ、どうも…
何から何まですみません…
大国主は先ほどのネズミから例の鏑矢を受け取り、ちゃっかり試練をクリアして生還したのです。
一方その頃…
大国主の生存は絶望的と判断した須勢理毘売は、しくしくと泣きながら彼の葬儀の準備をしていました。
そんなところに、これまたあっけらかんとした表情の青年が生きて戻ってきたのだから、彼女もテンションMAXで大喜び。
ほーん、なかなかやるやんけ…
こうなると須佐之男も、大国主の実力を認めないわけにはいきません。
そこで彼は、未来の娘婿候補に最後の試練を課すことにします。
須佐之男は大国主を八田間の大室(要するに広い部屋)に呼び入れると、
わしの頭のシラミを取ってくれんかのう
と言いました。
なんだそんなことかと、大国主はやや肩透かしを食らったような顔をしていましたが、すぐにその表情は一変して強張ります。
須佐之男の頭にいたのはシラミではなく、大量の大きな百足だったのです。
百足好きだなこのおっさん!!
さすがの大国主も手を出しあぐねているところに、すかさず手を差し伸べたのが須勢理毘売です。
彼女は愛する男性の手に、こっそりと椋の実と赤土を渡しました。
彼が木の実を食いちぎり赤土と一緒に口に含んで吐き出すと、須佐之男は大国主が自分のシラミを嚙みちぎって処理してくれているのだと勘違い。
そ、そこまでしてくれてるの…!?
きゃわいい…!!
すっかり気を許してしまった須佐之男は、ついうとうと眠りについてしまいました。
この隙を見逃さないのが大国主、彼は須佐之男の長い髪の毛を垂木に結いつけた上、部屋の入口を大岩で塞ぎます。
続いて大国主は須勢理毘売を背負うと、義父の宝物である生太刀と生弓矢(威力の高い武具)、天の詔琴(祭具)をパクって逃走を開始しました。
きゃ~☆攫われる~☆
良い根性してんなぁ~
作戦は上手くいくかに思われましたが、天の詔琴の弦が木に触れて大地を揺るがさんばかりの爆音を立てたので、須佐之男は驚いて飛び起きてしまいます。
しかし彼は垂木に結びつけられた自分の髪をほどくのにおおいに手間取ってしまい、大国主たちに時間稼ぎを許してしまいました。
どうにかして2人を追跡する須佐之男でしたが、根之堅洲國と葦原中国の境にある黄泉比良坂のあたりまで来ると、彼は若き2人に向かってこう言います。
その弓と刀を使ってお前さんを
いじめた兄たちをシバき倒しんしゃい
我が娘を正妻とし、「大国主」と名乗って、葦原中国を王として治めんしゃい
こいつめっ☆(Thumbs up)
荒神の厳しい試練を行き抜いた大国主は、正式に須佐之男の娘である須勢理毘売との結婚が許され、さらには地上の世界・葦原中国に王として君臨するお墨付きまでも得たのです。
召使いのようにこき使われ、いじめられていた末っ子の少年は、異世界での旅と出逢いを通じて強く成長し、偉大な神のバックアップを受けて地上に凱旋することになりました。
正確にはこの場面で、「大国主神」という名前になったのよね
大国主の物語-前編-はこれにて終了です。
後編では、葦原中国の王となるべく地上世界に戻った彼の、その後の活躍が描かれています。
前編だけでもかなりのボリュームだったけど、
大国主の物語はまだまだ続くんだね!
…to be continued!!!
次回はコチラ!
ほんとに今さらだけど…
根之堅洲國ってどこ?
「日本神話」には、天の世界である高天原や地上の世界である葦原中国の他にも、さまざまな世界が登場します。
初めて目にした方は少し混乱するかもしれないので、ここで簡単に整理しておきましょう。
黄泉の国 | 死後の世界 |
---|---|
暗くじめじめした、邪霊が棲む世界 | |
伊邪那美命が闇堕ちした姿である黄泉津大神が君臨する | |
生者が行き来することは出来ない | |
根之堅洲國 | 死後の世界 |
割と明るくて人々の暮らしも地上と変わらない | |
現役を退いた建速須佐之男命が統治する | |
生者が行き来することが可能 | |
常世の国 | 地上とは時間の流れが異なる異世界、神仙境 |
ここにいれば永久不変、不老不死が約束される理想郷 | |
さまざまな神々がここ出身で、物語でも行き来している |
各地に伝わる伝承を1本にまとめる過程で、
ややこしい世界設定になったと考えられておる
おわりに
今回は、日本神話における一大叙事詩、『大国主神の冒険-前編-』について解説しました。
前後編に分けてもこのボリューム…
大国主が神話の主人公といっても良さそうなくらいね
後編で詳しく解説するけど、出雲の神さまにここまで紙幅が割かれているのにも、ちゃんと意図があるんだよ!
パパトトブログ-日本神話篇-では、私たちの祖国に伝わる魅力的な神々や彼らの物語をご紹介していきます。
神さま個別のプロフィール紹介や神話の名場面をストーリー調で解説など、難しい言葉は出来るだけ使わずに、あらゆる角度から楽しんでもらえるようにしようと考えています。
これからも「日本神話」の魅力をどんどんご紹介してきますので、良ければまた読んでもらえると嬉しいです!
また来てね!
しーゆーあげん!
参考文献
- 倉野憲司校注 『古事記』 岩波文庫 2010年
- 島崎晋[監修] 日本博学倶楽部[著] 『日本の「神話」と「古代史」がよくわかる本』 PHP文庫 2010年
- 由良弥生 『眠れないほど面白い『古事記』』 王様文庫 2014年
- 由良弥生 『読めば読むほど面白い『古事記』75の神社と神さまの物語』 王様文庫 2015年
- 歴史雑学研究倶楽部 『世界の神話がわかる本』 Gakken 2010年
- 宮崎市神話・観光ガイドボランティア協議会編集 『ひむか神話伝説 全212話』 鉱脈社 2015年
- 中村圭志 『図解 世界5大神話入門』 ディスカヴァー・トゥエンティワン 2020年
- かみゆ歴史編集部 『マンガ面白いほどよくわかる!古事記』 西東社 2017年
- 戸部民夫 『「日本の神様」がよくわかる本』 PHP文庫 2007年
- 三浦佑之 『あらすじで読み解く 古事記神話』 文藝春秋 2013年
- 國學院大學 「古典文化学」事業:https://kojiki.kokugakuin.ac.jp/research/
- 茂木貞純監修『日本の神様ご利益事典』だいわ文庫 2018年
- 武光誠『知っておきたい日本の神様』角川ソフィア文庫 2005年
- 阿部正路監修『日本の神様を知る事典』日本文芸社 1987年
他…
気軽にコメントしてね!