【忙しい人のための日本神話】エピソード4/出雲の王-前編-【あらすじ紹介】

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忙しい人のための日本神話エピソード4
とと(父)

こんにちは!
忙しい人のための神話解説コーナーだよ!

この記事では、忙しいけど日本神話についてサクっと理解したいという方向けに、『古事記』をベースにした神話のメインストーリーをざっくりとご紹介していきます。

とりあえず主だった神さまの名前と、ストーリーラインだけ押さえておきたいという方向けのシリーズとなります。

日本書紀』にのみ見られる独自の展開や、各地に伝わる『風土記ふどき』に記されたエピソードなどは、神さま個人(神)を紹介した個別記事をご覧ください。

ヒヒ

とりあえず大まかな流れをつかむというコンセプトじゃ
補足情報は【Tips】として解説しとるが、読み飛ばしても全然OKじゃぞ

ことと

関連記事のリンクを貼っているから、
気になった方はそちらもチェックしてね

とと(父)

ではさっそくいってみよう!

ヒヒ

忙しい人はコチラから本編にすっ飛びじゃ

この記事は、以下のような方に向けて書いています。

  • 日本神話にちょっと興味がある人
  • 日本神話に登場する神さまのことをざっくり知りたい人
  • とりあえず誰かにどや顔でうんちく話をしたい人
この記事を読むあなたのメリット
  • 日本神話のメインストーリーをざっくりと把握出来ます。
  • あなたのエセ教養人レベルが1アップします。
目次

まじで忙しい人のための結論

本気で忙しいあなたのために、今回ご紹介する物語のストーリーラインを、箇条書きでざっくりまとめておきます。

ことと

ぱっと見で把握してね

ヒヒ

何ならここを読むだけでもOKじゃぞ

今回ご紹介する『大国主神おおくにぬしのかみの冒険-前編-』のストーリー

  • 建速須佐之男命たけはやすさのをのみことの6代後の子孫である大国主神おおくにぬしのかみは、八上比売やがみひめに求婚するという八十神やそがみの荷物持ちとして気多けたの岬を訪れる
  • 大国主おおくにぬし八十神やそがみの噓によって怪我が悪化した稲羽之素菟いなばのしろうさぎを助け、八上比売やがみひめとの結婚を予言される
  • 八上比売やがみひめは予言通り大国主おおくにぬしを夫に選ぶが、嫉妬に狂った八十神やそがみに計略により、大国主おおくにぬしはその命を奪われる
  • 神産巣日神かみむすびのかみの娘である𧏛貝比売きさがいひめ蛤貝比売うむぎひめの姉妹が大国主おおくにぬしを蘇生させる
  • その後も命を狙われた大国主おおくにぬしは、木国きのくに(=紀伊国きいのくに・和歌山県)に住む大屋毘古神おおやびこのかみの元に避難する
  • それでも居場所が割れた大国主おおくにぬしは、死者の世界である根之堅洲國ねのかたすくにへと亡命し、須勢理毘売命すせりびめのみことと出遭う
  • 根之堅洲國ねのかたすくにの統治者である須佐之男すさのをの数々の試練を乗り越えた大国主おおくにぬしは、須勢理毘売すせりびめを正妻に迎え、地上の王となるお墨付きを得て、葦原中国あしはらのなかつくにに帰還する

そもそも「日本神話」って何?

日本神話」とは、ざっくり言うと「日本ってどうやって生まれたの?」を説明してくれる物語です。

原初の神々や日本列島の誕生、個性豊かな神さまが活躍する冒険譚や、彼らの血を引く天皇たちの物語が情緒豊かに描かれています。

現代の私たちが知る「日本神話」の内容は、『古事記こじき』と『日本書紀にほんしょき』という2冊の歴史書が元になっています。

これらは第四十代天武てんむ天皇の立案で編纂が開始され、それぞれ奈良時代のはじめに完成しました。

国家事業として作られた以上、政治的な色合いがあることは否めませんが、堅苦しくて小難しいかと思ったらそれは大間違い

強烈な個性を持つ神々がやりたい放題で引き起こすトラブルや恋愛模様は、あなたをすぐに夢中にさせることでしょう。

とと(父)

日本神話」の全体像は、以下で解説しているよ!

枝年昌『岩戸神楽之起顕』1889年
枝年昌『岩戸神楽之起顕』1889年 PD

さぁ、あなたも情緒あふれる八百万やおよろずの神々が住まう世界に、ともに足を踏み入れてみましょう。

主な登場人物

ヒヒ

この物語の登場人物(神)をざざ~っと挙げておくぞい

エピソード4/出雲いずもの王-前編-

前回までのあらすじ

高天原たかまがはらを追放された建速須佐之男命たけはやすさのをのみことは、自身に食事を振舞ってくれた大気津比売神おほげつひめのかみを斬り伏せて『穀物起源神話』にしてしまうなど、一風変わった武勇伝を残しながら地上の世界・葦原中国あしはらのなかつくにに降り立ちました。

そんな彼が、出雲国いずものくに(島根県)肥河ひのかわ(現在の斐伊川ひいかわ)の近くを通りかかった時のこと。

須佐之男すさのをは、一組の老夫婦と若い娘がしくしくと泣いている、異様な現場に遭遇します。

その娘の名は櫛名田比売命くしなだひめのみこと、なんでも高志国こしのくに(福井県・石川県・富山県・新潟県)に棲む八俣遠呂智やまたのおろちなる怪物が、彼女を生贄によこせと要求していたようです。

美しい櫛名田比売くしなだひめのことが気に入った須佐之男すさのをは、彼女との結婚を条件に、人身御供ひとみごくうを求める巨大な怪物の討伐を引き受けます。

かくして襲来した八俣遠呂智やまたのおろちでしたが、須佐之男すさのをが用意させた「八塩折之酒やしおりのさけ」を飲み干した彼らは、酔いが回って深い眠りへと落ちてしまいました。

須佐之男すさのをはその隙に八つの頭と八つの尾を切り落とし、見事に八俣遠呂智やまたのおろちの討伐に成功します。

怪物の尾からは不思議な霊剣が現れますが、時代が大きく下がって後、それは「草薙剣くさなぎのつるぎ」の名で呼ばれ、天皇家の権威を象徴する三種の神器のひとつに数えられました。

こうして怪物退治の英雄となった須佐之男すさのをは、約束通り櫛名田比売くしなだひめを妻に迎えます。

安住の地を探し求めた彼らは須賀すがの地(島根県雲南市)に根を下ろし、多くの家族に囲まれて幸せに暮らしました。

前回のストーリーはコチラ!

とと(父)

今回は、須佐之男すさのをの6代後の子孫、
大国主神おおくにぬしのかみの冒険をご紹介するよ!

ことと

若くて優しいイケメンの神さまが、
地上の世界・葦原中国あしはらのなかつくにの王となるまでの物語よ!

ヒヒ

この『出雲いずも神話』は非常にボリュームがあるので、
今回は前後編に分けておるぞい

医療知識を活かして小動物を助ける心優しい青年は、お姫さまとの結婚を予言される【因幡いなば白兎しろうさぎ

地上の英雄となった須佐之男すさのをは美しい櫛名田比売くしなだひめを妻に迎え、2神の間には八島士奴美神やしまじぬみのかみが生まれました。

その後も彼らの系譜は連綿と続き、須佐之男すさのをの直系の血を引く天之冬衣神あめのふゆきぬのかみとその妻・刺国若比売さしくにわかひめの間には、後に地上の世界・葦原中国あしはらのなかつくにの王となる偉大なる神が生まれます。

それが今回の主人公・大国主神おおくにぬしのかみ須佐之男すさのをの6代後の子孫です。
※『日本書紀』では、須佐之男すさのを櫛名田比売くしなだひめの子

これは、そんな大国主おおくにぬしの若かりし頃、彼が大穴牟遅神おおあなむぢのかみと呼ばれていた時代のお話です。

大国主おおくにぬしには他にも様々な名称があり、大穴牟遅おおあなむぢ八千矛神やちほこのかみなど、物語の進行度や業績の達成度などに応じて、割と頻繁にその呼称が変わっています。

本来ならそれぞれのタイミングで適切な名前を用いるべきですが、当ブログでは分かりやすさの方を重視しているため、基本的には一貫して彼を「大国主おおくにぬし」と呼ぶことにしています。

とと(父)

出世魚かな?

ことと

読みやすい方が良くない?

出雲のイメージ

大国主おおくにぬしには、八十神やそがみと呼ばれるそれはたくさんの異母兄弟がおり、末っ子の彼はいつも兄たちからこき使われていました。

そんな大勢の兄たちにはいろいろと屈折した面があり、その恋愛観もなかなか世間ずれした特殊なものだったようです。

なんと八十神やそがみたちは、よりにもよって全員一緒に1人のお姫さまに惚れこんでしまい、仲良く雁首がんくびを揃えて求婚の旅に出ることにしたのです。

オオクニヌシ

なんじゃそら…

ターゲットになったのは因幡国いなばのくに(鳥取県)に住む八上比売やがみひめ翡翠ひすい瑪瑙めのうなどの美しい玉類を司る女神さまです。

そんな彼女自身も絶世の美女として有名で、その界隈で知らぬ者は存在しないちょっとした有名人(神)でした。

翡翠のイメージ

八十神やそがみたちは美しい女神さまにプロポーズをするために、荷物をすべて末っ子の大国主おおくにぬしに押し付けて、意気揚々と出雲国いずものくに(島根県)を出発します。

とんでもない量の荷を抱えた大国主おおくにぬしは、特に逆らったりするでもなく、兄たちの後を追ってとぼとぼと歩き出すのでした。

まるで従者や召使いのような扱いを受ける彼は、後に自分自身が地上の世界・葦原中国あしはらのなかつくにに王として君臨することを、まだ知る由もありません。

ことと

屈辱的な立場からの這い上がり…
熱い展開が期待できそうね

旅の一行が気多けたの岬に差し掛かった時のこと。

大荷物を抱えた大国主おおくにぬしが兄たちのはるか後方を歩いていると、何やら皮をひん剥かれた痛々しい姿のうさぎが転がっているのが目に入ります。

シロウサギ

アバババババ

オオクニヌシ

うわなんかグロっ…
どしたんね

シロウサギ

実は、かくかくしかじかでして…

放ってはおけなかった大国主おおくにぬしうさぎに事情を聞くと、概ね以下のような経緯いきさつがあったことが分かりました。

そのうさぎの名は稲羽之素菟いなばのしろうさぎ

彼は淤岐おきしまに住んでいましたが、何かしらの用事を思い出して本土に渡ろうと考えたそうです。

しかし彼は単なるうさぎ、単独で海を渡る術をもっていません。

白兎海岸と淤岐の島
白兎海岸と淤岐の島

目的のために和邇わにを騙した直後に、今度は性格の悪い神々に自分が騙されてしまった素菟しろうさぎ

彼の容体が悪化して苦しんでいるところに、たまたま大国主おおくにぬしが通りかかった、ということのようです。

オオクニヌシ

ほぼ自業自得なんじゃぁねぇの…?

シロウサギ

えっ!ちゃんと台本通りにやって!!!

とはいえ大国主おおくにぬしも、ここまで酷い怪我を負った小動物を放置することは出来ません。

オオクニヌシ

海水は逆効果じゃ…

オオクニヌシ

真水で身体を洗って、がまの穂を敷いて
その上に横たわっときんさい

素菟しろうさぎ大国主おおくにぬしのアドバイス通りにするとあら不思議、彼の身体はたちまちのうちに元通りに治ってしまいました。

大国主と因幡の白兎
大国主と因幡の白兎
出典:『The Japanese Fairy Book』 PD

回復を喜んだ素菟しろうさぎは、大国主おおくにぬしにこう言います。

シロウサギ

八上比売やがみひめはあんなア〇どもは選びやせん!!

シロウサギ

選ばれるのは兄貴に違いありませんぜ!!

大国主おおくにぬし素菟しろうさぎに優し気な笑顔を返すと、再び大荷物を背負い、兄たちの後を追って歩き始めました。

一方その頃…

はるか先を行く八十神やそがみたちは、ついに因幡国いなばのくに(鳥取県)八上比売やがみひめのもとにたどり着いていました。

ヤガミヒメ

(お~お~ジャガイモが無駄に豊作だこと…)

類まれなる美貌を誇る八上比売やがみひめ、彼女のもとを訪れる求婚者は後を絶たず、おのずと目が肥えていった彼女は、ろくな男が訪ねて来ない毎日にややうんざりし始めていたようです。

八十神やそがみたちは我先にと美しき女神さまにアピール合戦を始めますが、そこは普段の求婚者捌きで場慣れしている彼女、多少のことでは動じません。

ヤガミヒメ

(なんかこいつら、困っているうさぎをいじめそうな顔しているわね…)

ヤガミヒメ

(っていうか誰ひとり土産みやげも荷物も持ってないじゃない…)

ヤガミヒメ

(おおかた一番立場の低い奴に持たせてんのね…)

もはや名探偵の域に達した八上比売やがみひめの洞察力は、八十神やそがみたちの性格の悪さを一瞬にして暴き出しました。

とはいえ普段はおしとやかな美人で通している彼女、コトを荒立てないようにオブラートに包んだ表現で、やんわりとお断りを申し上げます。

ヤガミヒメ

群れでしか行動出来ない有象無象うぞうむぞうのチンピラとは、
添い遂げられませんことよ…

とと(父)

まったく包まれてないよ!
もはや抜き身の刀だよ!

野原のイメージ

そんなこんなしているうちに遅れてやって来たのが、八上比売やがみひめの予想通りとんでもない量の荷物を1人で抱えた、兄弟の末っ子と思われる大国主おおくにぬしでした。

一見すると家来や従者のような扱いを受けている彼ですが、八上比売やがみひめはそんな大国主おおくにぬしの優れた資質を一発で見抜きます。

加えて、これは断じて決定的な要素ではありませんが、大国主おおくにぬしは他の八十神やそがみどもと違って、均整の取れた非常に凛々しい顔立ちをしていたのです。

八上比売やがみひめは、この神さまこそが自分の夫となる存在だと確信し、言葉をオブラートに包むのも忘れて、その場にいる全員にこう宣言します。

ヤガミヒメ

お前たち(八十神やそがみ)嫌い、
優しい(顔が良い)大国主おおくにぬし好き

とと(父)

言うなら後半だけで良かったんじゃないかな!?

かくして八上比売やがみひめは末っ子の大国主おおくにぬしを夫に選び、稲羽之素菟いなばのしろうさぎの予言は現実のものとなりました。

ユニークな小動物も登場したここまでの物語には、概ね以下のような意味が込められていると言われています。

  • シンプルに、大国主おおくにぬし八上比売やがみひめの婚姻達成を予言することが素菟しろうさぎの役割だった
  • 大国主おおくにぬしの優しさを語ることで、国土の支配者としての徳性を明らかにする意図があった
  • 大国主おおくにぬしには医療の神さまとしての側面もあり、傷を癒す民間療法の起源を語った民間説話が神話に組み込まれた
シロウサギ

ちゃんと意味があったよ!!

不遇な扱いを受ける心優しい末っ子が、最後にはすべてを持っていく。

物語的には王道であり典型的なものですが、この出来事は、大国主おおくにぬしを絶体絶命のピンチに陥れることにもなりました。

嫉妬に狂った兄たちに2度も命を狙われ、命からがら死後の世界へと亡命する【八十神やそがみの迫害】

美しい八上比売やがみひめのお眼鏡にかなった大国主おおくにぬしでしたが、それは同時に、八十神やそがみたちからの激しい嫉妬や恨みを一身に背負うことを意味していました。

なんせ今までは召使いのようにこき使ってきた末っ子が、誰もが羨むような絶世の美女に気に入られてしまったのです。

ただでさえ性格の悪い八十神やそがみの怒りは凄まじく、彼らはどうにかして大国主おおくにぬしを陥れてやろうと画策します。

地上世界のイメージ

渦中の大国主おおくにぬしはある日、伯耆国ははきのくに(鳥取県中西部)手間てまの山に現れたという赤猪あかいを狩るために、八十神やそがみたちから急遽呼び出されました。

疑いもせずに現場に登場した大国主おおくにぬしは、

八十神

わしらが獲物を追い立てるから、
お前はふもとでしっかり受け止めろや!

という兄の命令を信じ、真面目に予定ポイントにてその時を待ち構えます。

かくして山の頂上から何かが激しい勢いで転がり落ちてきましたが、それは猪などではなく、真っ赤になるまで焼かれた猪に似た形の大きな岩石だったのです。

オオクニヌシ

はかったな兄ぃ!

と思う間もなく、大国主おおくにぬしは大岩に押しつぶされて木端微塵こっぱみじんになってしまいました。

息子の死を悲しんだ彼の母は天の世界・高天原たかまがはらへと昇り、原初の神々である造化三神ぞうかのさんしんの1柱・神産巣日神かみむすびのかみに泣きついて助けを求めます。

カミムスビ

あらあらあら
助けようね~

神産巣日かみむすびは命を落とした大国主おおくにぬしを助けるために、自身の娘である𧏛貝比売きさがいひめ蛤貝比売うむぎひめの2神を地上の世界に派遣しました。

キサガイヒメ

はいやりまっせ~

ウムギヒメ

ほいやりまっせ~

𧏛貝比売きさがいひめが、焼けた岩にへばりついた大国主おおくにぬしだったものを、貝の殻を使ってきさげ集めると、今度はそれらを蛤貝比売うむぎひめに渡します。

これを待ち受けた蛤貝比売うむぎひめは、おも乳汁ちしるに薬を混ぜ合わせて作った軟膏を、大国主おおくにぬしの焼けただれた身体に塗りたくりました。

薬づくりのイメージ

するとあら不思議、大国主おおくにぬしはこれまでと何ら変わらない元の姿を取り戻し、元気いっぱいに出歩いて遊びまわるようになったのです。

キサガイヒメ

はいやりました~

ウムギヒメ

ほいやりました~

とと(父)

この姉妹との関わりにも、大国主おおくにぬしがもつ「医療の神さま」としての性格が反映されているみたいだね!

こうして一命をとりとめた大国主おおくにぬしですが、その学習能力の低さまでは完治しませんでした。

確実にとどめを刺したはずの弟が元気に生きているのを目撃した八十神やそがみが、再び彼の命を奪おうと画策し、大国主おおくにぬしは見事にその罠に嵌まってしまうのです。

八十神やそがみたちは、大きな樹を切り倒して途中まで縦に切り裂くと、割れ目を左右に開いてくさびを打ち込み、その裂け目にのこのこと付いてきた大国主おおくにぬしを立たせました。

兄弟の1人がタイミングを計ってくさびを外すと、

オオクニヌシ

バツーン!!

大国主おおくにぬしは案の定、巨木に挟まれて瀕死の重傷を負ってしまいます。

木々のイメージ

幸いにも彼は、その現場をすぐに発見した母親によって救助され、今回は命を落とすことはありませんでした。

大国主おおくにぬしの母・刺国若比売さしくにわかひめは、息子の今後と生命の安全を真剣に憂います。

サシクニワカヒメ

あの腹違いの兄どもはマジでイ○れとる…

そういうわけで彼女は息子の大国主おおくにぬしを、木国きのくに(=紀伊国きいのくに・和歌山県)に住む大屋毘古神おおやびこのかみのもとに逃がすことにしました。

彼は伊邪那岐命いざなぎのみこと伊邪那美命いざなみのみことの間に生まれた木や家屋を司る神さまで、須佐之男すさのをの息子である五十猛命いそたけるのみことと同一神であるとも言われています。

大国主おおくにぬしは命からがら逃走して大屋毘古おおやびこの元に身を寄せますが、八十神やそがみの執念も恐ろしいもので、彼らはあっという間に弟の潜伏先を割り出してしまいました。

大勢の兄たちは大屋毘古おおやびこの居所を取り囲み、めいめいに弓矢を構えると、物々しい雰囲気で脅しをかけてきます。

八十神

もしも~し!!
大屋毘古おおやびこさんご在宅ですよね~!!

八十神

そこにうちの弟がいますよね~!!
家族の問題なんで帰してくださいね~!!

オオヤビコ

お前の兄弟、まじでヤッベェやつじゃん…

オオクニヌシ

なんかもう慣れてきたまであるよね

聞いていた以上にまずい状況であることを悟った大屋毘古おおやびこは、木の洞穴を通って根之堅洲國ねのかたすくにへと逃れるよう大国主おおくにぬしに助言しました。

オオヤビコ

そこにおる須佐之男すさのをいうおっさんを頼りんさい!
そしたら何とかなるけぇ!

こうして大国主おおくにぬしは怒り狂った兄たちから逃れ、一旦は命の安全を確保することが出来たのです。

大屋毘古おおやびこがその後の状況をどう収めたのか文献には描かれていませんが、彼がかなり骨を折ったことは間違いないでしょう。

ついに逃げ場を失った大国主おおくにぬしは、死後の世界・根之堅洲國ねのかたすくにへと足を踏み入れますが、彼はそこで自身の人(神)生を変える非常に重要な出会いを果たします。

根之堅洲國のイメージ
とと(父)

事実上の故郷からの追放で始まる物語…

ことと

まぁ面白くなるパターンの序章ではあるわよね

あの世で暮らす情熱的な女神さまと結婚!遠い先祖でもある厳つい荒神あらがみを振り切って駆け落ちを決める!【根之堅洲國ねのかたすくに訪問】

八十神やそがみの迫害から逃れて、根之堅洲國ねのかたすくにを訪れた大国主おおくにぬし

そこは地の底にある国とも、海の彼方にある国とも言われる場所、いったいどのような冒険が彼を待ち受けているのでしょうか。

とはいえ、人(神)生を通して数々の浮名を流すことに定評のある大国主おおくにぬし、たとえそこが死後の世界でも、彼がまずやることと言えば一つしかありませんでした。

大国主おおくにぬしはさっそく、現地に住むとある美しい女性に目を留めます。

オオクニヌシ

か、かわうぃ…!

スセリビメ

えっ、めっちゃイケメン…!

普通なら警戒されるところですが、どうやらその女性の方もなかなかまんざらでもない様子。

彼女の名は須勢理毘売命すせりびめのみこと、縁結びなどを司る女神さまで、前章『追放されし荒神あらがみと稲穂の姫』の主人公にして根之堅洲國ねのかたすくにの現・統治者である、建速須佐之男命たけはやすさのをのみことの娘です。

彼女もまた荒神あらがみの娘らしく、感情のアップダウンの激しさで右に出る者は存在しませんでした。

2神は互いに目を合わせただけで心を通わせ、その恋心は激しく燃え上がり、そのままその場で結ばれたと言われています。

炎のイメージ画像
ことと

いや早っ!軽くね!?

スセリビメ

人の子のものさしで神を測るでないわ!
この痴れ者め!!

コトが済んで気持ちも落ち着いた2神は、ここでようやく本題に戻ります。

スセリビメ

そういえばあんた誰ね?

オオクニヌシ

せやったせやった

大国主おおくにぬしは自己紹介をして、自分が根之堅洲國ねのかたすくににやってきたワケを彼女に話しました。

細かい事情はさておき、地上から現れたイケメンのことをすっかり気に入ってしまった須勢理毘売すせりびめは、彼を自分の父親に紹介することにします。

スセリビメ

パパーン、めっちゃええ子連れて来たよ~☆

ここで再登場を果たすのが三貴子さんきしの荒ぶる1柱・須佐之男すさのをです。

八俣遠呂智やまたのおろち退治の英雄となって現役を退いてから久々の登場となる彼は、のっそりと表に出て来て大国主おおくにぬし一瞥いちべつするとこう言いました。

スサノヲ

こいつは葦原色許男あしはらのしこをやね

須佐之男すさのをもさすがのもので、彼が素質のある立派な神さまであることを一目で見抜いたようです。

須勢理毘売すせりびめの狙い通り、大国主おおくにぬしは父に招かれて立派な宮殿の中に足を踏み入れるのでした。

御殿のイメージ
ことと

須佐之男すさのをは自分の数代後の子孫が
来たことに気づいたのかしら…?

とと(父)

どうだろう…?
そう明記されてはいないようだけど、
言わないだけで気づいていたのかも…?

豪奢な宮殿に招かれた大国主おおくにぬしは、豪勢な料理や酒での歓待を受けるものと勝手な期待をしていました。

しかし相手はあの須佐之男すさのを、そう都合よく話が進むはずもありません。

根之堅洲國ねのかたすくにの王は、ひとまず疲れた身体を休めるようにと大国主おおくにぬしを寝室に案内しますが、実はこの時すでに、彼の娘婿としての適性を測る厳しい試験が開始されていたのです。

スセリビメ

パパンがダーリンに課した試練をダイジェストでまとめるわ!

スクロールできます
試練対処
床一面にがうごめく部屋に通される須勢理毘売すせりびめから受け取った領巾ひれ(布状の呪具)を使って蛇を撃退。
快眠。
百足むかでがいっぱいに充満した部屋に通される同じく須勢理毘売すせりびめから受け取った領巾ひれを使って撃退。
快眠。

この時、須勢理毘売すせりびめ大国主おおくにぬしに渡した「領巾ひれ」が毒虫を退けたことから、彼女は悪鬼・悪霊の類をはらう呪力をもつとも考えられました。

あっけらかんとした顔で試練を突破する大国主おおくにぬしを見た須佐之男すさのをは、自分の娘が手を貸しているとも露知らず、さらに厳しいテストを考案します。

彼はある日、鏑矢かぶらやを野原に射放つと、大国主おおくにぬしにそれを探して取ってくるよう命じました。

弓矢を構えるイメージ
オオクニヌシ

ク〇面倒くっさいのぉ~
(はい!お義父とうさん!)

スセリビメ

ダーリンそれ逆ゥー!!

大国主おおくにぬし鏑矢かぶらやを探しはじめると、なんと須佐之男すさのをは、未来の娘婿がいる野原に向けて即座に火を放ちます。

当然ながら周りは草だらけ、火が燃え広がるスピードは凄まじく、大国主おおくにぬしはあっという間に炎に囲まれてしまいました。

スサノヲ

グッフッフ、この難局をどう乗り切るかのぅ~

スセリビメ

パパンやめて!
さすがにやり過ぎだって!!

焦土のイメージ

さすがに万事休すとなった大国主おおくにぬしの足元に、小さなネズミがやって来てこう言います。

ネズミ

内はホラホラ、外はスブスブ

オオクニヌシ

何言ってんの?

とはいえ他に打つ手もない彼は、ネズミが何かヒントをくれているのだと信じ、その言葉の意味を解明しようと試みました。

オオクニヌシ

あっ!そういうこと!?

どうやら、「ホラホラ」は「洞穴ほらあな」のことで、「スブスブ」は「すぼまる」という意味のようです。

地上(外)はすぼまっていて、地中(内)は洞穴ほらあなになっている、何かにピンときた大国主おおくにぬしは、自分が立っている足元の土を強く踏みつけました。

すると地面にはぽっかりと穴があき、彼は地下に広がる洞穴ほらあなに転がり落ちてしまいます。

しかしこれが幸いして、激しい勢いで広がる炎は大国主おおくにぬしの頭上を通り過ぎてしまいました。

オオクニヌシ

フィー、助かったぜ

ネズミ

あの、これ良かったらお土産にどうぞ

オオクニヌシ

あ、どうも…
何から何まですみません…

大国主おおくにぬしは先ほどのネズミから例の鏑矢かぶらやを受け取り、ちゃっかり試練をクリアして生還したのです。

丹塗矢のイメージ

一方その頃…

大国主おおくにぬしの生存は絶望的と判断した須勢理毘売すせりびめは、しくしくと泣きながら彼の葬儀の準備をしていました。

そんなところに、これまたあっけらかんとした表情の青年が生きて戻ってきたのだから、彼女もテンションMAXで大喜び。

スサノヲ

ほーん、なかなかやるやんけ…

こうなると須佐之男すさのをも、大国主おおくにぬしの実力を認めないわけにはいきません。

そこで彼は、未来の娘婿候補に最後の試練を課すことにします。

須佐之男すさのを大国主おおくにぬし八田間やたま大室おおむろ(要するに広い部屋)に呼び入れると、

スサノヲ

わしの頭のシラミを取ってくれんかのう

と言いました。

なんだそんなことかと、大国主おおくにぬしはやや肩透かしを食らったような顔をしていましたが、すぐにその表情は一変して強張ります。

須佐之男すさのをの頭にいたのはシラミではなく、大量の大きな百足むかでだったのです。

オオクニヌシ

百足むかで好きだなこのおっさん!!

さすがの大国主おおくにぬしも手を出しあぐねているところに、すかさず手を差し伸べたのが須勢理毘売すせりびめです。

彼女は愛する男性の手に、こっそりとむくの実と赤土を渡しました。

彼が木の実を食いちぎり赤土と一緒に口に含んで吐き出すと、須佐之男すさのを大国主おおくにぬしが自分のシラミを嚙みちぎって処理してくれているのだと勘違い。

スサノヲ

そ、そこまでしてくれてるの…!?
きゃわいい…!!

すっかり気を許してしまった須佐之男すさのをは、ついうとうと眠りについてしまいました。

家庭のイメージ

この隙を見逃さないのが大国主おおくにぬし、彼は須佐之男すさのをの長い髪の毛を垂木たるきに結いつけた上、部屋の入口を大岩で塞ぎます。

続いて大国主おおくにぬし須勢理毘売すせりびめを背負うと、義父の宝物である生太刀いくたち生弓矢いくゆみや(威力の高い武具)あめ詔琴のりごと(祭具)をパクって逃走を開始しました。

スセリビメ

きゃ~☆攫われる~☆

とと(父)

良い根性してんなぁ~

作戦は上手くいくかに思われましたが、あめ詔琴のりごとの弦が木に触れて大地を揺るがさんばかりの爆音を立てたので、須佐之男すさのをは驚いて飛び起きてしまいます。

しかし彼は垂木たるきに結びつけられた自分の髪をほどくのにおおいに手間取ってしまい、大国主おおくにぬしたちに時間稼ぎを許してしまいました。

どうにかして2人を追跡する須佐之男すさのをでしたが、根之堅洲國ねのかたすくに葦原中国あしはらのなかつくにの境にある黄泉比良坂よもつひらさかのあたりまで来ると、彼は若き2人に向かってこう言います。

スサノヲ

その弓と刀を使ってお前さんを
いじめた兄たちをシバき倒しんしゃい

スサノヲ

我が娘を正妻とし、「大国主おおくにぬし」と名乗って、葦原中国あしはらのなかつくにを王として治めんしゃい

スサノヲ

こいつめっ☆(Thumbs up)

島根県八束郡東出雲町にある黄泉比良坂
黄泉比良坂(島根県八束郡東出雲町)
出典:ChiefHira CC BY-SA 3.0

荒神あらがみの厳しい試練を行き抜いた大国主おおくにぬしは、正式に須佐之男すさのをの娘である須勢理毘売すせりびめとの結婚が許され、さらには地上の世界・葦原中国あしはらのなかつくにに王として君臨するお墨付きまでも得たのです。

召使いのようにこき使われ、いじめられていた末っ子の少年は、異世界での旅と出逢いを通じて強く成長し、偉大な神のバックアップを受けて地上に凱旋することになりました。

ことと

正確にはこの場面で、「大国主神おおくにぬしのかみ」という名前になったのよね

大国主おおくにぬしの物語-前編-はこれにて終了です。

後編では、葦原中国あしはらのなかつくにの王となるべく地上世界に戻った彼の、その後の活躍が描かれています。

とと(父)

前編だけでもかなりのボリュームだったけど、
大国主おおくにぬしの物語はまだまだ続くんだね!

…to be continued!!!

次回はコチラ!

【Tips】神話に出てくる色々な世界
ことと

ほんとに今さらだけど…

ことと

根之堅洲國ねのかたすくにってどこ?

「日本神話」には、天の世界である高天原たかまがはらや地上の世界である葦原中国あしはらのなかつくにの他にも、さまざまな世界が登場します。

初めて目にした方は少し混乱するかもしれないので、ここで簡単に整理しておきましょう。

スクロールできます
黄泉よみの国死後の世界
暗くじめじめした、邪霊が棲む世界
伊邪那美命いざなみのみことが闇堕ちした姿である黄泉津大神よもつおおかみが君臨する
生者が行き来することは出来ない
根之堅洲國ねのかたすくに死後の世界
割と明るくて人々の暮らしも地上と変わらない
現役を退いた建速須佐之男命たけはやすさのをのみことが統治する
生者が行き来することが可能
常世とこよの国地上とは時間の流れが異なる異世界神仙境しんせんきょう
ここにいれば永久不変、不老不死が約束される理想郷
さまざまな神々がここ出身で、物語でも行き来している
ヒヒ

各地に伝わる伝承を1本にまとめる過程で、
ややこしい世界設定になったと考えられておる

おわりに

今回は、日本神話における一大叙事詩じょじし、『大国主神おおくにぬしのかみの冒険-前編-』について解説しました。

ことと

前後編に分けてもこのボリューム…
大国主おおくにぬしが神話の主人公といっても良さそうなくらいね

とと(父)

後編で詳しく解説するけど、出雲いずもの神さまにここまで紙幅が割かれているのにも、ちゃんと意図があるんだよ!

パパトトブログ-日本神話篇-では、私たちの祖国に伝わる魅力的な神々や彼らの物語をご紹介していきます。

神さま個別のプロフィール紹介や神話の名場面をストーリー調で解説など、難しい言葉は出来るだけ使わずに、あらゆる角度から楽しんでもらえるようにしようと考えています。

これからも「日本神話」の魅力をどんどんご紹介してきますので、良ければまた読んでもらえると嬉しいです!

とと(父)

また来てね!

しーゆーあげん!

参考文献

  • 倉野憲司校注 『古事記』 岩波文庫 2010年
  • 島崎晋[監修] 日本博学倶楽部[著] 『日本の「神話」と「古代史」がよくわかる本』 PHP文庫 2010年
  • 由良弥生 『眠れないほど面白い『古事記』』 王様文庫 2014年
  • 由良弥生 『読めば読むほど面白い『古事記』75の神社と神さまの物語』 王様文庫 2015年
  • 歴史雑学研究倶楽部 『世界の神話がわかる本』 Gakken 2010年
  • 宮崎市神話・観光ガイドボランティア協議会編集 『ひむか神話伝説 全212話』 鉱脈社 2015年
  • 中村圭志 『図解 世界5大神話入門』 ディスカヴァー・トゥエンティワン 2020年
  • かみゆ歴史編集部 『マンガ面白いほどよくわかる!古事記』 西東社 2017年
  • 戸部民夫 『「日本の神様」がよくわかる本』 PHP文庫 2007年
  • 三浦佑之 『あらすじで読み解く 古事記神話』 文藝春秋 2013年
  • 國學院大學 「古典文化学」事業:https://kojiki.kokugakuin.ac.jp/research/
  • 茂木貞純監修『日本の神様ご利益事典』だいわ文庫 2018年
  • 武光誠『知っておきたい日本の神様』角川ソフィア文庫 2005年
  • 阿部正路監修『日本の神様を知る事典』日本文芸社 1987年

他…

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