【忙しい人のための日本神話】エピソード2/失われた太陽と高天原の神々【あらすじ紹介】

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忙しい人のための日本神話エピソード2
とと(父)

こんにちは!
忙しい人のための神話解説コーナーだよ!

この記事では、忙しいけど日本神話についてサクっと理解したいという方向けに、『古事記』をベースにした神話のメインストーリーをざっくりとご紹介していきます。

とりあえず主だった神さまの名前と、ストーリーラインだけ押さえておきたいという方向けのシリーズとなります。

日本書紀』にのみ見られる独自の展開や、各地に伝わる『風土記ふどき』に記されたエピソードなどは、神さま個人(神)を紹介した個別記事をご覧ください。

ヒヒ

とりあえず大まかな流れをつかむというコンセプトじゃ
補足情報は【Tips】として解説しとるが、読み飛ばしても全然OKじゃぞ

ことと

関連記事のリンクを貼っているから、
気になった方はそちらもチェックしてね

とと(父)

ではさっそくいってみよう!

ヒヒ

忙しい人はコチラから本編にすっ飛びじゃ

この記事は、以下のような方に向けて書いています。

  • 日本神話にちょっと興味がある人
  • 日本神話に登場する神さまのことをざっくり知りたい人
  • とりあえず誰かにどや顔でうんちく話をしたい人
この記事を読むあなたのメリット
  • 日本神話のメインストーリーをざっくりと把握出来ます。
  • あなたのエセ教養人レベルが1アップします。
目次

まじで忙しい人のための結論

本気で忙しいあなたのために、今回ご紹介する物語のストーリーラインを、箇条書きでざっくりまとめておきます。

ことと

ぱっと見で把握してね

ヒヒ

何ならここを読むだけでもOKじゃぞ

今回ご紹介する『天岩戸あまのいわと神話』のストーリー

  • 伊邪那岐命いざなぎのみことみそぎによって生まれた天照大御神あまてらすおおみかみは「高天原たかまがはら」を、月読命つくよみのみことは「夜の国」を、建速須佐之男命たけはやすさのをのみことは「海原」を治めるよう命じられる
  • 須佐之男すさのをは役目を果たさず泣いてばかりいたので、激怒した父・伊邪那岐いざなぎによって追放される
  • 須佐之男すさのをは、姉の天照あまてらすに別れを告げるために高天原たかまがはらを訪れ、誓約うけいを行って天上界に滞在することを許される
  • 高天原たかまがはらで乱暴狼藉の限りを尽くす須佐之男すさのを、ついに死者を出すほどの大事件を引き起こす
  • 天照あまてらすはショックのあまり、すべての責任を放棄して天岩戸あまのいわとの奥に引きこもる
  • 思金神おもいかねのかみをはじめとした高天原たかまがはらの神々が力を合わせ、どうにか天照あまてらすを洞窟の外に引きずり出す
  • 神々の協議によって須佐之男すさのをには多額の罰金刑が科せられ、地上の世界へと追放される

そもそも「日本神話」って何?

日本神話」とは、ざっくり言うと「日本ってどうやって生まれたの?」を説明してくれる物語です。

原初の神々や日本列島の誕生、個性豊かな神さまが活躍する冒険譚や、彼らの血を引く天皇たちの物語が情緒豊かに描かれています。

現代の私たちが知る「日本神話」の内容は、『古事記こじき』と『日本書紀にほんしょき』という2冊の歴史書が元になっています。

これらは第四十代天武てんむ天皇の立案で編纂が開始され、それぞれ奈良時代のはじめに完成しました。

国家事業として作られた以上、政治的な色合いがあることは否めませんが、堅苦しくて小難しいかと思ったらそれは大間違い

強烈な個性を持つ神々がやりたい放題で引き起こすトラブルや恋愛模様は、あなたをすぐに夢中にさせることでしょう。

とと(父)

日本神話」の全体像は、以下で解説しているよ!

枝年昌『岩戸神楽之起顕』1889年
枝年昌『岩戸神楽之起顕』1889年 PD

さぁ、あなたも情緒あふれる八百万やおよろずの神々が住まう世界に、ともに足を踏み入れてみましょう。

主な登場人物

ヒヒ

この物語の登場人物(神)をざざ~っと挙げておくぞい

エピソード2/失われた太陽と高天原たかまがはらの神々

前回までのあらすじ

天の世界・高天原たかまがはらに生じた原初の神々の命により、国土の創世(修理固成しゅりこせい)と、八百万やおよろずの神々を生み出すという偉業を成し遂げた伊邪那岐命いざなぎのみこと伊邪那美命いざなみのみことの夫婦。

多くの子孫にかこまれて幸せいっぱいの時間もつかの間、火之迦具土神ひのかぐつちのかみを生んだ伊邪那美いざなみは身体に大やけどを負ってしまい、ついには命を落として黄泉国よみのくにへと降ります。

夫の伊邪那岐いざなぎも、亡き妻を追って生きながらにして死後の世界へとおもむきますが、そこで彼が目にしたのは醜く変わり果てた妻・伊邪那美いざなみの姿でした。

恐怖におののき逃走する伊邪那岐いざなぎと、禍々しい黄泉津大神よもつおおかみと化して夫を追跡する伊邪那美いざなみ

伊邪那岐いざなぎ黄泉比良坂よもつひらさかに大岩を置いて道を塞ぐと、一度は心から愛した妻・伊邪那美いざなみに離縁を言い渡します(事戸ことどわたす)。

こうして「生」と「死」の対立が明確化し、人間に「寿命」の概念が生まれました。

命からがら生還した伊邪那岐いざなぎが、黄泉国よみのくにけがれをはらうためにみそぎを行うと、三貴子さんきしとも呼ばれる天照大御神あまてらすおおみかみ月読命つくよみのみこと建速須佐之男命たけはやすさのをのみことの3神が生まれます。

高貴な神々の誕生を喜んだ伊邪那岐いざなぎは、天照あまてらすに「高天原たかまがはら」を、月読つくよみに「夜の国」を、須佐之男すさのをには「海原」を治めるよう命じ、自身は表舞台から去ることを選びました。

前回のストーリーはコチラ!

とと(父)

今回は天照あまてらす須佐之男すさのをを中心に描かれる、
高天原たかまがはらでの大騒動をご紹介するよ!

ヒヒ

有名な『天岩戸あまのいわと神話』のパートじゃな

ことと

ちなみに月読つくよみは、登場シーンがピークで
この後の物語には登場しないわよ

ツクヨミ

う~ん、世知辛い

『日本書紀』にはエピソードがあるよ!

荒ぶる三男坊、父親を激怒させて追放され、姉がいる高天原たかまがはらに駆け込む

伊邪那岐いざなぎみそぎによって誕生した天照あまてらす月読つくよみ須佐之男すさのをの3姉弟は、父親によりそれぞれが治めるべき領地を命じられました。

天照あまてらすは天の世界「高天原たかまがはら」に、月読つくよみは「夜の国」にそれぞれ赴任して仕事にあたりましたが、「海原」の統治を任せられた須佐之男すさのをだけは、少し様子が違うようです。

荒れる海のイメージ
スサノヲ

HEEEEYYYY
あァァァんまりだァァアァ

須佐之男すさのをは大海原を治めるという自身の役割をまったく果たさず、顎鬚あごひげが長く伸びて胸元に垂れるほどになっても、子どものようにいつまでも泣きわめいていたのです。

荒々しい霊力をもつ彼が乱心した影響は大きく、その泣くさまは青い山々を枯れさせ、海や河の水は須佐之男すさのをの涙となって流れてゆき、あたり一帯はすっかり干上がってしまいました。

さらに、この機に乗じて有象無象うぞうむぞう悪神あくしんたちがはえのようにうごめはじめ、各地でありとあらゆる災いが起こります。

すんなり引退させてもらえるかと思った矢先、さっそくのトラブルに見舞われた父・伊邪那岐いざなぎは、困り果てて荒ぶる三男坊のもとを訪ねました。

イザナギ

こりゃ!
仕事もせんで何をやっとるか!!

スサノヲ

わ、わしゃぁ…
ママんに会いたいんじゃぁーー!!

どうやら須佐之男すさのをは、死後の世界である根之堅洲國ねのかたすくにに行って、すでに亡くなっている自身の母親に会いたいと訴えているようです。

ことと

…ん?
須佐之男すさのをの母親って誰になるの?

とと(父)

伊邪那美いざなみのこととされているよ
日本書紀』では2神の間に彼が生まれているから、
その設定が『古事記』にも影響したようだね

ヒヒ

ちなみに「死後の世界」の名称にも揺れが見られるのぅ

【Tips】「根之堅洲國ねのかたすくに」ってどこにあるの?
ことと

根之堅洲國ねのかたすくに
黄泉国よみのくにとは違うのかしら?

黄泉国よみのくに根之堅洲國ねのかたすくには、どちらも日本神話における死後の世界です。

このふたつは共に黄泉比良坂よもつひらさかを入り口として現世と繋がっており、また地下に存在するため、基本的には同じ場所であると考えて良いでしょう。

しかしながらこれらの場所には、以下のような明らかな設定の違いが存在します。

黄泉国よみのくに
  • 文字通りの死者の国
  • 暗くじめじめした、邪霊が棲む世界
  • 伊邪那美命いざなみのみことが闇堕ちした姿である黄泉津大神よもつおおかみが君臨する
  • 伊邪那岐いざなぎ伊邪那美いざなみの一件で現世とは完全に隔たれており、生きている者が訪れることは不可能
  • この世界の物を食べると死者の国の住人である事が確定し、現世に戻ることは出来なくなる(黄泉戸喫よもつへぐい)
根之堅洲國ねのかたすくに
  • 死者の世界というよりはすべての生命が還っていく根源の国、祖先の霊が宿る場所というニュアンス
  • 明るい世界※1で、人々の生活も地上と変わらない
  • 後に須佐之男すさのをが統治することになるが、それ以外に支配者がいる描写は特にない
  • 現世と隔たってはいるが、生きている者が行き来することが可能

細かい設定を見ていくと明らかな違いや矛盾が存在する事から、これらはそれぞれ別の場所に位置すると考える研究者も多いそうです。

もともとは異質のものである2つの世界を、『古事記』編纂にあたり、無理やりひとつにしようとしたという考え方もあるようです。

とと(父)

有名な民俗学者の柳田國男やなぎたくにおさんは、根之堅洲國ねのかたすくには本来明るいイメージの世界だったと言っていたそうだよ!※1

島根県八束郡東出雲町にある黄泉比良坂
黄泉比良坂(島根県八束郡東出雲町)
出典:ChiefHira CC BY-SA 3.0

伊邪那美いざなみの現在の姿を知っている伊邪那岐いざなぎは息子の望みを聞いて激怒し、須佐之男すさのをから天津神あまつかみの身分を剥奪はくだつして追放を宣告してしまいました。

伊邪那岐いざなぎはこれを機に完全な引退を決め、ため息交じりに淡海おうみ多賀たが(滋賀県の多賀大社たがたいしゃ)隠棲いんせいします。

イザナギ

はぁ~、あいつら大丈夫かのぅ…

伊邪那美いざなみの現在の姿はコチラ!

さて、生後間もなく父親から勘当かんどうされてしまった荒ぶる三男坊・須佐之男すさのをは、この後どうするかを考えることにしました。

スサノヲ

フ――
スッとしたぜ (スッキリ)

スサノヲ

とりあえず姉貴のところに行ってみるか

彼はこの国を去って根之堅洲國ねのかたすくにへと向かう前に、姉の天照あまてらすに一言別れを告げようと思い立ったようです。

ツクヨミ

わしんとこには、来んのかーーーーい!

須佐之男すさのをは足取りも軽やかに天の世界・高天原たかまがはらへと昇りますが、何と言っても彼は荒神あらがみ、その歩みのたびに雷鳴をとどろかせては大地を揺らし、山も川もことごとく響動どよめき立つほどに周囲に圧をかけました。

雷が鳴る空の様子

その轟音を耳にして焦ったのが、高天原たかまがはらを治める長女の天照あまてらすです。

彼女は天上界で田畑を耕し、養蚕ようさんを興して絹糸の生産法や織物の技術を授け、最高司令官として至極まっとうに八百万やおよろずの神々を統治していました。

そんな平和な自分の領地に、素行の悪さに定評のある弟が激しい足音を轟かせながら向かって来ているのです。

アマテラス

うわぁ~、めんどくせぇ…

アマテラス

あいつ、高天原たかまがはらを奪いに来たんじゃねぇの?

天照あまてらす須佐之男すさのをが領地を奪いに来たものと警戒し、男性のように髪を結い、完全武装した上で彼を待ち構えました。

須佐之男すさのをの姿が見えてくると、天照あまてらす強弓ごうきゅうに矢をつがえ、きりきりと引き絞って標的を見据えます。

その踏み込みの強さは、彼女の足を地面にめり込ませてしまうほどでした。

天照あまてらすのこの男性的な一面は、彼女が皇祖神こうそしんとして、武力や軍事力なども象徴することを示しています。

弓矢を構えるイメージ
アマテラス

あんた!
いったい何をしに来たんね!!

スサノヲ

姉者あねじゃこっわ…!
わしの話を聞いてくれや~…

須佐之男すさのをは自分がここにやって来た理由を素直に話し、二心がないことを姉に信じてもらおうと試みます。

しかし、弟の悪評ばかり聞いていた天照あまてらすはそれをすぐに信じることが出来ず、なかなか警戒を解こうとはしませんでした。

アマテラス

謀反むほんの心がないとどうやって証明するね?

スサノヲ

では誓約うけいで生まれてくる神さまで決めようぜ!

アマテラス

ま、まぁええけど…

誓約うけい宇気比うけいとも表される古代の占いの一種で、結果がおおよそ均等に二分される事柄を選び、そのどちらが現れるかによって神の意志を判断します。

この方法で何らかの結果を出すことに合意した両者は、お互いの持ち物を交換しました。

天照あまてらす須佐之男すさのをが身に帯びていた十拳剣とつかのつるぎを受け取り、彼には自分が身に着けていた勾玉まがたまの玉飾りを渡します。

まず天照あまてらすが剣を三つに折って口に含み、息吹のごとく吹き出すと3柱の女の神さまが誕生しました。

次に須佐之男すさのをが玉飾りを噛み砕いて吹き出すと、5柱の男の神さまが生まれます。

小林永濯『鮮斎永濯画譜』初篇「須佐之男命天ニ昇リ天照大御神ト問答シ盟ツテ御子産玉フノ図」
小林永濯『鮮斎永濯画譜』
初篇「須佐之男命天ニ昇リ天照大御神ト問答シ盟ツテ御子産玉フノ図」 PD

ここで天照あまてらすが、それぞれの神さまがどちらの子になるのかを、なぜかこのタイミングで決めはじめました。

アマテラス

5柱の男神は私の玉飾りから生まれたので、あてくしの子

アマテラス

3柱の女神はあなたの剣から生まれたので、須佐之男すさのをの子

天照あまてらすの子となった5柱の神々は、以下の面々です。

スクロールできます
神名概要
正勝吾勝勝速日天之忍穂耳命まさかつあかつかちはやひあめのおしほみみのみこと初代神武じんむ天皇のひいひいおじいちゃん
稲穂の神
農業神ほか
天之菩卑能命あめのほひのみこと農業神
養蚕の神
産業の神ほか
天津日子根命あまつひこねのみこと風の神
日の神
海の神ほか
活津日子根命いくつひこねのみこと農業神と思われる
熊野久須毘命くまのくすびのみこと火の神

そして以下の3柱の女神は、須佐之男すさのをの子ということになりました。

スクロールできます
神名概要
多紀理毘売命たきりびめのみこと海の神秘的な力の神格化
宗像三女神むなかたさんじょしん
市寸島比売命いちきしまひめのみこと
多岐都比売命たきつひめのみこと
ことと

それはそれで良いとして、
何がどうなったらどっちが正しいことになるの?

そうなのです。

彼らは誓約うけいを始める前に、どんな条件を満たしたら須佐之男すさのをの主張が正しいという事になるのか、詳細なルールをまったく固めていなかったのです。

そこに目を付けた須佐之男すさのをは、すかさず得意の大声でその場を丸め込みにかかりました。

スサノヲ

わしの心が清らかやけんこそ、
優しい女神が生まれたんじゃろがい!

スサノヲ

ということで、この勝負わしの勝ちじゃ~い!

アマテラス

えっ!?
ちょっとまっt…

スサノヲ

みなさ~ん、わしの身は潔白ですよ~!!!

アマテラス

あっ、えっ…

スサノヲ

計画通り

天の世界のイメージ

なし崩し的に負けたことにされた天照あまてらすは、結果として須佐之男すさのを高天原たかまがはらに入ることを許します。

なんだかんだ言っても血を分けた弟、彼女も本気で拒否するつもりはなかったのかもしれません。

ことと

日本書紀』のほうではあらかじめルールを決めているわよ

アマテラス

まぁあたしってば根が優しいのよね

暴れ狂う弟、現実から目を背け洞窟に引きこもる姉【天岩戸あまのいわと神話】

須佐之男すさのを高天原たかまがはらへの滞在を許した天照あまてらすでしたが、彼女はほんの数日でこの判断を後悔することになります。

一方的な勝利宣言で舞い上がった須佐之男すさのをは、姉が統治する天界でありとあらゆる乱暴狼藉をやりたい放題に働いたのです。

若気の至りでは済まされない彼のやらかし一覧はコチラ、

  • 天照あまてらすが耕した田のあぜを破壊する
  • 灌漑かんがい用の溝をわざわざ埋める
  • せっかく実った稲穂を馬で踏み荒らす
  • 天照あまてらす新嘗祭にいなめさいの新穀を食べる神殿で脱糞しまくる
スサノヲ

ヒャッハー!

ことと

うわぁ…

高天原たかまがはらの住民は困り果てて、天照あまてらす須佐之男すさのをの所業を訴えますが、

アマテラス

ま、まぁ、愛しい弟なりの考えがあるのよ多分…

と、彼女は弟を出迎えた時とは真逆の態度で、かなり無理のある庇い方をしてその場をしのぎます。

そんな姉の気苦労に気が付くはずもない須佐之男すさのをは、咎められないのを良いことにさらに増長し、その暴れっぷりをますますエスカレートさせていきました。

そしてついに、彼は取り返しのつかない大事件を引き起こします。

天照あまてらすの管轄のもと、機織女はたおりめたちが神衣かんみそを織っていた斎服殿いみはたどのに、須佐之男すさのをが皮を剥いだ血だらけの馬を投げ込んだのです。

名取春仙『天馬の皮を剥ぐ須佐之男』
名取春仙『天馬の皮を剥ぐ須佐之男』 PD

当然現場は阿鼻叫喚の大パニック、逃げ惑う機織女はたおりめの1人・稚日女命わかひるめのみことが理性を失ってはたから転げ落ち、手にしていた(横糸を通す道具)を局部に突き刺して命を落としてしまいます。

後の時代にも登場するよ!

アマテラス

アバババババ

アマテラス

もぅマヂ無理。。。
インキョしょ。。。

弟に落ち着いてほしいと思ってもまるで聞く耳を持たないので
――そのうち天照あまてらすは、考えるのをやめた。

天照あまてらすはショックのあまり、最高神としての責務からも自分が弟を高天原たかまがはらに入れたという責任からも目を背け、天岩戸あまのいわとを開くと洞窟の奥に引きこもってしまいました。

太陽神が身を隠すと、高天原たかまがはらはもちろん葦原中国あしはらのなかつくにまでがことごとく闇に覆われ、永遠の夜が続くことになります。

さらには多くの悪霊が跳梁跋扈ちょうりょうばっこするようになり、あらゆる場所で恐ろしい災いが起こり始め、世界中の治安が極端に悪化する事態に陥ってしまいました。

とと(父)

最高神が逃亡したら、そらそうなるわな~

八百万やおよろずの神々は事態を重く見て天安河原あまのやすかわらに集合し、この未曾有の大災害にどう対処するかを話し合います。

天岩戸神社・天安河原
天岩戸神社・天安河原

ここで登場するのが深い思慮と幅広い知恵に定評のある思金神おもいかねのかみ、原初の神である高御産巣日神たかみむすびのかみの息子です。

オモイカネ

天照あまてらす攻略法は、ありまぁす

知恵者ちえしゃ思金おもいかねは主要な神々を総動員して、以下のようなステップで準備を整えました。

オモイカネ

40秒で支度しな!

  • 鍛人天津麻羅かぬちあまつまら伊斯許理度売命いしこりどめのみことに命じて美しい鏡(八咫鏡やたのかがみ)を作らせる
  • 玉祖命たまのおやのみことに命じて立派な玉飾り(八尺瓊勾玉やさかにのまがたま)を作らせる
  • 天児屋命あめのこやねのみこと布刀玉命ふとだまのみことに命じて占いをさせ、使ったさかき八咫鏡やたのかがみ八尺瓊勾玉やさかにのまがたまを取り付ける
  • 天手力男神あめのたぢからをのかみを、天照あまてらすが引きこもっている天岩戸あまのいわとの陰に潜ませる
  • 常世長鳴鳥とこよのながなきどりをたくさん集めておく

天児屋あめのこやね布刀玉ふとだまの2神が行った占いとは、天香山あめのかぐやまに棲む大きな牡鹿おじかの骨を抜き取り、同じく天香山あめのかぐやまに生えている波波迦ははか(ウワミズザクラの古名)の皮でその肩骨を焼いて行う卜占ぼくせんのことをいいます。

これによって当プロジェクトの吉凶が占われ、上手くいくという答えがでたので、ついに天照あまてらす奪還作戦が開始されました。

オモイカネ

天照あまてらす作戦発動!

ことと

日本中のエネルギーをあなたに預けるわ

三代歌川豊国『岩戸神楽ノ起顕』
三代歌川豊国『岩戸神楽ノ起顕』PD

思金おもいかねは、まず常世長鳴鳥とこよのながなきどりたちを鳴かせて夜明けを告げさせます。

布刀玉ふとだま天津麻羅あまつまら伊斯許理度売いしこりどめが協力して作った「八咫鏡やたのかがみ」と、玉祖たまのおやお手製の「八尺瓊勾玉やさかにのまがたま」が付いたさかきを、天照あまてらすが引きこもった天岩戸あまのいわとに向けると、鏡は輝き勾玉はさらさらと美しい音を立てました。

タマノオヤ

やっぱりわしら、ええ仕事するのぅ~

アマツマラ

んだんだ

イシコリドメ

あれは後の世に残るわよ

続いて天児屋あめのこやねが前に躍り出ると、彼は天照あまてらすが表に出てくるように、美しく紡がれた祝詞のりとを高らかに唱えます。

アメノコヤネ

おお我らが太陽…
あまねく宇宙と神々を照らす至上の君よ…

アメノコヤネ

あなたを失った世界はいまや
タコが入っていないタコ焼きのようなものだ…
――アメノコヤネ

ここで満を持して登場するのが、本作戦における最重要要素、真打ちとなる天宇受売命あめのうずめのみことです。

彼女は天香山あめのかぐやまに生えていた日陰葛ひかげかずらをたすきに掛けて、真析葛まさきのかつらを髪飾りとして頭に巻き、同じく天香山あめのかぐやまに生えていた小竹の葉を束ねて手に持つと、天岩戸あまのいわとの戸の前に伏せて置いた桶の上に立ちました。

天宇受売あめのうずめが調子の良い足踏みの音を響かせながら踊り始めると、彼女自身の気分も高揚し、次第に神懸かみがかりの様相を呈します。

彼女が身に着けていた装束もみるみるうちにはだけてしまい、身体の色んな部分がはみ出していますが、天宇受売あめのうずめはそんな些事にはお構いなしに踊り狂いました。

それを見ていた神々も高天原たかまがはら全土を揺らすほどの大笑いで、祭りの盛り上がりは最高潮に達します。

歌川国貞『岩戸神楽乃起顕』
歌川国貞『岩戸神楽乃起顕』PD

一方その頃…

天照あまてらすは外の騒々しさを不審に思っていました。

アマテラス

えっ、ちょっと待ってなんかすごく楽しそう…?

アマテラス

あたしを失った世界は絶望に
打ちひしがれているはずなのですが…?

気になって仕方がない彼女は、岩戸をうっすらと開けて天宇受売あめのうずめに何事かと尋ねます。

すると彼女はこう答えました。

アメノウズメ

あなたよりも~っと尊い神がいらしたので、
みんな喜んで歌い踊っているのですよ~

この言葉に天照あまてらすは、こめかみの血管がピクリと脈打つのを感じました。

アマテラス

はぁ?
あたしより尊い?

アマテラス

見せてもらおうか
高天原たかまがはらの新しい神の霊力とやらを…!

ここですかさず布刀玉ふとだまが、鏡と玉飾りの付いたさかき天照あまてらすの方向に向けると、彼女は鏡に映った自分自身の顔を見ることになります。

アマテラス

えっ、これがあたしより尊い神さま?
めっちゃ可愛いじゃんまじ推せる~♡

推しの顔を間近に見ようと一歩踏み出した天照あまてらすの腕を、脇に控えていた力自慢の天之手力男あめのたぢからおがむんずと掴み、彼女をやや強引に外に引きずり出しました。

アメノタヂカラオ

そぉぉぉ~~~~い!!

そして、布刀玉ふとだまが即座に洞窟の入口に注連縄しめなわを張り渡すと、ここには二度と入れないと宣言したのです。

フトダマ

我、領域閉ジル、キープアウト…

ついに天照あまてらす天岩戸あまのいわとから連れ出され、高天原たかまがはら葦原中国あしはらのなかつくには再び明るい光に包まれました。

こうして思金おもいかねの作戦は見事に功を奏し、世界はようやく日常を取り戻したのです。

日本の太陽のイメージ

彼はおそらく知っていたのでしょう。

いつもは慎ましやかに振舞っている天照あまてらすも、生まれた時から「三貴子さんきし」ともてはやされ、実は極端に肥大化した自意識をもっていることを。

普段はリーダーとして真面目に業務をこなしていても、特に実績もないまま最高神の地位についたことで、心の底では自分が一番だとナチュラルに思っていることを。

そんな天照あまてらすの深層心理を逆手に取った思金おもいかねの作戦は、ものの見事に本人に刺さりまくり、こうして文句のつけようのない大成功をおさめたのでした。

オモイカネ

ああいうタイプはね、
承認欲求さえ満たしてやればちょろいのよ

アマテラス

あたしってほんとイケない子★
てへぺろ★

ちょっと違う展開もあるよ!

いずれにしても、最高責任者の職務放棄という大ピンチに見舞われた八百万やおよろずの神々は、互いに持てる力を発揮して協力することでこの難局を乗り越えました。

この天岩戸あまのいわとの物語は、冬至頃の弱った太陽のエネルギーが復活する様子を表しているとも、太陽の活力や天皇の魂の再生を祈念する鎮魂祭ちんこんさいの起源を語っているとも考えられています。

偉大な霊力が再生するきっかけを作るのは、神懸かみがかりした踊りで神さまの関心を引く、天宇受売あめのうずめが象徴する巫女みこの役割だったのでしょう。

また、すでにお気づきの方もいらっしゃるでしょうが、天津麻羅あまつまら伊斯許理度売いしこりどめが作った「八咫鏡やたのかがみ」と、玉祖たまのおやが作った「八尺瓊勾玉やさかにのまがたま」は、後に天皇家の権威を象徴する「三種の神器」のひとつに数えられます。

三種の神器
三種の神器
出典:いらすとや
ことと

3つのうち2つは『天岩戸あまのいわと神話』の文脈に登場していたのね~

さて、紆余曲折あって事態はどうにか収束しましたが、これで須佐之男すさのをの罪が消えたわけではありません。

高天原たかまがはらの神々は協議の結果、彼に「千座ちくら」を負わせました。

千座ちくら」とはたくさんの台、「」は罪やけがれをはらい償わせるために科する品物のことを言います。

つまり須佐之男すさのをは、とんでもなく多額の罰金刑を科せられたことになるのです。

さらに天の神々は須佐之男すさのをの髭を切り取り、手足の爪を剥がしてしまいました。

これにはもちろん「きよめ」の意味もありますが、再びよみがえるものを切り取ることで、彼の力を抑え込むという意図も含まれていたようです。

こうして須佐之男すさのをは、天に住まう天津神あまつかみ全員から事実上の絶縁宣言を食らい、高天原たかまがはらから完全に追放されてしまったのです。

地上世界のイメージ
スサノヲ

認めたくないものだな、
自分自身の若さゆえの過ちというものを

とと(父)

若さのせいじゃなくてオメーの資質の問題だよ

これにて天の世界・高天原たかまがはらを舞台にした『天岩戸あまのいわと神話』は完結です。

続く神話の物語は地上の世界に舞台を移し、当面の間は荒ぶる三男坊・須佐之男すさのをの目線で描かれていきます。

ヒヒ

次章からは荒くれ者の成長物語と冒険譚じゃ

…to be continued!!!

次回はコチラ!

おわりに

今回は、日本神話屈指の名場面、『天岩戸あまのいわと神話』について解説しました。

ことと

原初の神々と比べると、
人間臭くて破天荒な神さまのオンパレードだったわね

とと(父)

ここからもさらにカオスな物語が目白押しだよ!
神々の滅茶苦茶さが日本神話の魅力でもあるよね!

パパトトブログ-日本神話篇-では、私たちの祖国に伝わる魅力的な神々や彼らの物語をご紹介していきます。

神さま個別のプロフィール紹介や神話の名場面をストーリー調で解説など、難しい言葉は出来るだけ使わずに、あらゆる角度から楽しんでもらえるようにしようと考えています。

これからも「日本神話」の魅力をどんどんご紹介してきますので、良ければまた読んでもらえると嬉しいです!

とと(父)

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しーゆーあげん!

参考文献

  • 倉野憲司校注 『古事記』 岩波文庫 2010年
  • 島崎晋[監修] 日本博学倶楽部[著] 『日本の「神話」と「古代史」がよくわかる本』 PHP文庫 2010年
  • 由良弥生 『眠れないほど面白い『古事記』』 王様文庫 2014年
  • 由良弥生 『読めば読むほど面白い『古事記』75の神社と神さまの物語』 王様文庫 2015年
  • 歴史雑学研究倶楽部 『世界の神話がわかる本』 Gakken 2010年
  • 宮崎市神話・観光ガイドボランティア協議会編集 『ひむか神話伝説 全212話』 鉱脈社 2015年
  • 中村圭志 『図解 世界5大神話入門』 ディスカヴァー・トゥエンティワン 2020年
  • かみゆ歴史編集部 『マンガ面白いほどよくわかる!古事記』 西東社 2017年
  • 戸部民夫 『「日本の神様」がよくわかる本』 PHP文庫 2007年
  • 三浦佑之 『あらすじで読み解く 古事記神話』 文藝春秋 2013年
  • 國學院大學 「古典文化学」事業:https://kojiki.kokugakuin.ac.jp/research/
  • 茂木貞純監修『日本の神様ご利益事典』だいわ文庫 2018年
  • 武光誠『知っておきたい日本の神様』角川ソフィア文庫 2005年
  • 阿部正路監修『日本の神様を知る事典』日本文芸社 1987年

他…

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