こんにちは!
忙しい人のための神話解説コーナーだよ!
この記事では、忙しいけど日本神話についてサクっと理解したいという方向けに、『古事記』をベースにした神話のメインストーリーをざっくりとご紹介していきます。
とりあえず主だった神さまの名前と、ストーリーラインだけ押さえておきたいという方向けのシリーズとなります。
『日本書紀』にのみ見られる独自の展開や、各地に伝わる『風土記』に記されたエピソードなどは、神さま個人(神)を紹介した個別記事をご覧ください。
とりあえず大まかな流れをつかむというコンセプトじゃ
補足情報は【Tips】として解説しとるが、読み飛ばしても全然OKじゃぞ
関連記事のリンクを貼っているから、
気になった方はそちらもチェックしてね
ではさっそくいってみよう!
忙しい人はコチラから本編にすっ飛びじゃ
この記事は、以下のような方に向けて書いています。
- 日本神話にちょっと興味がある人
- 日本神話に登場する神さまのことをざっくり知りたい人
- とりあえず誰かにどや顔でうんちく話をしたい人
- 日本神話のメインストーリーをざっくりと把握出来ます。
- あなたのエセ教養人レベルが1アップします。
まじで忙しい人のための結論
本気で忙しいあなたのために、今回ご紹介する物語のストーリーラインを、箇条書きでざっくりまとめておきます。
ぱっと見で把握してね
何ならここを読むだけでもOKじゃぞ
今回ご紹介する「国生み」と「神生み」のストーリー
- 高天原の神々に命じられ、伊邪那岐命と伊邪那美命は夫婦となって国土固め(修理固成)に取り掛かる
- 多少の失敗を経ながらも、2神は大八島国(日本列島の原形)を誕生させる
- 夫婦神は八百万の神々を生み出すも、火之迦具土神を生んだ伊邪那美が大やけどを負って命を落とす
- 伊邪那岐は伊邪那美を追って、生きながらにして黄泉国へと降る
- 伊邪那美の変わり果てた姿を見た伊邪那岐は恐怖のあまり逃走し、妻は黄泉津大神へと変貌、「生」と「死」の対立が明確化して人間に「寿命」が生まれる
- 現世へと戻った伊邪那岐は禊を行い、三貴子と呼ばれる天照大御神、月読命、建速須佐之男命が誕生する
- 伊邪那岐は後の世の統治を子どもたちに任せ、淡海の多賀に身を隠す
そもそも「日本神話」って何?
「日本神話」とは、ざっくり言うと「日本ってどうやって生まれたの?」を説明してくれる物語です。
原初の神々や日本列島の誕生、個性豊かな神さまが活躍する冒険譚や、彼らの血を引く天皇たちの物語が情緒豊かに描かれています。
現代の私たちが知る「日本神話」の内容は、『古事記』と『日本書紀』という2冊の歴史書が元になっています。
これらは第四十代天武天皇の立案で編纂が開始され、それぞれ奈良時代のはじめに完成しました。
国家事業として作られた以上、政治的な色合いがあることは否めませんが、堅苦しくて小難しいかと思ったらそれは大間違い。
強烈な個性を持つ神々がやりたい放題で引き起こすトラブルや恋愛模様は、あなたをすぐに夢中にさせることでしょう。
「日本神話」の全体像は、以下で解説しているよ!
さぁ、あなたも情緒あふれる八百万の神々が住まう世界に、ともに足を踏み入れてみましょう。
主な登場人物
この物語の登場人物(神)をざざ~っと挙げておくぞい
エピソード1/国土創世と八百万の神々
前回のストーリーはコチラ!
今回は伊邪那岐と伊邪那美による「国生み」、
「神生み」の物語をご紹介するよ!
日本列島とたくさんの神々が生まれるわよ
衝撃のラストは必見じゃ
原初の神々の命を受けて日本列島を生み出す【国生み】
伊邪那岐と伊邪那美がこの世界に現れた頃、神々は天の世界・高天原に住んでいました。
一方で地上の世界は、いまだ水に浮かぶ脂のように漂うばかりの、とても不安定な存在です。
偉大なる原初の神々は地上を固めて整える必要があると判断し、神世七代の末代にあたる伊邪那岐と伊邪那美の兄妹を呼び出してこう命じました。
コレもって地上に降りて、
大地を固めて、
キレイに整えて来なさ~い
まずは報酬の話をしよう
兄妹は先代の神々から天沼矛と呼ばれる矛を受け取り、天と地を結ぶ天浮橋に降り立ちます。
2神は協力して海水をかき回し、引き上げた矛から落ちたしずくが固まって淤能碁呂島が出来ました。
伊邪那岐たちはこの島に八尋殿と呼ばれる神殿と天御柱を建て、拠点として運用するための準備を行います。
さらに2人は結婚して夫婦となり、ここでようやく国づくりの体勢が整いました。
自ら固まって出来たことから「自凝島」とも書くよ!
架空の島説と実在の島説があるのよね
拠点を固めた伊邪那美夫婦はある日、唐突にこんな会話を始めます。
我が身には成り成りて、成り余るところあり(凸)
我が身には成り成りて、成り合わぬところあり(凹)
君の凹とぼくの凸をフュージョンすれば、
なんかもろもろハッピーな予感がするのだが?
Sounds Great!!
夫婦は雰囲気も大切にしたい派のカップルだったので、先日建造した天御柱の周りをそれぞれ逆方向にまわり、出逢ったところでコトに及ぼうという形で合意しました。
両者はわくわくしながら歩を進め、出会い頭に、
あら、イケメン!
わお、超絶美女!
と互いに声をかけ、あとは思いのままに甘美な時間を楽しみます。
そんなこんなで伊邪那美は無事に子を生みますが、ここでちょっと様子がおかしいことになりました。
最初に生まれた子どもは骨のない蛭のような水蛭子だったので、彼らはそれを葦の船に乗せて流し棄ててしまいます。
次に生まれた子も泡のような形で安定しない淡島だったので、こちらも子どもとは認められませんでした。
なんかかわいそうね…
古代の風習が話の元になっとるから、
エグイと言えばエグイのう
メインストーリーでは不遇の扱いを受けた水蛭子と淡島ですが、その後どうなったのか気になりませんか?
余談なので飛ばしてもOKだよ!
兵庫県の西宮神社に残る伝説によると、水蛭子は葦の船で流されたあと摂津に流れ着き、漁師に拾われて祀られたとされています。
時代が下ると水蛭子は、七福神のひとりである恵比寿神と同一視されるようになったそうです。
淡島についても諸説ありますが、後に「淡島神」という安産・子授けの神さまになったとも言われています。
古代日本には、他所から流れ着いたものが福をもたらすとして、「客人神」を祀る習慣がありました。
この文化のおかげで、彼らも行き場所を見つけることが出来たと言えるかもしれません。
なんにせよ落ち着けて良かったわね!
なかなか子づくりが上手くいかないことに悩んだ伊邪那岐夫婦は、高天原に戻って先代の神々に相談します。
問題ない、〇ーレのシナリオ通りだ
女から声をかけたのが良くない、男から声をかけるのだ
えっ、そんなこと?
半信半疑の伊邪那美夫婦ですが、試してみないことには分かりません。
2人はとにかく淤能碁呂島に戻ることにしました。
なーんか時代錯誤ね~
現代の価値観で神話を裁いちゃいかんぞい
拠点に戻った2神は原初の神々のアドバイス通りコトに及び、無事に正式な最初の子である淡道之穂之狭別島(淡路島のこと)が生まれます。
夫婦はその後も次々に新たな島を生み出しました。
以下順番通りだよ!
- 淡道之穂之狭別島:淡路島
- 伊予之二名島:四国
- 隠伎之三子島:隠岐島
- 筑紫島:九州
- 伊岐島:壱岐
- 津島:対馬
- 佐度島:佐渡島
- 大倭豊秋津島:本州
こうして生まれた八つの島は大八島国と呼ばれ、現代に続く日本の国土の原形が完成しました。
その後も伊邪那美夫婦は、吉備の児島、小豆島、大島、姫島、知訶島、両児島を生み出したとされています。
「しょうどしま」は古くは「あずきしま」と呼んだのじゃ
「北海道」と「琉球」がまだ仲間になっていない点に、
現実の古代史の反映が見て取れるわね
八百万の神々の誕生、そして大地母神の死【神生み】
子づくりが軌道に乗って勢い付いたところで、ギラギラした目つきの伊邪那岐は、伊邪那美にこう言いました。
まだ私たちの役目は終わっていない!
この大地を守る神々も生まなければ!
いや、さすがにちょっと休まs…
そ~れ! ハッスル ハッスル!
伊邪那美は休む間もなく、次々に八百万の神々を生み出します。
彼女の子として生を受けたのは、以下の神々です。
神名 | 概要 |
---|---|
大事忍男神 | 「神生み」の大事がこれから始まることを表す |
石土毘古神 | 竪穴住居の床や壁面を構築するのに必要な岩や土、砂を司る 家宅六神のメンバー |
石巣比売神 | |
大戸日別神 | 住居や家の出入り口を司る 家宅六神のメンバー |
天之吹男神 | 家屋の屋根を葺く萱を司る 家宅六神のメンバー |
大屋毘古神 | 完成した住居を司る 家宅六神のメンバー |
風木津別之忍男神 | 風に耐える家屋の耐久性を司る 家宅六神のメンバー |
大綿津見神 | 海を司る |
速秋津比古神 | 水を司る |
速秋津比売神 | |
志那都比古神 | 風を司る |
久久能智神 | 木を司る |
大山津見神 | 山を司る |
鹿屋野比売神 | 草を司る 別名野椎神 |
鳥之石楠船神 | 船を司る |
大気津比売神 | 食物を司る |
火之夜藝速男神 | 火を司る |
さらにこの内の何組かは夫婦となり、伊邪那美夫婦は一気に孫まで得ることになりました。
速秋津比古と速秋津比売夫婦の間には、
神名 | 概要 |
---|---|
沫那藝神 | 河と海の境界に立つ「泡」を表す 「那藝」と「那美」はそれぞれ水面の泡が静まっているさまと波立って騒いでいるさまを表す |
沫那美神 | |
頬那藝神 | 河と海の境界の「水面」を表す 「那藝」と「那美」はそれぞれ水面が静まっているさまと波立って騒いでいるさまを表す |
頬那美神 | |
天之水分神 | 水が大地を循環するさまを表す 「天之」は天から降る「雨」もしくは水源に近い「河」を表し、「国之」は地面から湧出する「水」または人里に近い「海」を表す |
国之水分神 | |
天之久比奢母智神 | 水を汲み上げて分配するさまを表す 「天之」は天から降る「雨」もしくは水源に近い「河」を表し、「国之」は地面から湧出する「水」または人里に近い「海」を表す |
国之久比奢母智神 |
が誕生しています。
また大山津見と鹿屋野比売夫婦の間には、
神名 | 概要 |
---|---|
天之狭土神 | ・神聖な土の神 ・初めに生じた土地を表す |
国之狭土神 | |
天之狭霧神 | ・神聖な霧の神 ・霧が天地に渡ることを表す |
国之狭霧神 | |
天之闇戸神 | ・険阻な深い谷の神 ・暗い場所を表す |
国之闇戸神 | |
大戸惑子神 | ・野山全体を司る神 ・広い山野で道に迷う事を意味する |
大戸惑女神 |
が生まれました。
伊邪那美…
とんでもなく頑張ったのね…
ハァハァ…
ゼェゼェ…
多くの子孫に恵まれて幸せいっぱいの伊邪那岐夫婦でしたが、そんな彼らを突然の悲劇が襲います。
伊邪那美は最後に火の神さまである火之迦具土神を生み落としますが、その際に身体に大やけどを負い、これがもとで病に伏してしまったのです。
おぎゃ~…あれ?
彼女は苦しみ悶えて嘔吐したり失禁したりしますが、彼女の吐瀉物などからも以下のような神々が生まれました。
伊邪那美はなおも苦しみに耐えますが、ついに息を引き取り、黄泉国へと旅立ってしまいます。
彼女は悲しみに暮れる夫の伊邪那岐によって、出雲国(現在の島根県東部)と伯伎国(現在の鳥取県西部)の国境にある比婆の山に葬られました。
えっ、母なる女神さまがこんな序盤に死んじゃうの!?
実はそうなんだ…
物語はここから、怒涛の展開を見せることになるんだよ
慟哭の伊邪那岐、妻恋しさに黄泉に降るもビビッて逃亡【黄泉国】
愛する妻・伊邪那美の亡骸を比婆の山に葬った伊邪那岐でしたが、彼の悲しみは増すばかりでした。
伊邪那岐はなおも号泣し、その涙からも新たな神さまが生まれます。
神名 | 概要 |
---|---|
泣沢女神 | 水、延命を司る |
やり場のない感情を抑えきれなくなった彼の怒りの矛先は、生まれたばかりの迦具土に向けられました。
おどれのせいじゃ…
おどれのせいで…
どす黒い感情に支配された伊邪那岐は、「天之尾羽張」または「伊都之尾羽張」と呼ばれる十拳剣を手に取り、なんと我が子の首を斬り落としてしまったのです。
えぇ…
かわいそう…
気の毒なのは間違いないが、火の神は重要な存在
彼は日本各地で祀られておるぞ
剣から飛び散った迦具土の血や彼の身体からは、以下のような力強い神々が生まれました。
神名 | 概要 |
---|---|
石折神 | 岩を裂く剣の威力を司る |
根折神 | |
石筒之男神 | 堅固な刀剣、または製鉄における送風筒を司る |
甕速日神 | 刀を振り下ろすイメージ、あるいは落雷を司る |
樋速日神 | |
建御雷之男神 | 雷神、剣を司る |
闇淤加美神 | 水、雨を司る |
闇御津羽神 | 水を司る |
正鹿山津見神 | 山焼き、あるいは火山を司る |
淤縢山津見神 | |
奥山津見神 | 山焼き、あるいは火山を司る 山奥を表す |
闇山津見神 | 山焼き、あるいは火山を司る 峡谷や谷あいを表す |
志藝山津見神 | 山焼き、あるいは火山を司る 鴫が生息する山の麓を表す |
羽山津見神 | 山焼き、あるいは火山を司る 山の端、つまり麓を表す |
原山津見神 | 山焼き、あるいは火山を司る 平坦な広々とした山、あるいは裾野を表す |
戸山津見神 | 山焼き、あるいは火山を司る 山から見て外、つまり里の近くを表す |
妻を失った悲しみに耐えかねた伊邪那岐はある日ついに、亡き伊耶那美を地上に連れ戻すため、生きながらにして黄泉国を訪れます。
そこは地下にある死者の国、穢れに満ちた暗黒の世界でした。
すごい行動力
よっぽど悲しかったんだね
死者の世界を訪れた伊邪那岐ですが、現世とあの世の境をしっかりと閉ざす、御殿の石の扉が彼の行く手を阻みます。
何かしてみないことには始まらないので、彼は扉越しに伊邪那美に呼びかけてみました。
我が妻よ、まだ国づくりは完了してない
君の力が必要だから戻ってきてくれ
すると、扉の向こうから懐かしい妻の声が返ってきます。
来て下さったのに残念
私はもうこの世界の物を食べてしまったので帰れないのです
黄泉国の竈で煮炊きした食べ物を食べることを「黄泉戸喫」といい、これによって死者の国の住人であることが確定し、地上にはもう二度と住めなくなってしまうのです。
この設定には古来より存在した、その土地の食べ物を食べるとその土地の住人になってしまう、という考え方が反映されています。
世界の神話に共通してみられる傾向じゃ
それでもなお伊邪那岐は諦めず、妻に戻ってくるよう説得を続けます。
最初は断っていた伊邪那美でしたが、彼女も懐かしい声を聞いたためか、次第に郷愁の念に駆られて地上に帰りたくなってしまいました。
ちょっと上に相談してくるわ
戻ってくるまで絶対に中をのぞいて私を見てはいけません
見るなよ!絶対見るなよ!
フリじゃないからね?
伊邪那美は絶対に自分の姿を見ないことを夫に約束させ、黄泉神に現世に戻れるよう頼むための準備を始めます。
ここまでは特に問題もなく、順調にストーリーも進んできたのですが、ここにきて夫の伊邪那岐が何やら不審な行動をとりはじめました。
彼はじっと待っているのに耐えきれなくなり、妻との約束も忘れて、黄泉の御殿の扉を開けて中に入ってきてしまったのです。
とはいえ中は真っ暗闇、伊邪那岐は身に着けていた櫛の歯を1本折ると、これに火を灯してそろそろと進みます。
彼がしばらく歩いていると、何者かの姿がぼんやりと照らされて見えてきました。
伊邪那岐は火を近づけてその正体を確かめようとします。
うげげっ…!
彼は恐怖におののく声を抑えきれませんでした。
明りに照らされたのは、彼が愛する妻・伊邪那美の、目も当てられぬほどに醜く変わり果てた姿だったのです。
彼女の身体は腐り果てて腐臭を放っており、全身に無数の蛆がたかってごろごろと薄気味の悪い音を立てていました。
さらによく目を凝らすと、伊邪那美の身体には恐ろしい8柱の雷神・火雷大神が、蛇の姿をして憑りついています。
神名 | 生じた部位 | 概要 |
---|---|---|
大雷神 | 頭 | 雷が持つシンプルに強烈な威力を表す 成熟した魔物の意とする説も |
火雷神 | 胸 | 雷光を意味し、雷が起こす火災を表す 火をまとった魔物の意とする説も |
黒雷神 | 腹 | 雷が鳴る際に天地を暗くする力を表す 黒い魔物の意とする説も |
析雷神 | 股 | 雷がモノを引き裂く威力を表す 切り裂く力を持つ魔物の意とする説も |
若雷神 | 左手 | 雷雨の後の清々しい天候を表す 地上に若々しい活力をもたらす力を表す 若い魔物の意とする説も |
土雷神 | 右手 | 落雷が土中に戻り潜伏する様を表す 容姿の醜い魔物の意とする説も |
鳴雷神 | 左足 | 雷が雷鳴(神鳴り)を轟かす力を表す 音を鳴らす魔物の意とする説も |
伏雷神 | 右足 | 雷が雲間に潜伏して雷光を走らせる様を表す 這いつくばっている魔物の意とする説も |
見~た~な~
ひぇぇぇ~
伊邪那美の姿を見てすっかり怯えてしまった伊邪那岐は、彼女に背を向けて一目散に逃げだしてしまいました。
驚き、失望、怒りの感情を一度に抱えた伊邪那美は、一方的に約束を破ったうえ自分の姿を見て怖気づいた夫を捕えるために、予母都志許売たちを追っ手に放ちます。
キェェェェー‼‼‼
予母都志許売は黄泉醜女とも表される黄泉国の怪物だ!
彼女たちは死の国の穢れを神格化した女性の姿をした存在で、恐ろしい剛力を持っているぞ!
攻略法はナシ、捕まった時点でワンパンダウンが確定するので、「逃げる」一択だぞ!
恐ろしいクリーチャーの追跡をうける伊邪那岐は、自身のかつら(黒いつる草の冠)をとって背後に投げつけます。
かつらは山ぶどうのつるとなって実をつけたので、一時的に予母都志許売たちの妨害に成功しました。
しかしそれもつかの間、再び追跡が始まったので、伊邪那岐は右の頭に着けていた櫛の歯を折り、またも背後に投げつけます。
彼が投げた櫛の歯は、今度は見事なタケノコへと変化し、再び予母都志許売の食欲を刺激してその足止めに成功しました。
…
ハァハァ…
ヤベェヤベェ、ぜってぇヤベェッてコレ…
一方で伊邪那美は、頼りにならない予母都志許売たちに苛立っていました。
チッ、使えねぇなあいつら…
彼女は自身にへばりついていた火雷8神と、1,500もの黄泉の軍勢を夫の追跡に放ちます。
必死の形相で逃走する伊邪那岐は、十拳剣で追っ手を振り払いながら、ついに現世と黄泉国の境界にある黄泉比良坂のふもとにまで辿り着きました。
彼は何を思ったのか、麓の木になっていた3つの桃の実を、追っ手に向けて投げつけます。
そんなもんでわしらが、…グェェェェー!
するとなんということでしょう、恐怖のチェイサーたちは、とたんに散り散りになって逃げ去ってしまいました。
中国大陸の思想の影響で、桃の実には邪気を祓う神聖な力があると信じられていたのです。
あぁ~死ぬかと思った…
ほっと一安心した伊邪那岐は、自身を救ってくれた桃の木に向かってこう言いました。
お前いいやつだな!
人間たちが苦しんでるときも助けてやってくれよな!
彼は桃の実に以下の名前をつけ、これまた新しい神さまが生まれることになりました。
神名 | 概要 |
---|---|
意富加牟豆美命 | 邪気を払うなど |
どうにか逃げ延びたかと思った伊邪那岐ですが、話はそう簡単には終わりません。
後方には、すでに禍々しい黄泉津大神と化した伊邪那美の姿が迫っていたのです。
ひぇぇぇ~
伊邪那岐は動かすのに1,000人は要りそうな大岩を火事場の馬鹿力で持ち上げ、黄泉比良坂の中ほどに置いて道を塞ぎました。
その向こうにはもう伊邪那美が追いついて来ており、夫婦は大岩を挟んで向かい合う形になります。
ここで、自分の都合で黄泉国にやって来て、一方的に約束を破って中に入り、やめてと言われたのに伊邪那美の見られたくない姿を目撃し、勝手にビビって逃げ出して、妻に大恥をかかせた上に大激怒させた我らが始祖の神・伊邪那岐はこう宣言なされました。
離婚しよう!キリッ
酷いとかいうレベルをはるかに逸脱した彼の発言に、伊邪那美は当然の怒りを込めてこう応えます。
あんたの国の人間の命、1日に1,000人分とったるけんのう…
一般的な感性でいうともはや平謝りに謝るしか選択肢のない伊邪那岐さんですが、一度は心から愛した妻に彼はこう返します。
じゃあおれは1日に1,500人生まれるように産屋を建てるわ
えぇ…
まさかの小学生みたいな数字マウント…
こういうわけで人間たちが住まう葦原中国では、1日に必ず1,000人が亡くなり、1,500人が生まれることになりました。
この物語は日本神話における「生死の起源」を象徴しており、この時から人間の「寿命」がはじまったと伝えられています。
また、伊邪那美は逃げる伊邪那岐に追いついたことから、道敷大神という名前でも呼ばれました。
彼女の進撃を阻んだ大岩は道返之大神または黄泉戸大神と名付けられ、これまた神格化されたのです。
古代神話らしい超絶理不尽ストーリーじゃな
この物語の『日本書紀』ver.もあるよ
伊邪那岐が伊邪那美に別れを告げた一連の言動は「事戸を度す」と表現され、これは夫婦の離縁の言葉であると同時に、生者と死者の別離を表す言葉でもあると考えられています。
いずれにしても、八百万の神々を生んだ夫婦は完全に袂を分かち、伊邪那岐が「生」を、伊邪那美が「死」をそれぞれ代表する形になりました。
偉大な大地母神であった伊邪那美が、死後の世界の支配者である禍々しい黄泉津大神へと姿を変えるこの物語は、「生」と「死」の対立構造を説明するとともに、「死」に対する「生」の優位性を伝える役割を果たしているのです。
気の毒で切ない結末ではあるものの…
世界観や宗教観を統一・共有するためには
必要な描写だったんだろうね!
黄泉国ってずっと言ってたけど…
どこ?
「日本神話」には、天の世界である高天原や地上の世界である葦原中国の他にも、さまざまな世界が登場します。
初めて目にした方は少し混乱するかもしれないので、ここで簡単に整理しておきましょう。
黄泉の国 | 死後の世界 |
---|---|
暗くじめじめした、邪霊が棲む世界 | |
伊邪那美命が闇堕ちした姿である黄泉津大神が君臨する | |
生者が行き来することは出来ない | |
根之堅洲國 | 死後の世界 |
割と明るくて人々の暮らしも地上と変わらない | |
現役を退いた建速須佐之男命が統治する | |
生者が行き来することが可能 | |
常世の国 | 地上とは時間の流れが異なる異世界、神仙境 |
ここにいれば永久不変、不老不死が約束される理想郷 | |
さまざまな神々がここ出身で、物語でも行き来している |
各地に伝わる伝承を1本にまとめる過程で、
ややこしい世界設定になったと考えられておる
普通にさらっと流してたけど、
人間ってもう存在しているの?
そうじゃ
日本神話で活躍するのは基本的に神さまだけで、人間が目立つように描かれることはありません。
そのためうっかり忘れがちなのですが、地上の葦原中国には最初から人間が棲んでいるのです。
海外の神話では、原初の神々が人間を創造する件がメインストーリーにがっつり入ってくるものです。
しかし日本神話では、あまり目立たない初期の神である宇摩志阿斯訶備比古遅神の出現の際に、「人」の起源が軽めに語られています。
ちなみに日本神話における地上の人間たちは、青人草と呼ばれています。
人間の起源話は割とさらっとしているんだね!
生還の伊邪那岐、禊で穢れを祓いさらに神々を生み出す【三貴子の誕生】
命からがら黄泉国から生還した伊邪那岐はこう考えました。
死者の国に行ったせいでこの身は穢れてしもうた
禊をしてきれいにせんといかん!
自分の意思で行ったのでは?
とツッコミたくなるところですが、とにもかくにも彼は筑紫(九州)の日向(宮崎県)にある、橘の小門の阿波岐原の海を訪れます。
伊邪那岐はそこで禊を行いましたが、彼が身に着けていたものを脱ぎ捨てる度に、これまた以下のような新しい神々が続々と誕生したのです。
「禊」とは、身に付いた穢れを水を注いで洗い流す行為のことをいうよ!
神名 | 概要 |
---|---|
衝立船戸神 | 邪悪な存在の侵入を防ぐ要衝を司る |
道之長乳歯神 | 邪悪な存在を防ぎ、道中の安全を守護する岩を司る |
時量師神 | 旅の安全に必要な時間の把握を司る |
和豆良比能宇斯能神 | 黄泉国の穢れを司る 旅の災厄をもたらす |
道俣神 | 道の辻、異界との境界を司る |
飽咋之宇斯能神 | 罪穢れを清める 旅人を飢餓から守る |
奥疎神 | 災厄や穢れを海に捨て去ることを司る |
奥津那芸佐毘古神 | |
奥津甲斐弁羅神 | |
辺疎神 | |
辺津那芸佐毘古神 | |
辺津甲斐弁羅神 | |
八十禍津日神 | 災厄を司る |
大禍津日神 | |
神直毘神 | 災厄を直す |
大直毘神 | |
伊豆能売 | |
底津綿津見神 | 海を司る 三神の子に宇都志日金析命 |
中津綿津見神 | |
上津綿津見神 | |
底筒之男神 | 海を司る 住吉三神 |
中筒之男神 | |
上筒之男神 |
どこの部分からどの神さまが生まれたのかは割愛したので、
気になる方は原文に近い資料にも挑戦してみてね!
伊邪那岐は黄泉国から戻ったことで、
両性具有の能力を身につけたという説もあるのじゃ
あ~だいぶキレイになったわ~
最後に顔面を洗って仕上げようかね
ここで物語は、日本神話において最も重要と言っても過言ではない場面を迎えます。
伊邪那岐が禊の最後に左目を洗うと天照大御神が、右の目を洗うと月読命が、鼻を洗うと建速須佐之男命が生まれたのです。
聞いて驚け!
見て笑え!
我ら伊邪那岐さまの一の子分!
天照!
月読!
須佐之男!
彼が最後に生み出した3柱の神々は特に尊い存在とされ、三貴子あるいは三貴神とも呼ばれます。
偉大な神々の誕生を大変喜んだ伊邪那岐は、後の世の統治をこの3姉弟に丸投げすることに決めました。
彼は、玉があしらわれた首飾りをゆらゆらと揺らしながら天照に授けると、
お前は天の世界・高天原を治めなさい
と言い、月読には「夜の国」を、須佐之男には「海原」を治めるように命じました。
ってことで、伊邪那岐はFIRE達成で~す、乙!
ここでついに偉大な神々の世代交代が成就し、伊邪那岐と伊邪那美はその役目を終えました。
ここからの日本神話の物語は、天照ら三貴神を中心に描かれていくことになるのです。
伊邪那岐は表の世界からは身を隠し、今は淡海の多賀(滋賀県の多賀大社)に祀られています。
流石の壮大な物語だったわね~
…to be continued!!!
次回はコチラ
おわりに
今回は、日本神話序盤の物語、国土創世と八百万の神々について解説しました。
伊邪那岐・伊邪那美の話だけあって、
終始とんでもない数の神さまが生まれてきたわね~
この怒涛の勢いは他の段では見られない特徴だね
「生」と「死」の起源も序盤っぽくて良かったね!
パパトトブログ-日本神話篇-では、私たちの祖国に伝わる魅力的な神々や彼らの物語をご紹介していきます。
神さま個別のプロフィール紹介や神話の名場面をストーリー調で解説など、難しい言葉は出来るだけ使わずに、あらゆる角度から楽しんでもらえるようにしようと考えています。
これからも「日本神話」の魅力をどんどんご紹介してきますので、良ければまた読んでもらえると嬉しいです!
また来てね!
しーゆーあげん!
参考文献
- 倉野憲司校注 『古事記』 岩波文庫 2010年
- 島崎晋[監修] 日本博学倶楽部[著] 『日本の「神話」と「古代史」がよくわかる本』 PHP文庫 2010年
- 由良弥生 『眠れないほど面白い『古事記』』 王様文庫 2014年
- 由良弥生 『読めば読むほど面白い『古事記』75の神社と神さまの物語』 王様文庫 2015年
- 歴史雑学研究倶楽部 『世界の神話がわかる本』 Gakken 2010年
- 宮崎市神話・観光ガイドボランティア協議会編集 『ひむか神話伝説 全212話』 鉱脈社 2015年
- 中村圭志 『図解 世界5大神話入門』 ディスカヴァー・トゥエンティワン 2020年
- かみゆ歴史編集部 『マンガ面白いほどよくわかる!古事記』 西東社 2017年
- 戸部民夫 『「日本の神様」がよくわかる本』 PHP文庫 2007年
- 三浦佑之 『あらすじで読み解く 古事記神話』 文藝春秋 2013年
- 國學院大學 「古典文化学」事業:https://kojiki.kokugakuin.ac.jp/research/
- 茂木貞純監修『日本の神様ご利益事典』だいわ文庫 2018年
- 武光誠『知っておきたい日本の神様』角川ソフィア文庫 2005年
- 阿部正路監修『日本の神様を知る事典』日本文芸社 1987年
他…
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