【つまり初代神武天皇】神倭伊波礼毘古命-カムヤマトイワレビコノミコト-【日本神話】

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神倭伊波礼毘古命
とと(父)

こんにちは!
今回は日本神話より神倭伊波礼毘古命かむやまといわれびこのみことを紹介するよ!

ことと

神倭伊波礼毘古命かむやまといわれびこのみこと
どんな役割を持つ神さまなの?

とと(父)

彼は神さまとも伝説上の人物ともいえる存在で、
初代神武じんむ天皇という名前の方が有名かもしれないね!

ヒヒ

神武東征じんむとうせい神話』に登場するぞい

とと(父)

ではさっそくいってみよう!

このシリーズでは、忙しいけど日本神話についてサクっと理解したいという方向けに、「かんたんわかりやすい」がテーマの神々の解説記事をお送りしています。

超個性的な八百万の神々が織りなす、笑いあり、涙ありのトンデモぶっ飛びストーリーが、あなたに新たなエンターテイメントとの出会いをお約束します。

人間味溢れる自由奔放な神々の色彩豊かで魅力的な物語に、ぜひあなたも触れてみてくださいね。

今回は、天の世界・高天原たかまがはらを統べる天照大御神あまてらすおおみかみの直系の子孫にして、後に初代神武じんむ天皇と称される神話の超重要人物、神倭伊波礼毘古命かむやまといわれびこのみことをご紹介します!

ヒヒ

忙しい人はコチラから本編にすっ飛びじゃ

この記事は、以下のような方に向けて書いています。

  • 日本神話にちょっと興味がある人
  • 日本神話に登場する神さまのことをざっくり知りたい人
  • とりあえず誰かにどや顔でうんちく話をしたい人
この記事を読むあなたのメリット
  • 日本神話に登場する「神倭伊波礼毘古命かむやまといわれびこのみこと」について少し詳しくなります。
  • あなたのエセ教養人レベルが1アップします。
目次

そもそも「日本神話」って何?

日本神話」とは、ざっくり言うと「日本ってどうやって生まれたの?」を説明してくれる物語です。

原初の神々や日本列島の誕生、個性豊かな神さまが活躍する冒険譚や、彼らの血を引く天皇たちの物語が情緒豊かに描かれています。

現代の私たちが知る「日本神話」の内容は、『古事記こじき』と『日本書紀にほんしょき』という2冊の歴史書が元になっています。

これらは第四十代天武てんむ天皇の立案で編纂が開始され、それぞれ奈良時代のはじめに完成しました。

国家事業として作られた以上、政治的な色合いがあることは否めませんが、堅苦しくて小難しいかと思ったらそれは大間違い

強烈な個性を持つ神々がやりたい放題で引き起こすトラブルや恋愛模様は、あなたをすぐに夢中にさせることでしょう。

とと(父)

日本神話」の全体像は、以下で解説しているよ!

枝年昌『岩戸神楽之起顕』1889年
枝年昌『岩戸神楽之起顕』1889年 PD

さぁ、あなたも情緒あふれる八百万やおよろずの神々が住まう世界に、ともに足を踏み入れてみましょう。

神倭伊波礼毘古命かむやまといわれびこのみことってどんな神さま?

神倭伊波礼毘古命かむやまといわれびこのみこと(以下、イワレビコ)がどんな神さまなのか、さっそく見ていきましょう。

ことと

いくぜっ!!

簡易プロフィール

正式名称神倭伊波礼毘古命かむやまといわれびこのみこと
Kamuyamatoiwarebikonomkikoto
別称若御毛沼命わけみけぬのみこと
豊御毛沼命とよみけぬのみこと
狭野尊さぬのみこと
彦火火出見ひこほほでみ
神日本磐余彦火火出見尊かんやまといわれびこほほでみのみこと
神武じんむ天皇
神日本磐余彦天皇かんやまといわれびこのすめらみこと
始馭天下之天皇はつくにしらすすめらみこと ほか
神格幼名に穀霊こくれい的な性質を持つ
性別男性
勢力天皇家
父:鵜葺草葺不合命うかやふきあえずのみこと
母:玉依毘売命たまよりびめのみこと
兄弟姉妹五瀬命いつせのみこと
稲氷命いなひのみこと
御毛沼命みけぬのみこと
配偶者阿比良比売あひらひめ
比売多多良伊須気余理比売ひめたたらいすけよりひめ
多芸志美美命たぎしみみのみこと
岐須美美命きすみみのみこと
日子八井命ひこやいのみこと
神八井耳命かむやいみみのみこと
神沼河耳命かむぬなかわみみのみこと
神徳(ご利益)・開運招福
・健康長寿
・世界平和など
神社橿原神宮
宮﨑神宮ほか
※別途詳述

誕生と家族

イワレビコは日本神話に登場する伝説上の人物です。

彼は各地を平定して日本国を建国し、その死後、初代神武じんむ天皇と称されることになります。

月岡芳年 神武天皇と八咫烏の肖像
月岡芳年
神武天皇と八咫烏の肖像 PD

そんなイワレビコは、由緒正しく高貴な神々のもとに生まれました。

彼の父親は鵜葺草葺不合命うかやふきあえずのみこと、天の世界・高天原たかまがはらを統べる天照大御神あまてらすおおみかみの血を引く直系の子孫です。

イワレビコの母親は玉依毘売命たまよりびめのみことで、彼女は日本の海を支配する大物の海神・大綿津見神おおわたつみのかみの娘です。

またイワレビコの曾祖母で邇邇芸命ににぎのみことの妻である木花之佐久夜毘売命このはなのさくやびめのみことは、日本の山の神々を束ねる総元締そうもとじめ大山津見神おおやまつみのかみの娘です。

イワレビコは日本のトップに君臨する天照あまてらすの5世孫にして、自然界を構成する二大領域(つまり山と海)を掌握する神々の血統を受け継いだ、文字通りの「選ばれし者」としてこの世に生を受けたのです。

天の世界のイメージ
とと(父)

とんでもないサラブレッドって感じだね!

イワレビコ

弱点なさすぎてもはや怖いよね~

イワレビコには五瀬命いつせのみこと稲氷命いなひのみこと御毛沼命みけぬのみことという3柱の兄たちがいますが、このうち長男の五瀬いつせとの冒険が神話の中で描かれています。

彼は長じて後、日向国ひむかのくに(宮崎県)高千穂たかちほの宮で阿比良比売あひらひめを妻に迎え、多芸志美美命たぎしみみのみこと岐須美美命きすみみのみことという2柱の子を得ています。

さらに『神武東征じんむとうせい』の偉業を成し遂げたイワレビコは、大和国やまとのくに(奈良県)比売多多良伊須気余理比売ひめたたらいすけよりひめと結婚し、彼女との間には日子八井命ひこやいのみこと神八井耳命かむやいみみのみこと神沼河耳命かむぬなかわみみのみことの3神が生まれています。

ことと

設定や業績の割に、婚姻関係は意外とこざっぱりしてるのね

イワレビコ

こう見えて結構一途なのよ、わし

名前の由来

イワレビコの正式名称である神倭伊波礼毘古命かむやまといわれびこのみこと及びその他の名称には、どのような意味が込められているのでしょうか。

一般には、

  • 幼名である「若御毛沼わけみけぬ」の「」は敬称、「」は食物の意、「」は「主」で、彼が穀霊こくれいとしての性質を持つことを示す
  • 神倭伊波礼毘古かむやまといわれびこ」は、「神聖な大和国やまとのくに(奈良県)いわ(由緒)を背負った男」を意味する
  • 始馭天下之天皇はつくにしらすすめらみこと」は、「初めて天下を平定した天皇」を意味する

といったことが言われているようです。

豊穣のイメージ

古事記』をベースに考えた場合、若御毛沼わけみけぬ豊御毛沼とよみけぬイワレビコの本名にあたり、その他の名称は彼が果たした役割や業績に応じて付けられた、と考えても問題ないかもしれません。

とと(父)

神話での役割が重要なキャラ、とりあえず穀物の神さまにされる説、あると思います

イワレビコ

余計なことは言わんでよろしい

神倭伊波礼毘古命かむやまといわれびこのみことの活躍シーン

とと(父)

イワレビコの活躍を見てみよう!

よりよい統治の場所を求めて兄・五瀬命いつせのみことと共に旅立つ【神武東征じんむとうせいのはじまり】

鵜葺草葺不合命うかやふきあえずのみこと玉依毘売命たまよりびめのみことの間に生まれた4兄弟は、成長するとそれぞれの道を歩み始めます。

次男の稲氷命いなひのみことは母の故郷である海神わたつみの宮に旅立ち、三男の御毛沼命みけぬのみことは海の遥か彼方にある常世国とこよのくにへ渡りました。

そこで長男の五瀬命いつせのみことと末っ子のイワレビコ日向国ひむかのくに(宮崎県)高千穂たかちほの宮に残り、父親から地上の統治を引き継ぐことになったのです。

中岳中腹探勝路から見た高千穂峰
中岳中腹探勝路から見た高千穂峰

兄弟は仲良く協力して仕事を行い、地上の世界・葦原中国あしはらのなかつくにの統治も概ね軌道に乗せることに成功します。

イワレビコ阿比良比売あひらひめと結婚して、多芸志美美命たぎしみみのみこと岐須美美命きすみみのみことの父親にもなっていました。

そんなある日のこと、兄弟がいつも通り仕事の打ち合わせをしていると、こんな話題で話が盛り上がります。

イツセ

地上を統治するって言ってもさ、
ここ(=日向国ひむかのくに)って場所が端っこすぎんか?

イツセ

どこか効率良く仕事が出来る、
良い感じの場所はないんやろうか?

イワレビコ

う~む、そやなぁ…

ああでもないこうでもないと話す2人のもとに、突然見知らぬおじいちゃんが現れました。

シオツチ

そういうことなら、東の方い良い感じの国があるぞよ~

彼は塩椎神しおつちのかみという潮の流れを司る神さまで、突然現れては困っている者に的確すぎる助言をするという、神出鬼没のアドバイザーとしての定評がありました。

イワレビコ

こうなったら行くしかないぜ!

塩椎しおつちの話に触発されたイワレビコは、その場で東方への旅立ちを決意します。

彼はこの時45歳、ここに有名な『神武東征じんむとうせい神話』の物語が始まりを告げるのです。

月岡 芳年『神武天皇』第1回国勢調査の表紙
月岡 芳年『神武天皇』
第1回国勢調査の表紙 PD

イワレビコはさっそく兄・五瀬いつせをはじめとした旅の仲間を組織し、高千穂たかちほの宮を発って美々津みみつの港から出航します。

ヒヒ

主要な場面までのルートをダイジェストで紹介するぞい

スクロールできます
訪問先出来事や概要
豊国とよのくに宇沙
(大分県宇佐市)
宇沙都比古うさつひこ宇沙都比売うさつひめの兄妹が宮殿まで造って歓待してくれる
筑紫国つくしのくにの岡田の宮
(福岡県遠賀郡)
1年ほど滞在
安芸国あきのくに多祁理たけりの宮
(広島県安芸郡)
7年ほど滞在
吉備国きびのくにの高島の宮
(岡山県岡山市)
8年ほど滞在
速吸門はやすいのと
(兵庫県の明石海峡)
釣りをしていた宇豆毘古うづびこという国津神くにつかみが案内役になってくれたので、槁根津日子さおねつひこという名を授ける
※彼は倭国造やまとのくにのみやつこの先祖となる
ことと

だいぶゆったりした旅だわね
少なくとも16年は経ってイワレビコも61歳よ…

イワレビコ

普通の人間の基準で考えちゃだめよ~
神の子よ?わし!

とと(父)

まぁ軍備を整えるのに時間がかかったんだろうね!

一行はなおも東に向けて旅を続けますが、次に訪れる地域で物語は急展開を迎えます。

神武東征の旅程を示したイラスト

仇敵との出会い、そして兄の死【白肩しらかたの津:VS.那賀須泥毘古ながすねびこ

地元の事情に詳しい水先案内人を得たイワレビコの一行は順調に旅を続け、浪速渡なみはやのわたり(大阪湾沿岸)を過ぎて青雲あおくも白肩しらかたの津(東大阪市日下町)に停泊します。

この地で旅の一行を待ち受けていたのは、これまでのような友好的な歓待とは真逆のものでした。

港の周辺は登美とみ(奈良県西部)生駒山いこまやま周辺を支配した豪族・那賀須泥毘古ながすねびこ(またの名を登美毘古とみびこ)の勢力によって取り囲まれており、イワレビコたちは彼の待ち伏せ攻撃を受けてしまったのです。

浜のイメージ

旅の仲間たちはそれぞれに武器を手に取り応戦、激しい攻防戦が繰り広げられます。

イワレビコたちが船に積んでいたたてを取り出し浜に突き立てて身を守ったことから、この地は「楯津たてつ」と名付けられ、その後に「日下くさか蓼津たでつ」と呼ばれるようになりました。

イワレビコ

今マジで忙しいから!
地名の由来は後にして!!

この戦いのさなか、兄・五瀬いつせは敵の矢を手に受けて重傷を負ってしまいます。

矢が命中するイメージ
イツセ

あ~そっか~わしら日の神(=天照あまてらす)御子みこやしなぁ~
きっと太陽に向かって戦ったら悪かったのよ~

イツセ

場所変えよか

イワレビコ

(逆光で見えにくかっただけなんちゃうかな…)

そんなこんなで一行は南に迂回し、そこで五瀬いつせは血にまみれた自身の手を洗い清めました。

彼の傷は深かったのであたり一面は真っ赤な血に染まり、その周辺は血沼海ちぬのうみ(大阪府南部)と呼ばれたと伝わっています。

負傷兵を抱えたイワレビコの一行は紀国きのくに(和歌山県)男乃水門おのみなとにたどり着きました。

そこで五瀬いつせは突然、

イツセ

わしゃぁあんなボ〇クラにやられて終わるんかい!!!

イツセ

ウボァー!!

彼は激しい雄たけびをあげた後、そのまま息を引き取ってしまいます。

五瀬いつせの墓は紀国きのくに竈山かまやま(和歌山市周辺)に築かれたとされています。

ここまで順調に歩を進めてきた天照あまてらすの直系の子孫・イワレビコは、ここに来て手痛い敗北を喫した上に、血のつながった兄である五瀬いつせまでも失ってしまいます。

彼はこれまでに経験したことのない挫折に打ちのめされながらも、仇討ちの決意を胸に、歩みを止めることなく東に向けて旅を続けました。

ことと

わぉ、結構がっつりやられてるのね…

イワレビコ

正直、一番きつい時期やったね~

神武東征の旅程を示したイラスト2

ピンチとは何か?天の神々による手厚い保護【熊野の村:VS.熊野山之荒神くまののやまのあらぶるかみ

イワレビコは兄を失った悲しみを抱えながらも、各地を巡ってその土地の神々を平定、帰順させていきました。

久米部くめべと呼ばれる傭兵集団も加えて戦力を増強した一行はある日、熊野の村にたどり着きます。

するとイワレビコたちの目の前に、突然とんでもなく大きな熊が現われて立ちはだかりますが、それはたちまちのうちに霧のように消えてしまいました。

大熊のイメージ
イワレビコ

お、おぅ、わしらの威光にビビッて逃げよったわぃ!

イワレビコ

(正直ちょっとちびったわ…)

イワレビコ

…って、あれ?

次の瞬間、イワレビコはすーっと引き込まれるように意識が遠のいていく感覚を覚えます。

彼だけでなく、彼が率いる屈強な軍勢もみな気を失って、バタバタと倒れていったのです。

実は、先ほど現れた大熊はこの熊野の山中に棲む神の化身で、その名もズバリ熊野山之荒神くまののやまのあらぶるかみといいました。

イワレビコたちは、この地主神じぬしのかみの荒々しくも妖しい霊力にまんまとしてやられたのです。

それからどれほどの時間が経ったのでしょうか、イワレビコはうっすらと意識が戻るのを感じます。

身体の回復具合で寝坊を確信するあの感覚からして、かなりの時間眠ってしまっていたようですが、彼は強がってこう言いました。

イワレビコ

っぶね~、寝るとこだったわ~!!

イワレビコがふと目線を動かすと、目の前に何やら霊妙な剣を携えた見知らぬ神さまが立っており、彼を心配そうに見つめています。

???

ほれ、天の御子みこ殿
これを使うのじゃ

イワレビコが言われるがままに剣を鞘から抜くと、あたり一帯から次第に荒ぶる邪気が祓われていくのを感じました。

彼はすっかり気分が良くなり、倒れていた軍勢も次々に目を覚まします。

それだけでなく、イワレビコが例の剣を握っただけで、熊野山之荒神くまののやまのあらぶるかみたちはみな自動で斬り倒されていたのです。

山道のイメージ
イワレビコ

えっ、なにこれ~
『ド〇えもん』で見た名刀・電光〇じゃ~ん!!

イワレビコ

あれ…?
でもどうしてここが…?

???

実はかくかくしかじかでしてのう…

イワレビコが詳しく事情を聴いてみると、概ね以下のような経緯があったそうです。

彼の名は高倉下命たかくらじのみことといい、熊野の山のあたりに住んでいるそうな。

ある日彼は不思議な夢を見たそうで、その中では天照大御神あまてらすおおみかみ高御産巣日神たかみむすびのかみ建御雷之男神たけみかづちのをのかみを呼び出して、何やら深刻そうに話し込んでいたということです。

アマテラス

わしの直系の子孫がのぅ、割と大ピンチなんじゃ

タカミムスビ

お前が地上平定したんやから、ちょいと様子見てこいや

タケミカヅチ

(どんな理屈やねん…)

タケミカヅチ

私がわざわざ行かずとも、この霊剣を授ければ十分でしょう

タケミカヅチ

ちょうど良い場所にちょうど良い奴が住んどりますゆえ、
彼に任せましょう

タケミカヅチ

ってことで高倉下たかくらじ、頼んだぞ!

タカクラジ

はっ…!!

高倉下たかくらじが目を覚まして確認すると、本当に倉の中に見覚えのない剣が置いてあったので、夢の中で言われたとおりに大急ぎで馳せ参じたということでした。

イワレビコ

ほぇぇ、とりあえずありがとう

イワレビコが改めてその霊力に感嘆した剣の名前は「布都御魂ふつのみたま」といい、この霊剣は奈良県にある石上神宮いそのかみじんぐうに祀られています。

タケミカヅチ

他にも「佐士布都神さじふつのかみ」や「甕布都神みかふつのかみ」とも呼ばれるぞい

石上神社の七支刀
石上神宮編『石上神宮宝物誌』より
石上神宮所蔵・七支刀(国宝)PD

どうにか態勢を整えたイワレビコの一行は行軍を再開しますが、たいして進む間もなく彼らのもとに、天空から一羽のからすが舞い降りてきました。

ヤタガラス

ガァガァ、俺の名は八咫烏やたがらす!!
高御産巣日たかみむすび様の命により、お前らの道案内をするぜ!!

ヤタガラス

ガァガァ、ちなみにその方向に進むのはまじでヤヴァイぜ!!

イワレビコ

え~なんか『鬼〇の刃』みたいで良い感じだね~

こうしてイワレビコたちは優秀な道案内も仲間に引き入れ、敵とのエンカウントを回避しながら快適な旅を続けるさなか、以下のような神々との出会いも果たします。

スクロールできます
神名概要
贄持之子にえもつのこ吉野川の川尻で魚を捕っていた国津神くにつかみ
阿陀あだ(奈良県五条市付近)鵜飼うかいの先祖
井氷鹿いひかぴかぴか光る井戸の中から現れた尾のある国津神くにつかみ
吉野のおびと(族長)たちの先祖
石押分之子いわおしわくのこ力を誇示するように岩を押し分けて出てきた尾のある国津神くにつかみ
でも本当はイワレビコたちを出迎えに来ていた
吉野の国巣くず(土着民)たちの先祖
安達吟光『神武天皇東征之図』
安達吟光『神武天皇東征之図』 PD
ことと

天津神あまつかみ御子みこともなると、
追加オプションもとんでもなく強力ね~

とと(父)

ほぼチートアイテムなんですがね

イワレビコ

こんなんあるなら最初っから出してよね~

神武東征の旅程を示したイラスト3
Tips:『日本書紀』だと登場キャラが少し違う

古事記』をベースに解説している本記事では、イワレビコの案内役に八咫烏やたがらすが登場しましたが、『日本書紀』ver.では金山毘古神かなやまびこのかみによって派遣された金鵄きんし(≒そのまんま金色のとび)が登場しています。

良かったらそちらも見てみてね!

人望がないのにイキった兄と、冷静だけどドライすぎる弟【宇陀うだ穿うかち:VS.兄宇迦斯えうかし

そんなこんなでイワレビコと愉快な仲間たちは旅を続け、山を越えたところで宇陀うだ(奈良県宇陀郡)の地に到達します。

このあたりの地域は兄宇迦斯えうかし弟宇迦斯おとうかしの兄弟が仕切っているという情報を得ていた一行は、あらかじめ八咫烏やたがらすを遣いにやって、彼らに従属の意思があるか確認することにしました。

先行した八咫烏やたがらすは人々が集まる場所を見つけると、群衆の目線を集めるために「カァ」と一声鳴き、文字通りの上から目線で高らかに布告します。

月岡芳年『大日本名将鑑』より道臣命が菟田に向かう途中、八咫烏を追う
月岡芳年『大日本名将鑑』より
道臣命が菟田に向かう途中、八咫烏を追う PD
ヤタガラス

ガァガァ、天津神あまつかみ御子みこのお出ましじゃい
おどれら仕える用意は出来とるカァ~

エウカシ

おととい来やがれ!

いきなり現れて自分たちに従えとは何事かと、兄宇迦斯えうかし鏑矢かぶらやを放って八咫烏やたがらすを追い返し、その矢が落ちた場所は訶夫羅前かぶらさきと呼ばれるようになりました。

さらに兄宇迦斯えうかしは、イワレビコたちを迎え撃つための軍勢を集め始めますが、これがなかなか思う通りに進みません。

オトウカシ

(兄者、あんたにそこまでの求心力はないやろう…)

そこで兄宇迦斯えうかしは作戦を変更し、致命的なトラップを仕掛けた大きな御殿を建設します。

そこにイワレビコたちを誘い込み、歓待するふりをして罠に嵌め、そのまま亡き者にしてやろうという魂胆でした。

御殿のイメージ
エウカシ

いや~先日はすみませんでした!
まさかあの天照あまてらす様のご子孫とは!

エウカシ

喜んでお仕えいたしますが、先日のお詫びも兼ねて、
ぜひ歓迎の宴を開かせてくだせぇ!

敵を油断させる見事な演技力でイワレビコたちを招待した兄宇迦斯えうかし、陰謀の準備は完全に整いました。

その様子をこっそりと見ていたのが、弟の弟宇迦斯おとうかしです。

オトウカシ

(いや~、よしんばその1回が上手くいったとして…)

オトウカシ

(長期的に見て無理があるやろ…こうなったらしゃあないわ…)

弟宇迦斯おとうかしは先回りしてイワレビコたちの前に現れ、兄の企みのすべてを打ち明けました。

そして迎えた宴の当日、兄宇迦斯えうかしは貼り付けたような笑顔でイワレビコを出迎え、彼を例のデスパレスに誘い込もうと画策します。

しかしその作戦は弟宇迦斯おとうかしの密告によって既に明るみに出ているので、イワレビコ側もきっちりと準備をしてきました。

重臣である道臣命みちのおみのみこと(大伴連おおとものむらじらの祖)大久米命おおくめのみこと(久米直くめのあたいらの祖)兄宇迦斯えうかしを呼び出すと、彼に向かってこう言います。

ミチノオミ

お前が先に入って、どう仕えるのかやってみぃ

オオクメ

何も問題ないなら、出来るよなぁ?

エウカシ

ぐぬぬ…

2人の重臣はそれぞれ剣のつかを握りしめ、ほこを背中に突き付けて、兄宇迦斯えうかしを御殿の中に追い入れます。

結局彼は、自分自身が作った罠にはまって命を落としてしまいました。

兄宇迦斯えうかしの亡骸は引きずり出されて八つ裂きにされてしまったので、その地は宇陀うだ血原ちはらと呼ばれるようになりました。

宴席のイメージ

一方生き残った弟宇迦斯おとうかしは正式にイワレビコに仕えることになり、彼はノートラップで兵士たちに豪華なご馳走を振舞いました。

それを嬉しく思ったイワレビコは、宴の席で喜びの歌を歌ったと伝えられています。

イワレビコ

(要約)
Chu!強すぎてごめん ♪
死にきれないよね?ざまあw ♪

とと(父)

ちゃんとした歌に興味がある人は
久米歌くめうた」で検索してみてね!

今回もどうにか難を逃れて宇陀うだを突破した一行は、その後も休むことなく長い旅を続けます。

神武東征の旅程を示したイラスト4
ことと

実の兄まで切り捨てた弟宇迦斯おとうかしを採用するのも、
なかなか強靭なメンタルよね~

イワレビコ

ヤバい奴ほど近くに置いて親しくする!
『孫子の兵法』で言ってたでしょ?

最後の方の敵の扱い雑になっちゃう説【忍坂おさか大室おおむろ:VS.八十建やそたける

宇陀うだの地を出発したイワレビコと旅の仲間は、忍坂おさか(奈良県桜井市)大室おおむろ(大きい岩穴のこと)に至ります。

イワレビコ

…ん?
なんか変な声聞こえない?

一行が大室おおむろの中を覗いてみると、その中には土雲つちぐも八十建やそたけると呼ばれる多数の勇猛な土着民がひしめいており、唸り声をあげてイワレビコたちを待ち構えていたのです。

イワレビコ

うわぁ、もう面倒くさいなぁ…
せや、一網打尽に片付けたろ!!

一計を案じたイワレビコは、八十建やそたけると戦うのではなく、彼らをご馳走でもてなすことにしました。

相手方の人数に合わせて多数の給仕人を雇ったイワレビコは、一人一人に太刀を隠し持たせるとこう言い含めます。

イワレビコ

わしが歌いだしたらそれが合図や
みな一斉に、やれや…!

自分が罠に嵌められかけたことを根に持っていたイワレビコは、今度は自らが狡猾な策で敵を陥れることにしたのです。

岩穴のイメージ

そんな悪意には気付かない八十建やそたけるは豪勢なもてなしを喜び、宴は大いに盛り上がりました。

そしてえんもたけなわとなった頃、ついにイワレビコが動きます。

イワレビコ

(要約)
穴倉になんかたくさんいるけど~ ♪

イワレビコ

武勇に秀でた我らが久米部くめべがいてもうたる~ ♪
それ今じゃ~ ♪
※ちゃんとしたのは「久米歌くめうた」で検索のこと

イワレビコが作戦通りに合図となる歌を歌うと、給仕人たちは一斉に太刀を抜き、八十建やそたけるをいっぺんに斬り伏せてしまいました。

こうして数多くの敵を効率的に排除した一行は、引き続き東に向けて軍を進めていきます。

ことと

だんだん描写があっさりしてきてるわね

イワレビコ

まぁどうしても尺の都合がねぇ~…

兄の仇討ちを果たした弟は初代天皇に即位する【そして伝説へ…】

その後のイワレビコたちは、まさに向かうところ敵なしといった状態で、一行は破竹の快進撃を続けます。

かつて五瀬命いつせのみことを死に追いやった仇敵である那賀須泥毘古ながすねびこ(またの名を登美毘古とみびこ)ですら、たいした描写もなくイワレビコほふられてしまいました。

ヒヒ

日本書紀』の方ではもうちょい掘り下げられとるぞい

兄の仇を討ち積年の恨みを晴らしたイワレビコは、またもその昂る気持ちを歌で表現します。

イワレビコ

(要約)
なんか色んなもので例えとりますけども~ ♪

イワレビコ

我らが勇ましき久米部くめべは敵を討たずにはおかんぞよ~ ♪
※ちゃんとしたのは「久米歌くめうた」で検索のこと

また兄師木えしき弟師木おとしきの兄弟を討ち取った戦いにおいては、長期戦で疲れ果ててしまった軍勢を見たイワレビコが、以下のような歌を歌っています。

イワレビコ

(要約)
戦いがえらく長引いたのでわしら腹ペコ~ ♪
仲間たちよ、助けてくんろ~ ♪

晩年のイワレビコはハイになってしまっていたのか、至るところで歌を歌っていますが、決してその能力が衰えたわけではありません。

彼の軍勢はその後も各地を転戦し、逆らう賊を平定・帰順させ、服従しない勢力を追い払いました。

イワレビコがこうした戦いに明け暮れているさなか、彼のもとに邇芸速日命にぎはやひのみことという神さまが現れます。

新沢千塚古墳群公園
橿原市にある新沢千塚古墳群公園

なんでも彼は天孫降臨てんそんこうりんに遅れて地上に降り立ち、イワレビコたちを追いかけてやって来たそうな。

邇芸速日にぎはやひは、イワレビコ天津神あまつかみ御子みこであることを証明する宝物(天津瑞)を献上すると、そのまま彼に仕えることになりました。

こうして地上の荒ぶる神々を平定したイワレビコ大和国やまとのくに(奈良県)にたどり着き、畝傍うねび白橿原かしはら(奈良盆地南部)に宮殿を建てて、ついに天下を治めることになったのです。

小林永濯『鮮斎永濯画譜』初篇「神武天皇」
小林永濯『鮮斎永濯画譜』初篇 PD
出典:次世代デジタルライブラリー

彼は大和やまとの地で大物主神おおものぬしのかみの娘である比売多多良伊須気余理比売ひめたたらいすけよりひめを后に迎え、彼女との間には日子八井命ひこやいのみこと神八井耳命かむやいみみのみこと神沼河耳命かむぬなかわみみのみことの3神が誕生しました。

その後イワレビコは137歳まで生き、この世を去ったと言われています。

生前に偉業を成し遂げた彼には、その功績を称えていくつかの諡号しごう(おくり名、死後の称号)が贈られました。

そのうち和風諡号しごうが「神日本磐余彦天皇かんやまといわれびこのすめらみこと」で、8世紀後半になって贈られた漢風諡号しごうが「神武じんむ」といいます。

ここでついに彼は、現代の私たちも良く知る「初代・神武じんむ天皇」の名で称されることになったのです。

歌川國芳『日本国開闢由来記』首巻より神武天皇と媛蹈鞴五十鈴媛命
歌川國芳『日本国開闢由来記』より
神武天皇と媛蹈鞴五十鈴媛命 PD
ことと

ついにイワレビコの長い旅も終わったのね

神武天皇

いやぁ~長かったのぅ~

神武天皇

割と長編だったけど、最後まで読んでくれて感謝だZE☆

神武東征の旅程を示したイラスト5

神倭伊波礼毘古命かむやまといわれびこのみことを祀る神社ガイド

イワレビコは、いくつかの神社で祀られています。

ことと

代表的な場所をご紹介するわね!

橿原神宮

  奈良県橿原市久米町

宮﨑神宮

 宮崎県宮崎市神宮

狭野神社

宮崎県西諸県郡高原町大字蒲牟田

神武天皇社

奈良県御所市柏原

多家神社

 広島県安芸郡府中町宮の町

立磐神社

宮崎県日向市美々津町

神前神社

 愛知県半田市亀崎町

神武天皇社

 福井県坂井市丸岡町四ツ柳

駒宮神社

 宮崎県日南市平山

竈山神社

和歌山県和歌山市和田

信太神社

 和歌山県橋本市高野口町九重

池袋御嶽神社

 東京都豊島区池袋

御社神社

 鹿児島県肝属郡肝付町新富

金津神社

 福井県あわら市春宮

岡田宮

 福岡県北九州市八幡西区岡田町

などです!

おわりに

今回は、日本神話に登場する神倭伊波礼毘古命かむやまといわれびこのみことについて解説しました。

ことと

さすが初代、エピソードも盛りだくさんだったわね

とと(父)

挫折を乗り越えて勝利する、王道を征く始祖王の栄光物語だったね!

パパトトブログ-日本神話篇-では、私たちの祖国に伝わる魅力的な神々や彼らの物語をご紹介していきます。

神さま個別のプロフィール紹介や神話の名場面をストーリー調で解説など、難しい言葉は出来るだけ使わずに、あらゆる角度から楽しんでもらえるようにしようと考えています。

これからも「日本神話」の魅力をどんどんご紹介してきますので、良ければまた読んでもらえると嬉しいです!

とと(父)

また来てね!

しーゆーあげん!

参考文献

  • 倉野憲司校注 『古事記』 岩波文庫 2010年
  • 島崎晋[監修] 日本博学倶楽部[著] 『日本の「神話」と「古代史」がよくわかる本』 PHP文庫 2010年
  • 由良弥生 『眠れないほど面白い『古事記』』 王様文庫 2014年
  • 由良弥生 『読めば読むほど面白い『古事記』75の神社と神さまの物語』 王様文庫 2015年
  • 歴史雑学研究倶楽部 『世界の神話がわかる本』 Gakken 2010年
  • 宮崎市神話・観光ガイドボランティア協議会編集 『ひむか神話伝説 全212話』 鉱脈社 2015年
  • 中村圭志 『図解 世界5大神話入門』 ディスカヴァー・トゥエンティワン 2020年
  • かみゆ歴史編集部 『マンガ面白いほどよくわかる!古事記』 西東社 2017年
  • 戸部民夫 『「日本の神様」がよくわかる本』 PHP文庫 2007年
  • 三浦佑之 『あらすじで読み解く 古事記神話』 文藝春秋 2013年
  • 國學院大學 「古典文化学」事業:https://kojiki.kokugakuin.ac.jp/research/
  • 茂木貞純監修『日本の神様ご利益事典』だいわ文庫 2018年
  • 武光誠『知っておきたい日本の神様』角川ソフィア文庫 2005年
  • 阿部正路監修『日本の神様を知る事典』日本文芸社 1987年

他…

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