【山幸彦としても有名な浦島太郎のモデル】火遠理命-ホオリノミコト-【日本神話】

当ページのリンクには広告が含まれています。
火遠理命
とと(父)

こんにちは!
今回は日本神話より火遠理命ほおりのみことを紹介するよ!

ことと

火遠理命ほおりのみこと
どんな役割を持つ神さまなの?

とと(父)

彼は穀物の神さまだけど、
山幸彦やまさちひこ」という名前の方が有名かもしれないね!

ヒヒ

海幸山幸うみさちやまさち神話』の主人公じゃ

とと(父)

ではさっそくいってみよう!

このシリーズでは、忙しいけど日本神話についてサクっと理解したいという方向けに、「かんたんわかりやすい」がテーマの神々の解説記事をお送りしています。

超個性的な八百万の神々が織りなす、笑いあり、涙ありのトンデモぶっ飛びストーリーが、あなたに新たなエンターテイメントとの出会いをお約束します。

人間味溢れる自由奔放な神々の色彩豊かで魅力的な物語に、ぜひあなたも触れてみてくださいね。

今回は、天孫降臨てんそんこうりんでやって来た邇邇芸命ににぎのみことの息子にして、山幸彦やまさちひことして浦島太郎うらしまたろうのモデルにもなった天皇家の祖先、火遠理命ほおりのみことをご紹介します!

ヒヒ

忙しい人はコチラから本編にすっ飛びじゃ

この記事は、以下のような方に向けて書いています。

  • 日本神話にちょっと興味がある人
  • 日本神話に登場する神さまのことをざっくり知りたい人
  • とりあえず誰かにどや顔でうんちく話をしたい人
この記事を読むあなたのメリット
  • 日本神話に登場する「火遠理命ほおりのみこと」について少し詳しくなります。
  • あなたのエセ教養人レベルが1アップします。
目次

そもそも「日本神話」って何?

日本神話」とは、ざっくり言うと「日本ってどうやって生まれたの?」を説明してくれる物語です。

原初の神々や日本列島の誕生、個性豊かな神さまが活躍する冒険譚や、彼らの血を引く天皇たちの物語が情緒豊かに描かれています。

現代の私たちが知る「日本神話」の内容は、『古事記こじき』と『日本書紀にほんしょき』という2冊の歴史書が元になっています。

これらは第四十代天武てんむ天皇の立案で編纂が開始され、それぞれ奈良時代のはじめに完成しました。

国家事業として作られた以上、政治的な色合いがあることは否めませんが、堅苦しくて小難しいかと思ったらそれは大間違い

強烈な個性を持つ神々がやりたい放題で引き起こすトラブルや恋愛模様は、あなたをすぐに夢中にさせることでしょう。

とと(父)

日本神話」の全体像は、以下で解説しているよ!

枝年昌『岩戸神楽之起顕』1889年
枝年昌『岩戸神楽之起顕』1889年 PD

さぁ、あなたも情緒あふれる八百万やおよろずの神々が住まう世界に、ともに足を踏み入れてみましょう。

火遠理命ほおりのみことってどんな神さま?

火遠理命ほおりのみこと(以下、ホオリ)がどんな神さまなのか、さっそく見ていきましょう。

ことと

いくぜっ!!

簡易プロフィール

正式名称火遠理命ほおりのみこと
Hoorinomikoto
別称天津日高日子穂々手見命あまつひこひこほほでみのみこと
日子穂々手見命ひこほほでみのみこと
彦火火出見尊ひこほほでみのみこと
火折尊ほおりのみこと
山佐知毘古やまさちびこ
山幸彦やまさちひこ ほか
神格穀物の神
稲穂の神
性別男性
勢力天津神あまつかみ
グループ1日向三代ひむかさんだい
父:邇邇芸命ににぎのみこと
母:木花之佐久夜毘売命このはなのさくやびめのみこと
兄弟姉妹火照命ほでりのみこと (別名:海幸彦うみさちひこ)
火須勢理命ほすせりのみこと
配偶者豊玉毘売命とよたまびめのみこと
鵜葺草葺不合命うかやふきあえずのみこと
神徳(ご利益)・農業の守護
・漁業の守護
・畜産業の守護
・心願成就
・商売繁盛
・開運厄除け
・勝運守護
・航海安全
・縁結び
・子授け、安産
・牧場の守護
・畳、敷物業の守護
・鉱山業の守護
・刃物業の守護など
神社若狭彦神社 
鹿児島神宮ほか
※別途詳述

誕生と家族

音川安親『万物雛形画譜』
音川安親『万物雛形画譜』より火遠理命 PD

ホオリは日本神話に登場する穀物の神さまです。

彼は山幸彦やまさちひこという名前でも有名で、兄である火照命ほでりのみこと (別名:海幸彦うみさちひこ)と共に日本神話のメインストーリー、『海幸山幸うみさちやまさち神話』のメインキャストを務めます。

そんなホオリは2人の兄たちと共に、そこそこの修羅場の真っ最中に誕生しました。

彼の父親は邇邇芸命ににぎのみこと、地上の世界である葦原中国あしはらのなかつくにを統治するために高天原たかまがはらから降りて来た天津神あまつかみで、日本の神々のトップに君臨する天照大御神あまてらすおおみかみの孫にあたります。

一方ホオリの母親は木花之佐久夜毘売命このはなのさくやびめのみことで、日本の山の神々を束ねる総元締そうもとじめ大山津見神おおやまつみのかみの娘です。

ことと

こんだけ由緒正しい生まれの両親の間に修羅場なんて…

と思ってしまいそうですが、この邇邇芸ににぎという男、高貴な血を引く超絶ボンボンでありながら、何とも残念な一面を持ち合わせていたのです。

良く実った稲穂のイメージ画像

木花之佐久夜毘売このはなのさくやびめが夫に妊娠を報告した時のこと、喜びに満ちた表情の彼女に対して、邇邇芸ににぎは一言めにこう返しました。

ニニギ

えっ、あのたった1回で!?
そこら辺の国津神くにつかみとの子ぢゃねぇの~?

あろうことか彼は、たった1回でそんなにうまく妊娠するはずがない、その辺の行きずりの男との間に出来た子ではないかと妻に対して疑いをかけたのです。

あまりにもデリカシーに欠けた空気の読めない夫の発言に、さすがの木花之佐久夜毘売このはなのさくやびめも静かにぶちギレます。

彼女は身重の体でありながら戸のない大きな産屋うぶやを建てるとその中に入り、さらに周囲の隙間を粘土で塗り固めて塞いで、自ら内側に閉じこもってしまいました。

そして木花之佐久夜毘売このはなのさくやびめはなんと、自分が入っている産屋うぶやに自ら火を放ったのです。

サクヤビメ

国津神くにつかみの子ならタダじゃ済まんけど、
天津神あまつかみの子なら余裕なはずですわねぇ…

ニニギ

えっ、あっ、ちょっ、ちょっと待って…えっ!?

炎のイメージ画像

邇邇芸ににぎがテンパり倒している間にお産の準備に入った彼女は、燃え盛る火炎の中で無事に子どもを産みました。

こうして誕生したのが火照ほでり火須勢理命ほすせりのみこと、そして今回の主人公・ホオリの3兄弟です。

サクヤビメ

お前たちは父親のようになるんじゃありませんよ~

ニニギ

おぢゃ…

ホオリ

先が思いやられるぜ~

ホオリは成長してのち、海の支配者である大綿津見神おおわたつみのかみの娘・豊玉毘売命とよたまびめのみことと結婚します。

2神の間には鵜葺草葺不合命うかやふきあえずのみことという息子が誕生し、彼の息子である神倭伊波礼毘古命かむやまといわれびこのみことが後に、初代神武じんむ天皇と称されることになるのです。

ことと

いよいよ天皇たちの時代に近づいているのね~

Tips:細かい設定にもいろいろな意味が込められている日本神話

ホオリの父である邇邇芸ににぎは、日本の山々を統治する大山津見おおやまつみの娘・木花之佐久夜毘売このはなのさくやびめと結婚しました。

一方でホオリは、日本の海を支配する大綿津見おおわたつみの娘・豊玉毘売とよたまびめと結ばれています。

この組み合わせには、天照あまてらすの子孫が自然界を構成する二大領域(つまり山と海)の血統を取り込むことで大きな呪力を獲得し、天皇家による地上世界の支配を正当化する意味合いがあるとされています。

特にホオリ豊玉毘売とよたまびめの夫婦については、海の神さまの力が雨の恵みにも及ぶと解して、葦原中国あしはらのなかつくにに豊穣をもたらす意義があるとも考えられています。

とと(父)

細かい部分にも政治的な意図や願いが込められているんだね!

ヒヒ

きっちり抜け目がないのじゃ

日本の海と山のイメージ

名前の由来

ホオリの正式名称である火遠理命ほおりのみことほか、彼が持つ様々な名称にはどのような意味が込められているのでしょうか。

一般には、

  • 遠理おり」は「折れる」の意で、炎の中で生まれた三兄弟が、火がはじめに照り始め(火照ほでり)、その勢いを増し(火須勢理ほすせり)、やがて衰える(ホオリ)という一連の状態を象徴している
  • 別称に「」が含まれることから、稲が色づきはじめて(火照ほでり)、順調に熟れ進み(火須勢理ほすせり)、豊かに実って頭を垂れる(ホオリ)という稲穂の成長過程を象徴している
  • 天津日高あまつひこ」は高天原たかまがはらの男性を指す美称で、この名を冠した邇邇芸ににぎホオリ鵜葺草葺不合うかやふきあえずまでの神々を「日向三代ひむかさんだい」と呼ぶ
  • 日高日子ひこひこ」は日の神(=天照あまてらす)御子みこが天高く照り輝く様を表す
  • 穂々ほほ」は「多くの稲穂」の意、「」は「出る」、「」は「神霊」の意で、「穂々手見ほほでみ」が多くの稲穂を生じさせる神さまであることを示す
  • 山佐知毘古やまさちびこは「山の獲物を得る男」の意で、彼が山の恵みを支配する神さまであることを表す
  • 佐知さち」及び「さち」は海や山の獲物を捕るための道具である「弓矢」と「釣り針」を意味し、豊富な獲物を得るための呪的な霊力も象徴する

といったことが言われているようです。

豊穣のイメージ

単なる穀物の神さまとも思えない複雑さを見せているホオリですが、彼が活躍する神話のベースになっているのは、古代の海人あま族の伝承であると考えられています。

古くからあった漁民集団の海神信仰と、海の彼方からやって来る来訪神らいほうしん(穀霊)の信仰が結びついて、農業も漁業も同時に守護するホオリのイメージが形成されていったと言われているのです。

ことと

山幸彦やまさちひこ」なのに海の神さまと
めちゃくちゃ絡むのはそういうワケなのね

ホオリ

まさに主人公にふさわしい設定じゃ~

火遠理命ほおりのみことの活躍シーン

とと(父)

ホオリの活躍を見てみよう!

兄の大切なものを失くした弟は海神の後ろ盾を得て謝罪どころか逆に征服、陸海空すべてを手に入れる

ホオリは日本神話のメインストーリー、『海幸山幸うみさちやまさち神話』に主人公として登場しています。

邇邇芸命ににぎのみこと木花之佐久夜毘売命このはなのさくやびめのみことの間に誕生したホオリ(山幸彦やまさちひこ)は立派な青年に成長し、山々を駆け巡っては得意の狩猟を行って生活していました。

そんなホオリには火照命ほでりのみこと (海幸彦うみさちひこ)という兄がおり、彼の方は海で魚を獲ることを得意としていました。

ことと

あれ、もう1人いなかったっけ…?

ヒヒ

火須勢理命ほすせりのみことは誕生の件以降、一切登場せんぞい

ホオリは弓矢を使って山の獣たちを狩っていましたが、毎日同じことをしているとさすがに飽きてしまいます。

何か良い気分転換はないかと考えを巡らした彼は、ひとつの妙案を思いつきました。

ホオリ

せや、兄者と道具を交換してみよう!

自分の弓矢も良い道具ですが、ホオリは以前から兄の火照ほでりが使っている釣り具にも興味津々だったのです。

しかし、肝心の兄者のリアクションは好感触とは言い難いものでした。

ホデリ

絶対に嫌だ

ホオリ

なんでや兄者…!
お互いの苦労や偉大さを知るええ機会やんけ…!

弟の性格をよく知っていた火照ほでりは、ホオリの要求を幾度も拒否しますが、それでも彼は諦めません。

ホオリはついに4度目の交渉で兄を強引に説き伏せることに成功、火照ほでりの漁具を片手に意気揚々と海に出かけていきました。

海岸での釣りのイメージ
ホオリ

ほっほ~、これでわしも海釣りデビューじゃ

ホオリ

……

ホオリ

……

ホオリ

全然釣れんやんけ…って、あっ!!!

ホオリがいくら待てども獲物は一匹たりともかからず、それどころか兄の大事な釣り針を魚に持って行かれてしまいます。

ホオリ

ヤベェヨヤベェヨ…
ドウシヨウ…

テンパり過ぎて思考停止しているホオリの元に、火照ほでりがやって来てこう言いました。

ホデリ

やっぱ自分のじゃないとだめだわ、あれ返して

ホオリ

あ、兄者、実はのう…

もはや万事休すのホオリ、素直に事の顛末を説明して謝罪しますが、当然ながら兄は大激怒しています。

ホオリはせめてもの償いにと、愛用の十拳剣とつかのつるぎをつぶして500本もの釣り針を用意しますが、火照ほでりは受け取ってくれません。

ダメ押しに釣り針を1,000本贈ってみましたが、それでも兄は「同じものを返せ」の一点張りで取り付く島もありませんでした。

困り果てたホオリは海辺に座り、ぼんやりと大海原を眺めるほかありません。

Tips:兄者、こだわり強過ぎね?
ことと

釣り針1,000本なら代わりとして十分じゃないの?

とと(父)

現実にもいるよね、不可能な原状回復を要求するタイプ

大事な釣り針を失くされたとはいえ、兄・火照ほでりホオリに対する態度は、頑なで融通が利かなすぎる印象を受けるかもしれません。

ともすれば、兄が弟に意地悪をしているように感じる人もいるでしょう。

ヒヒ

それは、現代人ならではの感想じゃ

兄弟の名前にある「佐知さち」及び「さち」の語には、「獲物」という意味と同時に「獲物を捕るための道具」という意味も含まれています。

つまり彼らは、「さち」を使って「さち」を得ることで生存しているのです。

古代の論理で考えると、道具としての「さち」にはその持ち主にだけ効力を発揮する呪力のようなものが付されており、それによって獲物としての「さち」がもたらされることになります。

釣り針のイメージ

つまり火照ほでりにとっては、手に馴染んだ釣り針以外は何の恵みももたらさない無価値な鉄くずということになり、彼の激しい怒りもごもっとも、決して理不尽な振る舞いとは言えないことになるのです。

仮に全く逆の立場で物語が展開しても、ホオリは元の弓矢を返せとぶちギレていたに違いない、そういう類のお話ということになります。

ホデリ

コレじゃないとしっくりこないぜ~、ってあるだろ?

話を戻して、海辺にたたずんで途方に暮れているホオリ、彼にはもはや次に打つ手が思い浮かびませんでした。

ホオリ

どうしたらええんや…

シオツチ

どしたんね~??

死んだ目をしたホオリの前に、塩椎神しおつちのかみという潮の流れを司る神さまが現れます。

小林永濯『鮮斎永濯画譜』初篇「塩椎神」
小林永濯『鮮斎永濯画譜』初篇 PD
出典:次世代デジタルライブラリー

ホオリがその神さまにこれまでの経緯を洗いざらいぶちまけると、塩椎しおつちは竹を細かい目に編んだかごの小船を作り出し、ホオリに乗り込むように促しました。

シオツチ

わしが押したらあとは流れに任せんしゃい
そのうち海神わたつみの宮に着くから

シオツチ

そこの娘がおぬしを助けてくれるはずじゃ

藁にも縋る思いのホオリは、塩椎しおつちの助言通りに大人しく波に揺られて、件の宮殿にたどり着きます。

海底のイメージ

彼が木の枝に座って誰かが来るのを待っていると、ちょうど侍女らしき女性が水を汲みにやって来たので、海の神さまの娘に会えるよう取り次いでもらうことにしました。

トヨタマビメ

え~客って誰や~めんどいなぁ…
今溜まってるアニメ消化してんだけどなぁ…ん?

トヨタマビメ

あらやだ超イケメン!
いらっしゃいまし~、本日は何をしにいらしたのかしらん!

出てきたのは豊玉毘売命とよたまびめのみこと、日本の海を支配するこの宮殿の主・大綿津見神おおわたつみのかみの娘です。

そこそこ顔の良かったホオリに一目ぼれした豊玉毘売とよたまびめは、まんざらでもない様子の彼をさっそく父親に紹介します。

彼女の父である大綿津見おおわたつみもさすがは全ての海を掌握する大物、ホオリを一目見ただけで、彼がかなり良いところの生まれであることを見抜きました。

オオワタツミ

こん人は天津日高あまつひこ(=邇邇芸ににぎ)御子みこ
虚空津日高そらつひこじゃ~い
(意)バチクソ良いところの坊ちゃんである

海の支配者はホオリを盛大に歓迎してもてなし、娘である豊玉毘売とよたまびめをすぐに嫁として差し出しました。

2人は海底の宮殿で幸せに暮らし、それから3年の月日が流れます。

とと(父)

3年!?!?!

ことと

火照ほでりはこの性格を分かっていたのね…

満ち足りた生活をしているはずのホオリですが、ここ最近はなんだか浮かない顔をしています。

夫の様子が気になった豊玉毘売とよたまびめは、ホオリにわけを尋ねてみました。

ホオリ

実は兄者の大切な釣り針をなくしてのう…
助けてもらうためにここに来たんじゃ…

トヨタマビメ

あら、それは大変でしたね~
(えっ、3年経っとるけど……)

熱に浮かされたような恋心も次第に落ち着き、徐々に夫の粗が見え始めて複雑な心境の豊玉毘売とよたまびめですが、放っておくのもあまりに気の毒です。

彼女は父である大綿津見おおわたつみに、ホオリが抱えている事情を説明しました。

オオワタツミ

何や、そんなことかいな

海の統治者である大綿津見おおわたつみが大小の魚たちを集めて一斉捜査網を敷くと、のどに針が刺さって苦しんでいる鯛がいることが判明、なんとそこから見事に火照ほでりの釣り針が発見されたのです。

たくさんの魚のイメージ
ホオリ

(お義父とうちゃん、ほんとにすごかったんやな…)

ホオリは義父にお礼を言って地上に戻ろうとしますが、大綿津見おおわたつみは彼を呼び止めてこう言い含めます。

オオワタツミ

この釣り針を返す時は、ちゃんとまじないを唱えるんじゃ

オオワタツミ

んでこれ、「塩盈珠しおみつたま」と「塩乾珠しおふるたま
潮の満ち引きを自在に操れるけぇ

オオワタツミ

これでおどれの兄ぃ、やったれやぁ

大綿津見おおわたつみから謎の呪文と謎のアイテムを授かったホオリは、一尋和邇ひとひろわにの背中に乗って海を行き、たった1日で地上に帰還します。

小林永濯『鮮斎永濯画譜』初篇「一尋和邇」
小林永濯『鮮斎永濯画譜』初篇 PD
出典:次世代デジタルライブラリー

彼はその足で兄・火照ほでりの元に向かい、言われた通りのまじないを唱えて釣り針を返しました。

ホオリ

この針は おぼ すす 貧鉤まぢち うる
※要するにめっちゃ悪口

ホデリ

3年も何やってたんですかね~…

ホデリ

ワケわからん呪文の前に「ごめんなさい」だろうが

それからというもの、火照ほでりは海の幸からも田の実りからもすっかり見放されて、日に日に貧しくなっていきました。

その一方でホオリのビジネスは絶好調、狩猟も稲作も万事順調で、貧富の差がみるみるうちに開いていきます。

急激な困窮から精神的な余裕もなくしてしまった火照ほでりはある日、弟の富を奪ってやろうとついに乱心し襲撃計画を実行しました。

しかしホオリには、大綿津見おおわたつみから授かった2つの不思議アイテムがついています。

彼は「塩盈珠しおみつたま」を振りかざして洪水を引き起こし、襲い来る火照ほでりを溺れさせ、「塩乾珠しおふるたま」を使って命乞いをする兄を助けました。

十返舎一九『地神五代記』「山幸彦」
十返舎一九『地神五代記』5巻 PD
出典:次世代デジタルライブラリー

そんなやりとりを何度か繰り返しているうちに、ついに火照ほでりの心が折れてしまいます。

ホデリ

ゼェゼェ…
ゴホゴホッ…

ホデリ

降参じゃぁ…
今度からは昼も夜もお前さんに仕えると誓おう…

こうして火照ほでりの子孫は未来永劫ホオリの子孫に仕えることになり、彼自身は隼人阿多君はやとのあたのきみ(鹿児島県西部に住んでいた集団)の祖になったと伝えられています。

ホオリは兄を倒したことで山海の恵みの支配権を一挙にその手中におさめ、彼の子孫による地上の統治をより盤石なものとしたのです。

ホオリ

わっはっは
めでたし、めでたし!

Tips:めでたし、めでたし…か!?

若者が海底の異世界を冒険し、美しいお姫様と出会って結婚、さらに海の神さまの不思議なパワーを受け継ぎ強者にレベルアップ。

地上に戻った彼は見事に敵を打ち破り、めでたく全世界を統べる王様となりました。

こういったシンプルな冒険とロマンの英雄譚は、いつ見ても気分がスッキリしますよね。

とと(父)

ってなるかーい!!

ことと

率直な感想を言うけどこの話、マジでワケが分からないわ…

ホオリ

ですよね~

皆さんはこのお話を読んでどんな感想を抱きましたか?

冒頭だけ読めば多くの人が、

自分の過失で失くしてしまった物をどうにか取り戻して、謝罪と共にお返しする道徳的なお話

を思い浮かべそうなものですが、ふたを開けてみるとその実、

  • 一方的な過失で兄の大切な物を失くした弟が、
  • 3年もの間その件を放置して自分は可愛い嫁とラブラブし、
  • 思い出したように他人の力で失くし物を見つけると、
  • 呪いもセットで返して兄を極貧生活に追いやり、
  • さすがに怒った兄を魔法アイテムで散々痛めつけ、
  • 未来永劫従うように誓わせる

という、何を食べて育てばこんなの思いつくのかと聞きたくなるような、無茶苦茶なストーリーが展開されていました。

しかしこれは「日本神話」の中で語られる物語、一見複雑なようでいて、実のところその理屈は極めてシンプルなものとなっています。

ヒヒ

いつも通り、政治じゃ

火照ほでりは本文中にもあるように、最終的に隼人阿多君はやとのあたのきみの祖となりました。

彼らは九州南部に住んでいた集団で、大和朝廷になかなかなびかず、彼らを手こずらせた人々です。

一方でホオリは、大和政権側を代表するキャラクターとして描かれています。

ここまで説明すればあとは簡単ですね。

この神話は、ホオリ(朝廷)火照ほでり(隼人はやと)を出し抜いてボコボコにした上で、陸海空のすべてを手に入れましたよという、ゴリゴリに政治的な主張を全部盛りにした胸焼け必至の物語だったのです。

ことと

にしても雑というか、力任せというか…

ホオリ

でもこの話は、有名な『浦島太郎うらしまたろう』のモデル
になったとも言われているのじゃ~

月岡芳年『浦島太郎』
月岡芳年『浦島太郎』 PD

めでたく子を授かるも、遠い祖先と全く同じてつ踏み、妻と永遠に別れる

ホオリ海神わたつみの宮から地上に戻り、兄の火照命ほでりのみことをしばき倒してからしばらく経ったある日のこと、海底から妻の豊玉毘売命とよたまびめのみことが夫を訪ねてやって来ました。

聞いてみると彼女はホオリの子を身ごもったようで、天の神さまの子を海中で産むわけにもいかないからと、身重の体で地上まで揚がって来たそうです。

ホオリ

ほ!そらめでたい!
ちゃんとした産屋うぶやを建てちゃるけんね!

ホオリの羽根を屋根のかやいた立派な産屋うぶやの建築に着手しますが、工事が完了する前に妻が産気づいてしまいました。

豊玉毘売とよたまびめは、

トヨタマビメ

異郷の者は元の姿に戻らんと出産できんのよ…
だからあんた、絶っっっ対に覗いたらダメよ…!

と言い、産屋うぶやにこもってお産の準備に入ります。

最初こそ大人しく待機して無事な出産を祈っていたホオリですが、しばらく時間が経つと、次第に妻の言葉の意味が気になってきました。

ホオリ

ん…?
元の姿ってどゆこと…?

気になり始めたら居ても立っても居られなくなってしまったホオリ、彼は豊玉毘売とよたまびめとの約束を破り、彼女の出産現場をこっそりと覗き見てしまいます。

小林永濯『鮮斎永濯画譜』初篇「豊玉毘売命」
小林永濯『鮮斎永濯画譜』初篇 PD
出典:次世代デジタルライブラリー

しかしホオリの眼に入ったのは妻の姿ではなく、産屋うぶやの床でのたうち回る八尋和邇やひろわに(サメやフカのこと)だったのです。

サメのイメージ

出産自体は無事に終えた豊玉毘売とよたまびめでしたが、彼女は自分の姿を覗き見られたことを深く恥じ入ってしまいました。

トヨタマビメ

本当はちょこちょこ地上に揚がってくるつもりやったけど…
こうなったらもう無理ですわ…

トヨタマビメ

永遠とわにさようならっ!

豊玉毘売とよたまびめは夫と生まれたばかりの鵜葺草葺不合命うかやふきあえずのみことを地上に残し、海神わたつみの宮へと帰ってしまいました。

さらに彼女は陸と海の境にある道を塞いでしまったので、これ以降、人間が地上と海の間を自由に行き来することが出来なくなったと伝えられています。

ホオリ

ちーん…

海の底に帰った豊玉毘売とよたまびめですが、一度は愛した夫と生まれたばかりの子が恋しくてたまらなかったのでしょう。

彼女は息子の養育係として、自身の妹である玉依毘売命たまよりびめのみことを地上に遣わします。

また同時に豊玉毘売とよたまびめは、ホオリに向けたこんな歌を妹に託していました。

赤玉あかだま

さへひかれど

白玉しらたま

きみよそひし

たふとくありけり

真珠のイメージ

(意)赤い宝玉も綺麗やけど、真珠のように気高いあんたの姿が思い出されますわ

これを受けたホオリも、愛する豊玉毘売とよたまびめに向けて歌を詠みました。

おきとり

鴨著かもどしま

率寝ゐね

いもわすれじ

のことごとに

かもどく島のイメージ

(意)あんたと寝食を共にした日々のことは、生きている限り忘れんよ

ホオリはその後、高千穂の宮で580歳まで生きてその生涯を終えました。

彼の御陵ごりょう(お墓)は、高千穂の山の西にあると伝えられています。

ことと

良い感じのエンディングのところ悪いんだけど…

ことと

何か似たような展開見たことなかった…?

ヒヒ

ホオリの遠い祖先である伊邪那岐命いざなぎのみことのことじゃな
「見るなの禁」と呼ばれる神話の類型じゃ

先祖の同じ失敗はコチラ

とと(父)

血は争えねぇな!!

ホオリ

良い感じで終わらせといて欲しかったね~…

火遠理命ほおりのみことを祀る神社ガイド

ホオリは、いくつかの神社で祀られています。

ことと

代表的な場所をご紹介するわね!

若狭彦神社 

 福井県小浜市竜前

鹿児島神社

  鹿児島県鹿児島市草牟田

箱根神社

神奈川県足柄下郡箱根町元箱根

白羽神社

静岡県御前崎市白羽

大虫神社

福井県越前市大虫町

知立神社

 愛知県知立市西町神田

高千穂神社

宮崎県西臼杵郡高千穂町大字三田井

和多都美神社

長崎県対馬市豊玉町仁位字和宮

益救神社

鹿児島県熊毛郡屋久島町宮之浦

飯積伊豆神社

千葉県印旛郡酒々井町飯積

青島神社

宮崎県宮崎市青島

祖母井神社

栃木県芳賀郡芳賀町祖母井

三宮神社

群馬県北群馬郡吉岡町大字大久保字宮

鹿児島神宮

鹿児島県霧島市隼人町内

霧島神宮

鹿児島県霧島市霧島田口

などです!

おわりに

今回は、日本神話に登場する火遠理命ほおりのみことについて解説しました。

ことと

本人は悪い奴じゃないんだろうけど、
話の内容が政治的過ぎて胃もたれしちゃうわね

とと(父)

なんでか分からないけど、『海幸山幸うみさちやまさち神話』は
特に露骨で強引過ぎるのが面白いよね!

パパトトブログ-日本神話篇-では、私たちの祖国に伝わる魅力的な神々や彼らの物語をご紹介していきます。

神さま個別のプロフィール紹介や神話の名場面をストーリー調で解説など、難しい言葉は出来るだけ使わずに、あらゆる角度から楽しんでもらえるようにしようと考えています。

これからも「日本神話」の魅力をどんどんご紹介してきますので、良ければまた読んでもらえると嬉しいです!

とと(父)

また来てね!

しーゆーあげん!

参考文献

  • 倉野憲司校注 『古事記』 岩波文庫 2010年
  • 島崎晋[監修] 日本博学倶楽部[著] 『日本の「神話」と「古代史」がよくわかる本』 PHP文庫 2010年
  • 由良弥生 『眠れないほど面白い『古事記』』 王様文庫 2014年
  • 由良弥生 『読めば読むほど面白い『古事記』75の神社と神さまの物語』 王様文庫 2015年
  • 歴史雑学研究倶楽部 『世界の神話がわかる本』 Gakken 2010年
  • 宮崎市神話・観光ガイドボランティア協議会編集 『ひむか神話伝説 全212話』 鉱脈社 2015年
  • 中村圭志 『図解 世界5大神話入門』 ディスカヴァー・トゥエンティワン 2020年
  • かみゆ歴史編集部 『マンガ面白いほどよくわかる!古事記』 西東社 2017年
  • 戸部民夫 『「日本の神様」がよくわかる本』 PHP文庫 2007年
  • 三浦佑之 『あらすじで読み解く 古事記神話』 文藝春秋 2013年
  • 國學院大學 「古典文化学」事業:https://kojiki.kokugakuin.ac.jp/research/
  • 茂木貞純監修『日本の神様ご利益事典』だいわ文庫 2018年
  • 武光誠『知っておきたい日本の神様』角川ソフィア文庫 2005年
  • 阿部正路監修『日本の神様を知る事典』日本文芸社 1987年

他…

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

気軽にコメントしてね!

コメントする

CAPTCHA

目次